環境変化のめまぐるしい最近の我が国の社会経済情勢下において、労働条件を取り巻く課題も複雑化・深刻化しているところである。このため、本研究会では、一般的に問題として取り上げられている以下のような諸課題について検討を加えた。
1 | 現状認識 |
(1) | 雇用システム・人事管理制度の変化 |
(2) | 就業形態の多様化 |
他方、SOHO、テレワーク、在宅就業者やインディペンデント・コントラクターといった、雇用と自営の中間的な働き方の増加が指摘されている。
(3) | 集団的労働条件決定システムの機能低下 |
しかし、労働組合の組織率が低下を続け20%を切るに至っている現状において労働組合がない事業場が増加し、集団的労働条件決定システムが機能する領域が縮小している。こうした状況の下で、労働者と使用者が実質的に対等な立場で労働条件の設定・変更について協議することができるようにすることが重要な課題となってきている。
(4) | 個別労働紛争の増加 |
2 | 対応方針 |
(1) | 労使自治の尊重と実質的対等性の確保 |
現に、労働者から労働基準監督署に寄せられる労働基準法違反等の申告は年間約3万6千件に上り、これにより臨検監督を実施した事業場の7割以上に法違反が認められる。このほかにも、解雇や労働条件の引下げは、個別労働紛争の大きな割合を占めている。このような、様々な場面において労働契約の当事者が組織としての企業と個人としての労働者であることから来る交渉力の格差が問題となるため、労使間の実質的対等性の確保が重要である。
労働組合がある場合には、労働者は労働組合を組織することにより交渉力を向上させることができる。労働組合がない事業場についても、労働者と使用者が対等な立場で労働条件の設定・変更について協議することができるようにすることが重要であり、この観点から労使委員会の在り方について検討を行った。この場合、労使委員会が多様な労働者の意見を民主的に反映できるように、委員の選任方法や労働者の意見の集約の方法についても検討した。
また、労働者と使用者との間の情報の質及び量の格差を是正し、透明性を確保するという観点から、労働契約の内容を書面で明らかにすることや、契約の内容を変更するに当たって協議の機会を保障するなどのルールについても検討を加えた。
(2) | 労働関係における公正さの確保 |
また、有期契約労働者については、均等待遇を図るための大前提として、民事的な規定によって正社員と同様に安心して正当な権利を行使できるようにするための検討も行った。
さらに、税・社会保険制度や労働関係法令などの社会的な諸制度においても、これらが企業及び労働者の雇用形態の選択にできる限り中立的な仕組みとなるよう必要な措置を講じるべきと考える。
(3) | 就業形態の多様化への対応 |
ア | 雇用と自営の中間的な働き方に従事する者への対応 雇用と自営の中間的な働き方に従事する者については、発注者との間に使用従属関係まではないとしても、特定の発注者に対して個人として継続的に役務を提供し、経済的に従属している場合は、特定発注者との間に情報の質及び量や交渉力の格差が存在する。そこで、これらの者も含めて広く労働契約法の対象とすることについて検討した。 |
イ | 高度な専門性を有する労働者への対応 就業形態の多様化に伴って労働者の中にも高度な専門性を有し、自律性を発揮しながら知的労働に従事する労働者が増えている。 これを踏まえ、均一に近い労働者像を前提とした従来の労働関係法令を今後とも多様な労働者に一律に適用できるかどうかという観点からの検証が必要であるが、例えば、本人の自律的な働き方に対応した労働時間のルールの見直しの必要性が指摘されている中で、仮に労働時間のルールの構造として刑事罰で担保する厳格・強固なルールの仕組みから、一部の労働者の自主性を尊重する仕組みに変更したとした場合には、これに対応した労働契約に関する公正かつ透明なルールの確立が不可欠であることを指摘している。 |
ウ | 留意点 本研究会においては、労働契約法制が就業形態の多様化や経営環境の変化に対応した労使の選択を阻害しないようにすることについても留意した。 まず、有期労働契約については、過度の規制を加えるのではなく、労使双方にとって良好な雇用形態としてその活用が図られるよう最低限の条件整備を行うという観点から検討した。また、企業において就業規則による集団的な労働条件設定は引き続き不可欠なものであるが、その際、多様な労働者の意見が反映されることができるようにするとの観点から検討した。 一方で、いかなる就業形態を選択した場合であっても妥当する共通のルール(手続的なルールや権利濫用法理など)は、当然適用することを前提としている。 |
(4) | 紛争の予防と紛争が発生した場合の対応 |
ア | 不明確な合意に起因する紛争の予防のための枠組み 継続的な関係である労働契約においては、労働契約の締結段階では労働条件が具体的に決定されておらず、合意内容が不明確であることによって労使間で紛争に発展する場合がある。 合意の内容を明確にしてこのような紛争を予防する観点から、書面明示の在り方や任意規定を定めることなどについて検討を行った。 |
イ | 予測可能性の向上のための枠組み 紛争が発生した場合にその具体的な事案についてどのような解決が図られるかについて予測可能性が低いと、労使当事者はどのように行動してよいかが分からず、紛争処理機関の判断にも時間がかかるため、紛争が頻発し長期化することとなる。 そこで、予測可能性の向上を図る観点から、就業規則の変更や整理解雇の合理性等の判断に当たって、推定規定を活用することや考慮事項を明らかにすることを検討した。 |
ウ | 信頼関係が失われた場合等への対応 労働関係が労使間の長期的、継続的、安定的な関係を基礎とするものであることを考えれば、解雇が無効とされた場合であっても、現実には職場における信頼関係の喪失や経営上の問題から、将来にわたって継続的、安定的な雇用関係が望めず職場復帰が困難であって、かつ、これが使用者の責めに帰すべき事由によらない場合もあることから、これへの対応も検討した。 |