「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」中間取りまとめ(抄)
(有期労働契約)


第5  有期労働契約

 有期労働契約をめぐる法律上の問題点
 有期労働契約の在り方については、平成15年に労働基準法の改正により有期労働契約期間の上限を延長した際に、衆参両院の附帯決議において、有期労働契約の在り方について検討を行い必要な措置を講ずべきことが指摘されている。これについては、改正法の施行状況も踏まえて更に検討が行われる必要があるが、有期労働契約をめぐる法律上の問題点は以下のように整理できると考えられる。

(1)  有期労働契約の効果と労働基準法第14条の関係
 有期労働契約については、(1)期間中は労働者はやむを得ない事由がない限り退職できないという効果、(2)期間中は使用者はやむを得ない事由がない限り労働者を解雇できないという効果、(3)期間の満了によって労働契約が終了するという効果の三つの効果がある(民法第626条第1項は、有期労働契約であっても5年経過後は(1)、(2)の効果を失わせることとしたものと考えられる。)。
 ここで、労働基準法第14条の立法趣旨は長期労働契約による人身拘束の弊害を排除するものであり、本来、(1)の効果についての規制であって他の二つの効果について規制しようとするものではないが、規定の上ではこれが明らかとなっていない。
 また、使用者が有期労働契約を締結する場合は、同条に抵触しない契約期間を定める契約を結びこれを反復更新するケースが多い。これに関して問題となる(3)の効果については、東芝柳町工場事件最高裁第一小法廷判決(昭和49年7月22日)において、一定の場合の雇止め(更新拒否)について「雇止めの効力の判断に当たっては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推すべきである」との判断が示されており、結果として期間の満了による労働契約の終了という有期労働契約の効果が制限されている。ただし、この判例法理については、雇止めが制限される場合の予測可能性が非常に低く、使用者が判例法理の適用を避けるために有期労働契約を更新しない等の行動を取っていることから、労働者にとって雇用機会が狭まっていると同時に使用者にとっても人材が有効に活用できず問題であるとの意見があった。

(2)  見直しの考え方
 上記(1)を踏まえ、労働基準法第14条の規定は、労働者の退職の制限((1)の効果)に対する規制であることを明確にすることが考えられる。
 次に、上記(3)の効果については、労働基準法で罰則をもって担保するまでの規定を設ける必要はないと考えられる。ただし、判例法理で一定の場合に雇止めが制限されており、その判断に当たっては契約の締結・更新の際の手続が考慮されている場合が多いことにかんがみ、予測可能性の向上を図るためにも、雇止めの効果については下記2(2)で述べる有期労働契約の手続と併せて検討することが適当である。
 上記(2)の効果については、労働者より有利な地位にある使用者が自らの解約権を制限する契約を結ぶことを規制する必要はないと考える。なお、契約期間中の解雇については下記3(3)において検討する。
 いずれにしても、上記については、労働者の退職の制限の実態や雇止めの実態など有期労働契約に関する実態を調査し、調査結果を踏まえて検討する必要がある。
 また、上記附帯決議において指摘されている「有期雇用とするべき理由の明示の義務化」や「正社員との均等待遇」についても、有期契約労働者に関する実態調査の結果等を踏まえて検討する必要がある。

 有期労働契約に関する手続
(1)  契約期間の書面による明示
 労働契約の期間に関する事項は、労働基準法第15条により使用者が労働契約の締結に際し書面で明示しなければならないこととされている。ここで、使用者が契約期間を書面で明示しなかったときの労働契約の法的性質については、これを期間の定めのない契約であるとみなす方向で検討することが適当である。

(2)  有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準
 平成15年の改正労働基準法に基づき制定された「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(厚生労働省告示)により、使用者は、有期労働契約の締結に際し更新の有無を明示しなければならず、更新する場合があると明示したときはその判断の基準を明示しなければならないこと、一定の有期労働契約を更新しない場合には、契約期間満了日の30日前までにその予告をしなければならないこと等が定められている。そこで、労働契約法制の観点からもこれらの手続を必要とすることとし、これを履行したことを雇止めの有効性の判断に当たっての考慮要素とすること等についても検討する必要がある。
 その際には、契約を更新することがあり得る旨が明示されていた場合には、有期契約労働者が年次有給休暇を取得するなどの正当な権利を行使したことを理由とする雇止めはできないこととする方向で検討することが適当である。
 ただし、この場合、使用者がこのような雇止めの制限を免れるために、実際には契約の更新を予定しているにもかかわらず更新をしない旨を明示しつつ実際には更新を繰り返すことや、有期契約労働者を長期間継続して雇用すること、中でも反復継続して更新を繰り返し、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状況や労働者が契約の更新を期待することに合理性が認められる状況となっていながら、最後の更新時のみ次回の更新はない旨を明示して雇止めをすることが考えられる。そこで、このような場合における対応についても検討する必要がある。

 有期労働契約に関する労働契約法制の在り方
 有期労働契約に関する労働契約法制の在り方については、基本的に期間の定めのない契約による労働者と同様に考えるべきものであるが、次の事項については特に留意する必要がある。

(1)  試行雇用契約
 試用を目的とする有期労働契約(試行雇用契約)は、企業が労働者の適性や業務遂行能力を見極めた上で本採用とするかどうかを決定することができ、また、労働者も自己の適性を見極められること等から、常用雇用につながる契機となって労使双方に利益をもたらすものとして近年活用されている。
 しかし、神戸弘陵学園事件最高裁第三小法廷判決(平成2年6月5日)において、試用的な雇用の期間について、期間の満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、期間の定めのない契約における試用期間であるとの判断が示されたことから、有期労働契約によって試用の機能を果たさせることがやりにくくなっているという問題が指摘されている。
 これについては、有期労働契約に関する手続として、上記2で検討したもののほかに、契約期間満了後に引き続き期間の定めのない契約を締結する可能性がある場合(有期労働契約が試用の目的を有する場合)にはその旨及び本採用の判断基準を併せて明示させることとして、試用の目的を有する(期間の定めのない契約を締結する可能性のある)有期労働契約の法律上の位置付けを明確にする方向で検討することが適当である。その際、期間の定めのない契約を締結する可能性がある旨を明示した場合には、有期契約労働者が正当な権利を行使したことを理由とする本採用の拒否はできないこととする方向で検討することが適当である。ここで、「本採用の拒否はできない」こととすることの法的効果については、損害賠償を認めることとするか、本採用されたものとみなすこととするか等、更に議論を深める必要がある。
 また、上記第2の2で述べたとおり期間の定めのない労働契約における試用期間に上限を定めることとした場合には、これとの均衡から試行雇用契約においても期間の上限を定めることが問題となり得るとの指摘があった。これについては、試行雇用契約は契約期間中の雇用が保障されることから試用期間と同一には論じられず、業務の専門性等により適格性判断の期間が長く必要である場合に対応するために、試行雇用契約については期間の上限を定めないこととすることについて引き続き検討することが適当である。なお、試行雇用契約についても、労働者の退職を制限する期間に対する労働基準法第14条の規制は当然適用されることに留意する必要がある。

(2)  雇用継続型契約変更制度(再掲)
 有期労働契約における雇用継続型契約変更制度については、契約期間中の解除について民法第628条によりやむを得ない事由が必要とされていることから、契約期間中の労働契約の変更についても、自ずからこれが認められる場合は制約されることに留意する必要がある。

(3)  解雇
 有期契約労働者の契約期間中における解雇については、民法第628条に基づきやむを得ない事由が必要であるが、必ずしもこの規定が周知されておらず、かえって非正規労働者ということで簡単に解雇が行われているという実態があると考えられることから、これを周知することが必要である。ここで、当該やむを得ない事由が使用者の過失によって生じた場合には使用者は労働者に対して損害賠償の責任を負うことについても、併せて周知する必要があるほか、同条に基づき労働者が使用者に対して損害賠償請求をする場合に、使用者の過失についての立証責任を転換することについても、引き続き検討することが適当である。
 また、労働者と使用者の間において、やむを得ない事由以外の事由による契約期間中の解雇を認める個別の合意又は就業規則の規定がある場合がある。これについて、裁判例(安川電機八幡工場事件福岡高裁決定(平成14年9月18日))においては、「会社は、(中略)次の各号の一つに該当するときは、契約期間中といえども解雇する」とする就業規則の規定がある場合に、「(当該就業規則所定の)解雇事由の解釈にあたっても、当該解雇が、3か月の雇用期間の中途でなされなければならないほどの、やむを得ない事由の発生が必要である」としていることから、これを周知する必要がある。

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