2005年9月13日

厚生労働省「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」報告についての談話

日本労働組合総連合会
事務局長 草野 忠義


.昨日9月12日、厚生労働省の「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」(座長:菅野和夫・明治大学教授)は、最終の研究会を開催し報告をとりまとめた。研究会は2005年4月に「中間取りまとめ」を公表し、意見を募集した。連合は「この方向性が修正されることなく労働契約法が作られていくのであれば、労働者や労働組合のためにならない労働契約法であると判断する」と強い懸念を示し、再検討を求める意見を提出した。だが、「最終報告」においては一顧だにされておらず、極めて遺憾である。

.雇用・就労形態の多様化など労働契約をめぐる環境の変化を受けて、個別労働紛争が大幅に増加している。連合は、こうした紛争の予防・解決の基準として、労働契約の成立・展開・終了にかかる労働者と使用者との権利・義務を明確にする労働契約法が必要であるとして、2001年に「労働契約法案要綱骨子案」を確認し、その制定を求めてきた。研究会報告が、労働契約法をつくる必要があるとしていること自体は、連合の認識と一致している。

.しかし、「研究会報告」には問題がある。とりわけ大きな問題点は、(1)労働組合とは本質的に異なる労使委員会に、労働条件の決定・変更の協議や就業規則の変更の合理性判断など重要な機能を担わせようとしている。(2)解雇無効の判決を勝ち取った労働者が職場復帰できなくなる、解雇の金銭解決制度を導入しようしている。(3)雇用継続型契約変更制度の創設は、労働者に対して「労働条件の変更か解雇か」を迫ることになる。(4)ホワイトカラー・イグゼンプションの導入は、労働時間の原則を骨抜きにし、長時間労働を助長しかねない。これらの内容を盛り込んだものならば、労働者のための労働契約法とは到底言えず、連合は容認できない。

.今後、労働契約法については、労働政策審議会で審議されることが予想されるが、「研究会報告」はあくまでも研究者による報告であり、審議会における議論のたたき台ではない。また、検討すべき項目が多岐にわたる労働契約法について、すべての事項を短時日に一気に検討するのは困難である。連合は、研究会報告が示した方向性そのままの労働契約法がつくられることを阻止し、連合案に基づく労働者と労働組合のための法制定に向けて、構成組織・地方連合会と一体となった取り組みを行う。

以上



2005年10月13日

労働契約法制に対する使用者側の基本的考え方

(社)日本経済団体連合会
 労働法規委員会 労働法専門部会

 1.あるべき労働契約法制について
 労働契約法制は、(1)雇用の多様化などによる個別的労働紛争の増加を防止するべく、労働条件を労使に明確に示すようなものであること(労働条件の明確化)、(2)紛争が起きたときにどのように解決するかという解決基準のル−ルを定めたものであること、(3)以上のル−ルは労使自治を基本とすることから補充規定、任意規定であること、(4)中小零細企業を含めた日本の企業の多くが円滑に遵守できるようなものであること(複雑な手続規定等は設けないこと)が必要である。
 以上のような一般民事法としての労働契約法制は、これを否定するものではない。

 2.「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」報告について
 9月15日、厚生労働省の「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」は報告をとりまとめた。
 しかしながら、同報告は、雇用の入り口から出口に至るまで、すなわち採用、試用、配転等から退職、解雇に至るあらゆる場面において起こり得る問題を想定し、強行規定、指針を背景に企業を規制する内容となっており、容認できない。
 もとより、同報告は学識経験者のひとつの意見であって、同報告の方向性にとらわれることなく、労働契約法制については、厚生労働省の労働政策審議会(労働条件分科会)において、今後労使で検討されるものと理解している。
 日本経団連としては、かねてより主張している、解雇の金銭解決制度、ホワイトカラ−エグゼンプションについて早期導入を要求するとともに、労働契約法制の内容が、強行規定や指針によって企業に規制や負担を課するものになることを阻止すべく求めていく。

以上



厚生労働省・労働条件分科会に対する意見
渡邊 佳英

(1)労働契約の在り方について
 労働契約に関する法制は、労使の自主的な決定と契約自由の原則を最大限に尊重したものでなければならない。労働基準法などを今日の社会情勢にふさわしいものにしていく必要がある。
 労働契約に関するルールを整備する場合は、必ずしも新法による必要はなく、法制化を前提とすべきではない。労使の判断の参考となる目安であるべきであり、新たな紛争を引き起こすことのないよう、労使の自主性を尊重した、中小企業にもわかりやすく使いやすいものでなければならない。特に、解雇を巡る事情は企業によってかなり異なるため、法律で解雇の要件や手続きを一律に規定することは好ましくない。紛争の迅速な解決を目指して準備が進められている労働審判員制度等と合わせて、一体的に検討すべきである。

(2)今後の審議について
 労働契約のあり方を整理し、その実行性を確保する為には、中小企業の実態を充分に反映することが不可欠である。厳しい経済状況の中で、企業は、国際競争力を保持すべく懸命に努力しながら雇用の維持に努めている。特に我が国企業の99%を占め、雇用の7割を担う中小企業は、地域経済の活力の源泉として、日本経済の基盤をなしている。
 企業経営や経済活動の実態に合わない規制は、我が国の企業競争力、経済活力の喪失を招き、当然雇用も維持できない結果を招く。
 今後、労働契約法制の個別項目ごとに議論する際にも、法制化を前提とするのではなく、中小企業の経営の実態を十分に踏まえた対応を検討すべきである。
 なお、「裁量労働制の拡大」、「労働時間規制の適用除外の拡大」については、規制改革・民間開放推進3カ年計画により、検討することが閣議決定されている。この問題については、厚生労働省の研究会にて年内に報告書が出された後、労働条件分科会で労働契約のあり方と同時並行で議論するとされている。労働契約のあり方についての議論とは関係なく、「裁量労働制の拡大」、「労働時間規制の適用除外の拡大」について審議されるべきである。

以上



第57回中小企業団体全国大会決議(抄)

平成17年9月15日
全国中小企業団体中央会

7.中小企業を重視した労働・教育政策の展開

 労働時間規制の見直し、労働契約法制の検討は、中小企業に対する規制強化にならないよう、中小企業の実態を十分踏まえて行うこと。

【具体的な要望事項】
4.労働契約法制の検討
(1)労働契約の制度化への慎重な対応
 労働契約の制度化の検討は、中小企業の経営・雇用管理等の規制強化や足かせとならないよう、中小企業の実態を十分踏まえ慎重に行うこと。
(2)中小企業の実態を踏まえた「金銭賠償方式」の検討
 解雇の際における「金銭賠償方式」(労働者の職場復帰ではなく、使用者の一定の金銭の支払いによって労働契約を終了させる方法)の制度化に当たっては、中小企業に過重な負担と制約を課すことなく、柔軟な制度とすること。特に、使用者が支払う金銭の額については、労使の自主的な合意を尊重し、かつ中小企業の実態を十分考慮したものとすること。

【背景・理由】
4.労働契約法制の検討
(1)労働契約の制度化への慎重な対応
 労働契約の制度化が検討されているが、労働契約は労使自治が基本であり、労働契約の新たな制度化が、かえって中小企業経営の大きな規制強化や足かせとならないよう、中小企業の実態を十分踏まえ、慎重に検討することが必要である。
(2)中小企業の実態を踏まえた「金銭賠償方式」の検討
 解雇の際における救済手段としての「金銭賠償方式」については、紛争解決の選択肢を広げる観点から導入を検討すべきであるが、制度化に当たっては、中小企業も活用できる柔軟な制度とすべきである。特に、使用者が支払う金銭の額については、一律に定めるのではなく、労使の自主的な合意を尊重するとともに、中小企業の実態を十分考慮したものとすべきである。


【具体的な要望事項】
3.労働時間規制の見直し
(1)裁量労働制のさらなる拡大
 裁量労働制(みなし労働時間制)の対象業務に、裁量性の高い営業業務等を追加すること。また、「企画業務型」(企画、立案、調査、分析の業務を行うホワイトカラー層が対象)については、労使協定での導入を可能とするとともに、労働基準監督署への届出のさらなる緩和、運用の弾力化など、一段の規制緩和を行うこと。
(2)労働時間規制の適用除外制度の導入の検討
 米国のホワイトカラーエグゼンプション制度などを参考に、創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方をする労働者を労働時間規制の適用除外とする制度の導入を検討すること。
(3)法定労働時間内における割増賃金の義務化に反対
 法定労働時間内において所定労働時間を超えて労働させた場合の割増制度の導入は絶対に行わないこと。

【背景・理由】
3.労働時間規制の見直し
(1)裁量労働制のさらなる拡大
 裁量労働制については、先の労働基準法の改正により若干の緩和はなされたが、働き方の多様化や中小企業のニーズに対応した制度になっていないので、さらなる大幅な規制緩和が必要である。
 特に、裁量労働制の対象業務に、裁量性の高い営業業務等を追加すべきである。また、導入が進んでいない「企画業務型」については、導入時要件の緩和、労働基準監督署への届出のさらなる緩和、運用の弾力化などを行うべきである。
(2)労働時間規制の適用除外制度の導入の検討
 近年、成果等が労働時間の長短に比例しない性格の業務を行う労働者が増加する中で、こうした動きに対応して、我が国においても、米国のホワイトカラーエグゼンプション制度などを参考に、創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方をする労働者の労働時間規制を適用除外する制度の導入を検討すべきである。
(3)法定労働時間内における割増賃金の義務化に反対
 所定外労働の抑制策として、一般労働者であるかパートタイム労働者であるかを問わず、所定労働時間を超えて労働させた場合には、法定労働時間内であっても、割増賃金の支払いを義務化することが提言されているが、日々激化する競争の中で生き残りを賭ける中小企業にとっては、経営に及ぼす影響が極めて大きいことから、義務化には反対である。

トップへ