医療提供体制に関する意見中間まとめ

平成17年8月1日
社会保障審議会医療部会

I 基本的な考え方とこれまでの審議経過

1.基本的な考え方

 医療は、我が国社会の重要かつ不可欠な資産であり、医療提供体制は、国民の健康を確保するための重要な基盤となっている。
 医療は、患者と医療提供者との信頼関係を基本として成り立つものである。患者、国民に対して選択に必要な情報が提供されつつ、診療の場面においては、インフォームドコンセントの理念に基づき、医療を受ける主体である患者本人が求める医療を提供していく、という患者本位の医療を実現していくことが重要である。また、安全で質の高い、よりよい医療の実現に向けて、患者や国民が、その利用者として、また費用負担者として、これに関心を持ち、医療提供者のみに任せるのではなく、自らも積極的かつ主体的に医療に参加していくことが望ましく、そうした仕組みづくりが求められる。
 さらに、医療は、周産期医療、小児医療から始まり、生命のすべての過程に関わるものであり、傷病の治療だけではなく、健康づくりなどを通じた予防から、慢性の症状を持ちながらの継続した介護サービスの利用や終末期における医療まで、様々な領域と関わるものである。その過程においては、医療分野や福祉分野の専門職種、ボランティア、家族その他様々な人が関わってくることから、医療機関等において、医師とその他の医療従事者がそれぞれの専門性を発揮しながら協力してチーム医療を推進していくことはもとより、地域において、患者を中心とした協力と連携の体制を構築していく必要がある。

 医療提供体制については、以上のような医療の望ましいあり方、理念に基づき、少子高齢化の進展や医療技術の進歩、国民の意識の変化等も踏まえながら、安全で安心できる、より質の高い効率的な医療サービスを提供するための改革に積極的に取り組んでいくべきである。
 そして、改革のための具体的な施策を講じるに当たっては、医療提供体制の現状や医療に対する住民の意識は、都道府県により、あるいは都道府県の中でも都市部と中山間地とでは、大きな違いがあることから、それぞれの地域の状況やニーズに応じた適切な対応ということに十分留意していく必要がある。


2.「改革のビジョン」の策定と本部会のこれまでの審議経過

 医療提供体制の改革については、平成15年8月に厚生労働省においてとりまとめた「医療提供体制の改革のビジョン」に、「医療提供体制の改革は、患者と医療人との信頼関係の下に、患者が健康に対する自覚を高め、医療への参加意識を持つとともに、予防から治療までのニーズに応じた医療サービスが提供される患者本位の医療を確立することを基本とすべき」ということが掲げられた。
 本部会においては、このビジョンも踏まえながら、「患者の視点に立った、患者のための医療提供体制の改革を基本的な考え方とすべき」との共通認識のもと、医療制度改革の両輪である医療保険制度改革と歩調を合わせ、平成18年の国会への法案提出を念頭に、平成16年9月から検討を開始した。幅広い論点について、関係する検討会での専門的な検討の成果も活用しつつ、順次、15回の審議を行ってきたところであるが、これまでの議論の結果を、下記のとおり、中間的にとりまとめることとする。
 本部会においては、今後、関係する審議会や検討会等の議論も踏まえながら、平成17年中の意見のとりまとめを目指し、引き続き検討を進めていくこととする。

【これまでの審議経過】
  平成16年9月(第1回)〜12月(第4回)
   医療提供体制に関するテーマ別のフリートーキング(一巡目の議論)

  平成17年2月(第5回)
   改革の論点整理

  平成17年3月(第6回)〜6月(第13回)
   改革の論点についての議論(二巡目・三巡目の議論)

  平成17年6月(第14回)・7月(第15回)
   中間まとめ案についての議論


II 個別の論点について

1.患者・国民の選択の支援

(1)医療機関等についての患者・国民の選択の支援

(1)広告を含めた医療機関等からの積極的な情報提供の推進

 患者・国民の選択を支援するため、医療機関等が行う情報提供について、広告可能な事項の中から任意のものを広告できるとするだけでなく、医療機関等が、その施設の医療機能に係る正確な一定の情報を、積極的に提供する仕組みに改めるべきである。
 具体的には、医療機関等が、その施設の医療機能に関する一定の情報を都道府県に届け出て、都道府県が、住民の選択を支援する情報提供という趣旨で、それらの情報を集積してインターネット等で住民にわかりやすく情報提供する枠組みを制度化することが考えられる。
 その際の「一定の情報」の範囲をどのようなものとするか等枠組みの詳細について、具体的な検討を進めることとする。

 医療機関等が広告可能な事項については、患者・国民の選択を支援する観点から、これを拡大していくことが適当である。
 その際、広告規制の方式としては、現行制度で採用している、客観的で検証可能な事項を広告可能な事項として列挙する方法(ポジティブリスト方式)と、逆に、客観的でない、あるいは検証不可能であるといった、広告が不適当な事項を規定する方法(ネガティブリスト方式)とがある。患者の情報ニーズ、利用者保護の観点、規制の実効性等を考慮した上で、以下の観点を踏まえ、また二つの方法のメリット・デメリットを考慮しつつ、引き続き検討を進め、本年末までに結論を得るものとする。
 ネガティブリスト方式については、利用者保護という広告規制の趣旨を踏まえ、客観性や検証可能性が確保されているかどうか十分に検証しつつ、ネガティブリストの範囲について検討する。
 ポジティブリスト方式については、利用者の選択の支援という観点からも、広告できる事項の追加を迅速に行う仕組みの導入や、広告できる内容の不十分さ、硬直性や表現の難解さを改善する方策を検討する。
 広告規制と関連して、病院等の名称に関する規制の緩和及び院内掲示事項の拡充を行うべきである。また、医療機関による正確な情報を積極的に提供することについて、医療法に努力義務規定を設けるべきである。

(2)広告を含む情報提供における医療の実績情報の取扱い

 評価を伴うものである医療の実績情報(アウトカム指標)について、患者が理解し、医療機関を選択していく上で、かかりつけ医に相談し、専門家としての助言や他の医療機関への紹介等のサービスを得られるような体制を構築することが基本である。
 患者の関心が高い情報である、治癒率、術後生存率、患者満足度などの医療の実績情報(アウトカム指標)については、客観性や検証可能性を確保するための手法の研究開発等、情報提供の基盤整備を速やかに進めることとし、客観的な評価の仕組みが講じられたものから、段階的に広告できる事項として認めていくこととすべきである。
 広告できる事項と位置付けられた医療の実績情報(アウトカム指標)を広告する際には、その根拠の提示を義務づけるとともに、根拠を提示しない主体に対する広告の制限等、国が一定の関与を行う仕組みの導入についても検討する必要がある。

(3)インターネットによる情報提供への対応

 インターネットによる情報提供については、患者・国民が求める医療情報が十分に提供されるよう、これまでと同様広報として位置付け、医療法第69条に規定する広告制限の対象とすべきではない。しかしながら、インターネットを通じ、信頼性に乏しいものも含め様々な情報が「氾濫」している現状を踏まえれば早急な取組が求められるところであり、広報として整理されるインターネットによる情報提供であっても、虚偽等著しく不適切な内容が情報提供されている場合に、法令により実効性のある一定の規制を行うことのできる枠組みを設けることを検討するべきである。
 インターネットを含む広報による情報の信頼性を確保するため、適切な広報を行うためのガイドラインを作成・普及し、それに沿った情報提供が行われるよう取組を進める必要がある。
 このガイドラインについては、医療機関による自主的・自律的なものという認識の下、関係団体等の協力を得て作成・普及することが適当であり、適切な作成・普及方策について検討するべきである。

(4)公的機関等による医療に関する情報提供

 医療機関が届け出た情報を都道府県が集積して住民にわかりやすく提供する枠組みの制度化を図るほか、医療計画に記載される地域の医療機能や医療水準等についても、都道府県が住民に対しわかりやすく提供する枠組みを設けるべきである。
 医療安全支援センターの充実等、都道府県レベルでの医療情報に関する相談機能を充実する必要がある。
 独立行政法人福祉医療機構のWAM−NETをはじめ、健康保険組合連合会等の公的な団体において、医療機関情報の集積と公表が行われているが、今後ともこうした取組の推進に期待するとともに、各医療機関による財団法人日本医療機能評価機構の医療機能評価の受審の促進とその結果のインターネットでの公表を進め、患者・国民の選択を支援することが必要である。
 国や地方公共団体の医療に関する情報提供に関する責務を、医療法に明記すべきである。

(2)診療情報の提供の推進と患者の選択の尊重

 診療情報の提供に関しては、平成15年9月に「診療情報の提供等に関する指針」が策定されているほか、本年4月から個人情報の保護に関する法律が施行され、また、昨年12月に「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」が策定されているところであり、適切な診療情報の提供がなされるよう、これらの周知徹底と定着を図るための措置を講じていく必要がある。
 根拠に基づく医療(EBM)については、引き続き、学会等が作成したEBM指向の診療ガイドライン等の情報提供サービス(財団法人日本医療機能評価機構のMINDS事業)の充実等により、医療の質の向上を図り、患者が主体的に医療に参加する環境の整備を図るため、その定着を図っていくことが必要である。
 インフォームドコンセント、セカンドオピニオンなどの考え方が定着、普及していく中、患者本位の医療提供が図られるようにするため、医療安全支援センターの活用を含め、患者が提供される情報をよく理解し、主体的に考えて自己決定できるよう支援できる環境整備の具体的な検討が必要である。
 また、医療従事者の資質の向上の一環として、養成や研修の課程において、インフォームドコンセント等についての理解を深め、また、効果的なコミュニケーション能力等を身につけることができるような対応を検討するべきである。
 これらの取組に加え、わかりやすい医療情報の提供への患者のニーズの高まりを踏まえ、医療情報の提供を一層推進する観点から、サービスの提供開始時や治療、検査等の実施時、退院時等における文書による説明の推進等、患者に対するわかりやすい情報の提供を推進するとともに、医療機関等において、患者及びその家族からの相談や苦情を受け付ける体制整備を推進する必要がある。


2.医療安全対策の総合的推進

 医療は、患者と医療従事者の信頼関係、ひいては医療に対する信頼の下で、患者の救命や健康回復を最優先で行われるべきものである。平成14年4月にまとめられた「医療安全推進総合対策」は、この基本理念に基づき、医療事故の未然防止のための提言を行い、関係者において取組が行われてきた。
 しかし、未だ十分な医療安全体制が確立されておらず、一層の取組が求められるところであり、「医療安全推進総合対策」の考え方を尊重しつつも、それに加えて「医療の質の向上」という観点を一層重視し、施策を充実していくことが求められる。
 医療の質の向上を実現していくためには、これまでの医療機関、医療従事者による取組だけでなく、患者、国民の主体的参加を促進することが重要である。このような認識の下、医療に関する情報を国民、患者と共有し、国民、患者が医療に積極的に参加することを通して、医療の質の向上を図り、医療安全を一層推進していく必要がある。
 患者の安全を最優先に考え、その実現を目指す「安全文化」が醸成されることを通じて、安全な医療の提供と、患者、国民から信頼される医療の実現を目指していくため、以下に掲げる具体的施策に取り組むことが必要である。

 まず、医療の質と安全性の向上の観点から、
(1) 現行の病院及び有床診療所に加え、無床診療所、歯科診療所、助産所及び薬局についても、安全管理のための指針、医療従事者に対する研修の実施等の安全管理体制を整備する
(2) 病院その他の医療施設において院内感染制御体制を整備する
(3) 医療機関等における医薬品や医療機器の安全使用、管理体制を整備する
(4) 医療従事者について、コミュニケーション能力、エビデンスと情報の活用、医療人としての職業倫理等を含めた資質向上を図る
(5) 行政処分を受けた医療従事者に対する再教育について、その義務付けや、助言指導者の養成等の環境整備などの検討を進める(8.で後述)
等の必要がある。
 また、医療事故等事例の原因究明・分析に基づく再発防止対策の徹底の観点から、
(1) 対策のために有効な報告様式の作成、事例の分析方法等を含めた研修内容に関するガイドライン作成、発生予防・再発防止対策に関する医療安全緊急情報(仮称)による周知ルール・システムの明確化等を図る
(2) 医療関連死の届出制度・中立的専門機関における医療関連死の原因究明制度及び医療分野における裁判外紛争処理制度について、様々な検討課題はあるものの、具体化に向けた検討を進める必要があり、平成17年度からの「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を実施する中で課題を整理しながら基礎資料を収集するとともに、医療機関と患者遺族等との調整を担う人材の養成方法等について検討する
等の必要がある。

 さらに、患者・国民との情報共有と患者・国民の主体的な参加促進の観点から、
(1) 医療安全推進週間の行事等を通じ、国及び地方公共団体による啓発、普及活動と、医療機関等によるわかりやすい説明や広報等を推進する
(2) 医療機関等の規模や機能に応じた患者相談体制について検討するとともに、相談担当者に対する研修等を行う
(3) 医療安全支援センターについて、その活動の評価を行いながら、患者の医療への参加を総合的に支援するための機能、医療安全に関する情報の医療機関への提供や患者・国民に対する医療安全教育等に関する機能の付与など、その機能強化を図るとともに、制度的な位置付けについても検討する
等の必要がある。

 国及び都道府県は、安全、安心で良質な医療の確保に必要な基盤整備と人材の確保、それに必要な財源確保について配慮することが必要である。

 医療政策上の最重要課題である医療安全対策に係るこれらの具体的な取組を推進していくため、医療安全対策に関する国及び都道府県の役割、また、医療従事者の役割等を明確化すべきである。

 上記のほか、「今後の医療安全対策について」(「医療安全対策検討ワーキンググループ」報告書(平成17年5月))に整理された、当面進めるべき施策について、取り組んでいく必要がある。


3.医療計画制度の見直し等による地域の医療機能の分化・連携の推進

(1)医療計画制度の見直し等

 昭和60年の医療法改正により制度化された医療計画制度については、基準病床数制度を通じた病床の適正配置、すなわち量的な面での調整の役割を果たしてきているが、質の高い医療提供体制の構築という観点で評価すると、十分に機能を発揮しているとは言い難い。

 このため、住民・患者が安心して日常生活を過ごすために必要な患者本位の医療サービスの基盤づくりを目指した医療計画制度の見直しを行うべきである。その際の考え方としては、自分が住んでいる地域の医療機関で現在どのような診療が行われており、自分が病気になったときにどのような治療が受けられ、そして、どのように日常生活に復帰できるのか、また、地域の保健医療提供体制の現在の姿はどうなっており、将来の姿はどう変わるのか、変わるために具体的にどのような改善策が必要かということを、都道府県が作成する医療計画において、住民・患者の視点に立って分かりやすく示すことを原則とした見直しであるべきである。

 具体的には、それぞれの地域にふさわしい形で機能分化と連携の図られた、望ましい保健医療提供体制を実現していくため、
 主要な事業(がん対策、脳卒中対策、急性心筋梗塞対策、糖尿病対策、小児救急を含む小児医療対策、周産期医療対策、救急医療対策、災害医療対策、へき地医療対策など)ごとに、地域における医療連携体制を構築し、これを都道府県の医療計画に位置づけること
 医療計画に住民の視点に立った分かりやすい指標による数値目標を導入し、評価可能な計画としていくこと
 医療計画の作成からこれに基づいた事業の実施、事業に係る政策評価、そして次期医療計画への見直しという政策の循環が促進されるようにすること
等により、実効性ある医療計画制度となるよう見直すべきである。

 見直し後の新しい医療計画制度によって、地域の医療機能の適切な分化・連携を進め、急性期から回復期、慢性期を経て在宅療養への切れ目のない医療の流れを作り、患者が早く自宅に戻れるようにすることで、患者の生活の質(QOL)を高め、また、必要かつ十分な医療を受けつつトータルな治療期間(在院日数を含む。)が短くなる仕組みをつくることが必要である。

 さらに、補助金をはじめとする政策手段を有効に活用しながら、医療計画の作成主体である都道府県が、自主性、裁量性を発揮し、責任と権限を持って取り組んでいけるよう、また、地域保健・健康増進施策や介護施策との連携も図られたものとなるよう、医療計画制度を見直すべきである。
 平成18年度から、保健医療提供体制に関する国庫補助金を交付金及び統合補助金化することとしている補助金制度の改革等を通じて、都道府県による計画達成を的確に支援することが必要である。なお、患者に対する適切な医療を地域で確保することが医療計画の見直しの目的であることを踏まえ、財政支援に当たっては、例えば在院日数に関する指標による単純な比較を通じて、医療の必要な患者に無理な退院等を強制するようなこととならないよう十分な配慮が必要である。

 医療連携体制については、医療情報が患者と医療提供者との間で共有されることで患者が医療への参加意識を持ちやすくするとともに、病院等の自主的な機能分担と連携の推進により地域全体で診ていく地域完結型医療への変化を促進しようとするものである。
 その構築に当たっては、住民、直接診療に従事する者(医師、歯科医師、薬剤師、看護師等)、保健事業実施者、市町村、医育機関や臨床研修病院の代表等地域医療に関与する者が協議することから始めて、地域に適した体制を構築することが必要である。 その際、調整が必要となる事項等については、地域で「中心となって医療連携体制の構築に向けて調整する組織」が果たす役割が重要となる。
 また、医療連携体制の構築に際し、これを支える高度な医療機能を有する病院については、高度又は専門的な医療の提供の確保はもとより、医療水準の向上、人的な支援といった課題に適切に対応していくことが必要である。

 医療計画に位置付けられる具体的な指標については、患者の視点に立って、疾病の予防(検診)、診断・治療、リハビリテーション・在宅医療・ターミナルケアといった患者の病状の経過や治療のプロセスに対応したものであることを基礎とすべきである。そして指標は、現状を評価することにとどまらず、質の高い効率的な保健医療提供体制の構築に向けたものとすべきであり、具体的な内容について、引き続き検討を進める必要がある。

 上記のほか、「医療計画の見直し等に関する検討会」の中間まとめ(平成17年7月)に整理された医療計画制度の見直しの方向性に沿って取り組む必要がある。なお、基準病床数制度については、医療費への影響の観点、救急医療やへき地医療など採算に乗らない医療の確保、入院治療の必要性を客観的に検証する仕組みが未だ確立されていないこと等から存続が必要であるが、前述の医療計画制度の見直しにより導入される新たな仕組みの実施状況を踏まえ、今後とも検討していく必要がある。また、医療計画の記載事項についても、引き続き検討していく必要がある。

 医薬品や医療機器の提供体制の在り方に関し、医薬分業率が5割まで達しており、薬局が地域において医薬品等の提供を行う上で重要な役割を果たしている施設であることを踏まえ、医療提供体制の中での薬局の役割、位置付けの明確化を検討する必要がある。

(2)かかりつけ医等の役割

 かかりつけ医について、国民が身近な地域で日常的な医療を受けたり、あるいは健康の相談等ができる医師として、その普及・定着を図る必要がある。かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師についても、それぞれの役割が果たせるように、その普及・定着を図る必要がある。
 主要な事業ごとの医療連携体制を構築し、地域において実際に連携がなされるためには、かかりつけ医が、患者の病状に応じて適切な医療機関を紹介することをはじめ、常に患者を支える立場に立って、重要な役割を担うことが求められる。
 患者の視点に立って、どのようなかかりつけ医の役割が期待されるか、また、その機能を発揮するために、サポート体制を含め何が必要か等、各地域での医療連携が適切に行われるよう、かかりつけ医のあり方について、引き続き検討していく必要がある。

(3)地域医療支援病院、特定機能病院制度のあり方

 地域医療支援病院については、すべての二次医療圏において地域の実情等を考慮しながら普及を図るとしていることを踏まえ、へき地医療拠点病院など周辺に紹介・逆紹介先がないような病院であっても、その地域の実情に応じた地域医療の支援を担い地域連携を実施している医療機関が承認を得られるよう、紹介・逆紹介率に係る要件を含め、そのあり方について、引き続き検討が必要である。
 その際、「地域における医療の確保のために必要な支援」を行う医療機関という位置付けにふさわしい機能を現に発揮しているかという観点も持ちつつ、医療計画制度の見直しにおける医療連携体制の構築との関係を踏まえた検討も必要と考えられる。

 特定機能病院制度については、その承認を受けている病院であっても必ずしも病院全体として高度な医療を提供しているとは限らないこと、また、行っている医療の内容に照らし、特定機能病院という名称が患者・国民にとってわかりづらいという問題点の指摘もあり、承認要件や名称を含めた特定機能病院制度のあり方について、引き続き検討が必要である。
 その際、地域の医療連携体制を支える高度な医療機能を有する病院との関係や、専門的な医療を提供するとともに一定の領域に係る専門医の養成・確保等に関わる医療機関との関係にも留意することが必要である。

(4)医療施設の人員及び構造に係る基準や規制等のあり方

 医療機関が人員配置状況などの正確な情報を公開すること、例えば1.に前述した都道府県による医療施設情報の集積、公表が円滑に行われ、患者・国民が必要な情報をわかりやすく得られる環境の整備等がなされるのであれば、人員配置標準について、これを緩和するなど廃止を含めた見直しも考えられる。
 しかし、現状においては上記のような環境が整っていないことから、直ちに人員配置標準を廃止したり一律に緩和することは困難であるが、情報の開示を含めた医療の安全や質の確保を担保できる別の方策との組み合わせにより何らかの見直しを行うことについて、今後の検討が必要である。
 医療機関における人員の配置標準のあり方に関して指摘されている、医療の質の向上や医療安全、医療の高度化等に対応する観点から、病院薬剤師や看護職員等に関し、夜間帯の体制確保も考慮して人員配置標準を充実させることについて、また、病院における外来患者数に基づく医師数の規定の必要性について、引き続き検討することが必要である。
 人員配置標準は、へき地や離島等医療が不足する地域にあっては、へき地医療拠点病院からの支援をはじめ様々な方法により医療の確保が図られているという実情を踏まえ、国が定める標準を下回る配置であっても、都道府県知事が、医療計画等において、医療提供の体制を確保できると判断できる場合には、一定の圏域を指定し、その圏域内の医療機関については、全国一律のものより緩やかに設定する数を上回っていれば「標準を欠く」には当たらない取扱いとする仕組みの創設について検討すべきである。

 平成12年の一般病床における看護職員の配置標準の見直しの際に設けられた、へき地等や200床未満の病院に対する経過措置が平成18年2月末に終了する。この経過措置の取扱いについては、標準数を満たす看護職員を確保するために必要な期間として設けられているという経過措置の趣旨、へき地等における配置の実態や今後の人員配置標準のあり方の議論を踏まえて検討を行い、早急に結論を得るものとする。

 入院機能を有する診療所(有床診療所)は、身近な場所で医療サービスを提供できる利便性のある医療機関として、地域の医療を支える一定の役割を果たしてきている。
 病院と有床診療所に係る医療法に基づく諸基準の違い(48時間の入院期間制限や人員配置標準等)については、有床診療所の機能には、産婦人科・産科を標榜する有床診療所や病院と同様の専門的な手術を行う有床診療所、慢性期の患者を受け入れる有床診療所など、機能の異なる様々な診療所が存在することや、現に地域医療で果たしている役割を踏まえつつ、医療計画制度や診療報酬との関係や、20床以上と未満とで区分することの是非も含め、それぞれの機能に応じた適切なあり方を検討すべきである。

 医療施設の一部の共同利用についての考え方や取扱いを明確にした上で、設備等を所有する医療機関と利用する医師等との契約において責任の所在等を明確化すること等を条件に、効率的で利便性の高い医療提供が可能な共同利用が円滑に実施できるようにすべきである。その際、受付や待合室の共同利用については、未受診の段階での待合室での感染があった場合の責任分担の困難さ等をどう評価するか、といった問題があり、診療に直接供する部分の共同利用とは異なる整理をすべきである。
 また、有床診療所同士での共同利用を行う場合については、構造設備の基準や人員配置標準に関する規制における病院との均衡が問題となることから、有床診療所に係る規制のあり方と併せた検討が必要である。

 検体検査については、今後、医療機能の分化連携を推進していく中で、実施主体にかかわらず、その質を確保していく必要があることから、医療機関自らが行う場合を含め、精度管理の適切な実施を図っていくべきである。


4.母子医療、救急医療、災害医療及びへき地医療体制の整備

(1)母子医療の体制整備

 少子化が進行する我が国において、次世代育成支援の観点から、母子医療の充実を図ることは喫緊の課題である。
 母子医療のうち、周産期医療については、妊娠・出産の安全を確保する身近な周産期医療施設の役割分担と連携を推進することとし、安心して出産できる体制が構築できるよう、各都道府県が最低1か所は総合周産期母子医療センターを設置することを含め、全都道府県に周産期医療ネットワークを構築し、これを医療計画に位置づけていくことが必要である。また、これを担う人材確保を図るための具体的方策の検討が必要である。

 また、小児医療については、各地域において、医療連携体制を構築し、これを医療計画に位置づけていくことを通じ、地域での小児医療施設の再編・集約化や診療所と病院との連携強化を図り、また、休日夜間の電話相談体制の整備や、ITの活用による小児科専門医の診療支援を通じて遠隔地や時間外でも小児の症状に応じた適切な医療が効率的に行えるようにするなど、患者の受療行動に応じた切れ目のない保健医療提供体制を構築することが必要である。

(2)救急医療及び災害医療の体制整備

 救急医療については、休日夜間を含む初期、2次、3次の救急医療体制が体系的・効率的に整備できるよう、地域の事情に応じて小規模の新型救命救急センターを設置するなど、各地域において、医療連携体制を構築し、これを医療計画に位置づけていくことを通じ、各地域において、いわゆる「患者のたらい回し」が起こることのない体制を構築することが必要である。
 また、AED(自動体外式除細動器)の普及を含む傷病者の身近にいる者による救護の強化のため、国民への啓発・教育を充実することが重要である。さらに、救急救命士の事前事後の評価体制を強化するなど、救急搬送体制の強化が必要である。このような取組を通じ、地域全体で以上の活動を適切に把握・評価し、関係者へ還元する体制の構築が必要である。
 精神科救急医療についても、緊急時の適切な医療及び保護の機会の確保のため、都道府県単位での体制づくりが必要である。

 災害医療については、自然災害やテロ等の災害時に迅速に対応できるよう、各地域において、医療連携体制を構築し、これを医療計画に位置づけていくことが必要である。特に、被災地外に患者を搬送するための広域医療搬送体制の構築や、被災地における基幹となる医療機関への他の医療機関からの支援など、通常の診療体制から大きく変化して対応する体制の構築をあらかじめ想定・準備することが重要である。
 また、災害医療の基礎として、平時より、各医療機関が、災害に強い施設・設備の構築と体制づくりに取り組むことが重要である。

(3)へき地医療の体制整備

 へき地医療については、拠点となる医療機関がへき地にある診療所を支援し、へき地診療体制を広域的に展開することが必要であり、医療計画に医療連携体制を位置付け、具体的な取組を進める必要がある。
 具体的には、
(1) へき地診療所や巡回診療等による「へき地・離島保健医療の確保」、
(2) へき地医療支援機構による代診医の派遣調整や研修、情報通信技術を活用した診療支援等による「へき地・離島の保健医療サービスを担う医師等に対する支援」、
(3) 医師に対する救急医療講習や搬送体制など「救急医療の確保支援」
等の具体的な支援方策が考えられるところであり、これらの他、「へき地保健医療対策検討会」の報告書(平成17年7月)において整理されているものも含め、平成18年度からの第10次へき地保健医療計画において実施すべく検討を進めていく必要がある。

 また、同報告書において、へき地・離島の保健医療提供体制の維持、向上に関わる、国、地方公共団体、医療機関や自治医科大学をはじめとする医育機関、関係学会、 医療従事者それぞれに求められる責務等が整理されている。5.で後述するが、へき地・離島医療に従事することに対して、あるいは、へき地・離島で医療を提供することに対して、インセンティブを与える方策について、国による制度的な対応についての検討が必要であり、関係省庁や地方公共団体、医育機関、関係学会等も含めた各関係者における幅広い検討が求められる。

(4)これらの取組と新しい医療計画との関係

 医療計画の見直しに際し、3(1)に記載したとおり、母子医療(周産期医療及び小児医療)、救急医療、災害医療、へき地医療など主要な事業ごとに、地域における医療連携体制を構築して医療計画に位置付け、また、住民の視点に立った分かりやすい指標による数値目標を導入し、評価可能な計画としていく方向を示している。そして、計画の策定から実行、政策評価、次期計画の見直しという考え方を、医療計画に盛り込むこととしている。
 こうした新しい医療計画に位置付けることにより、各地域において、これらの対策がどのような体制を目指しているのか、また、どれだけ進捗しているか等の評価が可能となるものである。
 なお、医療計画の達成に向けて、これらの医療を地域で担う医療機関に対する支援も、地域の実情に応じて行われるべきものと考えられる。


5.地域、診療科等での医師の偏在解消への総合対策

 医師の地域偏在の解消に関しては、
(1) 離島やへき地での勤務への動機付け(医師のキャリア形成における地方勤務の評価、都道府県又は地域ブロック内でのキャリア形成を可能にする医師育成システムの構築等)、
(2) 離島やへき地での勤務への阻害要因の軽減・除去(へき地勤務医師が学会に出席するときの代診医の派遣などバックアップ体制の強化、地方医療機関と勤務希望医師とのマッチングの推進、ITを活用した遠隔診療の推進等)、
(3) 医師の分布への関与(医学部の定員に当該都道府県出身者に係る特別枠を設ける地域枠の拡大、臨床研修における地域診療の推進等)、
(4) 既存の医療資源の活用(大病院を退職して地域医療に従事しようとする医師への再就業支援講習、医療関連職種や事務職員との連携など医師の業務の効率化等)
 などが考えられるところであり、関係省庁とも連携し、幅広く検討していくことが必要である。

 産科や小児科、救急医療など診療科・部門による偏在の解消に関しては、
(1) 診療報酬での適切な評価など不足している診療科への誘導、
(2) 不足している診療科における診療を阻害する要因の軽減・除去(地域内の病院・診療所の協力体制の整備、電話相談事業の活用などによる夜間救急患者の集中緩和方策等)、
(3) 既存の医療資源の活用(これらの診療科に係る地域内の医師等の集約化の推進、女性医師の多様な就業への環境整備、麻酔科医の確保等)
が考えられるところであり、医療計画に事業ごとの医療連携体制を位置付け、4(1)(2)に記述したような母子医療や救急医療の体制を整えていくことと合わせ、幅広く検討していくことが必要である。

 医師の地域偏在や診療科等での偏在は、患者、国民の医療の確保にとって極めて重要な問題であることから、関係省庁とも連携し、早急に総合的な対策を取りまとめるべきである。


6.在宅医療の推進

 在宅医療は、患者のQOLの維持向上という観点から、乳幼児から高齢者まで全世代を対象として、その推進がなされるべきものである。もとより、 入院治療が望ましい場合や、患者や家族が在宅での療養を望まない場合にまで強要される性格のものではなく、介護保険等の様々な施策との適切な役割分担・連携も図りつつ、患者・家族が希望する場合の選択肢となり得る体制を地域において整備することが重要である。
 特に、高齢化の進展が著しい我が国において、高齢者に対する医療をどう確保していくか、とりわけ、人としての尊厳の保持という観点も踏まえ、終末期医療を含む在宅医療をどう確保していくかは、今後の大きな課題である。
 具体的には、高齢者が、できる限り住み慣れた家庭や地域で療養しながら生活を送れるよう、また、身近な人に囲まれて在宅での死を迎えることを選択できるよう、支援する体制の構築を一層推進する必要がある。

 在宅医療に関する患者・国民の選択に資する情報が積極的に提供される環境整備、在宅医療を担うことのできる人材の養成、在宅医療に係る地域の医療連携体制の構築など、医療提供体制改革の各課題の解決が、在宅医療の推進につながると考えられる。
 訪問看護サービスの充実・普及、薬局・薬剤師の積極的な関与、医療機関における退院調整機能の促進など、主治医をはじめ、多職種が協働して患者を支える体制整備が必要であり、在宅医療に係る医療連携体制を地域ごとに構築することが必要である。また、原則として医行為でない行為についての医政局長通知(平成17年7月26日医政発第0726005号)が出されているところであり、この周知を図ることが必要である。

 終末期を家庭で迎えるためには、かかりつけ医と容態急変時の受入病院の確保や、死亡診断書や麻薬の取扱いの問題など、新たな看護のあり方に関する検討会報告書(平成15年3月)を踏まえ、関係者の連携と総合的な取組を図る必要がある。
 なお、在宅医療の場面に限られるものではないが、終末期の医療のあり方について、終末期医療に関する調査等検討会報告書(平成16年7月)を踏まえ、現在、望ましい終末期医療に関するガイドライン作成のための研究が行われているとともに、立法府において尊厳死の法制化に関する議論が開始されているところであり、人の尊厳ある生き方を支えるという観点に立って、医療界と法曹界とを交えた真剣な国民的議論が行われることが望まれる。


7.医療法人制度改革

 我が国の医療提供体制の主体として大きな役割を担っている、民間の営利を目的としない法人である医療法人は、昭和25年に医療法に制度上位置付けられて以降、50年余りの間に若干の制度改正を経て、現在に至っている。

 医業経営に関しては、疾病構造や社会経済状況が変化する中で取り巻く環境は厳しさを増しているが、医療法人制度について、非営利であることは明確に確保しつつ、経営の透明性や効率性を高め、地域の信頼を得ながら、地域に必要な医療を担う安定的な運営を行えるような仕組みを確立していく必要がある。

 具体的には、医療法人制度全体について非営利性をより明確にしていくとともに効率性や透明性の向上を図ること、また、剰余金の使途や情報開示のあり方、経営人材の育成等について、公益法人制度改革も参考にしながら検討することが求められる。併せて、従来は国や地方公共団体が直接実施することが当然と思われていた分野についても、高い公益性がある医療法人が、都道府県が作成する医療計画に基づいた医療を積極的に担っていく方向を目指す必要がある。

 また、安定した医業経営の実現の観点から、資金調達手段の多様化や、地域の住民や企業が寄附等を通じて医療法人を地域で支えていく仕組みを検討する必要がある。

 このような制度の見直しが円滑に行われるよう、医療法人の公益性の内容を明確にした上で、高い公益性のある医療法人への寄附金を促進する等の税制措置が講じられるべきである。

 なお、法人設立等の際の財産拠出者に係る「持ち分」の取扱いについての見直しを行う際には、非営利性の徹底等医療法人制度改革の趣旨を踏まえつつ、医業経営の継続性を確保する観点から、新制度への移行については、各法人の自主的・自立的な取組を基本として、適正な法人自治に基づいて移行が行われることが肝要であり、法人運営に支障を来すことのないよう、必要な経過措置等を講ずるべきである。

 上記を含め、医療法人が、医療提供の主体として中心的な役割を果たしていけるよう、「医業経営の非営利性等に関する検討会」において基本的な方向性として示されている医療法人制度改革の考え方(平成17年7月)に沿って、非営利性の徹底、効率性の向上、透明性の確保、公益性の確立、安定した医業経営の実現等の各論点にわたり、引き続き検討を進め、その実現を図ることが必要である。


8.医療を担う人材の養成と資質の向上

 平成10年に行われた医師の需給見通しにおいては、医師の需要を最大、医師の供給を最小に見積もっても、平成29年(2017年)には医師が過剰になるという推計が示されている。医療の高度化、専門化等による需要面の変化や、医師の高齢化、女性医師の増加など供給面の変化など、その後の医療を取り巻く環境の変化や社会経済状況の変化等を踏まえた需給推計を行い、定量的な調査・分析を行うとともに、今後取り組む課題について検討する必要がある。

 一方で、現状の医師の需給状況をみたとき、患者及び医師の双方から見て、医師は不足していると感じられる場面が多く、医療機関、診療科等、時間帯、地域による医師の偏在が指摘されている。医師の地域偏在と診療科等による偏在は、喫緊の課題として対応する必要があり、5.に記載した対策について早急に検討することが必要である。

 上記のほか、「医師の需給に関する検討会」の中間報告書(平成17年7月)において整理されている課題について、引き続き検討していくことが必要である。

 歯科医師数については過剰な傾向にあるため、今後の歯科医師の需給バランスについて検討を行うことが必要である。

 現状においては、医業停止を受けた医師(被処分者)は、医業停止期間を過ぎれば、特段の条件無く医業に復帰することができるが、被処分者は、職業倫理の欠如や医療技術の未熟さ等があって、期間を定めた医業停止という行政処分のみでは、十分な反省や適正な医業の実施が期待できないことが指摘されている。
 このため、被処分者に対して再教育を義務づけること、及び新たな行政処分の類型の新設を検討することが必要である。
 「行政処分を受けた医師に対する再教育に関する検討会」報告書(平成17年4月)において、再教育のあり方(目的、内容、対象者、助言指導者、再教育の提供者等)について整理し、医師法改正による被処分者に対する再教育の義務付けや、助言指導者の養成等の環境整備等を提言しているところであり、報告書の具体化に向けた検討を進めるとともに、看護師等についても、行政処分を受けた後の再教育についての検討が必要である。
 また、上記報告書においては、戒告など医業停止を伴わない新たな行政処分の類型を設置することや、長期間の医業停止処分について、免許取消とするかあるいは一定期間の医業停止処分と十分な再教育を併せて課す方向へと移行させていくことなど、行政処分の在り方等について検討が求められており、これらの課題について、引き続き検討を進めるべきである。

 医師及び歯科医師の臨床研修の円滑な実施、医師、歯科医師、看護師などの国家試験について、問題の公募や出題内容、形式の見直しなど、養成課程も含め、各資格者の資質の向上につながる施策を積極的に進めるべきである。

 本年中に策定する新しい看護職員需給見通しを踏まえ、看護職員の養成・確保を計画的に進める必要がある。
 患者の視点に立って医療安全を確保する観点から、(1)看護師資格を持たない保健師及び助産師の看護業務、(2)看護師等の名称独占、(3)行政処分を受けた看護職員に対する再教育、(4)免許保持者の届出義務等の論点については、「医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法等のあり方に関する検討会」の中間まとめ(平成17年6月)において、一定の制度の見直しを行う方向で整理がなされているところであり、必要な措置をすべきである。このほかの、新人看護職員研修等、資質や専門性の向上の論点について、引き続き検討していくことが必要である。

 このほか、医療を担う様々な職種の人材の確保と資質の向上に取り組む必要がある。また、国及び都道府県は、保健医療行政を担う職員の人材育成に努める必要がある。

 専門医については、現在、国は、広告規制制度の中で、研修体制、試験制度等の基準を満たした学会による認定専門医を、医療機関等が広告できる事項としているにとどまり、専門医の質の確保については各学会に委ねられているが、専門医の質の確保に当たり、国あるいは公的な第三者機関が一定の関与を行う仕組みとすることを含め、医療の質の向上と医療安全のさらなる推進を図る上での専門医の育成のあり方について検討すべきである。
 また、心臓外科や血管外科等特に高い専門性が求められると考えられる一定の領域について、専門医の養成・確保や専門的医療を行う病院の位置づけを通じて、医師の専門性を評価する仕組みとすることも考えられる。


9.医療を支える基盤の整備

 医薬品・医療機器の研究開発の推進について、健康フロンティア戦略の一環として、画期的な医薬品・医療機器の研究開発の促進のため、(1)近年、進歩が著しいゲノム科学等のバイオテクノロジーやナノテクノロジーなどを活用した「先端医療の実現」に向けたライフサイエンス研究の重点的な推進、(2)トランスレーショナルリサーチ(基礎研究から臨床研究への橋渡し)の一層の充実を図る必要がある。
 また、政策的観点から重点的に医薬品の開発を進めるべき分野における創薬を推進する必要がある。

 治験のネットワーク化の推進、治験コーディネーターの養成確保、国民に対する治験の意義等に関する普及啓発等を内容として平成15年4月に策定された「全国治験活性化3か年計画」が本年度で終了するが、さらに治験環境の充実を図るため、平成18年度以降も引き続き、治験の活性化を計画的に推進するための方策を講じていくべきである。

 臨床研究基盤の整備について、地域における治験実施機関の充実を図るとともに、患者や被験者への情報提供の拡充を図るため、臨床研究登録制度の構築を検討する。また、治験のみならず臨床研究全体の推進を図るため、がん及びその他の疾患を対象として、データマネジメントや関係職員の研修等を行う体制の整備を検討する必要がある。さらに、臨床研究基盤の整備の一環として、高度な専門性を有する人材養成のあり方についても検討する必要がある。  医療の水準についての科学的な検証を可能とする研究開発や情報提供の基盤整備について、今後の課題として検討する必要がある。

 また、厚生労働科学研究費補助金については、より戦略的・機動的な配分ができるよう、厚生労働省の既存施設等機関の専門性に着目し、研究事業の内容に応じて、その配分機関機能を付与する方向で検討すべきである。

 電子カルテやレセプト電算処理の普及など医療の情報化については、医療の質の向上や効率化の支援を図る有力な手段として位置付け推進してきている。患者と医師との信頼関係を基本としつつ、情報化の今後の一層の推進のためには、安価で有用性の高い標準的電子カルテの開発に向けた産業界の取組と連携して、セキュリティ確保等の必要な基盤整備を図りながら、電子カルテによる医療上の効果や患者のメリット等を踏まえたインセンティブの付与など、効果的な普及方策を検討し、積極的に推進すべきである。
 特に、患者への充実したわかりやすい情報提供や地域の医療機関内外の連携促進など、国民の視点を重視した医療の実現という情報化の目的を明確化しつつ、電子紹介状の推進、電子カルテの地域共同利用の推進や、医療計画制度における医療機能連携促進の基盤としての位置付けなど、地域全体で適切かつ効率的な情報化を指向していくことが必要である。

 また、ヒューマンエラー等が発生しやすい部門や手技については、IT機器等の適切な運用管理により、IT化に伴うリスクを考慮しつつ医療安全確保策を講じるとともに、患者との情報共有が推進される必要がある。さらに、離島やへき地の患者等に対して、地域の実情に応じた利便性の高い効果的な医療サービスが提供されるよう、ITを活用した遠隔診療の取組をさらに推進することが必要である。

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