I  最低生活の保障に関する課題

 1  生活保護基準の在り方

  (1) 生活保護基準の考え方

  (1) 現行の最低生活保障水準の考え方

   ○ 生活保護制度は、国民の最低限度の生活保障を目的。

   ○ 生活保護基準は、生命維持に必要な絶対的な基準ではなく、一般国民生活の消費水準との比較における相対的な基準として設定。

   ○ 生活保護基準の検証に際しては、全国消費実態調査(総務省)など客観的統計資料を基にした分析が不可欠。


   (参考)
    生活扶助基準の改定方式の変遷
     (1) マーケットバスケット方式(昭和23年〜35年)
最低生活に必要な飲食物費や衣類など個々の品目を積み上げて算出
     (2) エンゲル方式(昭和36年〜39年)
栄養所要量を満たし得る食品を理論的に積み上げ、低所得世帯のエンゲル係数から逆算し算出
     (3) 格差縮小方式(昭和40年〜58年)
一般国民との格差を縮小するため、一般国民の消費水準の伸び率以上に引き上げ
     (4) 水準均衡方式(昭和59年〜現在)
生活保護において保障すべき最低生活の水準は、一般国民の生活水準との関連においてとらえられるべき相対的なものとされていることから、当該年度に想定される一般国民の消費動向等を踏まえ改定


  (2) 生活保護基準における級地制度について

   ○ 地域における生活様式や物価差による生活水準の差を生活保護基準に反映。

   ○ 全国の市(区)町村を6区分(3級地6区分)に分類し、各区分間に4.5%の格差を設定。

地域の単位を市(区)町村としている理由:地域の消費水準を測定するために必要なデータを把握する際、各種統計資料等の把握可能な最小単位であること及び制度の円滑な実施を図るため地方行政組織の最小単位とすることが適当である。

   ○ 地域間の格差は全国消費実態調査、全国物価統計調査等を基に地域別の消費実態等について総合的に分析し設定。




現行の格差(昭和62年度〜)は、従前の3区分・格差9%を細分化し6区分とするとともに
4.5%格差としたもの。(激変緩和のため平成4年度まで6年間で是正)




   〔参考〕 級地別市町村数(平成17年4月1日現在)
総数 1−1 1−2 2−1 2−2 3−1 3−2
2,418 80 50 123 82 654 1,429


  (3) 社会保障審議会福祉部会生活保護制度の在り方に関する専門委員会における検証

 社会保障審議会福祉部会生活保護制度の在り方に関する専門委員会において、一般低所得世帯の消費支出との比較により生活保護基準の妥当性を検証
 



全国消費実態調査・家計調査等を基に一般低所得世帯の収入階級別消費支出と被保護世帯の
生活扶助基準額について、世帯人員別、個人的費用・世帯共通的費用別、高齢者や母子世帯に
ついての特別な需要など関し詳細な比較検討。




   ○ 全国消費実態調査等に基づく検証・評価結果
生活扶助基準について低所得世帯の消費支出額との比較において検証・評価した結果、その水準は基本的に妥当。
「現行級地制度については現在の一般世帯の生活扶助相当消費支出額をみると、地域差が縮小する傾向が認められたところである。このため、市町村合併の動向にも配慮しつつ、さらに今後詳細なデータによる検証を行った上、級地制度全般について見直しを検討することが必要。
(専門委員会報告書抜粋)
   ○ 今後の定期的検証
「今後、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極めるため、全国消費実態調査等を基に5年に1度の頻度で検証を行う必要がある。
「また、これらの検証に際しては、地域別、世帯類型別等に分けるとともに、調査方法及び手法についても専門家の知見を踏まえることが妥当。」
(専門委員会報告書抜粋)
   ○ 審議会における検証結果の生活保護基準への反映
老齢加算の段階的廃止 (平成16年度〜平成18年度)
母子加算の子の年齢要件の見直し (平成17年度〜平成19年度)
多人数世帯の基準適正化 (平成17年度〜平成19年度)
若年層の年齢区分設定の見直し (平成17年度) 等

級地の指定など地域における生活保護基準設定に関し、地方自治体の裁量・責任の在り方についてどう考えるか。



(参考)

家計調査特別集計結果による収入階級別生活扶助相当支出額(勤労者3人(夫婦子1人)世帯)のグラフ




  (2) 生活保護基準と就労へのインセンティブの関係

勤労収入の一部を手元に残す仕組み(勤労控除)

  (1) 勤労控除の趣旨

   (1) 勤労に伴う必要経費を補填
勤労収入を得るためには、勤労に伴う被服費や知識・教養の向上等のための経費が必要となることから、勤労収入のうちの一定額を控除。
   (2)勤労意欲の増進・自立助長

  (2) 勤労控除の種類

   (1) 基礎控除[上限額 月額 33,190円(1級地)・収入額8,000円までは全額控除]
 勤労に伴って必要となる経常的な経費を控除。
 控除額は、勤労収入に比例して増加させる方式(収入金額比例方式)を採用。

   (2) その他の控除
新規就労控除[ 月額 10,400円(各級地共通)]
未成年者控除[ 月額 11,600円(各級地共通)]
特別控除[ 年額 150,900円以内(1級地)]  ※1 この他に必要経費として、通勤費や社会保険料などを控除。※2 基準額は平成17年度

(参考)
 世帯類型別にみた平均勤労控除額(平成15年)
 総数高齢者世帯母子世帯傷病・障害世帯その他世帯
勤労控除適用世帯の
平均月額(円)
22,87814,71225,27920,81926,186
稼働世帯率12.1%3.9%48.2%8.1%35.3%

  (3) 専門委員会報告書における記述

「生活扶助基準の検証に当たっては、平均的に見れば、勤労基礎控除も含めた生活扶助基準額が一般低所得世帯の消費における生活扶助相当額よりも高くなっていること…も考慮する必要がある。」

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