総論に関する中間とりまとめ以降の論点と考え方について(修正版)

中間取りまとめ以降の論点 考え方
1 労働契約法制の対象とする者の範囲
 労働基準法の労働者以外の者を労働契約法の対象とする必要性について、どのように考えるか。その際、どのような者について、どのような条項を適用する必要性があるか。
 例えば、個人で業務を請け負い又は受託する者であって発注者に経済的に従属している者について、どのように考えるか。
 近年、就労形態の多様化に伴い、SOHO、テレワーク、在宅就業、インディペンデント・コントラクターなどといった雇用と自営の中間的な働き方の増加が指摘されており、その中には一つの相手方と専属的な契約をしており、主な収入源をその相手方に依存している場合も多いと考えられる。このような者についても、値引きの強要や一方的な仕事の打ち切りなど、当事者間の交渉力の格差等から生ずると考えられるトラブルが存在する。
 労働基準法上の労働者について労働契約法の対象とすることは当然であるが、上記のような働き方の多様化によって生ずる様々な問題に対応するためには、労働基準法上の労働者以外の者についても労働契約法の対象とすることを検討する必要があるのではないか。
 その際、労働基準法上の労働者として必要とされる使用従属性まではなくとも、請負契約、委任契約等に基づき役務を提供してその対償として報酬を得ており、特定の者に経済的に従属している者については、相手方との間に情報の質及び量・交渉力の格差が存在することから、労働契約法の対象とし、一定の保護を図ることとしてはどうか。
 その場合、労働基準法上の労働者でなくとも労働契約法を適用する者としては、例えば、次のすべての要件を満たす者が考えられるのではないか。
 (1)  個人であること
 (2)  請負契約、委任契約その他これらに類する契約に基づき役務を提供すること
 (3)  当該役務の提供を、本人以外の者が行うことを予定しないこと
 (4)  その対償として金銭上の利益を受けること
 (5)  収入の大部分を特定の者との継続的な契約から得、それにより生活する者であること
 なお、具体的な事案に応じて柔軟に労働契約法の規定が適用されるよう、裁判において労働基準法の労働者以外の者にも労働契約法の規定が類推適用されるような方策を検討するべきであるとの意見もあった。
 いずれにしても、労働契約法の対象を広く検討する場合には、どのような者に、どのような規定を適用することが適当かについては、これらの者の働き方の実態を踏まえて十分な検討を行う必要がある。


2 労使委員会
 労働者と使用者が実質的に対等な立場で労働条件を決定するために労働組合制度があることを踏まえつつ、労働組合が存在しない場合でも労働者の交渉力をより高め、また、多様な労働者の意見を反映するための恒常的な労使委員会の意義や必要性について、どのように考えるか。  労働組合の組織率の低下に伴い労働組合がない事業場が増加する中で、集団的労働条件決定システムが機能する領域が縮小している。こうした状況の下で、労働者と使用者が対等な立場で労働条件の設定・変更について協議することができるようにすることが重要な課題となってきている。
 また、過半数組合がある事業場であっても、労使が対等な立場で労働条件について恒常的に話し合えるようにすることは意義がある。
 このような観点から、各事業場において、常設の労使委員会の設置が促進されるようにする必要があるのではないか。
 労使委員会の決議の効果としては、就業規則の変更の合理性の推定や解雇の金銭解決と金銭の額の基準に関する事前の労使合意が考えられるのではないか。
 また、労働組合と労使委員会との関係について、どのように考えるか。  労使委員会制度の検討に当たっては、少なくとも労働組合の団体交渉権を阻害しないものとすることが必要と考えられる。
 過半数組合が存在する場合にも労使委員会の設置は認めてよいのではないか。
 労働組合が存在する場合の労使委員会の決議の効力(就業規則の変更、解雇の金銭解決)についてどのように考えるか。労使委員会が労働組合の団体交渉を阻害することがあってはならないのではないか。
 労働協約と労使委員会の決議の関係についてどう考えるか。労使委員会が労働協約の機能を阻害することがあってはならないのではないか。
 これを踏まえ、労使委員会の委員の選任等の手続や、労働者委員の独立性を確保するための方策、労働者委員が当該事業場の労働者の意見を適正に集約するための方策について、どのように考えるか。  労使委員会の委員の選任手続については、非正規労働者が増大している中で、できる限り多様な労働者の利益を公正に代表できるような委員の選出方法とすべきではないか。
 労働者委員の公正代表性を確保するために、使用者による労働者委員の不利益取扱いの禁止などの規定が必要ではないか。
 労使委員会が就業規則の変更を承認する決議を行う際の労働者の意見の適正な集約について、どのような措置が必要か。
 社会経済情勢の変化に対応するためには、労使委員会の決議の有効期間や委員の任期をあらかじめ定めておく必要があるのではないか。
 現行の労働基準法の企画業務型裁量労働制における労使委員会との関係を整理すべきではないか。


3 総則規定の必要性
(1)  労働契約法制を定める場合、総則的な規定としてどのようなものが必要か。
 労働契約に関する基本理念として、例えば、労働契約は労使当事者が対等の立場で締結すべきこと、労使当事者は信義誠実の原則に従って権利を行使し、義務を履行しなければならないこととしてはどうか。
 労働契約においては、雇用形態にかかわらず、その就業の実態に応じた均等待遇が確保されるべきことを総則で明らかにしてはどうか。
(2)  労働契約における人種、国籍、性、信条、社会的身分等による差別禁止規定の必要性について、どのように考えるか。
 人種、国籍、性、信条等を理由とした差別的取扱いの禁止については、民事的な規定のみならず罰則や行政の積極的な関与により履行が確保されるべきであり、実際にもそのような観点から下記のとおり対応が図られている。このため、純粋な民事法である労働契約法において、このような事由に基づく差別禁止規定を重ねて設ける理由はないのではないか。
 労働基準法において、国籍、信条、社会的身分による労働条件の差別的取扱いの禁止や、女性であることを理由とした賃金についての差別的取扱いの禁止が罰則で担保されており、このような差別的取扱いは民事的にも無効となる。
 男女雇用機会均等法において、女性であることを理由とする差別的取扱いの禁止が規定され、行政指導の対象とされている。
 第157回国会で廃案となり、政府部内で今通常国会への再提出を検討している人権擁護法案において、労働者の採用又は労働条件その他労働関係に関する事項について、人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向を理由とする不当な差別的取扱いを禁止することとしている。その上で、厚生労働省が、相談、助言・指導、過料の制裁を伴う調査、勧告・公表等及び都道府県労働局の紛争調整委員会による調停・仲裁の救済措置を行うこととされている。


4 労働契約法制における指針の意義
 労働契約法制における指針の意義について、どのように考えるか。  労働契約法を制定するに当たって、労使当事者間の基本的な権利義務関係を明確にするための規定は法律で定めるべきであるが、具体的な規範は社会状況の変化等に応じて変化することが多いことから、むしろ労使当事者の参考となるガイドラインとして指針を定めることが、規範が適切に運用されることとなり意義があるのではないか。
 <指針を定めることが考えられる事項>
  ・  書面で通知された留保解約事由以外の理由による採用内定取消の場合の取扱い
  ・  就業規則の変更について合理性の推定が働かない場合の考慮要素
  ・  配置転換に当たって使用者が講ずべき措置
  ・  解雇や整理解雇に当たって使用者が講ずべき措置
 指針は、法的拘束力はないが、労使当事者の行為規範としての意味はあると考えられる。

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