予防医学のストラテジー:
ハイリスク・ストラテジーと
ポピュレーションストラテジー
国立保健医療科学院人材育成部
水嶋 春朔
21世紀における国民健康づくり運動
(健康日本21)
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「総論」:健康増進施策の世界的潮流を踏まえた新しい我が国の健康増進施策である「健康日本21」を推進する際の基本戦略、地域で取組を展開する際の留意点。 |
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第3章「基本戦略」
第1節「基本方針」
第2節「対象集団への働きかけ」
「1.1次・2次予防施策との整合性」、
「2.高リスクアプローチと集団アプローチ」、
「3.ソーシャルマーケティングの活用」 |
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「集団アプローチと
高リスクアプローチ」
II
「ハイリスク・ストラテジーと
ポピュレーション・ストラテジー」 |
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健康日本21 総論
第3章 基本戦略
第2節「対象集団への働きかけ」
「2.高リスクアプローチと集団アプローチ」 |
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2つのストラテジー
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Sick individuals |
⇒ |
the high risk strategy |
(病んだ個人 ⇒ ハイリスク・ストラテジー)
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Sick populations |
⇒ |
the population strategy |
(病んだ集団 ⇒ ポピュレーション・ストラテジー) |
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G Rose: The Strategy of Preventive Medicine. Oxford University Press, 1992.
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2分法の限界
スクリーニングの結果
┌ ┤ └ |
(1) |
リスクがある人⇒医療・保健指導 |
(2) |
リスクがない人⇒なにもしない |
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に二分する考え方。
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(○) |
正常と異常に明らかに2分できる場合 |
(△) |
ある閾値を越えて、急にリスクがあがる場合 |
(×) |
全体にリスクが連続している場合 |
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分布のパターン
● |
正常群と異常群は分割できる(2峰性) |
⇒ |
ホント? |
● |
連続分布を任意の「カットオフポイント」をきめて、2分法のカテゴリーに分割している(ホントは1峰性)
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分布の実際
フラミンガム研究における血清総コレステロール値と急性心筋梗塞罹患率(26年追跡)の関係 |
MRFIT(Multiple Risk Factor Intervention Trial)における血清総コレステロール値と冠動脈疾患死亡率の関係 |
棒グラフ上の数値は、死亡者数全体に占める各階級からの死亡者数の割合(%) |
予防医学のパラドックス
(Preventive Paradox) |
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小さなリスクを負った大多数の集団から発生する患者数は、大きなリスクを抱えた小数のハイリスク集団からの患者数よりも多い。 |
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→ |
集団全体に対して多大な恩恵をもたらす予防医学も、集団を構成する個人個人への恩恵となると少ない。 |
→ |
多くの人が、ほんの少しリスクを軽減することで、全体には多大は恩恵をもたらす。 |
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G Rose: Strategy of Prevention: Lesson from cardiovascular disease. BMJ, 282, 1847-51, 1981. |
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G Rose: The Strategy of Preventive Medicine. Oxford University Press, 1992. |
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罹患数(ハイリスク)=リスク(4/10)x人数(100)=40人 |
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罹患数(正常高値)=リスク(2/10)x人数(500)=100人 |
(水嶋春朔:地域診断のすすめ方:根拠に基づく健康政策の基盤、医学書院、2000)
ポピュレーション・ストラテジーでは全体の罹患数、死亡数を大幅減少 |
集団全体の分布をシフトさせる
→ |
ハイリスク、境界域、正常高値の減少 |
→ |
全体の罹患数、死亡数の大幅減少 |
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(水嶋春朔:地域診断のすすめ方:根拠に基づく健康政策の基盤、医学書院、2000)
ポピュレーション・ストラテジーの効果
〜血圧と脳卒中予防〜 |
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ポピュレーション・ストラテジー:
血圧を5%下げる(分布自体を5%分シフト)と、脳卒中罹患を30%減少させる。 |
⇒ |
英国では、毎年75,000人以上の脳卒中を予防できる |
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ハイリスク・ストラテジー:
高血圧(拡張期血圧≧100mmHg)の人をすべて見つけ出して、治療してリスクを半減させると、脳卒中罹患を15%減少させる。 |
Law MR, Frost CD, Wald NJ: III Analysis of data from trials of salt reduction. BMJ, 302, 819-24, 1991. |
健康日本21各論 8.循環器病 3現状と目標、(3)減少予測 |
ア. |
血圧低下
国民の平均血圧が2mmHg低下
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脳卒中死亡者は約1万人減少
ADLを新たに低下するものの発生3500人減少
循環器疾患全体で2万人の死亡が予防できる |
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エ. |
生活習慣改善による循環器疾患予防への効果予測
平均食塩摂取量3.5g↓、平均カリウム摂取量1g↑
肥満者(BMI25以上)を男性15%↓、女性18%↓
成人男性の多量飲酒者(1日3合以上)が1%↓
国民の10%が早歩き毎日30分を実行 |
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自分の生活習慣は自分で決めていない
ハイリスク・ストラテジーとポピュレーション・ストラテジーの組み合わせが重要 |
参考文献
1) |
G Rose著/曽田研二、田中平三監訳/
水嶋春朔、中山健夫、土田賢一、伊藤和江訳:
「予防医学のストラテジー:生活習慣病対策と健康増進」、
医学書院、1998. |
2) |
水嶋春朔:
「地域診断のすすめ方:根拠に基づく健康政策の基盤」、
医学書院、2000. |
3) |
RA Spasoff著/上畑鉄之丞監訳/水嶋春朔、望月友美子、
中山健夫、曽根智史、三砂ちづる、柏樹悦郎、吉池信男、他、訳:
「根拠に基づく健康政策のすすめ方:政策疫学の理論と実際」、
医学書院、2003. |
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