資料5

「生活保護及び児童扶養手当の見直し案」に関する地方団体の意見に対する厚生労働省の考え

 本協議会は「国庫負担率の引き下げを前提とするものではなく、生活保護制度や児童扶養手当制度の在り方について幅広く議論を行う」ことを前提としていたものであり、今回の地方負担の増加を前提とした見直し案はこの前提に反する。
 共同作業で地域間格差の要因は経済・社会要因によるものとの共通認識ができたことによって、協議会は設置の目的を果たしており、厚生労働省の提案は協議会の当初の任務を超えている。
 保護基準の設定権限の地方自治体への委譲や医療扶助における都道府県の役割などについては、議論が尽くされておらず、唐突な提案である。

 生活保護は、我が国の社会保障制度の中で、年金、医療、介護、福祉等の施策(他法他施策)などを適用しても最低限度の生活ができない場合に、最低生活を保障するとともに自立を助長するセーフティネットとしての役割を果たすものである。
 我が国の社会保障制度においては、国、都道府県、市町村が重層的に役割と費用負担を分担している。生活保護制度においても例外ではなく、現状においても国と地方が制度設計・実施責任に係る役割と費用負担を分担しており、生活保護制度のみ「国の責任で行われるべきもの」とする主張は適当でない。
 厚生労働省としては、生活保護の実施に係る責任や費用負担に関して他法他施策との整合性をとることにより、自立助長が円滑に進められ、生活保護制度への過度の依存が回避されるような仕組みにすることが重要であると考えている。

 本協議会は、昨年の三位一体改革に関する政府・与党合意において「生活保護費負担金及び児童扶養手当の補助率の見直しについては、地方団体関係者が参加する協議機関を設置して検討を行い、平成17年秋までに結論を得て、平成18年から実施する」とされたことを受けて設置されたものである。
 地方団体からも生活保護制度が「制度疲労を起こしている」との御指摘を受けたので、「地方にできることは地方に」という三位一体改革の趣旨を踏まえつつ、近年の生活保護制度を巡る現状と、制度が本来果たすべき役割を踏まえて、あらためて生活保護制度における国と地方の役割の在り方を扶助ごとに見直し、これに沿った費用負担の在り方について見直すことが必要である。

 本協議会においては、これまで6回にわたり、生活保護制度及び児童扶養手当制度の課題等について幅広くご検討いただいた。
 国と地方の役割・責任についても、第3回協議会において厚生労働省として問題提起しており、また、生活扶助、住宅扶助、医療扶助等のそれぞれの各論の議論の際に、論点として提示し、意見を伺ってきた。
 厚生労働省としては、これまでの協議会における分析結果や御指摘・御議論について真摯に受け止めた上で、生活保護制度及び児童扶養手当の現在の課題に対応するための国と地方の役割分担やそれに合わせた費用負担の在り方について総合的・全般的に検討を行い、昨年のように国庫負担率の一律の見直しを行うのではない形で「生活保護及び児童扶養手当の見直し案」をとりまとめた。
 厚生労働省としては、それぞれの扶助等の性格に応じて、国と地方自治体が手を携え、一体となって、生活保護の適正な実施や母子家庭の自立支援を進めていきたいと考え、この見直し案を地方団体に対して提案したものである。


 共同作業により、保護率の上昇や地域間格差は実施体制によるものではなく、経済・社会要因によって極めて大きな影響を受けていることが共通認識となっており、地方自治体の負担率引き上げによっては生活保護費の削減につながらないことが分かったことから、生活保護費の国庫負担率引下げを内容とする提案は不適切である。


 昨年においても、厚生労働省は三位一体改革に関する地方との議論の中で、生活保護等の費用負担の見直しを提案したが、これは、国庫負担率を引き下げることが自動的に保護率の低下等の適正化に結びつくといった単純な理由ではなく、自立支援プログラム導入といった自立支援等に関する自治体の役割と裁量の拡大に伴い、費用負担の見直しをするというものであった。
 今回の提案は、それに加えて、地方への権限委譲も含めた内容とし、生活扶助、住宅扶助、医療扶助など生活保護のそれぞれの扶助ごとに在り方を見直しており、「地方にできることは地方に」という考え方の下で地方の裁量拡大と補助金・負担金の改革を行う三位一体改革の趣旨にも合致するものと考えている。

 共同作業の最終まとめにおいては、「保護率と、失業率や高齢化、離婚率等の相関は高く、経済・雇用情勢や社会的要因は保護率・保護費の上昇や保護率の地域間較差に極めて大きな影響を及ぼしている」となっているが、問題は、このような要因から生じている被保護者をいかにして就労させ、入院から在宅に復帰させるかにあり、他法他施策を活用しながらこのような自立支援を進めていく必要がある。このためには、生活保護の国庫負担率と他の施策の国庫負担率の整合性をとることも必要である。
 また、「地方自治体における保護の実施体制や実施状況には地域間で較差があり、これらの指標と保護の動向の間の相関のあるデータ等も見受けられるが、相関のないデータもある」ことも共通認識とされたことにも留意しなければならないと考える。


 生活保護制度は憲法第25条に基づき国の責任において行われるべき法定受託事務であり、国民の最低限度の生活を保障される機会や最低限度の生活水準の内容について、地域あるいは個人によって実質的な差が生じてはならず、保護基準は国が責任を持って定めるべきである。所得再分配は国が責任を負うべき。
 生活保護及び児童扶養手当事務は、地方の自由度を高め、創意工夫に富んだ施策を展開するために「地方の裁量を拡大する」に相応しいものではなく、保護基準の設定権限を自治体に委譲しても地方の裁量は拡大しない。


 通説、判例上も、憲法第25条第1項は生存権保障の目的・理念を、同条第2項はその目的・理念の実現に向け国の果たすべき責務を定めたものであり、両者は一体として広義の社会保障制度全般に関する規定であると解されており、憲法上、生活保護と他の社会保障制度の位置づけは同様である。
 また、同条の規定の趣旨に応えて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は、立法府の広い裁量に委ねられている。

 このような中にあって、我が国の社会保障制度においては、国・都道府県・市町村が共同して役割・責任を分担し、それに応じた費用負担をしており、生活保護も例外ではなく、生活保護制度のみ「国の責任で行われるべきもの」とする主張は適当でない。
 社会保障制度全体の地方分権の推進、国と地方の役割分担の見直しなどとの整合性をも考慮して、生活保護制度における国と地方の役割・費用負担の在り方を検討することは妥当であり、憲法第25条と抵触するものではない。

 生活保護基準の設定権限を地方に移譲するという厚生労働省の提案は、より地域事情を反映した基準を設定することにより、適正かつ公平な基準とする観点に立ったものである。
 そもそも、被保護者を、就労や、入院から在宅復帰に至らせ、自立を助長するための実情把握や評価、指導の方法等は自治体ごとに工夫を凝らし得るものであり、活用できる社会資源やネットワークも地域ごとに様々であって、自治体の裁量は極めて大きいと認識している。また、住宅扶助では、自治体の判断で現物のサービスも提供できるような案としている。

 また、児童扶養手当についても、母子家庭の生活の安定と自立の促進に寄与する制度であり、他の就業・自立支援策とあいまってその目的を果たしていくべきものである。母子家庭対策においては、近年、「就業・自立に向けた総合的な支援」へと政策の転換を図ってきており、この中で地域の様々な社会資源やネットワークを活用しつつ、個々の母子家庭の状況に応じ、経済的支援と子育て・就業支援を有機的に組み合わせて提供することが重要であり、自治体の役割は極めて大きいものと認識している。

 厚生労働省としては、我が国の社会保障制度において、他法他施策と生活保護・児童扶養手当を一体として考え、引き続き国と地方自治体で責任を共有していくことが重要と考えており、国は引き続き相応の責任を果たしてまいりたい。


 厚生労働省の提案は、国と地方の役割分担の枠組みを変更するなど生活保護制度の根幹に関わる制度改革を行おうとするもので、本協議会における協議の範疇を超えており、我が国の社会保障制度全体の在り方を踏まえた慎重かつ専門的な審議が必要である。
 地方団体が提起した、高齢者世帯の生活保障に対する対応策や制度の運営改善の様々な課題について、専門的な審議の場において十分な検討が行われることが必要である。


 本協議会は、昨年の三位一体改革に関する政府・与党合意に基づくものであり、厚生労働省の提案は、その趣旨に沿い、生活保護等の現在の課題に対応し、国と地方の役割とそれに併せた費用負担の在り方を見直そうとするものである。

 生活保護制度については、地方自治体からも「制度疲労」しているとのご指摘を受けており、あらゆる機会をとらえて、可能な限り早急に見直しに取り組むべきものと考えている。

 地方団体の提案については、本協議会でも議論し、さらに厚生労働省において検討しているところであるが、提案内容の詳細や背景を的確に把握し、実情に即した解決策を得るために、必要に応じ、地方自治体の生活保護行政担当者と厚生労働省との間で、実務的な検討の機会を持つことについてはやぶさかではない。
 しかし、それとは別に、政府全体の三位一体改革のスケジュールの中で、厚生労働省が提案した生活保護等の国と地方の役割分担やそれに伴う費用負担の在り方について結論を得、見直しを実施することは必要であると考える。

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