05/07/05 「投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会」第2回 議事録     第2回 投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会                     日時 平成17年7月5日(火)                        10:00〜12:00                     場所 厚生労働省17階専用第21会議室 ○西村座長  ただ今から、第2回「投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究 会」を開催いたします。前回欠席されました宍戸先生と、小畑先生は本日から御出席で す。また、神作先生、山川先生、柳川先生は欠席です。  今回は、投資ファンド等による企業買収の現状について、有識者からの御説明を頂く こと、それから投資ファンド等と被買収企業の労働組合との労使関係に関する労使団体 の考え方について、労使団体からのヒアリングを行います。  まず、投資ファンド等による企業買収の現状についての概況を御説明いただきます。 御説明いただくのは、アンダーソン・毛利・友常法律事務所弁護士の赤羽貴氏です。そ れでは、赤羽先生よろしくお願いいたします。 ○赤羽氏  ただいま御紹介にあずかりました赤羽です。資料に沿って20分程度御説明させてい ただきます。私のレジュメには、「ファンドによる再建手法」と書いてありますが、フ ァンド一般でどういう仕組みで再生やMBOをやるかを客観的に説明するのが役割と思 っております。私どもの事務所には、ファンド側もありますし、債務者側、いわゆる対 象企業側もあり、両方の立場にありますが、あくまでも概括的な御説明ということで御 了承いただければと思います。  資料No.1の2と打ってあるところは、「企業再生ファイナンス」と書いてあります が、必ずしもファンドは再生ものだけではありません。昨今非常に話題になっておりま す企業再建でファンドが出てくることが多いため、その代表例として企業再生のファイ ナンスを中心にした、ということで2頁に書いております。  何らかの事情でうまくいっていない再建を必要とする企業があるとします。事情とい うのはいろいろあるのですが、1つには左側に書いてありますように、金融機関の債務 が非常に大きい、過重債務と言われるところで、非常に金額の大きな借金を抱えている という状況です。その債務を圧縮するところから始まっております。後程御説明いたし ますが、伝統的には債権放棄などということがなされてきたわけですが、さらに最近で はDES(デット・エクイティ・スワップ)ということで、この債権を株式に変えると いう方法もみられます。  次に、中程に書いてあるファンドに対しては、例えば金融機関が持っている債権を譲 渡するという第2段階があります。また、金融機関のところでDESをした後の株式譲 渡をすること、これは通例ではありませんが少数例としてはあります。そのようなわけ で、ファンドが下に矢印で「株主」となっていますが、債権を譲り受けたり、ファンド のところで債権をDESしたり、もしくはファンドが純粋に再建企業の増資を引き受け るという意味で、株主という形になっております。  ファンドの裏側には、さらに投資家が存在し、ここでいろいろな投資家がお金をファ ンドに出し、ファンドはそのお金を使って先ほど述べた一番の債権譲渡を受けたり、D ES後の株式譲渡を引き受けたり、さらには再建企業の増資を引き受けたりするという ことになります。  右側に金融機関、もう1つ、DIPファイナンスと書いてありますが、これは本件と は直接関係ないのですが、大きな絵という中で企業の再生ということを申しますと、再 建企業に対してファンドが株式という形でニューマネーを入れるわけです。さらに再建 企業がその株式以外の資金調達をしたいということになると、左側の金融機関、既存の 債権とは別個に新しくローンを引いてくるというのがDIP、デッター・イン・ポゼシ ョンの略で、DIPファイナンスです。再建企業、特に法的手続に入った民事再生など が典型ですが、そういう手続に入った会社に対してファイナンスのローンを付けるとい うことです。図の左側は、既存の債権・債務関係、それからファンドを中心にして右側 は新しい債権・債務関係、株式を含めたエクイティと債権の関係と、単純化してしまっ ていますが御理解下さい。  3頁はあくまで参考ということで、若干古いのですけれども東京地裁の資料です。民 事再生手続に入ったものについてどういう統計になっているかを示す資料です。ここで 「可決・認可」と書いてあるのが248件、「否決」が30件と書いてあります。これ は何かというと、民事再生の申立てをした場合には、その民事再生の再生計画の手続が きちんと進んでいくということですので、この資料では7割程度は民事再生の申立てを した後に、手続が進んでいきます。再生計画が債権者によって認可され、その計画によ って履行されていくということです。  なぜここに書いてあるかといいますと、会社 更生というもう1つの手続がありますが、会社更生は従来開始決定まで1年ぐらいかか っておりました。今回、倒産法がありまして、全般的に改正され、手続的には早くなっ ています。なんといってもこの民事再生が早く、認可率も高いということで、まだまだ 法的手続に入る社会的デメリットはありますけれども、民事再生法が無かったときに比 べますと法的手続に入りやすくなりました。  ファンドの種類ということで、事業再生ファンドというのが最近よく言われているも のです。再建企業ということで繰返しになりますけれども、業績が思わしくない、もし くは業績は良いのだけれども債務超過である。こういった会社に対して投資をするとい うのが事業再生ファンドです。  ファンドは、事業再生ファンドだけではなく、MBOファンドといわれているものも あります。これは6頁に図式化してありますけれども、典型的によくあるのは大手企業 の子会社等です。自動車メーカー等の子会社、部品会社、物流会社等において、その子 会社の現マネジメントとバイアウト・ファンドによりお金を出し合い、典型的には受け 皿会社にお金を入れて、対象会社は株式を取得するということです。  例えば、自動車会社が持っている株式を全部譲り受けてしまう。そこで典型的にはマ ネジメントが大体株式の10%やそれより少ない割合を持ち、あと残りのお金については マネジメント・バイアウト・ファンドが出し、株式を取得した上で対象会社のマネジメ ントをすべて把握するというのがMBOファンドです。  また、従来からよく言われているベンチャー・キャピタルというものもあります。こ れは典型的には、創業者がいて、そこに必要なお金を株式で入れていくというものでV Cといっていますが、これは対象会社、ほとんどは創業者が設立した会社に対して株式 を取得し、最終的には上場で株式の値上り益を得ていくということです。  8頁のところ、1つは法的な構成をするに当たり、「ファンドの仕組み」というのは いろいろあります。先ほど2頁のところで「投資家」と言いましたが、投資家からの観 点ということで言うと、有限責任性の確保、出資したお金以上のものは責任を問われな いということが投資家にとっては必要だということです。それに伴って使える法的な手 続がいくつかあります。匿名組合出資、海外LPS(Limited Partnership)、投資事業 有限責任組合、有限責任事業組合(LLP)というものです。  9頁、10頁以下はそれぞれの仕組みを簡単に図式化したものです。TKというのは 匿名組合ですが、この匿名組合契約というのは、出資者たる匿名組合員と営業者がい て、営業者が株式を取得し、出資者は典型的には金銭を出資し、その営業者が株式を取 得する権利と義務の主体になるというものです。  したがって、裏にいる出資者は出資の限度でしか責任を負わないことになり、対外的 に対象会社や第三者の関係では、あくまでも営業者が権利・義務をすべて負っているこ とになります。  海外LPSですが、これは典型的にはデラウェアやケイマンでもありますけれども、 そこでリミテッド・パートナーというのは責任が制限されているような契約形態のパー トナーといいますか投資家です。それに対して、GPというジェネラル・パートナー は、権利・義務を主体として無限責任を負います。日本で使う場合には、日本法上必要 とされている投資顧問業者の助言等を得て、その対象会社に投資することもあります。  「投資事業有限責任組合の仕組み」というのは、以前は中小企業を対象にした法律で したが、最近は衣替えをし、これも日本において有限責任組合と無限責任組合というこ とで、ほぼ海外のLPSと同じような形になっており、それによって株式を取得しま す。有限責任組合員は「責任は有限」であり、無限責任組合員は「第三者に対して無限 の責任を負う」ということです。  12頁の「有限責任事業組合」というのは、今国会で法律が通ったものです。これは LLPといわれているもので、公布はされましたがまだ施行はされていないはずです。 これは、それぞれの組合員がすべて有限責任で組合をつくり事業を行うもので、事業の 中に投資が含まれている場合に対象会社の株式を取得するという組合契約です。  こういった様々な法形態のものがある中で、ファンドの運営について申しますと Governanceと書いていますが、どの会社に投資をするかということを、主に投資委員会 で決めています。投資委員会は、先ほどの例で言えば営業者の取締役であったり、一部 第三者も入っていることがありますけれども、投資委員会でどの会社に投資をするのか ということを決めることが多くなっています。  さらに、アドバイザリーボードといって、事後的・定期的に事業の進捗状況、投資の 進捗状況をモニターするボードがあることもあります。「Key man条項」、「Capital callとカーブ・アウト」の辺りはファンドが運営する、特にファンドのリミテッド・パ ートナー、投資家サイドの話として、ファンドを運営するKey manが重要であるとか、 説明条項、配当条項もあり、GPへのクローバック条項(取り戻し)は、リターンが一 定水準にいかない場合にはGPへ配分された金銭から取り戻せるといった条項等があり ます。ファンドは様々な法的形態がありますけれども、GPはほかのファンドを運営し てはいけないとか、また、LPがどういうことを言えるかということが契約の中で決ま っているということです。  14頁の、「ファンドのガバナンス」というのもわかりにくいのですが、今回の研究 会の議題により近いと思うのですが、投資をした再建企業なり、対象会社について、誰 が何を決めているかということです。これは、基本的には対象会社の取締役会で決めて いると思います。少なくとも法的にはそのように決まっています。ただ、その取締役会 に対して、どういう役員を派遣するかというと、ファンド出身の役員を派遣する場合も ありますし、ファンド出身でない人が入っていることもあります。これは統計をとって いるわけではなくて私の狭い知見の範囲ですけれども、ファンド出身の取締役が常勤と いう形で出ていない場合もあります。非常勤という形で出ていることもありますが、そ れは今後ファンドの方にヒアリングする機会がありましたら、是非お聞きいただければ と思います。  もちろん、ドラスティックな例では、いままでの対象会社の取締役全員が辞任し、フ ァンドが指名した取締役が全て着任するということもあります。従来対象会社がやって いる業務を把握するためには専門家が必要なのですが、それぞれの業務について固有の 特性がありますので、ファンドの役員がすべてその事業を運営できるというわけではあ りません。私が見聞きした例では、元の取締役は全員辞任したのだけれども、例えば執 行役として全部残り、実際の業務執行はある程度任せることもあります。  もう1つは運営委員会(Steering Committee)というようなもので、これは先ほどの 話ともちょっと重複するのですけれども、ファンドの運営ということで、ファンドはい くつかの事業に投資していることもありますし、その対象会社ごとのそれぞれの受け皿 をつくっていることもあります。その中で、投資の対象についてどのようになっている かを、そのファンドの期間中にモニターしていきますが、運営委員会と対象会社の取締 役、もしくはファンド出身の方で対象会社の取締役会の方がどれだけ重なっているかと いう問題もでてきます。  ファンドの経営の関与ということですが、いささか今までの御説明では単純化し過ぎ てしまったのですが、例えば事業再生ということだと、より強い事業再構築、今までの 事業を選択と集中で切り分けたり、一定の債務、ファイナンスについてどのように進め るか、事業展開を変えようということです。一般的にいうと、今までやっているのと違 うことをやるわけです。事業再構築という意味では、ファンドの経営への関与は一般的 に強いと言えると思います。  M&Aのファンド、つまり企業買収をファンドでやる場合もあるわけです。そういう 場合には、例えば財務面を改築するのだということになり、財務諸表を再構築しなけれ ばなりません。事業というよりは財務面を改めるということになると、例えばいくつか のファンドではCFOという、その財務責任者のみを派遣している例もあります。  さらに、いささか単純化し過ぎる嫌いはありますけれども、ベンチャー・キャピタル というのは必要な部分の補強という意味です。創業者はそれなりにビジネスは分かって いるのですが、例えば財務面が分からない、労務面が分からないということがありま す。特に財務面が多いと思いますが、そのような場合にはベンチャー・キャピタルから 一定の役員を派遣するという形になっています。  最後にMBOですが、先ほど御説明いたしましたように既存のマネジメント、典型的 には大会社の子会社(系列会社)のマネジメントの方が残るので、そこは基本的に現存 のマネジメントへの経営委任という形になります。  もう1つは名前だけの問題だと思いますがMBI、マネジメント・バイ・インという のがあります。マネジメントの一部に、外からその業務に強い人たち、執行役なりを経 営陣として連れてきます。その業務の特性に合った専門家を連れてくるという意味で、 外部から入ってきている訳ですが、多くはファンド自体の役員ではありません。MB O、MBIというのは、既存のマネジメントやその業界に強いマネジメントの人間が来 て、経営を委任し、ファンド自体は基本的にその経営に任せるという形になっているこ とが多いと思います。  概括的ですけれども、資料を使った説明は以上にさせていただきます。 ○西村座長  ありがとうございました。ただ今の御説明に対し、何か御質問があればお願いいたし ます。 ○西村座長  8頁で、様々なファンドの仕組みがあるということですが、これのどれを選択するか というのはどういうことで決まってくるのですか。 ○赤羽氏  税金の問題と有限責任性という意味では、これはいずれも裏にいる投資家サイドの有 限責任性は確保されていますので、現状ではそれほど差はないと思われます。ファンド の仕組みによって、今回のような対象会社への事業の関与の仕方が異なるとは思えませ ん。  海外のリミテッド・パートナーシップというのは、日本で現在言われている有限責任 事業組合のようなものが従来はできなかったり、投資事業有限責任組合というのが従来 は中小企業を相手にしていたりという法的な制約があり、それがわざわざ海外へ出てい って組成した後、また逆に国内の対象会社の株式を取得するという形をとっていまし た。ある程度法整備が進めば減っていくのかもしれませんし、もともと海外のファンド もありますので、海外における外国の会社のファンドはこういった形をとっているとい うこともあります。 ○西村座長  聞き漏らしたのですが、14頁のファンドの運営に出てくる、投資委員会と対象会社 との関係でできる運営委員会の関係をもう一度御説明いただけますか。 ○赤羽氏  この辺は、必ずしも何か定形的なものがあると言うのではなくて、この上でいってい る13頁のファンドの投資委員会というのは、主に、最初にどの会社に投資をするのか ということがあげられます。その会社を投資対象として選ぶときに、もともとの投資家 とファンドがいるわけです。ファンド自体で、この会社に投資しようと決めるときの委 員会ということです。アドバイザリーボードというのも、ファンド全体の中で投資した 期中の成果、もしくはこういうものが起きていますというものを報告するようなもので す。  一方、14頁の運営委員会については、私も用語の使い方が正確でないかもしれませ んけれども、対象会社ごとにつくられる場合もありますし、先ほど述べたような投資委 員会と同じようなこともありますので、運営委員会と投資委員会が同じメンバーである という場合もあります。逆に言うと、対象会社ごとに取締役会のみならず、その会社の 中で一定の執行役等で運営委員会をつくる場合もありますので、先程の説明は言葉足ら ずだったかもしれません。 ○宍戸先生  15頁の、ファンドの経営への関与のところで、特に事業再生ファンドの点です。他 のファンド形態に比べて、より深い関与があるのが一般であるというのはそのとおりだ と思うのです。これは、フェーズによってだいぶ変化があるのではないかと私は見てい ます。もちろん、それもケース・バイ・ケースですけれども、通常は再生企業であって も、経営は経営者がやることになるはずなのです。  しっちゃかめっちゃかになっているわけで、そのときにファンドが、いくつかのケー スを見てみると株主がさまざまな利害関係人の交渉の中心になる時期が、短期間生じる ような気がするのです。ただ、その後は必ず専門の経営者のほうに中心的な役割が移行 していくということはあると思うのです。事業再生の場合は、ものがものだけに、段階 に応じて誰が経営の中心になっていくか、ということが変化しているのかと思うので す。先生が実際にタッチされたものではどのようにお考えですか。 ○赤羽氏  もちろん御指摘のとおり、フェーズによって誰がガバナンスを効かせているかという のは違いまして、最初は債権者です。債権者というのは、銀行に対して、特に過重債務 を負っているような会社は、株主が会社をコントロールする機能はありません。特に 100%減資、90%減資するときには、債権者がこの会社をどうするのだということ が一番最初の絵で、左側から始まって、次は先生が御指摘のとおり、新しく株式を取得 するファンドが株主としてどのような会社にするのかということです。戦略的なところ も含めて、当然株主ですから重要なことは全部決められるということなのですけれど も、まずはそういうところから決めます。  さらに、一旦新しく会社がリスタートすることになると、それは株主から取締役を派 遣する場合もあります。先ほど申しましたように、その事業特性というものは、大きな ところは見えるのかもしれませんけれども、なかなか1つのファンドの主なメンバーが 入っていても、事業特性に応じた従来のつながりや、既存のマネジメント又は新しく連 れてきたマネジメントの方に任せることが、一旦リセットした段階では多いようです。  ファンドの方も各方面でやっていますので、ある期間は集中的に当該対象会社を見ま すけれども、その1つ1つの会社について一定の時期を超えると、各会社に任せないと ファンド自体も回っていかないということがあります。より強い事業再構築というの は、あくまで再構築する段階において強いということだと思います。 ○毛塚先生  事業再生の場合のファンドのかかわり方として、ファンドが対象となるような事業を 探すのか、あるいは対象事業のほうが求めてくるのか、その辺はどういうニュアンスな のでしょうか。 ○赤羽氏  これは、いろいろなパターンがあります。もちろん、ファンド自体も良い投資対象は ないかと探しています。あとは、再生の対象となるような会社が、例えば公的な手続で いうと、産業再生機構に支援申込みをしてその後ビットにかかったり、もしくは法的手 続に入ると、多くはスポンサーというような新しい株主を求める手続をやります。そう いうところに再生の対象となる会社が浮上してくると、それを探しているファンドが例 えば我々はいくらで株式を引き受けますという形で競争をするのが多いという感じがし ます。 ○荒木先生  フェーズによって関与の仕方が違ってくるということの関係で、経営は専門家の経営 者に任せましょうと。ただし、14頁の運営委員会等が、経営者に対してどういう指示を 与えるかということにもいろいろあるのでしょうか。そんな経営では駄目ではないかと いうことで、もっとこうしろと言うこともあるのでしょうか。一応任せていても、それ では駄目だということでコントロールするのか、それとも、任せておいて駄目だった ら、今度は別の経営者を連れてくるのか、そういう意味のコントロールなのですか。  いったん、経営人に任せるといいながら、実際の株主としての権限というのか、その 関与の仕方にもいろいろあるのか、こういうタイプが主流だとか、その辺の実態はいか がでしょうか。 ○赤羽氏  運営委員会で言うかどうかという話は別として、ファンドの方は当然戦略を持ってい ます。この会社はこういう会社になってほしいというものが当然前提として入ってきま すので、ある程度大きな戦略というのは、当然経営者と話しながら決めるということだ と思います。  それが、A企業という中では財務戦略が必要なのか、事業もしくは営業の再構築が必 要なのか等を決めます。事業再生の場合には、一定の再生の計画をつくります。それ は、マネジメントも全部集まってそれに応じて履行されていくことを前提にしていま す。それは、法的手続の場合には、認可された再生計画なり、更生計画に従って進めて いくわけで、法的手続の場合でそれから外れたときには、また計画の修正のための手続 きをとるということがあります。それと同様に、法的手続に入っていない場合でも、そ れはモニターという意味では当然モニターしていくでしょう。  ファンドについては、何が最終的に仕上がり(EXIT)かというと、典型的には(再) 上場なりということです。逆に言うと、上場するためには一定の戦略に基づいた絵がな いと、上場も引き受けてもらえません。例えば東証なりいろいろ上場される市場があり ますので、その審査に耐えるなりの事業を組成してやっていくということです。 ○西村座長  我々がいちばん関心の強いところは、既存の労使関係、あるいは労働条件の決定シス テムへの影響の問題だと思うのです。そうしたことについて、例えばファンドの新しい 経営者が組合と交渉をするとか、話し合うといったこともあり得るのでしょうか。 ○赤羽氏  その辺は我々も関与していないところがあります。大きな絵の中で、組合と実際に交 渉するかどうかという問題はあると思うのですけれども、それは戦略の中の1つとし て、労働条件なりも勘案されていると思います。ただ、それが実際にどれぐらい関与す るかというのは、案件と対象会社によってもかなり変わってくるのではないかというの が正直なところです。我々は、投資のところまではやりますけれども、そこから先のと ころはなかなか見えないところであります。あり得ることとは思いますが、どれぐらい やっているかということ自体はファンドごとにお聞きになったほうがいいのかもしれま せん。 ○西村座長  先ほどの、事業再構築の際にビジネスの問題があるとか、財務の問題を抱えている、 あるいは労務の問題がこの会社ではかなり重大だといった分析というのは、投資ファン ドのほうでやるのですか。 ○赤羽氏  それは、もちろんやると思います。労使関係も含めて全ての条件は検討していると思 います。それは財務分析と、事業のどこが強いか弱いか、コスト管理はどうやっている のか、在庫はどうなっているのか、人件費も含めて、すべて考慮し、それとこの会社の 価値を照らし合わせた上で、何十億で何百億で株式を引き受けましょうということで総 合評価が下されます。そういう意味では、すべての要素はファンドなり、それからファ ンドが自分で使う専門家、事業デューデリ、法務デューデリなりをして見ていると思い ます。 ○毛塚先生  先ほどの、経営に関与する場合の方法として、対象となる会社のほうで正式に取締役 として選任されるような場合以外に、どういう形の支援、あるいは関与ということがあ るのでしょうか。 ○赤羽氏  典型的には取締役で入るというのが多いと思います。あり得るのは執行役という形 で、一定の責任を持って入ることもあるのだろうと想像しています。私も、まだ全部を 見ているわけではありませんが、取締役のほうが多いという気はしております。 ○荒木先生  基本的なことですけれども、民事再生の枠組みに入った場合には法的な手続ですので それに従っていくということでした。本日のお話は、企業再生ファンドといいますか、 ファンドによる再建手法なので、そういうのが中心なのかもしれないのですけれども、 そのほかにファンドが一番の大株主である場合と、まさに企業再生の場合のファンドの 行動とは全く違うということなのですか、それとも似たようなものなのでしょうか。 ○赤羽氏  先生の御質問は、法的手続に入っている場合と、入っていない場合でということです か。 ○荒木先生  はい。 ○赤羽氏  基本的にはそんなに変わらないとは思います。ただ、法的手続に入っている場合は、 債権者の認可を得て、法的手続に従ってやっています。ですから、そういう意味ではあ る程度法的な枠組みの中で、スポンサーとして新しく入ってくるという形であり、その 中での行動になります。その再生計画なり、更生計画に従ったものをやるという前提で 来ています。  そうでない場合には、株主としては同じなのですけれども、株主として自分が選んだ 計画を一定の範囲で修正できるということになります。要は裁判所なり多数債権者の法 的手続はないわけです。しかしながら、事業再生の場合には債権者がいますので、債権 者が一定の債権放棄をしたりという前提があるわけです。法的な手続の中ではないにせ よ、こういう計画だから債権放棄をしたのだ、こういう計画だからDESしてあげたの だということがありますので、そこの前提のところで対象事業者に対して、株主という 立場上、それを全く無視してということはファンドとしてもできないです。  抽象的な言い方になりますけれども、そういう意味で計画があるという前提では同じ ですが、法的な手続ではそれが正式にラティファイされているといいますか、手続の中 でやっていることになろうかと思います。 ○荒木先生  破綻企業でもほかの場面でもそうなのですけれども、倒産した企業には通常やっては いけないような措置についても、これは非常時なのだから認めようということで、いろ いろほかの法的な制約を免責するようなことはあり得ます。民事再生計画の認可があっ た場合については特別の場合だということで別扱いをする、というアプローチはあり得 ると思うのです。  そのほかで、単に債務超過の場合に同じようなことであれば、それと同じようなアプ ローチをすべきなのか。民事再生計画の下では別なのだ、という区切りをできるように ファンドの行動様式も違うということなのか、その辺が聞きたかったのです。 ○赤羽氏  そもそも法的手続を選ぶかどうかというのは、多くの場合は債権者というよりは会社 自体が決めていきます。どの手続でいくかということは債権者の方でも決められます が、もちろん最大債権者と話をするというのが前提です。法的手続に至るというのは、 再生が70%認可されていると言っても、会社によっては社会的、つまり従業員、や取 引先に対するダメージが大きいので、申立について逡巡されるというのは再生手続でも 更生手続でもあります。  そこに行く前に、メインの銀行と話をして、銀行間で金融支援できれば全銀協がやっ ている私的整理ガイドラインに基づく再建も、中間形態としてあり得るわけです。ま た、産業再生機構というのがあり、その手前に昔でいう私的整理があるというイメージ です。当然それによって若干の差はあるのですけれども、ファンドの行動様式として、 ドラスティックに違うかというとその辺は明確ではないのですが、それほど違える必要 もないのかと思います。もちろん縛りとしては、法的手続に従った認可に基づかないこ とをやろうとすると、それはもちろんできないということです。手前のほうであれば手 前になるほど、柔軟性があって債権者と話し合えばいいということは一般論としては言 えるかと思います。 ○西村座長  まだ御質問があるかもしれませんが、時間の関係もありますので赤羽先生からの御説 明はここで終わらせていただきます。どうもお忙しい中をありがとうございました。                  (赤羽氏退席) ○西村座長  続きまして、投資ファンド等と被買収企業の労働組合との労使関係に関する考え方に ついて、労働者団体からの御説明を頂きます。御説明いただくのは、日本労働組合総連 合会の須賀恭孝総合労働局長です。それでは、須賀局長よろしくお願いいたします。 ○須賀氏  ただいま御紹介を頂きました連合の須賀です。いろいろ御質問を頂いている内容もあ りますので、それらを含めて本日のヒアリングに対応させていただきます。  最初に、全体を総括するような形で、投資ファンドの動向と、それに対する連合の基 本的な考え方について申し述べます。まず、投資ファンドの動向ですが、先ほど赤羽先 生から状況の説明がありましたが、近年、ライブドアによる日本放送の買収劇などに見 られますように、国内でも本格的な企業買収の時代が到来した、ということが強く認識 されるようになってきました。現在までに、200以上の企業が買収の対象になってお ります。資金規模は総計で1兆3,000億と言われています。また三菱総研の調査で は、現在、少なくとも国内に50社の投資ファンドがあると言われております。そのう ち外資系のファンドが29社という調査もあるようです。この数については、年々増え 続けているという認識を持っております。  また、株式の持合構造の崩壊が急速に進んでおり、そうした中で既に事実上の国際株 式交換による買収が許容されていること、あるいは今国会で審議されております会社法 においても、いわゆる三角合併が可能となることなどにより、今後このような動きは一 段と加速していくと思われるところであります。  こうしたことに対する投資ファンド全般に対する連合の基本的な考え方は、投資ファ ンド等は短期間に利益が上がるようにする傾向が強いと私どもは認識しております。そ のファンドは、当然ながら経営にも相当程度関与してくるだろうし、雇用の削減や労働 条件の切り下げにも踏み込むなど、大胆なコスト削減をすることも多いと思われます。  投資ファンドの使用者性については、個別の事案を具体的に判断せざるを得ません が、これに対してまとまった基準を示すことが難しいということはよく認識をしており ます。また、代表的な判例として、1996年の最高裁で結論が出た朝日放送事件があ ります。この判断基準で示された、現実的、具体的支配関係があるという場合が事例と してはあるわけですが、こういう状況にあるという認識を使用者性については持ってお ります。  それによると、投資ファンドから労働条件を切り下げろ、という具体的な指示がない 限り、投資ファンドに使用者性を認めることは難しいということですけれども、一定程 度の株式を買収し、かつ経営陣に人を送り込んでいるような、人的、資的両面による支 配が行われている場合には、具体的な指示がなくても現実的、具体的支配関係があると して、使用者性を認める必要があると考えております。  一方で、労働者の保護については、労働協約が重要な役割を果たすことについて、当 研究会としても強調するべきではないかと考えております。例えば、投資ファンドが資 本に入ってきても、労働協約が承継されることになっていれば、簡単に労働条件を切り 下げることはできないわけであります。  御案内のように、アメリカの投資銀行のモルガン・スタンレーの報告書には、労働組 合の組織率が高い企業に投資しないようにという助言をするということがあり、このこ とが私どもの主張を裏付けていると考えております。  さらに、投資ファンドとして、買収先の労使関係に注意すべき点について、今までの 判例を中心に整理するとともに、投資ファンドであっても、まず1つ目は、労働協約や 過去の労使慣行を尊重する。2つ目は、従業員の地位を不当に害することのないように する。3つ目は、事業所における労働組合等と必要な協議を行う。4つ目は、雇用と労 働条件の安定について十分な配慮を行う。これらについて、法律等によって明確にすべ きであると考えております。これが、投資ファンドに対する私どもの認識と、連合とし てのそれに対する基本的な考え方の概括です。  以下、事前にいくつか質問を頂いておりますので、この質問の項目に沿ってお答えを させていただきたいと思います。最初に、「投資ファンド等による企業買収についての 現状認識と評価」です。今回の商法の改正により、2006年にはアメリカが要望して いた株式交換による企業買収、いわゆる三角合併が可能になるわけです。日本株と比べ て相対的に高い値段を、あるいは価値を維持しているアメリカ株からして、割安な日本 企業が外資系のファンド会社に買収される危険性が非常に高まっていると考えておりま す。  従来のM&Aは、自己の事業の補完や、他の分野への進出のために行われてきたと認 識しております。投資ファンド等もベンチャー企業や、あるいは倒産の危機にある会社 の再建に投資するものが多く、これまではそんなに大きな問題はなかったという認識を 持っております。しかし、今後は中規模会社がターゲットになり得る可能性が非常に高 く、健全な企業に目を向けてくることが十分予測されます。その結果、一部御案内のこ とかと思いますが、東急観光のように、労働組合と対立する事例が増えてくる可能性を 否定できないと私どもとしては認識しているところです。  2つ目の御質問は、「投資ファンド等による経営の関与についての現状認識と評価」 についてです。現在、ほとんどのバイアウト案件については、投資ファンドから何らか の形で経営者が派遣されているのが実態です。代表権を持つ場合から、社外取締役、あ るいは非常勤監査役まで形態は様々ですけれども、投資ファンドの利益の源泉は、買収 した企業のバリューアップによる投資回収であることから、経営陣の一部に人材を派遣 することは当然のことと言えるわけです。  そうなってくると、既に経営陣と従業員という、もともとからある通常の労使関係の 中に、投資ファンドの意向を反映する人が加わってくるわけですから、通常の労使交渉 が十分に対応できるのではないかと考えられるわけです。しかし、中には取締役がファ ンド経営者の傀儡であり、事実上の決定権を持たないケースも実際には存在しておりま す。そういう場合であっても、労働組合は当事者性のない経営者と団体交渉をする以外 に道はないわけです。  事業再生に当たり、労働組合自らが新しいスポンサーとしての、投資ファンドを連れ てくるような場合があります。こうした投資ファンドと労働組合との関係は良好であり ますが、団体交渉でない形の協議も可能となってくるわけです。先ほどのモルガン・ス タンレーの例ではありませんけれども、労働組合をコストとしてしか認識していないよ うな場合には、そのような協議も難しくなることから、投資ファンドの使用者性を認 め、労働組合の権利としての協議について十分に担保しておく必要があると考えており ます。  3つ目の御質問は、「投資ファンド等による労働条件決定への関与についての現状認 識と評価」です。投資ファンドは、この3年から5年の間で企業の価値を高めまして、 最終的には売却することを目的とする傾向が強いために、当然ながら経営に相当程度関 与してきますし、雇用の削減や労働条件の切り下げにも踏み込むなど、大胆なコスト削 減を実施することも多いと思われます。むしろ、労働条件を切り下げること等により利 益が上がらなければ、投資ファンドはあえて買収する意味がないと言っても過言ではな いと思います。実際に買収にあった労働組合に事情を聞いてみましたところ、そこでは 買収された企業の経営陣ではなく、投資ファンドがトップダウンで経営方針を決めると のことでありました。具体的には、ROE等の数値目標を決めて経営陣にはその利益の 確保を求め、その中でやりくりをさせられることになるわけです。  4つ目は、「投資ファンド等と被買収企業の労働組合(労働者)との関わりについて の現状認識と評価」です。これについて私どもの考え方を表明させていただきます。労 働組合として最も重要な問題は、労使関係の変容に対する懸念ということです。実際に 私どもの組織の中で、昨年3月に大手旅行会社の東急観光を買収した投資ファンドが、 組合員への一時金支給などを拒否し、労働組合が投資ファンド運営会社に団体交渉を求 め運営会社が対応に応じないというケースがありました。そのとき、ファンドの運用管 理会社でありますアクティブ・インベストメント・パートナーズ株式会社、AIPと私 どもは呼んでいましたが、この会社は、従来の東急観光と東急観光労組との間で締結を されていた労働協約や、過去の労使慣行を完全に無視し、労使間のルールを完全に形骸 化させてしまったわけです。  こうしたことによる労働組合への不当労働行為を東京都労働委員会、つまり都労委に 申立てをいたしたわけです。会社は度重なる都労委からの和解調停や勧告を無視して、 昨年12月末には「社員会」と称する第二組合を結成させ、組合員にはボーナスを支給し ない、第二組合に加盟をし、組合を脱退すれば直ちに一時金を支給するというような、 あからさまな不当労働行為を続けてきたわけです。この案件は投資ファンドにおける労 使関係上の問題を示唆するものだと考えております。一定の場合における投資ファンド の団体交渉応諾義務について明確にするとともに、投資ファンドとして買収先の労使関 係に注意すべき点について、今までの判例を中心に整理し、投資ファンドであっても労 働協約や過去の労使慣行を尊重しなければならないことについて、法律等で明確にすべ きであると考えております。これについては2003年4月に通達が出されました、 「営業譲渡等に伴う労使関係上の問題への対応について」が参考になると考えておりま す。  5つ目の御質問は、「投資ファンド等による労働条件決定への関与、投資ファンド等 と被買収企業の労働組合(労働者)との関わり方についてどうあるべきか」ということ に対する御質問です。連合としてはこれまでの間、1997年の純粋持株会社解禁の際 に、1つには労使協議の確立、2つに労働協約の整備、3つに組織化の推進、4つに使 用者性の明確化などを確認し、企業買収等については、現在までこの方針を基に対応し てきているところです。初めに申し上げましたが、使用者性の基準について明確化する とともに、労働協約の重要性について目を向けるべきであると考えております。  投資ファンドは、今まではベンチャー企業や倒産の危機にある会社の再建に投資する ものが中心であったわけですが、今後はフジテレビのような健全な企業に目を向けてく ることも十分に想定できます。一般的には、投資ファンド等による企業買収に対する企 業の危機意識が薄く、その責任の一端は労働組合にもあるわけですが、労働者保護のた めの措置が不十分であり、暫定労働協約のままで、きちんとした労働協約になっていな いケースも多い実態にあります。今回のフジテレビのケースなどがこれに当たるのでは ないかと推察できるわけです。  しかし、しっかりとした労働協約があれば投資ファンドもそれを継承しなければなら ないということですので、簡単に労働条件を切り下げることはできないと私どもは考え ております。ファンドが新しく入ってまいりましても、その時に労働協約が整備されて いなければ、それは手遅れとなるわけです。労使が危機感を持って事前の対策を講じる ことが必要でありますし、労働組合としてはきめ細かな労働協約を積み上げていくこと が、自らの防衛策であると考えております。  一方、投資ファンドが被買収会社の経営に関与するといたしましても、それはあくま でも株主総会における議決や株主として行使することができる権利等にとどまるのであ って、日常的な経営判断、事業活動については被買収会社が決定権限を有し、被買収会 社の裁量によって事業活動が行われるはずであります。先ほどの赤羽さんの説明のとお りだと私どもも認識しておりますし、言い換えますと、そこでの労働関係についても同 じようにすべきであり、投資ファンドが経営戦略の一環として個々の被買収会社の人事 ・労務政策に関わる目標を進めることはあるとしても、被買収会社の労働条件の決定に まで介入することは、本来やるべきでないということについて、訓辞的であったにいた しましても法律等で明確にすべきであるというのが私どもとしての考え方です。  最後の質問ですが、「投資ファンド等の労働組合法上の使用者性の考え方」について 改めて説明したいと思います。旧労働省の時代に「持株会社解禁に伴う労使関係懇談会 中間とりまとめ」がなされました。これによると子会社の労働者への使用者性が推定さ れる可能性が高い場合として、1つには、純粋持株会社が実際に子会社との団体交渉に 反復して参加してきた実績がある場合、もう1つは、労働条件の決定につき反復して純 粋持株会社の同意を要することとされている場合の2つが挙げられております。投資フ ァンドにおいても、投資ファンドが被買収会社の労働条件の決定や人事管理上の方針決 定に関与し、これに被買収会社が従っている場合など、被買収会社の経営を全面的に支 配したり、被買収会社が投資ファンドの一部に過ぎないなどの実態がある場合には、投 資ファンドとしての地位の濫用に当たり、投資ファンドには使用者性があるとして被買 収会社の労働組合に対して団体交渉応諾義務を負うことを明示すべきであると考えてお ります。  それと共に、投資ファンドから具体的に労働条件を下げろという指示がなく、ただあ り様を示して、これを達成すべしというような抽象的な指示がなされた場合であって も、株式をある程度、例えば50%以上というようなことが考えられるわけですが、所 有をし、経営陣に人を送り込んでいるような場合には、人的・資的の両面にわたる支配 が行われており、厳しい条件を突き付けているような場合には、現実的・具体的支配関 係があるとして使用者性を認める必要があると考えているところです。  最後に、労働組合がある場合には労働協約で対応することが十分に可能であります し、そのために労働組合が一定の役割を果たさなければならないわけですが、残念なが ら大半の事業所、企業において労働組合のない場合が非常に多いです。そうした場合に は、一方的に労働者へのしわ寄せがなされ、防ぎようがないというのが実態であろうと 考えます。投資ファンド等に対して使用者性を認め、労働条件の一方的な切り下げや理 不尽な人員削減が行われないように、当研究会で提言いただければ有難いと考えている ということを最後に申し上げまして、連合としての説明に代えさせていただきます。あ りがとうございました。 ○西村座長  ありがとうございました。それでは、御質問を御自由にお願いいたします。 ○宍戸先生  ただいまの須賀局長の御説明ですが、先ほど赤羽先生から主として御説明のあった、 債務超過状態企業の再生局面のことまでを含めてのお話であったのか、それとも健全企 業に対するM&Aに限定してお話になったのか、この点を確認させていただきます。 ○須賀氏  双方に関わっていると考えて結構だと思います。確かに再生の局面と健全な企業の買 収という点では性格は全然違います。しかし、私どもが申し上げたいことは、きちんと した使用者性を投資ファンドにも認めないと、結果において企業が持っているパフォー マンスそのものを失いかねないのではないか。つまり、人的な資源に対する投資効果 は、なかなか金銭的なものでは表せないわけです。  先ほど赤羽さんの御指摘にもありましたが、いろいろなことを投資ファンドは調べる のだと思います。その時に労働条件が高いとか、数が多過ぎるということも当然あるの だと思います。そこに対してきちんとした分析なり状況の判断を、従来からいた経営陣 なり労務管理者等がやっていたはずであります。そこに切り込んでくることについて は、それなりの措置だろうと思うわけです。そこをいかにするかということは、その先 の企業の再生なり、あるいは健全企業のさらなる発展ということに対して、きちんとし たものを担保しておかないと、結果的に企業の力そのものを失ってしまって、再生ある いは健全性が失われるのではないかという認識に立っております。 ○荒木先生  人的・資的な支配がある場合には使用者性を認めるべきだと。これは投資ファンドか ら経営陣の一部に人が入っているということであれば、そういう外形的なことから使用 者性を認めるということなのか、それに加えて、なお実際上、労働条件について具体的 に支配決定してという条件も必要なのか、ということが1つです。  2点目は、人的な支配に加えて資的な支配ということですが、資的な支配と言われる 内容を御説明いただければと思います。  3点目は、1頁の最後辺りでお話になったかと思いますが、投資ファンドとの間で団 体交渉ではない協議もあり得るのだ、ということに触れられたようにお聞きしました。 使用者性を認めると言われる場合に、現在労働組合上の使用者として、団体交渉の義務 を認めるものとして議論をされているのか、それとも、人的・資的というのは、団体交 渉ではない協議、もう少し緩やかなものとして、きちんと向き合って話をしなさいとい う意味での要件、というような含みがあるのかどうか。この3点をお聞きしたいと思い ます。 ○須賀氏  人的・資的な部分で具体的な内容ということですが、具体的な支配決定ということで いきますと、先ほどもお話がありましたように、人が送り込まれてくるケースと、実質 的な運営委員会のようなところに、言葉は悪いのですが陰で糸を引くというような部 分、この両方があると私どもも考えております。つまり、具体的に労務政策をこうし ろ、人件費コストをこうしろと言わないにしても、ある数値目標を示せば、その数値目 標を達成するためには当然そうしなければならないような条件、再生上の要件なり、あ るいは事業目標として掲げられれば、現経営陣というのはそれに基づいて具体的な対応 を検討しなければならないわけですので、そういうところの部分、人が実際に出てきて やるケースと、そうではなく、裏で糸を引くというと語弊があるかもしれませんが、そ ういう部分を資的と私どもは呼びました。こういう2つの要件があれば具体的な決定の ための権限を有している、と見てもいいのではないかと考えたわけです。これで前段の 2つの質問にお答えできると思います。  後段の協議の件ですが、基本的には労組法上である団体交渉応諾義務をきちんと負わ せるべきだと考えております。実は、先ほどの説明の中でも紹介しましたように、再生 に当たって労働組合がファンドを見つけてくるというケースも現にあります。そういう 場合には、あえて団体交渉までしなくても、俗に言う事前協議のような形、団体交渉手 前の労使協議のような形でも十分に、お互いの意思疎通ができる。つまり、労使が意思 疎通をしながら一定の方向に向かっていくのが、本来のあるべき姿であろうと考えてお ります。基本としては団体交渉に応じてもらう、あるいは労組法上にいう団体交渉応諾 義務というものを負わせるべきだと考えますが、仮にそこまでいかないとしても協議を する義務はあるというようなことについては、きちんと担保しておく必要があるのでは ないかということを考えております。 ○西村座長  予定の時間をオーバーしておりますので、連合からのヒアリングはここまでにしたい と思います。須賀局長、本日はお忙しい中、大変ありがとうございました。                  (須賀氏退席) ○西村座長  続きまして使用者団体からの御説明を頂きたいと思います。御説明を頂くのは、社団 法人日本経済団体連合会の紀陸孝常務理事です。では、よろしくお願いいたします。 ○紀陸氏  御紹介いただきました日本経団連の紀陸と申します。お手元に資料No.3という形でレ ジュメが1枚。その次に、企業買収に対する合理的な防衛政策の整備に関する意見、こ れは昨年11月段階で私どもの組織がまとめた意見で、この2点に即して、この問題に 対する私どもの考え方を述べさせていただきます。  大きく2つありますが、1番目は投資ファンドに対する現状認識・評価です。私ども は基本的には(1)です。いま非常に企業環境がグローバル化等で様変わっておりま す、いろいろな形でM&Aが進みつつあります。結果的には、俗に言う経営資源の「選 択と集中」と。これは個別企業だけでなく日本の市場の中でということも含めてです が、様々な企業が競争力をつけて生き延びていかなければいけない。そういう中で、い ろいろな経営資源の選択なり集中なりが行われている。結果的に国際競争力をつけてい く過程にあるという理解をいたしております。  企業買収に限って私どもこの見解をまとめているわけではありませんが、投資ファン ドも含め、組織再編一般についてはいろいろな形でスムーズな運営を図るべきだという のが基本的な理解です。ただそうは言っても(2)にあります「企業価値を促進する買 収と阻害する買収」と。これはよく言われている点ですが、基本的に企業の価値を大き く増やす形でのM&Aは促進すべきであると考えますが、そうではないスタイルについ ては何らかの歯止めが必要だというのが基本的な認識の1つであります。  ただし、企業価値を促進するか阻害するか、これは誰がどういう視点で判断するかが 問題であります。株主の立場なのか従業員の立場なのか、その他ステークホルダーはい ろいろおられますが、どういう方の立場に立って、かつ、短期的にか中長期的にか。そ ういう視点を踏まえて、良い買収なのか悪い買収なのかを判断する必要があるであろう という認識です。いまよくある形ですが、典型的には従業員と買収者企業の利益が対立 するケースです。いわゆる買収にかかって取締役を派遣し、そこでリストラを断行す る。その結果、利益を上げてその利益を役員報酬や配当、あるいは株価の上昇につなげ ていくという形があります。  その場合、従業員の立場から見れば当然雇用の安定性が失われる。しかし株主の利益 からみると悪い買収ではない、という形が起こり得るわけです。短期的には株主にとっ てはいいのかもしれません、一時的にはそう見えますが、長期的に見ると、やはり労使 関係が悪くなって従業員のモチベーションが下がる、そうすると業績も下がってしまう だろう。会社の時価総額は将来的に上がっていかない。中長期的に見ると、一番大事な 人的資源が損なわれて会社の価値自体も中長期的には下がってしまう。一時的には株主 にとっていいようなことだけれども、中長期的に見ると、実はそうではないということ も大いにあり得るわけです。  お手元に昨年11月16日段階の意見があります。その中に今のような観点、ちょう ど中段辺り「例えば」ということで申し述べております。「長期的利益の源泉となる人 的資源の解体や事業部門の切り売りが行われる。また、従来の雇用慣行の継続性が損な われて、経済社会に重大な悪影響が及びかねない。さらに、株主の情報不足を利用して 売り急ぎを煽ったり、極端な場合は買い集めた株式を安定株主にとって高値で買い取る ように迫る行為が行われる懸念がないとは言えない」。ここは、企業価値を毀損する買 収の悪いスタイルをいくつか述べています。  ここの意見の結論は一番下の段落で、こ ういう企業価値を毀損するおそれのある買収に対して歯止めを早くかけてほしいと、今 回のような商法改正について、できるだけ防衛策を早く講じてほしいということをお願 いした文章であります。この中に私どもの企業買収に対する基本的な考え方を述べてお りますので、御理解を頂きたいと存じます。  今度の商法改正で会社法ができましたので、いろいろな形で、いわゆる対応策がとれ ることになりましたので、これにより企業価値を損ねる企業買収については、何らかの 歯止め措置が実現されると期待しているところです。  2番目の所は、買収される企業のほうの労働組合法上の使用者性をどう考えるかとい うところですが、今企業売買が日常的になってきており、今回の投資ファンドもその一 環の問題であろうという基本認識です。投資ファンドが役員を送り込んできたといって も、従来からある持株会社と投資ファンド、これは基本的に同様な志向で子会社や被買 収会社の労働問題に、一般的にいってそんなに強い関心が果たしてあるのか、そうでは ないだろうと。とりわけ投資ファンドの場合は企業利益を上げて一定の時期に株を売却 するのを意図しているわけであり、当然ながら人件費をできるだけ抑制しようとか、そ の企業を長期的に育てようという視点はないのではないか。仮に、特定の個別ケース で、投資ファンドが従業員の雇用や労働条件を含めて、企業価値を損ねるような買収を 仕掛けるというようにすれば、被買収企業は今回の商法の措置で、何らかの対応策をと ることも可能になってくると存じます。  基本的に私どもは買収後に、投資ファンドが特殊なケースでリストラ等を行うことが あったとしても、それは被買収会社の中における労組従業員と投資ファンドが送り込ん できた役員の間との話合いなり交渉するのが筋合いであろう。投資ファンドを相手にし てというのは、筋合いが少し違うのではないかと思う。大きな意味で商業と経営が分離 されているという枠組みで物を考えるべきではないかと思います。それでも不都合だ、 もう一度解決をというのであれば、ここで使用者性をどう考えるかという問題が出てく るかと思うのです。これについては既に持株会社を論じた時点の段階で結論が出てい る。それと同様の処理をしていけばいいのではないかというのが基本的な考え方であり ます。現行の判例法理も、先ほど朝日放送の最高裁の判例など紹介されましたが、雇用 主と部分的にとはいえ、同視できる程度に、現実的かつ具体的に支配決定することがで きる地位にあれば、買収するのは純粋持株会社であれ、または事業持株会社であれ、さ らには投資ファンドであれ、団交が認められることになるわけですので、それで法的な 対応は現実的に十分ではないかと考えます。  たまたま今回1つ事件が起きて、それを1つの材料にして少し考え方を敷衍しようと いうことがあるようですが、持株会社と投資ファンドに対する団交義務なるものを一般 的に義務化するのは、果たしてそれがいいことかどうか。仮に団交義務を一般化する と、労働組合のある企業を、企業の価値を高めるいい意味での買収の対象にもしないと いうことになりかねないことになりますので、いま世の中の流れの選択と集中による企 業の、様々な意味での競争力強化の手段を失わしめる。広い意味での組織再編の足かせ にもなってしまうという意味で、一律的に団交義務をルール化する法的措置をとるとい うことについては、必要ないという理解をいたしております。非常に大雑把ですが基本 的な考え方は以上です。 ○西村座長  ありがとうございました。ただいまの御説明について、何か御質問があればお願いい たします。 ○西村座長  いま紀陸さんから、投資ファンドの労働組合法上の使用者性について持株会社の問題 を検討した際に出した結論を、そのまま持ってくればいいのではないかというお話だっ たと思います。持株会社の場合と企業買収に関わる投資ファンドの問題は、2004年 11月16日に出された日本経団連の意見と、ずいぶん違った考え方が出されているよ うな感じがするのですが。 ○紀陸氏  基本的にそうではないと思います。企業価値を毀損するおそれのある買収は、きちん と法律が手立てを打ってやってくださいということを要請しているわけです。ここにあ る悪い形の買収、それも現実的には否定しませんが、商法的措置が十分できれば、悪い 形で企業価値を毀損するような買収は現実には難しくなってくるだろうと。いろいろな 買収がありますし、そんなにひどい形のものというのはこれからもっと進んでくるかも しれませんが、今までそんなに実際に起きていたわけではないでしょうし、いくつか懸 念されるようなことは、今回あるいはこれからも商法改正によって、かなり手立ては講 じられてくるだろうと。企業もそれによって何らかの対応ができるとなれば、あまり悪 い形のことは懸念しなくてもいいのではないかという概念がこの中にあると、御理解い ただければと思います。 ○西村座長  あえて言わせていただければ、ここの意見、真ん中辺ですが、長期的利益の源泉とな る人的資源の解体とか事業部門の切り売りなどのおそれというのは、持株会社の場合の 問題意識とは少し違う発想だったと思うのです。 ○紀陸氏  もちろんそうです。ファンドがどういう意図で買収を仕掛けるのか、まさに売り抜け るためにやってくるのか、そういうおそれはないとは言えないと思います。しかしそれ は、従来ほとんど商法的措置が不十分であった場合と比べると、これからはそう簡単に はいかないだろう。逆にいろいろな面で商法とは別に労働法的な縛りを労使関係の面で 講じてしまうと、かえって柔軟な、良い面の買収が阻害されてしまうというデメリット も考えておくべきだというのが基本的な考え方です。確かに、そういうのは決して否定 しません。人的資源の解体とか事業部門の切り売りのおそれというのは言ってみれば、 言葉は悪いですがレアケースみたいな形で処理できればいいのであって、防ぐのを先取 りするような、労働組合を守るような労働法的手当を講じることをしないほうがいいの ではないかという認識です。 ○毛塚先生  11月の御意見は、日本従来の企業文化を積極的に評価するということではないかと 思うのです。そうしますと新しい投資ファンド等の動きの中で、企業グループ間におけ る従業員とのコミュニケーションを、どういう形で図って対応するのが長期的利益確保 に役立つとお考えなのか、その辺はどうなのでしょうか。 ○紀陸氏  その点は先ほど須賀さんも最後のほうで言われましたが、やはりグループ内の労使協 議の仕組みをきちんと作り上げることが必要であろう。いま私ども別途、労使協議の仕 組みの勉強会をやっております。いろいろな企業からヒアリングを受けておりますが、 さまざまな形のグループ経営がありますので、その中でどういう形の労使協議を進めて いったらいいのか。これはまだ試行錯誤の過程である企業が多いのですが、極端に言う と、仮に持株があってその下にグループがあってと、いわば三角形の形で、一番上に持 株があって、その下の横をつなぐようなものをつくって、それぞれ上から降りてくる場 合と上に上がっていく場合など、いろいろな仕組みがあるのです。その規模や地域性に よってやり方が違うのですが、どういう形がベストかというのは企業の判断によりま す。  いろいろな意味で、今現在の問題と中長期的な問題と様々ですので、いずれにしろ労 使協議の仕組みをきちんとやってコミュニケーションのパイプをつけていくのが、一番 良いのではないか。おそらく企業もそのような考えで協議の仕組みを試行錯誤の段階だ と思っております。狙うところは、それがうまく運ぶということではないかと思いま す。 ○毛塚先生  先ほど事業再編時はかなり迅速に対応する関係があるということから、企業再編を阻 害するルールは作るべきではないという御意見ですが、先ほどの須賀局長のお話のよう に、労働組合がある程度受け皿を探してきて乗り切るという方法もあるとすれば、この 辺の評価はどのようにお考えなのでしょうか。 ○紀陸氏  そこまでは考えていませんが、応用動作で、しかもそれが手間が掛からないでいけれ ば、そういう選択の1つとしてあるよということであれば、それまでもノーとは申し上 げませんけれども。 ○西村座長  宍戸先生にお聞きしたほうがいいのかもしれませんが、2004年11月16日の日 本経団連の意見で、ファンド等の活動によって、これはいろいろあると思いますが、長 期的な視点で考えるファンドもあれば、そうでなく短期的な利益、株価だけ上げて売っ て利ざやを稼ぐファンドもあると思うのです。そういうファンドについての考え方と、 純粋持株会社の場合の考え方というのは、共通する面と違う面は、あえて言えば、どう いったところにあるのでしょうか。 ○宍戸先生  持株会社の場合は既存の企業グループをどのように構成するか、いわば企業グループ のコーポレートガバナンスの選択肢の1つであると位置づけられるわけです。投資ファ ンドの問題は、相手があるといいますか、買い手と売り手が出てくる形、いわゆるM& Aの1つのプレイヤーであるということでは、もちろん違うと思います。 ○西村座長  片一方が、純粋持株会社の場合だと、短期的な視野で判断することは、あまりないで すか。 ○宍戸先生  それはどうなのでしょうか。一概に持株会社だから長期的であって、投資ファンドだ から短期的であるということにはならないと思います。もう1つ言えば、短期的が悪い かというと、一概に短期的に考えているからいけないということにもならないと思って います。  さらに言うと、御質問を頂いたので一言言わせていただくと、先ほど来投資ファンド 性悪説のような感じでお話が進んでいるようですが、必ずしもそうかと。もちろん3 年、5年で売り抜けるのが至上命題です。それはそのとおりです。その間に企業ファン ドが別にお金だけ出して売り逃げようという話ではなく、人も出して、いわゆるハンズ オンで、経営の建て直しで汗をかいて、その間に企業価値を上げて売り抜けようという ことですから、その間に労使の協調はするのです。投資ファンドも私の知る限りにおい ては、一番労使関係に気を遣っています。もちろん人的資源を破壊してしまったら企業 価値は上げられないのです。その過程で余剰の労働資源があった場合には、どうしても リストラ的なものは不可欠であるという局面はあると思うのですが、合理的でないリス トラを投資ファンドだからやると、いわゆる、投資ファンドイコールハゲタカという図 式は議論の前提として違うのではないかと思います。  先ほど須賀局長からROE等の指示があると言われたのですが、これはある程度やむ を得ない。ファンドだけの都合ではなく、ファンドが入っていくという場合は、ほぼ必 然的にレバリッジを使いますので、銀行がプロジェクトファイナンスを付けているので す。そうしますと様々なコベナンツが付いて、どれだけのROEというか基準をクリア しなければならないかということは、ファンド以外の債権者からの要請として必ず付い てきます。要するに毎期一定の安定したキャッシュフローを上げ続けられなければ労使 共倒れになるわけです。そのための基準を、とにかくこれをクリアしなさいということ を経営者に課すのは、企業がゴーイング・コンサーンとしていく上でやむを得ないこと ですので、経営の害になることには必ずしもならない。  私の率直な意見としては、投資ファンドだけを切り出すのはなかなか難しいという感 じです。再生の局面ではいろいろなものが選択肢の1つですし、M&Aは別に投資ファ ンドだけをやっているわけではありません。事業会社もやります。むしろ事業会社のほ うがリストラとかをやる利益が多いのかなという感じもいたします。ファンドだから危 ないというのはかなり難しい。ですから、何らかの団交義務等を法的に定めるとする場 合に、どういう切り出しをするのかが、かなり難しいのではないかという印象を持ちま す。 ○西村座長  ありがとうございました。 ○紀陸氏  まさにそういうことだと思います。どういう立場に立っていいとか、悪いとかの判断 をつけるかというのは、短期や中長期もですが、立場によって見方がずいぶん違ってく るでしょうから、逆に投資ファンドだからといって守るような意味で、いろいろな形で 使用者性云々をパッと法的に定めるのは、いろいろな意味での買収の進行を阻害してし まうことになるからというのが、私どもの1つの反対の根拠なのです。 ○西村座長  ほかに御質問がなければ時間の関係もありますので、日本経団連のヒアリングは、こ こで終わりたいと思います。紀陸常務理事、本日はお忙しい中どうもありがとうござい ました。                (紀陸常務理事退席) ○西村座長  それでは今後の進め方について事務局から説明をお願いします。 ○熊谷参事官  次回以降の当研究会の進め方については、前回相談した中で、次回以降は投資ファン ド会社、被買収企業、労働組合といったところからのヒアリングを3回程度になってい ます。その中で大まかなヒアリング事項を示しましたが、今回はそれを少し具体的に書 いたものを用意しております。次回以降ヒアリングをさせていただくファンドや企業、 労働組合等の関係者に、今日の資料No.4の紙を示していろいろな説明をお願いすると いうものです。  1枚目は、ファンド等に対するヒアリング事項です。大きく4つありますが、まず 「ファンド運営全般について」、(1)主たる投資対象企業、(2)ファンドの規模、(3)投 資期間、株式保有期間、(4)被買収企業の経営への関わり方、(5)労働条件決定への関わ り方、(6)労働組合との関わり方といったものを伺ってはどうかということです。  「被買収企業の経営への関与の実態」は、(1)持株比率、(2)役員の派遣状況、(3)そ の他経営への人的・資金的な関わり、(4)被買収企業の経営判断への関わり方、(5)被買 収企業の株式の保有期間といったことです。  「買収後の労働条件決定への関わり方」は、(1)被買収企業における労働条件見直し の内容、(2)その決定に係るファンド等の関わり方といったことです。  4番目は「被買収企業の労働組合との関わり方の実態」です。(1)ファンド運用会社 と労働組合との団体交渉・労使協議等の有無、(2)その実施時期、(3)被買収企業と労働 組合との団体交渉や労使協議におけるファンドの関与について伺ったらどうかというこ とです。  2枚目は被買収企業に対するヒアリング事項です。ここでは3点ですが、1つは「被 買収企業の経営への関与の実態」で、(1)被買収企業における経営改革の内容、(2)その 意思決定の主体、(3)意思決定に対するファンド等の関わり方です。2つ目は「買収後 の労働条件決定に係る意思決定の実態」で、(1)被買収企業における労働条件の見直し の内容、(2)その見直しに係る意思決定の主体、(3)ファンド等の関わり方です。3つ目 は「被買収企業の労働組合との関わり方の実態」で、(1)団体交渉・協議等の有無、(2) 実施時期、(3)買収前後での変化、(4)ファンド等の関与です。  3頁は労働組合に対するヒアリング事項です。「買収後の労働条件の変更の内容」 「被買収企業と労働組合との団体交渉や労使協議の実態」、特に買収前後での変化。3 点目は「投資ファンド等と労働組合との関わりの実態」で、(1)投資ファンド等と労働 組合との団体交渉や協議の有無、(2)実施時期です。それぞれ重なっている部分があり ますが、こういったことをファンド、被買収企業、労働組合に聞いたらどうかというも のです。  4頁は、前回お諮りした海外調査です。現時点ではアメリカについて調査を行ったら どうかということで、その際の調査事項の案を示しております。投資ファンド等あるい は被買収企業、その労働組合、全国労働関係委員会等からのヒアリングということで、 (1)投資ファンドの買収の実態、(2)経営への関与、(3)労働条件に関する意思決定の実 態、(4)労働組合との協議の状況、(5)使用者性に関する法制度、判例といったことを調 査してはどうかということです。この海外調査については、独立行政法人である「労働 政策研究・研修機構」に、私どもから要請をして実施していただくことになっておりま す。先生方の御要望もなるべく取り入れたものになりますように、御意見を頂戴して、 それをJILPTへ伝え、お願いしたいと考えております。  本日、できれば最初の3枚について御意見を頂戴し、内容を固めていただければ有り 難いと考えています。次回は7月26日に先生方の御予定を頂戴しておりますので、本 日はこの3枚について御議論いただければ有り難いと思います。  海外調査に関しては、後日、御要望なり、御意見を頂戴しても対応は十分可能かと思 いますのでよろしくお願いいたします。 ○西村座長  ただいまの説明について、御意見、御質問があればお願いいたします。 ○毛塚先生  対象となるファンドはいくつかのタイプがありましたが、一番上の再生ファンドがメ インということですか。それともマネジメント・バイアウトのようなものも含めるので すか。 ○熊谷参事官  1つは被買収企業において労働組合があるというケースを前提に選定をする必要があ ると思っております。例えばベンチャーのような場合は、労働組合はあまりないという のが1点です。それから、被買収企業の経営状況が非常に良くない場合、場合によって は健全な場合もあるのかもしれませんが、そういった経営状況も十分勘案しながら、で きるだけいろいろなケースのヒアリングができればと思っております。どこからどこま でが健全で、どこになったら悪いとなるのか、その区分けは簡単ではないように思いま す。特に経営状況があまり悪くないような場合には、ファンドによる買収の案件はそう 多くないようにも聞いておりますので、その辺、御指摘のような要素も十分勘案しなが ら選定作業、リストアップをしたいと考えております。 ○宍戸先生  そうだとすると、被買収企業の買収されたときの状況を明確にする必要があると思う のです。健全企業の場合にリストラしたのか、債務超過の状況でリストラしたのかでは 全く違いますので、どこかで確認できるようにしていただければと思います。どういう 指標をとるかは別に問題があるかと思いますけれども。 ○熊谷参事官  そういう方向で検討したいと思います。 ○西村座長  被買収企業に対するヒアリングでも、いま言われたことの関連で言えば、どちらが持 ちかけたのか。投資ファンドのほうが先にイニシアティブをとってやったのか、逆に被 買収企業が投資ファンドを探しておったとか、イニシアティブをとってアクセスをした のかというのも大事かもしれませんね。1、2、3の前の段階というか、どういう経緯 で接触が始まったのかということも。 ○荒木先生  実態はどうかわかりませんが、買収後に大胆なリストラを行うこともあるのでしょう が、営業譲渡の場合のように、その買収の前提として、もとの会社で相当整理すること を条件に買うというように、その前後というのは広く拾える部分もあるかもしれないの で、買収「後」の労働条件の変更と厳格に言わずに、少し広めに把握されたほうが実態 が分かるのかもしれないという気がします。 ○西村座長  買収の前提として、ある程度、リストラその他の措置をとっておきなさいというケー スもありますよね。営業譲渡の場合でもそういったケースでね。 ○熊谷参事官  いまの西村座長と荒木先生の御指摘を踏まえて、整理をし直したいと思います。 ○西村座長  それでは、頂いた御意見も踏まえまして研究会の検討を進めていきたいと思います。 次回以降個別の投資ファンド等のヒアリングの対象会社等の選定については、本日の議 論を事務局で整理した上、座長が決定するということで御一任を頂きたいと思います が、よろしいでしょうか。                  (異議なし) ○毛塚先生  1点だけお願いします。海外の研究ですが、使用者性に限定するとアメリカ型という ことになるのですが、この問題は、必ずしもその問題だけではないような気がするので す。SRIなど投資ファンドをめぐる対応ということで考えればヨーロッパ型もあり得 るのではないかなと思うのです。その辺はどうでしょうか。当面の研究として使用者性 の問題にもってくるということで、今後それは座長のほうで考えていただきたいと思い ます。 ○西村座長  わかりました。 ○荒木先生  前回議論したときは、不当労働行為制度のように行政が関与する団交義務はヨーロッ パにはないので、日本のような不当労働行為制度の下での使用者性が問題となるのは、 不当労働行為制度のあるアメリカ、カナダ、日本、韓国で、それで典型的にはアメリカ かなという議論でしたが。 ○毛塚先生  投資ファンドをめぐる労使関係というものをどう考えるかという問題はありますが、 短い期間ですから、不当労働行為制度上の問題を主にということでも構いません。 ○荒木先生  コーポレントガバナンスと労使関係というところまでいくと、まさに言われる問題ま で広がってきますけれども。今回は、そこまではどうなのでしょうか。 ○熊谷参事官  毛塚先生が言われたような問題は当然あるわけですが、この研究会の開催の目的は、 投資ファンド等が企業を買収した場合の労使関係の実態を広く勉強しつつ、当面国会等 で指摘されております投資ファンド等の団体交渉当事者としての使用者性の判断のあり 方について、一定の検討結果をまとめていただきたいというのが私どもの考えです。  当然、毛塚先生が言われるような労使関係、もっと広い意味での全体のあり方、コー ポレントガバナンスの問題もあるわけですが、その辺をどうするかは今後この研究会で の議論を踏まえて、私どもとして考えさせていただきたいと思います。当面、最低限、 使用者性の判断のあり方はよろしくお願いしたいと考えております。 ○西村座長  それでは、事務局から次回の研究会についての日程をお願いします。 ○松永参事官補佐  次回第3回の研究会は、7月26日(火)午前10時から12時まで、場所はこの建 物の専用第17会議室を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。 ○西村座長  それでは、本日の研究会は以上をもって終了したいと思います。皆様お忙しい中どう もありがとうございました。             照会先 政策統括官付労政担当参事官室 法規第三係 幸田               TEL 03(5253)1111(内線7753)03(3502)6734(直通)