へき地保健医療対策検討会報告書(案)



1 はじめに
 ○へき地保健医療対策は、昭和31年度から9次にわたってへき地・離島に係る保健医療対策に係る計画を策定し、直近の第9次へき地保健医療計画は、平成13年度から実施されている。この間、へき地診療所の設置・支援、巡回診療の実施、へき地医療を担当する医師の派遣、へき地医療拠点病院やへき地医療支援機構の設置を通じた支援などにより、へき地・離島における保健医療サービスの確保・充実に努めてきた結果、また、道路整備の向上による時間距離の短縮等の効果なども影響し、無医地区、無歯科医地区の減少など、へき地・離島の保健医療サービスの確保状況が改善している傾向にあり、一定の成果が現れている。

 ○一方、搬送手段の充実などを含む救急医療の確保や、医療連携による高度医療の受診機会の確保など、へき地保健医療対策として残されている課題も多い。また、新たな課題として、へき地・離島の保健医療サービスを支援する拠点となる病院における医師や、産科、小児科等の不足感の強い診療科における医師の確保をどうするかといったことが顕在化し、そのための新たな方策が求められている。

 ○このため、本検討会では、平成17年度で終了することとなっている第9次へき地保健医療計画に引き続いて実施すべき、へき地・離島保健医療対策のあり方について広範な視点から検討を行った。

2 近年のへき地・離島保健医療を取り巻く状況の変化
 ○へき地・離島保健医療を取り巻く状況については、近年全国的に以下のような変化があり、今後のへき地・離島保健医療対策を検討するに際しても、十分な考慮が必要である。

(1)無医地区・無歯科医地区の状況の変化
  ○平成16年度無医地区等調査・無歯科医地区等調査によれば、平成16年末の無医地区は787地区となっており、平成11年(914地区)と比較して、13.9%減少した。同様に、無歯科医地区は、1,046地区と平成11年(1,153地区)と比較して、9.3%減少した。

  ○無医地区・無歯科医地区について増減をみると、無医地区・無歯科医地区が減少しただけでなく、新たに無医地区・無歯科医地区になるところもみられた。無医地区・無歯科医地区が減少したところでは、その理由として、「交通の便がよくなった」という回答が最も多く、この他の理由として、「人口が無医地区の要件である50人未満となった」、「医療機関ができた」と続いていた。無医地区・無歯科医地区が増加したところでは、その理由として「医療機関がなくなった」との回答が最も多かった。

  ○無医地区の人口をみると、へき地診療所を設置する要件である1000人以上の地域は10地区、離島においてへき地診療所を設置する要件である300人以上の離島は1地区であった。

  ○このように、新たに無医地区・無歯科医地区となる地区や、人口減によって無医地区でなくなった地区もあり、引き続きへき地・離島保健医療対策を実施することは重要である。

(2)国民の保健医療サービスに求める意識の変化と医療提供体制の変化
  ○平成14年受療行動調査(厚生労働省)によれば、外来患者の年齢階級別満足度をみると、「非常に満足」と回答した割合は、75歳以上では35.8%、65〜74歳では34.1%、40〜54歳では26.3%、15〜39歳では24.8%と、年齢層が低くなるに従って医療サービスの満足度が低下する傾向がみられており、若い世代ほど医療サービスに対し、満足していないことが示唆されている。

  ○東京都が行ったインターネットによるモニターアンケート「医療機関選択のために必要な医療情報」(平成16年)によれば、患者が「医療機関を決めるための判断基準として重要に思うこと」として、「医療技術への信頼」が87.3%と最も高く、医療技術の向上によって、医療サービスに対する判断基準が高まっている。

  ○また、提供する医療技術の向上に伴い、これらの医療サービスを提供する専門医の確保が課題となっている。特に、麻酔件数の増加等による麻酔科医の需要の増加や、少子化の影響による家庭の育児不安による小児救急対応を24時間行うことの要望が強まったこと等による小児科医の需要の増加などが顕著である。さらに、産科医志望者の減少と産科医をやめる医師の増加による産科医の減少など、個別の診療科の医師の確保も課題となっている。

  ○へき地・離島においても、全国と同様、専門医による診療を含む、信頼できる医療サービスが求められていると考えられる。

(3)情報通信技術(IT)の進歩
  ○総務省が平成16年末に行った「通信利用動向調査」によれば、自宅におけるパソコンからのインターネットの接続方法として、ブロードバンド回線(高速大容量の通信接続が可能な公帯域の回線)の利用割合が62.0%と、前年に比較して14.2ポイント増となっており、急速にブロードバンドが普及している。

  ○ブロードバンドの利用を前提として、比較的安価にテレビ会議システムが導入できるようになった。また、通信回線上の情報漏洩等の防止や通信の起点・終点識別のための認証等に係る情報セキュリティ技術が向上し、その適切な利用により、インターネット等の通信手段の種類に応じた情報の安全性の確保が可能となっている。

  ○情報通信技術(IT)の進歩と普及により、テレビ会議システムによる診療カンファレンスや診療相談、遠隔地へのレントゲン写真の電送と画像診断など、医療分野における情報通信技術の活用が広がっている。

(4)市町村合併の進行
  ○市町村の機能を強化し、財政基盤を確立することなどを目的として、市町村合併が進められている。市町村数は、平成11年3月には3,232であったが、平成17年4月1日現在では2,395となっており、平成17年4月1日現在の予定では、平成18年3月31日には、1,822になる見通しである。

  ○市町村合併の効果としては、旧市町村の境界を越えた行政サービスの提供による住民の利便性の向上、行政資源が集約されることによる行政サービスの多様化・高度化、広域的視点にたったまちづくりの実施、行財政の効率化等がある。

  ○保健医療分野においても、例えば、市町村合併を期に、各地方公共団体が設置した小規模の医療機関を統合し、より高度な医療を地域のネットワークで提供する体制を構築するなどの取組が進んでいる。

(5)三位一体改革に基づく地方公共団体の自主性、裁量性の強化と国及び地方公共団体における財政構造改革
  ○地方分権の推進に伴い、国と地方の役割の見直しが必要とされ、地方公共団体の税財政面での自由度・裁量度の拡大が求められていることを背景として、(1)国庫補助負担金の縮減、(2)国から地方への税源の移譲、(3)地方交付税の改革を同時に行う、いわゆる「三位一体の改革」が進められている。

  ○平成16年8月、全国知事会など地方6団体から示された「国庫負担金等に関する改革案」では、へき地診療所運営費の補助などを含む医療施設運営費等補助金や、へき地医療拠点病院の設備の補助などを含む医療施設等設備整備費補助金など、医療提供体制を整備するための補助金を「平成17年度及び平成18年度に廃止して都道府県をはじめとした地方公共団体へ税源移譲すべき国庫補助負担金」とされた。

  ○これを受けたいわゆる「三位一体の改革」についての政府の対応としては、医療・保健衛生に係る各種補助金について、事業費、設備整備費については保健医療提供体制推進事業として統合補助金に、施設整備費については、保健医療提供体制整備交付金として交付金に改革し、全体としては補助の目的を明確にしつつ、地方公共団体の自由度・裁量度を向上させる方針が示された。また、へき地保健医療対策に係る補助金制度については、全国民が一定水準の医療をどの地域においても格差なく受けられるよう、国が一定の責任を果たしていく観点等から、現行の制度を維持する方向で検討することとされた。

3 へき地・離島の保健医療サービスに関与する各主体の役割と今後の対応
 ○へき地・離島保健医療提供体制の維持・向上に当たっては、当該地域の住民・患者の要望を踏まえ、保健医療関係者(医療従事者、専門家等)それぞれの納得と相互理解に基づく、へき地・離島の保健医療サービスに関する全体像の確立が前提である。

 ○また、保健医療関係者及び行政は、保健医療サービスを住民・患者に公平に提供する責任を連帯して負っている。そのため、各自がそれぞれできることを行って全体の責任を果たすという理解が共有される必要がある。

 ○住民も、単に保健医療サービスを求めるというだけでなく、地域の保健医療提供体制の状況を理解し、健康面で不安のない生活が地域でできるよう、真に必要な保健医療サービスが効率的に提供されるためにどうするべきか、また、保健医療提供体制の構築に要する費用を考えることが必要である。

(1)住民・患者の役割と今後の対応
  ○住民・患者は質の高い医療を受けたいと要望している。その内容は、単なる医療機関の確保だけでなく、診療の安全性の確保、診療情報の提供の推進など、患者の選択が尊重された質の高い保健医療サービスを重視している。

  ○主に、へき地・離島の医療機関における診療機能の向上と、搬送手段の確保・充実を含む救急医療体制の構築に対する要望が強い。併せて、遠方の医療機関に通院することの困難さに対する理解に基づいた対応を要望している。

  ○保健医療サービスに関する情報は、多くの場合、保健医療関係者(医療従事者、専門家等)と住民・患者との間に格差が存在している。住民・患者の視点に立った保健医療サービスの提供に関する取組を進めるために、まず、地域の保健医療関係者の医療機能や、各医療機関間の医療連携の状況などについて住民に分かりやすく提示されることが必要である。併せて、医療計画の策定においてへき地・離島における医療連携体制のあり方を検討する際に、住民が積極的に議論に参加できる環境を整備することが重要である。

(2)無医地区・無歯科医地区がある等へき地・離島の保健医療サービスの確保が必要な市町村の役割と今後の対応
  ○市町村の中には、地域の中核となる医療機関が、保健医療福祉サービスを包括的に提供する役割を担い、他の医療機関とネットワークを組んで住民の健康の確保・向上を果たしている事例があることから、市町村と当該医療機関が住民の健康について理想の姿を共有し、住民・患者に対しきめ細かいサービスを提供することが必要である。

  ○そのため、市町村が、医療機能をよく理解し、資源を効率的に活用しながら、住民の健康の確保と向上を目指して包括的な保健医療サービスの戦略を策定し、保健医療福祉サービスが機能的に統合された体制を構築することが重要である。また、市町村においては保健医療関係者と意識を共有することを通じて、保健医療関係者の積極的参画を促すことが大切である。

  ○市町村合併は、医療機関の再編成による機能強化など、市町村ごとの保健医療対策を検証する重要な機会である。例えば、合併する各市町村に診療所がある場合、これらを統合し、複数の医師が配置され、常時一定レベルの診療が可能で、他の診療所をサポートする機能を有する中核的な診療所の設置や、一般的な診療所と巡回診療等を組み合わせた体制に再編成すること等により、提供する医療水準の向上と、アクセスと効率性の確保を図ることなどが可能となる。

(3)へき地・離島の保健医療提供体制を確保する都道府県の役割と今後の対応
  ○これまでへき地保健医療対策で取り組まれた、へき地診療所、へき地医療拠点病院、へき地医療支援機構の設置等、へき地・離島の保健医療対策に対する財政的支援により、へき地保健医療対策は一定の成果が現れている。一方で、へき地保健医療対策として残されている課題や、未だ無医地区となっている地域も存在する。

  ○へき地・離島の保健医療サービスの確保は一義的には都道府県の責務である。都道府県内のへき地・離島保健医療対策に関するビジョンを確立し、関係者にそれぞれの責任と役割の自覚を促し、必要な調整を行うことが重要である。

  ○地域で求められる保健医療サービスの向上と共に、地域での専門医療の確保が課題として顕在化している。特に、へき地・離島の保健医療サービスを支える地域の中核的な病院における専門医療の確保が課題となっている。このため、中核的な病院における専門医療の確保については、情報通信技術(IT)の活用や搬送手段の確保を含めた都道府県域全体での調整が必要である。

  ○へき地・離島保健医療対策の計画立案と実施に当たっては、他の都道府県の成果も参考にしつつ、都道府県全域の保健医療提供体制を概観する中で、検討する必要がある。

  ○都道府県が作成する医療計画には、これまでもへき地・離島の保健医療サービスの確保に関する事項を記載することとされているが、国の医療計画制度の見直しに伴い、地域の保健医療関係者の医療機能を記載することなどによってへき地・離島の実情を考慮した医療機関相互の連携体制を構築して、実効性のある取組を行う必要がある。あわせて住民・患者の意見も採り入れる工夫が必要である。

  ○へき地・離島等地域における保健医療サービスの確保のため、各都道府県において、関係諸機関が参画する医療対策協議会の設置が進められてきているが、今後さらにこの体制を強化し、都道府県が中心となり、地域における関係者が協議をして、医師確保等の実効性ある具体策を構築していくことが必要である。

(4)医師・医療機関等の役割と今後の対応
  ○医師の臨床研修の必修化を契機として、患者の症状全般を診るという総合診療への関心が高まり、へき地・離島での診療の総合性に関心を持つ医師は徐々に増加している。このため、卒前教育や臨床研修など、あらゆる機会をとらえて、へき地・離島での診療への関心をさらに高めるよう努めるべきである。また、へき地保健医療アンケート調査において、へき地診療所医師に臨床研修におけるへき地・離島研修への期待について尋ねたところ、臨床研修を契機として、へき地・離島での診療への関心が高まることが期待されている。こうしたことを踏まえると、卒後臨床研修においてへき地・離島での診療の実習を経験する医師を増加させることを通じて、臨床研修医に将来のへき地・離島における勤務についての関心を持ってもらうことが重要である。

  ○また、これまでのへき地保健医療対策の成果から、へき地・離島の保健医療サービスを担う医師に対する診療面及び生活面の適切な支援があれば、へき地・離島の保健医療サービスの提供に一定期間従事しようとする医師が増加している状況にある。このため、へき地・離島での診療に従事する医師に対する診療面での支援策や、学習の支援、休暇の確保などの生活面での支援策について具体的な検討が必要である。

  ○医師の臨床研修必修化の導入により、魅力のあるプログラムを実施する医療機関に医師が集まる傾向がみられている。このため、医師確保の観点からも、へき地・離島の保健医療サービスを支援する医療機関においても、充実した臨床研修のプログラムを実施することが必要である。また、このような臨床研修医の集まる医療機関が地域においてへき地・離島の保健医療サービスを支援する中核となるような方策を検討するべきである。

  ○限られた医療資源を集中させることによって、より高度な医療機能を確保しつつ、専門医療を担う医師の負担を軽減させることが必要である。一方で入院機能の集中化と、外来機能の分散の取組を同時に実践する地域も存在する。地域におけるへき地・離島の保健医療サービスを支援する体制の構築に当たっては、医療機能の集中化とアクセスの確保のバランスをとりながら計画的に検討する必要がある。

(5)医育機関・学会等の役割と今後の対応
  ○医師を養成する医育機関は、卒業後も医師の研修を担うと共に、地域医療に対し、医師を適切に配置する調整を行うなど、幅広い対応を行ってきた。

  ○平成17年3月に国立大学医学部長会議常置委員会・国立大学付属病院長会議常置委員会において「地域における医師の確保等の推進について(提言)」が発表された。この中で、大学医学部及び大学付属病院の役割として、窓口を一本化した透明性・公平性が確保された医師の紹介制度や、へき地・離島の保健医療サービスの提供に係る専門履修コースの設定などが提言された。

  ○医育機関・学会等は、今後も地方自治体との連携を深めるとともに、へき地医療の向上に協力する必要がある。

(6)国の役割と今後の対応
  ○国民に対し良質かつ適切な保健医療サービスを効率的に提供する責任は各地方公共団体とともに、国も負わなければならない。国は、幅広い保健医療関係者の意識を統一するためのへき地・離島の保健医療対策に関するビジョンとして第10次へき地保健医療計画を提示し、実効性ある対策の枠組みを確立する必要がある。また、へき地・離島保健医療対策に悩む地方公共団体や、医師の派遣を行う役割を担う医療機関、医師の派遣を受ける医療機関それぞれに対してもきめ細かい助言・指導を行うことが必要である。

  ○これまでの財政的支援によって、へき地・離島保健医療対策は一定の成果を見たところであり、引き続きこのような支援は重要である。

  ○今後のへき地・離島保健医療対策の全体像を構築するに当たっては、国は、地方公共団体の取組を財政面のみならず、全国各地の参考事例の紹介など情報面での支援を行うことが必要である。また、関係省庁が協力して総合的な対策を講じていくことが必要である。

4 へき地・離島保健医療対策に関するこれまでの対策を踏まえた今後の具体的支援方策
 ○へき地・離島における保健医療サービスの内容としては、住民の高齢化等により、慢性疾患の管理などの割合が高い。一方、他の医療機関へのアクセスが制限されていることから、救急医療への対応も必要である。

(1)へき地・離島の保健医療の確保
 1)へき地診療所
   ○これまでのへき地診療所に対する支援により、へき地・離島の保健医療サービスの確保が図られたものと評価されるが、地域によっては、地方公共団体等の補助金でなく民間医療機関等が独自に設置した施設もある。一方で、このような施設の中には、医師の高齢化等により存続できなくなり、結果として当該地域が無医地区となってしまう場合も見受けられる。このため、民間医療機関等が設置する診療所についても、周囲に他の医療機関が無く、地方公共団体等が設置したへき地診療所と同じ機能を有する場合は、当該診療所の設備等について、へき地診療所として支援を行うことを可能としている。今後、民間医療機関等が設置する診療所への支援について関係者へのいっそうの周知を図り、地域の多様な取組を促進する必要がある。

   ○また、へき地診療所の設置・運営を行う等、へき地・離島の保健医療サービスを支援する民間の医療機関に対しては、動機付けるための何らかの支援措置を検討する必要がある。

   ○さらに、市町村合併などを通して公的医療機関の再編成が行われており、へき地診療所についても統合して、複数の医師を配置し、地域の高度な保健医療サービスのニーズに応じるよう目指すことも考えられる。このようなへき地診療所の再編成についても、何らかの支援を行う必要がある。

   ○へき地診療所の設置には、原則として、地域の人口が1000人以上(離島については300人以上)といった要件が定められているが、地域の実情に併せて、柔軟な対応を行う必要がある。

 2)巡回診療
   ○山間へき地においては、道路整備の改善などにより巡回診療に対する需要は低下しつつある。しかしながら、離島など地域において巡回診療の必要性があるところもある。

   ○今後とも巡回診療に対する支援は必要であり、交通手段の確保などの代替手段の検討を含め、各地域において巡回診療の必要性を十分に検討することが重要である。

   ○また、へき地診療所でも診療日数が恒常的に少ない場合において、巡回診療との関係について、効率性の観点等から地域において何が求められるのか検討することが必要である。

(2)へき地・離島の保健医療サービスを担う医師等に対する支援
 1)へき地医療支援機構
   ○へき地医療支援機構は、広域的なへき地医療支援事業の企画・調整を行うことを目的に、第9次へき地保健医療計画において設置されたものである。原則としてへき地・離島における保健医療サービスを支援する活動を行う専任の医師を配置し、へき地診療所等への代診医の派遣の調整、へき地・離島の保健医療サービスを担う者に対する研修計画の作成、へき地・離島での保健医療サービスを担いたいと思う者への就職のあっ旋、へき地医療拠点病院の評価など、幅広くへき地医療支援を実施している。

   ○へき地医療支援機構は、へき地診療所に勤務する医師の支援として有効に機能している。へき地医療支援機構に所属する医師がへき地診療所を代診している例もあり、更なる支援機能の向上が必要である。

 2)情報通信技術(IT)による診療支援
   ○情報通信技術(IT)を活用した遠隔医療等については、近年、高速回線の普及や関連技術の進展によって、実践例が増えつつある。特に、現在の情報通信技術(IT)の水準で一般的とされる技術であっても、相当程度の遠隔医療等の実践と効果が期待できる。

   ○例えば、旭川医科大学では、眼科領域での遠隔医療システムによって、患者が遠方の医療機関を受診しなくても、身近な地域で、対面で専門医の診察を受けることとほぼ同等の成果が得られた。

   ○こうした地域の事情を踏まえ、すでに組織的に取り組まれている好事例等を取り上げ、必要な支援方策等を検討する必要がある。

   ○地域のへき地医療拠点病院等で専門医師の不足などにより、診療上の意見照会や相談等を行う相手を確保できず、専門的な診療の対応に支障が生じる場合も考えられる。そのため、全国からの意見照会や相談等に対し、情報通信技術(IT)によって対応可能な組織等を確保することも考えられる。

   ○また、医師が常駐せず、看護師が常時対応することとなるへき地診療所において、看護師の活動を支援するため、遠隔地からの情報通信技術(IT)を用いた医師による遠隔診療を行うことも考えられる。

 3)へき地医療拠点病院における診療支援の充実
   ○へき地医療拠点病院は、無医地区等の保健医療サービスの提供を支援することを目的として、都道府県が拠点となる病院を指定し、巡回診療、へき地診療所への代診医の派遣及び技術指導、へき地・離島の保健医療サービスを担う者に対する研修機会及び研究施設の提供、遠隔医療等の各種診療支援などを行うものである。平成17年3月現在で244病院が指定されている。

   ○へき地医療拠点病院はへき地診療所の支援拠点として重要である。一方で、へき地診療所を支援する活動は地域により格差がある。このため、活動の実情に併せたへき地医療拠点病院の指定の在り方の見直しと、活動支援方策の充実が必要である。

   ○また、へき地・離島の保健医療サービスに対する支援は、へき地医療拠点病院だけでなく、地域の医療機関がネットワークによって行っていることから、このような取組を住民・患者に明示することによってへき地・離島の住民・患者に安心感を持ってもらうことも重要である。

 4)へき地・離島医療マニュアル(仮称)の作成
   ○へき地・離島の保健医療サービスを行う医師が実施すべき保健医療サービスの標準化について、さまざまな取組がなされている一方、住民・患者が期待するサービスと提供するサービスが一致しない場合もみられる。

   ○へき地・離島の保健医療サービスの内容を普及させることは、へき地・離島の保健医療サービスを担う医師の研鑽や地方公共団体、住民等の理解の促進など、関係者が共同したへき地・離島の保健医療サービスのあり方の検討に資することから、提供すべきサービスの内容についてのマニュアルの作成に取り組む必要がある。

(3)救急医療の確保等
 1)医師に対する救急医療講習の実施
   ○へき地・離島に勤務する医師は、様々な症状のある急患が発生した場合の対応が必要となる一方、このような症例を経験する機会が限定されている。このため、確立されたカリキュラムによる救急医療講習の受講を支援する必要がある。

 2)へき地・離島の患者の搬送方策
   ○へき地・離島における患者のヘリコプター等による搬送については、搬送に係る具体的な手順等を定め、関係者が共有することが必要である。例えば、搬送時にへき地・離島で診療に従事する医師がヘリコプターに同乗すると、当該地域が無医地区になることから、患者受入医療機関の医師がヘリコプターに同乗する必要がある。

   ○へき地保健医療対策の中で、移動手段を持たない高齢者に対し、容易に医療機関へ送迎する対応が重要となってきていることから、へき地患者輸送車による支援が引き続き必要である。

(4)へき地保健医療情報システムの見直し
  ○(社)地域医療振興協会において、インターネットを利用した情報の共有化を促進するためのへき地保健医療情報システムが稼働しているところである。ここでは各地域のへき地・離島での取組の紹介、掲示板機能によるへき地・離島での診療の志望者に対する相談等幅広い取組を実践している。このような取組は今後も、必要な見直しを行いながら続ける必要がある。

5 へき地・離島の保健医療サービスを担う医師を確保するための新たな方策
 ○これまでのへき地保健医療対策は、無医地区の解消等を目的として、へき地診療所の設置や支援等を中心に実施されてきた。一方、へき地・離島における保健医療サービスに関する課題としては、中核となる地域の病院や産科、小児科等の不足感の強い診療科に医師を確保する必要があるなど、医師の確保に関する新たな方策が必要となっている。へき地・離島の保健医療サービスの提供に実効性をもたせるためには、多くの関係者の協力と、それを支援する多面的な取組が重要である。

(1)公的な医療機関によるへき地・離島の診療支援の強化
  ○これまでもへき地・離島における診療支援は、公的な医療機関がその中核を担っているところであるが、国公立病院等も含めた全ての医療機関によるへき地診療支援の責務を明確化し、これらの医療機関が地域で率先して実施することにより、へき地・離島の保健医療提供体制をより強化することが適当である。

(2)地元出身の医師育成を促進する方策
 1)医学部における地域を指定した入学者選抜(地域枠)
   ○文部科学省によれば、平成17年度7大学において地域を指定した入学者選抜を実施しており、平成18年度からさらに7大学が実施する予定となっている。これにより医師の地域への定着が期待される。

 2)へき地・医療の保健医療サービスを担う医師を確保するための奨学金制度
   ○一部の都道府県では、へき地・離島の保健医療サービスを一定期間担うことを条件とした奨学金制度が実施されている。

   ○自治医科大学などへき地・離島の保健医療サービスの向上を目的とした開学の精神を有する医学部の環境が、学生にへき地・離島の保健医療に従事する意志を持続させることができる。奨学金制度を実施する都道府県は、奨学金制度や地域を指定した入学者選抜を通じ、へき地・離島の保健医療サービスの提供に実効性のある取組が期待される。

(3)へき地・離島に勤務する医師の確保・紹介のための公正で公明かつ持続的なシステム
  ○文部科学省では、大学における医師紹介システムの明確化及び決定プロセスにおける透明性の確保を推進しており、平成17年3月現在、35大学で、医師紹介窓口を一本化している。この他、地域医療支援委員会を大学内に設置し、行政機関及び医療機関と連携するなどの取組が行われている。

  ○また、地域の医療機関、医育機関など関係諸機関が参加し、地域における具体的な医師確保方策について検討を行う場として、都道府県が中心となった、医療対策協議会が設置されてきている。このような協議会及び当該協議会への参画・協力の制度化を含めた充実を図ることが適当である。

  ○(社)全国自治体病院協議会では、平成17年4月より、それまでの医師紹介業務を拡充して、自治体病院・診療所医師求人求職支援センターを運営しており、全国の地方公共団体立の医療機関の就職についての相談とあっ旋を行っている。

  ○(社)地域医療振興協会では、へき地医療情報ネットワーク等を通じて、へき地等での勤務を希望する医師等を募集し、各都道府県のへき地・離島の保健医療サービスの状況についての情報提供と、各都道府県のへき地医療支援機構への紹介を行っている。

  ○17府県・4郡市区の医師会では、医師の就職相談とあっ旋を目的として、無料の職業紹介としてドクターバンク事業を実施している。

  ○このように様々な機会を通じて行われている医師の確保・紹介のための取組については、今後とも、きめ細かな相談等により、希望するへき地・離島での勤務が円滑に行われることが必要である。

(4)へき地・離島での診療を動機づける方策
  ○へき地保健医療アンケート(診療所医師アンケート)によれば、へき地診療所に勤務している理由として最も多かったものは、「やりがいがあるから」であった。また、へき地診療所での勤務を続けるために必要なこととして、「診療支援体制の強化」、「医師としての研修・生涯教育の充実」、「地元行政の理解と協力」の順に回答が多かった。このため、今後のへき地・離島保健医療対策についても、これらを基本として考えることが必要である。

 1)へき地・離島での診療経験の評価
   ○地域内の公的病院を含む全ての医療機関において、へき地・離島での診療経験を評価して、報酬や勤務条件(就職、昇進等)に結びつける取組が有効と考えられる。

   ○一部の都道府県においては、例えば、職員として採用した医師を、域内のへき地・離島等の医療機関に派遣するとともに、一定期間後の研修等と組み合わせるなどの取組が実施されている。地域における中核病院を中心とした、地域内の医療機関等をローテートすることによる医師養成システムを構築し、地域内で医師としてのキャリアパスの形成を可能にしていくことが適当である。

 2)へき地・離島での診療に対する専門性の認定
   ○へき地・離島での診療に従事していても、専門性が認められない事情がへき地・離島の診療を希望する医師の悩みとなっている。へき地・離島での診療を専門性として評価し、これについて認定する方策が有効と考えられる。

 3)公益性の高い医療についての医師の責務
   ○へき地診療、夜間診療、救急医療など、地域において必要とされる医療の確保については、公益性の高い医療であることから、医師の職務の公益性等にかんがみ、これらの医療への従事、協力について、医師の責務を明確にしていくことが適当である。

 4)臨床研修におけるへき地・離島の保健医療サービスの体得
   ○現在は、保健所での研修を含む地域保健・医療については義務化されているが、一歩進めて、へき地・離島の保健医療サービスを体得できるような研修プログラムづくりを促す必要がある。

(5)医療機関が担うへき地・離島の保健医療サービスに対する支援
 1)へき地・離島の保健医療サービスの明確化
   ○へき地・離島の保健医療サービスは医療機関にとって負担が大きいことから、このようなサービスを公益性の高い医療サービスと位置づけ、これを行う医療法人に対し、税制面等で優遇を行うことが必要である。

 2)へき地・離島の保健医療サービスに対し持続して支援する医療法人に対する医療計画上の配慮
   ○病床過剰地域に開設された病院の開設者が同一都道府県内のへき地・離島の保健医療サービスを支援し、へき地・離島の患者を当該病院で治療する場合、医療計画上の配慮を行うことにより、民間の医療法人によるへき地の保健医療サービスの支援が期待される。

 3)地域医療支援病院の制度を活用した配慮
   ○地域医療支援病院は地域における医療の確保のために必要な支援を行うことを目的に設置され、具体的には、他の病院や診療所から紹介された患者に対する医療の提供、病院の施設や設備の地域での共用、救急医療の提供、研修機会の提供などを機能として有している。

   ○へき地・離島の保健医療サービスに対する支援は、地域における医療の確保のために必要であり、地域として支えていくことが必要であることから、へき地・離島の診療に対する支援について、地域医療支援病院の機能として位置づけ、指定する際にその活動を評価することが適当と考えられる。このため、他の医療機関からの紹介率や、他の医療機関への逆紹介率を評価するという現在の要件について見直しの検討が必要である。

 4)へき地等における人員配置標準における特例の導入
   ○人員配置標準は、へき地や離島等保健医療サービスが不足する地域にあっては、へき地医療拠点病院からの支援をはじめ様々な方法により、医療の確保が図られているという実情を踏まえ、国が定める基準を下回る配置であっても、都道府県知事が、医療計画等において、医療提供の体制を確保できると判断できる場合には、一定の圏域を指定し、その圏域内の医療機関については、全国一律のものより緩やかに設定する数を上回っていれば、「標準を欠く」には当たらない取扱いとする仕組みの創設について検討すべきである。

 5)独立行政法人及び国立大学法人に対する地方公共団体からの補助
   ○財政規律を守るなどの観点から、地方財政法及び地方財政再建特別措置法により、総務大臣の同意のあるやむを得ない場合を除き、地方公共団体からの、国、独立行政法人、国立大学法人に対する寄附金等の支出は禁じられている。

   ○公的な医療機関は、その性格としてへき地・離島の保健医療サービス等公益性の高い医療を担うべきと考えられるが、地方公共団体が、独立行政法人国立病院機構や、国立大学法人が設置する公的な医療機関に対し、へき地・離島の保健医療サービスに対し、補助を行いたいと考えた場合、これを可能とすることにより、これら公的な医療機関がへき地・離島の保健医療サービスに参画することが促進され、地域における対応の選択肢が広がることが期待される。

(6)へき地・離島での診療に従事する医師の負担を軽減する方策
 1)コメディカル等との役割分担による負担の軽減
   ○へき地・離島においては、診療所に毎日医師が勤務していない状況や、往診に時間がかかる状況などがあることから、すべての対応を医師が直接行うことが難しい。そのため、看護師等と協働しながらの情報通信機器を用いた遠隔診療など、医療関連職種や事務職員との役割分担によって医師の負担を軽減することが有効であると考えられる。

 2)医療機関の再編成
   ○複数の診療所を再編成して、医師の複数配置を実現する方策の他、例えば小児科や産科といった診療科においても、集約化を通じて、機能の高度化と、従事する医師の負担を軽減することができる。地域において、医療機関や、診療科の配置を検討し、相互に支援するネットワークの形成が必要である。

   ○三重県の紀南病院では、内科医に関して医師不足となったが、地域の医師会と協働して、外来患者を医師会が担当することし、紀南病院においては入院医療を中心に実施することで、地域で必要な保健医療サービスを確保した。このように診療所と病院の役割分担を行うことも再編成の有効な方法であると考えられる。

(7)子育てをしながら働きやすい環境の整備
  ○子育てをしながら働きやすい環境を整備することにより、医療従事者の子育てを理由とした退職が減少することが期待される。また、子育てを理由とした退職後の復帰を支援することにより、へき地・離島等における診療に従事する医師の増加が期待される。

(8)退職医師の活用
  ○へき地・離島への医師の供給を促進するため、定年等で退職した医師の再就業のための再教育等の充実強化を図る必要がある。

(9)自治医科大学の定員枠の見直し
  ○自治医科大学卒業生は、その大多数が、出身各都道府県において、へき地・離島等における勤務義務を果たし、義務終了後もへき地等において勤務を継続する者も多い。自治医科大学の各都道府県の定員枠を見直すことによって、効率的にへき地・離島における医師の確保が進むことが期待される。

(10)自衛隊病院、自衛隊医官との連携
  ○自衛隊や地域の状況に応じ、オープン化した自衛隊病院による地域診療の実施や、自衛隊医官の専門的研修が可能な医療機関への派遣を行う。

6 医療計画における位置付け
 ○医療法では、都道府県が作成する医療計画に記載する事項として、「へき地の医療の確保が必要な場合にあっては、当該医療の確保に関する事項」があげられており、へき地や離島のある各都道府県の医療計画に、必要な保健医療サービスが盛りこまれている。

 ○現在見直しを検討している新たな医療計画制度の考え方では、さまざまな医療機能の地域における配置や、医療機関間の連携・ネットワーク、医療提供者の役割の明確化を図ることとしている。へき地・離島保健医療対策においても、新たな医療計画制度で求められるさまざまな医療機能の連携・ネットワーク、医療提供者の役割を踏まえ、課題の達成を図る必要がある。

 ○また、医療計画に基づき、各医師のキャリア形成に配慮した医師配置の調整を含む、地域での「医療連携体制」を確保することが必要である。

 ○このことは、医師の視点からすると、地域において複数の医療機関における経験を積むことで、キャリア形成ができるという利点も認められる。

7 おわりに
 ○本検討会では、第10次のへき地・離島保健医療対策のあり方を念頭に置いて、関係者が共有すべき将来のへき地・離島での保健医療サービスの姿の構築に努めた。

 ○国は、本報告書において指摘した内容に基づき、適切な対応を行う必要がある。また、その成果を5年後に確認し、その結果に基づき、所用の見直しを図ることが必要である。

 ○へき地・離島における保健医療サービスは、最も脆弱な部分として、さまざまな保健医療提供体制に関する課題が現れやすい。そのため、解決には、国全体の保健医療提供体制の課題であるとの認識に基づいて総合的に取り組む必要がある。

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