労働政策審議会雇用均等分科会における審議状況


 労働政策審議会雇用均等分科会は、昨年9月以降、男女雇用機会均等の更なる推進のための方策について審議を行ってきた。これまで労使を始め各委員から、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「均等法」という。)の施行状況や、雇用の分野における男女の均等取扱いを一層進めるための具体的な方策について、様々な意見が出されたところであるが、今後の議論に資する観点から、当分科会における審議状況について中間的な取りまとめを行い、公表することとした。




I  検討に当たっての現状認識

 昭和61年に均等法(当時は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」)が施行されてから20年目に入り、平成9年に改正されてからも10年近くが経過した。この間、社会一般の意識として、男女の雇用機会均等についての考えは広く当然のこととして受け止められるようになった。
 企業の雇用管理においても、男女の機会均等についての認識が浸透・定着し、その考えに沿って雇用管理の見直しが進展した。特に平成9年改正により、それまで事業主の努力義務であった募集・採用、配置・昇進についても女性に対する差別が禁止され、企業名公表制度が創設されるとともに、労働基準法上の女性保護規制の見直しがなされるなど法律面の整備がなされたことは、企業の雇用管理においても、女性に対する差別の禁止の考えを更に徹底することとなった。
 平成9年改正では、あわせて、ポジティブ・アクションに係る規定や、セクシュアルハラスメントを防止するための雇用管理上の配慮義務規定、母性健康管理措置の義務規定が設けられ、実質的な均等の実現に向けた幅広い企業の取組を促すことにもなった。
 女性労働者の就業実態をみると、女性の積極化する就業意欲を背景に、女性の雇用者数の増加傾向は引き続いている。近年では男性の伸びを上回って推移した結果、雇用者総数の4割を上回るようになってきており、雇用形態の多様化の中でいわゆる非正規雇用者が多くなっている。また、平均勤続年数も更に伸長し、勤続年数が10年以上の者は、平成15年には35%を超えるまでに至っている。
 均等法は、正規雇用者、非正規雇用者を問わずに適用対象としているものであるが、こうした非正規雇用者も含め、継続就業を希望する女性が妊娠・出産等を理由とした解雇や退職の強要、不利益な配置転換、パートタイムへの契約内容の変更の強要、雇止め等について、都道府県労働局雇用均等室に相談や個別紛争の解決援助を求める例が増加している状況にある。また、セクシュアルハラスメント、母性健康管理措置についても、非正規雇用者からの相談が多くなってきている。
 採用や配置については、例えば従来女性が少なかった渉外、外商や機械オペレーター等に女性が配置される動きが活発になるなど、部門等によっては進展がみられる。しかし、女性の応募がなかった等の事情はあるものの、採用面、配置面ともに全体としては目立った変化は見られていない。
 一方、新しい動きとして、従前女性が就くことが多かった職種等を中心に男性であることを理由として採用を拒否されたとする相談が目立つようになってきている。また、平成9年に女性のみの時間外・休日労働や深夜業の規制を解消したことは女性の職域拡大に寄与したが、技術職に進出する女性の増加を背景として、その職域拡大の観点から労働基準法上の女性の坑内労働の禁止規定についての見直しを求める声が挙がってきている。
 昇進については、管理職に占める女性の割合は係長を中心に上昇が続き、中には役員という高い地位に就いて活躍する女性の姿もみられるようになったが、管理職に占める女性の割合の上昇テンポは緩やかである。
 特に大規模企業を除き引き続き導入が進んでいるコース別雇用管理制度について、これを導入している企業においては、管理職に占める女性の割合は相対的に少ない状況にある。また、コース別雇用管理制度を導入している企業の中には均等法の趣旨に沿った運用がなされていない企業もみられる。
 こうした中、女性の能力発揮を促進するための積極的な取組であるポジティブ・アクションについては、大企業を中心に取り組む企業割合は上昇しているが、なお全体として大きな広がりを持った動きには至っていない。
 さらにセクシュアルハラスメントについては平成9年に法律に規定が設けられて以降、企業において防止のための対策が進展したが、都道府県労働局雇用均等室にはセクシュアルハラスメントに関する相談が寄せられており、毎年、女性労働者等からの相談件数の約半数を占める。また、相談事案の中には深刻なものも含まれている。
 セクシュアルハラスメントに次いで女性労働者等からの相談件数が多いのが母性健康管理措置についてであり、措置義務に対する認識が不十分なケース等がみられる。
 均等法の履行確保に係る是正のための行政指導については、近年事案が複雑化している中で、外見上、直ちには差別か否かの判断が難しいケースが現れる中で、差別の疑いがあるものの必要な情報が得られない等のため指導の徹底を図れないケースが存在している。
 平成9年改正により紛争の当事者の一方からの申請で調停を開始することができるようになった調停制度については、調停開始率が上昇し、都道府県労働局長による個別紛争解決援助等とあいまって紛争の解決に一定の役割を果たしているが、必ずしも十分利用されていないのではないかとの指摘がなされている。
 今、我が国は人口減少社会の到来という事態に直面している。こうした変化の中にあって、労働者が性別により差別されることなく、かつ、母性を尊重されつつ、その能力を十分発揮することができる雇用環境を整備することは、仕事と育児との両立や、長時間労働の是正など働き方の見直しとともに、以前にも増して重要な課題となっている。しかし、男女の均等取扱いの状況は全体的に改善のテンポが緩やかであり、国際的な場での指摘もなされている。また、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いが近年増加している。
 こうした状況にかんがみれば、均等法施行20年目となった現在、男女雇用機会均等の確保を徹底するため必要な法的整備を行うべき時期にきていると考える。


II  男女の雇用機会均等の更なる推進のための方策の検討

 上記の現状認識を踏まえ、雇用の分野における男女の均等な機会と待遇の確保をどのようにして実現していくのかという観点に立って、総合的な検討を行った。


 男女雇用機会均等の確保について

 (1)  男女双方に対する差別の禁止
 現行均等法は女性に対する差別のみを禁止しており、男性に対する差別を禁止しているものではないが、本来あるべき姿は男女双方の差別の禁止であるという方向でこれまで議論がなされてきたところである。近年みられた男女均等に関係する法制の動向はいずれも男女双方を対象としているという状況等に留意しつつ、引き続き検討することとなった。
 一方、男女双方に対する差別を禁止することを前提とした場合、女性に対する差別の例外を規定する均等法第9条の特例措置について、男性についても同様の規定を設ける必要があるかどうかについては、本来は男女双方について等しく例外措置を設けるべきであるものの、我が国の女性の置かれた現状を踏まえれば当面、女性に対する特例措置のみを保持することが適当なのではないか、という意見が出された。他方、男性についても同様の扱いとすることを含め、さらに慎重な議論が必要であるとの意見も出された。
 また、男女平等とは男女がともに仕事と生活を調和できる働き方ができることを前提としたものであるべきであり、人間らしいバランスの取れた働き方とするために、「仕事と生活の調和」を均等法の目的・理念に規定すべきという意見が出された。その一方、働き方の多様化が進展している中にあって様々な働き方が認められるべきであり、本来の性差別の問題以外の要素を入れることには反対であるとの意見、「仕事と生活の調和」が重要であることは認識するが、このことは労働関係法令全体を通じて実現されるものであること、また、均等法には「仕事と生活の調和」に関する具体的措置規定がなく、仮に規定しようとすれば、法律の内容を大幅に変更することになることから、均等法の目的・理念に規定することは適当でないとの意見が出された。

 (2)  妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
 現行均等法第8条において妊娠し、出産し、又は産前産後休業をしたことを理由とする解雇を禁止しているところであるが、解雇以外の不利益取扱いについて規制する規定はない。
 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの問題は実質的な男女均等の実現にとって重要であるとの観点から、既に育児・介護休業法において育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由とする不利益取扱いが禁止されていることにも留意しつつ、引き続き検討することとなった。
 この議論に関して、(1)少子化の中で、社会政策として考えれば、産前産後休業等による不就労等についても不利益な取扱いがあってはならない、(2)ILOの母性保護条約を批准するためにも、出産手当金の給付率を上げるべきである、との意見が出された。
 その一方、妊娠・出産したこと自体や休業の権利行使自体を理由とする不利益取扱いと、能率低下や不就労等に対する不利益取扱いは判断のしやすさが異なり、後者については公正性の観点から慎重に議論すべきであるとの意見が出された。

 (3)  間接差別の禁止
 平成9年の均等法改正時から検討課題とされた間接差別の禁止については、以下のような意見を踏まえ、引き続き検討することとなった。なお、間接差別とは、一般的に、外見上は性中立的な規定、基準、慣行等(以下「基準等」という。)が、他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与え、しかもその基準等が職務と関連性がない等合理性・正当性が認められないものを指し、いわゆる結果の平等とは異なる概念であることを確認した。
 この議論に関して、形を変えた差別が含まれているコース別雇用管理における転勤要件や世帯主要件、パートの処遇などに対応するために間接差別は有効な概念であり、国際的にも指摘を受けていることや、諸外国の法制整備の動向等からみても禁止すべきであるとの意見が出された。
 その一方、間接差別概念はまだ浸透しておらず、合理性の有無の判断に幅があること、対象が無制限に広がりかねないことから現場が混乱する、また、コース別雇用管理制度における転勤要件等は性差別というよりも、ポジティブ・アクションとして進めていくべき問題であって、間接差別概念の導入には反対である、との意見が出された。
 このほか、(1)相当程度の不利益の有無及び合理性・正当性の有無それぞれについて判断基準を明確にすることにより予見可能性を高めることは可能なのではないか、(2)ポジティブ・アクションとして進めるのであれば、現行の自主的取組よりも踏み込んだものとすべきである、との意見が出された。

 (4)  差別禁止の内容等
 以下のような意見を踏まえ、引き続き検討することとなった。
差別禁止の内容等として、(1)「募集・採用」についても、他の雇用ステージ同様差別的取扱いをしてはならないとの規定にすべきである、(2)現行法のステージごとの規制では、ここから漏れる問題もあり、仕事の与え方及びその他の労働条件全般で捉えることとすべきである、(3)差別認定の判断を制約する指針上の「雇用管理区分」についても見直しを検討すべきである、(4)労働基準法第3条の差別禁止規定に性別を追加するとともに、均等法に賃金差別の禁止を規定すべきである、との意見が出された。
 これに対し、(1)「募集・採用」の規定は現行のままとすべき、(2)仕事の与え方は、個人の能力等により異なるものであり、男女間の問題ではない、(3)指針の「雇用管理区分」は、企業において長期的な視点から人事制度が設計されていることを踏まえており見直す必要はない、との意見が出された。

 (5)  ポジティブ・アクションの効果的推進方策
 ポジティブ・アクションについては、効果的に推進していく方策について引き続き検討することとなった。
 この議論に関して、事業主に対しポジティブ・アクションの行動計画の作成と実行を明文で義務づけるとともに奨励措置として次世代育成支援対策推進法のような認定マークや税制上の優遇措置を含めて検討すべきであるとの意見が出された。
 一方、ポジティブ・アクションについては、一律に義務化すべきではなく、まずは事業主の自主的取組を促進するべきであり、行政は一層の周知を行うことが必要であるとの意見が出された。

 (6)  セクシュアルハラスメント対策
 セクシュアルハラスメント対策については、効果的に対策を講じていくための方策について引き続き検討することとなった。
 この議論に関して、(1)セクシュアルハラスメントは人権侵害であり、現行法の抑止力を強めるため、配慮規定から義務規定(適正な予防義務、事後対応義務)とし、紛争解決援助や公表制度の対象とすべきである、(2)セクシュアルハラスメントの定義にジェンダーハラスメント(性別役割分担意識に基づく言動)も含めるべきである、(3)セクシュアルハラスメントの救済を申し出たことを理由とする不利益取扱いの禁止や、プライバシーの保護について法律上規定すべきである、との意見が出された。
 これに対し、(1)セクシュアルハラスメントがあってはならないのは当然であるが、会社がどこまで関われるか困難な場合も多く現行指針のPRに努めることが重要である、(2)事前の予防措置と事後の対応措置は明確さが異なるため区別して議論すべきである、(3)セクシュアルハラスメントにジェンダーハラスメントを含めると、本来のセクシュアルハラスメント自体が不明確になるので反対である、との意見が出された。

 (7)  男女雇用機会均等の実効性の確保
 以下のような意見を踏まえ、引き続き検討することとなった。
 実効性確保の議論に関し、政府から独立した性差別救済委員会を都道府県単位で設置すべきであり、この委員会については、(1)労働条件に関する性差別及びセクシュアルハラスメントを救済対象とする、(2)救済申立てを理由とする不利益取扱いを禁止する、(3)事業主に資料提出義務を課し、資料提出がない場合は差別を認定することができることとする、(4)罰則に裏付けられた差別是正勧告、差別是正命令、緊急命令を発することができることとすべきである、との意見が出された。
 これに対し、(1)紛争解決については労働審判制度の創設等かなり充実してきており現行の救済制度で十分である、(2)行政は現行の様々な制度について一層の周知に努めるべきである、との意見が出された。


 女性保護、母性保護について

 以下のような意見を踏まえ、引き続き検討することとなった。
 女性保護に関し、労働基準法第64条の2により原則として禁止されている女性の坑内労働について、専門家会合報告にかんがみ、また、女性技術者から強い要望があるので、女性の職域拡大の観点から、女性技術者等が坑内工事の管理・監督業務等に従事できるよう規制を見直す方向で議論すべきであるとの意見が出された。一方、女性の坑内労働の規制については、規制緩和の要望もあるが、懸念する声もあり、当面、慎重に議論すべきであるとの意見が出された。
 また、母性保護に関し、墜落のおそれのある高所や土砂崩壊のおそれのある場所等の作業について、産婦についても申出により就業禁止とすべきであるとの意見が出されたほか、出産手当金の給付率を上げるべきであるとの意見が出された。

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