第25回研究会(7/26)における指摘事項


第25回研究会(7/26)における指摘事項

1 有期労働契約
 ○ 採用の自由との関係について言及するならば、平安閣事件や近畿システム管理事件は最高裁自身で判示しておらず、また、近畿システム管理事件は不当労働行為事件であるから、最高裁自身が判示した東芝柳町工場事件を引用すべきではないか。(荒木先生)
 ○ 不当労働行為に対する行政処分として採用を命ずることと、労働契約法における雇止めの効力の問題とは区別した方がよいだろう。(西村先生)

2 総論
(1) 労働契約法制の対象とする者の範囲
 ○ 労働基準法上の労働者以外の者について労働契約法制の対象とすることを検討するならば、その際の使用者概念について検討が必要ではないか。例えば、重層的な下請構造における黙示の労働契約や親子会社などの点について、使用者概念を規定しておかなければ問題となる場合があるならば、使用者概念を規定する必要があるのではないか。(土田先生)
 ○ 労働契約法に労働基準法上の労働者でない者に適用される規定を設けるに当たって、仮に直接的に適用される規定を設けるならば、独占禁止法上の不公正な取引方法である優越的地位の濫用などとの整理を意識しておくべきではないか。しかし、類推適用を促進する規定を設けるならば問題はないだろう。(山川先生)
 ○ 労働契約法が労働基準法上の労働者でない者に対して類推適用されるような方策を検討するべきだという指摘について、立法の当初から類推適用に期待するのはいかがなものか。また、裁判所としては積極的な類推適用を期待されても困るのではないか。あくまで、今回の適用対象とならなかった部分については、具体的なルール化ができないことから、裁判所の解釈に委ねるとの趣旨に止めるべきではないか。(筒井参事官)
 ○ これは、労働基準法上の労働者でない者への労働契約法の準用なども含めて、何かできないかを問題意識として表明するとの趣旨であろう。(菅野座長)
(2) 労使委員会
 ○ 労使委員会の決議に、労働契約法上の一定の規範をデロゲート(解除)して任意規定化する効力を与えることがあり得るのではないか。そのような労使委員会の役割について言及があってよいのではないか。(荒木先生)
 ○ 労使委員会は今の過半数代表に比べればより厳密な手続であるため強行規定の解除のための条件として適切であることや、労使委員会制度の普及の推進にも役立つことから、労使委員会の決議により強行規定を解除することを考えることは妥当ではないか。また、労働基準法の他の場面においても、今後検討してもよいのではないか。(山川先生)
 ○ 労使委員会と労働組合を比較した議論だけではなく、労使委員会と過半数代表者を比較した議論も重要である。労使委員会の役割としては、個人の交渉力を補完することのほか、規制を多様な実態に合ったものにするための手続を担うことが考えられる。現在の労働基準法において、過半数組合がない場合、過半数代表者との協定で強行規定を解除している問題に対して、労使委員会を活用することにより適正化すべきとの意見があったので、それを記載すべきではないか。(荒木先生)
 ○ そのようなことも含めて議論をする場合、やはり労使委員会の制度をしっかりしたものにしなければいけない。中間取りまとめではその点についての書き込みが少ないとの批判を受けている。(菅野座長)
 ○ 労使委員会の決議の法的効果について考える必要がある。中間取りまとめでは、当然に個々の労働者を拘束するものではないことに留意する必要があると書いてある。労働基準法上の労使委員会であれば制度を適法化する効力を持つに過ぎないが、労働契約法制であれば私法的な効果を持つこともあり得るのではないか。労使委員会の決議に対して純粋な強行規定を解除する効力を与えるか、労働契約上の効力まで与えるのかについて議論をする必要がある。仮に労使委員会の決議が労働契約に対する効力を持つならば、労働協約との整理が重要な問題となる。(土田先生)
 ○ 労働契約法に定めることから、労使協定とは異なるのではないか。例えば、労働契約法上の効果に影響がある制度とし、特約がなければ義務が生じるなど、いろいろな仕組み方があり得る。
 ただし、労使委員会の決議と、団体交渉の結果である労働協約との関係については、多数組合であれ、少数組合であれ、労働協約が優先するべきである。(菅野座長)
 ○ 労使委員会の決議が、労働契約法制の中で発生する権利義務にどのように関わるかについて、テーマごとに検討することになるのではないか。 労使委員会の決議に対して、デロゲーションの効果を与えることは任意規定と強行規定の振り分けの問題として捉えられる。 また、労使委員会の決議に対して、一般的な権利義務を発生させる権限を付与することは労働組合との関係から難しい。使用者と労働者が契約で権利義務を発生させる場合でなく、労働契約法によって権利義務を発生させる場合において、労使委員会の決議をどのように仕組んでいくか。解雇の金銭解決の場合においては、金銭補償の請求権は契約によって発生するのではなくて、労働契約法に基づく債権として発生することとなるのではないか。仮に、そのような意味で法定債権を形成する際の要件とするならば、労使委員会の決議は規範の形成に一定の権原を有することとなる。(山川先生)
 ○ 労働契約法を作る前提となっている現状認識は、労働契約が多様化していることと、個別の労働者の意思を尊重すべき場面が増えていることではないか。そうならば、労使委員会の決議により、個別労働者の意思を介さずに労働契約の内容が決まることに対しては違和感がある。労働契約法としてはあくまで個別の労働者の意思を前提として、契約内容が定まることとなるのではないか。
 契約法としては、法律で定められている債権であっても、契約から発生する債権と説明するのではないか。ただし、典型契約については、契約からどのような債権が発生するかが法律で既に定められている。(内田先生)
 ○ 労使委員会の決議に対して労働協約のような規範的効力を与えることは考えていない。労働契約においては集団的に労働条件が決まることから、労働組合のない場合に集団的な労働条件の決定にできるだけ労働者の意見を反映させるためにはどうすればよいかを考えている。そこで、労使委員会の代表性を担保できるならば、労使委員会の決議に対して労働条件の決定をする中での一定の効果が与えられるのではないか。しかし、それは個々の労働者の特約の余地を完全になくしてしまうようなものではあり得ない。そこに契約法たる由縁が残る。(菅野座長)
 ○ 労使委員会の決議があれば個別の同意によってデロゲートできる強行規定については、任意規定ではなくて強行規定である理由について、個別の問題ごとに説明が必要になるのではないか。労使の力関係から、個別の労働者の意思によっては合理的な内容は担保されないと考えることができるかどうかも問題になるのではないか。通常の契約法の強行規定とは異質な問題として議論する必要がある。(内田先生)
 ○ 諸外国においては、労働組合が合意した場合にのみ、強行性が解除される規定は多くある。それらにおいては、個々の労働者と使用者との取引に委ねたのでは、結果の妥当性が担保できないことから、労働組合が同意した場合にデロゲートを認めている。
 労働基準法は、過半数組合がない場合において、過半数を代表する個人との労使協定があればデロゲートを認めている。それに対して、過半数を代表する者よりも労使委員会という常設の機関を設けて対処することについて議論している。労働契約法においても、強行規定を設定すれば普通はデロゲートできないが、労働者が多様化していることから、国が一律に規制を定めるよりも現場の判断に委ねた方が妥当な場合もあり得る。労使委員会を活用することによりその判断の妥当性が担保されることが、労使委員会の決議があればデロゲートできる強行規定を設ける実質的な理由ではないか。(荒木先生)
 ○ 例えば、個々の労働者が、合理的に考えた結果としてデロゲートに合意した場合であっても、労使委員会が合意しないときについて、どのように扱うか。(内田先生)
 ○ その点については、どのような規定を強行規定とするかどうかと関連して議論すべき問題となるのではないか。(荒木先生)
(3) 総則規定の必要性
 ○ 資料4については、「雇用形態にかかわらず、その就業の実態に応じた均等待遇が図られるべきこと」と表現すべきではないか。このような理念規定を設けることには大きな意義がある。(菅野座長)
 ○ 仮に「均等待遇が確保されるべきこと」と定めるならば、同一価値労働・同一賃金原則に近い、重い意味を付すことになる。このため言葉遣いを慎重にすべきである。 パート労働者についてはパート法第3条において均衡処遇を謳っているが、有期契約労働者についても同じ問題がある。雇用形態のみを理由として不合理な格差を付けてはならないが、就業の実態が同一であれば直ちに均等な待遇をするわけにもいかないだろう。このため、「均等待遇が図られるべき」といった理念規定であれば意味があるが、それを超えて「均等待遇の確保」といった言葉を使うことには問題があるのではないか。(土田先生)
 ○ あくまで理想として「労働契約は労使当事者が対等の立場で締結すべき」とする理念規定の意味はわかる。一方、信義誠実の原則は、民法において理念規定ではなく、実体法として意味がある。このため、対等な立場での決定と信義誠実の原則が並列に表現されると、信義誠実の意味が薄まってしまうのではないか。(内田先生)
 ○ 労働契約法においても目的規定は置く必要がある。(土田先生)
 ○ 労働契約の定義規定の必要性についてどのように考えるか。それと関連して、労働契約における権利義務の基本的な内容を定める必要はないか。(土田先生)
 ○ 労働契約法における労働契約と労働基準法における労働契約との異同については、明確にしなければ混乱を招くのではないか。(菅野座長)
 ○ 仮に労働契約法における労働者が、労働基準法における労働者よりも広いならば、労働契約の定義規定を置く必要がある。(土田先生)
 ○ 仮に労働契約法における労働者を労働基準法上の労働者と同じとするならば、民法における雇用契約との関係の整理が必要になる。仮に民法第623条のような形で労働契約を定義するならば、それに使用従属関係が過重されて労働契約となるのか、使用従属関係がある場合に労働契約が広がるのか。
 また、労働契約の解釈の在り方を示す規定を設ける可能性はあるのだろうか。就業規則における服務規律の規程について、趣旨に即した合理的な解釈をすべきではないかといったことを議論したが、それを越えて一般的な規定があり得るか。
 例えば、形式的には請負契約であるが実質的には労働契約である契約に対して、労働契約法には何も規定を設けずに裁判所に委ねるか、そのような契約に対する労働契約法としての方針を定めるか、あるいはそこまでする必要はないのか。その判断によっては、形式上は労働契約でない契約に対しても解釈上適切な対応ができることが法律において根拠付けられるのではないか。(山川先生)
 ○ 労働契約法を家事使用人などに適用することについては、どのように考えるか。(西村先生)
 ○ 労働基準法においては、理論上、事業に使用されることが労働者の要件として入っている。労働契約法の場合、事業を単位として適用するという発想は取らないということでよいか。(山川先生)
(4) 労働契約法制における指針の意義
 ○ 労働契約法制における指針は、イメージとしては労働契約承継法の指針が一番近いのだろうか。(菅野座長)
 ○ 労働契約法において指針があった場合、裁判官はそれをどのように受け取るのだろうか。(内田先生)
 ○ 例えば、就業規則の変更について合理性の推定が働かない場合において、合理性を判断する際の考慮要素を指針で示すとしているが、今まであまりこのような例を知らない。(筒井参事官)
 ○ 適正な手続を踏んでいる場合や利害調整を行っている場合には合理性があるものと考えてよいといった書き方ならば行為規範になるだろう。このように、推定ができるかどうか等の裁判規範について直接には書かない方法もあるのではないか。(山川先生)
 ○ 労働契約承継法の指針のように強行的な書き方の指針については、仮に裁判になれば、裁判所は斟酌する可能性が高いのではないか。しかし、労働契約法制における指針に対して、行為規範としての意味を与える場合、労働契約承継法の指針とは少し異なることになるのではないか。労働契約法制における指針については、行為規範として例示集とするか、事実上の法的拘束力まで持たせるか、二つの選択肢があり得る。(土田先生)
 ○ 労働契約法制における指針であっても、その内容によって違ってくるのではないか。例えば、配置転換、解雇、整理解雇については、基本的には判例法理を整理することとなれば、裁判所としても抵抗はないだろう。しかし、新たに作り出すものについては、立法の過程で議論されたことを反映させるなど、少し違ったものになるのではないか。(山川先生)
 ○ 労働契約承継法の指針においては裁判規範のようなことも書いている。労働契約承継法の指針でここまで書けるのであれば、いろいろな書き方ができるのではないか。(荒木先生)
 ○ アメリカなどの法律においては考慮すべき要素を法律に書く例は多くある。法的拘束力を持たせたい判例のリステートメントであれば、法律に書けばよいのではないか。(内田先生)
 ○ 法律による多様なケースに通用するようなルールは、抽象化せざるを得ない。(菅野座長)
 ○ 厚生労働省から出版する法律の解説と、法律に根拠をもって出されている指針は異なるが、指針は法律ではない。指針の性格はなかなか難しい。(内田先生)
 ○ 法律に書けないものを、努力すべきこととして指針に書くなどの振り分けができれば、指針は法的拘束力がないと言えるだろう。しかし、例えば整理解雇について裁判例を整理して指針を書くとすれば、法的拘束力はないとすることは誤解を招くのではないか。指針において法律に定められていることを再び書いている場合がある。指針そのものに法的拘束力がないことと、そこに書かれていることに法的拘束力がないこととは異なる。そのことを明らかにした方がよいのではないか。(西村先生)
 ○ 指針に書いてあることにより法的拘束力があるわけではない。(菅野座長)

3 労働契約法の基本的な性格
 ○ 刑事罰や取締法規とは別に民事ルールを定めることの意味は、行政の介入によるのではなく、権利義務の実現により紛争を解決することである。つまり、任意に規範を守ることが前提であって、具体的には裁判や労働審判により実施されることを記載してもよいのではないか。(山川先生)

4 労働契約法を構想するに当たっての基本的な考え方
 ○ 個別的な労働条件の決定について、人事管理の個別化・多様化・複雑化の進展に対する対応として、労使委員会を中心として記述している。むしろ、個別的な労働契約の内容の決定に対するルールを作ることが前提としてあった上で、それを実質化するための集団的な意思の反映の仕組みとして労使委員会が考えられているのではないか。(山川先生)
 ○ 労使自治の尊重と対等性の確保とは、労使自治は重要である一方、労使間には交渉力・情報力の格差があることから、その差を埋めて実質的な労使自治をどのように構築するかという問題意識があった。このため、様々な制度設計を検討してきたことをもう少し書き込んだ方がよいのではないか。(土田先生)
 ○ 「多様な労働者の意見が反映されることができるようにする」との記述について、具体的にどのような方法があるか示唆を与えた方がわかりやすいのではないか。(西村先生)
 ○ 中間取りまとめに書いてあることから更に考えれば、例えばパートタイマーの処遇について制度を作る場合にはパートタイマーの意見を聞くことなどを労使委員会の制度設計に組み込むことがあり得る。(土田先生)

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