資料2

医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法等のあり方に関する検討会まとめ案(骨子)

I  はじめに

 本検討会は平成17年4月に設置され、患者の視点に立って安心安全な医療を確保する観点から重要と考えられる課題について検討し、本年6月末に、それまでの検討の成果を中間的にとりまとめ、社会保障審議会医療部会に報告したところである。

 その後、残された課題について○○回にわたって検討し、これまでの検討結果をとりまとめることとした。

 検討の成果については、中間とりまとめ同様、社会保障審議会医療部会に報告することとする。

II  個別の論点

 助産所の嘱託医師

 (1) 現状及び問題の所在

  ○  嘱託医師については、助産師と連携して健やかなお産に導く役割を期待されており、緊急時に限らず、日常的に相談できることに意義がある。

  ○  産婦人科の医師の確保が困難な現実もあり、精神科や皮膚科の医師の場合がある他、分娩を取り扱っていない産科医等の場合もある。

  ○  専門外の嘱託医師が選任されている場合、本来期待されている機能が発揮できているか疑問である。また、名前だけで緊急時には近隣の周産期センターと連携していることもある。

  ○  助産所から他の医療機関への転院・搬送される母体、新生児は分娩数の1割程度存在し、後方支援の医療機関の必要性は高いことから、緊急時には嘱託医師を介さずとも、24時間受け入れることのできる医療機関との連携が必要である。

 (2) 今後の方向性

  ○  嘱託医師については、身近に助言できる医師あるいは何かあったときにすぐに対応できる医師としての位置づけであり、産科医師とする必要がある。その上で、嘱託医師では十分に対応できない場合の後方支援として、助産所との連携医療機関を確保するための制度的措置を講ずることが必要である。

  ○  産科医療の確保が重要な課題となっており、助産所について産科医療の担い手の一つとしての役割が更に積極的に果たしていけるよう、各般の施策の中で助産所の位置づけや役割について考慮するとともに、関係団体においても周産期医療の確保に積極的に協力する必要がある。

 新人看護職員研修

 (1) 現状及び問題の所在

  ○  新人看護職員の臨床能力は、現場の期待するレベルに達していない。

  ○  看護師については、卒後に行われる研修制度がなく、就職先の病院等の自主的な取り組みに委ねられている。

  ○  ヒヤリハット事例に新人看護職員が関与する事例も相当数存在し、医療事故につながった例もある。

 (2) 新人看護職員研修の制度化の必要性と課題

  ○  基礎教育で臨床技術を習得すること、医療機関の自主的努力に委ねることには限界があり、新人看護職員研修の制度化は必要である。

  ○  医療事故の防止に不可欠であり、また、新人看護職員の離職防止にもつながる。

  ○  新人看護職員研修の制度化に際しては、看護職員の就業状況を考慮すると、医師の臨床研修の制度化の経験を踏まえた研修方法、内容を考えていかなければならない。

  ○  医療の高度化、看護ニーズの増大を踏まえると、養成所のあり方やカリキュラムとも関係しており、並行して基礎教育の充実も必要である。

 (3) 今後の方向性

  ○  看護師の資質向上のためには新人看護職員研修の何らかの制度化が不可欠であるが、基礎教育との関係も含め、研修の役割、内容等について検討する必要がある。また、現在の医療機関による自主的な取り組みとの整合性についても検討が必要である。

  ○  このため、新人看護職員研修の制度化について、別途検討を進める必要がある。

 産科における看護師等の業務

 (1) 現行制度の扱いと提案

  ○  現在、産婦に対する内診は助産の業務の一環であり、助産は、医師及び助産師のみに許された業務とされている。

  ○  産科の閉鎖や分娩の取り扱いをやめる医療機関が相次いでいるが、診療所における助産師の不足も大きく影響しており、一定の条件下での内診を看護師等の診療の補助行為として考えるべきとの提案があった。

 (2) 産科における看護師等の業務を巡る議論の経過

  <分娩を取り巻く状況について>

  ○  昭和25年には95%は自宅での分娩であったが、年々医療機関へシフトしていき、平成15年には52%が病院で、47%が診療所での分娩となっている。また、助産師は、かつてほとんどが助産所に就業していたが、平成15年には、69%が病院、18%が診療所で就業している。

  ○  マスコミでも報道されているように、地方においては分娩医療機関がない所も出てきており、地元でお産ができない状況になると、住民が不安と不満を抱き、少子化を加速させていくのではないかとの指摘もある。

  <看護師の業務について>

  (見直し論)

  ○  保助看法には助産の定義はなく、助産と診療の補助行為の違いが明確ではない。助産を定義し、診療の補助行為と区別するべきである。

  ○  助産師が行う内診と、医師の指示の下で看護師が行うものとして求めている内診とは自ずから異なる。医師が求めるのは、分娩第I期において、分娩監視装置等により観察しつつ、看護師が子宮口の開大度・児頭の下降度のみを計測し、医師に伝えることである。

  ○  現在、看護師は内診をすることができないこととなっているが、少なくとも分娩の第I期にあっては、絶え間ない分娩を監視していくという意味では違法性はないと考えられるのではないか。医療現場では、看護師が患者の状態を観察し、医師に報告し、それを基に医師が判断することは通常であり、それが否定されることは疑問である。

  ○  外来・分娩・手術も行わなければならない医師は、約8時間に及ぶ分娩第I期の経過を常に観察することは不可能であり、それを補い、分娩を安全に導くために、看護師による子宮口の開大度・児頭下降度の観察・測定が必要である。内診は静脈注射より侵襲性が少なく、分娩監視装置も装着しており、訓練した看護師なら十分行える。

  ○  現行の枠内でできないのであれば、保助看法の考え方を変えるべきである。例えば産科のエキスパートなど、新しい制度を考えるべきである。

  (反対・慎重論)

  ○  内診は、分娩進行状況を判断するための全体掌握の一つの手段であり、内診の行為を計測として単純に論じられるものではない。子宮口の開大度のみではなく、硬度・柔軟性、位置及び回旋、骨盤内の児頭の高さ、骨産道の形状等を判定して分娩進行に伴う危険の予見とその回避のための助産業務の一環である。医師の指示下によるものではなく、また、看護師が代行できるものではない。

  ○  内診は計測ではなく診察と考えられるが、仮に看護師に子宮口の開大度と児頭の下降度の2つだけを計測し、医師に報告させると、他の部分の情報が医師に伝わらない制度となるおそれがある。

  ○  内診するタイミングは、機械的に決まるのか。看護師の知識と能力で判断できるのか疑問である。

  ○  従来の「内診」の中から、子宮口の開大と児頭の下降度をみることのみ切り離し、一定の訓練を受けた看護師にやらせる制度を設けた場合、それが「内診」と言えるのかどうか、また、そのことが患者の安全、医療の安全との関係でどういう意味を持つのか。医師・助産師・看護師の間で議論が必要である。

  ○  質の高いお産が求められている中、看護師に内診させるのは問題である。十分な教育を受けた助産師を養成するべきであり、助産師教育を充実させ、国が政策的に診療所の助産師を増やすことを積極的に行うことが必要である。

  <助産師の確保について>

  ○  昭和20年代に比べて看護師は10倍以上増加しているが助産師は半減しており、助産師は絶対数が少ない。また、地域や医療機関における偏在という問題もある。

  ○  助産師を増やすことが重要であるが、少子高齢社会においては助産師と看護師とを同時に増やすことは容易ではないという状況を踏まえ、安心して出産できるよう、必要な措置について提言するべきである。

  ○  産科医不足を助産師の不足に結びつけるのではなく、診療所における就労を促進するため、報酬や待遇に加え、助産師にふさわしい業務が行えるようにするなど助産師の気持ちを満たすことが必要である。

  <患者への情報提供>

  ○  産婦の不安がないように、誰が何をしているのかきちんと患者へ情報開示して欲しい。

 (3) 今後の方向性

  ○  助産師の需給の状況、確保策については、現在、需給見通しの策定作業を行っているところである、12月の需給見通しの確定を踏まえ、改めて検討する必要がある。

  ○  産科における看護師等の業務については、助産師の確保策を推進する一方で、保健師助産師看護師法のあり方を含めて、別途検討する。

 看護記録

 (1) 現状及び問題の所在

  ○  法律上の根拠はなくても、医療機関では入院患者を中心に看護記録を適切に記載しており、また、重要な裁判資料として取り扱われている。

  ○  診療に関する諸記録の取り扱いについては、医療法体系において、地域医療支援病院及び特定機能病院とその他の病院では異なっている。

  ○  患者のベッドサイドに行くよりも看護記録の記載に時間をとられすぎていることが問題となっており、また、外来における看護師も多忙で、記録を書く時間が十分にあるか疑問である。

  ○  外来や社会福祉施設などにおける看護記録の実態が把握されていない。

 (2) 看護記録を法律に位置づける必要性及び課題

  ○  医療に関する記録としての看護記録の意義は、専門職としての看護師が、医師や薬剤師と同じようにきちんと記録を書き、それを後で評価していくことにある。

  ○  医療、看護の継続性を図ること、診療情報を医療従事者と患者との間で共有すること、看護の内容を評価する指標とするために、法制化について検討する必要がある。

  ○  法律に位置づける効果として、区々となっている看護記録の記載内容等を統一し、すべての医療機関に行き渡らせることが期待できる。

  ○  外来や福祉施設については、それぞれにおける看護の役割、それを踏まえた記録のあり方の議論が求められる。

  ○  チーム医療が行われている現状において、他の医療関係職種の記録の扱いも考えなければならない。

 (3) 今後の方向性

  ○  看護記録の意義、医療提供において果たしている役割の大きさにかんがみ、法制化の必要性について検討し、記録の範囲や対象など法制化に際しての課題について明らかにする必要がある。

  ○  当面、診療の諸記録の中に看護記録が当然に含まれていることを明らかにする制度的措置を講ずることも考えられる。

 看護職員の専門性の向上

 (1) 現状と問題の所在

  ○  (社)日本看護協会等が認定している認定看護師、専門看護師等は、その専門分野に係る看護の実践、教育、相談において一定の役割を果たしている。

  ○  より専門性の高い看護師の育成や普及が求められているが、養成機関が少なかったこともあり、現状においては、その数は少ない。

 (2) 専門性の高い看護師の養成・普及、広告の必要性と課題

  ○  医療に関する専門制度は、国が関与することなく、専門集団が自主的に行うことが大切である。

  ○  専門分化の過程が医師と看護師とでは異なることに留意する必要がある。また、保健師、助産師と専門性の高い看護師との関係を明確にしていく必要がある。

  ○  認定看護師、専門看護師の認定を受けるため、民間の病院は時間的、マンパワー的に多大な犠牲を払っている一方、資格取得者の効果の評価、処遇が課題となっている。

  ○  患者・国民に対する情報提供を促進し、患者・国民による選択を促す観点からは、看護師の専門性について広告する必要性はある。

  ○  医療機関の広告については、その制度のあり方について医療部会で検討しているところであり、その結論を待つべきである。

 (3) 今後の方向性

  ○  看護の専門性を認定する体制、認定に際しての基準について、資格を認定する主体における検証、整理が必要である。

  ○  患者・国民に対して情報提供を促進し、患者・国民による選択を促す観点から、専門性の高い看護師の広告については、医療部会における広告の在り方についての検討結果を踏まえ、制度的な措置を講ずることも考えられる。

III  おわりに

  ○  本検討会は、平成18年の医療制度改革に反映させることを念頭に、医療提供体制に係る看護職員に関連する論点について精力的に議論を行ってきた。

  ○  中間まとめを含めこれまでの議論の結果、制度的措置をとることが適当との結論に至った事項については、平成18年改正に反映するよう期待する。他方、平成18年改正において制度的措置をとるべきとの結論に至らなかった事項についても、本検討会における検討結果を踏まえて対応することを求める。

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