05/09/08 第27回今後の労働契約法制の在り方に関する研究会議事録         第27回 今後の労働契約法制の在り方に関する研究会                     日時 平成17年9月8日(木)                        10:00〜                     場所 厚生労働省専用第18〜20会議室 ○菅野座長  時間になりましたので、ただいまから第27回「今後の労働契約法制の在り方に関する 研究会」を始めます。本日は、お忙しい中お集まりいただきましてありがとうございま す。前回の研究会で、事務局から監督課長の異動の紹介がありました。今回から御出席 されていますので、一言お願いいたします。 ○労働基準局監督課長(大西)  8月26日付で監督課長を拝任いたしました大西でございます。病気をしておりまし て、欠席いたしてしまいまして、大変申し訳ありませんでした。前任の苧谷課長から引 き継いで、一生懸命頑張りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。 ○菅野座長  前回から最終報告書について検討を始めまして、皆様からさまざまな御意見をいただ きました。また、前回の研究会では議論いただけなかった点についても、研究会終了後 に御連絡いただくように、皆様にお願いいたしました。それらの御意見を踏まえて、私 から事務局に報告書案の修正を指示しましたので、まず前回の資料として提出されてい た報告書案から変更された点について、事務局から簡単に説明をお願いいたします。 ○労働基準局監督課調査官(秋山)  資料1ですが、前回の報告書案からの御指摘と、それ以後事務局のほうにいただいた 修正意見を踏まえまして、座長と相談の上修正したものを、お手元にお配りしておりま す。前回からの変更点につきましては、下線を引いております。形式的なところは除い て、実質的な修正の部分について御説明します。  報告書の1頁ですが、「はじめに」のところで、何箇所か出てきます。前回の研究会 の中で西村先生から、「行動規範」と「行為規範」とばらつきがあるという御指摘があ りまして、「行為規範」に何箇所か統一をしています。  2頁です。「序論」の1番、現状認識として(1)に至る前の柱書きの部分の「企業 を取り巻く環境が大きく変化している」という文章ですが、研究会終了後荒木先生から 御指摘をいただきまして、最近の商法の改正などを踏まえ、一部加えております。社外 取締役を重用する委員会等設置会社という新たな会社の統治形態が認められたというこ と。また、株主利益がより重視されるようになっているということを加えております。  3頁の下は、修辞上の修正を行っています。6頁のいちばん上は、言葉の問題です が、一部「労働関係」と「雇用関係」と2つ出てくる所がありました。文脈によっては どちらのほうがいいという所もあって、必ずしも全体で統一はとれていないのですが、 少なくとも同じ部分については、労働関係は労働関係と統一をするように、何箇所か直 しています。  7頁から第1の「総論」です。8頁は、「公正な」と書いていましたが、曽田先生か ら御指摘を受けまして「公平な判断」と2箇所ほど修正をしております。その他「行為 規範」を統一したところです。9頁も、「行為規範」に直したのと「労働関係」を合わ せたという修正です。  10頁ですが、上のほうで「行為規範」と統一したのと、イの労働基準法と労働契約法 制それぞれの役割、という所の1段落目の最後の接続詞について、内田先生から御指摘 をいただきまして、「ただし」と直しております。  11頁から労働契約法制の基本的性格と内容という所です。12頁の(2)「内容」の下 のほうを「行為規範」に統一したということです。 13頁ですが、(3)として総則規定の必要性のところです。前回の御議論の中で、2 段落目に「信義則の原則」を書いておりましたが、西村先生から御指摘をいただきまし て、「雇用関係の特質にかんがみ労働契約上の権利を濫用してはならないことについて も定めることが適当である」ということを追加しております。  14頁です。3行目は、労働契約法制における指針の意義を記述しています。前回提出 しました報告書案では、ここの部分が、労働契約法制における指針は、それ自体法的拘 束力はないものの、行為規範として意味があると考えられる。その次の所で、前回は、 実際には指針の内容が裁判所において斟酌される場合もあると考える、という表現にし ていましたが、内田先生からの御指摘を踏まえて、「指針の内容が合理的なものであれ ば、裁判所において斟酌されることが期待される」と、少し前向きな表現に直していま す。  17頁ですが、(3)として、労働契約法制における労使委員会制度の活用の部分で す。アの5行目ですが、前回は「労働者が集団として使用者との交渉を行うことができ ることとすることが必要である」と書いていましたが、山川先生から御指摘を受けまし て、交渉だけでなく協議も入れたほうがいいだろうということです。また、元の文章で すと、設置を義務付けるように見えるので、場が存在することが必要だということで修 正をしております。  18頁、労使委員会制度の在り方、イの2段落目、6行目の「そこで」で始まる所で す。「労使委員会の在り方として、委員の半数以上が当該事業場の労働者を代表するも のであることのほか」と、「労使委員会の委員の選出手続を、」のところに下線が引い てあります。ここは、前回村中先生から御指摘を受けまして、現在労働基準法に基づく 過半数代表者の選出手続に比べて、より明確なものとすべきだと、表現を改めておりま す。次の段落は、読みやすさの観点から、できる限り位置をずらしたり、文章を切った りしております。  イのいちばん下のパラグラフですが、前回の研究会終了後、曽田先生から御指摘をい ただきまして、今後引き続き検討する労使委員会についての課題の中身につきまして、 労働者委員の選出にかかる費用負担や労使委員会の運営にかかる費用負担の在り方につ いても、引き続き検討することが必要だということで、追加をしております。  ウの労使委員会制度の活用ですが、18頁のいちばん下の1段落に線が引いてありま す。前回提出した報告書案では、順番がもう少しあとに出てきまして、場所的にも、若 干、どんな効果を担う機能を持たせるのかという話とゴチャゴチャしており、表現とし ても、前回は労使委員会における事前協議や苦情処理等の対応を、配転や出向、解雇等 を権利濫用の判断基準の一つとすることも考えられる、という表現でした。前回の研究 会で、一つとすることも考えられるということについては、いつも法律で要求するわけ でもないし、なることが期待されるぐらいだろうかとか、もう少し考慮されるように方 向性を打ち出したほうがいいのではないかとか、いろいろ御意見がありました。座長と も相談し、位置を前のほうに持ってきて、2段落目の「就業規則の合理性の推定、機能 」の次に持ってきました。内容としては、労使委員会の活用の仕方として、事前協議や 苦情処理の機能を持たせて、労使委員会での事前協議、苦情処理等が適正に行われた場 合には、そのことが配置転換や出向、解雇等の権利濫用の判断において考慮要素となり 得ることを指針等で明らかにすることが考えられる、という表現に修正しております。 19頁の1、2段落目を若干修正していますが、これは先ほどのパラグラフを上に持って きた関係で、若干修辞上の修正を行っております。  第2「労働関係の成立」に入りまして、20〜21頁(2)採用内定取消の関係です。21 頁の真ん中の「そこで」で始まる段落があります。印はありませんが、1文を削除しま した。前回の案では、「そこで」の段落と、その次の「これにより」の段落の間に1文 ありました。「また、そのような明示がない場合には、採用内定取消は、通常の解雇権 の濫用に当たらない限り有効とすべきである」という文章がありましたが、研究会終了 後、曽田先生から事務局に御意見をいただきまして、いま申し上げた、明示があった場 合に留保解約事由があるのだと、明示がなかった場合には、内定取消は、通常の解雇権 の濫用に当たらない限りで有効とすべきだと書いてあった文章は、21頁のいちばん下の 「なお」で始まる2行と重複しているのではないかということで、前にあった1文を削 除しております。  24頁から「労働関係の展開」です。就業規則の関係で、下線が引いてある箇所がかな り多くなっておりますが、実質的な変更というよりは、前回の研究会終了後の荒木先 生、山川先生等からの、就業規則の部分については構成が少しおかしいのではないか、 もう少し読みやすく構成を展開したほうがいいのではないか、という御指摘を踏まえ て、座長とも相談して順番を入れ替えております。順番としては、(1)で就業規則の 作成に関する労働基準法の規定を置く形にしています。25頁で、(2)として就業規則 と労働契約との関係ということで、就業規則の効力を3種類、ア、イ、ウと書いていま す。アでは、就業規則の最低基準効、イで労働契約の内容となる効力、秋北バス事件の 前段を書いています。ウで、労働条件を変更する効力ということで、秋北バス事件の後 段の部分を書いています。効力を最低基準効、秋北バス前段、後段というのをア、イ、 ウとまとめて(2)で書いております。(2)で効力の3種類を書き分けて記述した上 で、32頁の(3)で就業規則の効力の発生に必要な要件を、ア、イ、ウと、(2)で書 いた三つの要件に分けて、それぞれ効力が発生するために必要な要件を書いているとい う構成にしております。  次に内容的な修正が一部ありまして、26頁のイ、労働契約の内容となる効力と記した 部分です。下から8行目ぐらいに「そこで」で始まる段落があります。ここに書いてあ るのは、就業規則の内容が合理性を欠く場合を除き、労働者と使用者との間に労働条件 は就業規則の定めるところによるとの合意があったものと推定するという趣旨の規定を 設けることが適当である。この場合、この推定は推定規定で、反証を挙げて覆すことが できるという部分です。前回お出しした報告書案では、このあとに1文がありまして、 その表現は、「また、当事者双方において内心の意思があったのみでは契約とならない ことから、意思表示の合致としての合意があったと推定するものである」という文章が ありました。ここに関して、前回の研究会で内田先生から御指摘がありまして、もとも と中間取りまとめの段階では、就業規則によると意思があったものと推定するというこ ととしておりましたが、その後の議論で合意があったと推定するということにしまし た。そうした意味で、前回出した「また」の文章はおかしいのではないかと、修正の意 見をいただきました。その後菅野座長と相談しまして、合意があったと推定することに すれば、前回あった文章は別になくても変わらないのではないかということで削除をし ています。  30頁の真ん中ほどに、線が引いてある所があります。ここは、「労使委員会で5分の 4以上の多数による決議があれば、就業規則の変更の合理性を推定する」という部分で す。前回線が引いてある文章で、「使用者は労働者の意見を適正に集約したという事実 を立証しなければならず」と書いてありました。これだと、集約する主体が使用者のよ うな感じに読めてしまうという御指摘がありまして、「使用者は、過半数組合や労使委 員会の労働者委員が、労働者の意見を適正に集約したという事実を立証しなければなら ず」と、集約の主体を明らかにするということで修正をしております。  31頁で、二カ所修正があります。いちばん上の1、2行目ですが、30頁のいちばん下 の段落の「一部の労働者に対して大きな不利益のみを与える場合」を法律上仮に位置付 けずに、単なる合理性の推定を覆す反証としてのみ取り扱うとした場合には、こういっ た事情を全く考慮せずに、合理性を認める判断がなされるおそれがある、としておりま す。前回は、ここの部分は裁判官によってはこのような判断がなされてしまう場合があ るのではないかと書いていましたが、山川先生から「裁判官によっては」というのは表 現としてはどうかという御指摘がありまして、合理性を認められてしまう判断がなされ るおそれがある、と修正をしております。  31頁の下のほうの「さらに」で始まる段落です。ここは、意見集約の関係と、「ま た、別途少数組合には独自の団体交渉権の行使として、意見表明の機会が保障されてい る」という形に直していますが、少数組合には意見表明の機会が保障されているという のを、もう少しわかりやすく、どういうことかという議論がありまして、菅野座長の集 約でこのように修正しております。  31〜32頁にかけての部分です。31頁の下から2行目の「労使委員会について法令で規 定する委員の選出方法、意思決定方法等が遵守されている場合に限って推定が働く」と いうところです。前回は、括弧書きに入っていた使用者からの不当な支配介入があった 場合というのも、推定が働くための前提条件という書き方をしておりましたが、山川先 生の御指摘で、委員の選出方法や意思決定方法が遵守されていた場合には推定が働い て、その上で不当な支配介入があった場合には除く、という書き方のほうがいいのでは ないかということで、これを踏まえて修正しております。  32頁〜34頁まで、先ほど申しましたとおり、(3)で就業規則の三つの効力の発生に 必要な要件を書いておりますが、ア、イ、ウのタイトルの書き方を若干変えておりま す。この趣旨は、アでは、就業規則の最低基準効の効力発生要件と端的に書いていまし て、最低基準効93条に基づく効力というのは、合理性等を必要としませんで、周知され ていればそのまま効力が発生するということで、効力発生要件と書いています。イ、ウ の労働契約の内容となる効力、変更の効力は、合理的であることも必要ですので、それ だけで直ちに効力が発生するものではないので、それぞれ周知や届出や意見の聴取は必 要な要件ということで書いております。  34頁から、2、雇用継続型契約変更制度です。37頁の下のほうで、「以上のことから すれば」という接続詞を置いたのと、いちばん下の段落で、前回の内田先生の御指摘を 踏まえて、案(1)、案(2)のいずれを採るにせよ、有期雇用労働契約については、期間中 の解除について民法第628条によりやむを得ない事由が必要とされている趣旨にかんが みれば、というのが適切だということで修正しております。  38頁の配置転換では、修正は特にありません。39頁の出向、41頁の転籍もありませ ん。42頁で、休職の1つ上の「これについては」で始まる段落です。その2文目の「し かしながら」の文章ですが、前回の報告書案では、「しかしながら」の後に、転籍は転 籍元が一方的に転籍先を指定するものであって、労働条件の他律的な変更を余儀なくさ れるものであるということを書いておりました。これは、土田先生から事務局に、この 表現だと、同意なしに転籍命令を出せるように見えてしまうのではないかという御指摘 をいただきまして、修正して、転籍元は転籍先について労働者の同意を得るにあたっ て、労働条件等を十分に説明する必要があるという形に修正しております。  休職、懲戒のところは、実質的な変更はありません。49頁の下のほうの退職後の競業 避止義務の要件のところです。「さらに」の段落と「ここで」の段落の2段を少し変え ております。前回の報告書案では、退職後の競業避止義務については、対象となる業種 や職種、期間、地域について明確でなければならないという要件が、一つありました。 その上で、退職時に、さらに使用者がこういった競業避止義務の内容を書面で明示しな ければいけないということを書いていました。退職時に使用者が明示をしなければいけ ないというのは、効果としてどういうことにするかということで、前回では報告書案の 最後のところに、使用者が退職時に競業避止義務の書面明示を行わなかった場合には、 競業避止義務の対象が明確でないものと推定をする。使用者が明確性を立証しない限り は、労働者は退職後の競業避止義務を負わないこととすることが考えられると書いてい ました。これに関しても、研究会のあとに村中先生から事務局に御指摘をいただきまし た。もともと一つ目の要件として、業種や職種、期間、地域が明確でなければいけな い、これを使用者が証明しなければいけないという要件があるにもかかわらず、退職時 にもう1回明示をする、しなかった場合には明確でないものと推定することにしても、 法律的に意味がないのではないかという御指摘をいただきまして、確かにそのとおりで すので、ここは修正しました。退職時に書面で明示することについては、49頁の「さら に」の段落にありますように、「また、これらを使用者が退職時に書面により明示する ことを、指針等によって促進することが適当である」と修正をしております。  53頁の10の(1)労働者の損害賠償責任ですが、「なお」の段落です。なお、損害の 公平な分担という見地から、信義則上相当と認められる限度が具体的にどの程度の負担 割合であるかを明確にすることについては、労働者の働き方が多様化しているというこ とで、学生アルバイトやトラック運転手のように負担割合を相当程度低く考えるべき労 働者もいれば、高度の専門性を有して高い賃金を得ている、損害賠償責任を多く負うべ き労働者もあると考える。このようなことから、負担割合を明確にすることが適切では ないと書いておりましたが、前回研究会終了後、西村先生から事務局に意見をいただき まして、これについては労働者の過失の大きさが事案によって異なるということも加え るべきではないかという御指摘を踏まえて、直しております。  55頁ですが、解雇の関係です。1の(1)解雇権濫用法理について若干修正していま す。この趣旨は、前回も研究会の中で土田先生からの御指摘を踏まえまして、解雇にお ける濫用法理の明確化に関して、前のほうで書いてある法律と、少し後で書いてある使 用者が講ずべき措置の指針との関係がわかりにくいという御指摘もありました。また、 (1)の冒頭に書いてあります「労働者側に原因がある理由によるものか、企業の経営 上の必要性によるものか、ユニオン・ショップ協定等労働協約の定めによるものでなけ ればならない」と、この3つが、本当に客観的に合理的という評価が入っているのかど うかという御指摘もありました。このような御指摘、御意見を踏まえて、菅野座長と御 相談し、若干書き方、順番を変えたりしております。(1)の構成としましては、第18 条の2として、法制化された解雇権濫用法理については、予測可能性を高める観点か ら、要件をより具体化すべきであるという意見が出されました。逆に、解雇事案は多様 でかつ複雑な事実関係に基づいている場合が多く、解雇権の濫用についての裁判例はそ の事案ごとの個別判断事例であるから、法律による解雇要件の具体化は適当でないとい う指摘もあるということを書いたあとで、確かに法律で解雇要件を詳細に具体化するこ とは適切とは言えないが、客観的に合理的な理由となる解雇事由の分類をして、その基 本的な類型を明らかにすることは、解雇の有効性の判断の予測可能性を少しでも向上さ せ、紛争予防、早期解決するために重要であるという形で、表現を入れ替えて改めてお ります。その上で、「そこで」の段落で三つの要件のどれかでなければならないことを 法律で明らかにすることを明確に書き、55頁のいちばん下の段落では、上記のとおり解 雇事由の基本的な類型を示すことのほか、解雇にあたり使用者が講ずべき措置を指針等 により示すことが適当であるとした上で、いちばん下の2行の辺りで、客観的に合理的 な理由となる解雇事由を分類し、基本的な類型を法律で示しつつ、それぞれの類型にお いて使用者が講ずべき措置を示すことについて、指針で対応することが最も適当である という形に修正しております。  次に、2、整理解雇です。57頁のいちばん下から58頁の最初の5行ぐらいにかけて修 正しています。これは、前回の研究会の中での荒木先生の御指摘を踏まえて、判例の変 遷を正確に書くべきだということです。57頁のいちばん最初の辺りでは、裁判例の動向 は、かつてはこれらの四要件が一つでも欠ければ解雇は無効となるという立場、四要件 説をとっていたと解される。そのあとに付け加えまして、近年、これらの四つの事項か ら離れた判断を下す下級審裁判例が見られた、例えば、ナショナル・ウェストミンスタ ー銀行事件ですが、最近では、これらを解雇権濫用を判断する四つの重要な要素である とする立場に収斂されてきているのではないかという追加をしています。  58頁の中ほどの「ここでは」で始まる段落の下の3行、「しかし」のセンテンスで す。四要素にこだわらない立場というところで、前回の報告書案では、四要素にこだわ らない近年の裁判例は、裁判所ごとの解雇権濫用の判断にばらつきを生じさせ、紛争が 長期化する一因となると考えられると書いておりましたが、山川先生から御指摘があり まして、前回のような書き方だと一般現象のような感じがするということで、「しか し、四要素にこだわらない近年の裁判例のような立場は、裁判所ごとの解雇権濫用の判 断にばらつきを生じさせることで、紛争が長期化する一因ともなるおそれがあると考え られる」と改めております。  次に、「そこで」の段落と「また」の段落は、前回土田先生から、先ほどの一般的な 解雇権濫用と同じように、法律と指針との関係がもう少し明確にならないかという御指 摘もありまして、文章を若干整理しました。「そこで」の段落では、解雇権濫用の判断 の予測可能性を向上させて、紛争を予防・早期解決するために、整理解雇について解雇 権濫用の有無を判断するにあたって考慮に入れるべき事項として、人員削減の必要性等 々四つを法律で示すことが必要であると書いた上で、次の段落では、また、整理解雇は 労働者側に原因がないにもかかわらず解雇されるものであって、予測可能性の向上や使 用者が講ずべき措置を示す必要性が高い。そこで、整理解雇の判断の考慮要素を使用者 にわかりやすく具体化したものとして、整理解雇にあたって使用者が講ずべき措置を指 針等で示すことが適当であるという形に修正しております。  58〜59頁にかけて、指針で示す事項は、さらに労働市場の動向を踏まえて検討すべき だとしておりますが、前回は(1)〜(5)まで書いていました。前回は、(2)の中の「上記 の」という所を(3)として、(1)〜(5)としておりましたが、研究会終了後に荒木先生か ら御指摘をいただきまして、あえて四要件、四要素と書いてあるのに、五つ(1)〜(5)ま で書く理由はないのではないかということで、(2)は二つの段落を合わせて(2)として、 四つに並び替えております。  59頁の3番、解雇の金銭解決制度の関係です。59頁の下のほうの「さらに」で始まる 段落ですが、前回研究会の中で春日先生から御指摘をいただきまして、「さらに労働審 判制度は」のところで調停手続も含むと、非訟事件手続として位置付けられていること から、修正、追加をしています。60頁、(1)労働者からの金銭解決の申立ての所で、 アの上の段落で、「労働者から申し立てる解雇の金銭解決制度を導入する場合には」と 表現上直しています。次のア、一回的解決に係る理論的な考え方として、アの3行目の 同一の裁判所、これは同一の法廷においてとありましたが、ほかの所の並び上「同一の 裁判所において」と統一をとっております。  次の「これについては」の段落です。下線の引いてある所ですが、本人の辞職の申出 を引換えとする解決金の給付を求める訴えです。前回の報告書案では、これを併合した ものと整理することも考えられると書いていましたが、春日先生から前回の研究会で も、終了後にも追加で事務局に御指摘がありまして、必ずしも単純に併合かどうか、法 律的な整理もよくわからないということもあり、ここで言う必要があるのは、この二つ を同じ裁判所、法廷で同時に行うものということを書いておけばいいのだろうと、この ように修正をしております。  62頁ですが、(2)の使用者側からの金銭解決の申立ての中で、アの部分です。アの いちばん下の「また」の段落で、使用者の申立てが認められない場合、前回差別的な解 雇のほか、労働者の正当な権利行使を理由とする解雇を行った使用者による金銭解決の 申立ては認めないことが適当だと書いておりましたが、前回研究会の中で菅野座長か ら、雇止めのほうには年休の取得など正当な権利行使の例示が書いてあったわけです が、ここにも例示があったほうがいいのではないかという御指摘があり、追加しており ます。そのあと、「こういったことを理由とする解雇等」というのを加えています。こ れは、前回の研究会で村中先生からも御指摘がありましたが、労基法第19条の違反によ る解雇のように、差別的解雇、正当な権利行使を理由とする解雇などと、必ずしも読め ない場合もあるかもしれないということで、「等」を補っています。  64頁の4は、合意解約、辞職の関係です。(1)として、使用者の働きかけに応じて なされた労働者の退職の申出等、いわゆる退職意思表示のクーリングオフの関係です が、二カ所追加をしております。まず真ん中辺りですが、労働者からの使用者の働きか けに応じてなした退職の意思表示、8日間程度を参考に検討すべき期間の撤回を認めて いいのではないかということですが、山川先生から事務局に修正の御意見をいただきま して、起算点の考え方を書いたほうがいいのではないかということで、「なお、その起 算点についてはいくつか考え方があり得るけれども、労働者の合意解約の申込みへの承 諾がなされた時点や辞職の意思表示が相手方に到達した時点を起算点とすることなどが 考えられる」と、1文を補っております。また、その下の「これについて」の段落につ いて、土田先生から事務局に修正の御意見をいただきました。ここは、なお、労働者の 合意解約の申込みについて、使用者の働きかけがない場合であっても、いままでの裁判 の考え方に従えば、使用者がこれを承諾するまでの間については、申込みは当然撤回で きるだろうということを明確化のために追加しています。  有期雇用契約の中の試行雇用契約についての関係です。70頁の3分の2ほどのとこ ろ、「これに対しては」という所で、しかし、現在、有期労働契約をどのような目的で 利用するかに制限はない中で、試行雇用契約は常用雇用につながる契機となって、労使 双方に利益をもたらすものとしてすでに活用されている。上記の提案は、神戸弘陵学園 の最高裁判決を踏まえてと書いています。前回神戸弘陵学園事件の判決に沿った形で試 行雇用契約を法律上位置付けると書いていましたが、研究会のあと、西村先生から事務 局に御指摘をいただきまして、「踏まえて法律上位置付ける」としたほうが、より正確 ではないかということで直しております。  71頁、(2)の雇用継続型契約変更制度は、先ほどの内田先生の御指摘を踏まえて前 のほうで直したのと同じ修正です。72頁の第6、仲裁合意は、正確に見出しを直したと ころです。修正は以上です。 ○菅野座長  ありがとうございます。それでは、この報告書案についての議論を引き続きお願いし たいと思います。前回は、重要な論点をいくつか取り上げて、それらについて議論、検 討をお願いしました。解雇及び解雇の金銭解決制度等に関する検討まで終了していまし たので、前回の続きとして有期労働契約についての議論をしていただいて、それが終わ ったあとに全体的な検討をしていただきたいと思います。有期労働契約について何かお 気付きのところがあったら、御指摘いただきたいと思います。65頁からです。 ○山川先生  特になければ細かいことですが、71頁の下から2行目で、「過失によるものではない ことの立証責任」、不存在の証明の問題の指摘に関する部分で、あえて書くまでもない かとも思いますが、ここは過失によるものではないという不存在ではなくて、いわば過 失によるものではないという評価を基礎づける具体的事実のことを指していることにな ると思います。したがって、例えば過失によるものではないことを基礎づける事実の立 証責任とすれば、いったい何を立証するのかということを多少でもクリアにすることに なるかと思います。 ○菅野座長  68頁の(2)の2つ目の段落「これについては、使用者が手続を踏みさえすれば、雇 止めを有効とすることにつながり、現在の判例法理よりも労働者に不利になるのではな いかという懸念がある」と。これは、手続を踏みさえすれば、雇止めを有効とするとい う批判と、現在の判例法理よりも不利になるのではないかという二つを含んでいて、下 のほうは専ら判例法理上不利になるわけではないと言っているように読めるので、別に 手続を踏みさえすれば、雇止めを有効とするつもりはないのですよね。ここのところを 少し補う必要がある気がしました。修文をお願いします。  ほかにいかがでしょうか。有期契約はよろしいですか。それでは、全体的に前回の議 論、それからこの間にいただいた御意見を踏まえて修正のあった部分が、これでいいか ということと、そのほかにもなお御指摘をいろいろいただければありがたいと思いま す。 ○曽田先生  18頁は、労使委員会の労働者委員の選任や費用負担の在り方について検討するという ことで修正されていますが、労働者委員の選出やその労使委員会における労働者委員の 活動について、使用者側からの支配介入がないような労組法の規定のような配慮が必要 であるということを書いておいたほうがいいのではないかという気がしますが、いかが でしょうか。選出手続や費用負担の在り方と関連すると思いますが、そういった中で使 用者側から労働者代表へのいろいろな圧力や、実質的な利益誘導といったようなことが ないようにする必要があるということに触れておく必要があるかと思います。 ○菅野座長  32頁のいちばん上の、就業規則のところでははっきりと、就業規則の合理性、その推 定に関連して、「ただし、使用者からの不当な支配介入があった場合は除く」と書いて あります。これは、裁判所に判断を委ねるわけでしょう。効力の判断だから、そういう 立場の意見をこの研究会として出している。いまのところは、「引き続き検討すること が必要である」というのですよね。それを飛び越えているのですが、それでもなお必要 ということですか。 ○曽田先生  私が言いたいのは、裁判所が就業規則の効力あるいは変更の効力を判断するのに、そ ういうことを考慮する要素になることはもちろんあると思いますが、労使委員会の制度 としての在り方について、どういうものとして労使委員会を作るのか、位置づけるのか という、制度設計として担保が必要であるということについて触れなくてよろしいので しょうかという趣旨です。 ○菅野座長  いかがでしょうか。 ○村中先生  不当労働行為のような制度を入れるという御趣旨ですか。 ○曽田先生  そういうことではないです。要するに、労使委員会を作るについては選任手続や何か についても、規定を置くか指針を置くかをするわけですよね。それから当然、その常置 の機関だとすると、どれだけ大きな費用か小さな費用か、それほど大きな費用はかから ないと思いますが、費用負担という問題も出てくると思います。そういうものを通じ て、本当の意味で労働者代表が労働者の代表であり得るためには、使用者側からのそう いった費用負担による利益誘導や、選任手続についての介入はあってはいけないという ことはどこかに書いてあったように思いますが、本当の意味で労使委員会の労働者委員 が労働者を代表できるような位置づけにする必要がある。だから、別に全然、労組法の 第7条を規定するということではないのですが、そういう費用負担の在り方と選任手続 の在り方について検討する中で、そういう視点で検討する必要があるということに触れ なくていいのだろうかということです。結局、労働組合に代わるものではないのです が、労働組合がない場合に、その労使委員会というのを作るということを考えているわ けですが、その労使委員会は形だけでは意味がないと思います。本当にその労働者のた めに労働者の意思を発言できるような制度でなければいけないので、そういうところの 視点が必要ではないかと思います。 ○菅野座長  その前に書いてある「当該事業場の労働者の意見を適正に集約することができるよう な方策」というのがある。これは、そういう気持ちだったのだと思います。 ○曽田先生  そこにも現れてはいると思います。 ○労働基準局監督課調査官  当然、使用者の支配介入があって、それによって意見を曲げてしまったということで は適正な集約ではないということになると思いますので、これで読めるかどうかという ことだと思います。 ○曽田先生  そうですね。 ○審議官(労働基準担当)(松井)  労働組合という労働者の集まりだけについて使用者が支配介入という話と、労使委員 会という労と使の対立する立場の人で構成されている委員会についての使用者介入とい うとですね、使用者側代表は当然、使用者の言うことを聞いてやっていいのでしょう ね。問題なのは労働側のほうだけですね。 ○曽田先生  労使委員会に介入ではなくて、労働者委員に対してそういう圧力を加える。あるいは 利益誘導的なことがあって、実質的に労働者を代表できないような労働者委員と使用者 委員とで労使委員会ができたのではまずいでしょうと。本当の意味で、労働者の意見を 反映して、その労使委員会で発言ができるような労働者代表でないといけないのではな いか。そういうところがいちばん大きいのは、費用負担の問題かと思います。それが、 いま行われている労使委員会では、あまり費用負担は生じていないということを伺って いますが、これを常設的にして、いろいろな場で労使委員会の意見を反映させていくこ とになると、ある程度費用負担が必要になってくるのではないか。そうすると、そうい うのはどうするのかというあたりではないかと思います。ですから、この法律に規定す るということではなくて、指針などでもいいとは思いますが、そういう視点が必要では ないかという気がします。 ○菅野座長  今、曽田先生の御意見ですと、当該事業場の労働者の意見を適正に集約することので きるような方策や費用負担の在り方という中に込められているように思いますが、なお 補足する必要があるかどうかを検討させていただけますか。 ○曽田先生  そうですね。ここでも触れられているとは思いますが。 ○菅野座長  ほかにいかがでしょうか。昨日の夜に読んでいて気になったのが、36頁の雇用継続型 契約変更制度の案(1)の「その際」の段落です。まず変更を申し込んで、十分な協議を 行った上で協議が整わず、合意が得られない場合には再度契約の変更を申し出て、一定 期間を置いて契約の変更に応じない場合の解雇の通告を有効とする。この場合であって も、異議をとどめて承諾した場合には、解雇の通告は効力を生じないこととし、そうい う解雇を無効とするという手続が書いてありますよね。これを見れば、わりと(1)によ る新しい制度の内容がわかるように書いてあるけれども、肝心の異議をとどめて承諾し た場合に労働者がどうするのか、効力を争うわけでしょう。それで、合理性を判断して もらうわけでしょう。そのことがここに書いていないのです。その上の段落にもはっき り書いてあるかというと、それも書いていないのです。 ○労働基準局監督課調査官  上の段落のいちばん最後のところで、「異議をとどめて承諾しつつ、雇用を維持した ままで当該変更の効力を争うことを可能にする」と書いてあります。 ○菅野座長  可能にするような制度を設ける。この効力を争うことを可能にするような制度を設け るというのをパラフレーズしたのが下の段落だから、もう少し補って書いておく必要が あるのではないかと思います。 ○労働基準局監督課調査官  わかりました。 ○菅野座長  48頁の上から7行目の、兼業禁止を原則無効にする場合に、労働基準法第38条第1項 の労働時間の事業場通算の規定について、使用者の命令による複数事業場での労働の場 合を除き、複数就業労働者の健康確保に配慮しつつ、これを適用しないこととすること が必要である。この除く場合をこのように、今から限定的に書いてしまっていいのかな と。例えば、まだいろいろな場合があり得て、非常に緊密なグループ企業の場合、それ で法律の潜脱みたいにA、B、Cの企業を変えることによって労働時間の規定を免れる というのも考えられないこともないので、「労働の場合などを除き」とするか、こうい う限定をいまからやめてしまって、原則としてこれを適用しないこととするというよう にして、例外を今後検討するということにするか、その辺をちょっと。 ○土田先生  前に議論したと思いますが、いまおっしゃったのはそうだと思いますが、兼業禁止義 務の前半部分がかなり明確なメッセージになっていて、兼業禁止を原則は無効とすると 言っています。そうだとすると、そのような新しい兼業についての考え方を打ち出す以 上は、労働基準法第38条1項の見直しもある程度明確なほうがいいような気がするの で、今座長がおっしゃった表現の中では前者の「など」のほうがいいと思います。後者 だと、言い過ぎかなという気がします。 ○菅野座長  では、「等」か「など」にしますか。 ○土田先生  いまの47頁の後半のアの兼業禁止義務のところで2点。1点は下から6行目に兼業の 制限がやむを得ない場合として三つありますが、これはこのとおりだと思います。この ほかに、兼業が営業秘密などの不正な使用、開示を伴う場合とか、つまり競業ではない けれども営業秘密、ノウハウの不正な使用、開示を伴う場合は、これも兼業の制限がや むを得ない場合に当たるのではないかという気がするのが1点です。  もう1点は、アの見出しの次の行に、「兼業を禁止し、又は許可制にする」とあっ て、これもそのとおりですが、この新しい考え方だとアの兼業禁止義務の第2段落以降 は、兼業禁止はこういう場合だと。原則は許されなくて、無効で例外的にこういう場合 だといって、許可制の場合はここまで書き込む必要がないのかもしれませんが、許可制 というのはどういう場合にどういう取扱いになるのかということがかなり大きな問題だ と思います。というのは、企業の取扱いを見ると、おそらく許可制は非常に多いと思い ます。ズバッと禁止するよりは、許可制を設けている企業は非常に多いと思います。そ うなると、おそらく例えば不正な競業に当たる場合云々に限って許可制が有効だという 限定解釈になる気がするのですが、そのあたりを書き込んでおく必要はないか。その2 点です。 ○菅野座長  いま言われた2点のうち、前者だと、どこにどう書き込むのですか。 ○土田先生  前者は、下から6行目の「兼業が不正な競業に当たる場合」の次に、「営業秘密等の 不正な使用、開示を伴う場合」といったような表現が入るかなということです。それ は、法律上の取扱いとしては不正競争防止法で対処できますが、要は考え方ですね。不 正競争防止法で事後的な対処をするよりは、事前的な予防、契約法的な考え方でいけば 兼業禁止の対象にしても、別にそれはいいだろう。合理的だろうと考えれば入ってもい いのではないかと。 ○菅野座長  いまの点は、よろしいですね。後者のほうは、許可制はどうしますか。今、修正案は ありますか。 ○土田先生  立法を技術上どうするかは難しいのですが、おそらく裁判所がどう判断するかといえ ば、ここに書いてあるような四つの事由がある場合に限り、許可制は有効である。すな わち許可も有効だし、それを前提とする許可制という就業規則は有効であると判断する と思うのです。だから、ザッと書くとすれば、そのような場合には下から3行目で、 「以上のような場合に限って許可制を有効とすることが考えられる」というような表現 になるのでしょうか。もっとも、その少し上で「兼業の制限はやむを得ない」と書いて あるから、これで包まれているのかもしれませんが、許可制について具体的にどうする か。 ○菅野座長  許可制をとる場合には、以上の場合に限って不許可とできる、という趣旨ですか。 ○土田先生  以上の場合に限り、許可制が有効だという意味です。 ○菅野座長  許可制をとる場合には、以上の場合に限って不許可とできると、そういうことを付け 加える必要があるかどうかですね。 ○土田先生  そうです。 ○菅野座長  少し検討させていただきます。それから、これは大したことではないのですが、30頁 の下から6行目に、就業規則の不利益変更の内容の合理性推定のことが書かれていま す。これは上の段落、推定要件のところから続いているもので、一部の労働者に対して 大きな不利益のみを与えるものではない、ということを推定要件から取ってしまったら どうかという意見に対しての答えですが、「これについて、一部の労働者に対して大き な不利益のみを与えることが明らかな場合にも、内容の合理性の推定を認めることは手 続的にも多数決の濫用と言えるし、変更の内容としても、その一部の労働者に対して酷 であり、不適当である」とあります。上の意見というのも、一部労働者に対して酷であ るということは同じであり、それを推定の要件から外して後の反証のほうに移すかどう かという問題だけなので、それは言わずもがなだと思います。「これについて、一部の 労働者に対して大きな不利益のみを与えることが明らかな場合には、手続的に多数決の 濫用と言えるので、内容の合理性の推定を認めることは不適切である」でよいのではな いかと思うのですが。ほかにお気付きの点を御指摘いただければと思います。 ○曽田先生  24頁の、新しく項目立てをして書き換えられたところです。その頁の下から2行目の (1)のタイトルが「就業規則の作成に関する労働基準法の規定」という表題になって いるのですが、内容は特に労働基準法の規定を書いているわけではない。最初の段落に は書いてあるのですが、そのほかの部分は、むしろ労働者代表の意見聴取について書い てあるので、ここのタイトルを「就業規則の作成に関する労働者代表の意見聴取」とい うようなものにしたほうが内容と合っているのではないかと思います。 ○菅野座長  そう言えば、これは意見聴取だけかな。 ○労働基準局監督課調査官  「就業規則の作成に関する意見聴取手続」とか。 ○曽田先生  そういうことでもよいかもしれません。労働基準法の規定そのものがここで問題にな るわけではなさそうなので。 ○労働基準局監督課調査官  見直しの対象が、労働契約法というよりは、労働基準法の規定の意見聴取をどうする かということではあるのですが。 ○菅野座長  労働基準法上の作成手続の中の主要なものなのです。最初に届け出なければならな い。そして、その際には意見を聴取すると。この労働基準法上の作成手続の規定につい て、研究会として言っておくことが何かあるか、という書き出しになっています。タイ トルは(1)作成手続でしょうか。「手続」にして、そのくらいの幅を持たせるという ことでよろしいでしょうか。 ○曽田先生  労働基準法の規定というのが、あまり内容とぴったりしていないのではないかという 感じは持ったのですが。 ○菅野座長  労働基準法上の就業規則の作成手続。あくまでも労働基準法で定める手続がどうかを 検討しているのです。そして、それは次の労働契約というのと区別して明示したほうが よいと思うのですが。 ○曽田先生  労働基準法で就業規則の作成を義務づけているわけです。そして、義務付けられた就 業規則の作成について労働者代表の意見を聴取する方法をここで述べているのかなと思 うのですが。 ○菅野座長  では「労働基準法上の就業規則の作成手続」としますか。 ○山川先生  47頁の就労請求権のところの2段落目ですが、括弧内に、例えば就労請求権がないと 規定することにより云々とあります。その前に有無についてとあるので、論理的に誤っ てはいないのですが、就労請求権がないと規定するのは、現実的に考えにくいような気 もしますので、この括弧が必要かどうかを御検討いただければと思います。あっても、 論理的には誤っていないとは思いますが。 ○菅野座長  就労請求権がないと規定することはあり得ないでしょうか。そうでもないと思います が。 ○山川先生  あり得なくはないのですが、実際上あまりそういうことは。 ○労働基準局監督課長  確かにそういうものはあまり数がないと思いますが、議論の整理として、それがない ときにはこういうことが起こる、と書いてあれば理解は促進されるので、残っていても よいのかなと思うのですが。 ○菅野座長  「ないことを明らかにすることにより」くらいならよいですか。 ○山川先生  そうですね、まあ妥当だと思います。続けてよろしいですか。49頁の下から2行目辺 りで、競業避止義務の対象は、より大きなまとまりである「事業」であって、とありま す。カギ括弧を付けたのは労働基準法上の事業概念を意識されたのかもしれないのです が、必ずしも常にそうだとは限らないのです。大きなまとまりであることは確かなの で、例えば「より大きなまとまりである事業であることが通例であって」というくらい ではいかがでしょうか。 ○菅野座長  なるほど、「通例であって」ですか。これにカギ括弧を付けた意味はどういうことな のですかね。カギ括弧を付けると、労働基準法上の「事業」を意味したのかなという気 になってしまいますね。 ○山川先生  通達とかいろいろあるので、それを参考にできれば明確であるという効果はあるのか もしれませんけれど。ただ、ここはそれを規制するというよりも、事実としてこうだと いう話ですから、必ずしも労働基準法の概念は必要ではない。 ○労働基準局監督課調査官  必ずしもカギ括弧がなくてもいいですね。 ○山川先生  ええ。 ○菅野座長  ここは検討させてください。 ○山川先生  もう1点だけよろしいですか。58頁の最後の行で、いわゆる非正規労働者の解雇とあ りますが、非正規労働者だと有期契約の場合が多い。そうすると、解雇だけでなくて雇 止めというのが通例なのかなという感じもします。非正規労働者で期間の定めがある場 合については、期間中の解雇に限るという趣旨であったのか。つまり、解雇や雇止めと いうことではないのかということですが。 ○菅野座長  そうですね、解雇や雇止めですね。 ○審議官(労働基準担当)  48頁のイの前のパラグラフ、労働時間の通算のところについてですが、この考え方を とったとしても、個々の事業主は8時間とか40時間という法定労働時間を守らなければ いけないという法体系は残るのですよね。「通算」ということは、通算の責任を問わな いことだけなのですね。そうすれば「労働時間を通算して個々の使用者の責任を」とい う書き方を、もう少し明確にするために、「個々の使用者に、労働時間を通算すること の責任を問うのではなく」などと、通算の責任がないということだけを明確にできない かと思うのです。個々の使用者には労働時間を通算することについての責任を問うので はなく、要するに8時間労働を個別には守れ、ということは残すというのをもう少し書 けないかと思うのです。 ○菅野座長  そういう趣旨に修文することでよろしいですか。少し検討しましょう。 ○土田先生  40頁の出向のところですが、以前ここで、出向の法律関係を考えたときに、「出向」 の定義をどうするかという議論をしたと思うのです。私は今回そのことについて、これ は置く必要があるのではないかということでメールで意見を送ったのです。これを置く 必要がないということなのでしょうが、そこの理由は何かという質問が第1点としてあ るのです。出向の法律関係、権利義務関係、例えば41頁の真ん中辺りに、出向先が出向 労働者を懲戒解雇できるかということですが、任意規定を定めるべきとの指摘があり得 る。これは様々なので検討すべきとあります。これも以前議論しましたが、出向先との 間に労働契約関係が包括的な形でなければ、懲戒解雇ということは論理的にあり得な い。そういうことを考えていくと、出向の定義を置く必要があるのではないかという議 論をここでして、置きましょうかという方向になったと思うのですが、そこは必要ない わけですか。 ○労働基準局監督課調査官  39頁の冒頭に、こういう書き方で書き切れているかどうかは別ですが、一応、出向と いうのはこういうものだというのは書いてあるのです。これ以上法律を作るときにどの ように出向という関係を法律で書くかというのは、たぶん他の法律を見たり法制局と相 談したりして書くのだと思うのです。これ以上何か権利義務関係を別に書くとしたら、 内容をどういうふうに書けばよいかというのは必ずしもわからないので、例えば今日御 議論いただいて、こういうことを明確に書いたほうがよいのではないかというような修 正意見をいただければ、それを踏まえてしたいと思います。 ○菅野座長  この研究会としては、39頁の出だしに書いてあるのが定義なのだと思うのです。だか ら、これをどういうふうに書くか。とにかく何らかの形で「出向」というのは、はっき りせざるを得ないのでしょう。 ○労働基準局監督課長  法律を作るときは定義が要りますけど。 ○菅野座長  別に、定義規定が必要でないということではないのですが。 ○土田先生  39頁の4の(1)の出だしは「出向元との労働契約関係を維持したまま出向先と出向 労働者との間にも労働契約関係を成立させる」と、つまり二重の労働契約関係が成立し ている、この研究会の報告書の考え方はそういうことだということですか。 ○菅野座長  はい。ですから労働契約関係というものの意味をどう解釈するかです。派遣法はすで にこういう立場をとっているので、それとの平仄を合わせるということなのでしょう ね。 ○土田先生  だから労働契約関係の意味です。 ○菅野座長  そこまでは少し難しい。それは学者の解釈、あるいは個別事案が起きた場合の裁判所 の解釈になるのではないですか。 ○土田先生  18頁のいちばん下、労使委員会のところで「労使委員会制度の活用」として、修正さ れた部分にアンダーラインが引いてあります。これはこれで結構なのですが、18頁下か ら2行目で「配置転換、出向、解雇等の権利濫用の判断において考慮要素になり得るこ とを指針等で明らかにする」と書いて、これに対応する各論、つまり人事権や解雇権の 濫用に際して労使委員会の機能や権限がどう働くか。解雇権が、整理解雇のところでは 書かれているのですが、配置転換と出向のところでは触れていないのです。ですから、 そこはやはり、こちらでも触れたほうがよいのではないかという意見です。配置転換で いえば38から39頁、出向でいえば40頁です。 ○労働基準局監督課長  検討します。 ○土田先生  42頁、修正のアンダーラインのあるところですが、「労働者の同意を得るに当たって 」という文言があります。これはこれで構わないのですが、それでもなおかつ「転籍は 転籍元が一方的に転籍先を指定するものであるから」という表現は妥当かどうかという 問題です。つまり、転籍はあくまでも本人の個別的同意、交渉で行うわけですので、そ の際に、転籍元の使用者が転籍することについて一方的に指定すること、それがあたか も法的にできるような誤解を与えないかということです。 ○菅野座長  「転籍は実際上転籍元が一方的に指定することも多いから」ということですね。 ○土田先生  私はむしろ、転籍が一方的にできるかどうかということよりも、完全に他企業あるい は他の法人に移るわけですから、その点を考えると、財務内容まで含めた情報提供義務 が高度化される。そういう理由づけのほうが説得力がある。そこは出向と違うと思って います。 ○菅野座長  なるほどね、そういう説明のほうがよいのかもしれないですね。 ○労働基準局監督課調査官  それを一方的に、とした趣旨というのは、初めから労働者が自分で就労先を探す場合 には、自分からいくつかのところを比べる。けれども転籍の場合には、確かに合意は必 要であり、指定する権利はないにしても、実際上は特定のところ、ここに行ってくれな いかということで話が始まる。そこのところを表現したくて「一方的に指定」と書いた のですが、もう少しよい表現があれば直したいと思います。 ○菅野座長  労働契約の相手方というか、使用者を完全に変えてしまうということと、いま秋山さ んが言ったようなことと二つあるわけですね。土田先生が言ったことも確かにそのとお りなので、この表現を再検討するということにしたいと思います。時間は少し早いので すが、今日ひと通り御意見をいただいて、既に直し方が決まったところもありますし、 お任せいただくというところもありますが、全体との関係もあるので私のほうで検討し て、どういうふうに修正するか事務局に指示したいと思います。そして、その案を次回 の検討会に提出するということにいたしたいと思います。次回の研究会が最終回の予定 となっておりますので、できるだけ早くお渡ししたいとは思います。 ○労働基準局監督課調査官  できればメールで事前にお送りしたいと思います。 ○菅野座長  次回に最終案を提示させていただいて、大体の御了解をいただければと考えておりま すので、よろしくお願いいたします。事務局より次回の研究会について御連絡をお願い いたします。 ○労働基準局監督課調査官  次回の研究会は9月12日(月)10時から12時、場所は厚生労働省18階の専用第22会議 室です。よろしくお願いいたします。 ○菅野座長  本日の研究会はこれで終わります。どうもありがとうございました。 照会先:厚生労働省労働基準局監督課政策係(内線5561)