第27回科学技術部会 資料
4−2
平成17年10月12日

九州大学病院の遺伝子治療臨床研究実施計画
(慢性重症虚血肢(閉塞性動脈硬化症、バージャー病))
の審議経過について


1. 遺伝子治療臨床研究実施計画の概要

 (1) 課題名   血管新生因子(線維芽細胞増殖因子:FGF-2)遺伝子搭載非伝播型組換えセンダイウイルスベクターによる慢性重症虚血肢(閉塞性動脈硬化症、バージャー病)に対する血管新生遺伝子治療臨床研究

 (2) 実施施設   九州大学病院
  代表者   病院長 水田 祥代

 (3) 総括責任者   九州大学病院・第2外科・科長
九州大学大学院医学研究院・消化器・総合外科学
教授 前原 喜彦

 (4) 申請年月日   平成14年10月28日
  変更報告日   平成17年9月28日

 (5) 対象疾患名   慢性重症虚血肢(閉塞性動脈硬化症、バージャー病)
  導入遺伝子   FDF-2遺伝子
  ベクター名   センダイウイルスベクター

 ※  九州大学医学部附属病院は、平成16年4月に九州大学病院と改名された。


2. 末梢血管疾患遺伝子治療臨床研究作業委員会における審議概要

 1) 第3回末梢血管疾患遺伝子治療臨床研究作業委員会

  (1) 開催日時
平成15年2月17日(月) 14:00〜16:00

  (2) 議事概要
 平成14年10月28日付け「九州大学医学部附属病院の遺伝子治療臨床研究実施計画(閉塞性動脈硬化症、バージャー病)」について第1回の審議が行われた。
 まず、研究実施計画について施設から説明を受け、説明及び提出資料を基に、研究計画の妥当性について意見交換が行われた。その結果、他の治療法と比較して有効性・安全性の観点から優れているか否かに関する疑義、研究計画の記載の更なる具体化、ベクターの免疫原性に関する問題、ベクターの投与が患者の症状に与える影響等に関する6項目を意見としてまとめ指摘した。
 また、患者への説明と同意文書に関しては、検査項目の詳細、レトロウイルスベクターを用いた研究における有害事象の発生、その他患者に対して誤解が生じる可能性がある文言の修正等8項目を意見としてまとめ、指示した。

 2) 意見照会

  (1) 意見照会日
平成16年3月15日

  (2) 概要
 上記意見照会に対する回答が、九州大学医学部附属病院より平成15年9月26日付けで提出があったが、当該回答に対して、センダイウイルスベクターのヒトに対する免疫抗原性に関する患者への説明、既存の治療法と比較した際の有効性・安全性に関する見解への疑義等について、作業委員会より再度意見照会がなされた。

 3) 第4回末梢血管疾患遺伝子治療臨床研究作業委員会

  (1) 開催日時
平成16年6月17日(木) 15:00〜17:00

  (2) 議事概要
 九州大学病院から申請のあった遺伝子治療臨床研究実施計画(対象疾患:閉塞性動脈硬化症、バージャー病)に関して、本委員会からの質問に対して実施予定施設から回答及び追加申請資料が提出されたことを受けて、再度審議を行った。
 回答及び追加申請資料について当該施設から説明を受けた後、実施計画の妥当性について委員間で意見交換を行った。その結果、センダイウイルスベクターのヒトへの投与経験が現時点までにないことを踏まえ、実施計画の細部や同意説明文書の記載を適切に整備する必要があること等、意見を事務局で整理し、これについて当該施設に指示することとした。

 4) 第5回末梢血管疾患遺伝子治療臨床研究作業委員会

  (1) 開催日時
平成17年2月7日(月) 15:00〜17:00

  (2) 議事概要
 本作業委員会からの照会事項に対し、同病院から回答書及び追加資料が提出されたことを受け、再度審議を行った。
 回答書及び追加資料について当該施設から説明を受けた後、実施計画の妥当性について委員間で意見交換を行った。その結果、本実施計画を概ね了承することとしたが、センダイウイルスベクターの抗体価のモニタリングの実施、実施計画書の記載の整備、平成17年4月1日より施行される改訂後の「遺伝子治療臨床研究に関する指針」への適合など、委員及び事務局より指摘のあった事項について事務局において整理の上、同病院に指示することとした。なお、当該指示を踏まえ、修正された実施計画については、再度委員長に確認の上、次回以降の科学技術部会に報告することとした。

(なお、当該指摘に対する回答については、平成17年9月30日に委員長了承済み)



(参考)
九州大学病院から提出された
遺伝子治療臨床研究計画の概要について
(事務局まとめ)


 (1) 研究の目的
 FontaineIII・IV度の重症虚血肢に対して、センダイウイルスベクターによる線維芽細胞増殖因子FGF-2を用いた遺伝子治療の有効性を示唆する動物実験での結果に基づき、ヒトにおけるSeV/dF-hFGF2投与の安全性を明らかにし、臨床効果を示すと考えられる投与量を決定することを目的とした臨床研究を行う。


 (2) 対象疾患について
 本遺伝子治療臨床研究では、FontaineIII・IV度の症状を示し、人工血管等による血行再建術の適応がなく、2週間の継続した薬物療法で症状の改善がみられず、40歳以上の閉塞性動脈硬化症あるいはバージャー病(閉塞性血栓性動脈炎)の患者を対象とする。実施期間は、承認日より36ヶ月間までとする。
 なお、本研究の患者選択に当たっては、九州大学病院内に設置する九州大学病院先進医療適応評価委員会において適応を判定する。


 (3) 有効性及び安全性について
(有効性)

 本研究で実施する治療法は、血管新生を促す増殖因子を血管内、又は骨格筋へ投与することにより、側副血行路を増加させることを目的とする、血管新生療法に分類される。
 タンパク質又は遺伝子治療を含め、すでに報告されている血管新生療法の第I、II相試験では、その有効性を示唆する成績が得られているものの、症例数を増やした多施設二重盲検試験で、有効性を明確に証明したものはない。
 米国ではVEGF(ヒト血管内皮細胞増殖因子)遺伝子を持つプラスミドを用いた遺伝子治療臨床試験が実施されており、国内で大阪大学グループがHGF(肝細胞増殖因子)を用いた第III相試験を実施しているところである。
 そのような背景の下で、申請者は、動物実験においてセンダイウイルスベクターの筋注により、1)プラスミドによる遺伝子発現より少なくとも50〜500倍高い遺伝子発現を得ることができること、2)VEGF遺伝子は安全域が狭いが、FGF-2は明確な副作用を認めず安全域が広いこと、3)FGF-2は慢性虚血肢のみならず急性重症虚血肢にも高い救肢作用が認められること、4)治療効果を示す発現レベルでの副作用は殆ど認められないことを見出したとしている。

(安全性)
 申請者はベクターはGMPグレードで生産等がなされ、その純度等が保証されているとしている。当該ベクターは感染に必要なタンパク質を欠損しており、理論的に感染性二次粒子は放出しないとしている。また、野生型ウイルスとの相同組換えを起こすことがないとことが知られている。さらに、当該ベクターは細胞質で転写・複製が行われるため、染色体内へ遺伝子が組み込まれることは理論的にはないと考えられることから、がん遺伝子の活性化等の危険性はレトロウイルスベクター等と比較して低いとしている。
 センダイウイルスは多くの哺乳類細胞へ感染可能であるが、マウスを用いた試験では、107ciu/30gまでの筋肉内投与では、他臓器での遺伝子発現は確認できず、5×109ciu/kg筋肉内投与のカニクイサルでも、実験期間中に血液、尿中にベクター由来の遺伝子配列を検出することは出来ず、サル間の水平感染は認められなかったとしている。
 また、当該ベクターのマウス、カニクイサルへの筋肉内投与の結果、筋肉の壊死など組織学的に重篤な細胞傷害性は認めらず、その他、ラット及びサルを用いたGLP準拠試験(急性毒性、生体内分布試験)でも特記すべき安全性上の異常は見出されなかったとしている。
 筋肉内に投与されたベクター及び遺伝子、発現されたタンパク質は、動物試験から得られた結果から予測して、投与後2週間で99%以上が体内から除去されると考えられる。


 (4) 使用される遺伝子及びベクターについて
 FGF-2は、種々の間葉系細胞の増殖を促進するが、その中でも特に血管内皮細胞の増殖促進・管腔形成の促進作用を有する。遺伝子を組み込む当該ベクターは、センダイウイルスZ株のうち、増殖に必須なF因子を取り除いたもの(非伝播性組換えセンダイウイルスベクター)である。これらのFGF-2遺伝子搭載ベクターの生産等は、米国FDAの定めるGMP基準に従って行われる。

トップへ