05/07/12 第24回今後の労働契約法制の在り方に関する研究会議事録         第24回 今後の労働契約法制の在り方に関する研究会                       日時 平成17年7月12日(火)                          17:00〜19:00                       場所 厚生労働省6階共用第8会議室 ○菅野座長  定刻になりましたので、ただいまから第24回の「今後の労働契約法制の在り方に関す る研究会」を始めさせていただきます。本日はお忙しい中をお集まりいただきましてあ りがとうございます。  本日は、内田先生、春日先生から御欠席との御連絡をいただいております。まず本日 の資料の構成等について、事務局からの説明をお願いします。 ○労働基準局監督課調査官(秋山)  本日の資料の構成について御説明いたします。お手元の資料のうち、資料1は、前回 御議論いただいた労働関係の展開に関する資料で、前回の御議論を踏まえて一部修正し てあります。資料2から4までは、前回に引き続き本日議論いただきます「労働関係の 終了」についての資料です。このうち資料3の表は、前回の御議論を踏まえて、一部修 正をしてあります。  資料5から9までは、有期労働契約に関係する資料で、このうち、資料8では、最近 の裁判例を含んで、有期労働契約に関する裁判例を載せてあります。  資料10から15は、労働契約法制の総論に関する資料です。  資料16は、毎回提出している中間取りまとめについて、なお検討すべき論点について の資料で、資料17は第22回の研究会の指摘事項です。 ○菅野座長  ただいまの御説明にもありましたように、本日は労働関係の展開の資料の修正を御確 認いただいた上で、前回に引き続き、労働関係の終了を議論し、その後、有期労働契約 と総論について議論していただきたいと思います。  最後の総論の資料11については、労働契約法制の対象とするものの範囲、労使委員 会、総則規定の必要性、労働契約法制における指針の意義の四つの問題を扱っています が、本日は、最初の「対象者の範囲」までは必ず検討したいと考えており、できれば2 番目の「労使委員会」のところまで議論を進めたいと思っておりますので、よろしくお 願いいたします。  それでは、まず前回の労働関係の展開に関する議論を踏まえて、事務局において資料 の修正を行ったとのことですので、説明をお願いします。 ○労働基準局監督課長(苧谷)  資料1の3頁の就業規則の変更です。前回村中先生から、「推定が働かない場合とい うのが、合理性が推定される場合のすべてであるとの誤解を招かないようにすべきであ る」という御懸念がありましたので、「合理性の推定が働いた場合にも、これを覆して 合理性が認められないこととなる事情を、何らかの方法で例示する必要がある」と書い て、その懸念を払拭する規定を設けてはどうかということで書いています。  7頁の右下ですが、土田先生から御指摘があって、「使用者の意図として口頭注意を 懲戒として行う場合にこれを書面通知させることの整合性や、戒告・口頭注意を無効と することの法的意義が不明確であること及び使用者の負担を考慮するならば、労働者に 与える不利益が明確な懲戒処分に限って書面通知を求めることが適当である」として、 「一方、どのような処分であっても懲戒として行えるものであれば労働者にとって不利 益(不名誉)なものであり、また懲戒はそれほど日常的に行われるものではないことを 考えると、使用者が懲戒処分として行う行為についてはすべて書面通知を必要とすべき との意見があった」と書いています。  10頁の右側の線を引いた競業避止義務については「競業が使用者の正当な利益を侵害 すること」という要件だったのですが、あとは均衡原則があるだろうということで、 「侵害される労働者の利益と競業避止義務を課す必要性との間の均衡が図られているこ とを要件とすべきである」と修正いたしました。 ○菅野座長  ただいま御説明いただいた点は、前回の議論を踏まえた修正になっていると思います が、これでよろしいでしょうか。  それでは、そのようにさせていただきます。本日の最初の議題の「労働関係の終了に ついて」、前回に続いて資料3に沿って議論いただきたいと思います。前回は解雇の金 銭解決制度についての議論を途中まで行いました。前回の議論を踏まえて資料3の修正 を行った箇所について、事務局からの御説明をお願いいたします。 ○労働基準局監督課長  資料3の1頁の右側の列の一番上に線を引いてありますが、「客観的に合理的な理由 となり得るような解雇事由の類型を明らかにすること」と書きました。最初は少しごち ゃごちゃしていましたが、整理してこのような表現にしました。下の段の二つ目の欄も 同じです。一番下に書いてありますが、「弊害が生じ得る」というように少し表現を直 しました。  2頁は少し表現を入れ、労働組合や過半数代表者から説明・協議を求められた場合に ついて、少なくとも労働者が同意していた場合もあるだろうということで、「労働者の 同意を得ずに、過半数代表者等に対して労働者が解雇されるという事実や非違行為等を 示すことになれば、被解雇労働者の個人情報の保護などの問題もあるのではないか」と いう形で、表現を少し変えています。  3頁の下の欄ですが、「違法な解雇を行った使用者に金銭解決の申出を認める必要は ないのではないか」ということに対して、除外するものとして、性、人種、信条等を理 由とする「差別的な解雇」あるいはそのような公序良俗に反するものと言っていました が、ほかに何があるのかということで、「労働者の正当な権利行使に対する報復的な」 解雇の場合にも申出を認めないという形で整理しました。下の「差別的・報復的な」解 雇も同じ趣旨です。 ○菅野座長  前回の議論を踏まえた修正だと思いますが、よろしいでしょうか。 ○荒木先生  いまの修正の点については、これで結構だと思います。2頁の整理解雇の各指摘に対 する考え方で、四要素にこだわらない近年裁判例では、判断のばらつきを生じさせてい るということもありますが、そこで解雇権濫用判断の予測可能性を向上させて紛争を予 防・早期解決させるためには、必ず考慮に入れなければならない要素を示すことが必要 であるという点で、この要素を一つでも考慮せずに判断してはいけないということを書 くことになるのでしょうか、それを確認したいのですが。 ○労働基準局監督課長  「必ず考慮に入れなければならない」ですので、この要素がすべて該当しなければい けないとまで言っているわけではありませんが、裁判官として、個々についてまず判断 する必要があるという趣旨ですから、全部満たさなければいけないということまで言っ ているわけではありません。 ○荒木先生  四要件説とか、四要素説などいろいろ議論がありますが、この四つの事項について は、通常考慮されていることを法律上、例示することが、あるいは適当ではないかとい う気がしているのですが、いかがでしょうか。 ○労働基準局監督課長  左側に書いてある中間報告の取りまとめと同じような書き方でよろしいのではないか と思います。要するに、「人員削減の必要性、解雇回避措置、解雇対象者の選定方法、 解雇に至る手続等を考慮しなければならない」と例示的に書いてあるわけです。 ○荒木先生  「必ず考慮に入れなければならない」というのは、四つのうち一つでも欠けると駄目 だと言っているようにとられるのではないかということで、そこがちょっと気になりま した。 ○労働基準局監督課長  ここは考え方を示しただけで、最終的な考え方は中間取りまとめにそのまま出ている ことですが、少し表現がきついというのであれば。 ○菅野座長  荒木先生、どうすればいいですか。 ○荒木先生  「判断に当たって考慮対象となる事項を法律では例示する」というのでは弱すぎます でしょうか。 ○菅野座長  「考慮に入れるべき要素を法律で例示する」という感じですか。「考慮に入れるべき 要素を法律で示す」でもいいですか。 ○荒木先生  そういう表現だったらいいと思います。 ○菅野座長  そういうのではいかがでしょうか。そこも併せて修正するということで、ほかにいか がでしょうか。それでは、いまの新しい修正も含めて御提案の修正を入れることにし て、指摘に対する考え方に述べられている点については最終報告案に盛り込んでいただ くことにして、その上で前回に引き続いて議論をしていただきたいと思います。資料3 の3頁の「解雇の金銭解決制度について」途中まで議論していただいたので、そこから 議論をお願いしたいと思います。 ○村中先生  3頁に下線で入れていただいた「差別的解雇」「労働者の正当な権利行使に対する報 復的な解雇」という表現ですが、これは有期契約の場合でも出てきて、正当な権利行使 に対する報復というときの正当な権利行使の範囲として、どの程度のことがイメージさ れているのでしょうか。これは労働法上の権利の行使ということですか。 ○労働基準局監督課長  イメージは例として言っているのは、例えば、年次有給休暇を取得するなどというの は、明らかに権利みたいなものがありますし、セクハラを受けましたと申し出をすると いうものもあるでしょうし、育休を取ったなどというのもあるかもしれませんが、一般 に当然の権利として考えられているであろう類型です。 ○村中先生  表現としては、このようになるのでしょうか。 ○菅野座長  報告書の中では、もう少し詳しく例示するのでしょうね。 ○労働基準局監督課長  有期のほうで出ている中間取りまとめでは、年次休暇の取得等を正当な権利の行使と 書いてありますので、同じように例示はあると思います。 ○土田先生  いまのと関連して、有期雇用では、「正当な権利行使を理由とする」という表現だっ たと思います。前回休んだのでわからないのですが、「報復的な」という主観的な意図 を要件とするという意味ではなくて、「正当な権利行使を理由とする」というほうが広 くなり、そのほうが妥当かなという気がします。 ○労働基準局監督課長  単にここでは修飾語を書いているだけで、実際に法律で書くときには、「それを理由 とする解雇」ということになります。 ○土田先生  「報復的な」だと、主観的な報復の意図が入るような印象もあるので、それだったら 「理由とする」のほうがいいような気もします。 ○菅野座長  イメージされたのは同じだと思います。労働組合法第7条第1号も「故を以って」と いうのを「報復的」と表現していますから。ほかに金銭解決制度について、いかがでし ょうか。 ○村中先生  4頁の労働者からの金銭解決申立てですが、金銭解決を認める判決が確定してから、 まだ猶予があることになります。そこで労働者が辞職の意思表示をしないことにする と、請求権は失いますが、契約は続いているという話になります。30日という期限は切 られているにしても、使用者の地位が不安定になりすぎはしないかとの危惧がありま す。使用者としては、金銭解決で決着がついたと考えるでしょう。 ○労働基準局監督課長  労働者から申し立てている場合ですので。 ○村中先生  使用者としても労働者が申し立てたから、金銭解決になると考えるわけで、判決が出 たにもかかわらず、さらにそこでまた労働者が気が変わったと言って、結局契約が続い ていましたというのは、使用者としてもびっくりはしないでしょうか。解雇が無効なの だから、使用者としてはどうされても仕方がないと言えば、仕方がないのかもしれませ んが。使用者側の地位が不安定すぎはしないかと心配になるのですが、そんなことはあ りませんか。 ○労働基準局監督課長  あまり長い期間ですと、確かに不安定ですが、30日ぐらいが適当かなということで30 日にしたのです。 ○村中先生  労働者側にとっても、そういう申立てをする段階で決めているわけですから、もう一 度考えさせるチャンスを与える必要が実際にあるのかなという気がします。手厚いと言 えば、手厚いのかもしれませんが。 ○労働基準局監督課長  辞職と引換えの給付判決という形でやっていますので。 ○村中先生  その仕組みからはこうしかならず、一定期間というものを短くするとか、そういう工 夫はあるということでしょうか。 ○労働基準局監督課長  クーリングオフのように8日間とか。 ○菅野座長  仕組み自体がそうだと1カ月ぐらいかなという感じもしますね。 ○曽田先生  その引換えで労働者の雇用関係を終了させるというか、そういう申立てなのですよ ね。給付判決が出て解決金の給付と引換えに辞職を認める。 ○労働基準局監督課長  辞職届を出すのと引換えにお金を払いなさいと使用者に命じる。 ○曽田先生  出すのと引換えにお金を払いなさいと。その判決が確定しても、なお労働者のほうに は辞職届を出すか出さないかの自由があるということなのです。判決が確定しても、も しかしたら出さないかもしれませんね。途中で気が変わっても訴えの取下げが認められ なくなってしまうこともありますから、そういう意味では訴訟は起こして、判決は勝ち 取ったが、もう一回残りたいという判断をしたときに、ある程度認める必要があるかも しれないということでしょうか。 ○労働基準局監督課長  戻る戻らないだけではなく、未払賃金の問題もありますので、一旦は整理をきちんと つけて、解雇無効ではっきりさせてもらったあと、辞表を出すかどうかを判断させてく れと。 ○山川先生  前回出られませんでしたので、議論がずれるかもしれませんが、いまの点で、労働者 側から金銭解決を求める者は、いわゆる原職復帰の地位の無効確認の訴えと併合して金 銭請求の訴えの提起をする。無効確認の訴えが確定した段階で辞職の申出をすることと 引換えに金銭給付せよという判決を、解雇無効確認と同時に下すというスキームになる と思いますが、当初労働者側が金銭解決を求める訴訟を提起するときに、一体何を言え ばいいのかという問題が出てきて、解雇が無効であると言わなければいけないが、それ は主たる請求ですでに主張立証すべきことであるから主たる請求に含まれていることに なります。もう一つは、金銭給付を選択することになると、その金額をどうするかとい う問題があるのですが、金額も示すということがあります。  もう一つ問題になるのが原職復帰の意思がないことを併合する訴えで言うかどうかが あって、それが辞職の申出とどういう関係にあるのか。請求の中で合意解約というか辞 職の申出自体が含まれるとすると、このスキームとはちょっとずれてくるから、そうで はない。つまり、辞職という要素を、併合される訴えにおいて、特に言う必要はないの かどうか。あるいは金銭給付を求めるというのは、将来辞職をすることを予告ないし条 件として示していることになるのか、そういう位置づけでしょうかね。 ○労働基準局監督課長  解雇の無効確認ができるかどうかというのが大きな問題になり、むしろ地位確認だと 思います。今までちゃんと労働者としているのだぞという地位確認をしてもらう。そう すると、給料も全部払ってもらえるなどということを、全部整理した上で、それで一応 溜飲は下がったが、どうも戻れる状態ではないから、辞表を出した段階で解消する。し かし、それははっきり白黒つくまでちゃんと身分は明らかにしてほしい。将来的にどう も無理だというときには、ちゃんと辞表を出すから、もともと集団的に約束としていた 金額の解決金を払ってくれということを、裁判所に同時に言っておくという形になるの で、地位確認や賃金の請求と引換給付判決とが併合する形で最初から請求するという形 になります。 ○山川先生  その場合は解消判決ではなく、雇用契約の終了は辞職によって終了するということで すね。 ○労働基準局監督課長  そうです。 ○山川先生  そうすると、実際には労働者側から金銭解決の申立てをするというのは、それほど重 い主張立証をすることはなくて、「金銭給付の判決をしてください」と言えば、あと は、判決が確定した段階で辞職の申出をすれば、引換給付判決に則って支払いがなされ るというスキームですね。 ○菅野座長  そういうスキームにするということだと、あとは30日を短くするかどうかだけになる と思います。 ○村中先生  そういう制度ということですね。そういうものだという認識が定着すれば、それはそ れで動くだろうと思います。その場合、賃金はどこまで払うのですか。 ○労働基準局監督課長  判決が確定するまで地位が確認されていれば、そこまではもらいます。 ○村中先生  辞職するまで払うのですか。 ○労働基準局監督課長  もちろんそうなるのでしょうね。辞表を提出して完全に受理された状態のときまでで す。 ○菅野座長  辞職の意思表示は、またそこから3カ月後とかにはできないのですね。 ○労働基準局監督課長  それはできません。 ○菅野座長  即時の効果が生ずるものとしてさせるのでしょうね。 ○労働基準局監督課長  ちゃんと受理したときです。 ○荒木先生  辞職だったら、それから2週間というのをどうするかです。 ○菅野座長  2週間が適用されるのか、それとも辞職の申立てを解約の申立てとして使用者が解約 をすると即時に解消されますね。そこまでは詰めていませんでしたね。 ○労働基準局監督課長  その辺に限ってはその場で終了するとすればいい話なので、スキームの大枠がわかれ ば、あとは細かいことは確かにありますが、そこはそう書けばいいのではないかと思い ます。 ○曽田先生  解決金の支払いを受けるのと引換えなのですから、解決金の支払いを受けたときに地 位も失うのでしょうか。そうではなくて、意思表示をしたときに。 ○労働基準局監督課長  そうではなく、辞表を出すのと引換えに、あくまで給付判決をもらうというのが目的 で、解決金をもらいたい。その前提として辞表を出すのです。お金をもらうのと引換え ではなく、辞表を出すのと引換えにお金をくださいということです。 ○曽田先生  そういう意思表示をしますが、現実に使用者側がお金を払うのが遅れる場合がありま す。その場合、この地位をそのまま有するというのは、意思表示をしていない場合はも ちろん地位を有するのはわかるのですが、意思表示をしたあとはどういうことになりま すか。 ○労働基準局監督課長  あとは確定判決違反が生じていますから、民事執行の話になりますので、民事執行の 手続に基づいて執行文をいただいたり、強制執行をするという形になると思います。 ○曽田先生  そうすると、意思表示が到達したときに地位を失うという考え方ですか。 ○菅野座長  そういうのであれば30日というのは、そんなところかなという感じがしないでもない のですが。 ○村中先生  法定の解約権ですね。 ○菅野座長  ほかにもいろいろあるので、金銭解決は前回もだいぶ検討していただいていますか ら、このぐらいにしたいと思います。それでは、金銭解決に関するこの表の右段の「各 指摘に対する考え方」を中心に整理したものをここに盛り込むことにしていただきたい と思います。  次は資料3の6頁の「合意解約、辞職」についてです。事務局から御説明をお願いし ます。 ○労働基準局監督課長  4の「合意解約、辞職」です。右側ですが、最初のところは労働側の意見の中で労働 者の合意解約の申込みや辞職の意思表示については、別に使用者の働きかけに応じたも のでなくても、とにかくすべて一定期間撤回できるようにしたらどうかという意見があ りましたが、「一律の撤回を認めると、完全に自由な意思で退職をした労働者にも撤回 を認めることにならざるを得ず、制度の安定性を阻害するため適当ではない」のではな いかと考えて、このように規定しました。  これは日本経団連をはじめとして、使用者側の意見として次の段にありますように、 労働者の真意によらない退職の意思表示については、錯誤、詐欺、強迫による無効・取 消制度がある。これと別にさらに、そういう撤回権を与えると、使用者にとって著しく 不利だという意見がありました。これについては、「錯誤、詐欺、強迫までは認められ ない場合であっても、労働者が使用者から心理的な圧力を受けて退職の申出をすること があり得ることや、退職により労働者が収入の途を失うという意思表示の帰結の重大性 を考えると、一定の場合の撤回は認める必要があるのではないか」と書きました。  これは全く別の経団連等の意見ですが、現在、民法第627条により労働者が労働契約 の解約を申し出れば、2週間の経過ですでに雇用契約は終了する。それで退職はできる としていますが、使用者のほうは30日経たなければいけないということと均衡が崩れて いるという言い方です。  これに対しては、労働基準法の解雇予告期間の30日というのは、「労働者にとっては 突然解雇されれば賃金を得られず生活ができなくなるという重要性にかんがみ必要とさ れているものである」。  それに対して第627条は手続等の関係で2週間とあるわけですが、「使用者の経営上 の利害と労働者の生活上の重要性を同列に論じるべきではないのではないか」としてい ます。 ○菅野座長  いかがでしょうか。使用者の働きかけというのは明確なのでしょうね。最高裁の判例 になった人事部長に提出したという事件は働きかけがなく、単に軽はずみで出してしま ったのでは駄目だということですね。 ○土田先生  退職勧奨ですね。 ○菅野座長  退職勧奨にもならない。 ○土田先生  確認ですが、大隅鐵工所事件などがそうですが、一方的な解約の意思表示の場合には 撤回はできないが、合意解約の申込みについては、使用者の承諾の意思表示がされるま では効力が発生しないから撤回できるというのが、いまの判例だと思うのです。今回の この内容は、それはそのまま置いておいて、使用者の働きかけによるものである場合に は、辞職の意思表示については撤回できるというところに意味があるという理解でいい のですか。 ○労働基準局監督課長  そうです。 ○土田先生  合意解約の申込みの撤回について、使用者の働きかけがある場合にのみ限定するとい う趣旨ではないのですね。 ○労働基準局監督課長  いまの趣旨はどういうことですか。 ○土田先生  いまの判例だと、働きかけがなくても合意解約の申込みを労働者がしたときには、承 諾があるまでは撤回できることになっていますが、それに限定を加えるという意味では ありませんね。 ○労働基準局監督課長  そうではありません。 ○山川先生  ということは、いまのお話を合意解約に適用すると、申込みと承諾で合意解約が成立 して、通常はその日から労働契約終了という効果が発生するのですが、8日間というの は、その日から8日間は撤回できることになるわけでしょうか。つまり、申込みがあっ て、それから5日経って承諾があった場合には、5日間は申込み自体を特に定めを設け なくても撤回できるわけで、8日というのは、5日経ってから8日になるのか、最初の 申込みの時点から8日かという問題があって、使用者が、例えば14日間承諾しない場合 は、14日間撤回できるのですが、8日間のほうが先行すると、8日経てば撤回できなく なる。そういうことはおかしいので、合意解約が成立した日からということでよろしい のでしょうか。 ○労働基準局監督課長  それはまたいろいろな取り方があると思うので、例えば使用者がいろいろ働きかけを して、最後に働きかけをやめたときからという場合もあり得ます。 ○山川先生  それとはまた別ですね。 ○労働基準局監督課長  どれが一番いいかというのは、また考えなければなりませんけれども。詰めるべきと いうのはありますが、こういう働きかけがあった場合には撤回ができるのではないかと いうことが中間報告で書かれていると。 ○山川先生  合意解約の申込みではなくて、承諾の場合は使用者側の働きかけが申込みで、労働者 側の承諾がまさに承諾という理解でよろしいのですか。働きかけの中身もかかわります か。 ○労働基準局監督課長  中身にもよりますし、また一方的な解除ということもあるでしょうから。形式は問わ ず、とにかく辞めろとか、そういう働きかけが事実上あったということに対して、どう いう意思表示でも撤回ができるだろうと。 ○西村先生  早期退職のような場合、随分早くからやる場合があります。来年の3月末で辞める、 それでよろしいかという場合についても、同じルールを適用するということなのでしょ うか。 ○労働基準局監督課長  「来年の4月辞めてくれないか」と言った場合も同じで、「辞めてくれないか」と言 われたときからか、あるいは「はい、わかりました」と言ったときからかは別として、 その辺りの時からの8日間なら8日間で、直前になってというのはさすがにないと思い ます。 ○村中先生  働きかけというのは、先ほど菅野先生も触れられましたが、例えば、辞めろというの ではなく、その労働者に対して非常な嫌がらせを続けているというケースがあります が、そういう場合も含むという考え方で行くのですか。 ○菅野座長  大隅鐵工所も誘導があったと見られないこともないというか、誘導のようなのが事実 行為としてあるような場合。 ○労働基準局監督課長  判例にもいろいろありまして、退職勧奨に等しいという、よく組合などでもあります が、「どうなのだ、どうするのだ」と迫ったなどというのがありますので、いまの裁判 例で客観的に見て、これは退職を迫っているのと一緒だと同視できるものについては同 じように捉えるのが適当かと思います。 ○菅野座長  そういうことになるのでしょうね。 ○村中先生  裁判所の解釈に任せるということなのでしょうか。 ○菅野座長  それでは、合意解約辞職のところはこのぐらいで、同様に指摘に対する考え方を中心 に整理したものを、最終報告書案に盛り込むようにしたいと思います。  次に「有期労働契約」の議論に移りたいと思いますので、事務局からの資料の説明を お願いします。 ○労働基準局監督課長  資料6です。まず、一番上の段の「考えられる指摘」で、労働側から特に「正当な理 由がなければ期間の定めのある労働契約を締結できないこととすべきである」というの が寄せられた意見の中でも多かったのですが、これに対して考え方として、まず「有期 労働契約は労使双方の多様なニーズに応じて様々な態様で活用されているものであり、 その機能を制限することは適当ではない」。また、「業務の繁閑に応じて雇止めにより 雇用を調整することが、有期労働契約を利用する正当な理由といえるかどうかなど、何 が『正当な理由』かは不明確であって、このような概念をもって期間の定めの効力を左 右するのは混乱を招くのではないか」と書きました。  その下の段については、期間の定めを書面で明示しなければ期間の定めではない契約 とされるというのは行き過ぎではないかということについて、右側で書いてあるよう に、「労働契約において契約期間は非常に重要な要素であり、労働基準法において書面 明示が義務化されている事項でもあるので期間の定めが書面で明示されていなければ、 その効力が生じないとしても問題はないのではないか」と書いています。  その下では、さらにということで、しかし、期間の定めについて労使で合意をちゃん としていたことが証明できても、なお、たまたま使用者が忘れたということを奇貨とし て労働者が期間の定めのないことを主張するのは不当ではないか、という意見が考えら れるかと思いますが、これについては、「期間の定めのない契約とされたとしても、解 雇の有効性が認められる場合はあり、また、解雇が認められない場合には、配置転換な ど使用者の負担が合理的な範囲での解決が図られ得る」と書きました。  さらに下の段で、まず有期雇用とするべき理由の明示の意義について検討すべきだ。 あるいは正社員との均等待遇についてどうするかということで、一番左に、まず「有期 雇用とするべき理由の明示の義務化」ですが、これについてはなぜ理由の明示の義務化 をするかについて考えられる理由として、「労働者に対して有期労働契約とする理由が 明示されれば、その理由から労働者がどのような場合に雇止めをされるかや、これが労 働者の正当な権利を行使したことによるものかどうかなどを判断することができるよう になるのではないか」という考え方があろうかと思います。  これについては、雇止めとか、その有効性の予測可能性の向上を目的とするのであれ ば、現在定められている有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準により定め られているように、更新の判断基準の明示をしてもらえれば、それで足りるのではない か、という考え方があり得るのではないかということです。均等待遇の関係について は、一番右に書いてありますように「(均等待遇の理念については、改めて総論で議論 することが適当)」ということで、総論で議論したいと思っています。  (2)の「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」です。まず「有期労 働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準に定められた手続を必要とすることとし、 これを履行したことを雇止めの有効性の判断に当たっての考慮要素とすること等につい ても検討する必要がある」と書き、それについては考えられる指摘として、この「『基 準』に定める手続の履行を求め、これを雇止めの有効性の判断」とする。そうすると 「手続を踏みさえすれば、雇止めを有効とすることにつながるのではないか」。しか し、それは「現在の判例法理よりも労働者に不利になるのではないか」という指摘も考 えられるかと思います。  これについては、雇止めの判例法理というのは「労働者が有する更新に対する期待を 保護するものである。そこから手続の履行を雇止めの有効性の判断の考慮要素とするこ とは、現在の判例法理を変更するものではなく、その具体的な判断を明確化して、予測 可能性を高めるものであって、労働者が現在よりも不利になることはない」。いまの雇 止めの法理は、例えば、使用者が期間を定めているが、雇止めをするというよりは更新 を期待させるような言動をしたとか、全く形式的に更新していることについての判例法 理ですので、そこはあまり不明確にせずに、きちんと基準で手続をやりなさいというこ とです。判例でもそういうきちんとしたものについては、予測可能性が高まっていれ ば、それなりに雇止めは効力があるという形にされており、判例法理に沿った形での解 決方法ということで、このように書きました。  次に「契約の更新があり得る旨が明示されていた場合には、正当な権利を行使したこ とを理由とする雇止めはできないこととする方向で検討することが適当である」と書き ましたが、これについては、特に使用者側の都合の関係で言うと、そうやって雇止めが できないということは、新しく労働契約の締結更新を強制することになって、使用者の 採用の自由を侵害するのではないかという反論が考えられますが、「労働者に与えられ た正当な権利は、それが行使できるよう保護されるべきであるから、労働者が、契約が 更新されないことを恐れて正当な権利の行使をできないことがあってはならないと考え られる」と書きました。  また、契約の自由、あるいは採用の自由の侵害の問題については、最高裁判例平成7 年近畿システム管理事件があり、これは組合の執行委員長にあった人を再雇用しなかっ たことについては地方労働委員会で再雇用命令を出した。これ自体は相当であるとして おり、そういう意味では再雇用や契約の更新は新規採用とは事情が異なると、特に憲法 上の採用の自由などに抵触するものではないと整理されているのではないかということ で、このように書きました。  それから「正当な権利を行使したことを理由とする雇止め以外にも制限すべき場合が あるのではないか」。これは先ほどの金銭解決の場合の裏返しになるかと思いますが、 差別的な雇止めも含まれるのではないかということで、右のように書きました。  「雇止めの効力の判断に当たっては解雇に関する法理を類推適用するとの判例法理に より雇止めが制限される場合の予測可能性は低いことは、労働者と使用者にどのような 影響を与えるか」ということ。「基準」を労働契約法制の観点からも定めることについ て、どのように考えるかということで、これについては「『基準』に定める手続を求め ることで労働者が更新の可能性を予測しやすくなり、判例法理が働くトラブルが少なく なり、より安定的に有期労働契約が利用されることにつながるのではないか」と整理し ました。  ほかには次の段で労働側のほうにありますが、雇止めの制限を免れるためだけに契約 の更新をしないとした場合、どうするのか。常に「雇止めしません」と言って、事実 上、何回か更新している。  これに対して「使用者が労働者に更新の可能性がない旨を明示した場合であっても、 その契約の期間満了後一定期間(例えば3か月)以内に同じ使用者と労働者が再度有期 労働契約を締結したときは、締結した有期契約の更なる更新については、それが仮に更 新の可能性がないとしても、それは更新の可能性があると明示されたものと扱って、正 当な権利の行使を理由とする雇止めはできないとしてよいのではないか」と書きまし た。  中間報告のときにも御指摘がありましたが、「ない」と言った場合と、「ある」と言 いつつ最後に「ない」とだけ言えば更新を免れるという場合の話については「有期契約 労働者が同じ使用者に、一定期間(例えば5年)を超えて引き続き雇用されたときは、 有期労働契約の締結又は更新に際して、更新の可能性がない旨が明示されていたとして も、更新の可能性がある旨が明示されたものと扱って、正当な権利の行使を理由とする 雇止めはできないこととしてよいのではないか」ということで、これは正当な権利の行 使をできる限り広く保障するためのものとして、このように書きました。  試行雇用契約関係ですが、労働側で試用を目的とする有期労働契約が法制化されれ ば、企業が適性を見極めにくい若年労働者に対して一斉に利用することが容易に予想で きる。試用目的とする有期契約の新設はすべきではない、という意見が実際に出されて いますが、これに対しては、「現在、有期労働契約をどのような目的で利用するかには 制限はない中で、試行雇用契約は常用雇用につながる契機となって、労使双方に利益を もたらすものとして活用されている。中間取りまとめではこのような試行雇用契約を新 設するものではなく、これを法律上位置づけるに過ぎない。中間取りまとめは、試行雇 用契約で雇用された労働者について、通常の有期契約労働者と同様に、正当な権利を行 使したことを理由とする本採用拒否から保護する規定を設ける」ことを提案していま す。  試用を目的とする有期労働契約は、すべて期間の定めのない契約における試用期間と みなすべきではないか。神戸弘陵学園事件をどう解釈するかですが、あるいは使用者側 から言うと「契約期間を書面で明示し、有期労働契約を締結したと考えていたにもかか わらず、試用の目的を有するために、最高裁判例のように、期間の定めのない契約とさ れるというのは、使用者にとっては予想外の不利益ではないか」とありますが、これは ルールをきちんと定めておけばいいのではないかということで、一番右側に「試行雇用 契約と試用期間との区別を明確にするため、試用の目的を有する有期労働契約について は、定められた契約期間の満了によって労働契約が終了することを明示するなど、一定 の要件を満たしていなければ試用期間とみなすことが考えられるのではないか」。神戸 弘陵学園事件では、期間は定めていたが、一応期間を定めますと言っていたので、期間 の満了のためのものかどうかはっきりしないというのがポイントのようですので、期間 は一旦満了するということを明示しなさいということがあれば、判例法理にも沿うし、 明確性が増すということでルールの明確化という意味で役に立つのではないかというこ とで、このように書きました。  試行雇用契約について、労働側としては上限を明示すべきだという議論があります。 試用期間は6か月とか、そういう期間があればどうかという話がありますが、これにつ いて「試用期間に上限を設けることとした場合にも、通常の解雇よりも広い範囲におけ る解雇の事由が認められる試用期間と、期間中は雇用が保障される試行雇用契約とでは 位置づけが異なるのではないか」。試用期間の場合は、いつ解雇されるかわからないと いう不安定な状況がずっとつながるわけですが、試行雇用期間については、その期間中 は、やむを得ない事由がない限り、解雇されないことになっていますので、自分の能力 をその間最大限発揮していただけるということもあるので、位置づけは異なるのではな いかという趣旨です。  中間取りまとめで出された問題として、有期労働契約があって、試行雇用契約期間中 に、その労働者が正当な権利を行使したことを理由とする本採用の拒否について、法的 効果はどう考えるかという問題です。これは右側に書いてあるように「このような場合 に本採用をしなければならないとすることは、これまでに締結されていた契約と全く違 う種類」、期間の定めがあるかないかは、全く本質的に違うものですので「違う種類の 契約の締結を強制することになり、その労働条件等も明らかでない」。本採用になった 場合に、労働条件がどう変わるかもはっきりしていないわけですので実際には困難であ ろう。こういう場合には損害賠償を求めることができるという形にしてはどうかという ことです。  民法第628条に基づき、やむを得ない場合に期間中に解雇する場合、損害賠償の責任 があるわけですが、これについて「使用者の過失についての立証責任を転換することに ついて引き続き検討することが適当である」。  これに対しては日本経団連等から指摘があって「労働者を過度に優遇し使用者に『過 失の不存在』という証明困難な過度な負担を課すものであり、労使対等を基本とする労 働契約法になじまない」ということでしたが、これは「契約期間中に労働者を解雇する やむを得ない事由があるのは使用者側であるわけで、それが過失によるかどうかの証拠 をより多く有しているのも使用者であり、過失によるものではないことの立証責任を使 用者が負うこととしても過度の負担とはならない」と書きました。 ○菅野座長  だいぶ内容がありますが、よろしくお願いします。 ○村中先生  これは書面の明示であって、書面の交付ではないわけですか。 ○労働基準局監督課長  これは書面ですから、ファックスやeメールも含む。そういう意味では交付です。 ○労働基準局監督課調査官  労働基準法の明示の考え方なら、一応書面の交付ということになると思います。 ○村中先生  交付した場合に交付したということの証拠の残し方はどうなるのでしょうか。あとで もらった、もらわないで争いになるわけですが。 ○労働基準局監督課長  ファックスの履歴とかもあるのでしょうし、メールなどでもあるでしょうが、一番い いのは受領証をもらっておくというのもありますし、あとは内容証明郵便、配達証明郵 便みたいなものだと思いますが。 ○村中先生  それをしておかないといけないということですね。 ○労働基準局監督課長  簡単なのは受領証です。あるいは証人でもいいのかもしれませんけれども。 ○土田先生  2頁の2の(2)ですが、中間取りまとめ自体が、やや説明不足だったのかもしれま せんが、一番上でいろいろ「手続を必要とすることとし、これを履行したことを雇止め の有効性の判断に当たっての考慮要素とすること等についても検討する必要がある」と あって、考え方でいま説明があったのですが、いまの判例の考え方は、使用者側の言動 や契約の運用という点から、労働者の期待利益を判断して、まず第一段階として解雇権 濫用法理の類推の有無を決するわけですね。  第二段階として、解雇権濫用法理の類推がある場合に雇止めが適法かどうかという二 段階の判断をしていると思うのです。これで書かれているのは二段階の判断を含む、つ まり、手続を考慮するというのは、私の考えではそもそも解雇権濫用法理の類推がある かどうかを判断する際に考慮すべき要素だと思うのです。これだと雇止めが有効かどう かの判断考慮要素ということになっているのですが、それでいいのかどうかです。 ○労働基準局監督課長  これは二段階ではなく、三段階のうちの第一段階というか、前段階と考えていただい て、期間を定めない雇用と同質化していて、解雇権の濫用法理の適用があると言われる 前の段階だと思います。つまり、そもそも更新の有無を示して、「ありません」と明確 に書かれていた場合は、期間の定めがない。あると書いていて、こういう場合に更新し ますとかが書いてあれば、それに当てはまるか、はまらないかはっきりしているわけで すから、そういう期間の定めのないものと同質になるとか、それを類推適用するという ことは働かなくなる。その前に簡単に紛争が解決しやすくなると。 ○菅野座長  それも類推適用すべきかどうかというのに入るという、その判断の中の一要素だと見 られないことはありませんね。 ○労働基準局監督課長  そうですね。よく言われておりますのは、ルーズにただ更新してきている。更新の基 準も何も示していない。単なる見直し期間にすぎない、ということはなくなると思うの です。 ○土田先生  ルーズにやっていて、事実上反復更新しているときに、これを強く考慮するというこ とは、更新しないと明示していればしない、というところで紛争が終わる。資料9で、 第1条第1項と第2項だと思うのですが更新の有無が第2項ですね、第2項が更新又は 非更新の判断基準を明示するとなっていて、この手続を履行することの意味というの は、この手続を履行し、それをちゃんと説明して、契約をこういう基準によって更新し ないのだということを説明できれば、その場合には解雇権濫用法理の類推がないという 理解でいいのですね。 ○労働基準局監督課長  東芝柳町工場事件や日立メディコ事件で言われているような件は。 ○土田先生  つまり私が言いたいのは、いわばワン・オブ・ゼムの考慮要素だということよりは、 ここで書かれているとおり、この基準を用いるということは具体的な判断を明確化し て、予測可能性を高める役割があると思うのです。ですから、更新しないということを 明示していれば更新しないし、更新、非更新の基準を明示し、その当てはめがきちんと されている場合には、解雇権濫用法理の類推は基本的にない。ただし、当てはめの妥当 性が問題になるでしょうから、そこはもちろんあると思いますが、そこも含めて手続を 履行していれば、その雇止めが有効になることの意味は、解雇権濫用法理の類推がない と理解しておいていいのかどうかと私は理解したのです。 ○労働基準局監督課長  要するに、そういうことでトラブルはだいぶ減るだろうと。それは、いまの判例法理 を否定するのではなくて、判例法理に沿って、よりトラブルが少ないようにする手段と して使えるという趣旨です。 ○村中先生  更新がないと明示して、それ以外何も言っておらず、そしてその期間で終わりにして いたら、これはそれでおしまいです。この場合、解雇権濫用法理の類推適用などという 問題は起きないはずです。このとおりやっていれば、特に何か手当てしなくてもうまく いくのではないかと思います。  問題になるのは、書面には更新しないと書いてある。しかし、こうは書いてあるけれ ども、ほかの人は書面にもかかわらずどんどん更新されていたり、あるいは使用者のほ うが、ここはこう書いてあるけれども、君もほかの人と同じように更新すると言ってい るという場合にも、書面にこのように書いてあれば、解雇権濫用法理は類推適用しない のだという効果まで認めるのか。そこまで踏み込みますと、従来の判例法理とは違うと いうことになると思います。 ○労働基準局監督課長  これは、労働者が求めたら書面でちゃんと出させなさい、ということを言っているだ けなので、いままでの判例法理を否定するような効果を認めさせようということではあ りません。証拠を、労働者に渡せるようにしましょうということです。明示したほうが いいわけですから明示しなければいけない、それは書面でくれと。もし、書面で違うも のがあれば、労働者は違うほうをくれと言うことができるわけです。 ○村中先生  そうすると、従来の判例法理というのはそのままにして、その中で当事者が不明確に 陥らないように、明確化できるように手助けするようなルールを設定しようという趣旨 ですか。 ○労働基準局監督課長  はい。 ○山川先生  私も、概ねそのように考えていたのですけれども、要は、ここでいう具体的な判断の 明確化、予測可能性というのは、従来の判例法上のルールはあるとして、このような措 置を、つまり基準に書かれているような手続をとった場合には、結果的に判例法理の適 用が単純化されるといいますか、結論が予測できるようになるという意味での予測可能 性のことで、判例法理を何か予測可能性があるものに変えるという趣旨ではないという ことですか。 ○労働基準局監督課長  そうです。 ○山川先生  その点は私もそのように理解していたのですが、判例法理自体を明文化するかどうか を議論したかどうか明確には記憶にないのです。解雇権濫用法理は判例法理を明文化し て、雇止め法理を明文化するかどうかという論点がひょっとしたら残っていたのかとい う感じもしなくはないのです。  もう一つは、雇止めの基準を労働契約法の中に盛り込むというのは先ほどの土田先生 のお話にもあったように、それは第1条、第2条、第3条の辺りで、第4条というのは 手続ではないし、しかも努めなければならないということですから、これは労働契約法 に盛り込む問題ではなかろうと思いますが、そういう理解でよろしいでしょうか。 ○労働基準局監督課長  よろしいです。 ○山川先生  いまのと若干関係があるのですけれども、書面の明示というのは一体いつの時点でや るのかが問題になりました。1回目の更新のときに明示する場合、一体どういうことに なるのか。つまり締結のときに明示しないと、期間の定めのない契約とみなされるので すが、当事者としては期間の定めのある契約だと思っていて、1回目の更新のときに書 面を出した場合には、既に期間の定めのない契約とみなされてしまっているから、期間 の定めのない契約が性格を変えることはないということになるのかという問題があるの で、いつ書面を交付するのかということも検討しておいたほうがいいかもしれません。 それによって、雇止めの関係では合理的な期待があるかないか、ということもちょっと 関係するかもしれません。 ○労働基準局監督課長  労働者がそれを認めて、2回目のときにちゃんと期間を定める形にしましょうと言え ば、それは合意ができていますので。 ○山川先生  みなすということがあったとしても、なお更改するということでしょうか。 ○労働基準局監督課長  それは、労使当事者の合意で変えているわけですから。 ○山川先生  最初でみなすという効果は発生しているわけですよね。 ○労働基準局監督課長  更改でも、あるいは変更でもいいのでしょうけれども。 ○山川先生  そこは、書面を交付したことの効果とは全く別に有期契約への変更の合意がなされ た、ということが認定できるかどうかの問題ということですね。 ○労働基準局監督課長  はい。 ○荒木先生  これは仮定的なことになるかもしれませんけれども、2頁の2の(2)の2段目のと ころです。正当な権利を行使したことを理由とする雇止めはできないということについ て使用者側的な観点からは、正当な権利を行使したことを理由とする雇止めはできない とすることは、採用の自由の侵害となるという議論なのですが、この前提として権利行 使がなければ更新されるというのが前提となっていると考えてよろしいのですよね。そ もそも更新を予定していない契約のときに、途中で権利行使した。もともと更新は予定 していないのだから、予定どおり終わったときに、雇えというのはおそらくできない。 逆に言うと、それは権利行使したことを理由とする雇止めに当たらないから問題となら ない、という理解でよろしいですか。 ○労働基準局監督課長  これは、あくまでもほかにちゃんと理由があって雇止めする場合は入らないので、実 際は使用者の言動などをいろいろ見ていって証拠を集めてきて、これはどう考えても正 当な権利を苦々しく思って雇止めしたことが証明できた場合にということになると思い ます。 ○荒木先生  ほかの理由がというよりも、もともと更新は予定していない有期契約である場合。 ○労働基準局監督課長  それはない場合です。 ○労働基準局監督課調査官  一番左側の欄に書いてありますように、中間取りまとめの方向性自体、契約の更新が あり得る旨が明示されていた場合と書かれています。 ○荒木先生  そうしますと各指摘に対する考え方のところで、労働委員会の再雇用命令が引用され ているのですが、本来有期契約が終了する場合に、また雇用関係の継続を要求している のは、東芝柳町工場事件以下、まさにそれが当たるのではないかと思うので、それを引 けば済むのかと思ったのですが、なぜここでは。 ○労働基準局監督課長  あれは転化しているというか、期間の定めのないものということで、その当事者間の 合意で更新しますという約束があったということで、それは意思解釈しているわけで す。 ○荒木先生  最高裁は、転化は否定しているからこそ、解雇権濫用法理を直接適用せずに類推適用 していると思いますので、まさに形式上は有期契約が存続しているのです。しかし、そ の終了の主張を認めずに雇用契約の存続状態を認めているということですから、それを 引いてあげればいいのかと思うのです。 ○山川先生  私も同じ意見で、そもそも雇止め法理というのは、更新するかしないかは使用者の自 由である、という意味での採用の自由をある意味で制約し、法律上判例が更新を認めた 制度ですので、もともと契約を締結させたような位置づけになっている。つまり、更新 の強制という意味を、もともと一定の要件の下で果たしてきた判例ということになりま す。  労働委員会で、再雇用や更新を違うものと扱っているとしても、より本質的にはそも そも更新が法律上強制されるというのが判例法理であるという位置づけのほうがいいと 思います。 ○労働基準局監督課長  ただ、あれは特別な事由がない限り更新するという約束ができていたということはあ ります。例えば、余剰人員の発生等特別な場合がない限り更新する。つまり、人が山ほ ど余ったということもないのにやった、ということで更新すべきだと。それは、意思解 釈がだいぶ入っているのではないかと思います。 ○山川先生  そういう判決もあるのですけれども。 ○菅野座長  その後の下級審の裁判例の積み重ねを総合すると、山川先生が言われたような感じに なるのではないかと思います。 ○労働基準局監督課長  それでは、それは。 ○菅野座長  そこは説明の仕方だから、そちらのほうの説明のほうがいいのではないか。 ○労働基準局監督課長  両方合わせ技でもいいですけれども。 ○土田先生  山川先生の発言で、この中間取りまとめなり、2の(2)の上のほうの先ほど言った ところなのですが、判例法をより明確化する形で明確化するという意味での明確化では なくて、要はいまの判例法を確認して、そこの手続という部分を明確化したにすぎない とおっしゃったのですよね。それで、そうだと言われたのですけれども、そうだとする と私の理解はかなり違っています。  それだったら何の意味があるのかと思うのです。つまり、中間取りまとめの左側の文 章で、「定められた手続を必要とすることとし」とありますが、使用者は、手続を必要 とされて何のメリットがあるのか。手続をきちんと履行して、更新の有無、更新する場 合しない場合の基準を明示し、説明した、手続を履行した。それで、結局あの判例の非 常に不明確で、予測可能性のない雇止めの規制をもう一度かけられるということは、ほ とんど使用者にとってメリットがないし、利害調整という点で問題があると思うので す。  私が理解していたのは、先ほどの話ではないですけれども、更新しないということを 明示していればそれで終わる。更新、非更新の基準をきちんと明示し、それを説明して 同意を得て、かつ当てはめに誤りがなければ、例えば能力が不足しているとか雇用調整 の必要があるという基準があり、それを適用して更新しなければ、それでもう解雇権濫 用法理の類推はない、基本的にない、原則としてない。もちろん例外はあり得る、当て はめが間違っていれば、もちろんそれは別である。  そうでない限り手続を適正に履行した使用者に対してというか、履行したことについ ての評価としては不十分ではないかと思うのです。それを、判例法理を再度確認したに すぎないのであって、ごく一部の使用者側の言動の中に吸収されるだけだというのであ れば私としては賛成できないです。 ○労働基準局監督課長  同じことではないかと思うのですけれども。 ○菅野座長  土田先生が言われたことはだいぶ違っていて、大きな論点だという気がします。土田 先生が言われているようにすることは諸刃の剣です。更新があり得る基準はこうだと書 いておいたけれども、そうするとそれ以外では更新拒否はできないという効果もある。 そういう意味での明確化にもなります。 ○土田先生  それでいいのではないかと思うのです。 ○労働基準局監督課長  問題は、村中先生が言われたように、書いておいても実態が違って行われることがあ るような場合にどうするかです。 ○土田先生  書いておいて、ほかの人は更新されている、ある人については更新されない、それは 私に言わせれば当てはめの間違いです。 ○菅野座長  それで全部済むかということなのです。 ○土田先生  いまの説明だとあまりにも明確化して、予測可能性を高めるという本来の目的と乖離 しているのではないか。 ○労働基準局監督課長  更新はないと書けば明確になるのです。あると書いて、基準があれば明確になりま す。だから、明確性に資しているのではないかと思います。 ○土田先生  結局、いまの雇止めの判例法のさまざまな基準を再度適用して裁判所は判断するわけ です。 ○労働基準局監督課長  大体いまの判例法理は、更新することがあり得ますという形で、ただそこがルーズに なっていたので。 ○土田先生  いや、いまの判例に出てくる事案でも、使用者が厚生労働省の基準を意識しているか どうか知らないけれども、まさしくそのリスクを避けるために基準を明示して、提示し て説明して、それにもかかわらず雇止めの規制を働かせる、それを認めている判例があ ります。 ○労働基準局監督課長  それは、その基準の当てはめが正しくてもということですか。 ○土田先生  そうです。 ○村中先生  土田先生がおっしゃっているのは、次のようなケースなのでしょうか。例えば3カ月 の契約を結びますというときに、これ以後の契約の更新は考えていません。しかし、3 カ月経った段階ではじめて、もう一度同じような形で更新をする必要が出てきた。その ときも、使用者としては、3カ月経ってみないと次もやるかどうかわからないから3ヵ 月の有期契約をし、さらにまた次も3カ月経ってみたいとわからないから3カ月先の契 約をし、それを3回、4回とやった。そういうケースについても、裁判所が、結局労働 者の側から見たら、それで更新の期待が生まれてしまったではないかという形で類推適 用する、というのはおかしいのではないか。使用者側としては、できる限り明確化して ほしい、それは保護されるべきではないのか、ということでしょうか。 ○荒木先生  土田先生のおっしゃっていることには二つのことがあると思うのです。一つはいま言 われたように、3頁の下のほうに書いてあるように、最初から更新はないと言ってい て、実際上は更新するという場合は、明示した基準には従っていないものですから、こ れは従来どおりの判例法理でやらざるを得ないだろうと思います。  土田先生が提示された問題はそれもあるかもしれませんがもう一つの問題は、A、 B、C、Dの四つの事由がある場合には更新する、しかし5番目の理由が生じたときに は更新しない、これは明確であると言われる。しかし、5番目の理由が、いままでの雇 止め法理からしたら、こんな理由で雇止めはできないだろうという理由を書いている。 簡単に雇止めできる。しかし、これは最初から明示していたのだから、このとおり従っ てやっている。だからこれは明確だ、これに従って雇止めしなかった。それはそれでよ ろしいというのか、いや、その程度の理由だったらという、その理由の実態を裁判所が 判断して、この場合は雇用継続に期待があるから、この程度の理由では駄目だというの か、そういう問題を提示されたのかと思ったのです。 ○労働基準局監督課長  そこまで法令で対処しようとしているわけではなくて、ここはいままで単にルーズに なっていたものをルーズでないようにしましょう。そのために、この基準を使用者がち ゃんと書面に出しなさい、運用を出しなさい、基準を出しなさいというだけの話なので す。 ○荒木先生  原則としてそのルールを作って、こういう事由の場合には更新されるのだ、こういう 場合には更新されないというのが労働者はわかりますから、判例法理の基本は雇用継続 の期待の保護ですから、その期待の保護というのが、事前に労使双方でかなり明確にな るだろう。その限りでは、私は明確化すると思うのです。それで、すべてが必ずいいか というと、例外的な場合はあるかもしれないけれども、大多数の場合は更新のルール、 あるいは更新しないルールを事前に提示していれば、労働者のほうでも期待が明確にな る。  裁判所も、こういう状況が提示された上での更新であれば労働者もわかっていただろ う、という期待を判断する枠組みの中に載せても、最初に示した基準を中心に判断され ることになって、現状よりは明確化が進むのかという気がいたします。 ○山川先生  私も概ね同様であります。すべてを明確化することはたぶん難しいので、あと出てく るのは、更新しないというのを最初から明確に言っている場合は、村中先生が言ったよ うな場合につき対処する必要があるとしても、基本的には当初の段階では期待は生じて いない。繰り返されているうちに、その運用が違っていたら期待が生じてくるというこ とはあると思いますから、基本的には更新はないと言っていれば、原則は期待がないか らそこで切られてしまう場合が、現行の判例ルールでも多いでしょう。  逆に、判断の基準を示した場合はなんとも言いづらいところがあります。判断の基準 を示したことにより、判例法理の適用がないとすると、解雇権濫用法理の類推の余地は ないわけです。そうすると、どういう理由でもって雇止めしても、もはやそれは期間満 了の一時によって契約は終了してしまって、理由の不相当というのは問題にならないわ けです。期間満了という事実によって終了するわけですから、そこまで行くのはどうか と思います。 ○土田先生  そこは、例えば基準の適用が間違っていた、つまり理由が不相当であったような場合 に、法定更新ではなく、損害賠償という解決方法もあるわけです。 ○山川先生  逆に、損害賠償しかないわけです。契約が更新される効果は、解雇権濫用法理を類推 しない限り発生し得ないわけです。 ○土田先生  私は、それが明確化だという趣旨だったのです。つまり、契約の更新、非更新の基準 を明示し、その適用をした。そういう運用をしている限りは、労働者側の期待利益とい うものを過度に認めて、解雇権濫用法理の類推という効果を認めるべきではない。ただ し、当てはめに間違いがあれば、それは損害賠償になり得る。これは、もちろんここま で中間取りまとめでは言っていないわけですけれども、明確化ということを言うのであ れば、それはそういう選択肢も出てくるのではないかと思うのです。  いま言われている議論というのは、結局解雇権濫用法理の類推ではなく、雇止めが有 効かどうかというところで勝負しましょうという話だと思うのです。それはそれでわか りますけれども、解雇権濫用法理はどういう場合に、どういう要件があれば適用されて 類推されて、どうであれば類推されないのかが、いまの状況では企業からすると全くわ からないです。従来の判例法の基準を適用することで明確化することですと言われたの では、企業としては納得できないのではないか。 ○山川先生  ある程度はわかるのではないかという気がしますけれども、一応この基準の基になる 研究会に参加しておりましたので、それなりに明確にするためにこの基準を作ったとい うことがあります。 ○土田先生  いやいや、この基準はいいのです。 ○山川先生  もう一つは、書くとしたらどういうルールにするか。つまり、こういう要件を満たし た場合には、解雇権濫用法理の類推を認めないというルールの書き方をする必要がある わけです。そこをどうするかという点はあろうかと思っております。 ○労働基準局監督課長  そこまでは全然考えてなくて、明確になるところまでは使用者もしてあげてください ということを言っているわけです。それ以上、更新すべき場合というのは書いてありま すように、たまたま基準と違うから更新するかどうかというのは非常に難しい問題があ りますから、少なくとも正当な権利を行使したのを報復的にやめるというようなことは やめてください、それは更新してくださいというところまでは、第一歩として言えるの ではないかということで、中間報告でもそのように落ち着いたわけです。そこまでは、 労使共それほど抵抗なく受けられる。それ以上は、さらに次の一歩ではないかと思うの です。 ○菅野座長  土田先生のように、現行の判例法理を大きく修正したほうがいいとまでは言っていな いから、あと考慮要素とするというのはどういう意味なのかをなお詰めたほうがいいと いうぐらいでしょうか。うまく修正できるかどうかを検討させていただいて、次回に提 案できたら提案するという形にさせてください。有期契約はいろいろあるのですけれど も、本日やりたいこともまだあるので、是非というところがあれば出していただけます か。 ○村中先生  3頁の試行雇用契約の直前のところの、長期に雇用されたというのはどういうケース が想定されているのですか。 ○労働基準局監督課長  これは中間報告でも出ていますけれども、2回ほど更新はあり得るということで基準 も定めてきて、2、3回やって、最後だけ更新をしないというタイプとか、あるいは1 回で5年まで行ってしまったという場合もあるでしょう。 ○菅野座長  それでは、有期労働契約については、先ほどの点で必要な修正があり得るかどうかだ けを留保させていただき、そのほかの点では指摘に対する考え方を中心に整理したもの を最終報告に盛り込むことにしていただきます。  次に「総論」に移ります。総論については、次回もう1回議論する機会があります。 次回は、労働契約法制を制定するに当たっての基本的な考え方についての議論を予定し ております。特に、私自身は最後にまとめとして全体を見わたして、労働契約法は一体 どういう性格のものかを、もう少し労働基準法やその他の労働保護法規との関係で、全 体的な説明をうまくできないかということを議論していただきたいと思います。  本日はそういうことではなく、資料11に沿ってできるところまで議論していただきた いと思います。まず、労働契約法制の対象とするものの範囲について事務局から説明を お願いいたします。 ○労働基準局監督課長  資料11です。最初が、労働者の範囲といいますか、契約法制の対象とするものの範囲 で、右側の考え方を御説明させていただきます。  近年、就業形態の多様化に伴い、SOHO、テレワーク、在宅就業、インディペンデ ント・コントラクターなどといった、雇用と自営の中間的な働き方の増加が指摘されて おり、この中には一つの相手方と専属的な契約をしており、主な収入源をその相手方に 依存している場合も多いと考えられる。  労働基準法上の労働者について契約法の対償とすることは当然であるが、この他に、 使用従属性、これが労働基準法上の労働者のメルクマールですけれども、これまではな くとも請負契約、委任契約等に基づき役務を提供し、その対償として報酬を得ており、 特定の者に経済的に従属している者については、相手方との間に情報の質及び量・交渉 力の格差が存在することから、労働契約法の対象とし、解雇権濫用法理を適用するなど 一定の保護を図ることとしてはどうか。  その場合、労働基準法上の労働者でなくても、労働契約法を適用する者としては、次 の要件を満たす者が考えられるのではないか。(1)個人であること、(2)請負契約、委任 契約その他これらに類する契約に基づき役務を提供すること、(3)当該役務の提供を、 本人以外の者が行うことを予定しないこと、(4)その対償として金銭上の利益を受ける こと、(5)収入の大部分を特定の者との継続的な契約から得、それにより生活する者で あること。  労働契約法制で検討している項目のうち、労使委員会、就業規則、出向、転籍、懲戒 等については、労働基準法上の労働者でない者に適用することは適当でないと考えられ る。一方、雇用継続型契約変更制度、解雇権濫用法理、兼業禁止・退職後の競業避止義 務・退職後の秘密保持義務の要件、個人情報保護義務などはこれらの者にも適用するこ ととしてよいのではないか。 ○菅野座長  これも大変基本的な、重要な点ですが、いかがでしょうか。 ○土田先生  後の総則規定の必要性とも関係するのかもしれませんが、結局これは労働基準法にい う労働者、労働基準法上の労働契約、それから民法の雇用契約、民法の請負、委任各契 約との関係をどう考えるか、そこをどう整理するかということが前提作業として必要に なってくるような気もします。  少なくともいまの考え方は、労働基準法上の労働者とは労働契約を締結している者 で、そこでいう労働者は、締結している契約の形式とか名称ではなく、実態で判断す る、使用従属関係で判断するという考え方ですから、名称は請負や委任であっても労働 者だという判断になっている。そうすると(2)の、請負契約、委任契約、その他これら に類する云々という趣旨は、おそらく名目が請負人の場合は含まないという趣旨なのか と読んだのですが違いますか。 ○労働基準局監督課長  名目請負契約のような場合でも適用できるようにということです。 ○土田先生  名目が請負、委任であって、実際には使用従属関係があるような場合は、労働基準法 上の労働契約と捉えるという趣旨ですか。 ○労働基準局監督課長  はい。 ○土田先生  そうすると、総則のところで労働契約の規定を置く必要があるのではないかと思うの です。労働契約とはこういう契約である、という規定を労働契約法制の総則のところで 置いた上で、むしろこの労働契約以外の請負でも委任でも何でもいいのですけれども、 労務請負契約に基づく人について、こういう要件の下で適用する、という規定を前提と して置いたほうがいいような気もするのです。 ○菅野座長  これらの人たちも、労働契約法の対象となる労働契約なのだという趣旨ですね。 ○労働基準局監督課長  そういう趣旨です。労働契約法の中の、解雇権濫用法理や兼業禁止という規定の適用 ができるのではないかということです。 ○菅野座長  それは、労働契約なのですか、労働契約類似の契約なのですか。 ○労働基準局監督課長  それは、二通り考えられると思います。 ○菅野座長  だから、そこをどう整理するかです。労働基準法上の労働者と、労働基準法上の労働 契約を維持しながらやるのか。実質はこれでいいかもしれないけれども、その辺の概念 整理が一つあります。 ○土田先生  私は、労働基準法上の労働契約と、ここでいう労働契約法制でいう労働契約というの は同じものであるという前提で考えていたので、いまの先生の説明でいうと、もう一つ の選択肢はもっと広げるわけですね。 ○菅野座長  そういうのもあり得る。労働基準法上の労働契約というのは、どちらかの言葉を変え なければいけない話になります。 ○土田先生  それは、大作業になります。 ○山川先生  広げる場合には、これは一部適用除外する形になるのでしょうか。 ○菅野座長  そうです。除外した場合は、除外されない狭義の労働契約とどう区別するのか。また 新しい狭義の労働契約と、広義の労働契約を提示しなければいけないということになり ます。整理としては、労働基準法上の労働契約を使った上で、それに類似の契約とした ほうがやりやすいですか。労働基準法上の労働者に類似の者というのと、類似の契約と いうのが出てくる。 ○曽田先生  労働契約というのを総論として置くというか、民法上の請負や委任との関係を整理し なければいけないというか、それとの対比で何をもって労働契約とするかを問わなけれ ばいけないのです。 ○菅野座長  そこは、決して整理できないのではないかという感じがします。 ○曽田先生  民法では雇用と言っていますから、民法の雇用、雇用の契約、雇用と。 ○菅野座長  この中では、考え方の6行目で、「この他に、使用従属性まではなくとも」というの は、労働基準法上の労働者に必要な使用従属性まではなくともという意味でしょう。 ○労働基準局監督課長  そうです。 ○菅野座長  それが必要なのではないか。(1)から(5)だって使用従属性という言い方もあり得るの だから、それは必要なのではないかと思うのです。そういうふうに書けば、いまの請 負、委任との関係はぼやかしておいても可能なのではないかという気がするのです。 ○労働基準局監督課長  具体的には、(5)のところが違ってくると思います。労働基準法上では諾否の自由、 場所とか業務の遂行に関しての指示を受けるとか、それがそういうことがなくて、ただ 経済的に従属しているというところ。(5)の辺りが一番違ってくるかと思います。 ○土田先生  (5)の実質はこういうことなのだろうと思いますけれども、労働契約とか労働者の定 義規定というのは整理が大変だから置かないという整理になるのですか。 ○菅野座長  労働基準法における労働者とは何々、労働基準法何条の労働者とするということでは ないですか。労働基準法上の就業規則の規制を前提に労働契約法制はやっていますか ら、そこにおいて範囲が異なって、根本的な出発点の概念が違ってしまうとやりにくく なるのではないですか。 ○労働基準局監督課長  確かにこの下に書いてありますように、労使委員会、就業規則、出向、転籍、懲戒等 についてはなかなか難しいところがある。労働基準法上のことを前提にしています。出 向というのはなかなかあり得ないです。 ○土田先生  どういうスタンスでどこまで言えばいいのかわかりませんけれども、例えば理論的に 考えて、労働契約と雇用契約は民法第623条にいう雇用契約も「労務に服する」、今度 の改正で「労働に従事する」になったのでしょうか、いずれにしてもこれは同一である という同一説を採れば、つまり労働に従事する、労務に服する、服したほうが報酬を支 払われる契約だということで、民法の雇用と労働契約法上の労働契約というのは同じ契 約である。したがって民法第623条の雇用が、労働契約法上の労働契約だという整理だ ってできなくはないです。私が言いたいのは、そこはもう少し議論したほうがいいので はないですかということなのです。 ○曽田先生  民法の雇用というのは、請負とか委任があって、それとは別の形態として雇用という のがある。そうすると、その請負なども実質的に一部を取り込もうというときに、民法 の雇用と同じだということにしてしまうと、また違ってくるということになると思いま す。 ○土田先生  確かにそれは問題です。 ○菅野座長  そこは、形式を重視するか、実態を重視するかで混乱してしまうから、そんなに整理 ができないので。 ○村中先生  規制の内容から見ても、就業規則の話が出てきたりするので、労働基準法を中心に考 え、基準法上の労働者が締結する契約を労働契約とみて、それを中心を置きながら、あ とはプラスアルファをどこまでするかということで考えるほうが簡単ですね。 ○曽田先生  それが、一番簡単です。 ○村中先生  ただ問題は、その実質ではないですか。例えば、解雇権濫用法理が書いてありますけ れども、確かに経済的従属性がある場合について適用するという考え方は学説上も強い かと思います。しかし、その具体的な判断というのは必ずしも容易ではない。しかも、 解雇権濫用法理というのは、規制内容としてはかなり重いわけです。 ○菅野座長  類推適用ではいけないのですね。適用なのですね。 ○労働基準局監督課長  そこも御議論いただくというか、両方あると思います。それは、適用となるとそもそ も入っていますし、準用でしたら入っていないけれども準用するということです。 ○菅野座長  準用と類推適用でいったら、準用になるのですか。 ○労働基準局監督課長  解釈でやる場合が類推適用です。 ○菅野座長  それだと準用ですか。 ○荒木先生  中間取りまとめのときから、労働基準法上の労働者概念と同じに考えて、あとは類推 適用という解釈が刑罰法規でないのだから許されるのでいいのではないかという考え方 です。  例えば、解雇権濫用法理を準用するとなった場合、原則としては雇用継続を強制する ことになります。  ところが、これまで、こういう経済的な従属をしている人たちに、例えば継続的契約 関係の一方的な破棄に対して責任を認める場合も、それはあくまで金銭的な損害賠償責 任を認めるのです。労働契約はそこが違うわけです。労働契約は、契約の存続を強制す る。今回金銭解決を提案していますけれども、それも非常に厳格な要件の下でであっ て、金銭解決は原則的な解決ではないわけです。  ところが、ここで解雇権濫用法理が直接適用になるとすると、継続的に従属している 人たちの一方的な不当な契約破棄の問題が、救済として原則契約継続の強制ということ になるのが妥当な解決かどうかというと、必ずしもそうでない場合が多いのではないか という気もします。そういう意味でも、類推適用というアプローチのほうが実態に合っ た解決になるのではないかという気がいたします。 ○菅野座長  それは、こういう規定自体を置かないということですか。 ○荒木先生  そうです。ここで言われている趣旨は、労働基準法上の労働者以外は、労働契約法を 作っても何の保護もないということではなくて、類推適用というのがあるのだというこ とを、何らかの形でアピールするという対処ではいけないものかという気がいたしま す。 ○土田先生  賛成です。村中先生の意見とも関連しますけれども、最後のところは書かないほうが いいのではないでしょうか。この項目の区分けは簡単に書けますか。これは適用するし ないというのは大変な問題だと思います。一定の項目、一定の事項については、ある程 度類推適用することは考えられるのではないかという書きぶり。 ○菅野座長  契約の実態に即して類推適用がなされるというような規定は法律事項ではないわけで すね。 ○労働基準局監督課長  法律事項ではないです。 ○労働基準局長(青木)  問題意識はおっしゃったように、民事法と刑事法との違いはあります。家内労働法で は労働基準法上の労働者でないけれども、労働基準法上の労働者と同じような保護をし ようということで、可能な部分を取り上げてやっているというのがあります。契約法で もそういうものがあり得るのか。とりわけ、頓挫はしていますけれども、ILOなどで も議論になったりしているものですから、そういう面で刑事法的なアプローチではなく て、民事的な効力の中でのアプローチとして何かあり得るかということが問題意識とし てあります。そういう、ジャンルをちょっと飛び出た人たちについて実態的な何かの必 要があるのかということで御議論いただきたいと思います。 ○菅野座長  ややデータが足りない、という気がしないでもないです。どういう規定を準用できる のか、できないのかということに関する類型化とか、そういう意味でのデータがもう少 し欲しいと思います。そういうことを考えたほうがいい契約というのはどういうのがあ って、その実態がどうか、そういうのが十分になくてやってもいいのか。 ○労働基準局長  もちろんおっしゃるとおりだと思います。そういうデータをできるだけ揃えたり、類 型化だとか、どういう人たちがもっと具体的に想定されるのかということも実際に頭に 置きながらでないと議論できないだろうと思います。ですから、できるだけそういうも のを提供して御議論いただきたいと思います。 ○村中先生  これは私の個人的な考え方ですけれども、基本的に人的従属性というのが従属性の中 心的な概念だと理解しております。そういう立場からしますと、経済的に従属している という経済的従属性のほうを出されるとちょっと抵抗感があります。  実際に(1)から(5)で挙げられているケースというのは、かなり人的な従属性も存在す る場合です。例えば、自分で、本人で役務を提供しているというケースなどです。その ようなケースは、労働者類似の者として経済的な従属性という概念の中で捉えられてき たものよりも、さらに狭い範囲の者であって、そういう者について何か特別な取り出し 方をするか、あるいは労働者の概念を明確化する作業の中でそこに位置づけるかという 作業はあり得るかと思います。  その場合には、従来労働者だと当然視されていた人が、例えば裁量労働制の中で随 分、人的従属性という観点では、薄まっているという側面もあるわけですから、そこと のバランスという観点も当然問題になるでしょう。私は、そういう人的従属性という観 点から見直すということがあってもいいとは思っています。  経済的従属性という観点で捉えてしまいますと、結局、事業を行う者は多くが経済的 に従属しているわけです。中小企業の多くに妥当すると思うのですが、そことの区別が 全くつかなくなってしまいます。にもかかわらず、解雇権濫用法理だなどと言われると 収拾がつかなくなると思うのです。労働法で考えていく場合には、フィクションだとい う批判もあるかもしれませんけれども、人的従属性を手掛かりに現代的状況に対応して いく作業が必要であろうと思います。 ○山川先生  効果と要件があって、同一の効果が、多少要件が違っている者に適用されるかどうか というと、ちょっと難しい面もあろうかと思います。先ほど土田先生が言われたよう な、これを全く同じ形で切り分けて、この効果についてはこの要件が対応されて、かつ この要件については一定程度拡充するという方向ではなかなか割り切れないところがあ って、効果が変われば多少要件も変えていいということがあるので、なかなかリジッド なことをルールとして定めるのは難しいような気がします。  もし検討する余地があるとすれば、類推適用の呼び水になるような規定を何か置くこ とはできないか。つまり、労働者に準ずるような人について、裁判所に事件を持ってい かれた場合に、類推適用を後押しするような規定、これは訓示規定みたいなものになる かもしれないのですけれども、そういう手段が一方であり得るかどうか。あまり考えた ことはないのですが、そういう道もあるかなと思います。法制上できるかどうか分から ない面もありますけれども。 ○土田先生  私は、時期尚早ではないかという気がします。 ○西村先生  先ほど村中先生が言われた、経済的な従属性と人的従属性だけではなくて、何か組織 的な組み入れの問題とか、人が「役務を提供する」場合ですから、経済的というだけで は、まさに彼が言ったように中小企業というものとの区別が非常につきにくくなるとい うことで、組織的な組み入れということも考慮に入れたほうがいいのではないかという 気がします。 ○審議官(労働基準担当)(松井)  村中先生の言われた、人的従属性というときに、労働時間を適用しないようなものを 仮に認めるとすると、そのときの概念はどうなるのでしょうか。時間的拘束、場所的拘 束、業務命令とか三つぐらいの要素で人的拘束をしていって、その一つを解除する。そ うすると、それをかぶせるための新しい契約法制があるとしたときに、どんなのが人的 拘束のエレメントの要素になるのでしょうか。 ○村中先生  基本的には指揮命令だと思います。ドイツ法を見ていますと、時間的に拘束されるこ とを労働契約のメルクマールとする見解も出てくるようですが、必ずしも労働契約と時 間決めというのはイコールではないように思います。ただ、労働基準法は結果としてそ れを要請しています。人的従属性の基本的な概念というのは、相手方の言うとおりに働 く、ということではないでしょうか。 ○審議官(労働基準担当)  時間的拘束のないものを、言われたとおりというのはここでいう「役務の提供」みた いなものですか。 ○村中先生  例えば、今日はここの土の山を向こうへ持っていっておいて、それで今日の仕事はお しまいだからと。 ○審議官(労働基準担当)  それは、請負でも委託でもあり得るわけですね。 ○村中先生  あり得ます。例えば、その作業内容を契約内容としているか、それとも、相手方の言 うことを聞いて働くということを内容としているか、それで決まるわけです。相手方の 言うことを聞くことを内容としていて、その相手方から、この山をこっちへ全部移して おいてと言われ、それに従って作業をするというのは雇用です。 ○審議官(労働基準担当)  命令を聞くということですね。 ○村中先生  そうです。ですから、同じことを請負という形式でもできるし、雇用という形式でも できます。 ○審議官(労働基準担当)  ここに、インディペンデント・コントラクターというものを間に入れて言うことを聞 けと。その言うことを聞けということの中身が実は請負と同じなのですね。 ○村中先生  この人たちは、本来雇用でできることについて、仕事を特定してそれを完成させるこ とを契約内容としているわけです。そういうことは、例えば大学でもやろうと思えばで きるわけです。非常勤の講師などは特にそうですが、授業を請け負わせる。何時間目に 労働法の授業をやってください、ということで請け負わせるという方法でもできるし、 雇用というやり方でもできる。 ○菅野座長  逆に、このような適用範囲の拡張を考えないとすると、労働契約法における労働契約 とか、労働者の範囲を労働基準法と同じにしてしまっていいか、それではちょっと狭い のではないかという問題はあるような気がするのです。確かに、いまのように働き方が 多様化し、労働者の範囲が不明確になってきて、契約法という観点からいったら、もう 少し広げたほうがいいのではないか。今度、もしそうするのならば独自の概念、もう少 し広い概念が必要ではないかということになりかねないという感じがするのです。 ○山川先生  それと同じような問題意識なのですけれども、類推適用すべき場合がある、というこ とは判例でもかなり出ているし認識されているので、それを裁判所に委ねる形にする か、あるいは結果的にその呼び水になるような何らかの規定を設けるか、というところ が問題になり得るかと思います。 ○土田先生  その方向性は反対ではなくて賛成なのですけれども、仮にその方向性を打ち出してい るテクニックで類推適用かどうかを決めて、しかもどの規定、どの条項をするか、とい う切り分けまで制度設計で示すのであれば、それは方向性はいいのですけれども、ちょ っと時間をかける必要があるのではないか。そのスケジュール云々は私にはわかりませ んけれども、これだけの大問題を、ここまで含めて一挙にやるというのはちょっと。 ○曽田先生  類推適用というときに、その類推適用する形態が何かというのをはっきりさせないと いけないと思うのです。こういうものには類推適用するのだというときに、こういうも のというのをある程度具体化しないと、類推適用の規定は置けないことです。 ○菅野座長  この(1)から(5)はかなり明確な気がするのです。労働基準法の労働者の中のある部分 を取り出しているような感じで、(5)だって労働基準法の労働者でこの程度しかないの も、片方では労働時間や場所的拘束があるというのであれば認められています。(1)か ら(5)はわりと明確なのだけれども、どれをどのように適用するかというのが難しいの です。問題意識はよくわかるし、うまく実態に即したことができればという気がしま す。 ○曽田先生  (2)で、請負契約、委任契約と書かれているのですけれども、この請負契約とか委任 契約というのは別の契約類型としてあるわけです。その中で、この労働契約法制で取り 込まなければならないというのは、そのごく一部なわけです。そうすると、請負契約と か委任契約と、通常のそれとどこが違うのかということも考えないといけないのではな いかと思うのです。  例えば、普通の請負や委任だというと、契約関係にある一方当事者というのは、独立 の判断に基づいて独立の意思で行動する。要するに、ここにある使用従属性が非常に希 薄といいますか。もし使用者というとすれば、使用者から独立した形で、自分の判断で やれるようなものは請負契約であったり、委任契約であったりという範疇に入り、それ がほとんどなくて、一方当事者の意思や判断に従って、先ほどから出ている人的従属性 とか経済的従属性が非常に高いパターンのものが、労働契約の中に取り込まれるべきも のなのではないかという気がします。  そうすると、(2)であってもこれがすべてということではなくて、この中の一部では ないか。このほかに何か従属性があるという要件がかぶさってくるのではないか。 ○菅野座長  それが(3)であり(5)だという感じなのでしょう。 ○労働基準局監督課長  そうです。 ○西村先生  弁護士などの場合であまりないかもしれないのですけれども、(5)の要件を満たして いるという場合だったら、その人について解雇権濫用法理が働くという考え方になるの でしょうか。 ○労働基準局監督課長  全部該当する場合です。顧問弁護士みたいな感じだけれども、結局ずっとその人がい る。それは、雇われ弁護士とどこが違うのか。 ○西村先生  そういう考え方なのですね。なんとなく違うかな、と微妙な違いがね。いくら(1)か ら(5)まで全部満たしても、弁護士だということになればちょっと違うのかと。 ○曽田先生  弁護士だと、あまり例が良くないかと考えます。個人契約者は何々というのでうまく 定義はできないのでしょうか。労働基準法の定義はあるのですけれども、それと違えて ないか。労働契約とはこういうものだと。 ○土田先生  私は、それがあるべきだと思います。 ○曽田先生  それをうまく(1)から(5)までに落とし込めるような。基本的には、労働基準法上の労 働者なのでしょうけれども、労働基準法の労働者を契約法制に持っていくというのに抵 抗があります。労働基準法というのは、最低限度のあれを規定している、むしろ行政法 規みたいなもので、刑事罰でそれを強制しているわけですから、それをそのまま契約法 制のほうに持ち込んでくるというのは、ちょっと抵抗があります。そうかといって、な かなかうまい考え方が出てこないです。 ○菅野座長  中核というか、大部分は労働基準法の労働者になるというのはそうだと思うのです。 労働基準法上の就業規則法制などを前提にしますし、労働契約の中の労働条件の明示と いうのを前提にしますから、それと一致させたら狭いと思います。それを、うまく規定 化できるか。 ○荒木先生  労災の場合は、特別加入制度があります。労働者でなくても、適用の対象になりま す。この点はいうなれば、労働契約法の特別適用者というのが概念化できればそれはそ れでいいと思うのです。その作業がうまくいくかどうかです。 ○労働基準局監督課長  いろいろな考え方を示して、いろいろな考え方があった、というのがいまの状況だと 思います。 ○菅野座長  労働者の外縁が明確になってきたので、そういう多様化に応じた労働契約法の適用範 囲のうまい書き方ができないか、というのは共通しているようです。この問題意識はよ くわかると。 ○労働基準局監督課長  もう少し問題意識を出すような形で書き直すと。 ○土田先生  判例法を確認するとか、判例法を若干アレンジするという問題とは少しレベルが違っ て、量的にも時間的にも質的にも営々とする学問的な蓄積と、それから政策の積み重ね の上で出てきたものに、相当大きな修正をもし加えるという方向性を出すのならば、拙 速だけは避けていただきたいというのが私の気持ちです。方向性は賛成です。 ○菅野座長  その表現は検討させていただくことにして、次回は本日できなかった部分をお願いい たします。労働契約法制の全体的な性格のようなことも議論を始められたらと思いま す。事務局から、次回の研究会の連絡をお願いいたします。 ○労働基準局監督課調査官  次回の研究会は、7月26日(火)の17時から19時まで、厚生労働省7階専用第15会議 室にて開催いたしますので、よろしくお願いいたします。 ○菅野座長  本日の研究会はこれで終わります。貴重な御意見をありがとうございました。 照会先:厚生労働省労働基準局監督課政策係(内線5561)