<I.行政政策研究分野>

 行政政策研究分野は、「行政政策研究事業」と、「厚生労働科学特別研究事業」から構成されている(表2)。

表2.「行政政策研究分野」の概要
研究事業 研究領域
1)行政政策 1−1)政策科学推進
1−2)社会保障国際協力推進
1−3)国際危機管理ネートワーク強化
2)厚生労働科学特別研究


1)行政政策研究事業

1―1)政策科学推進研究
1―1−1)政策科学推進研究
事務事業名 政策科学推進研究経費(仮称)
担当部局・課主管課 政策統括官付政策評価官室
関係課  

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 行政政策研究分野における科学技術の振興
施策目標 厚生労働行政の基盤となる政策研究の推進
実現目標 少子・高齢・人口減少社会において持続可能な社会保障制度の構築

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・一部新規)
 少子高齢化の進展、人口減少社会の到来等社会保障を取り巻く状況が大きく変化する中、社会保障制度に対する国民の関心の高まりを踏まえ、人文・社会科学系を中心とした、年金、医療、福祉、人口問題等社会保障全般に関する研究等に取り組み、厚生労働行政施策の企画立案と施策の効率的推進、国民への成果還元に資することを目的としている事業。
A.一般公募型
 (1)少子高齢・人口減少社会における持続可能な社会保障制度の構築に関する研究
 (2)現在の社会保障制度改革に対する評価・分析に関する研究
 (3)地域における社会保障制度のあり方に関する研究
B.プロジェクト提案型
 (1)中長期に安定的な社会保障に関する研究
 (2)年齢や障害等にかかわらず安心して暮らせる社会保障に関する研究
C.若手育成型
 (1)持続可能で安定的な社会保障のための実践研究を推進する若手研究者の養成

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
919 809 766 659 (未確定値)

(3)趣旨
1)これまでの研究事業の成果(継続の場合)
 各研究課題が社会保障に関係する重要な問題を取り扱い、施策を直接所管する省内関係部局との連携を取り、研究成果を施策へ反映させている点においてその存在意義は大きい。
「医療と福祉の産業連関に関する分析研究」
社会保障分野(医療、介護・福祉等)産業に関し、その社会的・経済的影響を産業連関表を用いて分析。「社会保障在り方懇」等の厚生労働省提出基礎資料として使用。
「診断群分類を活用した医療サービスのコスト推計に関する研究」
平成18年診療報酬改定に向けて検討されているDPC(Diagnosis Procedure Combination)の拡大導入などを検討する際の必須資料。
「男性の育児休暇取得を促進する具体策に関する調査研究」
政府の少子化社会対策大綱等で、2014年までの10年間で男性育休収得率10%の目標が掲げられているが、その目標達成の障害となる要因を分析し、具体的対応策を提言。
など、政策を立案・実施する際の基礎資料として活用され、大きな成果を上げている。
2)残されている課題
 平成16年度の総合科学技術会議で、「行政的な関連が強い課題を対象としているため重要」との評価はなされているが、「効率性を上げるためには現在のシステムの改善が必要」「一貫したポリシーのもと、結果のチェックを十分に行う必要がある」との指摘を受けた。前者に対しては、研究費早期交付を行い研究者の利便に供し、事前、中間・中間評価委員会の早期開催によって、その結果を迅速に研究者にフィードバックし、次年度の研究計画に反映するように改善がなされた。後者に対しては、中間・事後評価委員会のより一層の適切な運営を図ると共に、終了課題について、国民的視点からの評価のため、その概要をプレスを通じて公表することを開始した。
3)今後この事業で見込まれる成果
 少子高齢・人口減少社会に対応できる持続可能な社会保障制度の構築が喫緊の課題となる中、現在及び将来の社会状況が社会保障に与える影響の分析、それを踏まえた今後の社会保障制度改革に資する基礎的な理論の整理・データの蓄積等により、施策に反映できる具体的な提言等が見込まれる。

2.評価結果
(1)必要性
 国民の最も関心の高い事項(「H14国民生活選考度調査」のニーズ分析等より)である社会保障関連施策の企画・立案に直結する当該研究事業を推進することは、国民のニーズに合致しており、国民の安心と生活の安定を支える持続可能な社会保障制度の構築に資する研究成果が期待できる本研究事業は、「社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術」として必要なものである。
(2)効率性
 公募課題は、省内関係部局と調整の下、真に施策に必要で緊急性の高いものが取り上げられており、さらに、有識者による学問的観点及び行政担当者による行政的観点をあわせた適切な事前評価・中間評価により、効率よく、優れた研究成果が導かれている。
(3)有効性
 公募課題決定、研究採択審査、研究実施の各段階において省内関係部局から意見を聴取する等、積極的な連携により、施策との関連の高い課題を優先的に実施している。また、長期的な視点で当該分野の若手人材を養成するため、平成18年度から若手育成型研究を導入することは非常に重要である。
(4)計画性
 本研究事業の研究課題は、短期の問題解決型と、長期的な施策立案を図る上での基礎資料を蓄積するものに二分でき、前者については喫緊の問題に対応する課題を選定し、後者については研究成果が活用される時期を見込んだ長期的視野による課題設定を行っている。また、中間評価により、必要に応じて研究内容の見直しや継続不可とすることで、研究費の計画的かつ有効な活用が図られている。
(5)その他
 第162回国会(H17.1.21)の小泉内閣総理大臣施政方針演説の中においても、国民の「安心」の確保の観点から、人口減少社会、少子高齢化の進展の中で、社会保障制度を持続可能なものとするため、一体的見直しのための早急な取り組みが強調されている。

3.総合評価
 多くの研究が喫緊の行政ニーズを反映しており、その成果が様々な分野の厚生労働行政に活用されている点で評価できる。さらに、中長期的観点に立った社会保障施策の検討を行う上で必要な基礎的な理論、データを蓄積する役割も担っており、本研究事業は社会・国民に支持され、その成果は現在の国民だけでなく、将来の国民にも還元されるものと評価できる。今後とも事業の充実が必要である。なお、今後の事業推進にあたり、研究成果のより積極的な周知広報の実施等に留意する必要がある。

4.参考(概要図)
図


1―1−2)統計情報総合研究(仮称)
事務事業名 統計情報総合研究経費(仮称)
担当部局・課主管課 大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課保健統計室
関係課  

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 行政政策研究分野における科学技術の振興
施策目標 厚生労働行政の基盤となる政策研究の推進
実現目標 政策決定及び評価の過程において活用される統計データの増加

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・一部新規)
 本研究事業は、厚生労働統計調査の流れ(データ収集処理→データ高度分析→情報発信)に沿って、以下の3本柱から構成されている。
厚生労働統計情報の高度処理システムの開発
統計調査の電子化、電算処理能力の向上等に対応した高度処理に関する基盤技術を開発する。
厚生労働統計の高度分析
厚生労働統計の高度分析の観点から新たな手法を開発する。
厚生労働統計情報の情報発信
国内外への情報発信能力を向上させ、統計情報の有用性を高める。

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
41百万 35百万 32百万 27百万 (未確定値)

(3)趣旨
 本研究事業で得られた研究成果は、当部が所管する各種の統計調査の充実・改善に有用であるとともに、既存統計調査の高度利用の推進にも貢献する内容となっており、事業目的を達成しているといえる。具体例を以下に示す。
当室所管の指定統計である患者調査の平成17年度の実施に当たっては本研究事業で考案された新しい層の設定や患者数の推計法の改良等を実施することにより、調査精度の向上を図ることが可能となった。
本研究事業で検討されたレコードリンケージは当室所管の各種調査間レコードリンケージの可能性を示した。その研究成果は患者調査・医療施設調査・受療行動調査間におけるレコードリンケージ実施に生かされている。
パネル調査分析システムの開発研究成果は現在統計情報部で実施している21世紀出生児縦断調査・21世紀成人者縦断調査の分析において活用が期待できる。

2.評価結果
(1)必要性
 各府省統計主管部局長等会議で検討された「統計行政の新たな展開方向(平成15年6月27日)」において、社会・経済の変化に対応した統計の整備、統計調査の効率的・円滑な実施、調査結果の利用拡大、国際協力の推進等が重要施策として位置づけられた。具体的には、より活用しやすいデータ提供のあり方、ジェンダー統計の整備や世帯機能の把握といった社会等の変化に対応した統計の整備、政策評価への統計活用等の推進、IT化に対応した調査・報告のあり方(オンライン調査・報告)、データリンケージなどの多面的利用方策の検討、国際比較可能性を高めるための基本的な情報の収集・共有化の推進等が課題となっている。これらの課題のいくつかについては、すでに本研究事業の研究成果を用いて推進されつつある。今後も、これらに沿った方向で研究課題の設定を行い、研究成果の行政施策への展開を図るとともに、その他の課題についても対応を行っていく必要があると考えられる。
(2)効率性
 本研究は統計施策上、必要な課題が設定されており、本年度は新規3課題、継続3課題の計6課題(一課題あたり、4,118千円)を採択した。1課題あたりの金額は少ないものの、その成果は実際の統計調査に活用されており、その効率性は高いと考えられる。
(3)有効性
 本研究事業は、統計情報の高度利用の総合的推進という観点から、新規課題については毎年公募課題を設定し、事前評価委員会により評価を行っている。また、継続・終了課題については、中間・事後評価委員会により評価を行っている。評価委員会は専門委員、行政委員から構成され、それぞれ「専門的・学術的観点」及び「行政的観点」から評価を行っており、学術性、必要性・緊急性の高い課題が採択されている。
(4)計画性
 本研究はここ数年継続的に3つのテーマを設定し、その大枠の中で学術性、必要性、緊急性の高い課題を採択している。採択に当たっては評価委員会により研究者の能力、研究の計画・実施体制の妥当性、予想される成果等が評価されている。各委員のコメントは各研究者に書面でフィードバックされており、各研究者はそのコメントを元に研究計画の見直しが可能である。
(5)その他
 本研究事業は、統計調査自体の充実・改善、高度利用のみならず、統計調査結果の改善、高度利用を通じ、行政政策の企画・立案・評価に活用されるなどして省内の関係部局にも還元されうるという特徴があり、有用性の高い研究事業である。

3.総合評価
 本研究事業は、統計情報部所管の統計調査に実際に応用可能な研究成果が得られており、厚生労働行政の推進に資するという目的を達成している。また、論文執筆、学会発表、啓発等においても成果を挙げている。 今後の新規・継続課題についても、統計調査の更なる向上に寄与しうる成果が期待できると考えており、有用性の高い事業である。

4.参考(概要図)
図


1−2)社会保障国際協力推進研究領域
1−2−1)社会保障国際協力推進研究
事務事業名 社会保障国際協力推進研究経費
担当部局・課主管課 大臣官房国際課
関係課 政策統括官(社会保障担当)

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 行政政策研究分野における科学技術の振興
施策目標 厚生労働行政の基盤となる政策研究の推進
実現目標 主要ドナー国たる我が国の効果的・積極的な国際社会への参画

(2)事務事業の概要
事業内容(一部新規)
 現在、国際協力の推進体勢について世界的に大きな変革がみられ、世界エイズ・結核・マラリア対策基金やGAVI(Global Alliance for Vaccine Initiative)等、既存の国際機関や二国間協力の枠組みにとらわれない、NGOや民間基金といった市民社会がより深く参画する新たな官民協力(Public-Private Partnership)の形態が台頭し始めている。本研究は、こういった国際社会の新たな動きに対応することを目的としており、具体的には以下の研究を実施する。
多国間協力事業の進捗管理及び評価手法のあり方に関する研究
 ・例えばWHO関連パートナー(Stop TBやGAVI)、世界エイズ・結核・マラリア対策基金など、民間企業やNGOなどの市民社会が参画する事業を対象とする。
社会保障分野に関する国際協力の在り方に関する研究
 ・ 途上国の開発レベルに応じた、途上国への適切な社会保障システムの導入とその充実を図る。
我が国主導の新たな国際イニシアテブの開発に関する研究
 ・情報の収集、現状の分析した上で、国際社会に対して新たな視点の提案を行う。
国際機関の組織機構の改善に関する研究
 ・我が国の拠出金の有効的・効率的な活用を目的に、保健セクターのあるべき組織の姿について提案を行う。
国際的課題に対する歴史的変遷を踏まえた戦略的取組みに関する研究

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
57 49 45 39 (未確定値)

(3)趣旨
 我が国は、国際機関のメジャードナーとして、また、科学技術・社会保障政策先進国政府として、上記のような新しい枠組みをも含めた国際的な枠組みに対してどう対処すべきか積極的・戦略的な対応が求められている。そのためには、世界の現状についての情報の収集、現状の分析した上で、我が国主導で国際社会に対して新たな視点での提案を行う必要がある。

2.評価結果
(1)必要性
 9.11以降、世界的にODAが伸び、国際機関への分担金が増加する中、我が国のODA予算は減少傾向が続いている。限られたリソースの中で、より効果的・効率的な国際協力を実施し、我が国の貢献とプレゼンスを維持・強化する必要がある。そのため、当該事業による、効率的・効果的な社会安全保障分野に関する国際協力を実施していくための方策の研究は、目的として妥当性があると考える。
(2)効率性
 当該事業の実施により期待される成果は、我が国主導の効果的な国際協力の実施である。厚生労働科学研究費補助金の全体額41,964百万円(平成16年度予算額)の約0.1%の45百万円の予算により、社会安全保障分野の国際協力のニーズに応え、また国際機関への拠出金がさらに有効に活用されるということであれば、費用対効果があるのではないかと思われる。効果的な国際協力の実施により、開発途上国との友好関係の構築や国際協力による国際機関との信頼関係の樹立に役立つと考えられる。
(3)有効性
 当該事業は、効果的な国際協力の実施のために、効果的な国際協力推進システムの構築を事業の目的にしている。 その達成のため、これまでに、(1)社会保障に係る国際協力の状況分析に関する研究、(2)社会保障に係る国際協力の方法論に関する研究、(3)社会保障に係る国際協力の在り方に関する研究、等についての研究が実施され、社会保障協力に関する基本的な考え方に関する知見の集積が一定程度達成されたと考える。今後は、これまでの成果を踏まえ、更に国際協力を推進するための具体的な方策について、特に国際機関への提言を行うことを視野に本事業を推進する方針である。
(4)計画性
 国際協力の効果的実施に資する各種調査研究を実施することにより得た成果により、社会保障分野の国際協力の施策へ反映させる。今後の国際社会の変化に対応していくために、本研究は一定の規模において恒常的に実施していく。
(5)その他
 社会安全保障分野の開発途上国や国際機関に係る国際協力を所管する国際課が、より体系的、戦略的な国際協力を推進して行くために、当該事業の主管課であることは妥当であると考える。また、当該事業の研究を行ってきた大学や研究所等との協力により、今後適切な産学官の事業を推進する体制につなげることを期待している。
 省内の関係課は、政策統括官(社会保障担当)である。政策統括官(社会保障担当)の担当は、国内の社会保障政策の企画・立案、推進などである。今後は、我が国の社会安全保障分野の経験・知識を国際協力に役立てることからも、国際課と政策統括官(社会保障担当)の連携があってもよいのではないかと考える。
 また、外務省との連携についてこれまで行われてきたところが、今後はさらなる関係強化を図っていきたい。

3.総合評価
 感染症、栄養、災害等に加え、近年の人口の急速な高齢化、都市部への人口集中、疾病構造の変化などに伴い、医療保険年金、公衆衛生等を含めた広義の社会安全保障分野全体を視野におく国際協力は、メジャードナー国である我が国が、今後も積極的に取り組み、推進していかなければならない事業であると考える。
 当該事業を継続するに当たり、研究課題の新陳代謝を図り、また、その時々の政策課題に適時適切に対応するため、毎年、一定の新規課題が選択採択されるよう各研究課題の周期を調整していくことに留意する必要があると考えられる。

4.参考(概要図)
図


1−2−2)国際医学協力研究経費(仮称)
事務事業名 国際医学協力研究経費(仮称)
担当部局・課主管課 大臣官房厚生科学課
関係課 大臣官房国際課、健康局総務課生活習慣病対策室、疾病対策課、結核感染症課、医薬食品局食品安全部企画情報課検疫所業務管理室

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 行政政策研究分野における科学技術の振興
施策目標 厚生労働行政の基盤となる政策研究の推進
実現目標 主要ドナー国たる我が国の効果的・積極的な国際社会への参画

(2)事務事業の概要
事業内容  昭和40年、佐藤総理大臣と米国ジョンソン大統領の共同声明に基づき、アジア地域にまん延している疾病に関し、日米両国が共同で研究を行うこととして、日米医学協力計画が発足した。現在、結核、ハンセン、コレラ、エイズ、肝炎等の10の専門部会を設置し、それぞれの専門部会において取り組むべき課題について日米共同でガイドラインを策定し、これに基づき両国において研究を行っている。

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
177 190 171 167 (未確定値)

(3)趣旨
1) これまでの研究事業の成果
 アジア地域でまん延しているB型肝炎のワクチンの開発など、アジアでまん延している感染症などの疾病の機序解明、予防等に貢献してきた。
2) 残されている課題
 生活習慣病やエイズ感染者の増加など我が国においても対策が必要な疾病や、新興再興感染症や寄生虫疾患など我が国で発生していないもののアジア地域では問題となっている疾病などについて、病因や機序の解明、発生の減少及び克服のため今後取り組むべき課題は多い。
3) 今後この事業で見込まれる成果
 疾病の克服につながる予防法、治療法などの開発及び共同研究を通じたアジア地域の研究者の育成。

2.評価結果
(1)必要性
 日米医学協力計画は、昭和40年佐藤総理大臣及び米国ジョンソン大統領の共同声明に基づく閣議了解により発足された協力計画であり、この40年間、我が国と米国が共同でアジア地域の疾病の研究を行うことにより、我が国を含むアジア地域の保健医療の向上に貢献するとともに、米国と共同研究を行うことにより我が国の研究者の育成にも寄与してきた。我が国はアジアの牽引役として、今後ともアジア地域を中心とした医学の進展に貢献していく必要があり、当該事業は我が国の国際貢献の一つとして機能するものである。
(2)効率性
 疾病の予防及び治療につながるワクチンの開発や、サーベイランスシステムが不十分な国において、これまで不明であった感染源の分布が疫学調査の結果判明するなど、アジア諸国の保健衛生の向上に貢献してきた。本事業が取り組むべき課題が多岐にわたる中で、緊急性や重要性などに鑑み集中的に取り組むべき課題を抽出し、5カ年ごとに計画が策定されている。
(3)有効性
 各専門部会の研究内容や研究計画の進捗状況等について、日米両国の委員が第三者評価を行い、各専門部会に助言等行うことにより、効果的な研究体制の構築が図られている。また、アジア地域の研究者と共同研究を行うことにより、研究者の育成及び現地の状況を反映した研究が実施されている。
(4)計画性
 日米医学協力委員会において、各専門部会が取り組むべき課題及び期待される成果について5年ごとの計画をガイドラインとして定め、日米両国の専門部会がこのガイドラインに従って研究計画を策定し、計画的に研究を推進している。
(5)その他
 当該事業は、閣議了解に基づく日米医学協力計画下において実施されるものである。

3.総合評価
 当該事業は、我が国の国際貢献として果たす役割も大きく、行政的意義は高い。また、米国の研究者と連携し研究活動がなされていることは我が国とっても有効かつ有益である。これまでの実績を踏まえ、より実用的な成果が得られるよう引き続き推進していく必要があると考える。

4.参考(概要図)
図


1−3)国際危機管理ネットワーク強化
1.国際健康危機管理ネットワーク強化研究経費
事務事業名 国際健康危機管理ネットワーク強化研究経費
担当部局・課主管課 大臣官房国際課
関係課 大臣官房厚生科学課、健康局結核感染症課、医薬食品局食品安全部
企画情報課検疫所業務管理室

(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 行政政策研究分野における科学技術の振興
施策目標 厚生労働行政の基盤となる政策研究の推進
実現目標 我が国を含めた国際的枠組みの強化、および人材育成・効果的活用

(2)事務事業の概要
事業内容(一部新規)
 エボラ出血熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)及び鳥インフルエンザの流行、更にバイオテロの勃発など、人に健康被害を与えうる事象に対して、国民の健康被害を最小限にするためには、国外からの情報等に基づく健康危機管理体制の強化が重要な課題であり、具体的には下記のような課題を設定する。
ネットワーク強化事業研究
NBC災害・テロへの対応・必要資材の開発と備蓄に関する研究
国際的な枠組みに対する我が国の効果的・主導的関わり方
人材育成・研究者間ネットワーク強化
国際的枠組に対する、我が国の効果的・主導的関わり方に関する研究
 研究の成果を、情報基盤整備及び健康危機管理人材養成に活用することにより、我が国の保健医療システムが強化され、国民の健康に対する不安が払拭され、安心・安全な社会の確保を目指す。

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
72(新) 72 (未確定値)

(3)趣旨
 近年の状況を踏まえ、国際社会において激動の動きがある。国際交通や経済に与える影響を最小限に抑えるべく、 WHOによる国際保健規則の改正(2005.5)、GOARN(世界警報リスポンスネットワーク)を通じた各国の迅速なアウトブレイク対応など、この分野における近年の世界の動きはめまぐるしいものがある。そういったで、国民の健康を守るためには、上記枠組み等を有効活用した上で、迅速な情報収集と、我が国がイニシアティブを持って活動できるリソースの確保・強化が喫緊の課題である。また、それを実現することで、国民の不安払拭につながるものである。

2.評価結果
(1)必要性
 感染症等流入、NBC災害、テロによる国民の健康被害の危機は、行政の保健医療分野を担当している厚生労働省が国民の健康被害を最小限にするため、早急に取り組まなければならない。
 SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ、エボラ出血熱等の新興感染症、更に甚大な被害が惹起され社会に与える影響の大きい核・生物・化学物質(NBC)による災害、国際テロ事案等、国際情勢の緊張が高まる中、国民の健康不安は増大する一方である。国内外におけるこれらの事象に起因する国民の健康被害を最小限にするためには、国外からの速やかな情報収集、国内における緊急対応などの健康危機管理体制の強化・充実が重要かつ緊急の課題である。
 国際的視点からも感染症拡大の防止のため、我が国の国際健康危機管理ネットワーク構築及び国際健康危機管理の人材養成マニュアルの作成の必要があると思われる。
 当該事業を実施することにより、国民の健康に対する不安を除去し、安心・安全な社会の確保をすることとなり、平成17年度の科学技術分野の「安心・安全な社会を構築するための科学技術の総合的・横断的な推進」に資する重点分野の研究事業となる、目的として妥当性を有する事業であると思われる。
(2)効率性
 当該事業の実施により期待される成果は、国民の健康に対する不安の除去、安心・安全な社会の確保である。厚生労働科学研究費補助金の全体額41,964百万円(平成16年度予算額)の約0.2%の95百万円の予算により、国民の健康に対する不安の除去、安心・安全な社会の確保という成果を得られるとすれば、予算額に見合う充分な効果があるのではないかと思われる。
 当該事業の研究成果により、感染症等流入による国民の健康被害の危機の国外情報の効果的かつ迅速な入手、活用が強化され、その結果国民全体に活用されるため、費用対効果は非常に高いものになると思われる。
 期待される科学的影響は、国際健康危機管理の人材養成マニュアルが作成されることにより、国際健康危機管理の専門家が養成され、また同専門家の技能が向上することが考えられる。
 経済的影響については、保健医療システムが強化され、安心・安全な社会が確保されれば、ビジネス、貿易、観光などの経済活動の促進がなされると考えられ、更に重要な ことは、万一感染症等流入による国民の健康被害の危機が発生した場合には、国際健康危機管理ネットワーク及び国際健康危機管理の人材養成マニュアルにより養成された専門家の対処により、経済へのマイナス効果を最小限にくい止めることができると考えられる。
 社会的影響については、国民の健康に対する不安の除去がなされることにより、安心・安全で快適な社会の構築に貢献できると考えられる。
(3)有効性
 本研究事業は、国際健康危機管理ネットワークに関する基本的な知見を集積すると同時に、国際ネットワーク強化、国際健康危機管理の人材養成マニュアル、NBCテロの初動体制マニュアルなど、具体的な成果物を入手することを目標においていることから、本計画は、無理のない、実現可能性の高いものである。
 当該事業経費(案)は、研究事業として、71百万円と、推進事業24百万円(外国への日本人研究者派遣事業経費(米国の国際機関等に2名6ヵ月派遣)と研究成果等普及啓発事業経費及び研究支援事業経費)の合計95百万円であり、厳しい財政状況の中で妥当な金額ではないかと思われる。
(4)計画性
 感染症等の発生動向の監視評価や国内外の情報収集と解明のための国際機関等とのネットワークのあり方や国際的な健康危機管理に必要な人材養成に関する各種調査研究、NBC災害、テロに関する初動体制の整備、および備蓄に関する研究を実施することにより得た成果により、国際健康危機管理ネットワーク強化の施策へ反映させる。
 今後の国際社会の変化に対応していくために、本研究は一定の規模において恒常的に実施していく。
(5)その他
 国際社会においては、WHO等国際機関を中心としたネットワークによって危機管理システムがすでに構築にされており、その観点から国際機関に係る事項などを所管する厚生労働省大臣官房国際課が、当該事業の主管課となることは、国際課が保健医療分野について、横断的に国際情報を一元管理できるため適当であると思われる。
 関係する省庁については、厚生労働省大臣官房国際課と外務省国際社会協力部専門機関課は、WHO等の国際機関に係る業務で連携があり、外務省からは主にWHO等に関わる在外公館等からの情報が厚生労働省に提供され、厚生労働省からは保健医療分野におけるWHOをはじめとした国際機関への意見等を外務省に提供している。厚生労働省大臣官房国際課は保健医療分野において、WHO等の国際機関に関する政策・戦略、作業計画、予算事業の対処方針(案)作成等を担当しており、外務省国際社会協力部専門機関課は国連のWHOをはじめとした専門機関などに関する外交政策を担当している。
 また、今後は文部科学省の「新興再興感染症研究ネットワーク」との有機的連携・協力が必要であると考えている。
 厚生労働省内においては、大臣官房厚生科学課、健康局結核感染症課、医薬局食品保健部企画課検疫所業務管理室が関係課であり、国際課がWHOなどから得た海外の感染症発生等の情報を関係課に提供するなどして、省内関係課と連携をとっている。
 なお、省内関係課の分担は次のとおりである。
 大臣官房厚生科学課は国内の健康危機管理への対処を担当。
 健康局結核感染症課は国内の結核その他の感染症(エイズを除く)の発生及び蔓延防止や港及び飛行場における検疫に関することを担当。
 医薬局食品保健部企画課検疫所業務管理室は船舶又は航空機等の衛生検査、検疫所に関することを担当。

3.総合評価
 SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ、エボラ出血熱等の新興感染症、更に甚大な被害が惹起され社会に与える影響の大きい核・生物・化学物質(NBC)による災害、国際テロ事案などに対して、国民の健康被害を最小限にすることは、厚生労働省が早急に取り組み、推進していかなければならない事業である。
 なお、厚生労働省内の大臣官房厚生科学課及び健康局結核感染症課並びに医薬局食品保健部企画課検疫所業務管理室と関連する事業であるため、省内での連携が重要であると考えられる。また、これまで以上に文部科学省、外務省、農林水産省との連携も必須である。
 また、国民の健康に直接関わる緊急性を要する分野であることから、研究成果をいかに迅速に厚生労働省の施策へ反映させ、実行していくかが重要であると考えられる。

4.参考(概要図)
図


(2)厚生労働科学特別研究事業

事務事業名 厚生労働科学特別研究経費
担当部局・課主管課 大臣官房厚生科学課

A.研究事業概要
(1)基本理念、施策目標、実現目標
基本理念 行政政策研究分野における科学技術の振興
施策目標 厚生労働行政の基盤となる政策研究の推進
実現目標 政策に直結し緊急性の高い研究の推進

(2)事務事業の概要(継続)
 厚生労働科学の新たな進展に資することを目的とする独創的な研究及び社会的要請の強い諸問題に対する先駆的な研究について実施する。新たな感染症の発生に対する緊急研究など、政策に直結し緊急性の高い研究が対象となる。平成16年度の研究には、スギヒラタケ中の有害成分の分析に関する研究、新潟県中越地震を踏まえた保健医療における対応・体制に関する調査研究、健康フロンティア戦略における科学的知見の集積に関する循環器疾患関連緊急調査研究、Webサイトを介しての複数の同時自殺の実態と予防に関する研究等があり、緊急性のある課題に対して行政施策と関連性ある成果が極めて効果的に出されている。

予算額(単位:百万円)
H14 H15 H16 H17 H18
382(研究費) 387(研究費) 352(研究費) 350(研究費) (未確定値)

(3)趣旨
 社会的要請の強い諸課題に関する必須もしくは先駆的な研究を支援して、当該課題を解決するための新たな科学的基盤を得ることを目的としている。厚生労働科学研究においては、新たな感染症の発生など、極めて緊急性が高く、社会的な要請の強い諸問題について研究を行う必要がある。各事業ごとの公募型の研究課題になじみにくく、社会的要請の高い研究課題について、研究を実施する必要がある場合がある。

B.評価結果
(1)必要性
 緊急性ある行政課題に対して科学的かつ迅速に対応することを目的として実施される重要な研究を支援するために、極めて必要性が高い。たとえば平成17年度から創設した新たな厚生労働科学研究の枠組みである戦略研究課題について、戦略的アウトカム研究策定に関する研究としてその枠組みと内容についての研究がなされ、成果は今年度の研究の基盤となっている。
(2)有効性
 研究事業の特性上、研究期間は1年以内であるが、きわめて必要性の高い研究課題に対して、有効な成果が輩出されており、事業の目的に対する達成度が高い。本研究事業について、「厚生労働省の科学研究開発評価に関する指針」を踏まえ、本研究事業に関する評価指針を策定し、専門家等により、適切に評価(事前評価・中間・事後評価)を実施している。
(3)計画性
 本研究事業は、緊急性が高い研究課題に対する研究経費であることから、具体的な目標を明示しつつ、推進体制の適切性、関係課との分担・連携、実施方法の妥当性等を、検討しながら採択しており、緊急性の高い研究経費ながら計画性を担保している。
(4)効率性
 たとえば平成16年度の研究には、スギヒラタケ中の有害成分の分析に関する研究において急性脳症多発事例の検討を行い今後の対策の方針の策定に寄与したこと、平成17年度に実施する大規模な戦略研究課題が効率的に着実な成果をあげるために、平成16年度の特別研究として研究計画を事前に策定し厚生科学審議会科学技術部会に報告したことなど、効率的に研究がなされている。
(5)その他
 特になし

C.総合評価
 厚生労働科学特別研究は、緊急性の高い課題について、極めて効果的に事業が実施されており、必要性も高い。新規に出てくる健康危機管理の緊急課題については、これまで通り迅速に対応する。健康機器管理担当職員の資質向上や保健医療・厚生科学研究事業の効率化等、常時実施する必要がある研究についても、着実に成果が出ており、継続の必要性が高い。
 今後とも、一層の予算確保に努めると共に、健康危機管理に関する継続的な情報収集等も含めた行政的に重要な研究を、適切に実施する体制とすることが望ましい。

4.参考(概要図)
図

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