医療法人制度改革の考え方

〜 医療提供体制の担い手の中心となる将来の医療法人の姿 〜


<目次>

はじめに

I.社会保障制度から見た医療法人に求められる将来像

II.医療法人制度をめぐる考え方の整理
 1.「営利を目的としない」法人の考え方について
 2.公益性の高い医療サービスの明確化とそれを担う新たな医療法人制度の確立
 3.今後の医療法人と医療法人を監督する都道府県との関係の見直し

III.今後の医療法人制度改革に向けた新たな医業経営のあり方の確立
 1.効率的な医業経営を支える人材の養成
 2.透明性の高い医業経営の推進
 3.公益性の高い医療サービスを安定的・継続的に提供するための新たな支援方策の検討

おわりに


平成17年7月22日
医業経営の非営利性等に関する検討会報告



医療法人制度改革の考え方(報告)

〜 医療提供体制の担い手の中心となる将来の医療法人の姿 〜

平成17年7月22日
医業経営の非営利性等
に関する検討会報告

はじめに

 少子高齢化、医療技術の進歩、医療に対する国民の意識の変化や医療分野に関する規制改革の観点等、医療をめぐる最近の状況を踏まえ、平成15年3月に、医療関係団体の有識者、医業経営の学識経験者等、マスコミ等が参加した「これからの医業経営の在り方に関する検討会」が、医療法人に関し、国民に信頼される医療提供体制の担い手として効率的で透明な医業経営の確立に向け、改革を推進するよう最終報告書(以下「在り方検討会報告書」)をとりまとめた。そこでは、
 (1)効率性を高める方策として、
(1)経営管理機能の強化、(2)外部委託の活用・共同化の推進、(3)附帯業務規制の緩和
 (2)透明性を高める方策として、
(1)病院会計準則の見直し等、(2)経理情報の公開推進、(3)医療に関する情報提供の推進
 (3)安定性を高める方策として、
(1)資金調達手段の多様化、(2)国庫補助・政策融資などの公的支援の在り方、(3)経営安定化のための支援策
などについての対策を講ずるよう厚生労働省に対し提言している。
 この在り方検討会報告書を踏まえ、厚生労働省においては、ア.医療法人の附帯業務規制の緩和の実施(平成16年3月、平成17年3月)、イ.病院会計準則の見直し(平成16年8月)、ウ.医療機関債ガイドラインの制定(平成16年9月)など国民に信頼される医業経営の確立に向けた改革を進めてきている。
 これらの改革は、地域の医療提供体制を担う民間非営利部門である医療法人の医業経営の活性化を通じて患者や地域社会が求める医療ニーズに応えるという意味のあるものである。
 政府においては、平成16年11月に「公益法人制度改革に関する有識者会議報告書」をとりまとめるとともに、平成16年12月に閣議決定された「今後の行政改革の方針」において、現行の民法による公益法人制度を抜本的に改革し、一般的な非営利法人制度としつつ、公益性を有する非営利法人を判断する仕組み等についての本格的な検討が行われており、現行の民法34条法人の「非営利」の考え方及び「公益性」についての判断基準等について、理論的な整理とそれを踏まえた法改正に向けた取組が進められ、あわせて税制についてもそれを踏まえた検討が行われているところである。
 こうした検討が行われているのは、今後の我が国の社会システムにおいて、政府部門や市場経済を中心とした民間営利部門だけでは様々な社会のニーズへの対応が困難になりつつある状況が生じているという問題意識が背景としてあり、機動的な対応が構造的に難しい政府部門や、株主が求める高い収益率を追求するなど採算性が厳しく求められる民間営利部門では、国民が求める医療サービスをはじめとした社会のニーズに十分に対応できないため、個人や法人の自由で自発的な民間非営利部門による公益的活動が果たす役割とその発展を図ることが極めて重要であるからである。
 このため、これまでの公益法人制度に係る問題点として、
  (1)主務官庁の許可主義の下、裁量の幅が大きく、法人設立が簡便でないこと
  (2)事業分野ごとの主務官庁による指導監督が縦割りで煩雑なこと
  (3)情報開示(ディスクロージャー)が不十分なこと
  (4)公益性の判断基準が不明確なこと
  (5)公益性を失った法人が公益法人として存在し続けること
  (6)ガバナンス(法人の管理運営のあり方)に問題があること
について適切に対処しつつ、民間非営利部門を社会システムの中に積極的に位置づけるとともに、民意を反映して、公益性を、縦割りでなく統一的に判断する透明性の高い新たな仕組みを構築することにより、今後益々重要な役割を果たす民間非営利部門による公益的活動の健全な発展を促進し、一層活力ある社会の実現を図ることが重要な課題であるとしている。

 このように、我が国の社会システムの変化に対する政府の公益法人制度の抜本的な改革を概観すると、その方向性については、民間非営利部門の医療法人に期待される役割と軌を一にしているといえる。
 我が国の医療法人制度について見てみると、昭和25年に民間非営利部門として位置づけるための制度が医療法上に創設され、国民皆保険制度の下で、医療法人の開設する医療機関の整備が推進されてきたところである。
 一方で、市町村合併の推進や地方財政の改善に向けた取組の中で、自治体立病院をはじめとした公的医療機関がこれまで果たしてきた役割の見直しが進んでおり、これまで自治体立病院が中心として担ってきた地域の救命救急医療やへき地医療など地域社会にとってなくてはならない医療サービスの提供についても、これまで以上に民間非営利部門である医療法人に期待される役割は極めて大きい。
 こうしたことを踏まえ、医療法人制度の健全な発展、地域社会からの信頼を高める医療法人制度の確立等を通じ、機動的な対応が構造的に難しい政府部門や、株主が求める高い収益率を追求するなど採算性が厳しく求められる民間営利部門では対応できない医療サービス提供の中心的な担い手として医療法人の役割が改めて見直される必要がある。
 そのほか、医療法人制度に関しては、制度創設時より一貫して剰余金の配当が禁止され、営利性が否定された法人制度であるが、医療法人の実態として、いわゆる「持ち分」があると誤って判断されてきたことを原因として医療法人の永続性・継続性が確保できないといった問題が生じており、これについても地域の医療提供体制を確保する観点から検討する必要がある。

 以上のような状況を踏まえ、本検討会では、昭和25年に創設された医療法人制度について、改めてその非営利性を検証するとともに、地域社会が求める公益性の高い医療サービスに対応する医療法人を新たに再構築することを中心に、平成15年10月より計9回にわたる議論を重ね、ここにその考え方についてまとめることとした。


I.社会保障制度から見た医療法人に求められる将来像

 21世紀の我が国社会は、何よりもまず、個人が一人一人の能力を十分に発揮し、自立して尊厳を持って生きることのできる社会にしなければならない。このためにも、広く国民を対象にし、個人の責任や自助努力では対応し難いリスクに対して、社会全体で支え合い、個人の自立や家庭の機能を支援し、健やかで安心できる生活を保障することを目的とする社会保障制度は、不可欠なものである。
 社会保障は、個々の国民が心身ともに健康で生活することを通じ、国民の「安心感」を醸成し、活力ある社会システムに貢献するものであり、社会保障なくして国民生活の安定は望めず、21世紀において我が国が目指すべき社会を形作ることはできない。言い換えれば、社会保障は、個人の自助努力だけでは対応できないことについて、共助・公助でカバーするという国民連帯の中心として位置づけられるものである。
 また、社会保障制度は、国民連帯の中心として、個人の自立や家庭の機能を支援し、健やかで安心できる生活を保障するという高い使命を果たす機能を有している。健康保険制度に関していえば、疾病というリスクに対し、どの地域に住んでいても、また、どのような病態の疾病であっても、可能な限り、医療サービスが提供されるよう支援する体制を構築する必要がある。
 このような中、健やかで安心できる生活を保障するという高い使命を果たしながら、限られた社会保障の財源を有効に活用するという役割を果たすため、社会保障制度が支える医療提供体制の有力な担い手としては、社会保障制度が求める使命を果たすことを第一の目的として位置づけられている民間非営利部門の医療法人が中心となることが必要である。そして、患者等に適切な情報提供を行いながら公正で効率的な医療サービスの提供とそのための効率的な医業経営を推進することが求められる。つまり、「営利を目的とする」ことがその本質である営利法人とは違い、「営利を目的としない」民間非営利部門の医療法人の使命は、「地域で質の高い医療サービスを効率的に提供する」ことであり、これが一番の目的となるものである。
 もちろん、医療提供体制の担い手としては民間非営利部門の医療法人のほか、いわゆる「政策医療」を行うために設置された国公立病院をはじめとした公的な医療機関も存在する。しかし、良質で効率的な医療サービスの提供とそのための効率的な医業経営の推進に関して言えば、民間非営利部門の医療法人が設置する医療機関であっても国公立病院をはじめとした公的な医療機関であっても、地域で安定的に質の高い医療サービスを効率的に提供することについて違いがないことはいうまでもない。安易に財政支援等に頼るのではなく、良質で効率的な医療サービスを地域で安定的・継続的に提供するために無駄のない医業経営を推進し、医療サービスの再生産のための収益を確保していくことは、設置主体に関わらず同等なものであることを認識しなければならない。
 このほか、医療提供体制における国及び都道府県の今後の役割は、国立病院や自治体立病院の設置を通じた直接医療サービスを提供するこれまでの役割から、医療サービスに係るルールを明確にし、調整する役割(機能)、医療サービスの安全性や医療サービスへのアクセスの公平性を監視する役割(機能)等へ転換することが求められている。
 以上のような医療サービスの役割を考えると、今後の地域医療提供体制の有力な担い手としての医療法人については、引き続き民間非営利部門として、地域で質の高い効率的な医療の提供と患者の視点に立った柔軟な発想による新たなサービスの提供が求められる。このためにも、医療法人制度について、(1) 昭和25年の制度創設後も変わらない「営利を目的としない」という役割の再確認、(2) 公益性の高い医療サービスを安定的に提供するという現在の医療提供体制に求められる役割から望まれる公益性の高い医療法人制度の再構築、(3) 医療法人を監督する都道府県との間の適切な関係の見直しを柱に改革を推進し、もって国民の信頼を確立する必要がある。


II.医療法人制度をめぐる考え方の整理

1.「営利を目的としない」法人の考え方について

 医療法人制度が創設された昭和25年の厚生事務次官通知では、医療法人制度創設の目的を「私人による病院経営の経済的困難を、医療事業の経営主体に対し、法人格取得の途を拓き、資金集積の方途を容易に講ぜしめること」と定義し、医療法人の行う事業は「病院又は一定規模以上の診療所の経営を主たる目的とするものでなければならないが、それ以外に積極的な公益性は要求されず、この点で民法上の公益法人と区別され、又その営利性については剰余金の配当を禁止することにより、営利法人たることを否定されており、この点で商法上の会社と区別されること」としている。
 このように医療法人は制度創設以来、医療法第54条の「剰余金の配当をしてはならない」との規定の下、「営利を目的としない」民間非営利部門の法人として国民に対し良質かつ適切な医療を提供してきている。
 一方で、制度創設から50年以上経過した医療法人制度については、(1) 様々な手段を通じて事実上の配当を行っているのではないか、(2) 医療法人の内部留保を通じて個人財産を蓄積し、社員の退社時にまとめて剰余金を払い戻すことによって、事実上の配当を行っているのではないか、(3) いわゆるMS法人などの営利法人に利益を移転することによって事実上医療法人の経営が営利を目的としたものとなっているのではないか、といった指摘があり、医療法人の「営利を目的としない」という考え方が形骸化しているとの主張があることも確かである。また、規制改革・民間開放推進会議が平成16年12月に公表した「規制改革・民間開放の推進に関する第1次答申 ―官製市場の民間開放による「民主導の経済社会の実現」―」では、こうした医療法人をめぐる現状を踏まえ、「実質的に営利法人に近い持分のある医療法人が多数存続する」と言及し、株式会社の医業経営参入とともに、医療法人の経営の近代化、経営の透明性が必要との観点から、株式会社に医療法人の社員としての地位を与えること、医療法人の議決権を出資額に応じた個数とすることなど株式会社が医療法人の経営に参画することを可能とするよう求めているのである。
 こうした指摘に対し、その指摘の妥当性の有無にかかわらず、「営利を目的としない」ということはどういうものであるのか改めてその考えを整理するとともに、医療法人は民間の法人であって「営利を目的としない」ものであることを再確認し、営利を目的としている営利法人とは明らかに違うものであることを明確にすることは、医療法人制度に関する国民の理解を高めるためにも大切なことである。このため、すべての医療法人に共通する考え方として、(1)「営利を目的としない」とはどういうものか、(2)民間非営利部門である医療法人に必要な規律とはどういうものかについて検討した結果を以下の通り整理する。

 (1)「営利を目的としない」という考え方の整理

 平成16年11月に公表された「公益法人制度改革に関する有識者会議報告書」では、社団形態の非営利法人の社員における権利・義務の内容について、ア)出資義務を負わない、イ)利益(剰余金)分配請求権を有しない、ウ)残余財産分配請求権を有しない、エ)法人財産に対する持分を有しないこととし、営利法人との区別を明確にしている。
 また、大審院判例(大判昭元12.27民集5.906)においても、営利法人の定義として「営利ヲ目的トスル社団法人ナレハトテ必スシモ年々所謂利益配当ヲ為スコトヲ要セス苟クモ法人ニ於テ収益ヲ為シ因テ以テ解散ノ際社員ニ分配スヘキ残余財産ヲ増殖スルニ妨ケナキ契約ナルニ於イテハ営利法人タル会社ノ本質ト相容レサルモノト謂フヘカラス」と判示し、毎年利益配当しない場合であっても解散時にまとめて社員に残余財産ということにして分配することを契約しているならば、法人形態として営利法人と違いがないとしている。
 現行の医療法も大審院判例に沿って、第54条において「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない」と規定し、第56条において「解散した医療法人の残余財産は、合併及び破産の場合を除くほか、定款又は寄附行為の定めるところにより、その帰属すべき者に帰属する」「社団たる医療法人の財産で、前項の規定により処分されないものは、清算人が総社員の同意を経、且つ、都道府県知事の認可を受けて、これを処分する」「財団たる医療法人の財産で、第1項の規定により処分されないものは、清算人が都道府県知事の認可を受けて他の医療事業を行う者にこれを帰属させる」「前2項の規定により処分されない財産は、国庫に帰属する」と規定し、医療法人が「営利を目的としない」ことは法律上担保されているところである。
 一方で、昭和32年12月総第43号茨城県衛生部長宛厚生省医務局総務課長回答では、精神病院の運営を行っている医療法人の社員の1人が退社することになり、その際出資した土地の返還を要求している事案に対し、「退社社員に対する持分の払戻は、退社当時当該医療法人が有する財産の総額を基準として、当該社員の出資額に応ずる金額でなしても差し支えないものと解する」と通知し、これによって、実質的に退社社員に対し退社時の医療法人の有する財産の総額を基準として、社員の出資額に応じた払戻しが認められることとなった。土地の現物出資という事案について、土地そのものについての払戻しを認めることは継続的な医業経営に支障が生じることから、これに関する当時の対応として土地の価額を現金に換算して払い戻すことはやむを得ないものと考える。しかし、この価額はあくまでも出資当時の土地の価額を基準として行うべきものであって、退社時の医療法人の有する財産の総額を基準とするに至っては、配当禁止に抵触するのではないかとの疑念が残る。
 「公益法人制度改革に関する有識者会議報告書」にもあるとおり、「営利を目的としない」とは、社団医療法人の社員における権利・義務の内容について、ア)出資義務を負わない、イ)利益(剰余金)分配請求権を有しない、ウ)残余財産分配請求権を有しない、エ)法人財産に対する持分を有しないことと整理すべきものである。これは、昭和25年の医療法人制度創設時に立ち返り、今一度「営利を目的としない」との考え方を再確認するものであり、厚生労働省においては、医療法にある医療法人は「営利を目的としない」民間非営利法人であるという理念に基づいた規定であることを踏まえ、上記回答(通知)の廃止も含め、このような疑念が今後起こらないよう対応するべきである。なお、上記の取扱いを見直す際には、長年の経過の蓄積という実情を踏まえた上で行うべきであり、都道府県や医療関係団体に周知するなど、その実態に応じた適切な対応をとるべきである。

 (2)民間非営利部門である医療法人に必要な規律

 民間非営利部門である医療法人は、社員に配当することが禁じられる、残余財産の処分に法律上の制限があるという二つの規律が基礎となっている。一方で、「営利を目的としない」民間非営利部門である医療法人であっても事業を継続して遂行するために必要な収益を出すことは当然であり、このことは「営利を目的としない」という考えと何ら矛盾するものではない。
 そのような中、本検討会では、社会福祉法人や非営利法人、NPO法人など他の民間非営利部門の規律を参考に議論した結果、医療法人すべてに求められる規律として次のようなものがあり、このための法令上の措置を行うべきと考える。

(医業経営の基本原則(理念)の位置づけ)
 これまで医療法人は、地域の医療提供体制の担い手の中心として、地域で求められる医療サービスを確実、効果的かつ適正に行うため、自主的にその経営基盤の強化を図るとともに、提供する医療サービスの質の向上及び経営の透明性の確保を図ってきたところである。
 このように医療法人が行う医業経営については、地域医療を確実に提供する使命に応えることを目的としているものである。このため、医業経営の基本原則について、医療提供の理念を実現するための法律である医療法に規定を設けることを検討すべきである。

(特別の利益供与の禁止)
 医療法第1条の2に規定されるとおり、「医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心身の状況に応じて行われる」ものである。このように、医療は不特定多数の者に対し、公正・公平に提供されるサービスであるという認識の基、すべての医療機関はこの理念を尊重しつつ活動してきたものであり、今後とも維持すべき原則であろう。
 こうしたことは、医療を提供するすべての開設主体にとって重要なことであり、医業経営の基本原則に照らし、医療法人の適正な自律機能として「法人の設立者、役員、社員又は評議員又はこれらの者の親族等に対し、施設の利用、金銭の貸付け、資産の譲渡、給与の支給、役員等の選任その他財産の運用及び事業の運営に関して特別の利益を与えないこと」を医療法上明確に規定することを検討すべきである。

(剰余金の配当禁止)
 医療法人の剰余金については、医療法第54条において「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない」と規定し、禁止しているところである。これは、医療法人制度が創設された昭和25年より一貫したものであり、剰余金が医療法人に帰属していること、剰余金は医療法人が行う医業経営を通じて地域に還元されることを目的におかれた規定である。
 この規定は、医療法人の非営利性を担保する重要なものであり、変更すべきではないことは言うまでもないが、医療法人の適正な運営に資する観点から、費用の形で実質的に利益の原資が流出してしまう可能性を防ぐため、医療法人はその運営に著しく支障を来す経費の負担をしてはならないことを医療法に明確に規定することを検討すべきである。なお、当該規定は、医療法人が効率的な経営をするために適切な内部手続きを経て意思決定された費用負担に対し、何ら影響を及ぼすものではなく、医療法人制度の運用に当たっては、医療法人の経営に支障が生じることや、運営が硬直化することのないよう十分配慮することが必要である。あわせて、医療法第54条の規定については、医療法人への資金提供に対する見返りを期待するものではないことを明記したものであるが、その趣旨について厚生労働省において周知徹底等に努めるべきである。

(社団医療法人の社員の資格)
 医療法では第44条第2項において、医療法人の定款又は寄附行為を作成する場合に必要な事項として「社団たる医療法人にあっては、社員たる資格の得喪に関する規定」を定めなければならないと規定するほかは社員について明確な法令上の規定はない。
 一方で、平成3年1月指第1号東京弁護士会会長宛厚生省健康政策局指導課長回答において、株式会社が「出資又は寄附によって医療法人に財産を提供する行為は可能であるが、それに伴っての社員としての社員総会における議決権を取得することや役員として医療法人の経営に参画することはできない」とし、平成12年10月5日の東京地裁においても「医療法は、医療法人の営利性を否定しているのであるから、営利法人が医療法人の意思決定に関与することは、医療法人の非営利性と矛盾するものであって許されないと解すべき」と判決し、それが最高裁判所でも支持されている。
 このようなことを踏まえて、今後は、医療法ほか関係法令において、医療法人の社員資格を明確に定めるとともに、少なくとも営利を目的とする法人が医療法人の社員となることはできないよう法令上措置するべきである。
 また、社団医療法人の社員の議決権について、社団医療法人への拠出額に応じた議決権割合を社員に付与することは、拠出額の多寡によって社団医療法人の経営を左右し、「営利を目的としない」という考えと矛盾することとなる。そもそも社団医療法人に拠出された拠出金の性質は、医療法人の活動を支える財産的基礎である。一方で、社員の議決権は、社員総会において、社団医療法人の適正な運営をチェックするためのものであり、社員一人一人の意思表示が公平になされるための権利である。このため、社団医療法人に拠出された拠出金と社員の議決権とを関連づけることは、「営利を目的としない」医療法人にとって、本質的に相容れないものと整理すべきである。
 こうしたことを踏まえ、社団医療法人の社員の議決権は拠出額の多寡に関わらず一人一票であることを医療法ほか関係法令において明確に定める必要がある。

(医療法人の理事・監事・理事会の役割)
 医療法人の役員は、経営を司る理事と法人の業務を監査する監事が存在する。また、医療法人の経営方針を決定し、それを実行する理事会がある。これらについては、法人運営の執行という観点から必須の機関であり、医療法人に限らずおよそ法人格を有するものすべてに共通なものであろう。
 このため、「公益法人制度改革に関する有識者会議報告書」に沿って民法の公益法人制度改革が行われた場合と同様に、医療法人の理事・監事・理事会の役割の法令上の明確化を通じ、医療法人の各機関(理事・監事・理事会)が効率的な医業経営の実施に向けて有効に機能するようにすべきである。
 なお、医療法人の役員の選任に当たっては、当該医療法人内部の適正な手続きに基づいて行われることが重要である。

(医療法人のガバナンス)
 医療法人については、設立者の意思を尊重しつつ、その自律的な運営を確保するために必要な規律を定めることが重要であろう。特に、財団医療法人については、社員総会に当たる機関が存在しないため、理事会の業務を内部からチェックする機関が存在しない。
 このため、「公益法人制度改革に関する有識者会議報告書」に沿った民法の公益法人制度改革を例に、財団医療法人についても理事会の業務を内部からチェックする機関(評議員会)を医療法上規定するべきである。

(拠出金)
 社団医療法人の非営利性を維持しながら、医療機関の建物、土地又はそれに係る資金といった活動の原資となる資金の調達手段を確保し、社団医療法人の財産的基礎の維持を図るため、「公益法人制度改革に関する有識者会議」報告書に沿った民法の公益法人制度改革を例として、社団医療法人の定款の定めるところにより拠出金制度を選択できるようにすべきである。

(医療法人の書類の開示)
 医療法第52条において、毎会計年度終了後2か月以内に、財産目録、貸借対照表及び損益計算書を作り、常にこれを各事務所に備えて置かなければならないとし、医療法人の債権者は、医療法人の執務時間内はいつでも、書類の閲覧を求めることができるものとしている。また、第51条において、毎会計年度の終了後2か月以内に、決算を都道府県知事に届け出なければならないとし、医療法人の経営状況について債権者や都道府県知事に適切に開示・届出することを求めている。
 この規定は、医療法人の経営の透明性を確保するために必要なものであり、今後も維持されるべきである。また、書類の提出を受ける都道府県等において管轄する医療法人の経営状況に係るデータを整備し、各医療法人が提出した書類を閲覧できる体制を整えることによって、地域の医療提供体制を担う医療法人に対する信頼を更に高めるべきである。

(財務状況等に関する医療法人における広告のあり方)
 医療法人の財務状況や財務状況に関する情報(格付情報など)については、前述した債権者や都道府県知事への開示・届出のほか、個々の医療法人の判断において地域社会に広告できるような整理とすることによって、医療法人の資金調達の多様化に資することも考えられる。あくまでも医療法人の経営者の判断によるものの、広告できないようにする実質的な意味はないことから、広告規制のあり方を踏まえながら、効率的な医業経営の実施に資するような対応を検討するべきである。

(医療法人と営利を目的とする法人との関係)
 民間非営利部門の医療法人と株式会社をはじめとする営利を目的とする法人との適切な関係を担保することは、社会保険診療という医療サービスを提供する医療法人に対する地域社会からの信頼を確立する上で重要である。
 このため、医療法人の役員等が株式会社など営利を目的とする法人の役員等を兼任している場合であって、かつ、当該営利を目的とする法人から当該医療法人が資金の支援等を受けているときは、当該医療法人において関連する営利を目的とする法人の名称等を開示しなければならない取扱いとすべきである。

(残余財産の帰属)
 医療法人が解散する場合の残余財産の帰属先については、これまでは、解散時における医療法人の定款又は寄附行為の定めるところによるものとしていたところである。
 一方で、地域の医療提供体制の中心としての役割を担う医療法人については、患者など地域社会との関わりが非常に強いことから、医療法人が医療法第55条第1項及び第2項各号に基づいた事由によって解散する場合であっても、解散する医療法人においてこれまで有していた医療機能(入院機能など)を地域において継続させることが求められる。このため、債権者や医療法人に財産を拠出した拠出者との関係を整理した上で、解散する医療法人の残余財産に関し、法制上の配慮を行う規定が必要である。
 以上を踏まえると、医療法人が解散する場合の残余財産の帰属先については、これまでの定款又は寄附行為に定めるという規定を改め、解散した医療法人の残余財産は、社団医療法人の解散の際は、総社員の同意を経、且つ、都道府県知事の認可を受けて、また、財団医療法人の解散の際は、都道府県知事の認可を受けて、国、地方公共団体又は他の医療法人に帰属させることを医療法上規定するべきである。その際、都道府県知事は、医療法人の解散認可を行うに当たって、都道府県医療審議会の意見を聴くものとし、解散時の手続きの透明性を確保するべきである。
 なお、この場合においては、当分の間、経過措置を設けることとし、取扱いの変更によって既に設立されている医療法人の経営に支障がないように配慮するべきである。 (その他)

 医療法人については、昭和25年の制度創設時より、民法の公益法人の規定を参考にしながら、独自の「営利を目的としない」法人として医療法に位置づけられてきたところであるが、これは今後とも変わらないものとして、民法の公益法人制度の改革に対しても、十分整合性を保ちながら医療法人制度にも導入していく必要がある。
 このため、医療法人の地域に求められる役割を踏まえながら、公益法人制度改革に準拠した改革を行うべきである。


2.公益性の高い医療サービスの明確化とそれを担う新たな医療法人制度の確立

 このたびの公益法人制度改革では、これまでの主務官庁が自由な裁量によって判断し、許可してきた公益法人制度の仕組みとは別に、出来るだけ裁量の余地の少ない客観的で明確な判断要件に基づき、民意を適切に反映した上で公益性を判断する仕組みが検討されている。その際、公益性の有無が判断される法人については、ガバナンスの強化を通じた自立的な監査・監督機能の充実と情報開示の徹底の充実等を通じ、法人運営の適正性を担保することとしている。
 一方、これまで医療法人は、積極的な公益性は要求されないものとして、その仕組みが構築されてきたところであるが、積極的に公益性を求める医療法人が現に存在することや、自治体立病院をはじめとした公的医療機関がこれまで担ってきた「公益性の高い医療サービス」を公益性の高い民間非営利部門の医療法人も担うことなどによって地域社会の要求に応えていくことが求められており、新たに公益性の高い医療法人制度を再構築することによって、このような求めに応える必要がある。その際、現行の医療法に規定されている特別医療法人制度を見直し、以下に掲げるような公益性を取り扱う仕組みや公益性の高い医療を提供する医療法人の規律を新たに医療法に規定することを通じ、公益性の高い医療法人自らが「公益性の高い医療サービス」を一定程度担うことによって、地域に積極的に自らの役割を説明し、もって患者や地域社会から支えられるものとして位置づけられるようにするべきである。あわせて、都道府県や厚生労働省の医療法人に対する関与については、これまでの事前規制を主とした取扱いから、公益性の高い医療法人内部のガバナンスの強化を通じた法人による自立的な監査・監督機能の充実と情報開示の徹底を通じた公益性の高い医療サービスを提供する医療法人自ら積極的に地域社会へ説明すること等を通じた取扱いに改めていくべきである。なお、公益性の高い医療を提供する医療法人については、一般の医療法人の自主的な移行を前提とするものであって、国又は都道府県によって移行を強制されるものではない。

 (1)公益性の高い医療サービスについて
 医療は、積極的に不特定多数の利益の実現を図ることを基本としたサービスである。また、医師法(昭和23年法律第201号)第19条第1項において、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」とされ、これによって日本の医療サービスが広まってきた。さらに、国としてもこれらを社会保険制度で支えることにより、医療サービスの普遍化を図ってきたところである。
 一方で、さまざまな理由により、医療サービスが、すべての地域、すべてのサービス内容にわたっては提供されていないことも事実である。24時間365日いつでも救急医療を受けられるという医療サービス、へき地という人口が少ないところであっても等しく提供される医療サービス、災害医療や精神科救急医療など医療従事者自らの危険を顧みないで提供されるサービスなど、社会保険制度を通じて通常提供される医療サービスと比較して、継続的な提供が困難を伴うものがあるが、それでも地域社会にとって、なくてはならない医療サービスである。
 これまでは、国や都道府県等による財政支援でもって、そのような医療サービスの提供を支えてきたところである。しかし、財政という資源が限られる中で、地域社会にとってなくてはならない医療サービスが行政の財政支援だけに頼らざるを得ないという構造が、将来も継続していけるかは疑問がある。今後の社会のあり方を考えると、行政のみの関与の下で、医療サービスを提供するのではなく、民間非営利部門の医療法人が自ら主体的にこのような医療サービスを担えるようにすることによって地域社会が求める医療サービスを充足していくことも重要な方向性である。「官」によるサービス提供ではなく、民間の「公」という視点を高めることは豊かな社会のあり方としても望ましいものと考える。
 このため、「公益性の高い医療サービス」として、「通常提供される医療サービスと比較して、継続的な医療サービスの提供に困難を伴うものであるにもかかわらず、地域社会にとって、なくてはならない医療サービス」と定義し、行政だけでなく、医療サービスの提供者、医療サービスを受ける患者などをはじめとした地域社会からの参加を求めながら、地域で「公益性の高い医療サービス」の具体化を図っていく手続きを整備するとともに、これらを客観的に評価できるような仕組みを設けることを通じて、民間非営利部門の医療法人が自由な発想の下で「公益性の高い医療サービス」を地域のために積極的に提供していくこととし、もって「公」という視点を高めた豊かな社会を構築することが必要である。

(地域社会にとって必要とされる公益性の高い医療を客観的に評価できる仕組み)
 「公益性の高い医療サービス」については、時代の経過とともに、その内容が変化するだけでなく、地域によって相違があることも確かである。逆に、時代の経過や地域にかかわらず共通するものもある。また、一人一人が思う「公益性の高い医療サービス」の内容に違いがあると考えられる。
 このように「公益性の高い医療サービス」を具体化していく作業は非常に困難であるが、一方で、地域で適切な供給が難しい医療サービスが存在することも確かである。
 本検討会では、このような困難さがある中で、できる限り「公益性の高い医療サービス」の具体化を図ったところである。「公益性の高い医療サービス」の定義は前述のとおり、「通常提供される医療サービスと比較して、継続的な医療サービスの提供に困難を伴うものであるにもかかわらず、地域社会にとって、なくてはならない医療サービス」であるが、これらの背景を整理すると次の5つの観点がある。






.救命救急のために常時医療を提供するものであること
.居住地域や病態の程度にかかわらず等しく医療を提供するものであること
.医療従事者に危害が及ぶ可能性が高いにも関わらず提供することが必要な医療であること
.患者や地域の医療機関に対し無償で相談助言や普及啓発を行うものであること
.高度な医療技術などの研究開発や質の高い医療従事者の養成であって科学技術の進歩に貢献するものであること






 これら5つの観点を背景としながら、具体的な「公益性の高い医療サービス」をあげるとすると、本検討会として別紙のものを指摘したい。
 しかし、これらのものだけが「公益性の高い医療サービス」といえるのか、また、時代とともに別紙の内容に変化は生じないのか、さらに、地域によっては独特の「公益性の高い医療サービス」があるのではないか、といった様々な指摘があるだろう。
 「公益性の高い医療サービス」は、まさに様々な視点からの透明性のある議論を通じて確立されていくべきものであり、また、時点ごとの絶え間ない見直し作業、地域のきめ細かなニーズに対応した都道府県による具体化作業が考えられよう。そのためにも本検討会では、別紙の具体的な「公益性の高い医療サービス」について、次のような視点を通じて一層検討を深めるべきものであると考える。










.厚生労働省において、具体的な「公益性の高い医療サービス」の内容及びこれを客観的に評価できる指標を提示すること
.具体的な「公益性の高い医療サービス」の内容及び当該内容を客観的に評価できる指標については、いわゆるパブリックコメント等国民の幅広い意見を聴くこと
.パブリックコメント等の国民からの意見を通じ、具体的な「公益性の高い医療サービス」の内容については、法律に位置づけること
.法律に位置づけられた「公益性の高い医療サービス」の内容については、常時客観的に評価できる指標でもって地域社会から評価されるものであること
.なお、具体的な「公益性の高い医療サービス」の内容については、都道府県知事においても、一定の手続きを経て別途具体化できる手続きを設けることが必要であること










 一方で、医療サービスを担う様々な開設主体がある中、これら「公益性の高い医療サービス」が明確になった場合は、特に国公立病院を中心とした公的な医療機関がその範を示すべきことはいうまでもない。今後は、これらの医療機関は積極的に「公益性の高い医療サービス」を提供することが求められるとともに、これら「公益性の高い医療サービス」について地域で提供することができない公的な医療機関は、地域社会から厳しい評価を受けることになるだろう。
 そうした中、「公益性の高い医療サービス」を担う民間非営利部門の医療法人においても、一定の規律が求められる。具体的な規律の内容については、後述することとなるが、「公益性」とは、事業の内容とともに、当該事業を遂行する事業体(ここでは医療法人を指す。)のあり方についても一定の規律が求められることを指摘したい。

 (2)公益性の高い医療サービスを提供する医療法人の規律について

 公益性の高い医療サービスを提供する医療法人の規律を検討するに当たっては、医療法第42条第2項に規定される特別医療法人や租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第67条の2に規定される国税庁長官の承認を受ける医療法人(以下「特定医療法人」という。)の規律を基礎として考えるべきである。その際、新たに政府において検討されている公益性を有する非営利法人の規律との整合性を図るとともに、現行の特別医療法人又は特定医療法人の規律であっても医業経営に支障がある規律については極力見直すべきである。また、今後の行政と民間非営利部門である医療法人との関係を考えると、公益性の高い医療サービスを提供する医療法人の規律を検討するに当たっては、医療法人自らの地域社会に対する積極的な情報公開を通じた自主的・自律的な規律を基礎として考えることとし、都道府県や厚生労働省による事前規制についても極力見直す方向で検討すべきである。

(情報開示)
 従前より、医療法において医療法人は毎会計年度の終了後2か月以内に決算を都道府県知事に届け出るとともに、財産目録、貸借対照表及び損益計算書を作り、常にこれを各事務所に備えて置かなければならないこととされている。また、医療法人の債権者は、医療法人の執務時間内はいつでも、書類の閲覧を求めることができるとされ、医療法人の医業経営に関する情報開示の規定は整備されていたところである。
 一方で、平成12年に社会福祉法(昭和26年法律第45号)第44条第4項に「社会福祉法人は、第2項の書類(事業報告書、財産目録、貸借対照表及び収支計算書)及びこれに関する監事の意見を記載した書面を各事務所に備えて置き、当該社会福祉法人が提供する福祉サービスの利用を希望する者その他の利害関係人から請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて、これを閲覧に供しなければならない」との規定が設けられている。また、特定非営利活動促進法(平成10年法律第7号)に規定される特定非営利活動法人(いわゆるNPO法人)についても、同法第29条において、「毎事業年度一回、事業報告書等、役員名簿等及び定款等を所轄庁に提出しなければならない」、「所轄庁は、特定非営利活動法人から提出を受けた事業報告書等若しくは役員名簿等又は定款等について閲覧の請求があった場合には、これを閲覧させなければならない」と規定されているなど、民間非営利部門における地域社会への情報開示の規定が法律上整備されてきているところである。
 患者の視点に立った医療サービスの提供が今まで以上に求められている中、医療機関を経営する医療法人、とりわけ「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人については、社会福祉施設を経営する社会福祉法人との整合性のある対応が必要であり、そのための法制上の措置を検討すべきである。

(役職員の報酬等)
 役職員の報酬等が「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人の資産・収入の状況から見てあまりに多額になると、当該法人として不適切な利益配分となるおそれがある。また、本来、地域社会に提供する「公益性の高い医療サービス」の実施を阻害する可能性もあり、役職員の報酬等が不当に高額なものであることは望ましくない。
 一方で、「公益性の高い医療サービス」を担う個々の医療法人に関し、適切な役職員の報酬等の基準を一律に設けることは、効率的な医業経営の実施に極めて支障が多く、医療サービスの提供や医業経営の実施の面から有能な役職員を確保する観点から見ても問題が多い。
 このため、役職員の報酬等については、「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人の自律性を尊重することとし、役職員に対する報酬等の支給規程を地域社会に積極的に情報開示することでもって対応するべきである。
 その際、現行の特別医療法人及び特定医療法人の要件である役職員の給与制限については、見直すべきである。

(同一の親族による支配の制限)
 地域社会から求められる「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人については、現行の特別医療法人・特定医療法人に係る規律を踏まえ、役員、社員及び評議員について、同一親族が占める割合を就任している者の現在数の3分の1以下とするといった規律を医療法上設ける必要がある。

(理事長の資格要件の見直し)
 医療法第46条の3では医療法人を代表し、その業務を総理する理事長の資格要件として、医師又は歯科医師であることを求めている。これは、医療サービスという人の生命・健康に著しく影響を及ぼすものを提供するためには、医療サービスをもっぱら提供する医療法人の経営に携わる者についても一定の要件を求めることとされ、原則として、医師又は歯科医師の資格が必要とされたものである。
 一方で、昨今の医業経営を取り巻く厳しい状況を考えると、顧客である患者の立場を尊重した質の高い医療サービスを効率的に提供するためには、理事長に求められる資質として、医療に関する知識のほか、例えば、(1)医療法人が患者に提供する包括的なサービスのあり方をどうするか、(2)質の高いサービスを持続して提供するため、従来の取引先との関係をどう見直すか、(3)多様な専門的な職種をどのようにまとめるのか等といった経営の根幹に関わる重要な判断を行うことも必要な資質としてあげられよう。
 こうしたことを踏まえるとともに、従来の特定医療法人・特別医療法人においては、都道府県知事の認可によって、医師又は歯科医師でない理事のうちから理事長として選出することができるという取扱いに鑑みると、地域社会から求められる「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人の理事長については、医師又は歯科医師である理事のうちから選出するという原則を維持しながらも、当該医療法人がそれぞれの状況に応じて、人材を幅広く求めることを可能とすることも有用である。言い換えると、地域社会から求められる「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人の理事長については、当該医療法人自らが多様な人材から的確な者を選ぶことができるよう医療法上の規定を見直すべきである。あわせて、「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人については、地域社会からより高い信頼を得ながら医業経営を推進することが求められることから、当該医療法人を代表する理事長に関し、医療法人の設立や理事長の変更などの都道府県知事の認可又は届出の時点において、当該理事長の名称を開示するといった取扱いとすることも検討に値すると考えられる。

(評議員会の設置)
 地域社会から求められる「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人に関しては、従来以上に地域社会からの意見や医業経営に貢献すると考えられる外部の専門家の知識や経験を医業経営に活かしていくという方策も考えられる。医療法人の内部に評議員会を設置することについては、あくまで社団医療法人の任意であることについて留意する必要があるものの、当該医療法人の経営状況や医療機関の状況を地域社会に周知し、地域社会からの参加を求めることは、「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人にとっても、その利益を享受する地域社会から幅広い支援を受けるというメリットがある。また、地域社会からの参加を求めることによって、医療とはそもそもどういうことか、医業経営とはどういうものなのかについて地域社会の理解を深める機会となる。
 このため、評議員の一定数が同一親族で占められることのないように留意しながら、地域社会から求められる「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人において評議員会を設置できるよう医療法上明確にすべきである。
 また、評議員会については、理事定数の2倍を超える数の評議員をもって組織されるものとし、「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人の業務に関する重要事項は、定款又は寄附行為をもって、評議員会の議決を要するものとすべきである。

(公認会計士等による財務諸表監査)
 地域社会から求められる「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人については、行政による事前規制ではなく、地域社会に対する積極的な情報公開を通じた自主的・自律的な規律に基づいた位置づけにする必要がある。
 特に、医療法人の経営状況については、専門家である公認会計士や監査法人による継続的な財務諸表監査を通じて、当該医療法人の経営の安定性を判断することが求められる。このため、特に地域で安定的な医業経営が求められる「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人のうち、一定規模以上のものについては、公認会計士や監査法人による財務諸表監査を受けなければならないものとする。
 一方で、こういった財務諸表監査を受ける医療法人については、医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第30条の34の規制については適用しないことが必要である。また、これらの医療法人については、経営上必要な資産について適正に管理され、かつ、処分を行う場合には適正な手続きに基づいて行われることを条件として、保有する現金等の預け入れ先に関する規制については適用しないことも必要である。


3.今後の医療法人と医療法人を監督する都道府県との関係の見直し

 我が国の医療提供体制を考えると、病院の61.3%、病床の50.2%は医療法人が担っており、数字の面からだけでも民間非営利部門の医療法人が中心となっていることは明らかである。厚生労働省や医療法人を監督する都道府県は民間非営利部門の医療法人を中心として地域の医療提供体制を考えなければならない。そのためにも、従来の公的医療機関が担ってきた機能についても、民間非営利部門の医療法人が積極的に担うことが求められる。
 従来は、「救急医療など収益性の低い医療は公立病院でなければ実施できない」といったことが暗に前提とされていたが、今後は、どのような医療サービスであっても、地域で効率的に提供されるためにはどうすればいいのか、という観点から医療提供体制のあり方を考える必要がある。また、財政的な支援を行う場合は、救急医療やへき地医療など地域社会にとってなくてはならない「公益性の高い医療サービス」の実施を支援することを基本として考えるべきである。
 以上を踏まえると、今後は、民間非営利部門の医療法人と都道府県との関係が重要になってくる。今後の都道府県の役割は、自らが自治体立病院を設置して直接的に医療サービスを提供する役割から極力撤退し、医療サービスに係るルールを調整する役割、医療サービスの安全性やアクセスの公平性を確保する役割等へ転換することが求められる。このため、医療法人を監督する都道府県や医療法人制度を所管する厚生労働省においては、
 (1)医療法人の設立認可や合併等の事務については、都道府県知事部局において行い、設立認可等に係る審査基準及び審査に要する期日についてあらかじめ明確に定めておくこととし、行政による不透明な裁量が極力及ばないようにするべきであり、民間非営利部門の医療法人が円滑に事業展開できるようルールを明確にする
 (2)民間非営利部門の医療法人が今後とも効率的に経営できるよう、例えば、療養環境の向上を制限しているような合理的でない規制について、行政において見直しを引き続き行っていく
 (3)医療法人の経営が今後とも透明性が確保され、効率的に推進されるよう医療法人制度の不断の見直しを行う
ことが必要であり、今後とも継続的な対応が求められる。あわせて、病院や診療所などの活動をしていない、いわゆる休眠状態の医療法人については、医療法第65条に基づき、都道府県において速やかに医療法人の設立認可取消を行うよう、引き続き努力すべきである。



III.今後の医療法人制度改革に向けた新たな医業経営のあり方の確立

1.効率的な医業経営を支える人材の養成

 今後、都道府県の役割が、自らが自治体立病院を設置して直接的に医療サービスを提供する役割から極力撤退し、医療サービスに係るルールを調整する役割、医療サービスの安全性やアクセスの公平性を監視する役割等へ転換することに伴い、各医療法人においては、従来以上に医業経営について効率的に行うことが求められる。
 言うまでもないことだが、経営を良くするための特効薬はなく、日頃からの絶え間ない経営者をはじめとした現場の努力の積み重ねが重要であり、そのために必要になってくるのが、医業経営を支える質の高い人材の養成である。
 このため、今後は、医業経営を支える人材の養成について、厚生労働省は関係省庁と協力しながら、そのあり方を検討すべきである。


2.透明性の高い医業経営の推進

 医療法人制度改革は医療法の改正だけにとどまるものではない。制度創設以来50年以上経過した医療法人のあり方に関しては、医療法、医療法施行令、医療法施行規則のほか、これに関する通知・解釈等で規定されているものである。
 厚生労働省においては、透明性の高い医業経営を各医療法人が遂行できるようにするため、医療法人制度について、継続してそのあり方を見直すべきである。その際、医療サービスの提供と医業経営は車の両輪であることから、医業を経営する者が医療サービスを効率的に提供するため、自らその経営実態を把握することは不可欠である。経営規模において中小企業と同程度の医療法人に十分配慮しながら、医療法人に必要な会計はどういうものがいいのか、今後とも医療関係団体の意見を踏まえながら、検討を深めていくことが求められる。
 また、当該医療法人の経営実態について、他の公的医療機関や同種の医療サービスを提供している医療機関と比較等を行うことを通じて、より客観的に把握することも重要である。


3.公益性の高い医療サービスを安定的・継続的に提供するための新たな支援方策の検討

 医療法人制度改革を推進していくためには、従来以上に民間非営利部門の医療法人に対する支援方策が求められよう。特に、住民から求められる「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人に対しては、医療法人に従来認められている医療機関債の発行のほか証券取引法に基づく有価証券としての公募債の発行、社会福祉事業や医療保健業以外の多様な収益事業の実施、寄附金税制や法人税制など医療法人に係る税制上の優遇の検討など、公益性の高い医療サービスを安定的・継続的に提供することを可能とするための基盤整備が求められる。また、厚生労働省においては、医療法人に関わる行政指導の根拠や医療法人に対する課税関係などルールの明確化に一層取り組んでいくことが重要である。
 また、公募債の発行などが可能となる「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人にあっては、従来以上に、地域で安定的に「公益性の高い医療サービス」を提供する必要があるため、効率的な医業経営を推進することが求められる。その際、当該法人の経営実態を把握し、かつ、経営状況について客観的、対外的に説明責任を果たすことが地域社会からの理解と支持を得るために必要である。このため、「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人における適切な会計基準の導入を促進するべきである。
 さらに、我が国においては、金融機関が医療法人に対して融資を行う場合、医療法人の理事長ほか経営に携わる者個人の連帯保証を求めることが慣例として通用している実態がある。理事長など個人の連帯保証に関しては、(1)融資の際の信用補完の役割があること、(2)理事長の経営責任を担保する役割があること、(3)医療法人から理事長など個人に資産が移転した場合でも当該資産を保全する役割があること等の理由によって、現在広く通用しているものと思われる。一方で、このような個人の連帯保証に関しては、医療法人の経営の状況にかかわらず一律な対応が行われ、結果的に医療法人の経営に携わる者の意欲を阻害する面も否定できない。このため、今後とも、公的な信用補完制度を通じて対応がなされている中小企業施策を参考にしながら、「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人が地域で安定して医療サービスを提供できるよう、その支援方策について引き続き検討することが望まれる。
 医療サービスという限りある資源を地域の患者のために有効に活用されるためにも、今後とも、厚生労働省、医療関係団体そして医療サービスを提供する者が協力して、引き続き取り組んでいくことが求められる。


おわりに

 今般の医療法人制度改革は、医療法人制度が創設された昭和25年以来の抜本的な改革であり、本検討会としても非常に責任の重い課題の中、真剣に議論してきた。
 現行の医療法人制度が抱える課題を明確にし、将来のあるべき姿としてどのような医療法人の姿が求められるのか、そして、そこにたどり着くためにどのような方策が必要なのか、考え方を整理してきた。
 繰り返しになるが、我が国の医療提供体制は民間非営利部門の医療法人が中心となって担うべきものであり、これらの主体が自主的に地域の医療を担っていけるように制度を構築していくことが重要である。その意味では、地域の医療提供体制は行政主体から民間主体へと転換しつつあり、この医療法人制度改革はそれを後押しする重要な改革である。また、従来は公的医療機関が中心となって担ってきた「公益性の高い医療サービス」についても、住民の支援を得ながら、民間非営利部門の医療法人が担っていくことは、今後の豊かな「公」の社会の実現に向けても重要な転機であろう。
 厚生労働省においては、こういった重要な改革を確実に推進するため、今後、医療関係団体と今まで以上に議論を重ね、新たな時代の医療法人の役割の実現に向け、努力すべきである。

トップへ