H17.10.19

「第4回協議会厚生労働省提出資料」に対する意見

石川県知事 谷本 正憲

◎意見の前提
 生活保護制度は、憲法第25条の理念に基づき、国の責任において、生活に困窮する全ての国民に対し、健康で文化的な最低限の生活を保障する制度であり、国民の最低限の生活を保障される機会や最低限の生活水準の内容については、地域あるいは個人によって実質的な差が生じることはあってはならないもの。

 「級地の指定など地域における生活保護基準の設定に関し、地方自治体の裁量・責任の在り方」についての意見

 保護基準における級地区分については、生活保護制度が憲法第25条に基づく「生存にかかわるナショナルミニマムを確保するため、全国一律に公平・平等に行う給付金の支給等に関する事務」であることから、これまでも厚生労働大臣がその権限で市町村毎に決定してきたものである。そして、仮に地方に級地の指定など地域における生活保護の基準設定権限を移譲したとしても、ナショナルミニマムを達成するために必要・最低限の基準を設定しなければならないとすれば、それは、覊束行為であり、裁量の余地はない。また、これを地方自治体の裁量に委ねることがあれば、「ナショナルミニマム」の観点からみて、憲法上の疑義がある。

 医療扶助についての意見
(1)  「医療扶助の給付における福祉事務所の役割・責任」についての意見
 福祉事務所は生活保護事務の実施機関として、国が定めた基準に基づき、適切に事務処理を実施しているものであり、法定受託事務たる制度の趣旨に照らすと、今後ともこうした国と実施機関の役割分担は堅持すべき。

(2)  「医療計画(病床数、医療機関間の連携)等の作成主体である都道府県の医療扶助適正化における役割・責任」についての意見
 国民の生命を守ることは国家第一の責務とされており、現行法上も、医療に関する診療報酬や医療制度の枠組みを決定する権限は国にある。このことから、医療扶助適正化に関する責任は、第一義的には国にあり都道府県の役割は限定的である。こうした中で、都道府県の役割・責任を強調することは、責任転嫁と言わざるを得ない。

(3)  「我が国の医療は国民皆保険を基本としており、被保護者もその中で対応するという考え方もあり得る」についての意見
 医療扶助を国民健康保険に移すべきかどうかについては、以前から社会保障審議会等で議論されてきた課題であるが、国民健康保険財政は医療費の増加によって極めて厳しい状況にある。また、医療扶助の出所を変えても、それは単に、国と地方の負担を見直すことにすぎず、実効的な制度の抜本見直しからほど遠いと言わざるを得ない。まずは、国民健康保険財政の健全化を進めることが先決ではないか。

 「住宅扶助基準の設定及び実施について、地方自治体の裁量・責任の在り方」についの意見
 住宅扶助の基準設定を地方自治体の裁量に委ねることは、「ナショナルミニマム」の観点からみて、憲法上の疑義がある。
 そもそも、住宅の確保は、最低限の生活を営む上で、不可欠な要素であり、住宅扶助基準の設定及び実施について、他の扶助と異なる取り扱いをする合理的な理由はない。

以上

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