(資料2)

中間的な議論の整理
(素案)

17.7.22.

 はじめに(研究会設置の趣旨、報告書の位置付け)

本年4月から施行されている改正児童福祉法においては、近年、児童虐待相談件数の急増等により、緊急かつより高度な専門的対応が求められる一方で、育児不安等を背景に、身近な子育て相談ニ−ズも増大している中で、児童家庭相談における市町村の役割を明確化するとともに、都道府県(児童相談所)の役割を困難事例への対応や市町村の後方支援に重点化するなど地域における児童家庭相談体制の充実が図られたところ。

よりきめ細かな児童家庭相談体制を構築するためには、今回の児童福祉法改正が目指す市町村における相談体制の強化は必須の方向である。その際、国においては、細部にわたる規定や指針を示すのではなく、大枠のみを示し、あとは市町村の実情に合わせ、各々の市町村がより有効な検討を行うことが必要であるが、一方で、児童虐待や少年非行問題への対応など、その援助プロセスにおいて法的枠組みが重要な意味を持つものについては、共通の基盤整備や理解が図られなければならない。

そのためには、法的な対応やより深刻な問題に対応する都道府県(児童相談所)レベルのシステムと、より住民に身近な地域で対応する市町村レベルのシステムをつなぐ新たなシステムが必要である。また、児童家庭相談という場合には、単に相談としての意味だけでなく、そこから始まる実際的な援助や援助終了後のフォロ−アップなども重要な意味を有する。

今回の児童福祉法改正の趣旨に沿って地域における児童家庭相談体制を構築するためには、このような全体状況を視野に入れつつ、国としての大枠の仕組みの提示や支援、都道府県、市町村それぞれのレベルでの主体的な取り組みが求められる。

この研究会では、各地域における取り組みの実践に学び、また、現場実態や現場感覚を踏まえた議論・検討を積み重ね、その具体的な課題として、国および地域の取り組みを促すためのメッセ−ジを織り込み、発信しようとするもの。

なお、今回の「中間的な議論の整理」以降、「市町村における児童相談体制の整備」のあり方を中心に、さらに議論を深めることとしており、本年末を目途に、研究会としての最終報告書を取りまとめる予定。

 都道府県(児童相談所等)における児童家庭相談機能の強化

児童相談所の適正配置

現在、児童相談所は全国で182か所設置されているが、国が策定した児童相談所運営指針で示されている「人口50万人に最低1か所程度が必要」という目安に従った設置数を下回っている状況。

児童相談所の設置か所数については、最終的には、地域の実情を踏まえた地域の主体的判断にもよるものの、全体として見れば、児童相談所設置数の増加が望まれる。

その設置の目安としては、先の児童福祉法改正において、中核市規模の市について、児童相談所の設置が可能されたことを踏まえれば、おおむね人口30万人規模を念頭に、緊急対応やケ−スワ−クの効率性を考慮し、例えば1時間程度で移動が可能な範囲を管轄区域として想定するなど、人口以外の要素も加味した標準を具体的に示すべき。

その際、設置(増設)されるべき児童相談所は、本所の指揮の下に動く支所、出張所のような形態ではなく、あくまで、自立的に措置権を行使できる児童相談所であることが望ましい。

児童相談所に求められる専門性を確保していく観点、また、本年4月から市町村が児童家庭相談の第一義的な窓口となったことを踏まえると、上記のような意味での支所、出張所を設けることは、(地域の特殊事情から必要な場合もあり得るが)基本的には好ましくなく、支所、出張所への人員配置よりも、(自立的に措置権を行使できる)児童相談所の設置数を増やしつつ、かつ、そこに職員を集約化する方がベタ−ではないか。

都道府県(郡部)家庭児童相談室(福祉事務所)のあり方

都道府県福祉事務所の大半に設置されていた家庭児童相談室については、これまで郡部(町村部)における身近な児童家庭相談窓口としての役割を果たしてきたが、児童福祉法の改正により、市町村が児童家庭相談の第一義的な窓口となったことから、基本的な役割が重複する面があると考えられる。

こうした状況を踏まえれば、機関としての(郡部)家庭児童相談室は、基本的には整理される方向にあると考えられるが、これまで家庭児童相談室が担ってきた町村のサポ−ト機能や福祉事務所と児童相談所との連携機能の必要性そのものがなくなるわけではなく、こうした機能やこれまで蓄積されてきた家庭児童相談室のノウハウを何らかの形で継承していくべきではないか。

例えば、家庭児童相談室の職員を児童相談所に集約(配置換)する、町村に出向ないし転籍させる、家庭児童相談室の体制を強化し、児童相談所とすることなどが考えられるのではないか。また、当分の間、児童相談所とともに、市町村サポ−トの拠点機関あるいは市町村における相談機関として活用することも考えられるのではないか。

児童相談所の組織体制

児童相談所における専門性を確保する観点からは、基本的には、上記の(郡部)家庭児童相談室の関係なども含め、専門職員を分散配置するのではなく、できる限り、児童相談所に集約化していくことが望ましいと考えられる。

また、最近、虐待対応については、従来の地区担当制によらず、専従の組織を設けて対応する児童相談所が増えているが、こうした組織体制のあり方については、個人の経験が狭まるというキャリア形成上の課題はあるものの、虐待対応の緊急性・困難性から特化せざるを得ないと考えられる。非行の困難ケ−ス対応についても、ある程度、専従化していかざるを得ないのではないか。

児童相談所の必要な職員体制の確保

ここ数年、児童虐待相談件数の大幅な増加や困難事例の増加など児童相談所を巡る厳しい状況を踏まえ、職員配置の充実が図られてきているが、それでもなお、殆どの児童相談所の現場および本庁所管課においては現下の児童相談所の体制についての厳しい認識が共有されている状況。地域の実情を踏まえつつも、引き続き、児童相談所の体制の充実に向けた努力が求められる。

首長のリ−ダ−シップにより、大幅な体制強化が図られたという実践例もあり、(行財政改革の大変厳しい状況下において)首長を含めた全庁的な理解の下に進められることが望まれる。

他方、現在の児童相談所業務においては、直接の対人援助以外のケ−ス記録作成などにかなりの手間が取られており、IT化の推進など業務省力化の工夫も求められる。

(児童福祉司)
児童福祉司は、本来、虐待ケ−スであれば、初期の緊急対応から、子どもの自立支援や家族再統合に向けた親子の支援に至るまでの支援を行うことまでがその役割であるべきだが、抱えている相談ケ−ス数の多さや相談内容の困難化から、初期対応で手一杯な状況。こうした状況に対応し、近時、児童福祉司の増員が図られているところであり、また、児童福祉法施行令の改正により、児童福祉司の配置基準の改善が図られたところであるが、現場感覚としては、引き続き、配置の充実が必要との認識であり、政令改正も踏まえたより一層の児童福祉司の配置の充実が望まれる。

また、児童福祉司の大幅な増員が図られた自治体においては、その増員効果として、初期調査の充実や予防的取り組みの充実により、早期対応が図られているほか、複数対応が可能となり、職員のストレスが軽減されるなど大きな効果を挙げていることが報告されており、こうした取り組み実践に学ぶことも期待される。

(児童心理司(心理職))
児童相談所が介入と支援の両方の役割を担わなければならない中で、特に子どもを分離保護した後の親指導・支援には、心理職の関わりが重要である。このため、支援の部門では、基本的に、児童福祉司と児童心理司がチ−ムで対応できる体制であることが望ましい。

さらに、児童心理司には、従来の判定業務に加え、一時保護中の子どもの心理療法などにも積極的に関わることが望まれることから、配置の充実が必要。児童心理司については、児童福祉司と異なり、配置基準が明確になっていないが、国による配置基準の明確化は、多くの自治体からも要望されており、この点についても、今後検討すべき課題。

(医師・保健師)
虐待かどうかの判断や重症度判断に当たっては、医学的判断が不可欠であり、また、虐待ではないケ−スを虐待として判断してしまう「虐待の誤診」を防止する観点からも、児童相談所に医師(児童精神科医や小児科医)を配置することは不可欠であり、求められる迅速性等を考慮すれば、常勤で配置されることが強く求められる。

医療機関や保健機関との連携強化の観点からは、連携の窓口として、児童相談所の中に保健師を配置することも有効と考えられる。

(弁護士)
弁護士についても、法的な観点からの判断をバックアップする存在として、少なくともサポ−トを得られる体制を構築することは不可欠。

児童相談所職員の専門性の向上

児童相談所の業務を遂行するために必要な専門性を確保するためには、専門職採用が望まれるが、それだけでは不十分であり、継続的かつ実践的な現任研修が必要。

また、現場感覚としては、児童福祉司に必要な専門性を確保するためには、5年から10年程度の経験が必要との声が多く、採用のあり方と併せ、人事ロ−テ−ションのあり方についても、各自治体において、積極的な検討がなされることが望まれる。ただし、大変ストレスの大きい業務であることから、適度な異動をはさむことを考慮することも必要。

一時保護のあり方
虐待を受けている子どもを在宅で支援していくためには、重症化を予防するためにも、一時保護機能の充実が求められる。その際、職権による一時保護のほか、柔軟で多様な形態の受け皿の拡充が必要。特に、今後、市町村が児童家庭相談の第一義的な役割を担う中で、例えば、ショ−トステイ事業や一時保育の実施など市町村の子育て支援事業を拡充していく中での対応が期待される。

一時保護所では、虐待・非行など様々な背景や問題を抱えた子ども、年齢層も幅広い子どもを保護しなければならず、(男女の問題も含め)生活援助の場面での分離対応が必要だが、設備的にも体制的にも不十分な状況であり、改善が急務。特に、非行の問題(とりわけ触法少年による重大事件)について、児童福祉の観点を踏まえ、児童福祉の機関が引き続きしっかりと関わっていく観点からも、対応力の強化が望まれる。その際、社会の安全性を確保する観点からの行動の自由の制限のあり方についても、さらに十分な検討が必要。

また、一時保護の期間は、親子分離とともに、その後の子どもの自立支援や家族支援に向けたアセスメントを行う期間であり、一時保護所におけるアセスメント機能の充実・強化が必要。

現下の一時保護所の状況を踏まえれば、施設や里親への委託一時保護についても、ある程度進めていく必要があるが、その際には、施設や里親との十分な連携の下、しっかりとしたアセスメントを実施することが前提となるべき。(また、委託一時保護を推進するためには、一時保護委託費のあり方についても検討が加えられるべき。)

児童福祉施設の適正配置

児童相談所からは、虐待を受けた子どもの保護の受け皿となる児童養護施設などの児童福祉施設の不足を訴える声も大きい。一時保護所の体制充実と併せ、児童福祉施設の適正配置により、保護の受け皿がきちんと確保されることが必要。

 児童相談所と関係機関・専門職種との連携強化

児童虐待ケ−スを始めとする複雑な問題を抱えるケ−スに適切に対応していくためには、関係機関・専門職種との連携強化が不可欠。様々な形でネットワ−クは形成されているものの、援助のスタンスの違いなど必ずしも相互理解に基づく有機的な連携が十分に図られているとは言い難い状況。今後、相互理解に基づく実質的な連携確保をいかに形成していくかが課題。

なお、地域における関係機関の有機的な連携を促進するため、今回の児童福祉法改正により、要保護児童対策地域協議会が設けられたところ。今後、市町村において、この要保護児童対策地域協議会の設置が進められることが期待されており、以下の関係機関・専門職種との連携については、児童相談所との直接的な連携とともに、市町村を中核とした同協議会を通じた連携強化が図られることも期待される。

(医療機関)
虐待を判断するに当たっては、医学的診断は極めて重要であるが、虐待の確定診断を下すためには、家族背景なども含めた総合診断が必要。こうした点からも、しっかりと連携を図っていくことが必要。

医療機関からの虐待の通告については、依然として医療機関側のためらいが見受けられる。特に、開業医の場合、通告者が特定されてしまうことなどの問題が指摘されている。こうした課題に対し、例えば、広島県では、「子ども虐待等の相談・診療に関する協力基幹病院」を指定し、地域の一般医療機関(かかりつけ医)からの相談に応じ、協力基幹病院を通じた通告、診断書作成、虐待が疑われる子どもの入院を受け入れるなどのネットワ−クを形成しており、こうした先進的な取組も参考にしながら、それぞれの地域において医療機関とのスム−ズな連携を可能にするようなシステムづくりが期待される。

基幹的な医療機関においては、虐待ケ−スに対応した病院内システムが確立されていることが望まれる。しかしながら、虐待対応には、相当の手間ひまを要するため、不採算にならざるを得ない。このため、こうした病院内システムづくりを促進していくために、診療報酬上の配慮などについても検討が望まれる。

(国においては、)医療機関が虐待ケ−スについて、具体的にどう動いていくか、ということについての詳細なマニュアルをつくり、示していくことも必要。

(弁護士、弁護士会)
弁護士、弁護士会との連携は進みつつあり、特に大都市部では相当程度連携が図られてきているが、地域によっては児童福祉に関心のある弁護士が限られているなど、全国的な協力システムづくりが課題。

(保健所、市町村保健センタ−)
(P)

(児童家庭支援センタ−)
児童家庭支援センタ−は、児童福祉法上、児童相談所からの指導委託を受けて、ケ−スに対応することができる機関であるが、現状では、児童相談所からは、指導委託を行える機関として十分な活用が図られているとは必ずしも言い難い状況。

今後は、(市町村が児童家庭相談の第一義的な相談機能を担うこととなったことも踏まえ)、例えば、夜間の相談を中心に対応したり、一時保護機能を充実させるなど、児童福祉施設に附置される機関としての特性を活かした相談援助活動を展開するなどその役割・位置付けについて、さらに検討を深めることが必要ではないか。

(里親、児童福祉施設)
里親委託や施設への入所措置を行った子どもについての自立支援計画の見直しについては、多くの児童相談所では、年1〜2回程度の訪問、相談といった対応にとどまっているのが現状。今後、子どもの自立支援や家庭復帰支援に向け、児童相談所が積極的に里親や児童福祉施設と連携を図り、適時の自立支援計画の見直し、自立支援計画に基づく支援を行っていくことが必要。

特に、里親については、レスパイトケアなど里親自身への支援の充実が望まれる。

(学校、教育委員会)
学校の教職員には、虐待の早期発見に努めることが特に期待されており、児童相談所への通告についての意識を高めるとともに、責任の明確化を図ることが必要。例えば、滋賀県においては、県内の全ての小中学校に児童虐待対応教員を配置するとともに、児童相談所に通告する際には、学校での子どもの状況などを文書で送付することを定め、学校側の責任の明確化を図っているが、こうした取り組みも参考に、連携強化に取り組まれることが期待される。

(警察)
立入調査や緊急対応を要するケ−スなどについて、警察との積極的な連携が重要であることは言うまでもないが、福祉と警察では、ケ−スのとらえ方や視点が異なる面があることから、例えば、非行ケ−スの調査などにおいて、どこまでを警察が対応し、どこまでを児童相談所が対応するのか、といったガイドライン的なものを検討するなどその線引きについて、議論を深めることが必要ではないか。

(児童委員・主任児童委員)
児童委員・主任児童委員については、虐待の通告ケ−スにおける周辺調査や在宅支援ケ−スにおける見守りなどで一定の役割を担っているが、個人の力量差が大きい、守秘義務の徹底が課題、との問題も指摘されている。

地域でもっとも身近な関係者として、果たすべき役割は大きく、研修の充実等を通じた積極的な連携・活用が望まれる。

(民間(NPO)団体)
各地において、民間(NPO)団体のそれぞれの特性を活かした様々な連携の取り組みが進められている。今後とも、より一層の連携の強化が望まれるが、虐待防止のための電話相談などを行っているいわゆる児童虐待防止の民間ネットワークのほか、つどいの広場事業など親子や親同士の交流、一時預かりなどの子育て支援事業を実施しているNPOなども含めた幅広い団体との効果的・具体的な連携が期待される。

 都道府県(児童相談所等)と市町村との連携の推進、都道府県(児童相談所等)による市町村に対する後方支援

今般の児童福祉法の改正を受け、各都道府県においては、地域の実情を踏まえた都道府県独自の市町村向け相談マニュアルの作成や市町村向けの研修に取り組んでいる状況。

しかしながら、市町村の取組や意識には相当のばらつきがあることから、個々の市町村の力量に応じ、当面は、市町村において対応が困難と判断したケ−スについては、積極的に児童相談所が対応する姿勢が必要。

(・また、ケ−スの当初の振り分けは、高い専門性を必要とし、その後の援助にも大きく関わることから非常に重要。
市町村におけるケ−スへの主体的関わりを維持しつつ、児童相談所が積極的にケ−スの見立てや進行管理などの後方支援を行うことが必要。)

児童相談所と市町村を始めとする関係機関との連携をうまく機能させるためには、各機関が同じような枠組みでアセスメントや援助方針のプランニングを行うことが必要。

市町村における相談体制の整備や要保護児童対策地域協議会(ネットワ−ク)の設置について、児童相談所長が中心となって、各市町村の首長に働きかけを行っている例もある。こうした働きかけ、特に自治体のトップに対し、理解を求めていくことも有効と考えられる。

 市町村における児童家庭相談体制の整備

(基本的には、これから議論)
必要な職員体制の確保、専門性の向上
ネットワ−ク(要保護児童対策地域協議会)による取り組み
子育て支援サ−ビスの活用による総合的支援の実施 など

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