「平成18年の医療制度改革を念頭においた
医療計画制度の見直しの方向性」
(中間まとめ)





平成17年7月27日
医療計画の見直し等に関する検討会



「平成18年の医療制度改革を念頭においた医療計画制度の見直しの方向性」
(中間まとめ)

平成17年7月27日
医療計画の見直し等に関する検討会

◇はじめに

 地域の保健医療提供体制の確保に関しては、医療法(昭和23年法律第205号)第1条の3に基づき、国及び地方公共団体が、国民に対し良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を確保するよう努める責務を有している。

 地域の保健医療提供体制の確保に当たっては、患者の傷病を治療するために医療があるということ、すなわち患者が医療サービスの基本に位置しているということ、また、そのような中で、患者の治療のため、医療提供者が専門家として、患者とともに治療という共同作業を進めていくことが求められている。もとより、その際には、限られた医療資源を地域の保健医療提供体制の中でどのように有効に活用していくのかという視点も忘れてはならない。

 あわせて、地域で望ましい保健医療提供体制を確保していくためには、住民自らが健康づくりについて普段から意識して、保健医療提供体制の理解を深めていくことも重要である。行政はもとより医療提供者をはじめとする関係者は地域社会における日頃の取組を通じて、より一層、健康づくりに関して住民が学ぶ環境を整えていくことが必要である。

 本検討会では、このような課題に対し、医療計画を通じ、どのような見直しができるのかということを中心に、これまで11回にわたって議論を重ね、ここに「中間まとめ」として考え方を提示することとした。

 ここで提示した医療計画の見直しの方向性を通じ、住民・患者、医療提供者そして国・都道府県が、共通した問題意識を基に、引き続き、住民・患者が安心して日常生活を過ごすために必要な患者本位の医療サービスの基盤づくりに取り組む必要がある。


◇医療計画制度の見直しの背景とねらい

(医療計画制度の見直しの背景)

 65歳以上の人口割合が2025年には28.7%、2050年には35.7%と推計される社会を迎える。また、疾病構造は慢性的な疾病、また生活習慣に関係する疾病が中心となっており、病気を「治す」だけでなく、病気と「ともに生きる」こととともに、日常生活態度の改善への認識も必要となっている。さらに、平成16年7月にまとめられた「終末期医療に関する調査等検討会報告書」によると、一般国民で「住み慣れた場所で最期を迎えたい」と答えた者が62%いる一方で、自宅以外で療養したい理由として「自宅では家族の介護などの負担が大きい」(一般国民:84%)という理由が多い。したがって、緊急時の対応や適切な在宅医療・介護サービスが整い、在宅療養の環境がよくなり、家族の負担等を軽減できるようになれば、例えば、終末期を含めて医療を受ける場所に関する国民の希望なども今後変化しうるものと思われる。

 このため、今後の医療サービスのあり方を考えると、患者が必要かつ十分な医療を受け、できるだけ早く入院を終え、必要に応じて介護サービスや在宅医療を利用しながら自宅で日常生活を過ごすことは、患者の生活の質(QOL)を向上させるという観点から重要である。

 医療サービスを提供する者は、患者一人一人の医療ニーズに応じた適切な対応が求められ、一つの医療機関だけでなく地域全体で患者の医療ニーズを受け止める必要があり、このためにも、かかりつけ医(診療所・一般病院など)における日常的な医療を基盤としつつも、必要に応じ、適切な医療が受けられるよう地域の医療資源を最大限に活かした医療機能の分化と連携のより一層の推進が不可欠である。

 今後のわが国の保健医療提供体制の改革については、患者と医療提供者との信頼関係の下に、患者が自らの健康の保持増進に努力するという姿勢を基礎として、患者に医療への参加意識を持ってもらうとともに、疾病予防(保健)から治療、介護(福祉)までのニーズに応じた多様なサービスが地域において一貫して提供される患者本位の医療を確立することを基本とすべきである。このためにも、疾病予防(保健)に係る地域の計画や介護(福祉)に係る地域の計画とも整合性のとれた医療を提供する体制の確保に関する計画(医療計画)を作成する必要がある。その際、都道府県が医療計画を作成するに当たっては、地域住民の意見を十分踏まえながら、健康増進計画や介護保険事業計画等保健や福祉に関連する計画と連携し、一貫したサービスの流れを地域で確立することが求められる。

 また、国民の医療に対する一層の信頼を得るためには、今後の保健医療提供体制のあり方として、患者の視点を尊重し、患者の選択を通じて医療の質の向上と効率化を図ることによって、患者が望む医療を実現していくことが求められている。医療機関からの情報提供の促進により住民・患者が容易に、かつ、理解できる形で医療に関する多様な情報にアクセスできること、また、診療情報の提供の促進により患者の選択を尊重した医療が提供され、患者も自覚と責任をもって医療に参加することによって医療提供者との共同作業を行うことが重要であり、国はそのための基盤を整備する必要がある。

 一方で、保健医療提供体制における国及び都道府県の役割は、国立病院や自治体立病院の設置を通じたこれまでの直接医療サービスを提供する機能から医療サービスに係るルールを調整する機能、医療サービスの安全性や医療サービスへのアクセスの公平性を監視する機能等へ転換することが求められている。

 国と地方に関する「いわゆる三位一体の改革」の推進により、今後は都道府県の権限と責任が大幅に拡大され、歳入・歳出両面での都道府県の自由度が高まることで、真に住民に必要な行政サービスを都道府県が自らの責任で自主的・効率的に選択できることになる。このうち保健医療提供体制の整備においては、国民皆保険の下で、国民がどの地域においても、安全・安心で一定水準の医療が受けられることを前提とした上で、都道府県が地域保健・健康増進体制と医療提供体制そして介護福祉提供体制との連携を充実・強化し、限りある保健医療資源の有効な活用に向けて、都道府県が主体的に取り組めるようにすることが重要である。

(医療計画制度の見直しのねらい)

 こうした保健医療提供体制を取り巻く環境の変化を踏まえ、平成18年の医療制度改革に向けて医療計画制度を見直す必要がある。

 その際、国は、住民・患者が安心して日常生活を過ごすために必要な患者本位の医療サービスの基盤づくりのため、先進的な都道府県の取組を参考にしながら、自分が住んでいる地域の医療機関で現在どのような診療が行われており、自分が病気になったときにどのような治療が受けられ、そして、どのように日常生活に復帰できるのか、また、地域の保健医療提供体制の現在の姿はどうなっており、将来の姿はどう変わるのか、変わるためには具体的にどのような改善策が必要かということを、都道府県が作成する医療計画において、住民・患者の視点に立って数値目標を立てて分かりやすく示すことを原則とした医療計画制度の見直しを行うべきである。

 また、政府においては、平成18年度から保健医療提供体制関係の補助金を一本化し、透明性の高い客観的な指標に基づいて、都道府県が自主性・裁量性を発揮できるような環境を作ることとしており、医療計画制度もその方向に沿った見直しが必要である。

 なお、規制改革・民間開放推進会議が平成16年12月に提言した「規制改革・民間開放の推進に関する第1次答申 ―官製市場の民間開放による「民主導の経済社会の実現」―」では、医療計画制度における基準病床数の考え方について、「意欲のある質の高い医療機関の医療サービスの拡充や新規参入を制限し、質の劣る医療機関の既存許可病床の既得権化を生んでおり、医療機関間の競争を阻害し、医療の質の向上を妨げている」と指摘し、医療計画制度における基準病床数の考え方の抜本的見直しが必要であるとしている。

 この問題については、本検討会における検討の結果、現状では直ちに基準病床数制度を廃止するための条件が整っていないことから当面存続することとするが、今後の医療計画の見直しの成果を踏まえて、医療の質の向上と効率化に関して求められる課題を整理し、現状における評価と、将来どのように課題に対応していくかの検討がなされるべきである。この点については、最後に「医療の質の向上と効率化に関する今後の取組」として整理しており、これに則った対応が求められる。

 また、医療連携体制の構築等により、地域において真に必要な病床の数と機能が明らかになると考えられる。地域において機能に比して過剰な病床を有し、十分に地域の医療提供に貢献できていないと考えられる場合には、それらの病床を真に住民・患者が求める機能に沿ったものとして変更することや、真に住民・患者が求める機能を提供できる医療機関がそれらの病床を利用できる仕組みを考えるべきである。さらに、病床過剰地域も含め、地域が真に必要とする質の高い医療サービスを提供する医療機関の参入を阻害することのないような方策を検討すべきことも指摘したい。これは、医療連携体制の構築等によって、地域で必要な医療機能が把握されることが前提であり、これによって医療提供者自らがあり方を考える基礎となるものである。なお、こうした「方策」に則った対応については国公立・公的医療機関においては率先してその範を示すべきである。


◇安心して日常生活を過ごすために必要な患者本位の医療サービスの基盤づくり

 住民・患者が安心して日常生活を過ごすために必要な患者本位の医療サービスの基盤づくりのため、国は、
 (1) 住民・患者に分かりやすい保健医療提供体制の実現(住民や患者の視点を尊重した医療制度改革)
 (2) 質が高く効率的で検証可能な保健医療提供体制の構築(数値目標と評価の導入による実効性ある医療計画)
 (3) 都道府県が自主性・裁量性を発揮することによる地域に適した保健医療提供体制の確立
を柱として医療計画制度の見直しを進めるべきである。

 このためにも、主要な事業(がん対策、脳卒中対策、急性心筋梗塞対策、糖尿病対策、小児救急を含む小児医療対策、周産期医療対策、救急医療対策、災害医療対策、へき地医療対策など)について、地域でどのような施策が講じられているか、住民・患者に分かりやすいものとしてその内容を医療計画に明示するとともに、医療サービスの提供者・住民(患者)双方が情報を共有し、客観的に評価できる方法を検討するべきである。あわせて、都道府県は医療機関の情報を基に主要な事業ごとにより適切な医療連携体制の構築に向けた支援を行い、住民・患者に分かりやすい保健医療提供体制を医療計画に明示することとする。

 また、医療計画の作成から実施に至る一連の政策の流れを、
 (1)主要な事業ごとの医療機能の把握
 (2)適切な保健医療提供体制の明示と将来の姿を志向した数値目標の設定
 (3)数値目標を達成するための実行計画としての医療計画の立案
 (4)立案した医療計画に基づく事業の実施
 (5)事業実施後の客観的な政策評価による医療計画の見直し
という実効性あるものに改革する必要がある。

 さらに、地域で必要とされる医療機能の把握(事業ごとに患者の病態に応じてどのような医療機能が求められ、それが地域においてどの程度整備されているかといった実態の把握)や各医療提供者の医療機能の内容に関する住民・患者への情報提供など医療計画の作成・実施に当たっての都道府県の役割を強化し、国は都道府県が役割を果たすために制度上・財政上必要な支援を実施するものとする。


◇医療計画を通じた国と都道府県の役割の見直し

(国の役割と責務)

 都道府県が実効性の高い医療計画を作成できるよう支援するため、国は全国規模の医療機能調査を実施し、主要な事業ごとに必要な医療機能を明らかにすることが求められる。

 あわせて、国は全国規模の医療機能調査によって把握したデータを公表し、すべての国民が当該情報を活用できるような環境整備を図り、客観的なデータに基づいた保健医療提供体制を構築すべきである。

 全国規模の医療機能調査の実施を踏まえ、国は都道府県に対し、当該都道府県の患者の疾病動向、医療機能の整備状況等を明確にするよう求めることとし、質の高い保健医療提供体制の構築に向けた実効性ある都道府県の政策が図られるよう支援するものとする。

 同時に、都道府県が質の高い保健医療提供体制の構築に際し医療計画に基づいて実施する事業について、国は交付金・補助金の交付、政策融資の実施、診療報酬での適切な評価などの支援を行い、全体的な政策の透明性を向上させることとする。

 さらに、国は政策評価項目を提示し、都道府県に対して、医療計画に基づいて実施した事業に係る政策評価を行うよう求めることとし、翌年度につながる更なる実効性のある都道府県の取組を支援するものとする。

 このような政策の流れを早急に確立することを通じて、医療計画の作成から医療計画に基づいた事業の実施、事業に係る政策評価、そして次期医療計画への見直しという政策の循環が促進されるようにするとともに、質の高い効率的な保健医療提供体制の実現に向けた都道府県の取組を国は支援するべきである。

 なお、見直し後の新たな医療計画制度は、患者に対する適切な医療を地域で確保することを目的とするものである。このため、地域の事情に応じて設定した数値目標を達成するための財政支援については、地域での質の高い効率的な医療提供体制の構築に資するものであることが必要である。例えば、在院日数に関する指標による単純な比較を通じて患者に無理な退院等を強制することや、いわゆる地域連携クリティカルパスに関する指標によって機械的な医療連携体制を構築することのないよう注意することが肝要である。

(都道府県の役割と責務)

 一方で、都道府県は住民に対し良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を確保するため、当該都道府県における医療計画を作成するものとし、主要な事業ごとに地域に必要とされる医療機能を明らかにするものとする。

 また、都道府県が実施した医療機能調査によって把握したデータについては、すべての住民・患者が当該データを活用し、適切に医療提供者へアクセスできるよう都道府県はデータや医療提供者の所在地など適切な情報環境の整備に努める必要がある。

 さらに、医療機能調査によって今後新たに必要とされる医療機能が把握された事項については、都道府県は実現に向けた方策と数値目標を医療計画に明示し、必要に応じて住民や患者団体等から意見を求めるなど目指すべき将来の保健医療提供体制の姿とその実現方策について住民・患者に分かりやすく示すものとする。

 医療計画に基づいて実施した事業については、都道府県は、国が示す政策評価項目を基に、自らの基準で行う政策評価を通じて、翌年度につながる更に実効性のある医療計画の見直しを行うこととする。


◇新たに医療計画に盛り込む内容に対して国が行う支援

 以上を踏まえ、都道府県が新たに医療計画の作成、医療計画に基づく事業の実施、そして事業に係る政策評価を円滑にかつ確実に行うことができるよう、国として以下の内容を行うことによって、都道府県を支援するものとする。
 (1) 都道府県の医療計画の作成のためのデータベース構築に向け、全国規模の医療機能調査の実施とその結果の公表
 (2) 都道府県が設定する数値目標に資する主要な事業ごとの指標の提示
 (3) 各種財政支援(交付金・補助金・政策融資・診療報酬など)


◇全国規模の医療機能調査と主要な事業の「指標」について

(データに基づいた医療計画の作成と全国規模の医療機能調査)

 住民・患者の視点を尊重し、住民・患者に分かりやすい保健医療提供体制を実現するため、主要な事業(がん対策、脳卒中対策、急性心筋梗塞対策、糖尿病対策、小児救急を含む小児医療対策、周産期医療対策、救急医療対策、災害医療対策、へき地医療対策など)に関し、都道府県においてどのような施策が講じられているか、住民・患者に分かりやすいものとしてその内容を医療計画に明示するとともに、医療サービスの提供者・住民(患者)双方が情報を共有し、客観的に評価できるような方法を検討するものとする。

 都道府県が客観的なデータに基づいて保健医療提供体制を構築することを支援するため、国は全国規模の医療機能調査を実施することによって、主要な事業ごとに地域においてどのような医療サービスが必要とされているのかについて判るようにするとともに、把握したデータを公表し、かつ、すべての国民が活用できるような環境を整備するものとする。

 あわせて、都道府県が地域ごとに必要とされる医療サービスを把握できるよう、国は患者の疾病動向や医療機能等に関する指標を提示するものとする。

 また、都道府県は地域の特性を踏まえ将来の望ましい保健医療提供体制の構築に向けた数値目標を医療計画に明示し、その改善プロセスを住民に公表することによって、実効性のある医療計画を作成するものとする。

(指標の視点とその内容)

 国が提示する指標については、
 (1) 保健医療提供体制の視点のみではなく、患者の視点を中心としたものであること
 (2) 量的な整備目標という視点のみではなく、保健医療提供体制の質的な観点を重視し、国民に対し良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制の構築に向かうものであること
 (3) 個別の医療機関の医療機能だけの視点ではなく、地域全体の医療機能を概観する複数の視点でもって質の高い効率的な保健医療提供体制の構築を検証できるものであること
を基に検討するものとし、都道府県が医療計画に明示する数値目標についてもこれに準拠するものとする。

 また、指標に関しては、これまで主流であった「ストラクチャー(構造)」面の評価に加え、可能な限り、患者が必要かつ十分な医療を受けられることを前提とした「プロセス(過程)」評価や客観的で検証可能な「アウトカム(結果)」評価の導入を検討するとともに、指標は現状の評価にとどまらず、質の高い効率的な保健医療提供体制の構築に向けて将来の方向性をあわせて示すものとする。

 さらに、都道府県は5年ごとに見直しする医療計画において、指標を基に地域の保健医療提供体制を把握・分析するとともに、都道府県の任意の指標により現状を把握・分析することも可能であるものとする。

 具体的な指標については、患者の視点に立って、必要かつ十分な医療を受けられることを前提とし、疾病の予防(健診・検診)、診断・治療そしてリハビリテーション・在宅医療・ターミナルケアといった患者の病状の経過や治療のプロセスに対応したものであることを基礎として、質の高い効率的な保健医療提供体制の構築に資するものとする。


◇住民・患者に安心感を持ってもらう医療連携体制

(医療連携体制のねらい)

 患者を中心とした地域の医療提供者の医療機能と医療提供者間の医療連携の状況を医療計画に明示することによって、住民・患者は、自身の診療のために地域の医療提供者がどのような連携体制を組んでいるのか、更に、患者の病態に応じて適切な他の医療提供者にどのように紹介するのかといった仕組みなどを分かりやすく理解することができるようになり、その結果として、住民・患者が安心感をもてるようにする。

 医療連携体制の観点から、かかりつけ医が患者に他の医療機関を紹介する際、また、患者がかかりつけ医から紹介をしてもらう医療機関を選択する際、有用で、かつ客観性や検証可能性が担保された医療の実績情報(アウトカム指標)が提供できる体制を構築することが基本である。

 医療連携体制を通して医療情報が患者と医療提供者との間で共有されることにより、患者自身も自分の病気を治すために努力するという医療への参加意識を持ちやすくなるとともに、かかりつけ医から納得して適切な医療提供者の紹介を受けることができるという、患者とかかりつけ医の信頼関係に基づく質の高い効率的な保健医療提供体制を構築するものとする。

 医療連携体制は、一つの医療機関だけで医療を完結することが困難な状況にあることから、地域の医療提供者が医療連携によって患者の治療を分担、完結するという医療を推進するものであり、医療機関の自主的な機能分担と連携を促進するものとする。また、医療連携体制は、患者が受診する医療機関を選択することができ、かつ、医療機関相互の協力と切磋琢磨による医療サービスの質の向上につながるものとする。さらに、医療機関は患者の退院に際し、他の医療あるいは介護提供者に円滑に引き継がれるよう退院患者に対する支援を行うことも重要である。

(医療連携体制の内容)

 医療連携体制は、各医療提供者の医療機能を、医療計画に記載することを通じ、住民・患者に明らかにするものであることから、各医療提供者は医療機能に係る情報を積極的に都道府県に提出するものとする。

 また、医療連携体制内では、各医療提供者は、患者に対し治療開始から終了までの全体的な治療計画(地域連携クリティカルパス)を共有した上で、各医療提供者がそれぞれ担当する部分の治療計画(院内クリティカルパス)に沿った治療を行い、日常生活への復帰に向けた作業を患者と各医療提供者が共同して行うよう努めるものとする。

 さらに、医療連携体制内では、日常生活の復帰に向けた各患者の治療経過について再検証できるようデータ整備に努めるものとする。

(医療連携体制の構築に向けた医療提供者の役割と国・都道府県の役割)

 医療連携体制の構築に当たっては、住民、直接診療に関与する者(医師・歯科医師・薬剤師・看護師など)、保健事業を実施する者、市町村(保健・介護・福祉)、医育機関や臨床研修病院の代表など地域医療に関与する者が、協議・検討することからはじめ、地域に適した体制を構築するものである。その際、調整が必要となる事項等については、地域で「中心となって医療連携体制の構築に向けて調整する組織」が果たす役割が重要となってくる。

 この「中心となって医療連携体制の構築に向けて調整する組織」は、地域の医療連携体制の構築に向け、
 (1) 各医療提供者が有する医療機能を患者に適切に情報提供できるよう調整する
 (2) 地域の医療連携体制全体でもって、患者に対し切れ目のない医療サービスの提供に向け調整する
 (3) 地域の医療連携体制全体の医療の質の向上のため、医療従事者の研修などに積極的に取り組む
役割を果たすことが求められる。

 医療連携体制内においては、各医療提供者は自らの医療機能を明らかにし、当該医療機能に係る情報を適切に更新するとともに、他の医療提供者との医療連携に積極的に協力することが求められる。

 その上で、国・都道府県は、(1)住民・患者に対し各医療提供者の適切な医療機能の情報が提供される基盤整備を推進するとともに、(2)すでに各地域で自主的に取り組まれている医療連携をより一層推進するためにどのような支援ができるのかという視点に立って検討するものとする。

(医療連携体制を支える高度な医療機能を有する病院の必要性)

 医療連携体制を構築するに当たっては、
 (1) 高度又は専門的な医療の提供をどのように確保していくのか
 (2) 医療水準をどのように向上させていくのか
 (3) 人的支援を通じた安定的な医療提供をどのように図っていくのか
という課題に適切に対応する必要がある。

 この医療連携体制を支える高度な医療機能を有する病院は、
 (1) 高度な医療技術や専門性を必要とする治療などの医療需要に対応できる機能
 (2) 当該病院での治療を終えた後、患者のかかりつけ医に紹介することによって日常生活への復帰のための医療連携が地域で構築できる機能
 (3) 主要な事業ごとに都道府県の医療の質、水準の向上などを図っていくことができる機能
 (4) 医療連携体制の医療サービスを安定的に提供するため、人的支援を推進できる機能
を有していることが重要である。


◇医療の質の向上と効率化に関する今後の取組

 以上のほか、医療の質の向上と効率化を引き続き推進していくため、次の取組を今後とも図っていくべきである。

(患者自らの選択に基づく患者本位の医療の提供)

 地域連携クリティカルパスの導入により、疾病ごとの入院治療の必要性及びその期間について客観的に把握できる体制の構築に向けた取組が進められているところであるが、全国的な展開が未だ行われていない。

 また、根拠に基づく医療(EBM)の推進のため、学会等によるEBM指向の診療ガイドラインの作成が進められてきており、疾病毎に、診断・治療方法に関する質の高い情報を得ることが可能になりつつあるが、現状では、EBM指向の診療ガイドライン作成は特定の疾患に限られており、国民一般向けの情報の整備については研究途上にある。

 今後は、地域連携クリティカルパスの全国的な展開を通して、様々な病態の患者ごとに、それぞれ入院治療が必要か、また、入院治療が必要なくなったかについて、患者の自己責任に基づく選択という視点も加味しつつ、治療の必要性や退院の時点を客観的に判断できる仕組みの構築に向け検討すべきである。

 なお、患者が主体的に医療に参加する環境の整備を図るためには、併せて、診療情報の提供やEBMの定着を図っていくことも必要である。

(医療機関の診療機能等の情報提供の推進)

 個々の医療機関の診療機能等の情報について、都道府県がとりまとめ、医療計画等を通じて公開する仕組みを早急に検討することによって、患者自身が質の高い医療サービスについて選択できるような基盤を構築すべきである。

(救急医療やへき地医療等政策的に必要な医療の提供を保障・促進する仕組み)

 地域で必要な医療サービスを指標でもって客観的に把握し、それに基づいて都道府県が実効性ある医療計画を立案する過程を通じて、救急医療やへき地医療等政策的に必要な医療サービスの提供を保障あるいは促進することができる仕組みを構築すべきである。

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