資料3(野口先生資料)


メタボリックシンドロームの概念を
導入した健診・保健指導の実施について
〜健康尼崎市職員21を例に〜



メタボリックシンドロームの概念を導入した
健診・保健指導の実施について
〜健康尼崎市職員21を例に〜



尼崎市市民局国保年金課健康支援推進担当
(元)総務局職員部給与課職員健康推進担当

野口 緑



尼崎市職員健康管理戦略のポイント

 集団として、健康課題を明確化

 脳・心臓疾患の克服
  ※  境界領域の者も含めた対策の充実
  ※  マルチプルリスクファクター症候群
 (メタボリックシンドローム)の考え方で整理

 集団全体を対象とした、合理的・効率的な対策

 集団全体をグループ化し対象者を明確化
  ※  緊急度に応じ、健康教育・相談の時期、方法を選定
  ※  対象者の人数を把握し、効率的な支援を実施

 自らが気づき、自らが生活習慣を変える支援

 エビデンスに基づき、自分の体のイメージが湧くための支援
  ※  自らの客観的な状態(疾病段階)を把握するツールの整備
  ※  健診結果に基づく研修会・個別健康相談の実施



脳・心臓疾患に至る経過

血管障害を起している職員ほとんどがこのような経過を辿っている

A氏 54歳 脳梗塞

  34歳 35歳 36歳 37歳 38歳 39歳 40歳 41歳 42歳 43歳 44歳 45歳 46歳 47歳 48歳 49歳 50歳 51歳 52歳 53歳 54歳
検査結果 BMI25以上
  高中性脂肪
  高血圧
高尿酸
低HDL
高LDL
治療   一過性脳虚血治療
  左脳梗塞治療

B氏 57歳 心筋梗塞

  37歳 38歳 39歳 40歳 41歳 42歳 43歳 44歳 45歳 46歳 47歳 48歳 49歳 50歳 51歳 52歳 53歳 54歳 55歳 56歳 57歳
検査結果 BMI25以上
  高GPT
高血圧
  高中性脂肪
  低HDL
  高血糖
陰性T波
心電図   反時計方向回転
  ST-T異常
  異常Q波
治療   陳旧性心筋梗塞治療



虚血性心疾患178人・脳血管疾患64人治療中の職員の状況 虚血性心疾患178人・脳血管疾患64人治療中の職員の状況の図



図



レセプト(本人分)分析(平成11年)の結果から

疾病別高額医療費の状況 循環器疾患によるものが中心
脳血管損傷  1か月290万円〜89万円
心臓バイパス手術  1か月448万円
閉塞性動脈硬化(手術)  1か月164万円
高額療養継続者の状況
第1位  人工透析  年間612万円(全員で年間総額1億円
糖尿病のレセプトから(ひと月3722件の全レセプトのうち糖尿病223件)
治療中男性職員の初診年齢  40歳代が48%(50歳代44%、30歳代8%)
高血糖状態で、何らかの自覚症状が出るまで、数年かかるとすると、健診有所見は30歳代?

(参考)病状の進行と医療費
境界型
5470円
内服のみ
12,420円
インスリン注射
41,880円
人工透析
51万円
神経障害
85万円
失明
103万円



図



治療に至っていない者の健康実態把握
脳・心臓疾患の予防に焦点をあてることとし、健診結果分析を行った!!
誰から予防対策を講じていくか? =予防対象者の明確化
脳・心臓疾患発症に最も近い人(3次予防段階)が予防緊急性の
高い人 = 血管変化が進んでいる可能性が極めて高い人
↓
「マルチプルリスクファクター症候群」のエビデンスに基づいて、血管変化が進んでいる可能性の高い人を抽出
マルチプルリスク有所見個数を健診結果に振り付け、リスク個数と血圧数値順に序列
↓
第3位の職員はすでに現職死亡
体のメカニズムや疾病エビデンスに基づく対象者の序列化の有効性を確認
⇒優先順位の明確化



集団全体の健康実態・特徴の明確化
   予防の優先順位に応じ、健康教育・相談の時期、方法を選定
   対象者の人数を具体的に把握することで、業務量も割り出せた

集団全体の健康実態・特徴の明確化の図



職員自身が予防できる体制づくり

(1) 自分自身の客観的な状態(疾病段階)を把握するツールの整備
定期健康診断及び2次健診内容の充実

(2) 健診結果に基づいた研修会・個別健康相談の実施



(1) 健診(定期・2次)内容の充実
健診項目の
予防的視点
健診項目 労働安全衛生法 尼崎市職員実施内容
39歳未満 35歳、40歳以上
体格 身長    
体重  
BMI    
血管
への
影響
(動脈
硬化の
危険
因子)
内臓脂肪の蓄積 ウェスト周囲径    
内臓脂肪面積測定
(インピーダンス法)
   
中性脂肪・HDL-ch  
GOT・GPT・γ-GTP  
Che    
アディポネクチン    
内皮細胞障害 尿酸    
血圧  
易血栓性 ヘマトクリット    
血色素  
血小板    
高インスリン状態
・インスリン抵抗性
血糖
(どちらか)
 
HbA1c  
尿糖  
75gOGTT
(インスリン測定含む)
    2次
HOMA-IR     2次
分泌低下 I.I     2次
その他の危険因子 総コレステロール  
LDLコレステロール
(実測)
   
血管
変化
大血管 心電図  
負荷心電図     2次
胸部超音波検査     2次
頚部超音波検査     2次
細小血管 眼底検査     ○(35歳以上)
クレアチニン    
尿蛋白    
微量アルブミン尿     2次
その他の項目 尿潜血  
ALP・LAP・総BIL・直BIL    
尿中塩分・尿ウロビリノーゲン    
赤血球・白血球    
□は医師の指示
※血管変化の進行に焦点をあて、
(1) 予防対象者を明確にすること
(2) 職員が自分の健康段階を確認できること
を目的に健診内容に拡充



(2) 健診結果に基づいた研修会・個別健康相談の実施

今まで行ってきた保健指導
高血圧
図
高血糖
図
高中性脂肪
図
高尿酸
図
知識や指示、因果関係での説明は、自分の体の状態が理解できない
⇒行動が変化しない

→
保健指導⇒自分の問題として
気づくための支援
※今後の見通しが持てること。
脳卒中
虚血性心疾患
図
まず、自分の血管や血液状態がイメージできること。 図



研修資料 例 (職務と健診結果との関係)
職務と健診結果との関係の図



研修資料 例
男性職員のよく食べる料理の組み合わせ(職員に対する食事アンケート結果)
男性職員のよく食べる料理の組み合わせ(職員に対する食事アンケート結果)のグラフ
何気なく選択している食事内容が脂肪の蓄積につながっており、油脂量の目安をつける力の獲得が必要!!



結果
  現職死亡(循環器疾患)の減少
 心疾患による死亡者数
  実施前4年間(H8〜11年度)5名
   ⇒ 実施後4年間(H13〜16年度)0名

  休職者数の減少
 循環器疾患による休職者数
  実施前(H11年度)9名⇒実施後(H16年度)3名

 傷病手当金(長期療養者の休業にかかる補償費)
  実施前(H11年度)16,565千円
   ⇒ 実施後(H13年度)8,807千円(△7,758千円)
+ 代替人件費 30人×2,000千円/年



医療費からみた結果

  平成11年度と平成13年度の比較
 本人医療費  職員全体 △10,242千円
 (1人あたり △1,707円)
 本人高額療養費 職員全体 △5,000千円

継続により、中長期的な結果として、さらなる医療費の適正化が見込まれる。



(参考)研修会や個別相談結果で、職員自ら生活変化を選択
事例1
  平成14年度 平成15年度
年齢 28歳 29歳
体重 77.8 76.8
BMI 27.1 26.4
腹囲   89.4
中性脂肪 136 180
HDL 45 44
血糖 110 116
HbA1c 4.9 5.2
GOT   29
GPT   57
γーGTP   50
尿酸   7.8
最高血圧 138 145
最低血圧 82 107
→ 平成15年度
糖負荷試験実施
  血糖 IRI(インスリン)
空腹 84 8
30分 136 54
60分 91 50
120分 79 36
※インスリン指数 0.9
※HOMA-IR 1.7
  インスリン抵抗性

※判定  正常型
→
  平成16年度
年齢 30歳
体重 61.8
BMI 21.3
腹囲 71.5
中性脂肪 60
HDL 56
血糖 89
HbA1c 4.8
GOT 22
GPT 26
γーGTP 23
尿酸 6.7
最高血圧 110
最低血圧 75

図

(本人の話)
 自分のデータが悪いとは全く思っていなかったのに、事後指導に呼ばれ、説明を受け、悪いということがわかり、非常にショックであった。自分にとっての食事の適量を教えてもらい、活動量のわりには、食べ過ぎていることがよくわかった。今のままではまずいと思った。
 朝、菓子パンを食べていたのをトーストにし、職場で、糖類の入ったコーヒーやジュースを毎日何杯か飲んでいたのをお茶に替え、昼食は、外食していたのを、家から弁当を持参するようした。夕食のご飯の量も少し減らした。
 自転車で通勤しているが、帰りは自転車を押して、一時間ほど歩いている。半年で、15kgほど減量し、今もその体重をキープしている。しんどくはない。体が軽くなって調子がいい。



事例 2
○技術職 男性
  平成14年度 平成15年度
年齢 58歳 59歳
体重 86.3 86.2
BMI 28.3 28.4
腹囲   99.7
中性脂肪 199 118
HDL 51 45
血糖 129(食後1H) 207(食後1H)
HbA1c 5.7 5.6
GOT 30 23
GPT 23 20
γーGTP 81 71
尿酸 7 8.2
最高血圧 194 138
最低血圧 102 75
心電図 完全右脚ブロック 完全右脚ブロック
眼底細動脈 II I
眼底高血圧 II II
※健診後、降圧剤服用開始
→ 平成15年度
糖負荷試験実施
  血糖 IRI(インスリン)
空腹 103 6
30分 162 19
60分 137 13
120分 163 28
※インスリン指数 0.2
インスリン低分泌
※HOMA-IR 1.3

※判定 境界型

頸部超音波検査
右 頚動脈球部 プラーク
左 総頚動脈 IMC肥厚
→
  平成16年度
年齢 60歳
体重   78.3
BMI 25.8
腹囲 88
中性脂肪 51
HDL 41
血糖 105(食後3H)
HbA1c 5.4
GOT 19
GPT 15
γーGTP 31
尿酸 6.2
最高血圧 128
最低血圧   76
心電図   不完全右脚ブロック
眼底細動脈   I
眼底高血圧   I
図

 昨年、頸部超音波検査で、プラークがあるとわかり、もし、これが脳に飛んでいったら、家族に迷惑がかかると思った。体が重たいし、介護させるのは申し訳ない。コロッと死ねるんならいいけれど。おまけに、今まで気にしていなかった血糖値も悪くて、糖負荷試験を受けたら、インスリンの働きが悪いこともわかり、なんとしても痩せないといけないと思った。
 従前の食生活のパターンでは、終業後は、ほとんど毎日立ち飲み屋に寄って、ビール、焼酎と、魚や冷奴などのあて2品くらいを飲み食いし、帰宅していた。そのため、夕食を摂らないことが多く、夕食の残ったおかず(脂っこいもの)を朝食としていた。昼は、食堂の定食を食べていた。どう考えても食べ過ぎ、飲みすぎなのは、健診後の研修会などを通じ、わかったので、自分なりに考えた結果、今は、終業後はまっすぐ帰宅し、焼酎の水割り1杯と、おかず、ごはんを食べる。
夕食を控えた方が良いとは思うが、おなかが空くと眠れないので、食べることした。
朝食は、夕食の残ったおかず(脂っこいもの)ではなく豆乳か野菜ジュース1杯にしている。昼食は、役所近辺の食堂で、ご飯、味噌汁、おかず1品(魚が多い)を食べる。また、以前は職場でエレベーターを使用していたが、ほとんど階段を使用するようにするなど、できるだけ、足を使うように心がけている。



事例3
○技術職 男性
  平成13年度 平成14年度 平成15年度
年齢 35歳 36歳 37歳
体重 66.5 70.1 72
BMI 24.9 26.2 27.1
腹囲     95
中性脂肪 94 149 265
HDL 61 60 58
血糖 85 167 148(食後2H)
HbA1c 5.2 5.2 5.4
GOT   25 40
GPT   41 79
γーGTP   103 216
尿酸   7.6 7.8
最高血圧 139 129 136
最低血圧 80 83 82
→ 平成15年度
糖負荷試験実施
  血糖 IRI(インスリン)
空腹 91 5
30分 157 21
60分 187 39
120分 160 34
※インスリン指数 0.2
(インスリン低分泌)
※HOMA-IR 1.1

※判定 境界型
→
  平成16年度
年齢 38歳
体重 70.8
BMI 26.5
腹囲 90.5
中性脂肪 149
HDL 50
血糖 105(食後2H)
HbA1c 5.1
GOT 32
GPT 54
γーGTP 153
尿酸 6.9
最高血圧 127
最低血圧 87

図
今までビールを2リットル飲んでいたのを500mlだけ減らし、週に1〜2回休肝日を作った。体もしんどくなっていたし、このままだったら60歳までは何とかなったとしても、その後(脳卒中になって)子どもに迷惑をかけることになると思った。孫の顔も見たいし…。(話を聞いて)アルコール、食事、運動を何とかすればよくなると思った。
今まで昼食は食堂の仕出し弁当(ご飯250g〜300g)だったのを、4月から家からは弁当を作ってもらい持参している。(子どもの中学入学もあり)ビールを減らして胃も小さくなったのか、少しの量でも満足できるようになってきた。
(参考)
2リットルのビールの糖質⇒60g
1週間(7日)飲んでいたとしたら60×7日=420g
エネルギー2380kcal(1日340kcal)
1日500ml減らし、週2日休肝日にすると
45g×5日=225g
エネルギー975kcal(140kcal)
図

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