資料1

厚生労働省の「生活保護及び児童扶養手当の見直し案」に対する意見

全国知事会
全国市長会

 生活保護制度の本旨とその責任

 生活保護制度は、憲法第25条の理念に基づき、国の責任において、生活に困窮する全ての国民に対し、健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度である。
 したがって、国民の最低限度の生活を保障される機会や最低限度の生活水準の内容については、地域あるいは個人によって実質的な差が生じることがあってはならないものであり、国の責任と役割は極めて重い。

 協議会での議論の経緯との関連
 見直し案は、これまでの協議会の議論を一切無視するもので、給付の適正化に資する制度改革ではなく、強く撤回を求める。

 本協議会は、「国庫負担率の引下げを前提にしたものではなく、生活保護制度や児童扶養手当制度の在り方について幅広く論議を行う。」として設置されたものであり、第1回協議会で厚生労働大臣から「給付の適正化に資する種々の改革について、総合的な検討を行う」旨の発言があり、我々もこれに同意し議論を進めてきた。

 こうした方針に基づき、協議の前提となる共通認識を得るため、本協議会の下に設置された共同作業チームにおける科学的分析の結果、保護率の上昇や地域間較差については、経済的・社会的要因を示す指標により、その理由のほとんど全てを説明できた。すなわち、これまで厚生労働省は「保護率の地域差は、地方自治体の実施体制や取組状況もその一因として考えられる」という主張を厚生労働白書や本協議会で繰り返していたが、この共同作業の結果により、単なる地方負担率の引上げでは、生活保護費の適正化には繋がらないことも明確となった。

 こうした議論の経過に基づけば、経済的・社会的要因によって増加する生活保護の給付費をいかに適正化するかの協議に入るべき段階であるにもかかわらず、唐突に「地方への権限委譲や役割・責任の拡大」と「地方の財政負担の拡大」を主旨とする見直し案が提出された。

 このことは、これまでの協議会における議論の経過を一切無視するものであり、無理矢理、地方へ負担を転嫁するものであって、本来議論すべき課題であった「給付の適正化」に資する提案ではないと考える。強く撤回を求める。

 生活保護制度の理念との関連
 見直し案は、生活保護制度を無理矢理、扶助ごとに分断し、基準設定権限や国庫負担等を変更するものであり、生活保護制度の理念に反する。

 厚生労働省の見直し案は、「生活扶助、住宅扶助、医療扶助など生活保護のそれぞれの扶助ごとに在り方を見直す。」としており、憲法が求める健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度である「生活保護制度」を無理矢理、扶助ごとに分断し、基準設定権限や国庫負担率等を変更しようとするものであるが、このような考え方は、本来、総体として捉えるべき衣・食・住や医療、介護など対象となる被保護者の人間としての暮らしや営みを軽視するものであり、この考え方には与しない。

 国と地方の役割との関連
 保護基準の設定権限を地方に委譲することは、国の責任放棄であり、現行の国・地方の役割分担は堅持すべきである。

 生活保護は、生存にかかわるナショナル・ミニマムを確保するため、全国統一的に公平・平等に行う給付金の支給等に関する事務であるとして法定受託事務に分類し、厚生労働大臣がその責任と権限をもって保護基準や処理基準等、制度の枠組みを決定、地方はその基準に従って事務を実施している。

 厚生労働省の見直し案では、「現行の保護基準は国が定めているが、地域間較差が大きく、保護基準の策定は地方が担うことが不可欠」として、生活扶助や住宅扶助の基準設定権限を都道府県又は実施主体に委譲することとしているが、ナショナル・ミニマムを確保する観点からは現行の国・地方の役割分担は堅持すべきである。

 仮に地方に生活保護の基準設定権限を委譲したとしても、国がナショナル・ミニマムを達成するために必要・最低限度の基準を設定しなければならないとすれば、それは覊束行為であり、地方に裁量の余地はない。

 また、これを地方自治体の裁量に委ねることがあれば、ナショナル・ミニマムの観点からみて、憲法上の疑義がある。

 こうしたことから、地方自治体の裁量を拡大することを理由にした国庫負担率の見直しは、単なる地方への負担転嫁であり、断固反対である。

 三位一体の改革との関連
 三位一体の改革に名を借りて、生活保護事務等について、地方に責任を押し付け、地方負担を増やすことは、地方への単なる負担転嫁であり、断固反対である。

 生活保護及び児童扶養手当に関する事務は、「地方の自由度を高め創意工夫に富んだ施策を展開するために地方自治体の裁量を拡大する」に相応しいものではない。

 三位一体の改革に名を借りて、地方分権を推進する、あるいは地方自治体の裁量を拡大するという美名の下に、法定受託事務たる生活保護事務等について国庫負担率を見直すことは、地方への単なる負担転嫁であり、断固反対である。

 更に「地方の改革案を尊重する」という小泉総理の発言に反するものであり、我々が作成した総額1兆円の平成18年度移譲対象補助金一覧から選定すべきである。また、地方分権を推進するためには、国庫補助負担率の引き下げではなく、当該国庫補助負担金の廃止によるべきものであることを付言しておく。

 他法他施策との関連
 他法他施策の国庫補助負担率との整合性を図るため生活保護等の国庫負担率を引き下げることは、単なるこじつけである。

 他法他施策の国庫補助負担率との整合性を図るために、生活保護等の国庫負担率を引き下げるとされているが、「自助、共助、公助」という社会保障の体系の中で、「公助」の最たるものである生活保護については、憲法第25条との関係において、他法他施策に比べ、国の負担が大きい方がむしろ整合性があり、国庫負担率の引き下げは地方に負担を押し付けるための単なるこじつけでしかない。

 各論に対する意見

(1) 生活扶助、住宅扶助について
 生活扶助、住宅扶助等の生活保護基準は、公平・平等でなければならない。したがって、その基準は、地域の実態を反映させる必要があるが、客観的なデータを基に全国的に整合性をもって定められるべきであり、地方の裁量に委ねることは、生活保護制度の理念に反する。

 「地域事情を的確に反映させ、実質的公平を期すため、保護の実施自治体が基準を設定」としているが、ナショナル・ミニマムを確保する観点からは「地域事情の反映」を「地方の裁量拡大」で達成することはできず、国自身が、各地域の実態を十分把握し、よりきめ細かい基準設定などにより、適切に対応すべきである。

 地方自治体の裁量・責任で住宅扶助基準を設定することとなれば、全国レベルでの均衡が損なわれ、被保護者の転入・転出という事態も懸念される。

(2) 医療扶助について
 国保や介護保険等との負担の整合を図るとしているが、自治事務であるこれら制度と法定受託事務である生活保護制度とを一律に論じるべきではない。

 医療扶助について、「保険制度で対応する考え方もあり得る」との考え方を示していたが、単純に都道府県負担を導入するという考え方に変わっており、一貫性がない。

(3) 児童扶養手当の見直しについて
 児童扶養手当の認定基準は収入のみであり、地方自治体の裁量の余地はなく、三位一体改革に名を借りた単なる地方への負担転嫁である。
 また、児童手当では国が3分の2を負担していることとの整合性が考慮されておらず、2分の1の負担ありきと言わざるを得ない。

以上

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