独立行政法人勤労者退職金共済機構の
平成16年度の業務実績の評価結果





平成17年8月23日
独立行政法人評価委員会



 平成16年度業務実績について
(1) 評価の視点
 独立行政法人勤労者退職金共済機構は、特殊法人勤労者退職金共済機構が平成15年10月に新たに独立行政法人として発足したものである。
 今年度の当機構の業務実績の評価は、平成15年10月に厚生労働大臣が定めた中期目標(平成15年10月〜20年3月)の第2年度の達成度についての評価である。
 当委員会では、「厚生労働省所管独立行政法人の業務実績に関する評価の基準」等に基づき、平成15年度までの業務実績の評価において示した課題等を踏まえ、評価を実施した。

(2) 平成16年度業務実績全般の評価
 独立行政法人勤労者退職金共済機構は、中小企業者の相互扶助の精神に基づき、その拠出による退職金共済制度を確立し、もって中小企業の従業員の福祉の推進と中小企業の振興に寄与することを目的とする中小企業退職金共済制度の運営主体として設立されたものであることから、業務実績の評価に当たっては、その設置目的に照らし、業務の効率化及び質の向上により得られた成果が「退職金制度への着実な加入」及び「将来にわたる確実な退職金給付」にどの程度寄与するものであったかという視点が中心となるものである。
 まず、加入促進の実績に関しては、重点数値目標である加入者数目標が法人全体としては達成されていること、厳しい雇用情勢、自然災害など加入促進を取り巻く環境が必ずしも良好ではなかったことなどを考慮すると、本年度における目標はおおむね達成されたものと考えられる。
 将来にわたる確実な退職金給付については、加入促進に取り組むなどして掛金収入が増加したこと、資産の運用・評価体制に基づき資産運用がおおむね的確に行われたこと、経費節減の取組が積極的に行われたこと等から累積欠損金の減少などの成果がでている。
 さらに、それらの成果を支える基盤として、(1)職員の能力開発プログラムの策定など内部管理体制の改編、(2)外部専門家からなる組織の活用、(3)業務の改善、電子化の推進などによる運営の効率化、(4)諸手続きの見直し等による加入者負担の軽減、契約審査期間の短縮、情報提供体制の整備などを進めることによる加入者へのサービス体制の向上が図られた。

 これらを踏まえると、平成16年度の業務実績については、全体としては当機構の目的である「退職金制度への着実な加入」及び「将来にわたる確実な退職金給付」に資するものであり、適正に業務を実施したと評価できるが、以下の点に留意する必要がある。
(1) 加入促進については、今後も制度が安定的に運営されるためにも、中期計画の達成に向けて平成17年度以降もさらに積極的な取組が求められるところであるが、そのためには、平成15、16年度の対策の効果について、十分な検証を行い、それを基にしたより効果的な加入促進対策の実施が必要であり、特に加入者が目標に達しなかった事業においては、その業種における現状を踏まえつつ、より積極的な取組が求められる。
(2) 累積欠損金の存在は当面の退職金の支給に支障を来すものではないものの、制度が長期的に安定したものとなり、事業主が安心して加入できるものとなるためには、計画的な累積欠損金の解消が重要であり、制度の運営主体として、それに向けた早急かつ実効ある取組が求められる。
(3) 職員の研修の充実や適材適所の人員配置など効率的かつ柔軟な組織・人員体制の確立を積極的に進めているところであるが、今後はその体制を的確に活用し具体的な成果を得ること、あるいは、より高い成果を得るために体制やその運用について不断の見直しを行うことが、引き続き必要である。
(4) 業務の効率化、国民に対するサービスの質の向上のために行った事務処理方法の見直し等に関しては、一般の中小企業退職金共済事業の加入申込に際しての処理期間の短縮が、中期目標を前倒して達成するなど、平成16年度の業務実績について一定の評価ができるが、これらの見直しを当機構に求められる平成17年度以降の業務実績の向上につなげていくことが重要なポイントとなる。
(5) 中期計画の達成に向けた必要な組織・体制の構築を行い、国民により良いサービスを提供するための意識改革を理事長自らが先頭に立って進めていることは高く評価できるものであり、今後、その真摯な取組が個々の職員に更に浸透し、組織改革が具現されることを強く期待する。
 なお、中期目標に沿った具体的な評価結果の概要については、2のとおりである。個別項目に関する評価資料については、別紙として添付した。

 具体的な評価内容
(1) 業務運営の効率化について
(1) 効率的な業務運営体制の確立
 平成16年度は、前年度に確立した体制をさらに発展させるよう業務全般にわたり運営体制のさらなる見直しがなされ、組織体制、内部進行管理、経費の節減ともに計画で求められる以上に実績を上げており、中期目標を達成するために、積極的に業務を推進していると評価する。
 組織・人員体制に関しては、専門的・実務的な研修と体系化した能力開発プログラムを策定し、職員の能力向上のための積極的な研修を実施したことは評価できる。
 また、新たな人事評価制度の平成17年度からの導入に向けて試行実施を行ったこと、さらには年金資金運用基金との人事交流に向けての、条件整備等を行い、その結果、平成17年度から職員を年金資金運用基金へ出向させることとしたことについても評価できるものであり、今後の成果に期待する。
 また、内部進行管理に関しては、前年度に確立した体制を十分に活用し、資産運用についても委員会の積極的な開催や外部の専門家の活用が累積欠損金減少に資するものとなっているなど、その効果がみられた。
 ただし、これらについては、組織・管理体制の整備は進んでいるところであるが、これらの取組、特に能力開発プログラムや人事評価制度が今後、職員に深く浸透し、その効果が実績に表れるよう制度の運用に積極的な努力がなされることが求められる。具体的には、その研修の効果が業務に反映されるよう、参加職員による評価など今後のフォローアップを適切に行うことや、人事評価に基づき適材適所の人材配置を実施することが重要である。
 事務の効率的な処理に関しては、前年度に引き続き、事務処理の点検結果に基づく全般的な見直しが行われた。
 外部委託の推進については、契約者・被共済者データベースメンテナンス業務等を移管し、システム移管計画を着実に実行している。
 ただし、経費の節減とともに業務の質の向上に真に資するものとなるかどうかも検討しつつ、今後とも進めていく必要がある。
 また、一般の中小企業退職金共済事業におけるシステム開発業務については、既に委託先を特定する形で推進されることとなっているが、今後の業務・システム最適化に関する中期目標の見直しの検討状況を踏まえ、現在行われている外部委託の取組が個人情報保護等のセキュリティ対策が十分になされたものであるかどうかも含め、早い段階で検証し、必要な見直しが行われることを期待する。

(2) 業務運営の効率化に伴う経費節減
 業務運営全体を通じての経費節減に向けた様々な取組を実施した結果、個人情報保護への対応等、当初予定になかった必要経費を捻出したにもかかわらず、一般管理費等の支出額は予算額を下回るものとなっており、中期計画の節減目標の達成に向けた着実な取組がなされている。
 ただし、外部委託については、現在行われている取組が、真に経費節減や業務の効率化につながるものかどうか早い段階で検証し、必要な見直しが行われることを期待する。

(2) 国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上について
(1) サービスの向上
 加入者の負担軽減については、前年度に引き続きユーザーの視点に立った諸手続等の点検とそれを基にした手続きの簡素化、効率化、電子化等の見直しを着実に進めており、ほぼ計画に沿った形で着実に進展しているものと評価でき、中期計画の目標の達成に向け引き続き努力を期待する。
 ただし、今後は、事務の効率化の観点からも、様式のダウンロードにとどまらず、中期計画にあるように電子申請の実現等に向けた努力が必要である。
 また、ホームページにおける情報が、各事業本部ごとに別々に提供されており、見やすさという点においても、コスト面においても非効率的であり、今後、内容の充実を図り、アクセス件数や利用者満足度等の客観的評価も取り入れつつ、ホームページの管理体制の統一に向けた努力が必要である。
 さらに、中小企業においてはインターネット環境が整っていない企業もあり、経営者は日常的に、業界団体や税理士・公認会計士等に相談することが多いことから、このような中小企業の経営者の意思決定の実情に適した制度の周知徹底への今後のさらなる取組が求められる。また、中小企業においては電話等による相談が多い中、相談者の疑問等に的確に対応できているか検証する体制が重要であり、相談結果を調査・分析するなど相談結果をマニュアルや業務運営に的確にフィードバックできる相談業務体制が求められる。
 意思決定・事務処理の迅速化については、中小企業退職金共済事業における契約審査事務処理期間を平成16年度において2日短縮し、前倒しで中期計画の目標を達成したことは評価できるが、今後、さらなる短縮について検討することを期待する。
 情報提供の充実等については、ホームページにおいて照会・要望受付システムを構築し、それを通してユーザーから得られた情報についてはホームページ上のQ&Aに反映させている。

(2) 加入促進対策の効果的実施
 加入促進に向けての環境としては、中小企業の雇用者数の減少を始め、清酒製造業退職金共済事業においては新潟中越地震、林業退職金共済事業においては台風等の風水害による事業の停滞などのマイナス面があったが、こうした中で、一般の中小企業退職金共済事業において新潟県を除く全加入事業主に対する追加加入勧奨の実施や、林業退職金共済事業において、林野庁の「緑の雇用」受託事業体からの被共済者の加入の大幅な増加など、機構として加入促進に向けての積極的な努力、意欲的な取組が行われた。
 これらの結果、加入者数の目標は達成率103.4%となり、これにより、昨年度の未達成分もカバーされたことは、加入促進が着実に実施されたものと評価する。
 ただし、積極的な取組を行ったものの、事業ごとに見ると清酒製造業退職金共済事業と林業退職金共済事業については目標を達成できていないことから、平成16年度の取組が今後の成果につながるよう、一層の努力が求められる。
 また、被共済者数は増加しているものの、共済契約者数は減少しており、本制度が中小企業の従業員を広くカバーするものとしてのさらなる充実が求められていることを踏まえ、加入する企業を増やしていくという視点にも十分配慮し、事業主団体等を活用するなど加入促進へのさらなる取組を行うことも重要である。
 さらに、平成24年3月に廃止されることとなっている適格退職年金制度から中小企業退職金共済制度への移換を促進するため、さらなる広報、周知徹底が求められる。

(3) 財務内容の改善について
(1) 累積欠損金の処理
 経費節減を図る一方で一定の資金運用等収入を確保し、一般の中小企業退職金共済事業と林業退職金共済事業合わせて約400億円の累積欠損を解消しており、総合的にみて計画以上の成果が得られたものと評価する。
 ただし、この結果は金融市場の状況など外生的な要因も大きく影響していることに留意する必要がある。累積欠損金の解消は、制度の持続的な運営に当たって、加入促進と並び最重要課題であることから、今後とも引き続き、資産運用について安全かつ効率的な運用を基本としつつ、経費節減や加入促進などと併せ、さらなる対策の実施に努める必要がある。
 また、累積欠損金の解消を確実なものとするため、その具体的な解消年限等を17年度に設定するための取組に着手したことは、16年12月の総務省政策評価・独立行政法人評価委員会の意見に沿うものであり、その早期策定と着実な実施を期待する。

(2) 健全な資産運用等
 資産運用については、今後を見据えた運営戦略、的確なポートフォリオの構築等に資するべく、前年度に引き続き、資産運用検討委員会等の意見を踏まえた運用方針・体制などの見直し、資産運用評価委員会による運用結果の評価等、外部の専門家を積極的に活用し、健全かつ効率的な運用を実施する体制が確立され、中期目標を達成するために積極的に業務が推進されていると評価する。
 今後は、確立された体制を的確に活用し、健全かつ効率的な資産運用の具体的な成果に向けて一層の取組が求められる。特に、資産の委託運用において高い運用収入が確保されたことは評価できるものであるが、その健全性の確保に当たっては、リスクの戦略的な管理が重要であり、その充実に向けて内部の人材の育成や委託先運用機関の効果的な活用等の取組が求められる。
 また、より高い成果を得るために体制やその運用について今後も不断の見直しを行うことも重要と考える。

(4) その他業務運営について
 積極的な情報の収集及び活用に関しては、退職金制度に関する調査を行ったほか、加入者を代表する者等からなる参与会を開催し業務運営に関する意見要望の聴取を行うなど、計画に沿った運営がなされた。
 また、建設業退職金共済事業の適正化に関しては、改善策検討のための調査を実施するとともに、新たな掛金納付方式検討のためのモニター実験から得られた問題点の整理を行っているが、早急に結論を出し、対応していくことが望ましい。
 さらに、中期計画の定期的な進行管理に関しては、各種会議を開催し進行状況の把握を行っているとともに、予算、収支計画及び資金計画についても、適正な執行を実施している。
 今後も、計画の進捗状況について入念な検証を行いつつ、着実な業務運営の遂行が期待される。



個別項目に関する評価結果

勤労者退職金共済機構
項目 平成16年度
評価結果
機構
自己評価
1 効率的な業務運営体制の確立
 効率的かつ柔軟な組織編成を行うこと。また、職員の採用に当たっては、資質の高い人材をより広く求めるとともに、職員の資質向上を図るため、研修の充実、資格取得の奨励、内外の人事交流の推進等に積極的に取り組むこと。
2 内部進行管理の充実
 職員の意識改革を図るとともに、業務の遂行状況を機構として組織的かつ定期的に管理し、必要な措置を講ずること。
B
3 事務の効率的な処理
 事務処理の簡素化・迅速化を図ること。また、事務等の電子化・ペーパーレス化を進めるなど、事務管理の効率化を図ること。
B
4 外部委託の推進
 業務の見直しにより、その外部委託を推進すること。特に、一般の中小企業退職金共済事業におけるシステム開発を外注化すること。
B B
5 業務運営の効率化に伴う経費節減
 一般管理費及び契約締結、退職金給付等の運営費交付金を充当する退職金共済事業経費について、中期目標の最終年度(平成19年度)の当該経費を、特殊法人時の最終年度(平成14年度)の当該経費に比べて13%節減すること。
6 加入者の負担軽減
 申込み等に係る諸手続や提出書類の合理化等を進めることにより、加入者の手続面での負担の軽減を図ること。
7 意志決定・事務処理の迅速化
 契約及び退職金給付に当たり、厳正な審査を引き続き実施しつつ、事務手続きの効率化、担当者の審査能力の向上等により、処理期間を短縮すること。
A
8 情報提供の充実、加入者の照会・要望等への適切な対応等
 ホームページを活用した情報提供の充実に努めること。また、加入者の照会・要望等に適切に対応するとともに、意見募集、対応結果の公表等を行うこと。
B B
9 加入促進対策の効果的実施
 中小企業退職金共済制度における加入状況、財務内容等を勘案して、当該制度の新規加入者数(新たに被共済者となったものの数をいう。)の目標を定め、これを達成するため、中小企業退職金共済制度への加入促進対策を効果的に実施すること。
A A
10 財務内容の改善に関する事項
 累積欠損金を承継した事業においては、収益改善・経費節減等に関する具体的な計画を策定の上、累積欠損金の解消に向け、当該計画を着実に実行すること。
A A
11 健全な資産運用等
 資産運用について、その健全性を確保するため、第三者による外部評価を徹底し、評価結果を事後の資産運用に反映させること。
 また、経済情勢の変動に迅速に対応できるよう、資産運用の結果その他の財務状況について、常時最新の情報を把握すること。
B A
12 その他業務運営に関する事項
 加入者の要望、統計等の各種情報を整理するとともに、実態調査等により積極的な情報を収集し、当該情報を退職金共済制度の運営に反映させることにより、当該制度の改善を図ること。
B B
13 建設業退職金共済事業の適正化
 建設業退職金共済事業に関して、次の事項に係る改善策等を検討し、適切な措置を講ずること。
(1) 就労日数に応じた掛金の納付の確保
(2) 長期未更新者に対する退職金の確実な支給
(3) 共済証紙による掛金納付方式の見直し
A A
14 中期計画の定期的な進行管理
 中期計画の進行状況を定期的に把握し、中期計画を踏まえた一体的かつ円滑な業務運営に努めること。
B A
15 予算、収支計画及び資金計画 A A
16 職員の人事に関する計画 B A
判定基準
「S」:中期計画を大幅に上回っている。
「A」:中期計画を上回っている。
「B」:中期計画に概ね合致している。
「C」:中期計画をやや下回っている。
「D」:中期計画を下回っており、大幅な改善が必要。

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