海外における医師に対する行政処分の状況
<米国>
◆ | 州ごとに実施
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◆ | 実施主体:
・ | 各州の州医事当局(Medical Board)
- | Boardは州により、州政府の機関又は独立した公的機関 |
- | 多くの場合医師の代表と州知事が任命する公益代表からなる |
- | 免許登録費用等により運営 |
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◆ | 処分までの手続:
・ | 国民、医療機関、政府機関等からの通報を端緒とする |
・ | Medical Boardが審査、聴聞、調査を実施して処分を決定 |
・ | 苦情の内容にかかわらず、適切な法的手続きを確保 |
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◆ | 処分の目的:
・ | 医師を罰することではなく、国民を守ることが主目的
- | 免許の取消や停止が必要な場合もあるが、多くの場合保護観察や免許の制限のみでも国民を守ることが可能と考えられている |
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◆ | 処分の対象となる行為、処分内容:
- | 州ごとに異なるが、Medical Boardの全米連合組織が各州医師法(Medical Practice Act)の標準を示している |
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(出典:Federation of State Medical Board:”What is a State Medical Board”)
各州医師法の標準 (抄)
(州医事当局の全米連合組織Federation of State Medical Boardsによる)
◆ | 処分対象となる行為(例示)
・ | 著しく誤った医療行為、著しい注意義務違反 |
・ | 資格を要する医療行為を無資格者にさせること |
・ | 資格の認める範囲を超えた医療行為 |
・ | 許可なく医療情報を漏洩すること |
・ | 犯罪への関与 |
・ | 医療情報の不適切な取り扱い |
・ | 性的、身体的暴行 |
・ | 救急患者の救護義務違反 |
・ | 不必要又は許可に基づかない医療行為 |
・ | アルコールや薬物の影響下での医療行為 |
等43種類の行為
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◆ | 処分内容(例示)
・ | 免許取消(revocation) |
・ | 免許停止(suspension) |
・ | 保護観察(probation) |
・ | 資格制限(limitation) |
・ | 戒告(censure, reprimand, chastisement) |
・ | 金銭による損害賠償(monetary redress) |
・ | 社会奉仕活動(public service) |
・ | 教育プログラムの受講(satisfactory completion of an educational program) |
・ | 罰金(fine) |
・ | 費用の支払い(payment of disciplinary costs) |
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(出典:FSMB:A Guide to the Essentials of a Modern medical Practice Act, Tenth Edition)
テキサス州の例
◆処分理由及び処分種別:
・ | 執行猶予処分を有する |
・ | 処分の基準について詳細な明文規定を持つ。 (抜粋)
理由 |
標準的な制裁 |
書面による資料の提出命令に迅速に応じない場合 |
書類の提出、被害弁償(restitution)、
及び1件あたり1000ドルの罰金 |
書面による召還または報告の徴収に応じない場合 |
戒告(Reprimand)、召還又は報告徴収に応ずること、応ずるまで1日500ドルの罰金 |
医業と関連する刑法犯による有罪判決
(例:医師の立場を利用した暴行) |
免許取消 |
医業と無関連の刑法犯による有罪判決 |
判決内容の遵守及び罰金2000ドル |
卒後継続教育(CME)を受けない場合・記録を所持しない場合 |
教育の受講及び罰金1000 ドル |
心身の疾病、薬物障害による診療能力の障害 |
(1)免許所持者が診療可能であることを証明できるまでの間免許停止 又は
(2)薬物検査、診療制限、断酒(薬物)会への出席、精神科的検査及び能力検査 |
診療録の不記載 |
2年間の保護観察(例:能力検査、教育の受講、診療の監視)及び罰金2000ドル |
診療の質:公衆衛生・福祉に反する診療行為又は繰り返す重大な医療過誤(患者1人に対するもので重大な被害が発生していない場合) |
(1)医業停止3年 又は
(2)医業停止90日の後、保護観察(診療制限、能力検査、教育の受講、診療の監視)及び罰金3000ドル |
不適切な処方 |
(1)医業停止2年 又は
(2)医業停止60日の後、保護観察(診療制限、能力検査、教育の受講)及び罰金2000ドル |
虚偽の処方箋発行 |
(1)医業停止4年 又は
(2)医業停止90日の後、保護観察(診療制限、能力検査、教育の受講)及び罰金2000ドル |
診療報酬の不正請求 |
(1)医業停止3年 又は
(2)医業停止90日の後、保護観察(診療の監視、教育の受講)、被害弁償、罰金3000ドル |
命令に従わない場合 |
(1)保護観察処分の中止
(2)戒告、命令の6か月間延長、罰金2000ドル |
(出典:Board Rules of Texas State Board of Medical Examiners, Chapter 190) |
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◆処分件数(2004年)
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免許取消又は返納 | 33件 |
免許停止 | 45件 |
条件付き免許 | 88件 |
戒告 | 29件 (出典:http://www.tsbme.state.tx.us/enforce/mbd.htm) |
<英国>
免許管理者(General Medical Council: GMC)による処分と、病院管理者(National Health Service Trusts)による業務一時停止処分とがある。
以下、GMCによる処分につき概要を述べる。
◆ | 実施主体
・ | 総合医療委員会(General Medical Council: GMC)
◇ | GMCは公的機関であり、医師の代表、医学校の代表、枢密院により選出された民間人で構成 |
◇ | 医師の適性評価に関わる職員約200名、審査委員約250名 |
◇ | 免許登録費用等により運営(GMCの年間支出約110億円、うち54%が医師の適性評価関係) |
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◆ | 端緒
・ | 市民及び医療機関管理者からGMCへの通報 (約400件/月)
◇ | 市民は医療機関あるいは直接GMCに通報できる |
◇ | 医療機関管理者とは、NHS trust, Primary Care Trust及び民間医療機関 |
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◆ | 審査手続
・ | Case Examiner(医師1人、民間人1人)による調査・審査
◇ | Case Examinerは、次の判断を実施
> | 処分の検討が必要と判断し、診療適性委員会に回付 |
> | 緊急の必要を認め、暫定処分委員会に回付 |
> | 戒告 |
> | 医師からの約束(Undertakings)を受諾 |
> | 処分を実施せず審査を終了 |
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◇ | 診療適性委員会(Fitness to Practice Panel)が、正式な処分を決定 |
◇ | Case Examinerにより結論を得ない場合には、調査委員会に回付して調査 |
◇ | 暫定処分委員会(Interim order panel)は、暫定的な免許停止及び条件付き免許処分を決定 |
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◆ | 処分種別及び処分理由
・ | 免許取消(Erasure)
◇ | 患者や国民を守るために免許取消が唯一の方法と考えられる場合
例:
> | 故意又は無能力により患者に危害を及ぼし、危険が継続 |
> | 患者に対し医師としての信頼・強い地位を濫用 |
> | わいせつ、暴力 |
> | 不正直(特に、継続的に隠蔽した場合) |
> | 自らの行為や転帰に対する自覚が常習的に欠如 |
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・ | 免許停止(suspension):最長12か月
◇ | 容認しがたい重大な違法行為 |
◇ | 現在の診療能力では患者に危険を及ぼすが、将来改善の余地を認める場合 |
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・ | 条件付き免許(conditional registration):最長3年、更新可能
◇ | 診療能力に欠陥があるが、教育・指導により改善の余地を認める場合 |
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・ | 戒告(Issue a warning)
◇ | 医師の行為や医療水準に注意を促すもの |
◇ | 次のような条件の多くを満たす場合
> | 患者に危害を及ぼしていない |
> | 問題の自覚がある |
> | 故意でない |
> | 問題となった行為がその後反復していない |
> | 反省が認められる |
> | 過去に処分歴がない |
> | 改善の方策がとられている 等 |
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◆ | 処分件数(2004年)
・ | 免許取消 | 82件 |
・ | 免許停止 | 116件 |
・ | 条件付き免許 | 117件 |
(出典:GMC: | Indicative Sanction Guidance for Fitness to Practise Panels, April 2005及び Annual review 2004/05) |
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海外における医師情報の公開状況
<米国>
各州のBoardによる処分は、各地域医師会、アメリカ医師会、全米医師データバンク(NPDB)、州医事当局の全米連合組織(FSMB)等に報告されている。
◆ | 全米医師データバンク(National Practitioner Data Bank)
> | 管理者:
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> | 情報へのアクセス:
| 事前に登録した組織(連邦政府機関、州医事当局、医療機関、学会等)のみアクセス可能。 一般市民、医療過誤保険会社、医事紛争弁護士はアクセス不可。 |
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> | 登録情報:
| 医療過誤紛争支払いレポート、医師処分レポート、医療機関の医師処罰レポート、学会の会員懲罰情報、Medicare/Medicaidの保険医登録抹消情報 (出典:http://bhpr.hrsa.gov/dqa/) |
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◆ | Federation Physician Data Center
> | 管理者:州医事当局の全米連合組織(Federation of State Medical Board) |
> | 情報へのアクセス:
| 国民がインターネット又は書面での申請によりアクセス可能 有料(1件あたり9ドル95セント) |
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> | 公開情報:1960年代からの処分歴 (出典:http://www.docinfo.org/) |
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◆ | アメリカ医師会:Doctor Finder
> | 管理者:アメリカ医師会(American Medical Association) |
> | 情報へのアクセス
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> | 公開情報:
| 全医師の氏名、診療科、卒業大学、臨床研修歴、勤務地 等
行政処分歴は掲載されていない
(会員・非会員を含め、医学部入学時及び臨床研修開始時からデータベースを作成。以後本人・学会等の情報源から情報を更新。非会員については一部の情報のみ公開。)
(出典:http://webapps.ama-assn.org/doctorfinder) |
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◆ | 各州の管理・公表するデータベース
> | 管理者:州政府又はMedical Board |
> | 情報へのアクセス
| 大半の州でインターネットにより市民がアクセス可能
氏名(一部の州では氏名及び住所)により検索が可能
大半の州では無料(一部情報については有料の州もあり) |
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> | 公開情報
| 氏名、医師資格の有無(大半の州)
卒業大学、診療科、医師処分の有無(半数程度の州)
生涯教育歴、勤務場所、医事訴訟歴(一部の州) 等 |
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<英国>
◆ | GMC (General Medical Council)
医師の情報をインターネット上で確認可能 |
> | 以下の因子による検索が可能
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> | 閲覧できる内容:
| 免許番号、姓名、性別、住所、登録年月日、学位、専門分野 |
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※ | 行政処分の有無及び内容については検索とリンクしておらず、最近の処分については別途に氏名入りでインターネット上に公表されている。 (出典:http://www.gmc-uk.org/) |
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海外における歯科医師に対する行政処分の状況
<米国・オハイオ州>
◆ | 州ごとに実施(医師と同様)
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◆ | 実施主体(各州のDental Board)
・ | 州政府機関(21州)または公的機関(29州) |
・ | 委員は歯科医師、歯科衛生士の代表、民間人とから構成されている州が大部分 |
・ | ホームページ上で処分状況(Disciplinary action)を公開(35/50州) |
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◆ | 処分までの手続き(オハイオ州の例)
(1) | 患者等からの苦情 |
(2) | 本人及び従業員、病院(診療所)、薬局、保険会社等に対する聞きこみ調査 |
(3) | 資格者に対する審問 |
(4) | 審問の報告書(仮処分)を資格者本人(または弁護士)に通知 …報告書に対する異議、修正の申し立てが可能(10日間) |
(5) | 委員会(原則非公開)にて最終処分を決定 …患者との協定(consent agreement)による解決も可能 |
(6) | 処分命令 |
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◆ | 処分の対象となる行為(オハイオ州の例)
・ | Dental Board Disciplinary guidelinesに基づく
(1) | 薬の処方(不適切な処方、処方記録の未記載 等) |
(2) | 治療関連(治療による損傷、治療内容 等) |
(3) | 詐欺、虚偽(文書虚偽記載、広告詐欺 等) |
(4) | 診療中の猥褻行為 |
(5) | 未許可業務(免許停止中の業務、無資格業務の容認 等) |
(6) | 犯罪行為 |
(7) | 業務能力の欠如(身体的、精神的) |
(8) | 感染症予防(B型肝炎に対する予防 等) |
(9) | 生涯教育義務 |
(10) | 広告違反 等37種類の行為 |
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◆ | 処分内容(オハイオ州の例)
・ | 免許取消(revocation) |
・ | 免許停止(suspension) →保護観察(probation)と継続教育(CE:continuing education)が付随 |
・ | 戒告(reprimand) ※その他、罰金(fine)を課している州もある |
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◆ | 処分件数(オハイオ州)【歯科医師、歯科衛生士、放射線技師】(2004年)
※処分対象の多くは歯科医師が占める
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◆ | 違反内容【2004年】
治療関連 | 12名 |
感染症予防 | 6名 |
薬の処方 | 6名 |
業務能力の欠如 | 2名 |
協定 | 2名 |
未許可業務 | 2名 |
詐欺・虚偽 | 2名 |
※不明は除く、重複違反あり |