第24回研究会(7/12)における指摘事項


1 労働関係の終了
 〈整理解雇〉
 ○ 整理解雇については、四要件説や四要素説などいろいろな議論がある。この四つの事項については、通常考慮されていることを法律において例示することが適当ではないか。「必ず考慮に入れなければならない」と書くと、四つのうち一つでも欠けてはならないと解釈されることにならないか。(荒木先生)
 ○ 「考慮に入れるべき事項を法律で示す」といった書きぶりならばよいか。(菅野座長)

 〈解雇の金銭解決制度〉
 ○ 「労働者の正当な権利行使に対する報復的な解雇」とは、労働法上の権利の行使に対する報復ということか。このような表現でよいのだろうか。(村中先生)
 ○ 最終報告書において、例を示してはどうか。(菅野座長)
 ○ 「報復的な」というように主観的な意図を要件とするより、「正当な権利行使を理由とする」とした方が妥当ではないか。(土田先生)

 ○ 労働者から申し立てる解雇の金銭解決について、金銭解決を認める判決が確定した後、労働者が辞職の意思表示をしなければ、労働契約が続くことになる。30日という期限は切られているとしても、使用者の地位が不安定にならないか。解雇が無効なのだから使用者としては仕方ないのかもしれないが、労働者にもう一度考えるチャンスを与える必要があるのだろうか。
 この枠組みは辞職と引換えの給付判決という仕組みから当然生ずるものであるため、使用者の地位を安定させようとすると、一か月という期間を短くすることになるのだろうか。(村中先生)
 ○ この仕組みならば一か月程度が妥当ではないかという印象を受ける。(菅野座長)

 ○ 労働者から申し立てる解雇の金銭解決における辞職の意思表示は、例えば、三か月後に辞職するといった形ではできないこととし、即時に効果が生ずるものとするのだろう。(菅野座長)
 ○ 労働者から申し立てる解雇の金銭解決における辞職について、辞職の意思表示から二週間後に契約が終了するという規定は適用すべきか。(荒木先生)

 〈合意解約、辞職〉
 ○ 「使用者の働きかけ」という表現は明確な要件といえるのだろう。使用者の働きかけがなく、単に軽はずみで辞表を出してしまった場合は対象外となる。(菅野座長)
 ○ 「使用者の働きかけ」について、例えば、労働者に対して嫌がらせを続けている場合は含まれるものと考えるか。それについては、裁判所の解釈に任せることとなるのだろうか。(村中先生)

 ○ 合意解約においては、通常の場合、申込みと承諾が一致した際に合意解約が成立し、その日に労働契約が終了する。 今回の提案において、労働者からの申込みに対して使用者の承諾があった時点から一定期間は撤回できることとするか、又は、労働者からの申込みの時点から一定期間は撤回できることとするかという問題がある。 例えば、使用者が労働者の合意解約の申込みに対して14日間承諾しない場合は、労働者は判例法理により14日間は撤回することができる。しかし、仮に労働者の申込みから8日間は撤回できることとした場合に、8日経てばこの規定では撤回することができないこととなるとそれは妥当でない。合意解約が成立した日から一定期間は撤回することができることとすべきでないか。(山川先生)
 ○ 早期退職の場合、退職する時期の随分前に退職の働きかけをする場合がある。そのような場合についても同じルールを適用すべきだろうか。(西村先生)


2 有期労働契約
 ○ 雇止めに関する判例の考え方は、第一段階として解雇権濫用法理の類推適用の有無について、使用者側の言動や契約の運用などを考慮して、労働者の期待利益の有無から判断する。そして、第二段階として、解雇権濫用法理の類推がある場合にはその雇止めが適法かどうかを判断している。
 しかし、使用者が雇止めの基準の手続を履行したにもかかわらず、雇止めの判例法理を適用している裁判例がある。 手続を履行したことは、雇止めの効力を判断する上での考慮要素とするよりむしろ、解雇権濫用法理の類推適用の有無を判断する際に考慮される要素とすべきではないか。 つまり、更新しないことを明示している場合や、更新の判断基準を明示し、その当てはめが適正になされている場合においては、基本的に解雇権濫用法理の類推適用はないこととすべきではないか。ただし、更新の判断基準の当てはめの妥当性が問題になる場合はあるだろう。(土田先生)
 ○ 雇止めの基準のとおりに契約を運用していれば、特に何か手当てしなくてもトラブルを防止できるのではないか。
 問題になるのは、書面には更新しないと書いてあるが、他の労働者は書面にかかわらず更新されている場合や、使用者が書面にかかわらず更新すると言っている場合である。このような場合において、書面に更新しないと書いてあれば、解雇権濫用法理を類推適用しないという効果まで認めるならば、従来の判例法理との違いが出てくるのではないか。(村中先生)
 ○ ここでいう予測可能性の向上とは、従来の判例法上のルールを前提として、雇止めの基準に書かれている手続を履行した場合には、判例法理が適用された場合の結論が予測できるようになるという趣旨であって、判例法理を予測可能性がある別のものに変えるという趣旨ではないのではないか。(山川先生)
 ○ 手続を履行したにもかかわらず、予測可能性のない雇止めの判例法理の適用を受けるならば、使用者にはメリットがなく、利害調整という点で問題がある。手続を履行した場合については判例法理の適用がないこととしないのならば、手続を履行したことの評価としては不十分ではないか。(土田先生)
 ○ それは諸刃の剣である。更新があり得る場合の基準を明示すれば、それ以外の理由では更新拒否はできなくなるという効果もある。そのような意味での明確化にもなる。(菅野座長)
 ○ 使用者が最初から更新はないと明示しているにもかかわらず実際は更新する場合がある。このような場合については、明示した基準に従っていないことから、従来どおりの雇止めの判例法理で判断せざるを得ないだろう。
 また、更新の判断基準を明示している場合であっても、更新をしない理由として、雇止めの判例法理からすれば雇止めが無効と判断されるような理由を書いているときがある。このようなときに、明示していた判断基準に従って雇止めした場合において、雇止めの判例法理を適用するかどうかという問題がある。(荒木先生)
 ○ 判例法理の基本は雇用継続の期待の保護であることから、原則として、使用者が更新の判断基準を明示すれば、労使双方で雇用継続についての期待がかなり明確になるだろう。このような場合においては、裁判所も、雇用継続の期待を判断する際に、最初に示した更新の判断基準を中心に判断することになるため、現状よりは明確化が進むのではないか。(荒木先生)
 ○ 更新しないと最初から明示している場合は、基本的には当初の段階では労働者に雇用継続への期待は生じていないだろう。このため、その運用が違っていれば更新の期待が生じることはあるだろうが、基本的には更新はないと明示していれば、雇止めが有効となる場合が現行の判例法理においても多いだろう。
 しかし、更新の判断基準を明示したことにより、判例法理の適用がないこととするならば、どのような理由で雇止めをしたとしても、その理由の不相当が問題にならないこととなる。そこまで行くのはどうか。(山川先生)
 ○ 例えば、更新の判断基準の適用が間違っていた場合、つまり理由が不相当であったような場合において、解決方法としては損害賠償という方法もある。(土田先生)
 ○ 契約が更新される効果は、解雇権濫用法理を類推適用しない限り発生し得ず、類推適用しなければ損害賠償しか解決方法はなくなってしまう。
 また、一定の要件を満たした場合には解雇権濫用法理の類推適用を認めないというルールをどのように書くかという問題点があるのではないか。(山川先生)
 ○ 中間取りまとめは、土田先生のように、現行の判例法理を大きく修正した方がよいとまでは言っていないから、手続を履行したことを雇止めの有効性の判断の考慮要素とするとはどのような意味なのかをなお検討すべきではないか。(菅野座長)

 〈採用の自由との関係〉
 ○ 雇止め法理が採用の自由の侵害になるという指摘に関する応答としては、労働委員会の再雇用命令に関する判例より、むしろ有期労働契約が終了する場合に雇用関係の継続を要求している例として、東芝柳町工場事件とそれに続く雇止めの裁判例が適切ではないか。(荒木先生)
 ○ そもそも雇止めの判例法理は、使用者の採用の自由を制約し、一定の要件の下で更新を強制するものである。労働委員会において再雇用と更新を違うものとして扱っているとしても、そもそも雇止めの判例法理が更新を強制しているとする位置付けの方がよいのではないか。(山川先生)


3 総論
 〈労働契約法制の対象とする者の範囲〉
 ○ この問題に関しては、労働基準法上の労働者及び労働契約、民法上の雇用契約、請負契約及び委任契約との関係をどう整理するが前提作業として必要になる。
 労働基準法上の労働者とは労働契約を締結している者であって、労働者であるかどうかは、契約の形式や名称ではなく実態として使用従属関係があるかどうかで判断する。労働契約法の総則において労働契約の定義規定を置く必要があるのではないか。その上で、労働契約以外の労務供給契約を締結している者については、一定の要件の下で労働契約法を適用することとした方がよいのではないか。(土田先生)
 ○ それを労働契約と整理するか、労働契約類似の契約と整理するかが問題である。労働基準法における労働者及び労働契約の概念を維持するかどうか整理する必要がある。(菅野座長)
 ○ 労働契約法上の労働契約の概念を労働基準法上の労働契約よりも広げる場合には、労働契約法の規定を一部の者に対しては適用除外することとなるのだろうか。(山川先生)
 ○ 労働契約法の適用を除外した場合は、除外されない狭義の労働契約とどのように区別するか。整理としては、労働基準法上の労働契約を使った上で、労働契約類似の契約とした方がやりやすいのではないか。(菅野座長)
 ○ 民法上の請負契約や委任契約と対比した上で、労働契約を定義しなければならないのではないか。(曽田先生)
 ○ その点については整理できないのではないか。また、使用従属性という概念を用いれば、請負契約や委任契約との関係は整理しないまま労働契約を定義することが可能なのではないか。その際、労働契約法における労働者とは労働基準法第9条に定める労働者をいう、といった形で定めることになるのではないか。 労働契約法制は、労働基準法上の就業規則に対する規制等を前提としていることから、根本的な出発点の概念である労働者の範囲が労働基準法と異なるとやりにくくなるのではないか。(菅野座長)
 ○ 例えば、労働契約と民法第623条の雇用契約は同一であるという説を採れば、雇用契約が労働契約法上の労働契約であるとする整理もあり得る。その点についてはもう少し議論をした方がよいのではないか。(土田先生)
 ○ 民法における雇用契約は、請負契約や委任契約とは別の契約形態として定められている。そうすると、労働契約を定義するに当たって、請負契約などの一部を取り込もうとしているにもかかわらず、民法における雇用と同じとすることは問題ではないか。(曽田先生)
 ○ 労働契約と雇用契約との関係については、形式を重視するか、実態を重視するかで混乱することから、整理ができないのではないか。(菅野座長)
 ○ 労働契約法では労働基準法における就業規則などの規制を前提としているので、労働基準法上の労働者が締結する契約を労働契約法上の労働契約として中心に置きながら、どこまで広げられるかを考える方が簡単ではないか。
 ただし、問題はその実質ではないか。経済的従属性を有する者について、労働者に適用される規定のいくつかを適用するという考え方は学説上も強いのではないか。しかし、その具体的な判断は必ずしも容易ではない。その上、経済的従属性を有する者に対して、例えば、解雇権濫用法理を適用するならば、規制内容としてはかなり重いものである。(村中先生)
 ○ 労働契約法における労働者は労働基準法上の労働者と同じと考え、それ以外の者については類推適用によって対応するべきではないか。 労働基準法上の労働者でない者に対して、例えば、解雇権濫用法理を準用するならば、原則として使用者に契約の継続を強制することとなる。これまで、経済的に従属している者については、継続的契約関係を一方的に破棄された場合、金銭的な損害賠償で対処してきた点が労働契約と違っている。労働契約の場合、今回、解雇の金銭解決制度を提案しているが、非常に厳格な要件の下で認められるにすぎず、原則として金銭解決するわけではなく、労働契約の存続が強制される。しかし、経済的に従属している者に解雇権濫用法理が直接適用されるとするならば、不当な契約破棄に対する救済が、原則として、契約の継続を強制することとなる。それが妥当な解決かといえば必ずしもそうでない場合が多いのではないか。 そのような意味でも、労働基準法上の労働者でない者に対しては、労働契約法の類推適用というアプローチの方が実態に合った解決になるのではないか。労働基準法上の労働者でない者に対しては、労働契約法を作っても保護が及ばないのではなく、類推適用される場合があることを何らかの形で明らかにすることとしてはどうか。(荒木先生)
 ○ 基本的には人的従属性が従属性の中心的な概念ではないか。人的従属性という観点から労働者の範囲について見直すことがあってもよいのではないか。 従来労働者類似の者として経済的な従属性の中で捉えられてきた者を取り出す、あるいは、労働者概念を明確化する中で位置付けることはあり得るのではないか。
 一方、従来は当然に労働者とされていた者について、例えば、裁量労働制において、人的従属性が薄まっている側面もある。それらのバランスも当然問題になる。
 経済的従属性という観点から捉えるならば、中小企業が一般的に経済的に従属していることとの区別がつかなくなる。その上、例えば、解雇権濫用法理を適用することとするならば収拾がつかなくなる。労働法においては、人的従属性を手掛かりとして、労働者の範囲を拡張し、現代の状況に合わせていくこととなるのではないか。(村中先生)
 ○ 厳密なルールとして要件が異なる者に対して同じ効果の規定を適用することは難しいのではないか。
 検討する余地があるとすれば、労働契約法に類推適用の呼び水になるような規定を置くことはできないか。つまり、労働者に準ずる者について、裁判所の類推適用を後押しするような規定を設ける手段があり得るかどうか。(山川先生)
 ○ それは時期尚早ではないか。(土田先生)
 ○ 労働者の範囲を検討するに当たって、経済的従属性と人的従属性だけではなく、人が役務を提供するのだから、組織的な組み入れについても考慮に入れた方がよいのではないか。(西村先生)
 ○ 逆に、労働契約法における労働契約や労働者の範囲を労働基準法と同じとし、適用範囲の拡張を考えないとすれば、適用範囲が狭くなるという問題があるのではないか。働き方が多様化し、労働者の範囲が不明確になってきている中で、労働契約法という観点からすれば、適用範囲をもう少し広げた方がよいのではないか。(菅野座長)
 ○ 労働者でない者に対して、労働者を対象とする規定を類推適用すべき場合があることは判例においても認識されている。それを裁判所に委ねるか、あるいは何らかの規定を設けるかが問題になり得るのではないか。(山川先生)
 ○ その方向性には賛成である。しかし、そのテクニックで類推適用をするかどうかを決め、さらにどの規定を類推適用するかといった問題をこのほかの論点と含めて一挙に検討するのならば、さらに時間をかける必要があるのではないか。(土田先生)
 ○ 類推適用される場合をある程度具体化しなければ規定を置けないのではないか。(曽田先生)
 ○ 資料11の(1)から(5)まではかなり明確ではないか。これは明確であるが、労働契約法のどの規定を適用するかが難しい。問題意識はよくわかるので、実態に即した整理ができればよいのではないか。(菅野座長)
 ○ 請負契約とか委任契約の中で労働契約法制を適用すべき契約はごく一部である。そうすると、労働契約法制が適用される契約と、通常の請負契約や委任契約との違いを考えなければならないのではないか。
 例えば、一般的には、請負契約や委任契約において、契約関係にある一方当事者は独立の判断に基づいて独立の意思で行動する。つまり使用従属性が希薄である。そうではない人的従属性や経済的従属性が高い契約が、労働契約法制の中に取り込まれるべきものなのではないか。そうすると、資料11に挙げられている要件のほかに、何か従属性があることが要件として必要なのではないか。(曽田先生)
 ○ たとえ(1)から(5)までの要件をすべて満たしていても、その者が弁護士ならば解雇権濫用法理が適用されることには違和感がある。(西村先生)
 ○ 労働契約法の適用範囲は、基本的には労働基準法上の労働者なのだろうが、労働基準法の労働者を労働契約法に持っていくことに抵抗がある。労働基準法は、労働条件の最低限度を規定し、刑事罰で担保しているものである。労働基準法の労働者とは別に、労働契約を定義することにより個人契約者を上手く定義することはできないか。(曽田先生)
 ○ 労働契約法制は労働基準法上の就業規則法制や労働条件の明示を前提にしていることから、労働契約法制の適用範囲の大部分は労働基準法の労働者になるだろう。労働基準法上の労働者と一致させれば狭いように感じるが、広げたときに上手く規定できるだろうか。(菅野座長)
 ○ 労災保険における特別加入制度のように、労働契約法の特別適用者が概念化できればよいが、その作業は上手くいくだろうか。(荒木先生)
 ○ その方向性には賛成である。しかし、これまでの学問的な蓄積と政策の積み重ねに大きな修正を加えるのであれば、拙速だけは避けるべきである。(土田先生)

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