<III.疾病・障害対策研究分野>

 疾病・障害対策研究分野は、個別の疾病・障害や領域に関する治療や対策を研究対象としている。具体的には、「長寿科学総合研究事業」、「子ども家庭総合研究事業」、「第3次対がん総合戦略研究事業」、「循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業」、「障害関連研究事業」、「エイズ・肝炎・新興再興感染症研究事業」「免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業」、「こころの健康科学健康事業」、および「難治性疾患克服研究事業」から構成されている(表4)。

表4.「疾患・障害対策研究分野」の概要
研究事業 研究領域
5)長寿科学総合 長寿科学総合、痴呆・骨折臨床
6)子ども家庭総合 6−1)子ども家庭総合
6−2)小児疾患臨床
7)第3次対がん総合戦略 第3次対がん総合戦略、がん臨床
8)循環器疾患等生活習慣病対策総合
9)障害関連 障害保健福祉総合、感覚器障害
10)エイズ・肝炎・
   新興再興感染症
10−1)新興再興感染症
10−2)エイズ対策
10−3)肝炎等克服緊急対策
11)免疫アレルギー疾患予防・治療
12)こころの健康科学
13)難治性疾患克服


5)長寿科学総合研究事業

1.長寿科学総合研究経費
事務事業名 長寿科学総合研究経費
担当部局・課主管課 老健局総務課
関係課 老健局計画課認知症対策推進室
老健局老人保健課

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 健康安心の推進
施策目標 介護予防の推進
実現目標 自立高齢者の要介護状態への移行及び軽度要介護者の悪化の防止(低減)

(2)事務事業の概要
事業内容(継続)
 超高齢社会に対応するため、高齢者の保健・医療・福祉に係る総合的な研究事業として、特に以下の課題について研究開発を推進するもの。
老化メカニズムの解明等
各種老年病の成因の解明と予防・治療方法の開発等
高齢者に適した各種リハビリテーション方法の確立及び看護・介護の効果的、効率的実施方法を開発等
高齢者に適した機器及び居住環境の知見の整備等
高齢者をめぐる社会的諸問題に関する包括的研究等
要介護状態の主要な原因である認知症及び骨折等の骨関節疾患について、より効果的な保健医療技術を確立するための臨床研究等

予算額(単位:百万円)
H14(※) H15(※) H16 H17 H18
2,311 1,972 2,063 2,077 (未確定値)
(※) 効果的医療技術の確立推進臨床研究経費を含む。

(3)趣旨
1)これまでの研究事業の成果
 本研究事業の推進により、老化のメカニズムや老化予防について、遺伝子的要因の解明及び長期縦断疫学研究によるエビデンスの蓄積が進んだ。また、高齢者に特有の疾患・病態において摂食・排泄障害に関する診断法や治療法に関する研究が進んだ。介護・保健福祉分野においては、幅広い年齢や障害の原因おける要介護状態の評価指標の開発研究が着手され、終末期ケアの実態や地域連携モデルの構築、高齢者に対する在宅ケアの質の評価等に関する研究が進んだ。
2)残されている課題
 高齢者に特有の疾患・病態である認知症や骨折、摂食・排泄障害に関し、これらの疾患を有する高齢者に対する総合的な医療と介護を提供する体制が十分でない。また、老化のメカニズムや老化予防については、遺伝的要因の解明は進んでいるが、環境要因の解明が途上である。また、これらの基礎研究の成果を臨床応用につなげる研究を推進していく必要がある。介護や保健福祉分野では、介護予防サービスの開発と評価、生活機能低下を重視した保健事業のあり方、認知症高齢者に対するケアモデルの必要性、介護サービスの評価、高齢者虐待を含めた高齢者の権利擁護、終末期ケアのあり方などといった新たな課題に対応する研究を開拓・刷新していく必要がある。
3)今後この事業で見込まれる成果
 老化機構の解明のさらなる進展とともに、これらの成果の臨床応用に関する研究が期待される。また、新たな介護予防サービスの確立とこれらの評価に関するガイドラインの作成が急務である。本研究事業の推進によりこれらの課題に対応するとともに、要支援・要介護状態への移行や軽度要介護者の重度化の予防、ひいては健康寿命の延伸など「健康フロンティア戦略」における目標達成への寄与が期待される。

2.評価結果
(1)必要性
 介護保険制度改革や老人保健事業の見直しに伴う介護・保健サービスの充実や高齢者医療との連携の促進が喫緊の課題であり、また重点施策として要介護状態の主要な原因である認知症や骨関節疾患への対策が急務であり、これらについての臨床・政策的研究を推進する必要がある。
(2)効率性
 医学的分野では、老化や老年病発症の機序の解明、骨折予防やリハビリテーション技術の開発が進み、介護分野においては、介護予防事業やケアマネジメントの評価、要介護認定や介護サービスの検証、高齢者の権利擁護等に関する科学的根拠の蓄積に大きな成果が見られた。また、ゴールドプラン21、対がん10か年戦略、メディカル・フロンティア戦略など、様々な行政計画と連動しつつ研究成果がこれらの施策に反映され、本研究事業の目的が十分達成されつつある。
(3)有効性
 本研究事業の実施にあたっては、基礎・臨床・社会医学及び社会福祉の専門家による事前評価を行った上で採択を決定することとされており、また、中間評価及び事後評価を行うことにより、個別研究課題の継続の必要性が評価されることとなっており、客観的かつ公正な実施が期待できる。
(4)計画性
 課題採択後も中間・事後評価により、当初の計画どおりに研究が実施されているか否かを確認し、漫然とした研究継続の抑制に努めている。これは、研究者自身の自律的チェックにもつながるものであり、本研究事業自体の計画的な実施が期待できる。
(5)その他
 該当なし

3.総合評価
 本研究事業における基礎・臨床的な研究成果により、高齢者医療の進展と標準化が得られ、また、介護や看護技術、保健福祉政策及び社会科学的側面においても研究成果が行政施策の反映や国民の生活向上に大きく寄与してきた。
 今後とも長寿科学に関する研究が、保健・医療・福祉の全般にわたり我が国の厚生科学の研究開発において重要な役割を果たし、健康寿命の延伸等「健康フロンティア戦略」の推進や介護保険制度改革の円滑な実施と評価に寄与していくことが期待される。

4.参考(概要図)
図


6)子ども家庭総合研究事業

事務事業名 子ども家庭総合研究経費
担当部局・課主管課 雇用均等・児童家庭局 母子保健課
関係課 大臣官房厚生科学課

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 健康安心の推進
施策目標 生涯を通じた女性の健康の向上・次世代育成
実現目標  

(2)事務事業の概要 事業内容
 乳幼児の発達支援、乳幼児及び生涯を通じた女性の健康の保持増進等について、効果的・効率的な研究の推進を図るとともに、少子化等最近の社会状況を踏まえ、児童を取り巻く環境やこれらが児童に及ぼす影響等についての総合的・実証的な研究に取り組むことにより、母子保健医療をはじめとした次世代育成支援を総合的・計画的に推進し、児童家庭福祉の向上に寄与することを目的として研究を推進している。

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
698 798 738 645 (未確定値)

(3)趣旨
1) これまでの研究事業の成果
 社会的関心及びニーズの高い「子どもの心の問題」、「児童虐待」や「小児医療」などへの取り組みを行い、母子保健医療や児童家庭福祉における「健やか親子21」や「新エンゼルプラン」などの国の重点課題、施策に応える研究成果が着実に得られている。
2) 残されている課題
 我が国の母子保健の国民運動計画である「健やか親子21」(2001〜2010年)が中間年を迎え、残り5年間の計画を円滑に進めるために必要なエビデンス構築に重点化するとともに、「子ども・子育て応援プラン」の着実な推進を支える研究を推進する。また、生殖補助医療や子どもの先天性・慢性疾患の原因解明、治療、予防法の開発研究。
3) 今後この事業で見込まれる成果
 「子どもが健康に育つ社会、子どもを産み、育てることに喜びを感じることができる社会。

2.評価結果
(1)必要性
 我が国は、先進国の中でも最も少子化の進んだ国であり、こうした急速な少子化の進行は、社会や経済、国の持続可能性を基盤から揺るがす事態をもたらしており、このような危機的な状況を克服し、活力ある社会を実現するために、我が国の将来を担う子どもの心身の健やかな育ちを保障する社会基盤を強化するための科学研究の推進が必要である。
(2)効率性
 子どもの健康確保と母子医療体制の充実等の充実、多様な子育て支援サービスの推進等新たな社会的課題やニーズに対して、具体的かつ施策への実際的応用が可能な研究成果が得られているところであり、本研究事業の成果は行政施策へ着実に反映されている。
(3)有効性
 研究班を構成する研究者から幅広い全国的及び国際的情報・データが収集されており、これら知識を集約した先導的な研究を効率的に進めることが可能である。
(4)計画性
 子どもを取り巻く社会、家庭環境の変化により、取り組むべき課題も変化し、多様化してきているが、本研究事業においては、「健やか親子21」等次世代育成支援の推進を始めとして、その行政的課題の解決及び新規施策の企画・推進に資する計画的な課題設定が行われている。また、行政ニーズに即応した検証研究及び政策提言型研究により汎用性のある成果が得られており、今後の研究成果も期待される。
(5)その他
<個別項目に関するご指摘・評価意見等>
次世代育成支援関係に関する法律等
(1) 少子化社会対策基本法及び次世代育成支援対策推進法の成立(平成15年7月)
(2) 少子化社会対策大綱の策定(閣議決定)(平成16年6月)
(3) 「子ども・子育て応援プラン」の策定(少子化社会対策大綱に基づく重点施策の具体的実施計画(平成16年12月)
(4) 次世代育成支援対策推進法の成立を受け、地方公共団体、企業等における行動計画の策定(施行:平成17年4月)
(5) 「健やか親子21」の中間年見直し(平成17年度)

3.総合評価
 本研究事業は、子どもの心身の健康確保、母子保健医療体制の充実、多様な子育て支援の推進、児童虐待への対応など、多様な社会的課題や新たなニーズに対応する実証的な基盤研究を行い、母子保健医療・児童家庭福祉行政の推進に大きく貢献しており、本事業においては、研究成果は継続的に行政施策に適切に反映されてきている。

4.参考(概要図)
図


7)第3次対がん総合戦略研究事業

1.第3次対がん総合戦略研究経費
事務事業名 第3次対がん総合戦略研究経費
担当部局・課主管課 健康局総務課生活習慣病対策室
関係課  

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 健康安心の推進
施策目標 がん予防・診断・治療法の開発
実現目標 がん患者の5年生存率の改善

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・一部新規)
 がんのさらなる本態解明を進めるとともに、応用・臨床研究を推進することにより、基礎的研究の成果を国民の福祉に繋げることとしている。また臨床研究・疫学研究の新たな展開により革新的な予防、診断、治療法の開発を進めるとともに、根拠に基づく医療の推進を図るため、効果的な医療技術の確立を目指し質の高い大規模な臨床研究を推進する。

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
3,186 4,183 4,633 4,865 (未確定値)

(3)趣旨
1) これまでの研究事業の成果(継続の場合)
カプセル内視鏡は小腸病変の診断には有用性が高いが、他の消化管病変についてはシステムの改良や工夫が必要であることがわかった。
肺がん検診については、低線量のヘリカルCTにより発見される多数の肺結節の解析のために肺結節データベースおよびコンピュータ診断支援装置開発のためのCT画像保存システムを構築した。
マンモグラフィによる乳がん検診の普及に伴い、診断が難しい症例のフィルムを収集していく教育システムの構築が不可欠であることを示した。
2) 残されている課題
緩和医療のエビデンスを作るための研究、緩和医療チームが早期からがん診療をサポートする体制整備に関する研究や、在宅緩和医療の患者数予測・在宅における患者の多様なニーズの研究などを課題設定する方向で検討中である。
医療経済性の検討において、早期発見・早期治療による早期退院・社会復帰の実現とサポートや、地域の医療機関の連携によって得られる在宅医療の普及・充実による経済的効果に関する研究や、リテラシー向上が受診率向上や効率的な医療資源の活用に与える影響に関する研究などの課題設定を行う方針である。
3) 今後この事業で見込まれる成果
 「予防」、「診断・治療」、「社会復帰」、「緩和ケア」など、患者にもっとも近い臨床現場に還元できるようなガイドラインやエビデンス作りを推進していく。

2.評価結果
(1)必要性
 日本人の死因の約3割、医療費の1割弱を占める我が国最大の健康上の問題となっており、厚生労働省として緊急に研究をさらに充実させなければならない分野である。
(2)効率性
 精度の高い診断技術の有効性が迅速に評価され、適切な間隔で多数の人が受診できるようになり、がんの診断・治療については、より正確に、簡便にできるようになり、QOL向上や緩和医療が充実することを目指す。
(3)有効性
 事前評価委員会において「専門的・学術的観点」と「行政的観点」の両面から課題を採択し、中間・事後評価委員会では毎年課題の目標がどの程度達成されたかにつき厳正な評価を行い、評点を考慮に入れた研究費の配分をする。
(4)計画性
 10年をI期(3年)、II期(3年)、III期(4年)に分け、各期毎に戦略の推進状況を総合的に勘案し、必要な見直しを行いつつ計画的に推進する。
(5)その他
 本研究事業の計画は、一昨年の総合科学技術会議が実施する国家的に重要な研究開発の評価において、最高ランクのS評価を得ている。

3.総合評価
 医療技術のさらなる向上を目指すためには先端的な科学技術を積極的に取り入れた研究が必須であり、産学連携の取り組みをさらに強化することが必要である。緩和医療の普及や、がんの予防・診断・治療方法のさらなる発展が求められており、患者の視点に立ったがん医療の提供に資する研究を推進する必要がある。

4.参考(概要図)
図


8)循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業

事務事業名 循環器疾患等生活習慣病対策総合研究経費(仮称)
担当部局・課主管課 健康局総務課生活習慣病対策室
関係課 医政局指導課、健康局生活衛生課

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 健康安心の推進
施策目標 生活習慣病対策とこころの健康の推進
実現目標 健康維持、生活習慣病の発症及び死亡の減少等による健康寿命の延伸

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・一部新規)
 これまで、個別に行われてきた、生活習慣病の一次・二次予防に関する「健康科学総合研究事業(健康づくり分野、疾病の早期発見と対策に関する研究分野)」と診断・治療という観点からの生活習慣病対策に係る「循環器疾患等総合研究事業」を統合し、生活習慣病に関する研究を総合的に実施する『循環器疾患等生活習慣病対策総合研究(仮称)』を創設し、生活習慣病の発症予防における栄養、運動に係るエビデンスの構築に関する研究、食育基本法の策定を踏まえた健康づくりの視点からの食育の推進に関する研究、疾病の早期発見と対策に関する研究、エビデンスに基づく生活習慣病対策のための臨床研究、さらには、近年注目が集まっているメタボリックシンドロームの有効な対策に資するエビデンス構築に関する研究や糖尿病にターゲットを絞った糖尿病戦略研究等を実施する。本研究事業は、生活習慣病対策について体系的かつ戦略的に進めていく総合研究事業である。
 個別分野には、1.健康づくりに関する研究分野、2.疾病の早期発見と対策に関する研究分野、3.生活習慣病研究分野等があり、この他、身体活動・運動の科学的知見の収集に関する研究として、若手研究者育成型の研究を、糖尿病に関しては、戦略的な長期大規模介入研究を実施する。

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
1,000 829 1,298 2,177 (未確定値)
 H17,H16年度は循環器疾患等総合研究事業の全額
 H15,H14年度は効果的医療技術の確立推進臨床研究事業(心筋梗塞分野及び脳卒中生活習慣病分野)の金額。(推進事業・若手医師協力者活用等に要する研究経費は計上していない。)

(3)趣旨
1)これまでの研究事業の成果(継続の場合) 健康科学総合研究事業においては、健康の維持・増進である一次予防(栄養・食生活、身体活動・運動、たばこ、アルコール等対策)と二次予防(疾病の早期発見・対策)に関する研究を実施してきた。これらは、健康増進法を基盤とする国民の健康の増進に必要不可欠な研究であり、集積された科学的知見は健康づくりを進めるための検討会等において活用されるなど、今後の施策に活用可能な多くの研究成果を得ることができた。
 他方、循環器疾患等総合研究事業においては、循環器疾患、糖尿病等の生活習慣病の診断、治療等に関する研究を実施し、大きな研究目的毎に全国規模の臨床研究体制が整い、大規模多施設共同研究による日本人における糖尿病と生活習慣の関係や合併症に関する新たな知見、また本邦初の大規模無作為割付試験により低リスク狭心症に対する治療法の確立に資するエビデンスの収集に成功している。
2)残されている課題
 これまでは、生活習慣病対策のための研究が別の事業で実施され、体系的かつ戦略的に研究が進められていない状況にあった。また、近年脳卒中、心筋梗塞等の発症リスクが非常に高まることが指摘されているメタボリックシンドロームに注目が集まっているが、日本人におけるこれらの実態が明らかになっておらず、メタボリックシンドロームの実態把握や、その有効な対策に資するエビデンスの構築等が今後の大きな課題である。
3)今後この事業で見込まれる成果
 生活習慣病に関する研究を総合的に実施する『循環器疾患等生活習慣病対策総合研究(仮称)』を創設することにより、一次予防から診断・治療に至るまで、体系的・網羅的に実施することが可能になる。
 一次予防分野においては、食環境整備等の食育の推進に資する成果、身体活動・運動と栄養の対策にとって必要となるエビデンスの構築が期待される。二次予防分野においては、健康診査等の保健サービスの質の向上に資する研究を進めており、その成果として保健サービスの質が向上することが期待される。
 心疾患、脳血管疾患等の循環器疾患の分野について、生活習慣等の発症要因の解明や実態把握に関する研究、テーラメイド治療の確立や注目を集めるメタボリックシンドローム対策に必要な科学的知見の収集が期待され、特に糖尿病については糖尿病戦略研究の推進によりエビデンスに基づく糖尿病の発症、合併症予防に資する研究成果が期待できる。

2.評価結果
(1)必要性
 経済財政諮問会議における「日本21世紀ビジョン」では、健康維持と病気の予防に重点が置かれた社会を目指すことが示され、また中長期的な医療費適正化に向けた積極的な生活習慣病対策の確立は、今後の社会保障施策にとっての喫緊の課題である。さらに、厚生労働省が推進している健康フロンティア戦略における生活習慣病対策が本格実施され、今後ますます健康増進による生活習慣病対策が重要である。
(2)効率性
 これまで、個別に行われてきた生活習慣病に関する研究を体系的に実施することにより効率的な研究の実施が期待できる。また、今後は若手研究者の育成や健康フロンティア戦略の目標達成に資する研究を実施することとしており、社会的貢献及び医療費適正化による経済的貢献が期待される。
(3)有効性
 本研究事業の実施にあたっては、基礎・臨床・社会医学の専門家による事前評価を行った上で採択を決定することとしている。また、中間評価及び事後評価により研究の継続の必要性が評価されることとなっており、客観的かつ公正な事業実施が期待される。また、今後は生活習慣病に関する研究を体系的に実施することにより、より有効な研究成果が期待できる。
(4)計画性
 研究計画期間は原則3年間とし、毎年中間評価を実施することにより効率的な研究が実施されることとしている。また、戦略研究では、研究目標とプロトコールを事前に検討する等本事業では計画的な研究事業を実施している。
(5)その他
 総合科学技術会議の平成18年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分方針においては、重点4分野のライフサイエンスにおいて生活習慣病等の疾病の予防・診断・治療に向けた研究を推進するとされている。

3.総合評価
 今後、一次予防から診断・治療に至るまで生活習慣病対策に係る研究を体系的に実施することは、生活習慣病対策の推進に資するものであり、「日本21世紀ビジョン」における健康維持と病気の予防に重点が置かれた社会を目指し、今後の社会保障施策にとっての喫緊の課題に対応するためには必要不可欠である。また、生活習慣病対策においては特に近年注目を集めているメタボリックシンドロームや糖尿病等についての研究を戦略的に実施する必要もある。
 厚生労働省が実施している健康フロンティア戦略の目標を達成するためにも今後とも本事業を推進していくことが必要である。

4.参考(概要図)
図


9)障害関連研究事業

事務事業名 障害関連研究経費
担当部局・課主管課 障害保健福祉部
関係課 大臣官房厚生科学課、障害保健福祉部障害福祉課、精神保健福祉課

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 健康安心の推進
施策目標 障害・難病等のQOLの向上
実現目標 障害者の自立を支援する手法の開発

(2)事務事業の概要
事業内容(
新規
・一部新規)
 今国会に提出している障害者自立支援法案に基づき、「自立と共生の地域社会づくり」をキーワードとして大きく転換しつつある障害者施策の推進の基礎として、(1)障害保健福祉施策の推進のための社会基盤づくり、(2)障害者のケアマネジマント手法の確立、(3)身体障害の予防、治療方法や在宅介護・介助等の支援技術、(4)知的障害者の地域福祉、医療、社会参加、(5)精神障害者の社会復帰、在宅福祉、就労支援、(6)発達障害に対する発達支援、社会参加支援システムに関する研究、(7)高次脳機能障害に対するリハビリテーション、社会参加支援システムに関する研究、(8)再生医療を応用したリハビリテーション技法及び支援機器開発に関する研究を推進する。
 また、視覚、聴覚・平衡覚等の感覚機能の障害について、その病態解明、予防、治療、リハビリテーション、生活支援等に関する研究を推進する。
 これらの実施にあたっては、行政上重要な課題を示して研究を公募し、専門家・行政官による事前評価の結果に基づき採択を行う。研究進捗状況についても適宜評価を加えるととともに、研究の成果は随時適切に行政施策に反映させる。

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
(383*1
(680*2
(337*1
(585*2
(312*1
(542*2
(306*1
(542*2
(未確定値)
 *1 障害保健福祉総合研究分(推進事業費を含む)
 障害保健福祉総合研究事業は、平成14年度より一部「こころの健康科学」に移行した。
 *2 感覚器障害研究分(推進事業費を含む)

(3)趣旨
(1)施策の必要性と国が関与する理由
 平成15年度からの新障害者基本計画、新障害者プランに基づく施策の開始、措置から契約(支援費制度)への移行など、わが国の障害者施策については、施設処遇を中心とした体系から、地域での自立した生活を支援することを基本にした体系への転換が急速に進み、さらに今国会に提出している障害者自立支援法案に基づく障害者保健福祉施策の見直しに臨み、利用者の自己選択に基づく、ニーズに対応した総合的な支援体制の構築が急務となっている。また、自立支援のための就労対策、住まい対策などの充実・推進、従来のいわゆる三障害の枠組のみでは十分な対応が難しい発達障害や高次脳機能障害への対応など総合的な取組が求められている。さらにこれらの取組を進めるにあたっては、障害全般、とりわけ精神障害に関する正しい知識の普及・啓発をすすめ、広く国民の理解を増すことが必須である。
 また、高齢化社会の中で感覚器障害はますます重要性を増しており、特に糖尿病性網膜症、緑内障、突発性難聴等への対応が急務となっている。
 障害者の予防、治療、リハビリテーション、ケアマネジメントに基づく在宅福祉サービスの各般にわたる基盤整備などのためには、施策立案の基礎的資料収集や実態把握、具体的な支援手法の開発等を総合的体系的に進める必要がある。また、障害者施策に関する調査や研究は、民間による自発的な取組を待つのみでは十分な成果が期待できにくい課題であり、国として研究に取組むことが不可欠である。

(2)他省との連携
 人工視覚に関する研究では、主として工学的研究を担う経済産業省と主として臨床的研究を進める厚生労働省との連携のもとに、その推進を図っている。

(3)期待される成果、波及効果、主な成果と目標達成度
<障害保健福祉総合研究>
(障害の正しい理解と社会参加の促進方策)
障害者のエンパワメント向上のためのスポーツ活動への参加および自立基盤づくりの評価に関する支援研究
 自閉症児などの障害者に対する水泳教室の実践を行うとともに障害者ネットワークを立ち上げ、全国の障害者組織の活動に関するHPによる情報公開を可能とした。
障害者のエンパワメントの視点と生活モデルに基づく、具体的な地域生活支援技術に関する研究
 研究成果は、相談支援事業者による「自立支援プログラム」や施設における「地域移行プログラム」の質の向上に資する。
精神保健の健康教育に関する研究
 本研究成果の「心の健康教育」プログラムは無料で利用できるようにし、全国の中学・高校での実施に資するものとする。
精神疾患の呼称変更の効果に関する研究
 統合失調症の名称の普及に関する調査を行い、様々な場面での普及に資する成果を得た
知的障害者の社会参加を妨げる要因の解明とその解決法開発に関する研究
 知的障害者健康生活支援ノートを作成し、知的障害者のご家族等への普及を図った。
(障害者の心身の状態等に基づく福祉サービスの必要性の判断基準の開発に関する研究)
国際生活機能分類(ICF)の活用のあり方に関する研究
 生活機能低下に関する普遍的な評価基準であるICFについて、中核的な活用法を提示し、高齢者の介護予防に関する施策に反映された
精神保健サービスの評価とモニタリングに関する研究
 地域等における精神保健サービスの評価指標等を開発し、社会保障審議会障害者部会の精神障害者分会等の資料として活用された
(適切な障害保健福祉サービスの提供体制に関する研究)
知的障害児(者)ガイドヘルプの支援技術に関する研究
 知的障害者の地域生活支援の重要な技法のひとつであるガイドヘルプについて、その位置づけや方法論を提示した。
 など、上記のとおり大きな成果をあげている。

<感覚器障害研究>
(感覚器障害の病態解明と研究基盤の整備に関する研究)
難聴遺伝子データベース構築と遺伝カウンセリングに関する研究
 日本人の難聴遺伝子のデータベースを確立し、「日本人難聴遺伝子データベースホームページ」を開設するとともに、難聴の遺伝カウンセリングのガイドラインの基礎を作成した
(検査法、治療法の開発)
難治性内眼炎の発症機序解明と新しい免疫治療に関する研究
 自己免疫性ぶどう膜炎の増強にMCP-1が関与することを発見するとともに、長期ぶどう膜炎患者に対し、ステロイド徐放剤のインプラント手術・硝子体内注入手術が炎症の軽快と視力向上に資することを確認した
強度近視における血管新生黄斑症の包括的治療法の確立
 これまで有効な治療法が確立されていない強度近視眼における血管新生黄斑症に対する光線力学療法の有効性を示した
ミトコンドリアDNA遺伝子変異による高頻度薬剤性難聴発症の回避に関する研究
 ミトコンドリアDNA1555A/G変異を簡易迅速に検出できるベッドサイド遺伝子診断法を開発した
(リハビリテーション技法の開発)
難聴が疑われた新生児の聴覚・言語獲得のための長期追跡研究
 新生児難聴スクリーニングで難聴が疑われた新生児の長期追跡研究を行い、早期発見早期教育が有意義であることを臨床疫学的に証明した。研究成果をもとに、単行本「新生児聴覚スクリーニングのすべて」を発刊し、全国の関係者への普及を図っている
などについて研究を進めており、複雑な感覚器障害の全容解明には、まだ多くの課題があるものの、病態解明、検査法、治療法の開発、支援機器の開発に着実な成果をあげている。

(4)前年度の総合科学技術会議および科学技術部会での評価に対する取組および事前・中間・事後評価での指摘事項と取組
 特記事項なし。

2.評価結果
(1)必要性
 障害保健福祉施策は、今国会に提出している障害者自立支援法のもと、大きな見直しの局面を迎えており、各種障害者施策を適切に推進することが重要な課題となっている。障害者基本計画においては、障害の有無にかかわらず国民が相互に尊重し支えあう共生社会の実現を基本的な考え方とし、その実現のための基本的方向を定めている。
 障害者の地域における自立した生活を支援する具体的な体制の検討は、モデルの提示などを含め、行政において主体的に進めることが適当である。また、これら課題への対応は、民間単独では取組みにくい分野でもあり、行政的に推進する必要がある。このために行政上必要な研究事業について公募し、採択課題に対し補助金を交付し、その研究結果を施策に反映させることが必要である。
 また、特に精神障害者の社会復帰対策については、「心神喪失者等医療観察法案」の国会審議の過程で、施策の迅速・着実な展開と進捗状況の継続的な評価が求められているところであり、研究事業を着実に進めることが必要である。
(2)効率性
 障害関連研究は、障害保健福祉総合研究分野と感覚器障害研究分野があるが、効率的な実施体制をとり、有効な研究成果を得ていくこととしている。
 障害保健福祉総合研究においては、障害者の保健福祉施策の総合的な推進に有用な基礎的知見を得ることを目的としており、人文社会学的分野を含めた、行政ニーズに基づく研究課題を実施し成果をあげている。
 具体的には、
(障害の正しい理解と社会参加の促進方策)
障害者のエンパワメント向上のためのスポーツ活動への参加および自立基盤づくりの評価に関する支援研究
 自閉症児などの障害者に対する水泳教室の実践を行うとともに障害者ネットワークを立ち上げ、全国の障害者組織の活動に関するHPによる情報公開を可能とした。
障害者のエンパワメントの視点と生活モデルに基づく、具体的な地域生活支援技術に関する研究
 研究成果は、相談支援事業者による「自立支援プログラム」や施設における「地域移行プログラム」の質の向上に資する。
精神保健の健康教育に関する研究
 本研究成果の「心の健康教育」プログラムは無料で利用できるようにし、全国の中学・高校での実施に資するものとする。
精神疾患の呼称変更の効果に関する研究
 統合失調症の名称の普及に関する調査を行い、様々な場面での普及に資する成果を得た
知的障害者の社会参加を妨げる要因の解明とその解決法開発に関する研究
 知的障害者健康生活支援ノートを作成し、知的障害者のご家族等への普及を図った。
(障害者の心身の状態等に基づく福祉サービスの必要性の判断基準の開発に関する研究)
国際生活機能分類(ICF)の活用のあり方に関する研究
 生活機能低下に関する普遍的な評価基準であるICFについて、中核的な活用法を提示し、高齢者の介護予防に関する施策に反映された
精神保健サービスの評価とモニタリングに関する研究
 地域等における精神保健サービスの評価指標等を開発し、社会保障審議会障害者部会の精神障害者分会等の資料として活用された
(適切な障害保健福祉サービスの提供体制に関する研究)
知的障害児(者)ガイドヘルプの支援技術に関する研究
知的障害者の地域生活支援の重要な技法のひとつであるガイドヘルプについて、その位置づけや方法論を提示した。
等の成果を得た。
 一方、感覚器障害研究では、感覚器障害の病態解明から障害の除去・軽減のための治療およびリハビリテーション、支援機器開発まで、総合的な研究事業として実施している。
 具体的には、
(感覚器障害の病態解明と研究基盤の整備に関する研究)
難聴遺伝子データベース構築と遺伝カウンセリングに関する研究
 日本人の難聴遺伝子のデータベースを確立し、「日本人難聴遺伝子データベースホームページ」を開設するとともに、難聴の遺伝カウンセリングのガイドラインの基礎を作成した
(検査法、治療法の開発)
難治性内眼炎の発症機序解明と新しい免疫治療に関する研究
 自己免疫性ぶどう膜炎の増強にMCP-1が関与することを発見するとともに、長期ぶどう膜炎患者に対し、ステロイド徐放剤のインプラント手術・硝子体内注入手術が炎症の軽快と視力向上に資することを確認した
強度近視における血管新生黄斑症の包括的治療法の確立
 これまで有効な治療法が確立されていない強度近視眼における血管新生黄斑症に対する光線力学療法の有効性を示した
ミトコンドリアDNA遺伝子変異による高頻度薬剤性難聴発症の回避に関する研究
 ミトコンドリアDNA1555A/G変異を簡易迅速に検出できるベッドサイド遺伝子診断法を開発した
(リハビリテーション技法の開発)
難聴が疑われた新生児の聴覚・言語獲得のための長期追跡研究
 新生児難聴スクリーニングで難聴が疑われた新生児の長期追跡研究を行い、早期発見早期教育が有意義であることを臨床疫学的に証明した。研究成果をもとに、単行本「新生児聴覚スクリーニングのすべて」を発刊し、全国の関係者への普及を図っている、などの成果をあげている。
 これらの研究結果は随時行政施策に反映されるほか、診断、治療、支援技術の改善等を通じて、国民に還元されることとなる。
(3)有効性
 障害関連研究は、障害保健福祉総合研究分野と感覚器障害研究分野があるが、効率的な実施体制をとり、有効な研究成果を得ていくこととしている。
 具体的には、障害保健福祉総合研究、感覚器総合研究においては、行政的なニーズの把握に加え、学術的な観点からの意見を踏まえて公募課題を決定することとしている。また採択課題の決定にあたっては、行政的観点からの評価に加え、各分野の専門家による最新の研究動向を踏まえた評価結果(書面審査およびヒアリング)に基づき研究費を配分している。さらに、中間・事後評価(書面審査およびヒアリング)の実施等により、効率的・効果的な事業実施を行っている。
(4)計画性
 障害者の地域における自立した生活を支援する具体的な体制の検討は、行政において主体的に進めることが適当である。このために種々の施策ニーズに応じ、行政上必要な研究事業について公募し、採択課題に対し補助金を交付し、その研究結果を施策に反映させることが必要である。また、感覚器障害においては、高齢化が進む中で、QOLを著しく損なう感覚器障害の予防、治療、リハビリテーションは重要な課題である。特に、失明の原因として増加しているといわれる糖尿病性網膜症や緑内障、突発性難聴などに対する疫学的調査を含めた対策の樹立は急務である。
具体的には、障害保健福祉総合研究、感覚器障害研究においては、行政的なニーズの把握に加え、学術的な観点からの意見を踏まえて公募課題を決定することとしている。また採択課題の決定にあたっては、行政的観点からの評価に加え、各分野の専門家による最新の研究動向を踏まえた評価結果(書面審査およびヒアリング)に基づき研究費を配分している。さらに、中間・事後評価(書面審査およびヒアリング)の実施等により、効率的・効果的な事業実施を行うこととしている。
(5)その他
(1)  障害関連研究においては、行政ニーズに応じた優先度の高い課題を適切に選定して効率的に推進することが重要であり、公募課題の選定や研究の事前、中間、事後評価には、当該分野に広く深い学識経験を有する委員を委嘱して当たっていただいているところである。
(2)  平成14年12月の障害者基本計画においても、「研究開発の推進」が項立てされ、障害の予防、治療、障害者のQOLの向上等を推進するための研究開発の推進等を明記している。
(3)  心神喪失者(等)医療観察法の衆議院における修正により、次の附則が盛り込まれた。
 「政府は、この法律による医療の必要性の有無にかかわらず、精神障害者の地域生活の支援のため、精神障害者社会復帰施設の充実等精神保健福祉全般の水準の向上を図るものとする。」

3.総合評価
 障害関連研究は、障害者の保健福祉施策の総合的な推進のための基礎的な知見を得ることを目的とする障害保健福祉総合研究と、視覚、聴覚・平衡覚等の感覚器の障害について、その病態解明、予防、治療、リハビリテーション、生活支援等に関する研究を行う感覚器障害研究を総合的に実施している。
 ノーマライゼーション、リハビリテーションの理念のもと、障害者の地域生活を支援する体制づくりが喫緊の課題であるが、本研究事業の成果により基礎的な知見や資料の収集、科学的で普遍的な支援手法の開発等が進みつつある。また、障害関連研究は、医療、特にリハビリテーション医療、社会福祉、教育、保健、工学など多分野の協働と連携による研究が必要な分野であるが、本研究事業によりこれらの連携が進み、研究基盤が確立するとともに、新たな研究の方向性が生まれる効果も期待できる。このため、今後とも行政的に重要な課題を中心に、研究の一層の拡充が求められる。
 これまでの研究成果は、随時、行政施策に反映されてきており、障害者施策の充実に貢献してきている。
 障害関連研究は広い範囲を対象とするものであるから、施策に有効に還元できる課題を適切に選定して効率的に推進することが重要である。現在でも、行政的ニーズに学術的観点を加えて、公募課題の決定、応募された課題の事前評価と採択、中間・事後評価等を実施しているが、これらの評価システムをより有効に運営することが求められている。

4.参考(概要図)
図


10)エイズ・肝炎・新興再興感染症研究事業

10―1)エイズ対策研究
事務事業名 エイズ対策研究経費
担当部局・課主管課 健康局疾病対策課
関係課  

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 健康安全の確保
施策目標 新興・再興感染症対策等の充実
実現目標 エイズ・肝炎・新興再興感染症から国民を守るための研究の推進

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・一部新規)
(1)臨床分野
 日和見感染症に対する診断・治療開発、服薬アドヒアランスの向上、治療ガイドラインの作成。HIV感染母胎からの垂直感染防止。
(2)基礎分野
 エイズの病態解析、薬剤の効果や副作用に関わる宿主因子の遺伝子多型等に伴う生体防御機構の研究、抗HIV薬・ワクチン等の開発。
(3)社会医学
 個別施策層(青少年、同性愛者、外国人、性風俗従事・利用者)別の介入方法の開発やエイズ予防対策におけるNGO等の関連機関の連携。検査体制の構築に関する研究。
(4)疫学
 薬剤耐性ウイルスに対するサーベランス体制確立の研究、青少年への科学的根拠に基づいた性教育による行動変容手法の開発、アジア諸国の発生動向の調査。

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
1,763 1,755 1,799 1,817 (未確定値)

(3)趣旨
1)これまでの研究事業の成果(継続の場合)
 新たな機序による抗HIV治療薬の発見に寄与し、現在米国に於いて治験を実施している。また、HIV感染予防の観点からは、MSM,青少年に対する介入方法がいくつかのモデル地域において効果を示している。
2)残されている課題
 国内におけるHIV感染者及びエイズ患者の報告は、増加し続けており(平成16年のHIV感染者報告数は780件、エイズ患者報告数は385件)、数の規模は小さいとはいえ、この傾向は他の先進国と比較しても憂慮すべき状況といえる。継続して、個別施策層に応じた予防法の開発、および感染者・患者の治療・社会環境の分析・改善に係る研究が必要である。
3)今後この事業で見込まれる成果
 エイズの予防手法や検査法、治療法に関しては未だ確立したものはなく、かつ世界的に見ても日進月歩の分野であるため、各国からの情報収集とともに日本に適したマニュアルの作成や普及啓発をとおして感染の蔓延を防止し、かつ感染者を免疫不全に陥らせない手法の開発をとおして、新規感染者の抑制やエイズ患者の治療・生活の支援方策の検討が可能である。

2.評価結果
(1)必要性
 エイズの予防手法や検査法、治療法に関しては未だ確立したものはなく、各国からの情報収集とともに日本に適したマニュアルの作成や普及啓発をとおして感染のまん延を防止し、かつ感染者を免疫不全に陥らせないようにするための研究の推進が必要である。さらに、HIV/エイズ患者を取り巻く社会的側面の研究も必要である。
(2)効率性
 HIV/エイズに関する基礎医学・臨床医学・社会医学・疫学が一体となっている研究事業であり、各主任研究者間の調整会議も実施し、一体化の利点を最大化すべく運営されている効率的事業といえる。
(3)有効性
 HIV/エイズ対策の目標は、予防法、治療法の開発である。エイズの予防に係る社会医学的研究については着実に効果が上がっている。また、治療法としても、新たな機序によるHIV治療薬の基礎となる研究成果や、免疫賦活を利用した治療法の開発、耐性ウィルスサーベイランスなど十分な成果が得られている。
(4)計画性
 現在求められている課題がほぼ網羅されており、特に、重要課題については重点的な取り組みがなされている。また、それぞれの研究課題は基本的には3年間で実施されているものであるが、評価委員会の評価に基づき、必要な場合には研究機関を短縮するなど効果的な実施が図られているところ。
(5)その他
<個別項目に関するご指摘・評価意見等><下記特記事項があれば記載ください>
→とくになし。

3.総合評価
 エイズ対策については、保健分野だけの問題ではなく、社会・政治・文化・経済・人権全ての分野に関わる重要課題であり、全世界で一丸となって対応すべき問題とされている。エイズに関する研究を推進することは、国内のみならず、我が国よりも更に深刻な状況に直面している開発途上国に対する支援にも結びつくものであり、他の先進諸国とも共同しながら、当該事業を積極的に推進する必要があると考える。

4.参考(概要図)
図


10―2)肝炎等克服緊急対策研究
事務事業名 肝炎等克服緊急対策研究経費
担当部局・課主管課 健康局結核感染症課
関係課 健康局総務課(生活習慣病対策室)、疾病対策課(臓器移植対策室)、医薬食品局血液対策課、食品安全部監視安全課、安全衛生部労働衛生課、雇用均等・児童家庭局母子保健課

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 健康安全の確保
施策目標 新興・再興感染症対策等の充実
実現目標 エイズ・肝炎・新興再興感染症から国民を守るための研究の推進

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・一部新規)
 肝炎ウイルスの病態及び感染機構の解明並びに肝炎、肝硬変、肝がん等の予防及び治療法の開発等を目的とする。

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
744 743 743 793 (未確定値)

(3)趣旨
1)これまでの研究事業の成果(継続の場合)
(1) 肝炎の治療効果予測のアルゴリズムを作成し、インターフェロンの投与量や種類などが治療効果に関与し、それぞれの属性を満たす集団の治癒率を算出した。
(2) 進行性肝細胞がんに対するインターフェロン化学療法のランダマイズド・コントロール・トライアルを開始するとともに、症例登録を行った。
(3) C型肝炎陽性妊婦からの出生児を追跡調査し、母子感染率を算定するとともに、HCVキャリア妊婦とその出生児の管理指導指針を策定した。
(4) 我が国のB型肝炎、C型肝炎キャリアの年齢別偏在の状況を明らかにした。
2)残されている課題
(1) C型肝炎ウイルス感染による長期の経過、予後の解明、透析施設、歯科診療、母子保健による感染など疫学的に解明すべき点が多い。
(2) 抗ウイルス剤、ペグインターフェロンなど新しい薬剤の実用化(保険診療として認可)を踏まえ、標準的な治療ガイドラインを普及していくことが求められる。
(3) 肝癌に至った症例に対する肝移植も含めた治療法の進歩も待たれる。
3)今後この事業で見込まれる成果
(1)肝がんの発生・進展の分子メカニズム及び早期診断法の開発
 年間3万人に及ぶ肝がん死亡者数の減少を目指し、(1)肝がん発症機構の解析による肝がん進展阻害剤の開発促進、(2)個々の患者に応じた効果的なテーラーメイド治療法の開発(適用薬剤等について、ガイドラインを作成)、(3)肝がんに対する肝移植も含めた治療法に関する研究を行う。
(2)肝炎の状況・長期予後の疫学像の解明
 C型肝炎ウイルスの感染による長期の経過、予後の解明、透析施設、歯科診療、母子感染の経過に関する疫学的研究を実施する。
(3)B型及びC型慢性肝炎の治療法・治療用ワクチンの開発
(1)C型肝炎ウイルスの複製機構の解明によるポリメラーゼ阻害剤の開発促進、(2)C型肝炎ウイルスの免疫回避と持続感染機構の解明による免疫賦活法及び治療用ワクチンの開発促進、(3)B型肝炎ウイルスに対する新たな母子感染予防法の多施設共同による前方視的臨床研究等を実施する。
(4)B型及びC型慢性肝炎の治療法の普及
 抗ウイルス剤、ペグインターフェロンなど新しい薬剤の実用化を踏まえた、治療用ガイドラインの普及に関する研究を実施する。
(5)肝炎研究の基盤となる培養細胞系及び動物実験系の確立
(1)HCVが効率よく感染、増殖する培養細胞系の確立、(2)チンパンジー以外の感染、増殖モデル動物実験系の確立、(3)トランスジェニックマウスによる肝疾患モデルの改良に向けた研究を実施する。

2.評価結果
(1)必要性
 「C型肝炎対策等に関する専門家会議」において、(1)C型肝炎ウイルス検査等の検査体制の充実、(2)効果的な治療法の普及、(3)新しい医薬品等の研究開発の一層の推進について検討がなされており、その報告書に沿った施策の推進のための研究を実施する必要がある。
(2)効率性
 C型慢性肝炎におけるペグインターフェロン・リバビリンの併用など、最も効果的でかつ経済的な治療法を確立し、情報提供を行うことによって、地域間、病院間の治療レベルの均てん化に貢献する等、投入された資源量に見合った効果が実際に得られている。
(3)有効性
 本研究によるC型慢性肝炎の治療法の標準化が行われたことにより、平成15年にペグインターフェロンα-2a製剤が保険適用され、平成16年にペグインターフェロンα-2bとリバビリンの併用療法が保険適用された。
(4)計画性
 C型肝炎のキャリアは全国に100万から200万人いると推定されており、本事業により、計画的に、発がん予防、肝硬変・肝がんの治療向上等を行っていくことには、大きな期待が寄せられている。

3.総合評価
 国民の健康の安心・安全の実現のための重要な研究であり、積極的に実施する必要がある。

4.参考(概要図)
図


10―3)新興・再興感染症研究
事務事業名 新興・再興感染症研究経費
担当部局・課主管課 健康局結核感染症課
関係課 大臣官房国際課、医政局指導課、研究開発振興課、健康局疾病対策課、医薬食品局血液対策課、食品安全部監視安全課、雇用均等・児童家庭局母子保健課

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 健康安全の確保
施策目標 新興・再興感染症対策等の充実
実現目標 エイズ・肝炎・新興再興感染症から国民を守るための研究の推進

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・一部新規)
 国内外の新興・再興感染症研究を推進し、その病原体、感染源、感染経路、感染力、発症機序について解明するとともに、迅速な診断法、治療法等の開発に取り組むなど、新興・再興感染症から国民の健康を守るために必要な施策を行うための研究成果を得ることを目的とする。

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
1,549 1,363 1,713 1,917 (未確定値)

(3)趣旨
1)これまでの研究事業の成果(継続の場合)
(1) SARSコロナウイルスの迅速診断法として、LAMP法を開発した。
(2) 鳥インフルワクチンの緊急開発、試験製造及び非臨床試験を実施した。
(3) 性感染症の全数調査データと発生動向調査データを比較し、罹患率の推定方法を開発し、性感染症特定指針、エイズ特定指針の見直しのため、全国自治体の調査を行った。
(4) リアルタイムRT−PCRによるノロウイルス定量法を確立した。
(5) 生物テロに使用される可能性の高い、天然痘、ペスト菌、炭疽菌、野兎病菌等の核酸迅速診断法を作製し、臨床、検査、治療についてマニュアルを作製した。
(6) 天然痘について、対応マニュアルを作製するとともに、シミュレーションを実施した。
2)残されている課題
(1) 鳥インフルや西ナイル熱など、アメリカ、ロシア、韓国からの渡り鳥等の野生動物が伝播する感染症について、関係機関が連携したネットワーク研究が必要である。
(2) 生物テロの原因となる病原体検出法の開発・普及と、バイオセキュリティに関する研究、病原体の保管法、輸送法、安全性の強化法、予防・治療法について、関係機関が連携した研究が必要である。
(3) アジア地域の感染症研究機関のネットワークを構築し、アジアの感染症対策として、鳥インフル、西ナイル熱、マラリア等の予防、診断、治療に関する研究が必要である。
(4) 性感染症対策のため、迅速診断法の開発を行うとともに、予防のためのスキルの向上に関する研究が必要である。
3)今後この事業で見込まれる成果
(1) 海外で発生した新興感染症に関する実地調査の迅速な実施
 ベトナムにおける鳥インフルの流行、国際保健規則(IHR)の改正を踏まえ、アジア地域の感染症研究所間のネットワークの構築と感染症対策連携システムの開発を行う。
(2) 生物テロ対策の確立
 病原性微生物の検出法の開発・普及とバイオセキュリティに関する研究や、その保管方法、輸送法、安全性の強化のためのバイオセーフティに関する研究を行う。
(3) 若年者における性感染症のまん延防止
 迅速かつ的確に検査結果が判明する検査・診断法を開発し、若年者の性感染症を早期に発見し、早期の治療に結び付けるためのモデル的研究を行う。
(4) 次世代ワクチンの開発
 生体の第一線のバリアである鼻腔、口腔における粘膜免疫機構を有効に応用した、次世代ワクチンとして期待される粘膜ワクチンの開発に向けた研究を行う。
(5) 新型インフルエンザ対策の確立
 新型インフルエンザ等の新興・再興感染症の発生・伝播モデルを開発し、感染症コントロール法の検証、科学的解析及び流行予測に関する研究を行う。
(6) 感染症リスクコミュニケーション手法の確立
 感染症、予防接種に関する情報伝達・広報の手法について研究を行う。
(7) 動物由来感染症のコントロール法の確立
 鳥インフル及び西ナイル熱等を媒介する渡り鳥の生態活動に着目したネットワーク研究や、食品由来感染症の感染源調査のための遺伝子解析データベース化を行う。

2.評価結果
(1)必要性
 今後も鳥インフル、SARS等に対するワクチンの開発や、動物由来感染症対策の確立等を目的とした研究が実施される予定であり、その成果に大きな期待が寄せられている。
(2)効率性
 生物テロに使用される可能性のある病原体の迅速診断法の開発や診断治療マニュアルの策定等、投入された資源量に見合った効果が実際に得られている。
(3)有効性
 鳥インフルに対するワクチンの試験製造、前臨床試験を実施し、新型インフルエンザ発生時のワクチンの大量生産と供給を可能にする基盤づくりを行った。
(4)計画性
 新型インフルエンザが発生したときに備えた行動計画を策定するなど、計画的に感染症研究を進めている。

3.総合評価
 SARSや鳥インフルのような新興・再興感染症による危険も増大しており、国民の関心も深い。国民の健康の安心・安全の実現のための重要な研究であり、積極的に実施する必要がある。

4.参考(概要図)
図


11)免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業

1.免疫アレルギー疾患予防・治療研究経費
事務事業名 免疫アレルギー疾患予防・治療研究経費
担当部局・課主管課 健康局疾病対策課
関係課 大臣官房厚生科学課

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 健康安心の推進
施策目標 免疫・アレルギー疾患の克服
実現目標 平成22年度までに免疫アレルギー疾患を適切に管理する方法の開発・普及

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・一部新規)
 花粉症、食物アレルギー、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、リウマチ等の免疫アレルギー疾患を有する患者は、国民の30%以上に上りますます増加傾向にあるとされている。また、一般的に免疫アレルギー疾患の病態は十分に解明されたとは言えず、根治的な治療法が確立されていないため、患者は長期的に生活の質(Quality of Life: QOL)の低下を招く。そこでこれらの病気にかかりやすい体質と生活環境等の関係を明らかにすることで、疾病の予防、診断、治療法に関する新規技術を開発するとともに、免疫アレルギーの診断・治療等臨床に係る科学的根拠を収集・分析する。

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
1,309 1,137 1,105 1,140 (未確定値)

(3)趣旨
1)これまでの研究事業の成果(継続の場合):最近の主な成果
(アレルギー疾患に関する研究)
 ・ 花粉症QOL調査を実施し、初期治療を花粉飛散後4週目までに行うと有意にQOLを改善させることがわかった。また、新しい治療法として舌下減感作療法の臨床試験を国内で初めての試みとして行い、その有効性を確認しつつあり、今後対象者の拡大や段階的投与量の決定等検討する必要がある。これら研究成果をもとに一般国民向けパンフレットを作成・普及し、花粉症に関する正しい情報の普及を図った。
(リウマチ等免疫疾患に関する研究)
 ・ 社会的に注目されている線維筋痛症(リウマチ性疾患の一つ)に関して疫学調査が実施され、欧米と同様に大都市で有病率が高く、また診断まで平均5年かかっている現状を示した。
(その他横断的な研究)
 ・ 免疫アレルギー疾患予防・治療研究に係る企画に関する研究として、花粉症関連医療関係者への相談窓口を開設し、FAQを研究班ホームページに掲載した。
2)残されている課題
 (アレルギー疾患に関する研究)
 ・ 舌下減感作療法等花粉症に関する根治的治療法の開発に関する研究
 ・ 減感作療法等根治的治療法の効能等改善のための、抗原に関する基盤研究
 ・ アレルギー疾患自己管理手法の確立(抗原特定手法開発・生活環境モニタリング手法の確立)
 ・ アレルギー診療の有効性・安全性評価のためのデータ収集に関する研究
(リウマチ等免疫疾患に関する研究)
 ・ 関節リウマチの克服に関する研究(発症危険因子を特定する手法の開発及び予防法の開発)
 ・ 関節リウマチの重症化防止のための治療プログラムの確立(免疫制御・骨破壊制御・軟骨破壊制御)
 ・ リウマチ診療の有効性・安全性評価のためのデータ収集に関する研究
(その他横断的な研究)
 ・ リウマチ・アレルギー疾患の創薬に関する研究
3)今後この事業で見込まれる成果
 ○  免疫アレルギー疾患克服に向けた総合研究(政策目標)
 免疫アレルギー反応の病態解明について文部科学省等における研究成果を活用し、免疫アレルギー疾患の増加の原因究明等とあわせて、根治的治療法開発を目的とした免疫アレルギー疾患の治療戦略に関する研究を総合的に実施する。
 特に平成17年春は花粉飛散量が多く、多くの国民が花粉症に悩み、花粉症の根治的治療法の開発が強く要望されたところである。厚生労働省においては、舌下減感作療法(舌裏面に花粉エキスを投与し、徐々に体質改善・根治を図る治療法。)について平成10年から研究を開始しており、早急に有効性・安全性を評価し普及することとしている。
 ○  慢性期医療管理の支援法の確立(実現目標)
 完全な予防法や根治的な治療法の確立・普及は現時点では限界があることから、慢性の経過をたどる免疫アレルギー疾患を適切に管理する方法の開発・普及を当面達成すべき平成22年度までの目標とする。
アレルギー疾患に関する研究)
 より確実で簡便な診断法の確立により患者がアレルギーの原因物質を日常生活の中で適切に管理できるよう、抗原管理手法の確立や早期診断法の確立に重点化を図る。
リウマチ疾患に関する研究)
 関節リウマチ重症化防止のための治療プログラムの確立により、患者が重症化に至らず活き活きと生活できるよう、早期診断・早期治療と悪化予防法の確立に重点化を図る。

2.評価結果
(1)必要性
 国民病である免疫アレルギー疾患は、悪化機序等は多くの要因が複雑に絡んで起こっているため、行政が、患者のQOLの向上を図るため、疾患の状況把握と診断・治療指針の整備に関する研究、疾患遺伝子等の技術を駆使した実践的な予防・治療法開発に関する研究等を重点的・効率的に行とともに、研究によって得られた最新知見を着実に、臨床の現場に反映し、より適切な医療の提供が実現されることを目指し、本分野の研究を着実に実施することが求められている。
(2)効率性
免疫アレルギー疾患の研究成果に関する情報提供媒体の効果的な連携等
 平成16年12月、厚生労働省ホームページに「リウマチ・アレルギー情報」サイトを開設し、研究班ホームページや関係学会ホームページのリンクを掲載するとともに、ガイドラインやパンフレット等研究成果をより効果的に提供できるよう、ホームページに掲載している。
リウマチ・アレルギー相談員養成研修会
 リウマチ・アレルギー疾患についての地域相談体制を整備するため、保健師等従事者を対象とした相談員の養成研修会を開催し、研究成果の積極的な還元を図っている。
平成17年花粉症対策及び関係省庁との連携による花粉症対策研究
 特に平成17年春は全国的に1,2位を争う多さの花粉が飛散すると予測されていたため、厚生労働省においては研究班の主任研究者等の協力を得、医療従事者向けQ&A集や地方自治体向け相談マニュアルの作成、シンポジウムの開催等を通じて、正しい情報に基づく花粉症の予防や早期治療の更なる徹底を進めた。また、平成2年から各省庁(厚労・文科・環境・農水・気象)で連絡会議を開催し適宜情報交換を行ってきたが、先般、総合科学技術会議のもとで、関係省庁における花粉症対策研究の総合的な推進について科学的観点から検討され、減感作療法、花粉症緩和米、ワクチンの研究開発に重点を置いて研究を推進すべきであると報告された。
(3)有効性
 免疫アレルギー疾患の予防・治療研究は社会より高い必要性、緊急性が求められているところであり、本研究をより戦略的に実施するために、明確な研究事業の目標設定、適切な研究評価及び効果的なフィードバックに努めているところである。また、研究期間は原則3年であり、研究課題の見直しに反映されるため事業の目的達成に対する有効性が高いと考えられる。
(4)計画性
 本研究においては、優先度の高い課題を適切に選定して効率的に推進することが重要である。現在でも、行政的なニーズに学術的な観点を加えて、公募課題を決定し、応募された課題の専門家、行政官による事前評価と採択、中間・事後評価等を実施している。
(5)その他
(2) 総合科学技術会議における「平成18年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」の中でも、本研究分野が重点事項(ライフサイエンス)に位置づけられた。
(4) 平成16年4月9日に閣議決定された「平成13年度決算に関する衆議院の決議(警告決議)について講じた措置」に位置づけられた。

3.総合評価
 花粉症、食物アレルギー、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、リウマチ等の免疫アレルギー疾患を有する患者は国民の30%以上に上り、ますます増加傾向にあるといわれている。また、一般的に免疫アレルギー疾患の病態は十分に解明されたとは言えず、根治的な治療法が確立されていないため、患者は長期的に生活の質(Quality of Life: QOL)の低下を招く。このような国民病である免疫アレルギー疾患に関して患者QOL等の実態を把握するとともに、予防・診断・治療に関する新規技術等の開発を進め、その成果を臨床現場に還元し、患者のQOLの向上を図ることは非常に重要で着実に実施するべきテーマである。
 特に、平成16年度は行政と研究者が連携し、研究成果を積極的に活用して一般国民や医療従事者等への普及啓発を実施した点が評価でき、国として進めるべき研究事業の体制が強化されたと考える。

4.参考(概要図)
図


12)こころの健康科学研究事業

事務事業名 こころの健康科学研究事業
担当部局・課主管課 障害保健福祉部企画課
関係課 大臣官房厚生科学課、健康局疾病対策課、障害保健福祉部精神保健福祉課

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 健康安心の推進
施策目標 生活習慣病対策とこころの健康の推進
実現目標
うつ病対策等による自殺率の低減
精神疾患の病態解明と画期的な治療法の開発

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・一部新規)
 近年、大きな問題となっている「自殺」「キレる子」「ひきこもり」等の心の健康問題、「統合失調症」「うつ病」等の精神疾患、「自閉症」「注意欠陥多動性障害」等の発達障害、「PTSD」「パニック障害」「睡眠障害」等のストレス性障害、「アルツハイマー病」「パーキンソン病」等の神経疾患に対し、最新の知見に基づいた予防法、治療法等の開発およびこれらを活用した適切な対応を進めるため、心の健康問題や精神疾患、神経疾患等に関して、疫学的調査によるデータの蓄積と解析を行い、心理・社会学的方法ならびに分子生物学的手法および画像診断技術等の最先端バイオ・メディカル技術等を活用し、病因・病態の解明、画期的な予防・診断・治療法等の研究開発等、最新の医学的知見を適切に施策に反映し、国民のニーズを踏まえた行政課題の解決に資する研究を推進する。
 特に重点分野として、
 @)自殺問題やうつ病対策を中心に、長期大規模疫学調査・介入研究等医学的・行政的なアプローチを10か年戦略をたてて進めることにより、その病因の究明及び治療方法の開発等を図る、(「こころのデケイド(10か年)」)
 A)いまだ難治性疾患である精神疾患、神経・筋疾患について、これまで不十分であった遺伝子解析・脳画像解析等による病因・病態解明を総合的に進め、細胞治療、遺伝子治療、創薬等のブレイクスルーとなる治療法の開発までの明確な道筋をつける、(「ニューロジーンプロジェクト」)
 ことを戦略的研究課題と位置づけるとともに、
 実施にあたっては、行政上重要な課題を公募し、行政面の評価に、専門家による学術 的観点からの評価を加えた、事前評価の結果に基づき採択を行う。研究進捗状況についても適宜評価を加えるととともに、研究の成果は随時適切に行政施策に反映させる。

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
2,142 1,898 1,624 2,037 (未確定値)
 注:平成14年度から「脳科学研究事業」「障害保健福祉総合研究(一部)」を再編・統合して発足した。予算額には推進事業費を含む。

(3)趣旨
(1)施策の必要性と国が関与する理由
 近年、高い水準で推移している自殺は、うつ病等の精神疾患と関連が深いと言われるが、高ストレス社会を反映してうつ病を含む気分障害の患者数は急増している。児童や思春期における「キレる子」「ひきこもり」や「PTSD」「パニック障害」「睡眠障害」等の社会的問題と関連の深い心の健康問題、「自閉症」「注意欠陥多動性障害」などの発達障害への対応も大きな課題となっている。
 また、「統合失調症」、「うつ病」等の精神疾患、「アルツハイマー病」「パーキンソン病」等の神経疾患は、難治かつQOLへの影響が大きく、国民の大きな健康問題となっている。
 しかし、これらの疾患は、一般の身体的な疾患に比べても、疫学調査等の心理・社会科学的手法、分子生物学的手法および画像診断技術等の最先端バイオ・メディカル技術等の活用が十分でない面もあり、画期的な予防・診断・治療法等の研究開発等が求められている。
 さらに、こころの健康問題については、家庭・職場・地域等におけるメンタルヘルスに着目した環境づくりや発症前のセルフチェック、こころの問題に対する正しい理解など、一次予防が重要である。
 こうした数々の課題に対しては、臨床的な観点からの戦略的な研究への取組が求められるとともに、職場や地域へ対する総合的な対策が必要であり、厚生労働省として研究事業を推進していく必要がある。

(2)他省との連携
 特記事項なし。

(3) 期待される成果、波及効果、主な成果と目標達成度
 平成16年度においては精神保健福祉分野では、
 ・重症精神障害者に対する、新たな訪問型の包括的地域生活支援サービス・システムの開発に関する研究(塚田班)
 →障害者自立支援法へ記載された。
 ・自殺多発地域における中高年の自殺予防を目的とした地域と医療機関の連携による大規模介入研究(酒井班)
 →リエゾンナース事業の取り組みが厚生労働省のうつ対応マニュアルに反映された。
 ・ゲノム医学を活用した統合失調症及び気分障害に対する個別化治療法の開発(染矢班)
 →統合失調症、及び気分障害について、薬物療法の治療反応性及び副作用の予測に、遺伝子多型が予測因子として有用である可能性を示した。この成果は海外誌に掲載され、国内外から大きな反応があった。
 ・感情障害の発症脆弱性素因に関する神経発達・神経新生的側面からの検討並びにその修復機序に関する分子生物学的研究(三國班)
 →感情障害の亜型の区別や重症度の評価に関する客観的検査指標を見出し、保険収載の申請中である。実施されれば18億円の医療費削減に繋がるという試算がある。
 ・ストレス性精神障害の予防と介入に携わる専門職のスキル向上とネットワーク構築に関する研究(加藤班)
 →専門職が業務をとおして受ける心理的影響を明らかにした。その成果は複数の消防本部において、惨事ストレス対策を推進する根拠となった。
 ・自閉症の原因解明と予防、治療法の開発―分子遺伝・環境・機能画像からのアプローチ―(加藤班)
 →脳画像研究で、高機能自閉症では社会性やコミュニケーションに関わる脳部位のネットワーク障害が存在することを明らかにした。研究成果については、当事者・家族を中心とする1000名規模の公開シンポジウムで発表を行い、当事者・家族の理解が得られた。
などの成果をあげている。
 また、神経分野については、
 ・選択的リンパ球吸着療法による免疫性神経筋疾患の治療に関する研究班
 → 本研究は、全血フロー系で標的となるCD4陽性T細胞を特異的に除去することで免疫調節を行うもので、今後、担体物質の最適化やリガンドの精製技術を改良することで自己反応T細胞または病因となる免疫担当細胞のより選択的な除去・補足による免疫調整技術を更に発展させることが可能である。これらの技術は世界に類をみないもので、全く独創的な研究である。
 ・ALS2分子病態解明とALS治療技術の開発に関する研究班
 →ALS2遺伝子における56ヶ所における遺伝子多型配列を新たに同定した。ALS2遺伝子産物であるALS2タンパク質が低分子量Gタンパク質Rab5の活性化因子であることを明らかにした。Als2遺伝子ノックアウトマウスの作出に成功した。神経変性疾患原因遺伝子の一つであるALS2の遺伝子産物機能を世界に先駆けて明らかにするとともに、Als2ノックアウトマウスの作出にも成功した本成果は国際誌に掲載され、国内外から大きな反響があった。
 ・発現型RNAiを用いた神経・筋疾患の画期的遺伝子治療法の開発に関する研究班
 →筋萎縮性側索硬化症の原因遺伝子、脳卒中の発症に係わる細胞接着因子の遺伝子などを効率よく抑制するsiRNAの作製に成功し、筋萎縮性側索硬化症の発症予防等を示した。効果的siRNAデザインシステムを開発しsiRNA発現ライブラリーを構築して、小胞体ストレス経路に係わる新規機能遺伝子を同定した。これらの業績はNature等に掲載され多くのメデイアにも取り上げられ国内外から非常に高い評価を受けている。
 ・細胞外マトリックスの異常による遺伝性筋疾患の病態解明と治療法に関する研究班
 →細胞外マトリックスは筋疾患にかかわらず、ガンや血管性疾患を始めあらゆる疾患において重要な役割をはたし、疾患の発症や進行の予防のターゲットである。本研究では細胞外マトリックスの筋の発生やその維持機構における重要性が示された。また、Schwartz-Jampel症候群(SJS)モデルマウスの作成と解析により新しいミオトニアの機構が示された。
 ・慢性頭痛の診療ガイドライン作成に関する研究班
 →診断と治療を包括した頭痛診療ガイドラインが作成された。エビデンスとして外国の成績のみでなく、本研究で臨床研究、評価試験が行われた結果、国内のエビデンスが追加された。本ガイドラインは、慢性頭痛の標準的治療を行う上に必須であり、頭痛医療を効率化する上で極めて重要な行政的意味をもつ。上記の他にも脳・神経疾患について
(1)原因遺伝子の単離し、その機能を解明する
(2)新たな治療を臨床に応用するなど、
脳機能の解明に基づいた、多くの画期的な成果が得られている。

2.評価結果
(1)必要性
 わが国の精神疾患による受療者は200万人を超え、また年間の自殺死亡者は3万人を超えている。また、思春期のひきこもり、問題行動など、心の問題と関連する社会問題もクローズアップされている。このように、「こころの健康問題」は、統合失調症等はもちろんのこと、うつ状態、神経症、摂食障害、ストレス性障害、睡眠障害、幼少期からの発達障害等、非常に広範かつ深刻な問題にまで及んできている。また高齢化の中で、アルツハイマー病等の神経疾患も重要になってきており、多くの神経・筋疾患は難病として依然、根本的な治療法が無い状態である。
 これらの問題の特性として、遺伝子解析・分子機構解明・画像解析等による脳内機構解明から、表現される行動面の評価、福祉を含む社会システムとの関連、倫理や人権上の問題までをも含む多角的、重層的な視野での取り組みが不可欠となってきている。
 これらのことから、「こころの健康問題」に対する予防、診断、治療法の開発や疫学調査などについて、行政において戦略的、主体的に進めることが適当である。このため、行政上必要な課題を公募し、採択課題に対して補助金を交付し、その研究結果を施策に反映させることが必要である。
(2)効率性
 こころの健康科学研究事業では、精神疾患、神経疾患の病因・病態の解明、遺伝子情報に基づく機能予測、疫学調査等を行うことにより、画期的な予防、診断、治療法等の研究開発を推進するとの目的に添った研究事業を実施しており、平成16年度においては、精神保健福祉分野では、
 ・重症精神障害者に対する、新たな訪問型の包括的地域生活支援サービス・システムの開発に関する研究(塚田班)
 ・自殺多発地域における中高年の自殺予防を目的とした地域と医療機関の連携による大規模介入研究(酒井班)
 ・ゲノム医学を活用した統合失調症及び気分障害に対する個別化治療法の開発(染矢班)
 ・感情障害の発症脆弱性素因に関する神経発達・神経新生的側面からの検討並びにその修復機序に関する分子生物学的研究(三國班)
 ・ストレス性精神障害の予防と介入に携わる専門職のスキル向上とネットワーク構築に関する研究(加藤寛班)
 ・自閉症の原因解明と予防、治療法の開発―分子遺伝・環境・機能画像からのアプローチ―(加藤進昌班)
などにおいて、その成果を行政施策の決定に活用した。
 また、神経分野については、
 ・こころの健康科学の神経分野の特色は、先端科学研究の成果を活用し、「脳」という側面から、神経・筋疾患の病態解明と治療法開発に関する研究を推進する点にある。このため、「こころ」に関係のある疾患を脳機能という観点で幅広く横断的に捉える(脳を守る)ことも可能であり、更には「脳を育てる」等の周辺研究分野の研究とも密接な繋がり持つ極めて応用範囲の広い研究分野である。
 ・このような中、こころの健康科学研究によって解明された神経・筋疾患の病態に基づき予防法や新しい治療の展望が開けており、神経疾患の医療の向上に資する大きな成果を挙げている。
 ・平成16年度に終了した6課題全体で、原著論文60件、特許8件、ガイドライン作成1件(慢性頭痛ガイドライン)その他の論文223件と多くの業績を挙げているとともに、シンポジウム等によって積極的な研究成果の活用も図られているところである。
 ・選択的リンパ球吸着療法による免疫性神経筋疾患の治療に関する研究やRNAiによる難病の遺伝子治療に関する研究等の新たな治療技術開発に関する研究が進行しており、画期的な治療法の開発という点においても更なる大きな成果が期待されるところである。
 ・今後も脳・神経疾患についてゲノム解析や分子生物学的手法を駆使して病因、病態の解明を進めるとともに、これらの成果を遺伝子治療再生治療に繋げるなどして、新しい治療の開発とその臨床応用を目指していく。
 これらの研究結果は随時行政施策に反映されるほか、診断、治療、支援技術の改善等を通じて、国民に還元されることとなる。
(3)有効性
 こころの健康科学研究事業では行政的なニーズの把握に加え、学術的な観点からの意見を踏まえて公募課題を決定することとしている。
 また採択課題の決定にあたっては、行政的観点からの評価に加え、各分野の専門家による最新の研究動向を踏まえた評価結果(書面審査およびヒアリング)に基づき研究費を配分している。さらに、中間・事後評価(書面審査およびヒアリング)の実施等により、効率的・効果的な事業実施を行っている。
(4)計画性
 こころの健康科学研究は広い範囲を対象とするものであるから、優先度の高い課題を適切に選定して効率的に推進することが重要である。現在でも、行政的なニーズに学術的な観点を加えて、公募課題を決定し、応募された課題の事前評価と採択、中間・事後評価等を実施している。
 特に今後の重点分野として、
 @)自殺問題やうつ病対策を中心に、長期大規模疫学調査・介入研究等医学的・行政的なアプローチを10か年戦略をたてて進めることにより、その病因の究明及び治療方法の開発等を図る、(「こころのデケイド(10か年)」)
 A)いまだ難治性疾患である精神疾患、神経・筋疾患について、これまで不十分であった遺伝子解析等による病態解明を総合的に進め、細胞治療、遺伝子治療、創薬等のブレイクスルーとなる治療法の開発までの明確な道筋をつける、(「ニューロジーンプロジェクト」)
 ことを戦略的研究課題と位置づけることとしている。
(5) その他
(1)こころの健康科学研究は広い範囲を対象とするものであるから、優先度の高い課題を適切に選定して効率的に推進することが重要であり、公募課題の選定や研究の事前、中間、事後評価には、当該分野に広く深い学識経験を有する委員を委嘱して当たっていただいているところである。
(2)平成14年12月の社会保障審議会障害者部会精神障害分会においても、本研究事業の活用による研究開発の推進を明記している。
(3)心神喪失者(等)医療観察法の衆議院における修正により、次の附則が盛り込まれた。「政府はこの法律の目的を達成するため、指定医療機関における医療が、最新の司法精神医学の知見を踏まえた専門的なものとなるよう、その水準の向上に努めるものとする」

3.総合評価
 精神疾患、神経疾患は、患者数が多く、また心身の深刻な障害の原因となりうることから、国民の健康問題として非常に重要なものとなっている。本研究事業は、これらの疾患について、疫学的調査によるデータの蓄積と解析を行い、心理・社会学的方法、分子生物学的手法および画像診断技術等の最先端バイオ・メディカル技術等を活用し、病因・病態の解明、画期的な予防・診断・治療法等の研究開発等を行うものとして、平成14年度から既存研究事業の発展的な再編のうえ発足したものである。
 これらの疾患の病態解明や診断治療法の開発は、一般の身体疾患に比べて、疫学調査等の心理・社会科学的手法、分子生物学的手法および画像診断技術等の最先端バイオ・メディカル技術等の活用が十分でない面もある。また、こころの健康科学の研究においては、これら最新の医学医療技術の活用のみならず、福祉を含む社会システムや倫理的課題までを視野に入れた学際的な取り組みも必要となるが、本研究事業の実施によりこれらの連携が進み、研究基盤が確立するとともに新たな研究分野の形成や発展も期待されるところである。このため、今後とも、うつ病や自殺対策、遺伝子解析に基づく画期的治療法の開発など行政的に重要な課題を中心に、研究の一層の拡充が求められる。
 これまでの研究成果は、学術的な成果として発表され、本分野の研究の進展に寄与しているのはもちろんのこと、随時、行政施策に反映され、こころの健康問題や精神疾患、神経・筋疾患対策の充実に貢献してきている。
 こころの健康科学研究は広い範囲を対象とするものであるから、優先度の高い課題を適切に選定して効率的に推進することが重要である。現在でも、行政的なニーズに学術的な観点を加えて、公募課題を決定し、応募された課題の事前評価と採択、中間・事後評価等を実施しているが、これらの評価システムをより有効に運営することが求められている。

4.参考(概要図)
図


13)難治性疾患克服研究事業

事務事業名 難治性疾患克服研究経費
担当部局・課主管課 健康局疾病対策課
関係課 大臣官房厚生科学課

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 健康安心の推進
施策目標 障害・難病等のQOLの向上
実現目標 難病患者のQOLの指標及び治療効果測定手法の確立

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・一部新規)
<事業内容を具体的に記載ください> 神経疾患、自己免疫疾患、先天性代謝疾患等の難治性疾患に対しては、昭和47年に策定された難病対策要綱に基づいて研究が進められ、一定の成果を上げてきたところであるが、依然、完治に至らない疾患等が存在する。
 平成15年度から、「難治性疾患克服研究」を創設し、根本的な治療法が確立しておらず、かつ後遺症を残すおそれが少なくない自己免疫疾患や神経疾患等の不可逆的変性を来す難治性疾患に対して、重点的・効率的に研究を行うことにより、病状の進行の阻止、機能回復・再生を目指した画期的な診断・治療法の開発を行い、患者の生活の質の向上を図っているところある。
 その一方で、その発症メカニズムや有効性の高い治療法について、十分に解明が進んでいるとはいえない難病が依然として存在しており、一層の研究の充実が求められている。
 このため、平成17年度は「難治性疾患克服研究」において、根本的な治療法が確立しておらず、かつ後遺症を残すおそれが少なくない自己免疫疾患や神経疾患等の不可逆的変性を来す難治性疾患に対して、他の分野の基盤開発研究を踏まえた臨床応用の展開をはかり、進行の阻止、機能回復・再生を目指した画期的な診断・治療法の開発を行うとともに、地域における難病患者のQOLの向上を図ることを目的として研究を推進する。
 また、特定疾患治療研究事業もあわせた事業評価を行い、新たな難治性疾患への対応についても検討を進めていく。
 こうした研究事業の基盤整備を進めるため、若手研究者育成活用事業、外国人研究者の招へい、外国への日本人研究者等の派遣及び研究成果等の啓発などの推進事業を実施する。

具体的には、
免疫、ゲノム、再生等他の基盤開発研究の成果を活用した新しい治療技術の開発
失われた機能を補完する機器の開発や心理的支援の開発
緊急性、治療法の開発レベル等を考慮した重点研究
新しく開発された治療技術の 臨床応用(安全性、有効性に関する評価)
等の研究を進め専門家、行政官による事前評価に基づき研究補助金を交付し、得られた成果を適切に医療や地域保健の現場に反映させる。

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
2,022(特定)
100(こども)
2,322(特定)
100(こども)
2,126 2,084 (未確定値)

(3)趣旨
<前年度の総合科学技術会議および科学技術部会での評価を参考にしてください>
1)これまでの研究事業の成果(継続の場合)

 特定疾患の診断・治療等臨床に係る科学的根拠を集積・分析し、医療に役立てることを目的に積極的に研究を推進している。また、重点研究等により見いだされた治療方法等を臨床調査研究において実用化につなげる等治療法の開発といった点において画期的な成果を得ている。

最近の主な成果(抜粋)
(原発性免疫不全症候群に関する調査研究班)
uracil-DNA glycosylase (UNG)の同定に貢献し、UNG遺伝子変異が高IgM症候群をもたらすことがNature Immunologyに掲載され、国内外から大きな反響があった。
(難治性血管炎に関する調査研究班)
 欧米に比べ我が国に多い顕微鏡的多発血管炎に限定した前向き臨床研究は世界初の試みである。病態と密接に関与する遺伝子を3種類同定した。
 世界に先駆けてBurger病に対する遺伝子治療の臨床応用実現に向けて大きく前進した。
 これらの解析を通して血管炎原因遺伝子の同定や血管炎発症機序のさらなる解明が期待される。
(自己免疫疾患に関する調査研究班)
 関節リウマチおよびSLEの発症に関与する新たな遺伝子が同定され、Nature Genetics,誌に発表され、またマスコミでも報道され社会的な反響をよんだ。
(プリオン病及び遅発性ウイルス感染に関する調査研究班)
 未だ発症機序も全く不明であるプリオン病の克服には正確な実態の把握が重要であるがそれが達成されつつあることが示され、この変異型CJD例により脳波上、MRI上の新知見が明らかとなり、2005年5月英国での国際サーベイランス会議で発表しWHOの基準の見直しが進んでいる。キナクリン/ペントサン治療は本邦で開発され英国での治験を指導するまでになっている。プリオン病の発症機序の解明も着実に進んでおり大きな貢献をしている。
 SSPEについても実態の把握が進み、疫学的危険因子や遺伝的危険因子、SSPE特有のゲノムが明らかとなり、リバビリンの治験も進んでいる。
 PMLについては発症機序解明で大きな進展があったのみならず、診断基準の作成等により全国的実態調査が進んだ。これらの成果は一流の学術誌に掲載され班会議にて発表されたのみならず、2004年にはPMLおよびプリオン病の国際会議を共催し全世界にむけて発信された。
(神経変性疾患に関する調査研究班)
 I.筋萎縮性側索硬化症(ALS)について
SOD2遺伝子導入トランスジェニック・マウス作成により発症機構の解明が進んだ(gain of function)。
世界で初めてトランスジェニック・ラットを作成し,大型動物による実験が可能になり,病態と治療薬の研究が進んだ。
孤発性ALSの脊髄運動ニューロンではグルタミン酸AMPA受容体GluR2RNAの編集率が正常対象と比較して有意に低下していることを発見した。
紀伊半島多発地の再調査により,高発生率の持続を確認した.更にグアムと同じパーキンソン痴呆複合(PDC)の存在を発見し,多くが家族性発症であることを確認した.
電気生理学的検査 Motor Unit Number Estimation (MUNE)を用いて,発症後の運動ニューロン活動量が測定できることを示した.
人工呼吸器装着後の患者の臨床徴候を長期間研究し,完全閉じ込め症候群(total locked-in : TLI)に至るALS臨床像の全経過を解明した.
新たに作成した臨床個人調査票を用いて我が国の患者の療養実態を明らかにした.
メチルコバラミン(ビタミンB12)の臨床効果を検証中である.
 II.パーキンソン病(PD)について
有用な鑑別診断法として,MIBG心筋シンチグラフィーの異常所見が発見された.
レビー小体出現剖検例の研究により,DLBとPDDの病理学的所見に本質的差異はないことが示された.
本研究班の分担研究者が中心になって,日本神経学会でPD治療ガイドラインが作成された(2002年).
定位脳手術の技術的改良(手術部位決定法,破壊か電気刺激か)が進んでいる.
MPTP投与PDモデルサルにおいて,アデノ随伴ウィルスベクターによるドパミン合成酵素遺伝子導入治療が成功した.
患者のQOLを決定する影響因子が解析され,それを利用した改善事項を提唱した.
(モヤモヤ病(ウィリス動脈輪閉塞症)関する調査研究班)
 不明な点が多かった本疾患の疫学像、病因・病態の解明に寄与した。また予後不良因子である再出血予防に関する治療指針確立の端緒となった。
(特発性心筋症に関する調査研究班)
 心筋症を細分化し、それぞれの診断基準を作成し、国際的な診断・治療のスタンダードを提供した。疫学的検討により予後を評価しようとした。病因の解析について、遺伝子解析や免疫学的解析を中心に検討し、新規の遺伝子や病態を数多く発見した。
(進行性腎障害に関する調査研究班)
 IgA腎症の全国疫学調査にて予後に影響するのは、高血圧、高度蛋白尿、腎生検での高度障害であった。IgA腎症予後不良群に対して、ステロイド薬・抗凝固薬・アンジオテンシン阻害薬による多剤併用療法の有効性が示唆された。MPO-ANCA型急速進行性糸球体腎炎に対するシクロフォスファミドパルス療法の有用性が示唆された。膜性腎症の予後調査について長期予後の点では、発症15年までは良好であるが、それ以降低下する傾向が明確となった。加齢以外にも悪化の要因があると考えられた。治療法別の予後解析では、ステロイド薬単独療法の有効性が示唆された。高血圧を有する多発性嚢胞腎症例に対し、カルシウム拮抗薬投与群に比較して、アンジオテンシン受容体拮抗薬投与群では、尿中蛋白排泄量やアルブミン排泄量を減少させることが明らかとなった。
(特定疾患の地域支援体制の構築に関する研究班)
 精神的支援体制
 身体的支援体制整備と並列して精神的・心理的サポート体制の必要性を研究した。 療養環境・生活支援・相談事業など特定モデル地域での成果を全国に普遍化する戦略を確立した。
 研究事業での成果は利用者の視点から検証し、今後の研究戦略、問題解決策として提言した。研究事業での成果を国の難病対策事業として普遍化、その進捗と効果について研究した。
 医療体制
 都道府県単位に難病医療ネットワークを構築してより円滑に専門医療を供給できる体制整備、拠点病院と協力病院の役割分担、個々の患者の長期支援に専門医師がより積極的に参画する意義、効果について研究、これらの支援体制整備の具体的な効果を実証できた。
(進行性腎障害に対する腎機能維持・回復療法に関する研究班)
 新規腎障害進行因子としてプロレニン・プロレニン受容体を同定し、新たなIgA腎症進行に関わる遺伝因子を同定した。腎臓の再生に、骨髄間葉系幹細胞および内皮前駆細胞が有用であることが初めて示されるとともにSall 1ファミリー、MTF-1などの分化誘導因子のクローニングを行った。
(筋萎縮性側索硬化症の病因・病態に関わる新規治療法の開発に関する研究班)
 変異SOD1特異的に結合するユビキチンライゲースを同定した。また数種の変異SOD1遺伝子導入トランスジェニックマウスを作製し、臨床病像との相関を明らかにした。さらには治療法の開発に応用するために髄腔内への薬剤投与が可能なトランスジェニックラットを作製し、新規治療法の開発を行った。(ウ)特に、ラットによるALSモデルを用いた新規治療法の開発手法に関しては国内外から大きな反響があった。

2)残されている課題
 「難治性疾患克服研究」における臨床調査研究と「特定疾患治療研究事業」が連携し、制度見直しによって改訂された新しい臨床調査個人票を駆使し、難病患者のQOL、介護の状況や障害の状況を詳細に解析することによって、行政施策の推進に大きく寄与してきたが、現時点においても、原因解明、治療法開発に至っていない疾病が存在することから、今後も、患者のQOLの向上も含めた難病研究を推進し、患者の期待に対応していく必要がある。

3)今後この事業で見込まれる成果
 本研究に関する成果としては、
特定疾患治療研究事業の対象疾患について、患者の療養状況を含む実態、診断・治療法の開発等に大きく寄与しており、これに基づく診断基準の改定・治療指針の改訂は、我が国の医療水準の向上につながっている。
潰瘍性大腸炎に対する遠心分離法を用いた白血球除去療法の開発し、高度先進医療として承認された。
研究成果である新しい治療法により、病気の軽快者も出ており、難病医療に貢献している。
現在でも、多くの難病患者が病院や在宅で療養しているが、「難病患者の心理サポートマニュアル」の作成・改訂や「難病相談・支援センター」の整備等を通じて、福祉施策が大きく進められており、医療福祉環境の向上に寄与している。
 また、特定疾患調査解析システムを導入することにより、単に疾患の症状、診断法、治療法のみならず、国内における疾患の動向を把握している。
今後は、免疫システムに関する分子生物学的研究の成果を活用した難治性自己免疫性疾患の治療法の開発、難病患者の日常生活支援のための研究等について効果的かつ効率的に研究の推進を図っていく。

2.評価結果
(1)必要性
 難治性かつ患者数が少ない疾患の病態の解明、治療法の開発を進めるためには、行政が、難病患者の臨床データを収集し研究者の英知を集めて、個別の疾患の克服を目指した研究を推進する必要がある。
 予後の著しい改善がみられない難病の対策を進めるためには、世界標準の診断法・治療法を確立し、病状の進行阻止を図ることが急務である。また、患者の生活の質(QOL)の向上についても積極的に研究を推進していく必要がある。また、現在、研究対象となっていない疾病についても、緊急性等を考慮して治療法の開発等を推進していくべきである。
 本事業は、疾患克服に関して行政上必要な研究課題について公募を行い、採択課題に対し補助金を交付し、その研究成果を施策に反映させるものであるため、事業全体を外部に委託することは困難であるが、事務的な手続きを外部へ委託することは可能である。また、補助金を受けた研究者が調査や資料の解析を外部に委託することは現状でも行っている。
(2)効率性
 本事業における目標が達成された場合、難病医療に関して、以下のことが期待される。

1. 多くの難病について標準的な診断・治療指針が示され、国内の多くの医療機関において、稀少性難病の早期診断・早期治療が可能となる。
2. 難病患者の地域における支援ネットワークが整備され、施設、在宅にかかわらず、必要なケアを受けることができる。
3. 有効的な治療法の見出せない難病についても、失われた機能を補完する機器の開発や心理的支援の開発が進み、生活の質を大幅に向上する。
4. 新薬の治験、細胞治療、遺伝子治療等についての臨床研究が大幅に進み、新たな治療法の開発が加速される。
5. 同時に、安全で副作用の少ない、患者個人に最適な治療法の選択が可能となる。
6. 発症メカニズムの解明が進んだ場合は、難病予防への道筋が示される可能性がある。

 このような研究とその成果に対する経済的な試算は困難であるが、難病患者にとって、治療成績の向上や社会参加はかけがえのないものであり、約50万人の患者にとって全体として大きな効果を有するものと考えられる。
(3)有効性
 難治性疾患克服研究事業においては、研究班を構成する研究者から幅広い情報、患者の臨床データが収集され、先端技術を駆使した適正な研究を効率的に進めることが可能である。また、積極的に他の基盤開発研究の成果を適切に活用し、効率的に事業が進められている。
 本研究事業の1研究課題あたりの金額は20,000千円―50,000千円程度であり、研究期間は3年程度を限度としている。評価方法についても外部の評価委員で構成される評価委員会(事前、中間事後)が、多角的な視点から評価を行い、その結果で研究費の配分が行われており、効率的に事業を進めている。
 近年の科学技術の進歩に対応した(ゲノム関連技術、再生医療、免疫メカニズム等に関する)診断・治療技術の開発や国内で開発された新しい治療法の実証的臨床研究を行うことによって、難治性疾患疾患の治療成績向上と治癒・寛解した患者の社会復帰の促進を図る研究であり、高い必要性、緊急性が求められており、また、限られた予算の中で効率的な研究課題の採択が行われている。また、研究期間は原則3年であり、研究課題の見直しに反映されるため事業の目的達成に対する有効性が高いと考えられる。
(4)計画性
 事前、中間事後評価委員会では、各研究成果の評価をもとに、今後の研究事業の在り方を含めた議論がなされており、本事業における研究課題の設定や研究の方向性につては、このような専門家の意見を踏まえた上で決定されている。
 また、本研究と特定疾患治療研究事業とが連携し計画的に難病の克服を進めるために、有識者による第3者機関である「特定疾患対策懇談会」を開催し、調整を図っている。
(5)その他
<個別項目に関するご指摘・評価意見等><下記特記事項があれば記載ください>
(1) 学識経験を有する者の知見の活用に関する事項、(2)各種政府決定との関係及び遵守状況、(3)総務省による行政評価・監視等の状況、(4)国会による決議等の状況(警告決議、付帯決議等)、(5)会計検査院による指摘

 平成14年8月に示された「厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会」の今後の難病対策の在り方に関する中間報告を踏まえ、事業を実施している。
 総合科学技術会議における、「17年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」の中でも、本研究の一分野が重点事項(ライフサイエンス)に位置づけられた。

3.総合評価
<当該事業を推進すべきかどうかが明確に分かるように、また、事業推進の際の注意事項がわかるように記述してください。>
 (新規治療法の開発)
 難治性疾患に対し、各疾患群別に国際標準の診断基準と治療方法の導入を図るための調査を行うとともに、対象を重点化し明確な目標を持った上で、ゲノム関連技術、再生医療等の革新的技術を基にした診断・治療法の開発と実証的臨床研究による実用化を目指す必要がある。
 (難病患者のQOLの向上)
 難病患者の生活の質の向上を図るため、難病相談支援センター等の難病患者を取り巻く社会基盤の効果的な活用方法に関する研究、患者の心理的カウンセリングに関する研究や難病患者が地域や家庭で生活する上で、有効的に患者とその家族の生活を支援するための用具や機器の開発等を実施する必要がある。
 (行政施策との関連)
 本事業では、疫学的手法や先進的な自然科学的手法により、特定疾患の診断基準作成を進めるなど、難病施策と密接な関係があり、行政的にも効果的な成果が期待できる。また、いわゆる「難病」については、特定疾患調査研究対象疾患以外にも様々な疾患が存在する。このような疾患の臨床像・疫学像等の実態を把握し、「難病」における特定疾患調査研究の位置づけを明らかにする必要があり、必要な研究に十分な費用が投入できる効率的な研究体制を構築していく必要がある。また、そのためには一刻も早く現在対象となっている難病の克服を進める必要がある。

4.参考(概要図)
図

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