05/06/24 労働政策審議会雇用均等分科会第46回議事録            第46回労働政策審議会 雇用均等分科会 1 日時: 平成17年6月24日(金)16:00〜18:00 2 場所: 厚生労働省 省議室 3 出席者:    労側委員:吉宮委員、片岡委員、篠原委員    使側委員:川本委員、吉川委員、渡邊委員    公益委員:横溝会長、今田委員、奥山委員、佐藤(博)委員、林委員、樋口委員 ○横溝分科会長  ただいまから第46回労働政策審議会、雇用均等分科会を開催いたします。本日のご欠 席は岡本委員、佐藤孝司委員、前田委員、山崎委員の4名です。奥山委員は少し遅れて ご出席いただけることになっております。  本日の議題は、男女雇用均等対策についてです。本日は間接差別の禁止について、ご 論議いただきたいと存じます。では事務局から資料の説明をお願いいたします。 ○石井雇用均等政策課長  本日は資料を2種類用意しております。資料No.1は前回、前々回に提出したものと 同じものです。本日は間接差別の禁止についてご議論いただきますので、関係する部分 のみ簡単にご説明いたします。  資料の2頁をご覧ください。間接差別については3月にもご議論いただいており、大 きく分けて2つの角度からの議論であったと思います。1つ目は「間接差別の禁止につ いて」です。これは法律に規定を設けるべきというご意見と、検討自体時期尚早である というご意見と、真っ二つに割れていたという状況であろうかと存じます。前者につい ては1つ目の○にありますように、間接差別は結果の平等を求めるものでない概念であ るし、形を変えて差別が現れてくるので、そういったものに対して有効な概念だという ことで規定すべきであるというご意見でした。片や2つ目の○ですが、間接差別は漠然 とした概念で、無制限に広がりかねず現場が混乱する、間接差別の検討自体、時期尚早 であって、現段階ではポジティブ・アクションで進めていくべきといったご意見でし た。このほかに、間接差別の概念自体は明確であって、概念が不明確だから議論するの が難しいという時期は過ぎているというご意見や、その目的も均等の実質確保であると いうご意見もあったところです。  次に、「間接差別の内容について」です。間接差別として具体的にどのような問題を 考えるかということについても、意見が割れていたという状態だったと存じます。具体 的には転勤要件や世帯主要件、パートの問題が挙がってきておりました。それらは女性 にとって不利益であって差別ではないかというご意見に対して、3頁にありますよう に、結果の平等からスタートしているように見えて、転勤の有無や世帯主の問題も理解 できないといったご意見があったわけです。  またコース別雇用管理の振分けについては、募集の段階から行われることについて問 題意識があるということに対しても、要員管理の必要性からすれば当然であるといった ご意見が示されたところです。それ以外にもここに記載のように、女性が総合職を選べ ないからといって、コース別雇用管理をやめるべきということにはならないのではない か、間接差別とは何かという議論と間接差別としてどのようなものを射程に入れて解決 していくかという議論とは、別の問題であるといったご意見があったところです。資料 No.1は以上です。  では資料No.2をご覧ください。いまご説明いたしましたように、間接差別の概念が 明確でない、あるいは結果の平等ではないかといったご意見もありましたので、改めて 男女雇用機会均等政策研究会の報告書のうち、間接差別の部分の抜粋を、資料No.2と して提出しております。すでにご説明したものですが、簡単にポイントを絞ってご説明 いたします。  まず「検討の経緯」では、前回の改正の際も議論になったこと、あるいは国会の附帯 決議、さらに女子差別撤廃委員会の審査でも指摘を受けていることなどについて触れて おります。  (2)の「間接差別の概念」ですが、まず「間接差別とは」ということで、(2)か ら4行にまとめて書いております。「一般的に間接差別とは、外見上は性中立的な規定 ・基準・慣行等が、他の性の構成員と比較して一方の性の構成員に相当程度の不利益を 与え、しかもその基準などが職務と関連性がないなど、合理性、正当性が認められない ものを指すと理解できる」ということです。  もともと間接差別の概念はアメリカで誕生し、ヨーロッパに渡って生成発展したもの で、いわば諸外国で発展した概念です。そうした概念を、このような形で整理したわけ ですが、2頁では我が国の裁判例の状況について整理しております。上から3つ目のパ ラグラフの辺りに書いております。「我が国においては現在までのところ、間接差別法 理に立って判断された裁判例は、雇用の分野には見いだせない」としつつも、家族手当 などについては若干関連する裁判例があり、また雇用の分野ではないものの、阪神・淡 路大震災の被災者自立支援金の世帯主被災要件が、世帯間差別及び男女差別を招来し、 かつそれらの差別に合理的な理由を見いだすことができず、公序良俗に反すると判示さ れたもの、これは間接差別の法理が適用されたものではないか、といったことを指摘し ているわけです。  2頁では具体的な裁判例として、日産自動車家族手当事件、三陽物産事件、被災者自 立支援金請求事件を取り上げております。日産自動車家族手当事件については、親族を 実際に扶養している世帯主である従業員に対して、家族手当を支給するとして、住民票 ではなく、実質的に親族を扶養している者に対して支給要件としていたものです。共働 き夫婦の場合はいずれか収入額の多いほうとする、という取扱いをしている家族手当の 支給要件が問題となった事案です。この事案においては「共働き夫婦に対して分割申請 を認めず、支給対象者を1人に絞ることはやむを得ず、また家族手当が生活補助費的な 性質が強い事実に鑑みると、それを実質的な意味の世帯主に支給することや、いずれか 収入の多いほうに支給することは明確かつ一義的な運用であり、不合理なものとは言え ない」というように判示されております。また下から3行目にありますが、家族手当の 支給対象の多くが夫、すなわち男性に限られていたとしても、やむを得ないという判決 だったわけです。  三陽物産事件は、家族手当ではなく賃金制度、本人給そのものの問題です。この事案 は非世帯主と独身の世帯主か、勤務地域が限定された労働者については、実年齢に応じ た年功的な本人給は支給されずに、26歳で据え置いた年齢給が適用されていたというこ とをめぐって争われた事案です。その判決は、被告会社は世帯主、非世帯主の基準を設 けながら、実際には男子従業員には非世帯主、または独身の世帯主であっても女子従業 員とは扱いを異にして、一貫して実年齢に応じた本人給を支給してきていること、また 一般論としては勤務地域の限定・無限定の基準の制定、運用が男女差別と言えるもので ない限り、何ら違法とすべき理由はないけれども、男子従業員には勤務地無限定、女子 従業員にはあらかじめ「勤務地限定」と記入した勤務地確認表を送付していたこと、さ らには男子従業員であっても必ずしも営業職に就くとは言えず、実際に営業職に就いて も広域配転の割合が微々たるものであると認められるので、その基準は真に広域配転の 可能性があるがゆえに設けられたものではないということで、これは無効であるという 判示がなされたわけです。  被災者の事件は、先ほど言及しましたので省略いたします。  3頁の下からは、他の概念との比較をしております。1つ目は、いわゆる直接差別と の関係です。4頁の上から3行目以降をご覧ください。いわゆる直接差別は性に基づく 取扱いの違いに着目する概念であるのに対し、間接差別は外見上は性中立的な基準など が男女に与える影響の違いに着目し、かつ差別意図の有無は問わないという違いがある ものです。  2つ目は、いわゆる結果の平等との関係です。間接差別法理導入の目的は、一方の性 に対して不利益を与える不必要かつ不合理な障壁を取り除き、実質的に機会の均等を確 保することにあるものです。間接差別は確かに格差の存在が前提になるわけですが、問 題となっている基準などに職務との関連性、あるいは業務上の必要性などの合理性が認 められれば、差別とはならないものです。そもそも格差の存在自体を問題とし、労働者 の意欲や能力にかかわらず、数値上の平等という結果自体を直接の目的とする、いわゆ る結果の平等とは明らかに違うということです。ですから間接差別というのは、仮に格 差があったとしても、その格差を招くこととなった基準などに合理性があれば、差別と はならないということです。逆に言えば、合理性がない場合において差別になるという ことから、結果の平等とは違うということを記載しているわけです。  そしてポジティブ・アクションとの関係です。ここで言っているポジティブ・アクシ ョンは、女性を優遇するといった類のものではありません。例えば女性が事実上満たし にくい採用・登用基準を見直すといった、男女双方を対象としたポジティブ・アクショ ンを念頭に置いています。両方とも女性という集団に与える不合理な障壁の是正を図る という点において、共通の目的を有しているという点を指摘しつつも、ただしポジティ ブ・アクションというのは、より望ましい状態に向けた雇用管理の改善を図るもので、 一方、間接差別は違法という評価で、それがゆえにポジティブ・アクションの取組の対 象は、当然間接差別よりも広範な内容が含まれてくるということを記載しているわけで す。  4頁の(3)は、「諸外国における間接差別法理の状況」です。この資料の後ろに、 別添として資料No.3も付けていますが、法律上規定している違法性の判断方法という のは、諸外国ともほぼ共通で、同様の手法となっております。しかし実際の適用状況に はかなりの違いがあるということを、順次ここでお示ししております。まず5頁の上の ほうにある最初の件ですが、ある基準などが一方の性に与える不利益の有無の判断基準 として、アメリカにおいてはEEOCの統一ガイドラインで、5分の4を下回る場合と いう1つの基準があります。  それに対してEUは受け身の性格になりますが、欧州司法裁判所においては、具体的 な判断は各国の裁判所に委ねるということになっているほか、イギリスにおいては特に 定まった判断基準がありません。具体的な判断は、労使が参加する個々の雇用審判所が 行うものであり、個別の事案によって不利益の有無の判断はさまざまです。ですから実 際の格差が大きくても、不利益がなかったと判断される場合もありますし、数値的にそ れより小さくても不利益があったと判断された事案など、さまざまである、ケース・バ イ・ケースであるというのがイギリスのケースです。  2つ目が、「合理性、正当性に関する使用者の抗弁」です。これは前回、間接差別を 取り上げた際に、奥山委員からもご説明のあったところです。アメリカにおいては、使 用者はその行為について、職務関連性や業務上の必要性に合致していることを証明する ことになっております。EUにおいては、当該規定等について目的が正当であって、ま たその目的を実現する手段が、適切かつ必要であることを証明するようになっておりま す。イギリスですが、6頁をご覧ください。実際の最近の傾向が、上から4行目と5行 目にあります。具体的な判断も、労使が参加している雇用審判所で行われるわけです が、使用者の必要性と差別的効果の程度とのバランスで判断される傾向があります。し たがって格差が大きい場合は、より多くの説得性と言いましょうか、必要性が求めら れ、少ない場合はそれより少なくて済むといったバランスで判断される傾向がある、と いう特徴があります。  3つ目が「取扱い事案の特徴」です。アメリカにおいては採用、昇進に関する事案が 多いということがあります。また賃金、あるいは真正な先任権制度については適用がな されず、さらには事実上パートタイムの問題については、適用例が把握されていないと いうことです。片やEUにおいては、パートタイム労働者に関する賃金を含めた処遇格 差事案が多いということがありますし、イギリスにおいてもシングルマザー、あるいは パートタイム労働者など、かなりさまざまな事案が取り扱われているという状況です。 規定はほぼ同様でも、また判断の枠組みが同じであっても、実際の適用において、かな りの違いがあるわけです。  6頁からは「検討の際に重視すべきこと」ということで、4点ほどまとめておりま す。1つ目は、今回調査を行った諸外国においては、何らかの形で間接差別についての 法規制を行っているという状況にあります。2つ目ですが、やはり間接差別というのは 新しい考え方で、例えば結果の平等とは違うといったことなど、間接差別概念の理解の 徹底が必要であることを指摘しております。3つ目は、どのようなものが間接差別に該 当するのか、あらかじめイメージを形成し、予測可能性を高め、また法的安定性を高め ることが必要ではないか、裁判になってみなければ差別であるかどうかが分からないと いうことだと、労働者にとっても使用者にとっても負担が大きいこと。4つ目は、先ほ ど概念の中でポジティブ・アクションというのも登場したわけですが、仮に間接差別に 該当しない場合であっても、ポジティブ・アクションの積極的な推進により、機会均等 の実質化のための取組が広く行われることが望まれる、といったことを記載しておりま す。  (5)の「間接差別として考えられる例」は、個別にはご紹介いたしませんが、間接 差別のイメージを示すために、これまでさまざまな所で指摘されてきたものを中心に、 7つの例を取りまとめたわけです。パターンとしては身長・体重・体力、全国転勤、学 歴・学部要件、世帯主・主たる生計者、パートタイムといったこの5つのパターンで す。ただ実際の事案については個別具体的に事実認定をして、総合的に判断をしていく ことになるということも、ここではお示ししております。  また8頁の上の1行目の(2)(4)と書いておりますのは、転勤要件についてで、(6)(7) と書いておりますのは、パートタイム労働者といわゆる正規との関係です。女性に不利 益を与えることとなる基準などの適用を受けることについて、これらはまさに職業に関 する当該女性自らの意思、あるいは選択に基づく結果だという点で、ほかの問題とは違 っているため、これを差別の俎上に乗せることは性別役割分担等、現状の固定化につな がる懸念もあるということで、異論もあったということを指摘しています。説明は以上 です。 ○横溝分科会長  では今のご説明を踏まえて、皆さんからご議論をお願いしたいと思います。随時ご発 言ください。 ○吉宮委員  最初から改めてこのテーマの問題を整理されていましたが、3月11日に1回議論され ていますよね。いまの紹介にもありましたように、やはり概念をめぐっては違いがあり ますので、そこのところをまずきちんと押さえないと。もちろん予測可能な事例という のも関連しますが、またそこに戻ってくる可能性もありますので、概念のところを少し きちんと整理し、お互いに意見交換をする必要があるのではないかと思います。  川本委員は3月11日に、間接差別の合理性、正当性の判断は非常に困難であるという ことと、間接差別の概念が漠然としている中で、判例の積み重ねもないという状況下で は、検討自体が早いという趣旨の発言をされていました。加えてそれぞれの問題は、ポ ジティブ・アクションでやれば解決するのではないかというご意見でした。そこで私ど も労側も、間接差別をどう考えるかという定義というか、概念を前回述べています。こ の研究会報告の概念では、間接差別とは外見上は中立的であっても、それが一方の性に 相当な不利益を与えて、加えて使用者の抗弁、いわば立証責任の説明があれば差別には 当たらないということで、結果の平等ではないということを説明するのに対し、使用者 はどのように考えるのか。それでも曖昧だとおっしゃるのか。  直接差別と間接差別については、奥山委員も3月11日に述べられたと思います。直接 差別というのは、まさに性別を理由とした1対1の差別であって、間接差別というのは 女性、男性というグループで集団でとらえて、その規定なり慣行なりが一方のグループ に相当程度影響を及ぼすものだということを述べたと思うのです。これは諸外国でも大 よそ同様の定義をしているということを紹介しています。  さらに川本委員は、ポジティブ・アクションがあればいいではないかとおっしゃって いますが、ポジティブ・アクションとはまた違う法的効果があると、研究会でも述べて います。それでもなおかつ使用者は、この辺のところを曖昧だとおっしゃるのか、そこ のところを議論のスタートとして、もう1回お聞きしたいと思います。 ○横溝分科会長  いかがですか。 ○川本委員  前回申し上げたことの繰返しになるかもしれませんが、やはりここのポイントは、合 理性のあるなしの説明の部分になろうかと思っています。あのときも申し上げたと思い ますが、実は差別問題とは別の問題で、さまざまな労働問題が裁判等にかかったとき も、この合理性のあるなしの中身をめぐって、非常にいろいろな議論になったところで 結論が出ていくのだろうと思います。言葉に書きますと、ただ合理性のあるなしという ことになるわけですが、この中身というのは非常に幅があり、わかりにくい部分が非常 にあるのだろうと思っております。いま吉宮委員から、企業の立証責任というお話があ りましたが、その辺で合理性のあるなしが具体的にどうかというのは、まだまだ見えに くいし、社会的にも間接差別という切り口からの概念は、浸透していない状況にあるの ではないかと思っています。ここに(1)から(7)の例がありますが、例えば(1)から(4)の ような事例は、前向きにポジティブ・アクションの中で取り組んでいったほうが、企業 も前向きに取り組んでいけるのではないかということを考えて発言したわけです。 ○吉宮委員  これもまた現状認識ですが、分科会長になられた横溝委員が3月11日に、直接差別は それぞれ目に見えた形の差別だから、これは現行の均等法の施行後、いろいろ出てきて いますが、女性グループがある制度を適用されることによって不利益を被っているとい う事実があるのではないかということは、この分科会でもほぼ一致しているのではない かという認識を示されているのです。労側もそういう認識です。いま川本委員がおっし ゃった間接差別はまだ早いというのは、使用者側も7つの例に代表されるようなことも 含めて、ある規定が一方の性に不利益を与えている事案はないというように認識されて いるのか、あるけれども、これは個別に裁判でやればいいではないかという話になるの か。それで随分違ってくると思うのです。その辺のところは3月11日に1回議論をして いますから、あまり戻さずに、しかしそれを踏まえつつ私は議論をしたいと思いますの で、その辺、川本委員はどうですか。 ○川本委員  今は、あるなしという話ですが、あるかないかというのは1つの具体的な事案そのも のがあるやなしやということになってきますので、ちょっと申し上げにくいと思いま す。ただ思っているのは、そういうものがあるやなしやも含めて、やはり前向きに取り 組んでいく必要性はあるのではないかということで、ポジティブ・アクションという概 念をまず進めていくことが、すごく大事ではないかと思って発言しているのです。 ○佐藤(博)委員  公としてお二方に伺いたいのです。研究会報告の1枚目に、間接差別の概念がありま すね。一応ここでは外見上、性中立的な規定や制度だけれども、それが運用上他の性、 ここでは女性になると思いますが、相当程度不利益を与え、かつその制度について職務 等に関連した合理性がない。これを間接差別だと言ったときに、この定義自体が受け入 れられないのか、また合理性と言った場合に、いま合理性が一義的に定義できるかと言 われると、結構議論があるだろうということなのか、それを少し川本委員に伺いたいの です。  吉宮委員には、合理性について労側は、これはもう一義的に決まるというぐらいに考 えられているのかをお伺いしたいのです。ただ、そこについて川本委員が、いろいろ議 論があり得ると言ったときに、例えば身長で仕事に関係のないものであれば、労側も明 らかに間接差別であるとわかるし、経営側も多分、それはそうだろうと言われると思う のです。しかしコース別については、確かにここに当たるような間接差別もあるけれ ど、そうでないものもあるわけです。つまり合理性が認められるものもあるということ は、吉宮委員も受け入れられているのかどうか。  また川本委員が、社会的に浸透していないと言ったときに、我々は専門家として理解 できても、企業や組合がこの定義自体どの程度理解しているかという議論も、もう1つ あるのです。吉宮委員のほうで組合や企業を見ていて、例えば結果の平等ではないとい うことについての理解が、どの程度浸透しているという理解を持たれているのかを、そ れぞれ伺いたいのです。 ○川本委員  いま言われたとおりです。別にこの規定そのものの話ではなくてと言いつつも、ここ に書いてある基準等が職務と関連性がないと合理性、正当性が認められないというの は、言葉では理解できるのですが、では実際にと言ったときに非常に幅広で、やはり企 業の立場からすると非常に不安になる、よく見えない、したがってわかりにくいところ があると思っていただければいいのではないかと思います。  また、いま佐藤委員が言われたとおり、例えば身長など、非常にわかりやすいものも あるわけです。しかし一方で、非常にわかりにくいものもあるということで、どこまで この概念が広がるかというのが、非常につかみにくいと思っているのが2つ目です。  それからコース別等の話もありましたが、これまでの意見を整理した「主な意見」の 中の3頁目の○の1つ目に、「結果の平等の追求から話がスタートしているように思え 」というのがあります。これはたしか私の意見ではないかと思います。前回の議論の中 で、労側の皆さんのご意見をお聞きしていると、どうも結果から話がきているのかなと いう気がします。したがって言葉上、合理性とは書いてあるけれども、そうは言いつつ も結果の平等の概念から話がスタートしやすいというイメージ、感覚を持ちまして、そ れでは本当に困ると思っているということです。  したがって、こういう取組の角度、逆に言いますと間接差別概念と言うよりは、具体 的にここに例が載っているようなものについて、まずはこの概念を浸透させていき、企 業が取り組んでいくという意味から言うと、ポジティブ・アクションという方法も、非 常にいいのではないかと。それがだんだん浸透していく中で、次のステップという議論 もあり得るのではないかと思っているということです。 ○吉宮委員  私どもは2月9日の第1回会議で、連合の要求を説明させてもらいました。改めて申 し上げますと、間接差別の定義として、成立要件は、「適用する規定、基準又は慣行 が、他の性の労働者と比較して一方の性の労働者に不利益を与え、かつ不利益が相当程 度大きいとき」として、「かつ、これらの規定などの適用について、事業主が正当であ ることを立証できない場合」とすると。正当というのはどういう場合かというのは、も ちろん各事案ごとに判断するべきことで、こうでなければならないとは思っておりませ ん。  不利益もそうですね。相当程度不利益というのをどういうように判断するか。まさに これはグループですから、アメリカの場合は5分の4を下回らない、あるいはイギリス の場合は事案ごとに判断するということで、我が国はどうするのかというのを考えなけ ればならないわけです。私は、それも含めて各事案ごとに判断されるものと理解してい ます。  加えて、組合に間接差別概念が十分浸透しているのかという質問ですが、今回の均等 法の見直しが3回目だとすれば、1985年の最初の段階から、私どもは間接差別法理を入 れるように求めているわけですし、1997年の見直しのときも求めているわけです。その ときも同じような議論でした。結果の平等ということで、公益側もまだその概念が十分 浸透していないから、検討、研究を重ねる必要があるということで、1997年当時、婦人 少年問題審議会でもまだ早いという判断をされて、それを経て研究会で研究をして、今 日に至っているという奥山委員からのご紹介がありましたが、そういう意味で1997年見 直しのときには、労側の意見はまだ早いということで退けられた結果だったのです。組 合としてはそういう過程の中で、十分認識が深まるようには努力しています。佐藤委員 の十分浸透しているかという意味が、どういう意味で言っているのかはわからないので すが。 ○佐藤(博)委員  前半のこの概念自体、労側が言われているのはこれと違うのかどうかということで す。そうすると、そこから議論を始めなければいけないということになるのです。いま のご説明であれば、基本的に研究会報告と同じだと考えていいのですか。つまり結果の 平等を含むものとしては、組合側も考えているわけではないと。 ○吉宮委員  ですから事業主が正当性を説明するということです。 ○佐藤(博)委員  合理性があるかないかということですね。その説明はどちらに責任を置くかどうか は、また別の話だと思うのですが。 ○吉宮委員  それは事業主です。 ○佐藤(博)委員  事業主というのは入っているのですね。 ○吉宮委員  研究会も事業主でしょ。 ○佐藤(博)委員  ということは、ここについては組合側の主張と変わらないのですね。結構それが大事 で、私が伺いたかったのは、ここから議論しなければいけないかどうかということなの です。 ○吉宮委員  私が川本委員に確認した所がちょっと違うので、どうなのでしょうかという議論を冒 頭に申し上げたのです。 ○佐藤(博)委員  なぜ組合側と言ったのかというと、ここで我々が理解できるということを出発点にす るにしても、川本委員が実際上、運用上難しいと言ったのは、ここで合意できるという だけではなくて、現状で言えば企業や組合の理解がかなり難しい状況にあるのではない かと言われたので、では組合側はどう見ているのかを知りたかったという趣旨なので す。  もう1つ、合理性について川本委員は、かなり幅があるし、企業なり組合なりの現場 で見ると結構難しいのではないかと言われましたが、合理性、正当性の理解について、 現状はかなりもうはっきりできている状況にあるのか、やはりかなり幅があるというよ うに考えられているのか、その辺、吉宮委員はいかがですか。 ○吉宮委員  先ほど私どもの規定、定義をご紹介しましたね。どんな事案があるかについては、私 どもも一応研究会報告を例に挙げて、研究会ではこう言っていますよということで、内 部討議をしているわけです。予測可能な例と言われていますから、我が国においては大 体こんなところが、当面間接差別と言われているのではないかと。ただ、この研究会報 告で注目すべきは、アメリカであれイギリスであれ、一応すべての事案が間接差別の俎 上にのぼると言っていますよね。アメリカの場合は昇進、昇格の例が多いとか、イギリ スではパートが多いというように、事案の特徴は言っていますが、一応すべての事案が 乗ると言っているわけです。ですから7つの例だけが間接差別かどうかという議論では なくて、すべての規定や慣行が一応乗るけれども、格差があるからすべて間接差別かと いうと、必ずしもありませんと言っているわけです。合理性というのは、その説明だと 思うのです。  しかし規定を設ければ、やはり必ず誰かがそれを証明しますよね。不利益を被ってい ると求められたら、こういう理由でこういうことでやっているのだということは、普通 は説明するのではないですか。そこでお互いの折り合いが着くか着かないかという話だ と思うのです。そういう意味では、個々の事案ごとに判断されるべき問題ではないかと 思います。  間接差別は特にそうですが、差別意図のあるなしにかかわらず、差別というのは形を 変えて常に現れてきます。私どもが認識しなければならないのは、従来の雇用慣行とい うのは、性別役割分担意識が強いということです。転勤問題であれ賃金上の世帯主条項 であれ、やはり男性中心の仕組みでずっときているのです。これを男女平等の視点から どう見るかということを1回スクリーニングするのが、この分科会に問われていること だと思うのです。その結果、一方の性に不利益を与えているということであれば、なぜ か、その規定や基準がいまの世の中で合理性を持っているか、ということを問うべき時 代に入っているというのが私の認識です。間接差別法理というのは、そういう効果を持 っているという意味で、問えない時期にきているというのが私の認識です。そこは公益 の皆さんがどう考えるのかも含めて、私は議論していくべきだと思います。いわば間接 差別の意義と言いますか、男女平等という観点から、間接差別というのはどういう手法 を考えるかというのを、ちゃんと議論すべきだと思うのです。 ○横溝分科会長  公益委員の方々から、何かご意見はありますか。 ○川本委員  いまのお話を聞いて1、2申し上げたいと思います。いま吉宮委員は、転勤・世帯主 条項などはやはり男性主体で、差別につながってきたという感覚でお話されたからなの かもしれないのですが、そうすると、やはりこれは結果論だなと思ってしまうのです。 要するに私どもは転勤があるなしということで、例えば仕事上立場が違うということが あるかなしかというのが、間接差別そのものになるとは思っておりません。ただ、ここ に書いてあるものを見ても、そこにきちんと合理性がありますかということであった り、運用上きちんとされていることということではなかろうかと読んでいるわけです。 したがって、ただ世帯主条項がおかしいとか、転勤そのものが差別につながるみたいな 話になると、やはりそれは違うと思いますので、この議論にはなかなか素直に入れない ところがあるというのは、申し上げておきたいと思います。  また、浸透状況というお話がありましたが、この間接差別という言葉が良いか悪いか はともかく、本来はそれぞれの企業の労使において内部的に、合理的な説明がきちんと 出来るか出来ないかということを積み上げていけば、概念がどうのこうのではなしに、 実質的には浸透していきます。これが本来の労使自治の原則だと思っています。それが 実際にはそうでない、そうでないと言われると、ではそういう感覚が本当に浸透してい るのかなという思いがあるというのが2つ目です。  実は、私どもも企業のメンバーの方たちに情報提供をしながら、いろいろな意見交換 をしているわけですが、ただ合理性という言葉が書いてある、ただ立証責任だと言われ ても、非常にイメージが膨らんでとてもわかりにくいし、不安だというのがどうしても 出てくるという実態があることを、やはりお伝え申し上げたいと思います。 ○佐藤(博)委員  吉宮さんに確認したいのですが。いわゆるコース別で、転勤と採用のコースが分かれ ているようなものを取り上げたとき、私も基本的にこれからはワーク&ライフバランス というのが大事で、働く人たちが子育てや介護と仕事を進めていかなければなりませ ん。そういう意味ではやはり企業も、転勤の必要性と個々人の状況を見ながら配慮して おかないと、いい人材が採れないし、社員も意欲を持って働いてくれませんから、それ はやっていかなければいけません。  それと、もう1つ。転勤というのは働く人にしても企業にしても、いろいろなコスト がかかるので、やはりこれからは必要のない転勤はやめていくことが大事だと思いま す。ただし人事管理上、転勤を組み込んだ人材活用が必要な場合もあります。そういう ものはできるだけ少なくし、転勤もなくしていき、特別な場合は転勤に配慮するという ことも、もちろん必要だと思うのですが、転勤を組み込んだコース区分を設けること自 体、もう全部駄目だと言われるのですか。そこが私は議論のすごい分かれ目だと思うの です。ここにも書いてあるように、それには合理性があるかどうかというのがすごく大 事で、合理性がある場合はそういうコース別雇用管理も認めるのかどうか、その辺を伺 いたいのです。 ○吉宮委員  前回も佐藤委員から私に対して、同じような質問がありました。1つに、コース別雇 用管理というものが、どういう歴史的経緯で出てきたのかということです。私の認識が 間違いなければ、均等法ができる前は多分、男性用、女性用ということで公然と人事管 理ができた時代だったと思うのです。それが均等法が出来上がって、公然とはできなく なってしまって、結果何をやったかというと、形は男性、女性と分けていませんが、転 勤要件を定めたコース別雇用管理という仕組みを導入して、実質的に総合職は男性、一 般職は女性という形で区分けをしてきて、それがいま現在、紆余曲折を経ながら出てき ているのではないかという疑念があります。したがってその効果論が、果たして男女を 区分けする意味で機能してはいないかと。  2つ目に、今おっしゃったことに答えますと、企業そのものが全国展開、あるいは全 世界的に事業を展開しているときに、転勤一般を否定するつもりは毛頭ありません。そ れは必要です。そのことと、なぜ転勤が要件なのかということは違うと思うのです。必 要だから転勤を設けるというのはあると思いますが、なぜ転勤要件が必要なのかという 必要性については、当然議論があります。  2月9日に課長から雇用管理状況の説明を受けた際、実態として9.5%でコース別が あり、転勤要件が約8割あり、その中で10年間転勤の実績が全くないのが10%ぐらいあ ると言われましたね。その10%が、実際には転勤がないにもかかわらず、総合職という ものを設けているわけです。私は逆に佐藤委員にお聞きしたいのです。実態を見るとど のデータも、ほとんど男性が総合職を占めているのです。それを佐藤委員はどういうよ うに見ているのか。なぜなのか、合理性を持っていると見ているのか。  連合のデータを見ても、実質上男性と女性で分けているものもあります。男性は総合 職で、女性は一般職ということをやられたら、現行法でも違反ですよ。研究会報告で は、労働者の意思で選択できるのだからということで、意見が分かれているみたいです が、果たしてそういうようになっているかどうかというのは、もう少しデータを見ない とわからない。  冒頭に言ったように、出発の由来が男性と女性を区分けしている要件に転勤を使って いるとすると、結果そのことが原因で、総合職はほとんど男性というようになっている のではないかと思うのです。私も転勤一般を否定はしません。コース雇用管理も正しく していれば否定しませんが、どうも現状の認識は、男女区分けにつながっているという のが私は拭い去れないのです。 ○佐藤(博)委員  現状を平均的に見たときに、もしかしたら吉宮委員が言われるように、コース別採用 をしている所で男女差別に使っている所があるということと、だからすぐコース別採用 は駄目だというようにつなげるのでなければいいのです。私もコース別採用で実質上、 男女を分けることに使っているという、直接差別に結び付くようなものは駄目だと思い ます。平均的に見れば多いかもしれません。しかしちゃんと合理性があって運用してい るものもあるのです。かなり危ないものが多いから、ちゃんとやっているものも認めな いという議論になると困ると言っているのです。私もみんないいなどとは言っていませ ん。合理的に運用されればいいというときに、吉宮委員から見て現状では怪しげなもの が多いのだから、転勤で雇用区分をするのは全部駄目だという議論をされたいのだとす ると、それはなかなか難しいのではないかということです。そのどちらを主張されたい のかが、私はよくわからないのです。 ○吉宮委員  逆に言うと、佐藤委員は性別役割分担を固定的に考えると、要するに転勤問題をあま り追求すると、というようにおっしゃると思うのですが、使用者側、企業は結局女性は 仕事と家庭の両方があるのだから、転勤は難しいのではないかというように、障壁をか けているのではないでしょうか。 ○佐藤(博)委員  質問は単純なのです。例えば間接差別に転勤を入れたときに、転勤を伴うような雇用 区分は全部駄目だという議論をされるのか、そうではなくて、転勤1つ取っても、基本 的にはすべて合理性のところで議論していくのかということです。それだけ確認できれ ば、私はいいのです。 ○吉宮委員  しかし抽象的に議論をしてもしょうがないのです。佐藤委員がどう考えているかとい うのを言ってもらわないと。 ○樋口委員  少しオーバーヒーティングしているので、少し整理をしてみたいと思います。合理性 という言葉が法律学者の間では、はっきりしているのかもしれませんが、我々一般の人 が聞いたときに、合理性、正当性というのが白黒すっきりつくものかどうかということ を考えると、かなりグレーゾーン的なところがあることは否めないと思うのです。そう いうときに例えば派遣法にしろいろいろな所でやってきた手段というのは、ポジティブ リストとネガティブリストという考え方を持ってやってきました。いま労働側が主張し ているのは、言うならばポジティブリストで、これを適用していくということで原則禁 止です。そして合理性、正当性が認められる場合のみやってもいい、それは間接差別に ならないケースであるという主張をしているように思えるのです。  ところがもう1つのアプローチの仕方は、むしろネガティブリストです。これはやっ てはいけないよというところから、まずスタートするようなやり方もあると思うので す。先ほどから出てきているので言えば、(1)からの例示がありましたね。これも職種 によるとは思いますが、この身長・体重・体力というのは、やはり原則的に間接差別だ という面があります。その一方で(6)は、わりとグレーゾーンに近いところがあるので す。9頁に書いてある家族手当についての話ですが、以下の場合は原則的に合理性、正 当性があると言っているわけです。ただ「原資に制約があることから」というのは、多 分どの企業だって原資に制約があるということは、まず言うでしょう。そうなってきた ときにこれを本当に排除してしまっていいのか。合理性あるいは正当性と言ったとき に、ケースによって色合いが相当違っているわけです。多分その辺の議論が一致してい ないために、どちらでいくのかということがなされているのではないかと思います。  アメリカの例として、6頁に先任権の問題が書いてあります。アメリカでは先任権は 間接差別にならないという判断がなされています。また、これは判例の段階で確定して はいませんが、オーストラリアでは間接差別という判断も出てきたりということで、そ ういう所もあるわけです。先任制度というのは、英語で言えばseniority ruleです。日 本語で先任権はないのかというと、まさに年功賃金というのがseniority wageという形 でやっているわけです。では、年功賃金は先任権とつながっているわけですから間接差 別になるのか、というと、組合側でも意見はなかなかまとまらないのではないかと思い ます。あるいは配偶者手当の問題についても間接差別かというと、なかなかまとまらな いところがあります。  ということはやり方として、ネガティブリストからアプローチしていくというやり方 というのも、一考に値するのではないかと思いますが、その点はいかがでしょうか。も うポジティブリストは最初から原則禁止です、合理性がある場合だけ、適用除外にして いきます、というやり方でいくという主張だろうと思いますが、その点はどうお考えか をお聞かせいただけますか。 ○吉宮委員  先ほど課長が、アメリカとイギリスの間接差別の差異の説明をなされましたね。アメ リカの場合は制度・基準等について女性労働者が訴え、使用者側はそれに対してその制 度を設けた理由について説明すればそれでいい、格差があってもそれは差別と認めない と。イギリスの場合はそういう枠組みを維持しながらも、基本的に制度の使用者側の必 要性、正当性と受ける不利益とのバランスが大事だと言っていますよね。いま樋口委員 がおっしゃった原資の問題は、合理性を持つ場合と、その結果不利益を被る女性がどれ だけの割合かというそのバランスだって、私は議論になると思うのです。これはまさに 個別事案で判断するしかないような気がするのです。ですからアメリカタイプというの も、ちょっとどうかなと思います。 ○樋口委員  使用者側が心配しているのは、個別事案になったら見通しがきかないということでは ないでしょうか。同じ事案についても、労使によってそれぞれ違った考え方が起こって くるというところから、これはやってもいい、これはやっては駄目だというその線引き が、個人によって、あるいは個別ケースによってかなり揺れ動いてしまい、予測可能性 がなくなってしまうのではないか、ということを懸念しているのではないかと思います が、それはどうでしょうか。 ○川本委員  すべてではありませんが、もちろんそのこともあります。非常に見えないので、私ど もも内部的に非常に議論しにくくなっているというのが事実です。したがって間接差別 の法理が導入されることについては、ものすごく拒否感が強いということです。  もう1つ申し上げておきたいのですが、先ほどの吉宮委員のご意見を聞いていると、 合理性とは言いながら、やはり結果から、これは差別だというご意見に聞こえてしょう がないのです。そうではないというところからいかないと、非常に受け入れにくいかと 思います。  また樋口委員からもネガティブリスト等の2つのお話がありましたが、確かに具体的 になれば予測可能性も出てきますので、対処しやすいのかとも思います。併せてそれだ けではなく、もうちょっと前向きに取り組んで、現場に浸透していくことが必要ではな いかと思います。そういうものがない中でポコッとこの概念が入ってくると、やはり非 常に危険だという気持ちを持っているというのが2つ目です。  吉宮委員はもう1つ、コース別の歴史を言われましたね。そういう企業がすべてだっ たかというと、あったかもしれないとは言えますが、そうでなかった企業も、もちろん あるわけです。また導入時は慌ててやったかもしれないけれど、その後いろいろ形を変 えて、整合性を持ってきた会社ももちろんあります。個々によって違いますが、いま我 が日本の企業に求められているのは、実は仕事や働き方と処遇の整合性の問題なので す。先ほど年功賃金というお話がありましたが、労使によって年功賃金でいこうという 会社も、もちろんあります。しかし、それでは働き方や仕事と処遇との整合性が取りに くいという中から、整理をしていこうという所もあります。  コース別という言い方がどうかはわかりませんが、そういうところではやはり職群を 括り直して、その中で賃金体系も変えていこうというやり方の企業も出てきています。 特に電機業界においては、組合もそういう職種別賃金的な概念を発表しておりますし、 併せて企業側もいろいろな先進的な人事賃金体系をつくってきています。そういう中 で、職群分けが、コースがおかしいではないかという話からスタートされると、間接差 別というのは企業として絶対に拒否せざるを得ないという気持ちにならざるを得ないの です。 ○片岡委員  吉宮委員は定義・概念の一致点を見た上で、具体的なお話をされたいということでし たから、そこから始めることには賛成ですが、いま樋口委員がおっしゃったポジティブ リスト、ネガティブリストのどちらかということについては、まだ吉宮委員からお答え が出されていないと思うので、それについて私の個人的な意見を申し上げたいと思いま す。  ネガティブリストに該当するということで言うと、コース別雇用管理の導入に当たっ ての留意点として、こういうことは駄目なのだよということが、この間行政のほうから 出されて、それがまた実態に沿って直されたものが、すでに示されていると私は思うの です。ここが非常にややこしいということは承知しているのですが、この時点でこの分 科会で議論するスタートラインとしては、きちんと法律で規定して、その上で合理性の 判断基準を1つ1つ丁寧に扱っていくか、合意点が見られるところで出していくかとい うことだろうというのが私の意見です。  その意見の背景として押さえておきたいのが、この間も吉宮委員がすでに発言されて いることですが、国際レベルからの指摘ということで、間接差別をなくすための措置を 取りなさいというCEDAWからの1995年勧告や、その後住友グループの皆さんの具体 的な取組として10年間かけてやってきた事柄が、さらに2003年のCEDAWの中ではも う少し踏み込んで、国内法に盛り込むことを勧告することになっております。このよう な国際的な指摘にどう応えるかというのが、背景にはあると思うのです。  私はいまコース別雇用のことに限定して申し上げているのですが、国内的には、賃金 格差の研究会が2002年に分析している賃金のデータと雇用管理のデータをクロスさせる と、コース別雇用管理制度を導入している企業のほうが、導入していない所よりも男女 の賃金格差が大きいという指摘があります。また大企業の多くが導入しているコース別 雇用管理制度というのは、ストレートには言っていないけれど、男女別の雇用管理と実 態的に変わらない、その結果女性の個々の能力発揮が妨げられている例が少なくない と、その研究会自体も指摘しています。  こういう国際的な部分と国内的な部分を背景に、先ほど私が自分の意見ですと申し上 げた点で言えば、やはりネガティブリストということではないのではないかというのが 私の意見です。 ○横溝分科会長  吉宮委員に確認します。資料No.2、研究会報告の8頁に、「間接差別として考えら れる例」というのがありますね。その(2)、「総合職の募集、採用に当たって全国転勤 を要件としたことによって」という部分ですが、この研究会報告では合理性、正当性は 抗弁ということで挙げているのです。こういう形でいいのですか。抗弁ではなくて、要 件のほうにまず入れてしまうということですか。これと同じでいいと考えるわけです か。 ○吉宮委員  抗弁というのは奥山委員が前回、裁判上の争いで採られる手法みたいなことで、裁判 上の言葉としてとらえていましたよね。私どもは立証責任というか、なぜその規定、基 準を設けたかという使用者側の説明が合理性を持つか持たないかが、要件として必要だ と思っているのです。ですから格差そのもの、つまり相当な不利益を被っているものイ コール、すべて間接差別と言っているわけではないのです。その上で、かつ使用者側は その基準、規定を設けた場合に、なぜそれを設けているかというその説明が納得を得ら れるかどうかということを言っているわけです。抗弁という言葉は使っていませんが。 ○横溝分科会長  その主張、立証を抗弁というのです。使用者側に主張立証があるということを抗弁 と。 ○吉宮委員  ですから立証の負担を使用者側は負うということです。 ○横溝分科会長  わかりました。では(2)でいいということですね。 ○吉宮委員  ええ、すべての問題はそういうことです。身長・体重・体力などもそういう説明を要 します。 ○横溝分科会長  では佐藤委員、そういうご説明でよろしいですか。 ○佐藤(博)委員  コース別がすべて駄目と言っているわけではないですね。 ○吉宮委員  ないです。 ○佐藤(博)委員  そこが確認できればいいことであって、私もコース別について問題がないと言ってい るつもりはないのです。問題のある企業もあると言っているのです。 ○今田委員  間接差別の議論について、両者の概念にある程度の整理ができたというのは、すごい 進歩だなと思って聞いていました。さらに先に進めるという意味から、川本委員にお伺 いしたい。事務局の資料から見ても、直接的な差別はないけれど、平等を乱すようない ろいろな現象は、雇用管理の中でまだまだいくらでも生まれているという現状の認識の 下に、こういう間接的な規制が必要ではないかという議論ですが、そういう状況を見て 川本委員は、そういうものはあるかもしれないけれど、ポジティブ・アクションで緩や かに対応していけばいい、しかし同時にそういう間接差別的な現象というのはあるもの においては非合理的で、正当性を持たないようなものも結構企業の現状であるという認 識をお持ちのようなご意見もあったのです。それでもなおかつこういう1つの法理とい う新しいロジックを打ち立てて、非合理性を是正していくという方向よりも、ポジティ ブアクションのほうが、現場の混乱が起きないのだからという、最大の理由はそうなの か。それでもそのほうが企業としても適切な対応なのだということなのですか。 ○川本委員  いま今田委員に言っていただけたとおりで、現場の混乱、合理性や間接差別に当たる ものにどんなものがあるかということについて、非常にいまわかりにくい中で、書いて あるとおり、理念的にはそうですね、まさしくこれは法制化すべきですねとは申し上げ られない段階であるということです。今日は皆さんからいろいろなご意見を聞きました ので、これはもちろん持ち帰り検討させていただきますが、非常に難しい段階であると いうことですし、そういう中で前向きな、要するに駄目というよりは言い方は難しいで すが、前向きに取り組んでいくのだという中での浸透を図っていくというのは、いま非 常に大事なのではないかと思っているということです。いずれにしても今日のいろいろ なご意見は私どもが持ち帰り、また内部で検討してみたいと思います。 ○佐藤(博)委員  こういう間接差別の考え方はそれなりに認めていただけたらと思います。合理性のと ころについてはなかなか予測をする可能性が高いような仕組みがいまはまだできていな いので現場が混乱するので心配だ、というお話だったのですが、例えばある程度、樋口 委員のお話もあったけれども、どういうようにその合理性のところを仕組んでいくかと いうこともあるのですが、もしある程度現場が予測可能な範囲の合理性の判断の基準が 示されれば、そういう場合はいい。それがあっても駄目だというわけではないというこ とですね。 ○川本委員  そうではなくて持ち帰り検討したいということでありましたが、まさしくいま佐藤委 員が言われたように、もし予測可能性がある合理性の判断基準というものがあれば、こ の間接差別の取り方はいろいろ先ほど委員も言われましたが、可能であるかどうか、こ れについては持ち帰って検討させていただきたいということです。あくまでもこれは現 場の実務管理をしている人たちの意見を踏まえたいということです。ただ、私が一言申 し上げたいのは、先ほど吉宮委員もずっと間接差別の概念を主張してきたと言われまし たが、やはりそういうのというのはいま団体交渉だけではなくて、実際にかなり労使協 議においては、労使団体交渉は絞られたものしかないと思われるかもしれませんが、そ うではなく協議で結構幅広な話が多くの企業でもされるようになって、労使関係はかな り良い時代になっていると思います。そういう中でこういう合理的説明云々という、こ の差別概念について、言葉は浸透していませんが、いずれにしてもそういうものが少し ずつ話し合われながら、浸透が図られていれば、また状況も違っているのかなと。そう いう意味では私は非常にまだ間接差別という言葉かどうかは別としても、この辺の概念 という考え方そのものは、まだ非常に浸透していないという思いはあるということを申 し上げておきたいと思います。 ○今田委員  少し付け加えさせていただきます。非合理な、あるいは正当性を持たないような雇用 管理が、それを企業としては糾していくことは、それはとても企業にとってクリティカ ルであるわけで、労働組合に利するというよりも、企業そのものにとって利する非常に 重要なことです。そういう意味からいけば、そういう基準をポジティブアクションとい うのはある意味では自己評価みたいなもので、緩やかに自己を顧みるみたいなものです が、そうではなくて自らの組織の非合理的な部分でまずい部分をきちんとスペシファイ して、糾していくという1つの進める戦略として、この間接差別の発想は、企業にとっ ては利する部分というのは大いにあるように思うのです。  混乱、混乱とおっしゃいますが、非合理的な部分をそのまま温存させたままというの は、企業にとっても適切でないと思うのですが、その点はどうですか。 ○川本委員  私どもは団体、という形で申し上げれば、いろいろな委員会報告を通じて合理的な説 明は大事である、公正さが大事であるといったことなどはいろいろ発表はしているし、 そういう意味で企業の啓蒙を図っていきたいということで活動をしているということ は、まず申し上げておきます。  その上に立って申し上げたいのですが、先ほど言ったこの合理性が、果たしてどこま での話なのか、どこまで間接差別に合理性があるかないかという話になってくるかとい ったときに、実は時代の変化とともにいろいろ変わってくる。グローバル化の影響でも 随分変わってきているわけです。先ほどある委員が言われたのですが、年功賃金という お話も当たるかもしれませんが、例えば勤続年数による賃金体制を採っている企業はた くさんあるわけです。こういうのが果たしてこの間接差別概念にあたるという話になる かもわからないです。本人がどう考えていくかによりますので、そういうものも含めて 非常に見えにくいというのも間違いない事実だと思っています。だから、そのぐらい結 構難しい話だということは申し上げておきたいと思います。理念がいいから、「はい、 いいでしょう」という話には簡単にはならないということを申し上げておきたいと思い ます。 ○吉宮委員  ここにEUとかイギリス、アメリカ、ドイツも含めてこういう法律を採っています と。企業は、その国の法理を受けているわけでしょう。そこはどうなのですか。そこは そっちで、日本では受け入れられているとなるのでしょうか。グローバリゼーションと いう言葉をよく使いますが、グローバリゼーションという場合に、自分たちの企業経営 が日本流と海外流と分けているのでしょうか。そこは私は詳しくないので、教えていた だきたいのですが。 ○川本委員  私もあまり詳しくないので今日はお答えできないということを申し上げておきたいと 思います。ただ、個々のその国における慣習や法に則った中で多分されているのかなと 思います。例えばそれを申し上げると、それぞれの国では、例えば処遇問題1つとって も、要は職務概念から処遇がスタートして、仕事にお金が付いてそこに人が張り付いて くというのがベースの国々もたくさんありますし、日本の国のように、ある意味では生 活者の立場を考えたのかもしれませんが、年功型賃金というものを編み出してやってき た所もある。しかしながら、それぞれ違った概念で走っているのですが、そういうグロ ーバル化の中で違った風土、またはやり方を定着している中で1つの概念が入ってきた ときにどうしていくのかということが当然出てくるわけです。だから、変えていくとな れば、どう変えていくのかという話になって、それは変えていくのに非常に時間的経過 もかかるでしょうし、そこに労使の自治の中でどうやっていくかというのも必要になっ てくるでしょうし、併せてそういうものが進んだ中で、法をどう整備していくのかとい うこともあるかなと。順番が逆の場合もあるかもしれませんが、いずれにしてもそうい うことからだと思います。ですから、外国がこうだから、では日本もこうと、そんな簡 単な話ではないと思います。日本には日本のやり方で独自にやってきたものも多々あ る。それについて個人的にいまの日本のやり方がいいかどうかというのは申し上げる立 場にはない。実は個々の企業でもさまざまな試みが行われているわけで、千差万別なや り方になっているということなのかと思っています。意見にならないような意見で申し 訳ありませんでした。 ○吉宮委員  1つの改革をするのは当然労働組合、労働者も痛みを伴うわけです。この7つの例で あっても、当然「はい、わかりました」とはならない。家族手当について、世帯主要 件、主たる生計維持者というのがあって、これが間接差別に値する。これは非常に合理 性を持たないといったときに、1万円もらっている妻手当というか配偶者手当は、果た してなくなる人はどうなるのかということが当然出てくるわけです。つまり、女性が非 常に相当程度不利益を被っている観点で改善するというのであれば、その説得は私ども はしなければ駄目です。不利益と従来通用した概念の争いなのです。それを組合が一生 懸命やっているわけです。もちろん賃金の場合もありますが、そこのところが改革なの であって、そこはお互いにまさに組合からいっても合理性、正当性ですから、それはお 互いに努力していくしかないのではないかと思うのです。女性の立場に立って、不利益 を被っている立場に立って、この案件がどうなのかというスタンスが非常に大事だと思 うのです。従来は正当性でもったかもしれないけれども、不利益をなくすという観点で どんな方法があるかということが、間接差別の法理というのが提起しているわけで、そ の立場に立つか立たないかです。 ○川本委員  吉宮委員に質問なのですが、先ほどコース別に触れたところで転勤の要件の話があっ て、例えば総合職の人間がいるけれども、実際に転勤していない人が10%いる。それな のにそれで総合職といえるのかというお話がありました。これも細かな話になってくる と議論になるところなのです。10%というのが会社はそういうつもりで採用していて も、全部が全部転勤をできるだけの動きがあるかないかというのは難しいところです し、または従業員管理の上で家族の問題があってそれに配慮するなどさまざまな問題が 出てくる。そうすると、ただ10%動かない人がいたら、それでもう制度的におかしいの かという話になるのかならないのか。そういう細かな話にまで入っていくようなので、 それをただ、あとは個別案件で何か説明があったけれども、それは合理的説明とは言え ないから、次は裁判だみたいなことになっていくのかいかないのか。そういうものも含 めて、実は大きな話になる概念導入だからこそ、いまのところ反対させていただいてい るし、今日の意見はまたお聞きした上で持ち帰って検討しますけれども、非常に難しい 問題だと思っているということは申し上げておきます。 ○吉宮委員  これは2月9日、課長が第41回均等分科会で説明したときのもので、9.5%の事業所 で、コース別雇用管理を採っており、労働者割合では27.5%である。その中でコース別 の企業を100とした場合に転勤要件が80%あります。その転勤要件がある中で、10年間 の転勤実績を見たら、10%が全くなかったと言っているのです。労働者が転勤がなかっ たのではなく、10%の企業で転勤実績が全くなかったという説明を課長がおっしゃって いる実態なのです。それは明らかにおかしいのではないかと。男女別で総合職と一般職 に振り分けていますから、それは間接差別ではないかと私が言って例に挙げたのです。 ○奥山委員  遅れまして話の流れをつかんでいるかどうか全然自信はないのですが、いまの吉宮委 員のお話と川本委員の間接差別のお話を聞いていますと、コース別雇用管理制度です が、間接差別の概念自身は研究会報告で一応3つぐらいの要件、性中立的な基準を立て て、それが適用されたこと。その適用の結果男女間に著しい結果の格差、あるいは効果 の格差が出たこと、そういう適用と格差について使用者が当該職務を遂行するにあたっ てそういう要件が要るのだといった場合に、そういう職務遂行についての関連性が認め られない、あるいは業務上の必要性がもっと大きな形でこういう業務についてはこうい うような要件が要るのだという要件が主張できない、正当性ができないという場合に、 初めて法律概念としてはそれが違法な間接差別にあたるのだということになるわけで す。ですから、間接差別という言葉自身は、法律的な評価を通して作る概念、あくまで も法律概念なのです。その上で、いまのコース別に当てはめていきますと、転勤要件が 採られた。こういう転勤要件がある会社に関して、基本的に男性が数の上では総合職に 就いていて、女性が圧倒的に総合職に就いていない。そのときに、その男女の格差がど のくらい広がっているか、転勤要件の絡みで見るわけですが、たまたま見たときに、男 性の中にも転勤していない人がいるではないか。そのときにそれを違法な間接差別の適 用の例と見るかどうかは、男性対女性に対してこの転勤要件がどのようにかかわってい るかということを、基本的には見ていくのが原則なのです。  その中で、男性に対して個別に見たときに、適用されていない人もいるではないかと いうのは、特別の問題で、それを個々的に会社側が証明しなければいけないということ ではないのです。全体として男性に対して、そこではそういう要件の適用が男性対女性 に対して、どんな比重を持って結果を作り出しているかというだけで、原則で見るのは 女性対男性というグループの中での問題なのです。そういう意味でたまたま転勤してい ない男性がいても、それは個別について、例えばできなかった、あるいは個人の事情で できない場合もあるわけで、それをいちいち証明できなければ、間接差別にあたるとい う概念ではないです。 ○吉宮委員  10%というのは課長が全く転勤実績がなかったということを事業所割合で言っている のです。10年間見たら実績が全くなかった事業所が10%ありましたと。だから総合職と 一般職で男性がほとんどだったのでしょうけれども、そのときに振り分けて、正当性と 事業主が言ったかもしれないけれども、結局男と女とを分けたものではないのではない かと、多分反論、または説明できると思うのです。 ○奥山委員  本質的には例えば1つの会社の中で規模が大きくなれば、当然会社全体の問題と、こ の事業所での問題とあります。そのときにその格差をどこを基準にして見るかというこ とは法律的には非常に大事なわけです。そのコース別管理制度が転勤要件と関連性が出 ている場合、その会社の中で当てはめている男性の割合と女性の場合、それをクリアし て総合職に就いている、前者の割合で見るのか、特別の個々の事業所の中での適用の問 題として見るのか、これはアメリカでもイギリスでも比較する分母をどこで見るかによ ってかなり違うのです。それを一緒に議論すると、かなり間接差別は・・・。 ○吉宮委員  先ほど川本委員が労働者割合で10%は転勤しなかったから間接差別であると私が言っ たのではないかと言うから、そうではなくて、課長の説明のときに10%の事業所で転勤 実績がなかったという説明を、私が紹介しただけであって・・・。 ○樋口委員  ちょっと質問です。例示を書くときに我々もよく慎重に書かなくてはいけないという ことがあるのですが、例えばいただいた資料No.2の8頁から10頁にかけて(1)から(7) というのが間接差別として考えられる例として挙がっています。この例を挙げていると いうのは、このほかにもたくさん間接差別があるけれども、その中からこれをたまたま ピックアップしましたという話なのか、ここに書いてあるのが間接差別であって、これ 以外についてはとりあえずは議論しないというようなつもりでこれが出ているのか、そ れによって先ほどから問題提起しているネガティブリストとポジティブリストでだいぶ 違うのではないか。例えば使用者側が懸念しているのはこのほかにもいっぱいある、そ の中でたまたま7つ出てきたのだという話で、そこがフォアキャスティングが可能かど うかというようなところで問題提起されているわけです。  ところが労組側が議論しているのはこの(1)から(7)のところについて議論していて、 これ以外について、または間接差別にはこういったものがありますよ、いっぱいありま すよということで言っているのか、どうも吉宮委員の先ほどの言い方だといっぱいあっ て、原則禁止、そして合理性があるものについては例外ということで認めましょうとい うことですから、ここのところが議論の分かれ目になってくるのではないかと思うので すが、これはどういう意味でこの7つが取り上げられたのかということについてお願い します。 ○奥山委員  これは研究会の座長というか、責任者として議論にかかわってきた関連から発言させ ていただきます。もし足りなければ事務局で補充していただきたいと思います。間接差 別というのがこれだけに限定されるのだということで議論した記憶は、少なくとも私に はないのです。諸外国の間接差別の法制などを議論しながら、ではこういうような差別 の新しい概念で、現状で日本の企業を取り巻く男女の雇用管理の中で議論されてきてい るし、あるいは間接差別の土俵で議論をしようとしたときに、こういうものが間接差別 として議論ができるのではないかということで挙げているものなのです。  先ほどから言っているように、抽象的には性中立的な基準が双方で適用されて、その 結果、男女間に強い格差が設けられる。その基準等を設けたことについて職務関連性や 業務上の必要性がなければ間接差別だという概念ですから、これ以外にも当然そういう 基準が仮に新しく立てられて、男女に適用された結果、著しい格差がそこで出てきて、 それによってそれが正当性が主張できないのであれば、それもやはり間接差別の1つの タイプだと思うのです。だから、ここに出てくるもので、すべて終わりだということで は理屈からいえば違うし、まだまだあり得るかもしれない。しかし、当面ここで間接差 別がこういう席上で議論される前から、実際上議論されていましたので、そういう議論 を中心に研究会報告では考えて、その方向付けと言ったら言い過ぎですが、要するに議 論の叩き台みたいなものを出しただけで、これがすべてでこれで終わりで何とかという ことでは、確か議論はなかったように思います。 ○樋口委員  ただ具体的に考えていったときに、やり方は2つあって、これは駄目ですよというよ うなやり方で間接差別を、ネガティブリストという形でやっていくということもあり得 るわけだし。 ○奥山委員  あり得るでしょうね。 ○樋口委員  もう1つは原則、全部駄目だということで、何でも間接差別にかかわってくる可能性 もありますよというようなこともあるわけで、どちらでいくのかということが多分、い まは具体的な問題として議論を聞いていると攻防が続いているのかなと思っていまし て、そこは委員の皆様方のご意見はどうでしょうか。 ○吉宮委員  私が証拠を示したように事案はすべて載りますよとした上で、アメリカの場合は昇進 事案が多いですとか、パートはあまり事案に入れられないとか、そういう特徴を示して います。 ○石井雇用均等政策課長  いま吉宮委員から発言がありましたが、もう1回整理して申し上げさせていただきた いと思います。資料No.2の3頁の下から3行目、諸外国の間接差別法理の状況で、原 則として一応どのような事案についても俎上に乗り得る仕組みになっていると書いてあ り、これは吉宮委員が引いてくださったのだと思います。あと具体的にアメリカ、イギ リス、EUと並べて書いていますが、適用される事例のところの6頁、アメリカのとこ ろをご覧ください。アメリカの場合は性差別だけですが、賃金については同一賃金法が 適用されて、結局アメリカの場合は差別的効果法理と呼んでますが、その法理は賃金に ついては適用しないということと、真正な先任権制度については特別に除外をした形で 規定をしている。明確に除外した形で規定をした上で、実際の適用例において採用や昇 進についてのものが多いという、若干微妙に違いがあるということもありますので、少 し補足させていただきました。あとは先ほどの樋口委員のご質問は奥山委員がおっしゃ ってくださったとおりで、これも報告書というか、資料No.2に則して申し上げますと、 7頁の(5)の間接差別として考えられる例のところに記載していますが上から2行 目、「これまで様々なところで間接差別に該当するのではないかと指摘されたものを中 心に、若干追加をした事例について検討を加えた」ということで、これですべてだと、 もともとこの研究会で言っていたものではないということです。 ○横溝分科会長  奥山委員に確認です。7頁の(3)です。 ○奥山委員  不必要、不合理な障壁というここですか。 ○横溝分科会長  はい。この項目は間接差別をを検討するにあたって留意すべきことの(3)のところな のですが、間接差別に該当する可能性があるかについてイメージを示し、予測可能性を 高め、法的安定性を高めることが必要であると、この間接差別を検討するにあたって、 これが必要だとおっしゃっているわけですね。 ○奥山委員  はい。 ○横溝分科会長  これをここで予測可能性を高め、法的安定性はどこにあるかということをここで議論 して、集約していくことが必要だと、そういう意味ですか。 ○奥山委員  ここでというのは、どういうことですか。 ○横溝分科会長  ここでというのはこの場で。 ○奥山委員  この審議会でですか。 ○横溝分科会長  そうです。 ○奥山委員  必ずしもそういう限定ではないのですが、いろいろな場で間接差別の議論をしていた だくことは十分可能だと思います。もちろんこういう立法に形作っていくための1つの プロセスとして、日本でこういう審議会を通して、これを中心に考えてくるということ になれば、こういうところで労使の代理人の皆様がお集まりいただいて、この問題を議 論されるについては、その議論の良い意味で正確な理解と、効果的な議論をしていくた めの基本的な概念に対する理解と認識が必要だろうと、そういうことの観点からこの留 意点を挙げさせていただいているわけです。ですから、これはどこで議論をする場合で も、例えば労使の中で自主交渉でお話をされる場合でも、やはりこういう概念に対する 正確な理解というのは、必要ではないかと思います。 ○横溝分科会長  それはそうですね。どこでも必要ですけれども、特にここでも必要だと思います。 ○奥山委員  そうですね。 ○横溝分科会長  折角の機会ですので、何かご意見がありましたらどうぞ。 ○川本委員  先ほど樋口委員が経営側のほうはこの(1)から(7)の中身についてはいいのだみたいな 感じのことを言われましたので、そうではありませんと先に申し上げておきます。特に 前回も申し上げましたが、この(4)についてはこれはポジティブアクションで取り組ん だらいいのではなかろうかということを申し上げましたし、(5)の家族手当の問題があ りましたが、これについては本来個別企業労使の話し合いの結果で決めてきた問題であ って、本来これが差別だったとか、当たらないという話ではないのではないかというこ とも確か申し上げたと思います。なお、この(1)から(7)について、ええ、そうですねと いうことを言っているわけではないということだけを、念のために申し上げておきたい と思います。 ○樋口委員  これでいいんだねと申し上げたのは、こういう議論をしていくということが重要なの ではないか。やはり具体例がないと、何が降ってくるかわからないというところでは議 論は進まないわけですので、具体例としてこういったものを、どちらになるかわかりま せんが、詰めていくことが重要なのではないでしょうか、その点はよろしいですねとい う意味です。 ○川本委員  それは結構です。 ○奥山委員  補足でなく確認的な意味で、コース別雇用管理制度の下でも、世帯主条項でもいいの ですが、要するに世帯主条項はすべて間接差別とか、コース別雇用管理制度の転勤条項 がすべて間接差別だという議論も、これは違うのです。ある会社でこういうコース別雇 用制度の下で転勤要件を課している。そういう転勤要件を課したものが、その当該企業 の中の男女の従業員社員に対して、どのような効果、結果をもたらしているかというこ とが問題なので、こういう制度それ自身がすべて間接差別にあたるということでもない という。だから、それは結局は紛争がそういう問題について起きたときに、著しい格差 を男女の間にどのくらい与えているか。それについてその会社でコース別雇用管理制度 の運用状況で、転勤要件を課したことの必要性がどの程度あるかという個別の判断にな っていくわけです。  ただ、一般的には日本の企業のこれまでの雇用管理の中では間接差別の議論につい て、ある程度俎上に乗せられるものはこういうコース別雇用管理制度における転勤要件 とか、家族手当等の世帯主要件としての条項などが、やはりこういう問題についてはか なり密接な関連があるというだけで、すべてそうですよということを報告書は言ってい ないです。 ○川本委員  いまの奥山委員のご発言に質問なのですが、いま転勤要件が絶対に悪いというわけで はないけれども、それがそれぞれ男女への雇用等を含めたものに影響を及ぼしているか という視点を言われましたが、その意味がよくわからなかったのです。結果的に転勤要 件があって転勤する人がほとんど男性で、コース別ならそこのコースに多くて、一方転 勤がないところに女性が多いということ自体は影響があるのだから、それはおかしいと いうことを言われたのですか。 ○奥山委員  いいえ、そんなことを言おうとしているわけではないです。そのときに、その会社の 中でそういう転勤要件の実際の当てはめについて、業務上の観点からみたときに、それ がもっともな理由が付くかどうかの問題です。ですから、この(1)から(7)を出して、こ れが全部間接差別の具体例ですよということを言おうとしているわけでは決してないと いうことを言いたいだけです。いいですね、そこは押さえておいてください。 ○吉宮委員  質問です。イギリス、ドイツは事案としてパートなりシングルマザーの社会的な問題 についても間接差別法理を使って救済している事案が多いと述べていますね。私の認識 に間違いなければなのですが、EUは均等待遇指令というのを持っていますね。これは フルタイム労働者と短時間労働者との均等待遇指令です。ということは、それもまさに 均等待遇ですから、その法理を使って、パートタイム労働者の均等待遇を図っていくの だと思うのですが、両方でやっているという理解、間接差別法理を使ってもやっている し、均等待遇指令を使ってもやっているということでいくということがあるのか、そう いうことでいいのか。なぜそういう質問をしたかというと、ある識者で日本の場合、パ ート問題は雇用形態の違いの差別なのだから、間接差別法理にはそぐわない。したがっ てそちらのほうが馴染むのではないかと、我が国は均等待遇指令は持っていませんし、 残念ながら指針しかないわけです。パート法はありますが枠組み要件の指針しかない。 だからといって議論にはなりませんが、パートタイム労働者が圧倒的に女性が我が国で も多い。樋口委員もおっしゃるように、これは正社員だけの法律なのかという議論を前 からしていましたが、要するに労働基準法上の労働者をこれは扱っているのでしょうか ら、フルタイム正社員であれ、パートタイム労働者員や派遣であれ、労働者である限り はこの均等法というのは当然対象になるわけです。そういう議論をするために、EUな りイギリスなどの動向を教えてください。 ○石井雇用均等政策課長  限られた情報でお答えします。確かにEUのほうではパートと正社員の均等待遇指令 もでき上がっているところですが、これは比較的最近のことではないかと思います。一 方、間接差別法理を使って、パートとフルタイムの賃金格差について、最初に判断され ているのは、1980年代で。ですから、パートとフルタイムの均等待遇指令ができるまで は特に男女に構成比に差がある場合においては、間接差別法理を使ってこういう問題に 対応されてきたところではないかと思います。ただ、直接、研究会の中でもそういう意 見が若干出たことが記憶にあるのですが、イギリスに詳しい先生が、これからは直接的 にパートとフルタイムを規定をした指令ができそれに基づいて国内法制も整備しなけれ ばいけないことになったわけですので、そちらのほうをより積極的に使っていくことに なるかもしれない。そうすると、そこは今後の動向として、まだ見えないというご発言 だったと記憶しています。 ○樋口委員  昨日たまたま友だちからメールが来て、時間差での差別禁止をイギリスは来年に向け ていま取り組んでいるということで具体的にどうも立法化の方向を打ち出していると聞 いています。まだ確認はされていませんが、そういう方向らしいというサイドインフォ メーションです。 ○谷中短時間・在宅労働課長  1997年にEU指令が出されていまして、それでパートと正社員というか、時間で差別 をしないようにということで出ています。2000年までに各国に法整備をするようにとな っていて、実際その前に整備されている国もありました。いま現在はイギリス、フラン ス、ドイツ、あるいはオランダなどがその指令に沿った形で、法的整備がなされている というのが現状です。  イギリスも2000年に時間差で差別はしてはならないという規則改正がなされており、 差別禁止というようにはなっているということです。 ○樋口委員  議論しているわけではないのですか。そうなのかもしれませんが、ジェトロから聞い た情報では、いままでは批准はしていなかった。そのためにという説明があったので。 ○谷中短時間・在宅労働課長  そこは私のほうももう一度確認してお答えしたいと思います。 ○吉宮委員  間接差別の議論を深めるために、アメリカについて使用者の職務関連性や業務上の必 要性が客観的に認められれば、格差があったとしてもそれは間接差別にはあたらないと している。イギリスについては要件・基準を適用することの必要性と、その結果出てく る不利益との間で、バランスが保たれるところが、もう1つ要件が入っているという。 イギリスの場合、どういうように理解をすればよいのでしょうか。事業主が説明する職 務上の必要性が与える不利益効果、不利益を受ける労働者とのバランスということで判 断するという、アメリカとは違いますよということですね。その場合、我が国の場合は どちらを考えるべきなのかという、私はイギリスのほうがいいなと思っているのです が。 ○奥山委員  この間接差別の問題で、諸外国の法制をまず勉強しようとしたときに、諸外国といっ ても間接差別の法理は、もともとアメリカの裁判法理で形成してきたもので、それを法 律の規定に格上げというか、具体化したものです。いまそれを最初にアメリカがやっ て、イギリスがそれをモデルにするような形で判例を積み重ねながら、幅もちょっと広 げながらということでやってきたわけです。正当性の要件を見たときに、私個人の感想 なのですが、いまの吉宮委員が言うのとは逆に、イギリスのほうがすごく企業の経営管 理という観点からすると、アメリカで正当性の要件と出している職務関連性、業務上の 必要性、特にいまアメリカの裁判例は職務関連性というところに絞って言葉を使ってい るみたいですが、それのほうが使用者にとってはタイトかなと。業務上ですと、労働者 に与える効果のバランスを考えるということは、もう少しそういう要件を立てることに よって、会社が雇用管理上非常に厳しい状況に置かれる。労働者に対して与える影響 と、会社がそういうものを否定されたときに受けるマイナス影響のバランスを考えてい るということだろうと思うのです。  そういうことを考えると、これは経営側のいわば経営上の影響に対する配慮をしてい るのではないかと思うのです。  アメリカのほうが一定の職務について、こういう要件を課すことが、その職務遂行に よって不可欠かどうかということで、ギリギリ絞った議論をやりますから、どうしても 正当性の口弁としては、かなりアメリカの裁判所のほうが厳しくなるのではないかと思 うのです。 ○吉宮委員  アメリカについては使用者側が業務の職務関連性を主張しますね。 ○奥山委員  はい。 ○吉宮委員  逆にまた労働者側が代案みたいなもの、こういう可能性があるではないかと言わない 限りは、それで終わりという意味なのでしょう。 ○奥山委員  言わなければ当然アメリカだって、裁判所で裁判所がそれ以上言えというわけではな いですから、それが抗弁として、あるいはその抗弁に対して再々抗弁として出てこなけ れば、当然そこのところの事情で判断です。でも、イギリスの場合にはそれプラス、さ らにそういう労働者と使用者のいわば利益衡量的な要素を含めた正当性判断をやってい ると思いますから、これはそういう点では経営側にとってもむしろプラス的な側面で影 響が出るのではないかと思うのです。そういう意味では、最後の例でいくつか正当性の 事由を研究会も挙げていますが、そういうところは私ども研究会の報告書としては、ア メリカだけの裁判例で出てきたような正当性抗弁だけでなく、少しイギリスの雇用審判 所で言っているような正当性の合理性抗弁なども少し挙げて議論してもらえるのかなと いうことで挙げたのです。そうしたら、ここはいくつかあるところからは、何か正当性 の範囲が広いというお叱りを受けているようですが、ここでは決してそうあるべきだと 言っているわけではなくて、そういうようにイギリスとアメリカの特にこういう間接差 別の法理が、裁判を通して紛争になっているときの正当性の事由として、少しアメリカ の考え方とイギリスの考え方が違う。こういう2つを入れるとこういうような幅で議論 はできるのではないかということで提起させていただいているだけなのです。これを日 本の場合はどちらを採るべきかとか、採ったらいいということは全然メンションしてい ませんし、それはもう委員の方でも全然違いました。 ○石井雇用均等政策課長  例えば事例の(1)をご覧ください。典型例として身長、体重、体力要件とあります。 実際にアメリカで性差別に差別的効果法理が適用されたのは、この身長、体重、体力要 件が初めてだったわけですが、実際に職務の遂行にあたって身長や体重、体力というの は本当に必要不可欠という場合には、これ1つだけで十分ということもあり得るわけで す。ただ、その辺の必要性というのは、実は相対的であって、もっとほかのやり方がな いのかしらというようなケースもあり得るわけで、そういうケースについては2つ目の ものも含めて考慮することもあるだろう。ですから、具体的に登場するケースによっ て、それは違いがあるということも念頭に置きながら、ここでは総合的に判断を行うと いうことで、たしかそういう言葉を選んだと記憶しています。もし、違うようでした ら、奥山委員に訂正いただければと思います。 ○奥山委員  決して違うわけではなくて、実は研究会でこういう議論をしていたときの正当性の抗 弁の問題をどう書くかということで、かなり悩んだことは事実です。と申しますのは、 ポチが2つあったり、3つあったりします。訴訟法のレベルでいいますと、まず最初に 原告である労働者側が雇用間接差別の議論をします。中立的要件でも著しい格差がある と、ここまでは基本的には原告側が証明しなければいけない立証責任がある問題なので す。これに対して正当性の抗弁として会社側が、いや、こういう要件を立てたことに は、こういう職務関連性とか業務上の必要性がある、正当性があるのだということを、 まず抗弁として言うわけです。例えばそれに対して課長が取り上げた2番目の要件とい うのは、そういう点からすると労働側の再抗弁なのです。そういうものはあるかもしれ ないけれども、それと同じような効果を出すのにほかの方法があるではないか。こうい うことの繰り返しで結局正当性があるかどうかというものの判断が、総合的に付けられ るのです。ですから、こうやって出したときに、いまおっしゃったように、全部会社側 が言わなければいけないのか、あるいはこれは全部揃わなければいけないのかというよ うに、ちょっと誤解が出てくるので、これは注意しなければいけないなとは、実は思っ ていたところです。しかし、こういう3つがあったりするときに、そういう実際の訴訟 で正当性のあるなしが判断されるときに、これはどちらかといえば使用者側のほうが正 当性の抗弁として言わなければならない事だと。それに対して労働側が再々抗弁という 格好で、いや、そういう正当性の抗弁は成り立ちませんよというようなことを言わなけ ればいけない。そういうものが入り組んでいますので、ちょっとわかりにくいところが あるのは事実なのです。しかし、基本的にはこういうもののやり取りの中で総合的に正 当性があるかどうかということが、裁判所の土俵では判断されるということなのです。 ○片岡委員  わかりました。あと意見なのですが、ちょっと気になるのが、川本委員が何度かおっ しゃった、私が想像するに、概念がまず出されていて、さらに事例が出されているの で、先ほどの事例の一つひとつを見ると、正確でなかったら訂正いただいてかまわない 意見なのですが、一つひとつを取り上げて、これはポジティブアクションでやったほう がいいとか、そういう判断というか、意見をおっしゃっていたので、私はどうもそこが 自分では納得いかないのです。つまり、この事例を全部見ると、これをポジティブアク ションでやるということは、この基準そのものが合理的だというようになってしまうの ではないかと。私はそのように受け止めてしまうのです。つまり、ここで出している事 例というのは、こういう性に中立な基準であっても、それを当てはめた結果という事例 を出しているから、間接性差別というものを考えていく上で、これは見直すという1つ の方向にこれ自体を、基準そのものを見直そうというように、事前にやるというような ことが、この事例からはできますね。この基準にポジティブアクションで、女性は少な いから当てはめようというのとは、ちょっと違うと思うのですが、私の質問の意味がわ からないでしょうか。 ○奥山委員  いまの片岡委員の話は多分こうではないかと思うのは、報告書に書いたように制度と いうか、法概念として間接差別の法理とポジティブアクションの仕組みとは違うものな のです。これは最初にも言いましたように、直接差別との違い、それからポジティブア クションの違いということを説明しているところなのですが、間接差別というのは差別 をする意図がなくても、結果として違法な差別ということで規制の対象になるような概 念なのです。新しい差別の違法概念なのです。そういう点で、違法差別なのだけれど も、意図がなくても成り得るということで、直接差別とは違うのです。ポジティブアク ションというのはいろいろな考え方があるでしょうけれども、少なくとも均等法で実施 しているのは、必ずしも違法な評価を受けないけれども、それを事実上の格差と呼んで いるわけですが。職場の中でいろいろなことが背景にあって出てくる事情は、必ずしも 法律的な評価を通して違法とは判断されないけれども、過去の企業で働く男女を取り巻 くいろいろな状況の中で、実際上の格差が出て、こういう格差を解消するために積極的 に改善のための取組をしようというのがポジティブアクションです。だから、そういう 点では間接差別の法理とポジティブアクションの考え方は違うのです。ここに出てきて いる例というのは、結果としてそういういろいろな仕組みで法的な評価をしたときに、 違法な直接差別という意図的差別ではないけれども、違法な評価を受けて、その被害者 に対する法的救済を与えるような概念なのですよというわけです。  だから、ポジティブアクションで代わりにやればいいではないかという議論は、ちょ っと出てこないことは出てこないです。 ○片岡委員  私に説明をいただきたいのは、それがわかった上で使用者の考えはどうかと。 ○奥山委員  別に片岡委員のほうを向いていますが、片岡委員を説得しようというのではなく、川 本委員にも言っているわけです。 ○片岡委員  私はそういうものだと思ってこの事例を見ているので、ポジティブアクションという アプローチは、研究会が4つの論点の中の1つに挙げている、ポジティブアクションを 積極的にやることは大賛成なので、そちらの議論でやることはわかるのだけれども、ど うもポジティブアクションのほうが先決だとおっしゃるので、この事例はそうではない ということを言いたいのです。 ○奥山委員  研究会の報告もそうです。もし、これを必ずしもすべての説明から繰り返し言ってい ますが、コース別雇用管理制度の転勤要件とか世帯主条項がすべて間接差別にあたると いう理解も間違っているのです。 ○片岡委員  それは段階として、ではこの中身にいきましょうというときに、いくつか意見がある という中にということですね。 ○奥山委員  そういうことだし、また一方で、こういうものはポジティブアクションで考えて対応 すれば、十分に対応できるということでもないのです。それは川本委員に言わなければ いけないことかもしれませんが。 ○片岡委員  私はわかっているつもりです。 ○奥山委員  ですから、そのときにポジティブアクションで仮にこれをやろうとしたときに、いま の均等法の現状のポジティブアクションというのはご承知のとおり、自主的取組です。 一応取組のステージはあります。問題状況の分析、問題点の発見、改善計画、実行、点 検、見直しと。いまは要するに自主的な取組で組んであるわけです。もし、仮にこれは 川本委員に対する批判でも何でもないのですが、考えていただきたいことで、もしこう いうような問題をまずポジティブアクションで進めていくべきだと考えられるのであれ ば、このポジティブアクションの中身というものを、もう少しある程度実効力のあるも のにしていくということが考えられるべきなのです。その点で、ポジティブアクション の問題もいまの現状で、啓発でいいのだと言われると、ちょっと私は引っかかるので す。もし、仮にこういう問題をポジティブアクションで進めていくべきだというのだっ たら、ポジティブアクションをもう少し強いものに、効果のあるものにしていかなけれ ばいまの現状の問題点というのは、なかなか進捗というか、いい方向には動かないので はないか。だから、そういう点ではいまのようなところを少し川本委員にもお考えいた だいて、議論がうまく噛み合うようにしていただくといいのかなと思っています。 ○川本委員  いまのご意見はいただきましたので、それはそれで持ち帰り、検討させていただきた いとは思っております。ただ、もう1回話は戻りますが、この研究会の今後のことは、 報告書の言わんとしていることはわかっているのですが、まさしく繰り返しになります が、要は法概念、法のところに間接差別の概念、つまり違法性になるという話を書い て、それで例が載っていますというのではなくて、先にいまの自主的取組のところに、 書いてある事例の中から、これだけではないかもしれませんが、こういうものを進めて いったほうがいいよね、啓蒙につながるねというところで、ポジティブアクションのと ころでまず対応していったらいいのではないだろうかというご意見を申し上げてきたと いうことです。 ○佐藤(博)委員  最後にまたポジティブアクションが出てきてしまうとよくわからないのですが、いま のコース別雇用管理についても、ガイドラインに出ていますね。川本委員が言われてい るのは、例えばそういうものを法律ではなくもっと強力に進める。だからコース別のこ とについて言えばいま厚生労働省に出されているようなこういうコース別は、やはり問 題ですよといくつか出していますね。そういうものを出して企業にその改善を求める。 ほかのものもそうですが、そういうことをイメージされていると考えていいですか。そ ういうときは現行法のポジティブアクションで何かをやるというと、ちょっとそこは説 明していただかないと、現行のポジティブアクションの中で、例えばこの差別につなが るようなコース別採用があったときに、それが現行のポジティブアクションの中で自主 的に改善されるということはどういうことなのか、ちょっとわからなくて、(2)で挙がる ようなもの、合理的ではなくコース別雇用管理があるとする。例えば先ほどの厚生労働 省のガイドラインであるように問題だというようなコース別雇用管理があるとします。 その企業がいまの現行のポジティブアクションに取り組むことによって、そのことに気 付く、改善するというプロセスがよくわからないので、お願いします。ポジティブアク ションという枠組みの中でそういうのが出てくるのかどうかということなのです。それ とは別に、いまガイドラインで言っているようなものを、ちゃんとやってくださいとい うのはよくわかるのです。コース別採用について厚生労働省はこういうのは駄目です よ、できるだけこういうのはなくしてくださいと言ってるものを、進めてください、で お願いするのはよくわかるのです。そのことと、現行の均等法の中でのポジティブアク ションという取組のあり方で、自動的に差別を産むようなコース別雇用管理があった場 合、それは改善されるのかという論理がよくわからないということなのです。 ○奥山委員  いまコース別は別の規定がありますから、要するにそういうイメージで、例は実はい ろいろありますが、そういうようにかなり詳しく書いていかないと、担保できませんね という意味で佐藤委員は言われたのでしょうか。 ○佐藤(博)委員  自主的な取組でやっていくのが望ましいと言われた自主的な取組として、川本委員が 考えられていることがどういうことなのかということなのです。それは2つあるかと思 っていて、1つはそれぞれ、例えばコース別でいえば、いま出ているようなガイドライ ンの内容のものを企業に言って、こういう点に問題があれば改善してくださいとお願い をすることです。ただ、これは現行法のポジティブアクションとは違うのではないかと いうのが私の理解で、そうでもないですかね。 ○川本委員  多分それでもポジティブアクションのいまの現行のものよりも、少し変化はするかも しれないけれども、イメージ的にはそんなに抜本的に違うということではないと思いま す。 ○石井雇用均等政策課長  少し補足しますと、私が申し上げるのも変ですが、現行のポジティブアクションのワ ークシートの中にも、奥山委員のご協力の下で作ったものですが、例えば男女共通の募 集採用条件であっても、女性が事実上満たしにくい場合、その条件の必要性や妥当性に ついて検討しましょうとか、こういうものが入っているわけで、そこが相当程度共通で あるということで、おっしゃっておられ、ただその場合でも、奥山委員からはいまの自 主的なという程度のものだったらどうなのでしょうかという疑問が、先ほど付されたと いう流れではないかと思います。 ○奥山委員  川本委員がおっしゃるような観点からすると、やはりこういういまの現状で女性が女 性であるがゆえに、いろいろな雇用管理上ハンディを負っているという、そういうハン ディを解消していくときに間接差別の法理をすぐ持ち出すのではなくて、ポジティブア クションという形で少し考えていったらいいのではないかというのも、もちろん考え方 としては1つあると思うのです。それは否定はしません。でも、もしそういうような観 点で議論するのであれば、やはり均等法のこの研究会の中でも議論しているポジティブ アクションの効果的な推進というところで、この自主的な取組という形で止まっている ところを一歩進めて、何かするということであれば私はわかるのです。でも、ポジティ ブアクションも現状のままで、当面啓発を中心にとおっしゃられると、えっというよう に私は思ったりするから、いまのところでちょっと考えてくださいねという話をしたか っただけです。 ○吉宮委員  定義の概念は。 ○横溝分科会長  研究会報告では定義はできているのですね。だから、それで皆さんがいいということ ならば、ただ、これを法文的にしようとすると・・・。 ○林委員  間接差別の概念として、いままでの議論の中で格差があった場合に職務関連性の関係 で正当性や合理性が認められるか、その合理性なり予測可能性というものを議論の中で 確かめていかなければいけないというようなことは、今日の議論でだいぶ出たと思うの です。それともう1つ、概念の中で他のグループと比較して、研究会の報告書が相当程 度の不利益と、別のところで著しい不利益という法制もあるかもしれませんが、相当程 度の不利益という場合の相当程度の不利益というものをどんなものとしてイメージして いくのか。そういうものについての議論を深めていかなければならないのではないかと 思います。特にイギリスの場合は使用者の必要性と差別的効果の程度とのバランスで考 えるという、1つのルールもあるので、その場合に合理性の問題としてはもう1つの前 の問題として、不利益の相当程度の不利益というものの議論も、もう少し明らかにして いくことによって、見通しが悪いとか、混乱が起こるというところに対する何か答えが 出てくるのではないかという気持を持っています。 ○横溝分科会長  だから、それがイメージを示して、予測可能性を高め、法的安定性を高めるという、 そこで皆さんが集約していかなければ、そこがいちばん難しいと思います。 ○佐藤(博)委員  会長は間接差別の概念について合意できなかったのではないかというお話だったので すが、この間接差別のここに書いてある定義は合意できている。ただ、相当程度の不利 益が何かというこの定義です。あとは合理性の定義についてはまだ議論されていない。 ここは合意できていない、というのが正しくて、この概念自体は私は一応合意できてい るかと思っています。そのときに相当程度の不利益は何かということについての定義 と、合理性の定義については合意できていない。 ○横溝分科会長  だから、請求原因的にいう間接差別というのはいいと思うのです。だけどセットにな っている合理性というのまで考慮するとすれば、まだということだと思います。そうい う意味で申し上げたのです。 ○奥山委員  いまのご質問のところの問題というのは、実は違法な間接差別にあたるかどうかは個 々のケースについて裁判所で、こういう問題の救済が図られたときに、ではその整理す るときの要件の適用と、その適用の結果比較し得る男女なら男女、人種なら人種間のあ いだのグループにおいて、どのくらいの格差が出ているか。それが違法性を判断すると きの大きな要素なのです。実はこの要素というのはケース・バイ・ケースで、私が調べ て研究会で議論したところ、この問題は格差の中身、それも賃金に対して大きな差をも たらすものなのか、こういう中身の問題と、単純に外形的にこういうものを提供したと きに利益を受ける男性の割合、人数、不利益を受ける女性の人数、割合、こういう人数 の間の格差、この2つがどうも入ってくるのです。著しいという場合には、アメリカで はEEOCというこの法律を執行している行政機関が5分の4ルールとか、一応の格差 を超えてしまうと、不合理だという目安があるのです。これはあくまでもガイドライン なのですが、裁判所はそれを尊重して基準を当てはめているのです。  イギリスにはそういうものがあるかどうか、その著しい格差の中身も内容自体の問題 と、数字的な比率の格差の問題の2つが入ってくるのです。こういう議論は訴訟になっ て上がったときの違法性と絡んだ合理性の問題として出てきますから、なかなか一律に 線引きするのは難しい。そういうものとして理解した上で、個々のケースでの当てはめ ということに、おそらくはなっていくのだろうと思うのです。そのときにアメリカは賃 金においては男女間にこういう格差が出たとしても、これは間接差別の問題として対応 しない。これはもっと特別法規の平等賃金法でやる。育児介護の問題についても、 Family and Medical Leave Actのほうで対応する。だから、格差が出ても、それに対し てどういう法的な対応をするかは国によって違うわけです。  イギリスの場合にはこういう問題も間接差別の枠の中で議論をしパートについても対 応しているわけです。育児介護の女性の負担の問題についても間接差別の枠の中で議論 をして対応していく。でも、アメリカはそれは個々の特別法規で対応していこうではな いか。パートについてもそういうもので扱っていこうではないかということの考え方な のです。そこはちょっと国の立法政策というか、そういうものと絡みますので、なかな かどちらがいいかということは、議論しにくいというか、わかりにくい点かと思いま す。 ○横溝分科会長  予定の時間を過ぎておりますので、今日はいろいろ貴重なご意見をいただきまして大 変ありがとうございました。 ○篠原委員  ちょっと間接差別の問題ではないのですが、今年の4月から次世代育成支援対策推進 法が始まっていて、各企業で行動計画が提出されていると思うのですが、是非、いま現 在、どのくらいの企業が提出をされているか。今回でなくて結構なので、近い開催時期 を見はからってご説明というか、報告をしていただきたいと思います。そのときに、例 えば業種別、都道府県別というような感じのデータがありましたら、お示しいただきた いと思います。 ○横溝分科会長  では伺っておきます。本日はこれにて終了させていただきますが、本日の署名委員は 労側が吉宮委員、使用者側は渡邊委員のお二方にお願いいたします。よろしくお願いい たします。次回の予定について事務局からお願いします。 ○石井雇用均等政策課長  次回は7月7日(木)午後2時から開催いたします。場所については調整中で、決ま り次第ご連絡をさせていただきます。 ○横溝分科会長  ではこれで終わりにいたします。どうもありがとうございました。 照会先:雇用均等・児童家庭局雇用均等政策課法規係(7836)