建設労働問題に関する論点(案)


建設労働問題研究会

 建設労働をめぐる経済等の動向
 (1)  建設投資と経営状況
 建設投資額は、昭和59年以降、平成2年度まで民間投資の増加により対前年度比プラスで推移し、平成4年度に84兆円に達したのをピークに、以降減少傾向となり、平成14年度からは50兆円台で推移している状況にある。このような中、中長期的な見通しについては、大幅な回復を期待することは困難であると予想されている。
 また、経営状況についても、建設投資が減少する中、受注の減少、利益率の低下により厳しい経営環境が続いている。

 (2)  雇用状況
 建設業の就業者数は、建設投資が減少に転じた平成5年以降も増加を続けたが、平成9年に685万人に達したのをピークに減少に転じ、平成16年には、584万人と、平成9年の約15%減少した。しかしながら平成16年の建設投資額が昭和60年以下の水準まで落ち込んでいるものの、就業者数の減少幅は小幅に留まっており(昭和60年は530万人)、就業者の過剰感は全産業中最も高くなっている。
 なお、建設労働者の過不足状況については、全体としては平成9年まで不足傾向にあったが、平成10年以降雇用過剰感がみられるようになり、特に管理・事務、単純工に一貫して強い過剰感がある。一方、技能労働者(技能工)、専門・技術職、販売については、過剰と不足の間を行き来して経過してきており、平成15年以降は不足傾向となっている。
 また、技能労働者については、年齢構成が高齢化しており、45歳以上が全体の過半数であり、その過半数が55歳以上となっている。

 建設労働における課題
 建設投資が減少し、建設業を取り巻く環境が厳しさを増すなか、建設労働者の雇用が不安定化するとともに、建設労働者の福祉が後退するおそれがある。
 また、労働力需給の面からは、喫緊の課題として団塊の世代が60歳台に到達し、今後順次現役を引退していく中で、技能労働者を確保することが必要となっている一方で、公共投資の減少等により、経営環境は相対的に悪化していること等から、小零細企業が多い建設業界では技能労働者の育成等の重要性は認識しつつも、個々の企業において教育訓練を実施することはもとより、教育訓練に経費を割くことが困難な状況になりつつあるのが現状である。さらに若年者については、定着率の低さから、教育訓練を行うことを躊躇することも教育訓練経費の減少の要因の一つになっている。
 もとより、労働者の雇用の安定、職業能力開発等については、雇用主である建設事業者の自助努力によるべき部分が大きいが、上記のような問題点があることから、建設事業主の取組を支援することが必要なものがあり、具体的には国としては次のような課題に取り組む必要があると考えられる。

 (1)  雇用の安定に向けた課題
 技能労働者の不足が懸念されるなかで、建設事業主の再編、淘汰、新分野進出が進んでおり、有能な技能労働者が、これらを契機として建設業と比較して労働条件が良好な他産業へ流出することを防ぐとともに、若年労働者を確保するため、技能労働者の雇用の安定及び建設業内での円滑な企業間の労働移動を図っていくことが必要である。
 このため、今回の改正法により建設業務有料職業紹介事業及び建設業務労働者就業機会確保事業が創設されたところであるが、建設業においては、悪質ブローカーの介入等の問題が懸念されることから、それを排除する形態での需給調整をが適正に実施されるよう建設業務有料職業紹介事業及び建設業務労働者就業機会確保事業を着実に定着させていく必要がある。
 一方で、過剰感の強い事務、管理職の労働者については、ハローワーク、職業能力開発施設等が連携をしながら、円滑な労働移動を図っていく必要がある。
 また、雇用を維持するために建設事業主が行う新分野進出に対しては、国土交通省をはじめ関係機関と十分に連携をとり、ワンストップサービスセンターにおいて新分野進出に係る情報提供等を行うなど、積極的な支援を行っていく必要がある。

 (2)  職業能力開発の課題
 人材育成の重要性は従来から指摘されてきたところであるが、今後、若年者をはじめとした技能労働者の確保、新技術への対応、新規成長分野への進出、労働移動の増大など、様々な面から、人材育成の必要性が益々高まっており、職業能力開発が効果的に進められるよう、次の事項について取り組んでいく必要がある。
 競争の激化の中で経営が悪化し、職業能力開発に対する事業主の意欲が後退しつつあり、事業主や事業主団体等の取組への支援の強化が必要である。
 労働者の就労意識や就労形態の多様化が進む中で、個人ごとの適正なキャリア形成の必要性が高まっており、建設労働者においてもニーズに対応した即戦力に近い基礎的な知識と能力を有する技能労働者の育成が必要である。
 認定職業訓練校等の教育訓練施設の休・廃校が進行しており、今後、建設業の健全な再生を図るためにも、高度な教育訓練を受け、高い水準の技術・技能を習得した人材の育成・確保が必要である。
 様々な労働者が集団として作業を進めている建設現場の実態に即し、集団作業の中での実践的な技能の向上などを図る観点から、建設現場における業務を通じた教育訓練の活用が必要である。
 設計、事務、管理部門はもとより、建設現場部門においても、工程・品質管理等多様な場面でITの活用が増加すること、また、職業能力開発に係る経費を削減する観点からITの活用が有効な場合があることが考えられることから、広くITの活用能力を高めるとともに、ITを活用して職業能力開発を行うことに留意することが適当である。
 若年者に対しては、インターンシップなどの取組を通じて、職場体験等から現場実習をさせることも重要であり、これらの取組を通じて、技術・技能の承継を容易にしていく足がかりを構築することが必要である。

 (3)  技能の承継
 プレハブや、プレカット工法等の進展は、建設現場における作業の省力化に寄与する等のプラスの面もあるが、反面、伝統的な工法や技術については、ものづくりを行う上で、必要不可欠なものであることから、あらゆる機会を通じて、熟練技能を後世に伝えていくシステムの構築が必要である。

 (4)  労働福祉の課題
(1)  賃金制度
 職業生活の安定、若年労働者の確保の観点から、月給制等安定した賃金制度の一層の普及を図ることが必要である。

(2)  労働時間
 建設業の労働時間は、平成9年から週40時間労働制の全面適用を経て、建設業における常用労働者の年間総実労働時間は、平成10年に2,009時間と最低となったが、以降、上昇に転じ平成16年では2,058時間となっており、非建設業(1,796時間)と比べて、長時間労働となっている。
 労働力の過剰感がある中で長時間労働となっているという相反した状況が見られるが、仕事のないときもある一方、仕事があるときには短期化している納期を守るために長時間残業を行う等のケースが見られること等がその理由として考えられる。
 また、完全週休2日制については、土曜閉所の割合も低いことなどからその導入割合が25.3%と、非建設業の48.8%に比して普及が遅れている。

(3)  安全衛生
 建設業の労働災害は、他産業に比べ死亡災害など重大事故の割合が高く、引き続き墜落や建設機械等による災害やアスベスト対策等の労働災害防止に取り組んでいく必要がある。
 また、高齢者の割合が高く、また高齢化が進む中で、労働者の健康管理や職場における適正配置等に一層配慮する必要がある。

(4)  労働保険等
 雇用保険をはじめとする労働保険への加入については、適用対象者については、これまでも加入促進に努めてきたところであるが、未だ、未加入のものもみられるところであり、今後も引き続き、労働保険、社会保険等の加入促進に向けた周知・啓発等を進める必要がある。

 (5)  建設雇用の近代化の課題
(1)  労働条件の明確化
 労働条件の明確化については、個々の労働者について雇用関係にあるのか請負関係にあるのか否かを明確にし、雇用関係にある場合には必ず文書による労働条件が明示されるように事業主に対して指導監督を強める必要がある。

(2)  労働者の常用化の推進
 技能労働者の雇用の安定と健全な育成のために、常時使用しているような技能労働者については、引き続き常用化を推進する必要がある。

(3)  元請、事業主団体等による指導等
 個々の事業主の経営が厳しくなっているが、雇用改善への建設業界の意欲を維持していくためには、建設労働者の募集、雇入れ、技能の向上、職業生活上の環境整備等について元請企業が下請企業を指導することや、建設事業主が建設事業主団体等の下で取り組むことについて、効果的な支援が必要である。

 (6)  若年者への労働対策の課題
 建設業における新規学卒者をはじめとする若年労働者の割合は、平成年間に入り急速に高まったが、ここ数年は減少傾向にある。
 建設業界においては、他産業に比べ少子高齢化が急速に進んでおり、必要な技能労働者を確保する観点から、若年者の建設業に対する関心を喚起するため、ものづくりの重要さや建設の仕事に対する誇りなどを感じさせるようにするための教育訓練やインターンシップ等に積極的に取り組む必要がある。

 (7)  女性・高齢者等への労働対策の課題
(1)  女性労働対策
 建設業における女性労働者の比率は、平成16年で14.7%と、他産業と比較すると非常に低い水準(全非建設業では45.2%)にある。しかし、男女雇用機会均等施策の推進により、近年、様々な分野において働く女性が増加している中で、建設業への関心も高まりつつある。また、建設業に対するイメージから技能労働者・技術者として建設業に就職を希望する者については、強い意志をもって入職してきており、結果として、優秀な人材が多いとの話もある。
 しかしながら、現場における仕事のため、職場が有期で数か月から数年程度で転々と変わるため、結婚、出産等を契機に退職してしまう傾向が強い。
 このため、建設業に関心がある女性が就業しやすく、また、定着できる環境の整備が必要である。

(2)  高齢者労働対策
 建設業における高齢化の状況については、昭和53年以降増加傾向であり、平成16年には、55歳以上が27.9%と過去最高となっている。また、平成16年における建設労働者の平均年齢は42.5歳であり、非建設業(39.8歳)と比べても高齢化が進んでいる状況にある。
 今後の課題としては、いわゆる団塊の世代が定年を迎えることから、建設業においても、技術者、事務職、技能労働者等について、改正高齢法を踏まえた高齢者の活用が必要である。
 さらに、技能の承継を円滑に進めるためにも、高度な熟練技能者である高齢の技能労働者の継続雇用の場を確保するとともに、高齢者が安全に就労できるよう安全衛生等職場環境の維持・向上を図ることが必要である。

(3)  外国人労働者対策
 建設業における外国人単純労働者の受入れについては、引き続き慎重に検討を進める必要がある。

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