05/06/03 今後の労働時間制度に関する研究会第3回議事録            第3回今後の労働時間制度に関する研究会                        日時 平成17年6月3日(金)                           17:00〜                        場所 厚生労働省専用第22会議室 ○座長(諏訪)  ただいまから、第3回今後の労働時間制度に関する研究会を開催します。今日は、守 島先生がご欠席です。  早速、本日の議題に入ります。本日からヒアリング調査を開始します。今後の労働時 間制度のあり方について議論を進めていくに当たりましては、実際の現場における状況 をしっかりと把握するために、本日を含め数回にわたりまして企業と労使団体等から率 直にご意見をお伺いしたいと考えています。そこで、今日は連合からのヒアリングを実 施します。ヒアリングの出席者をご紹介させていただきます。連合総合労働局長の須賀 恭孝様、電機連合書記次長総合労働政策部門統轄の成瀬豊様、JAM副書記長組織部門 部門長の小山正樹様です。どうぞ、よろしくお願いします。連合からは予め、ヒアリン グ事項についての資料をまとめていただいています。また、米国のホワイトカラー・エ グゼンプションについて、おまとめになられた資料を提出していただいています。  早速、ヒアリング事項についてご説明をいただいた上で、質疑応答をしたいと思いま すので、よろしくお願いします。 ○須賀様  連合の須賀です。どうぞよろしくお願いします。ご紹介にありましたように、今日は 電機連合の成瀬とJAMの小山の3名で参加させていただいています。貴重な時間を与 えていただきましてありがとうございます。私ども労働組合として、労働時間の問題に 対してどういう考え方を持っているのかを、この場をお借りして表明したいと存じま す。  お手元のレジュメに基づいて私どもの考え方を説明いたします。その後、現場の実態 に詳しい2人からお話をさせていただきます。また冒頭に座長からご紹介がありました ように、私どもはこの2月にアメリカにホワイトカラー・エグゼンプションに関する調 査に行ってまいりまして、その調査報告書もお手元に配布させていただいていますの で、是非お見通しをいただければ幸いです。  それでは、レジュメに基づきまして私どもの考え方を述べたいと思います。最初に、 この研究会の目的について、私どもなりの意見を持っております。労働時間の現状をみ ますと、既にご承知のとおりなのですが、労働時間の二極化が指摘されています。特に 正社員、その中でも中堅クラスの長時間労働が非常に大きな問題となっています。この 長時間労働によるストレス、健康不安の高まり、さらには過労死、過労自殺の増加も指 摘をされています。また、家庭生活との両立あるいは地域活動への参加、自己の能力開 発など、仕事以外の生活と仕事との調和を図ることが大変困難な状況にあるという認識 を持っています。さらに、時間外労働を行っても賃金が支払われない、いわゆる不払残 業の横行も社会的な問題となっています。  私ども連合は、男女が共に仕事と生活を調和させ、健康で充実して働ける社会の実現 に向けて、このような長時間労働は直ちに是正していく必要があると考えますし、その ための労働時間対策として、まず第一に取り組むべき課題が、そのことだろうと考えて います。また、労働時間法制については、労働時間と労働者の心身への影響あるいは健 康面への影響、さらに労働時間と家庭生活、労働時間と地域社会、労働時間と能力開発 など、労働時間とそれ以外の時間との調和をどのようにして図るかという視点での検討 を進めていただく必要があるのではないかと考えています。  労働基準法ではご案内のように、労働時間の原則は1週40時間、1日8時間になって います。これは、労働力の再生産及び健康で文化的な最低限の生活を行っていくため に、いかなる地位あるいは立場にある労働者であっても、必ず守られなければならない 労働時間の原則となっています。企業が事業を行う場合、この法定労働時間を大前提と した運営、あるいは人員配置を行うことが当然の責務であると考えているところです。 総合規制改革会議や規制改革・民間解放推進会議等において、ホワイトカラー労働者の 労働時間規制のあり方が検討課題というふうに言われ続けているのも十分承知をしてい ますが、一方で各種の調査でも明らかなように、ホワイトカラーをはじめとした労働者 の長時間労働という問題は、非常に大きな問題となっていることも事実だと考えます。  先立って発表されたJILPTの調査をみると、時間外労働が増えるにつれて1日の 仕事で疲れ、退社後何もやる気になれない人の割合が増えている。つまり、労働時間が 長くなれば、そうした人の割合が増えるという結果も出ています。私どもが実施した 2004年の生活アンケートでも、同じような趣旨の設問をしていまして、50%を超える状 況で回収をしましたが、仕事と家庭の両立の負担感を軽減するために、必要なことのト ップに時間外労働の削減ということが挙げられています。また電機連合等においてもこ うした状況の調査をしており、同じような結果が出ているといます。  こうした現状の下で、専門家である先生方が集まって、この研究会が開催されている わけですが、その際の第一の検討課題が、「弾力的な働き方を可能とする労働時間規制 のあり方」となっていることについては、率直に言って私どもにとりましても、違和感 を禁じ得ないというのが実感です。こうした前提に立ちまして、設問項目に沿って、私 どもなりの考え等を述べてみたいと思います。  まず、「裁量労働制について」です。裁量労働制の実態は、後ほど2人の担当の方か ら述べてもらうことにしますが、企画業務型の裁量労働制の要件・手続が2003年の労働 基準法の改正によって緩和されたわけですが、それを機にこの制度を導入する事業所が 大きく増加をしているます。厚生労働省の調査によると、2003年12月末で292事業所で あったものが、2004年12月末には936事業所と、3倍以上に急激に増加していることが みて取れます。また、私どもも、2004年に労働時間の調査をしたわけですが、改正によ って対象事業所あるいは対象労働者が増えたと答えているところが31%強、改正によっ て導入あるいは導入の検討を始めたところが37%強ということで、この改正の影響がみ て取れるわけです。これは、法改正がなされまして対象事業所の要件が拡大されたとい う結果であるとみています。  もう1つは、企画業務型の裁量労働制の労使委員会についてです。これも2003年の労 基法改正で、労使委員会の選出に関する労働者からの信任手続が廃止されました。ま た、行政官庁への届出も廃止されたところです。さらに決議についても、全員合意から 5分の4以上の多数で決議ができるという状況になったわけですが、この労使委員会の 委員の半数は、過半数労働組合がない場合には、過半数代表者が指名をすることになっ ていまして、これは従前のままではありますが、そもそも過半数代表の選出方法につい ては公正で民主的な選出手続が定められていません。そのために、労使委員会の委員選 出に際しては、労働者からの信任手続が不可欠であると私どもとしては考えているとこ ろです。また、決議の5分の4の要件については、辛うじて労働者の過半数が確保でき るという基準だと考えられますので、労働者の過半数の賛成で導入することの是非につ いてご検討いただきたいと考えています。  「労使双方の働き方の多様なニーズに十分対応できているか」という質問をいただい ていますが、労働者からの働き方に関するニーズに応えるものとしては、コアタイムの 短いフレックスタイム制が考えられるのではないかと思います。変形労働、裁量労働、 フレックスタイムなど、既に十分に弾力的で柔軟な労働時間制度が存在しているわけで あります。これらを上手に活用すれば、労使双方にとって多様なニーズを満たす働き 方、働かせ方に十分に対応できるはずだと考えています。  2つ目の「労働時間規制の適用除外について」です。この間、労働時間法制の議論の 中では、必ずといっていいほどアメリカのホワイトカラー・エグゼンプション制度が引 き合いに出されてきています。先ほども紹介しましたように、この2月にそうした状況 に対応するために、私ども連合はアメリカに調査団を派遣しました。今日参加している 2名も、その調査団に加わったわけですが、この調査には労働条件分科会の労働側委員 を中心にして、主要な産別組織からの担当者も参加をしたところです。  訪問した所は労働組合、連邦政府、企業、使用者団体と大きく4つですが、特に制度 の運用実態を把握するということで1週間という短い期間ではありましたが、調査を実 施してきました。そこでもちました感想について、3つ指摘したいと思います。  1つ目は、日本とアメリカでは既に先生方もご承知のとおり、労働時間法制をはじめ として、権利意識も含めた意識・文化・慣行などがあまりにも違いすぎるのではないか ということです。労働時間法制に限ってみても、日本には1週間40時間、1日8時間の 法定労働時間の原則が定められていまして、その下でフレックスタイム、変形労働、専 門業務型裁量労働、企画業務型裁量労働など、労使合意を前提とした弾力的で柔軟な労 働時間制度があります。一方、アメリカの公正労働基準法には、1週間40時間を超えた 労働時間に対しては、通常の賃金の1.5倍以上の時間外賃金を支払うことだけが決められ ているわけで、柔軟な制度というものはありません。この原則から、適用除外となるエ グゼンプトとなるのか否かは、連邦労働省の規則で定める要件に合致するか否かだけで ありまして、労使協定や労働者の選択権は一切ありません。また使用者の健康・安全配 慮義務の有無、ブルーカラーとホワイトカラーとでの賃金支払方法の違いなど、雇用賃 金構造などにも大きな違いがあると考えています。  2つ目は、アメリカでは適用除外であるエグゼンプトの範囲が日本の適用除外の範囲 よりも広いところがあると思います。公正労働基準法が制定された当時のエグゼンプト は、ご承知のように高い俸給と昇進の機会があり、経営に近い存在として、法律の保護 を必要としない上級労働者が対象とされてきたわけです。しかし、肉体労働が減少し、 ホワイトカラーが増加する中で、エクゼンプトの対象も増加をしてきています。さら に、昨年の規則改正ではファーストフード等におけるアシスタントマネージャー、ある いは4年制の大学卒業ではなくとも、それと同等の技術を習得したシェフ、作業所のチ ームリーダーといった人たちもエクゼンプトになることが例示をされているわけです。 また、このエグゼンプトの要件の1つの俸給水準については、ご承知のように週給155 ドルから週給455ドルに引き上げられたわけですが、年収ベース、つまり2万3,660ド ル、日本円に換算するとおおよそ250万円ですが、この年収ベースをもって時間外賃金 を適用除外とするには、あまりにもこの水準は低いのではないかという印象をもちまし た。  3つ目は、今回の訪問はエグゼンプトの要件に関する規則改正後から間もなかったわ けで、そのため時間外賃金や規則改正の影響等についても、労使双方の意見を聴けまし た。そこからわかったことは、エグゼンプトの対象者に関する議論は実は働き方を巡る 問題ではなくて、時間外労働の賃金を支払うか支払わないかというコスト問題だったと いうことが、よくわかったわけです。以上のことから私ども調査団としては、アメリカ のホワイトカラー・エグゼンプション制度の内容を日本に導入することは、木に竹を接 ぐようなものだという認識を持ちましたし、導入すべきではないという結論に達したと ころです。  労働時間に関しては、既に弾力的で柔軟な労働時間制度があります。これに加えて、 具体的にどのような制度が必要とされているのか。労働者からすれば、切実なニーズは 時間外労働の削減、あるいは家族的な責任や自身の能力開発、地域活動への参加等々が 中心でありまして、仕事と両立させられる労働時間制度というものをどう作り上げてい くのか。適用除外とすることで、これらが実現するとはとても思えない状況にあると考 えています。また、ヒアリングの調査項目の中では、「労働時間規制を適用除外する場 合に、対象者の範囲、要件及び効果、健康確保等のための措置、苦情処理その他の措置 をどのように考えるか」とありますが、まず現状以上に適用除外を拡大する必要はない と考えています。仮に、労働時間規制の適用除外について検討するとしても、アメリカ だけを参考にすることは十分ではないと考えています。ドイツやフランスなどの法制も 参考にすべきであろうと考えていることを申し添えておきます。  3つ目の「管理監督者について」です。現行法では労働基準法の第41条において、労 働時間規制の適用除外が定められているわけですが、課題を3つ指摘させていただきま す。1点目は、適用除外とされている管理監督者についてですが、その範囲は法律には 書かれていません。そのために、明確ではなくて非常に曖昧です。通達では部長、工場 長等労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある者であり、 名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものとされていますが、現実には課長、部 長、係長というような管理職的な肩書きを与えて、それによって不払残業をさせるとい うことなど拡大解釈されている面も非常に多くあります。私ども連合が不払残業撲滅キ ャンペーンの一環として実施した電話相談にも、こうした事例が数多く寄せられてきた のも事実でありまして、このことを裏付けているものと考えています。  2点目は、管理監督者等の適用除外者についてですが、企画業務型裁量労働制の場合 に定められているように、健康・安全配慮義務の観点から、労働時間の把握や健康確保 措置などを義務付ける必要があると考えています。とりわけ、正社員の削減で労働負荷 が高まり、現場の管理監督者やスタッフ職にも大きな皺寄せが生じ、過労死や過労自殺 の増加も指摘をされているところです。こうした労働者の働き過ぎを防止し、健康で働 き続けられるようにするためにも労働時間の把握と健康確保措置、苦情処理の仕組みが 不可欠であると考えています。  3点目は、労働基準法第41条では労働時間、休憩及び休日に関する規定からの適用除 外が定められているわけですが、適用除外してもよいものは何なのかについても検討す べきであると考えています。また、長時間労働とならないためには、現在は措置をされ ていませんが、適用除外者の代償措置、例えば、勤務実態に応じた特別な休暇の付与、 まとまった日数の有給休暇取得促進、あるいは週休2日の強制などについても検討すべ きであると考えています。さらに適用除外の範囲は、拡大すべきでないと考えていま す。現行法で十分に足りているとみているところです。  4つ目の「年次有給休暇の取得促進について」です。年次有給休暇の取得が進まない 理由の1つには、休むと同僚に迷惑がかかる、あとで多忙になるというためらいが挙げ られていますが、この背景には要員配置が適正でないことや仕事の小口化などがあるだ ろうとみられるわけです。そのため、計画的年休の付与あるいは取得の促進に務めるの は当然のことですが、職場の労使が要員の適正な配置や業務遂行のあり方も含めて、年 休の取得促進について協議することは極めて有効な手段であると認識をしています。年 休取得だけでなく、所定外労働についても労使で仕事の進め方の見直しを協議するな ど、現場で努力できることは数多くあると考えています。また、病気などに備えて有給 休暇を取得しないでおく面もあるために、家族の病気に対する看護休暇や最低でも5日 程度の配偶者出産休暇の新設など、いろいろな休暇の拡大を図ることも必要であろうと 考えています。  5つ目の「所定外労働の削減について」ですが、新たな労働者の雇入れと時間外労働 での対応とが、コスト的に均衡する均衡割増賃金率は52.2%と言われおり、現在の25% の法定割増率はあまりにも低いと考えています。欧米など先進国の中でも、日本は際立 って低い状況にあります。時間外労働を削減するには、時間外割増率を速やかに50%に 引き上げ、さらに休日労働は100%、深夜労働は50%に引き上げるべきだと考えていま す。こうした措置によりまして若年層、女性、高齢者の正規雇用を増やしていくという ワークシェアリングの効果も期待できると考えています。アメリカの公正労働基準法や ヨーロッパ諸国の労働時間政策には、このワークシェアリングの視点が含まれていま す。30代の男性では、4人に1人が毎日4時間以上の時間外労働をしている労働者であ る一方で、安定した雇用機会に恵まれない若年層、女性、高齢者も数多く存在している 日本においては、このワークシェアリングの視点こそ諸外国から学ぶべきではないかと 考えています。  最後の「その他」ですが、時間外限度基準の見直しについて意見を申し上げたいと思 います。「特別条項付き協定」については、特別な事情は臨時的な場合に限るとの改正 がなされたところですが、労働者の健康を確保した適正な運用が図られるよう、指導を 徹底する必要があると考えています。併せて、臨時的な場合であれば何時間の協定でも 可能とするのではなく、特別条項付き協定を適用する場合の上限時間の設定についても 検討すべきであろうと考えています。場合によっては、この基準を超えた場合にはさら に割増率を引き上げるという意見もあることを申し添えておきます。  長くなりましたが、あと2人から現場の実態を交えて、意見を述べさせていただきた いと思います。 ○成瀬様  電機連合の成瀬です。よろしくお願いします。裁量労働制の運用実態についてを中心 的にということだと思いますが、若干こちらで用意させていただいた資料を資料2の次 に付けています。運用実態の話に直接入る前に、それを踏まえた電機連合の機関決定な り報告書がいくつかありますので、ここで最初にご紹介をしたいと思います。  この資料を作成するために、電機連合の最高決議機関である大会及び、それに次ぐ決 議機関である中央委員会の諸決定を16年前まで遡って、主なものをピックアップしまし た。このほかにもいくつかありますが、大体トーンはほぼ同じで、4つだけ代表的なも のを抜き出しています。裁量労働についての見解、最初に出したものですが、1頁の 1989年第37回定期大会の下から2行目、「慎重な対応を行う必要があるが、(中略)今 後前向きに検討を行うこととする」としています。そこから10年下って、1999年第47回 定期大会「中期運動方針」というところでは、「裁量労働制、(中略)柔軟で多様な働 き方のできる仕組づくりを検討します」というトーンです。2000年は、ご覧のように9 行ほど言及をしていますが、下のパラグラフを見ていただくと「それは長時間労働の代 替であってはならず、制度の悪用を防ぐための労働組合の役割はますます重要になりま す。(中略)多様な働き方のルールづくり、労働時間短縮の新たなる取組み、心身の健 康管理などの労働安全・衛生管理、制度運営の公正性、苦情処理のルール化などの視点 からも検討を深めていきます」としているところです。  2頁は、2005年第53回定期大会で決定をする予定の見解ですが、ほぼ同文の内容を今 年1月の中央委員会で異議なく了承されていますので、ほぼこのとおり決定をされると 見込んでいる内容です。「裁量労働制については、真に自分の裁量で創造性が発揮でき る層への積極的な導入を図ると同時に、そうでない層への安易な導入を避けるという考 え方を基本に」しているということです。次のパラグラフにあるように、「裁量性ある 仕事に就いている場合には、現行法で規定される働き方でカバーし得るか否かを検証し つつ、課題がある場合には日本版エグゼンプションを含めて研究・検討します」と表明 をするつもりです。  3頁と4頁は、同じく今年の大会に報告をする予定の報告書でありまして、奇しくも この研究会第1回のときに、私ども電機連合の平成15年の大会への報告書を抜粋して引 用していただいているようでありますが、それと格としては同じ位置づけになる報告書 です。ここでは裁量労働制をはじめ、労働時間の柔軟化の問題については何カ所も言及 をしていまして、3頁のIの4つ目のポツの2行目で「労働時間の柔軟化・弾力化制度 の導入の本来の趣旨は、『労働負荷の軽減』と『労働の人間化』に寄与するということ にあったはず」と指摘をさせていただいて、第3パラグラフで「しかし」ということ で、フレックスタイム制云々とありますが、「導入職場や制度の適用者個人の実態にお いては、必ずしも『労働の人間化』や『労働負荷の軽減』にはつながっていない現実が ある」と。その次は省略しますが、最後のパラグラフの「フレックスタイム制、変形労 働時間制や裁量労働制などの労働時間の柔軟化・弾力化には、法の定める趣旨に則った 労働時間の管理や把握の徹底など適正な運用が求められる」と指摘をさせていただいて います。  IIの3つ目のポツもほぼ同じトーンですが、(以下、略)の5行ぐらい上に、「効率 的な働き方をすることを通じて、より豊富な『生活時間』を確保するとの視点が前提で ある。電機連合が、こうした法制度導入について積極的に関与してきたのは、そうした 視点からで、この前提条件が満たされているかどうか常に検証し、課題があれば1つひ とつ解決していかなければならない」。「より豊富な生活時間を確保することに役立た ないような労働時間制度の柔軟化・弾力化には同意できないし、これからもそのスタン スである」と表明をさせていただくところです。  4頁の3行目、「『労働負荷の軽減』、『労働の人間化』のためには労働時間の柔軟 化・弾力化を図ると同時に、適正な労働時間管理がなされることが必要十分条件であっ たが」、ここからは実態の話を少し記載をさせていただいていますが、「産業構造の変 化に伴う多品種少量生産への移行、仕事単位の小口化・短納期化、企業組織のフラット 化などが、労働時間の適正な管理を難しくし、時間外労働の増大や休暇取得の低下を招 くことになった」という指摘をさせていただきます。その下に2.「裁量労働制」とい う箇所があります。「裁量労働制の取組経過と現状」が5行ほどあります。データとし ては古いですが、2001年時点で電機連合としては加盟組合に調査をしています。2001年 夏の数字は、専門業務型裁量労働制を導入しているのは15社、15組合です。企画業務型 で2社、検討中が27社です。従事している組合員数は約4万人と、当時は推定をしまし た。  ちなみに、5頁、6頁には、本研究会の第1回研究会で引用をしていただいている中 間報告において、特定の部分だけを抜き出すとかなりニュアンス上正しく受け取られな い可能性が高いと思われましたので、裁量労働に関して記載をした部分について、現状 や概要は制度の概要などの説明ですから略していますが、電機連合として各加盟組合 に、どういう点に留意をして導入をしなさいという指導をしているかということについ て、すべて抜き出していますので、後ほどご覧いただきたいと思います。以上が6頁ま での説明です。7頁と8頁は、あとでまたご説明をしたいと思いますが、裁量労働の実 態ということでいうと、データ的には恐縮ですが先ほど言ったとおり2001年時点のデー タしかありませんでした。組合数や人数については先ほど言ったとおりで、4万人とい うことでいうと電機連合の組合員の約6%になります。  先ほども少し述べましたが、電機産業においては1980年代、1990年代、21世紀となる に従ってサービス化、ソフト化が進行しており、組合員の相当数もホワイトカラーにな っていると想定をされるというか、そういう調査結果も出ています。一方、産業的には グローバル競争の激化ということが非常に顕著でありまして、そういうものが相俟って 産業構造の変化というものがこの間進行をしていますが、繰り返しになりますが大量生 産から多品種少量生産への移行というのが顕著であります。ホワイトカラーの職場でい うと、仕事の単位が小口化・短納期化というのがまた非常に顕著でありまして、従来で あれば3桁なり数十人でやっていた仕事が10人、20人、数人という小さいグループでの 仕事、あるいはいろいろな設計なり開発なり、システム開発といった仕事についても、 従来は納期が長かったのがこの間、非常に短くなっている傾向があります。  そういう中で、仕事の仕組というものが当然変わってきているわけで、同時に企業組 織のフラット化というところもあります。こういう諸々の変化が相俟って、従来はホワ イトカラーの上層部と言うと語弊があるかもしれませんが、上層部分は裁量性があると いうことで、仕事の量の裁量性及び仕事を進める手順の裁量性の両方あったところがあ ると思いますが、近年は手順における裁量性はあるけれども、仕事の量自体は自分でコ ントロールができないという層が拡大してきているのではないかと考えている次第で す。この点については、それを裏付けるデータを残念ながら今は有していませんが、そ ういう仮説の下で調査をした上で、今後電機連合の運動方針の中に反映をしていきたい と考えています。  資料に戻りまして、7頁と8頁を若干ご説明したいと思います。電機連合としまし て、先ほど機関決定のところで触れましたが、1999年に中期運動方針を確定しました。 この間、非常に大きな状況変化の中で、中期運動方針の補強見直しを2005年の大会で行 うところですが、そのための基礎資料として集めたアンケートが7頁と8頁の内容で す。この内容をご紹介したいと思います。設問についてはその一部、労働時間に関する 部分の設問を抜粋をして7頁に記載しています。結果は8頁ですが、非常に興味深い結 果が現れています。アンケートの対象は、一般組合員及び組合役員で、一般組合員は全 加盟組合を対象に3,000人で、これは人数比で加盟組合に割り振っています。組合役員 に対しては、無作為抽出で加盟組合から88組合を選び、その88組合の中で952人の役員 から回答を得ました。7頁と8頁の両方を見ながらで恐縮ではありますが、クエスチョ ンの1です。「あなたは、自分の仕事の進捗と休日出勤・残業との関係について、どの ように考えていますか」という設問をしています。8頁のアンサー1で、組合員では 「休日出勤や残業の規制を一切気にせず、仕事に打ち込みたい」が9.6%、「仕事をや りやすくするため、休日出勤・残業の規制を緩和してほしい」が25.3%に対して、「36 協定など、労使間の取決めにそって仕事をしたい」が41.8%、「仕事の進捗を犠牲にし ても、休日出勤・残業に関する規制を強めてほしい」が14.8%となっています。総体多 数は現状の規制は、その程度の規制が必要だという考えです。  一方、同設問に対する組合役員の回答は、「36協定など休日出勤・残業に関する労使 間の取決めにそって仕事をしたい」が顕著に増加をして59.3%となっています。  1つ飛ばして、クエスチョンの3です。「『一定の収入の確保を条件に、休日出勤や 残業の規制を撤廃してはどうか』という考え方があります」。これはエクゼンプション にも通ずる考え方にも思いますが、「あなたは、このような考えについてどう思います か」という設問です。8頁のアンサーの3で、これについて組合員のほうでは「収入の 如何に関わらず、休日出勤・残業の規制は撤廃した方がよい」が7.0%、「一定の収入 が確保されれば規制はない方がよい」が31.1%に対し、「収入の如何に関わらず、休日 出勤・残業規制は維持した方がよい」が49.5%という数字です。これは一般組合員の数 字ですが、その下にある組合役員になるとかなり様相が変わっていまして、「収入の如 何に関わらず、休日出勤・残業の規制は維持した方がよい」が74.4%という圧倒的な比 率に達していることをご報告します。規制緩和あるいは撤廃については、4.2%や17.4 %とわずかにとどまっています。  クエスチョンの2に戻ります。「あなたは健康管理と休日出勤・残業の規制との関係 について、どのように考えていますか」という設問です。組合員のほうでは、「健康を より増進させるため、規制の強化」が27.4%、「現状の規制が役立っているので現行ど おりでよい」が39.1%。「健康管理は個人の自己責任なので、規制は緩和した方がよい 」が21.0%に留まっています。組合役員という意味では、この傾向がさらに顕著になっ ていて、「現行どおりの規制がよい」が51.4%、「健康増進のためにはより規制強化」 が32.5%で、この2つを合わせると84%に達することをご報告します。これから言える ことは、同じ規制を維持した方がよいのか緩和した方がよいのか、強化した方がよいの かという質問についても、設問の作り方1つで大きく結果が変わるということで、規制 改革・民間解放推進会議のほうでも、今回の適用除外の拡大については、わざわざ労働 者の健康に配慮する措置等を講ずる中でと付け加えていらっしゃることも踏まえれば、 その点との関連で労働者のニーズは何なのだと聞く限りにおいては、規制の維持、強化 が総体多数であろうと言えると考えています。  クエスチョンの4、5は、不払残業の問題についてです。4は取組みの現状、5は今 後不払残業の撲滅の強化をした方がいいのか、取り組む必要はないのかという質問で す。時間の関係で、この2問については簡単に触れたいと思いますが、8頁のアンサー の4の取組みの現状についてはご覧のとおりで、組合役員の方では「効果を発揮してい る」が8.1%、「まあまあ効果を発揮している」が44.6%に対して、「効果を発揮して いない」が35.3%、「全く発揮していない」が7.4%と2分をされているわけですが、 一般組合員の方ではかなりシビアに見ていて、「全く効果を発揮していない」「あまり 効果を発揮していない」という数字がある程度高いです。アンサーの5の不払残業につ いては、「取組みを強化し、撲滅してほしい」は組合員は57.6%、「現状程度の取組み を続けてほしい」が24.9%ということで、合計すると82.5%。組合役員ですと、この2 つの合計が94%で、大多数の現場の組合員から見れば不払残業が実際に存在するか、実 際には存在していなくても発生する可能性があると認識をしており、その撲滅の必要性 を考えていることを示しているのだろうと思います。以上が、私からのご報告とさせて いただきます。 ○須賀様  続いて、小山から意見を述べたいと思います。 ○小山様  JAMの小山です。私からは特に資料は用意していませんで、JAMの各単組の中の 実態をお話ししたいと思います。  私どもの組織には、約2,000の単位労働組合が加入をしていますが、労働条件調査を 通じて裁量労働制を導入されていると確認をしているのが58組合です。もっとも、我々 の所は中小企業が多いものですから、比較的大手の組合の方が導入率が高いことは事実 です。その大手の組合のメンバーで、裁量労働制についての研究会をここのところずっ と開催して、この間にどういう問題があるのか、あるいは導入を巡ってどういう悩みが あるのかという意見交換をしています。意外と導入していない所が多くありまして、会 社からは是非導入してくれと言われているけれども、止めているというケースがいくつ か見られます。  その中で、なぜ導入できないのかという問題なのです。よく、手続の煩雑さとかいろ いろ言いますが、これは手続問題ではありません。要するに働き方として、その裁量労 働制になじまない実態になっていると申し上げていいのではないかと思います。具体的 にどういうことかというと、電機連合のお話がありましたが、例えば1980年代と比べた ら、今の働き方は全く変わったと言ってもいいだろうと思います。そこはどう違うかと いうと、専門業務型であっても研究開発の部門でも、納期があるわけです。新製品を出 す納期、3カ月後には新しい製品を出さなければいけない。その納期に間に合わせて開 発しなさいという仕事が出てくるわけです。なおかつ、この間コスト問題が厳しく言わ れる中で、人員が非常に限られているという状態にあります。そうすると、どういうこ とが起こるかというと、先ほど成瀬さんの言った言葉そのとおりなのですが、仕事の量 についてのコントロールができない。仕事の量に対する裁量がないわけです。3カ月後 には1つのものを作り上げていかなければならないという実態になるわけです。そうす ると、いくら裁量労働制といって労働時間についての裁量を与えられたとしても、実際 はどういう働き方をするかというと、毎月何十時間という長時間の超過労働をせざるを 得ないという実態が、目の前にあるわけです。そうすると、そこの対象の組合員がどう 言っているかというと、仕事の量に対する裁量がないのに、いくら労働時間の裁量を入 れられても、それはとても同意できないということで、職場からの反対の声が非常に強 いということです。  このことから考えると、裁量労働制というのは確かにそれになじむ職場もあると思い ます。研究開発でも、例えば2、3年かけて基礎的な研究をして、いい結果を出してく れればいいというようなものでしたら、非常にそれはなじんだ裁量労働制としての働き 方ができると思いますが、今多くの実態でいくと、この専門業務型の研究開発の分野で あっても、仕事の量の裁量がないという問題を我々は理解をしておかないと、とんでも ないことになるのではないかということです。何か自由な働き方ができるように思われ がちですが、職場の実態でいくと、とてもそんな状況ではないというのが現実です。で すから、労働組合がしっかりしているところは導入をストップしているわけです。労使 合意ができないというところで、会社側からは頻りに導入を働きかけてくるわけです が、止めざるを得ないことになっています。  これは専門業務型ですが、企画業務型はさらにそういう状況が言えるだろうと思いま す。特に我々の製造業の働き方というと、10年、20年前とは全く違う職場の実態がある ということを、これはあまりデータの数字で出てくる話ではありませんから、先生方に も是非個別の事例の研究をしていただきたいし、先ほど申し上げた1つの例はある有名 な企業の状況ですので、いつでも紹介しますから、職場の実態の生の声を是非お聞きい ただきたいと思います。それが、今の裁量労働を巡る実態ですので、仮にホワイトカラ ー・エクゼンプションというような制度が導入されるとしたら、これは自由に働くので はなくて長時間労働の時間外労働手当が払われないままに、あるいは長時間労働が放置 されたままに、対象労働者が働かざるを得ないという事態を作り上げることにしかなら ないのではないかということです。  さらに、今の裁量労働制を導入している労働組合の中でもどういう問題があるかとい うと、例えばみなしで30時間という線を引いてやるとします。実態は、どれだけ働いて いるのかという問題です。これは同じ産別の中でも、なかなか単組の人が報告したがら ないことなので、あまり公の席で申し上げるわけにはいかないのですが、みなしの時間 で収まっている実態はどの程度とは言いにくいですが、かなり上回っている実態が多い のではないかと言っていいのではないかと思います。ある単組で私どもの研究会の報告 の中では、厳密に30時間を超えた所は、労使できちんと監視をして必ず裁量労働制の対 象から外すことをやっている所もあります。でも、そこまできちんとやれている所は、 非常にしっかりした労使だろうと思います。多くの所は80時間やろうと100時間やろう と、実態としては不払残業の温床になっているというのが、今の裁量労働制の現実では ないか。これは数値をもって、ここで皆さんに申し上げるわけにはいかないのですが、 私が受けている実感です。以上です。 ○座長  どうもありがとうございました。それでは早速、質疑応答に入りたいと思います。ご 自由にご質問、ご意見等をお願いします。補足はよろしいですか。では、適宜質問に対 する回答の中でお願いします。 ○佐藤様  現状認識がとても大事だと思いますので、いろいろ教えていただきたいのです。まず は労働時間の強化や長労働時間ということで、いろいろな統計でもそういうことが指摘 されていますし、今ご報告のあったような現状があるだろうと思います。  しかし、この研究会でとりわけてポイントになってくるのは、ホワイトカラー層の労 働時間というものが、実で見たときに何時間ぐらいかが非常に重要なポイントです。短 時間パートと60時間以上層が増えているという、労働力調査でやっている人数の把握を もって長時間になっているというのは1つの背景としてはあるけれども、ポイントにあ るのはご指摘のあったようにホワイトカラー層のところで、取りわけてフレックスや裁 量という働き方をしている人たちの実の時間の長さはどうなっているのか。そういうふ うに制度の対象になったら、労働時間は長くなるのか、長くならないのか、変わらない のか。ここのところの現状が、まずは重要になってくると思います。ここのところで、 いろいろな主観的な調査でやるしかないから、いくつかの調査は電機連合やその他でも やっていますし、いくつかの研究機関でもやっていますが、つまりどのデータに依拠す ることで認識するのがいいのかという部分については、データがピシッと安定しないと いう印象を持っています。どうもわからない。どっちを取ったらいいのか、というの が。ここがピシッと安定すると、非常に議論として現状認識が正確になるのですが、ど うもその辺がよくわからないところがあって、その辺のご認識について、データなどが もしいろいろあれば、追加的に教えてもらいたいというのが1点です。  2点目は、これも現状認識に関して不払残業の話なのですが、確かに今おっしゃった ように業務量に対し要員が少なすぎるとか、業務が非常に小口化して、要するに労働ミ スが濃くなっているという中で、こなしきれない業務が発生する。それに対して十分な 時間外の割増が払われていないという意味でのサービスが発生しているという部分は否 定し難い数字だと私も思いますが、もう一方ではこれは労働者の過少申請という現象で もあるのです。つまり労働者がある意味ではそういう働き方について意識的にか無意識 的にかは別としても、実に働いた時間よりも短く申請してしまっているという現象も、 これは指摘されているわけなのです。これも結局、要するにサービスの問題を現状とし て把握するときに、どちらがどういう文脈で発生しているのかということについてのデ ータもいくつかはあるのですが、やはり私には安定したものが、どうもないのです。い ろいろな機関で調査はあるのです。だけども本当のところはよくわからないのです。特 にホワイトのところになってくるとわからない。そこがますます謎めくので、結局ある 意味では自分たちの主張をするところでそういうデータがあるというのはもちろんなの ですが、逆のこういうデータもあるという話になったときに、ある種の平行線を辿って しまうという印象を持っているということで伺っております。  3つ目は、いつの時代もそうなんですが、要するに仕事の変化ということでいうと、 作業量を一定としたときに、それをこなす場合には人と時間を掛けたものでこなすわけ です。話の中では作業量が、いろいろな環境の変化で増えてきているという状況として 聞かれているわけです。あと人はあまり増やせない、そうすると時間が長くなってしま うという道理なのです。結局悩ましいのはこの研究会でやるときに、労働時間制度につ いての研究を主にするのですが、これにはいろいろ波及、関連する要因がたくさんある わけなのです。作業量の調整というのは実に大事なのですが、労働時間との関連でいう と、ではどこまで踏み込んだらいいかという問題が、この研究会ではあると思うので す。要員管理もまさにそうです。というように時間なのですが、それを追っかけていく と人と要員、仕事量という話になってくるわけなので、その問題はまさに残業の問題も 年休の問題も、詰めていくとそこに出てくる。研究会では一体どこまで詰めて、どこま でを限定をするかという悩ましさがあるというふうに私は認識していますので、できれ ばこの研究会では、どの範囲まで含めた検討をお願いされたいかというか、要望として あるかという点について、ご示唆をいただきたいということです。 ○須賀様  データ的な部分については、後ほど紹介できる分を、紹介させていただくことにした いと思います。  最初にご指摘のあった現状の認識と不払残業の状況というのは、どちらも同じ話だろ うというように考えますが、これは一番根底にあるのは、ホワイトカラーの仕事の質 が、非常に把握しにくい部分があることだと思うのです。つまり在社時間と言えばいい のか在席時間と言えばいいのでしょうか、就業規則で何時から何時まで働くというよう になっているのですが、実働という意味では働いてない時間もあるのかもしれません。 でもやはりそこは始業、終業という1つの時間で計るしかない性格の労働として割り切 るしかないのではないかというように、私どもは見たいと思っています。たとえば、二 日酔いだからと言ってボーッとしている部分があっても、働いていないわけではなく て、働くための予備時間でもあるわけですね。私どもはそこも含めて、労働だととらえ る必要がある。始業、終業という労働時間を把握していく枠組みの中で、労働時間とい うものを考えていくべきではないかということです。いろいろなデータがあるのも事実 だと思いますが、どのデータを信用したらいいかは、先生方がいろいろなデータを見た 中でどういう判断をされるかというのは、ここで結論を出していただければいい話であ って、このデータが正しいとか正しくないということを、私どもは言うべき状況にはな いと思います。  この研究会でどこまでのことをやればいいのかというご指摘であったわけですが、基 本的にはいま労働時間として私どもが一番問題にしているのは、やはり長時間労働が、 ここ数年非常に増えているということなのです。その増えている背景には、企業の絞り 込みによって、どの企業においても人員が大幅に減ってきています。もう一方で非正規 という呼ばれ方をする派遣や、請負の労働者が増えてきます。単純な業務はそれでこな せるのですが、少し判断がいる、あるいは少し裁量がいるというようなところになって くると、そういう人たちではできない。そうすると、その部分が勢い正社員に跳ね返っ てくる、それが大きな負荷になり、先ほども2人の方から指摘をしましたように、所定 内でそれを消化できない。当然それは残業、あるいは過勤務という形になってくるとい う悪循環が繰り返されているのではないかということを、一番強く問題意識を持ってい ます。  いま1つありますのは、現にそうやって大きな負荷を受けている労働者がいる反面 で、働かないのか働けないのかわからずいろいろな見方がありますが、若年層の失業 が、いま非常に大きな問題になってきています。女性の社会進出は進んでいるとはい え、非常に限られた分野でしか働けないという状況もあります。また、高齢者の雇用問 題というのもあります。いろいろな層によって雇用問題の質は違うのですが、そういっ たものにも十分に対応できるような労働時間法制、つまりワークシェアリングというこ とを念頭に置いた労働時間の研究というものが必要ではないかと考えておりまして、こ の2つのことについて、特に強調させていただきたいと思います。 ○成瀬様  ちょっと補足を何点かさせていただきたいと思います。まず1つ目のホワイトカラー の労働時間の実態ということですが、すみません、残念ながら手持の資料にホワイトカ ラーだけを特定したものはございません。電機連合で、毎年実労働時間というものを調 査しています。電機連合の組合員のうち、先ほど産業構造のサービス化、ソフト化の進 行ということで申し上げましたが、そういう中で現在組合員のうち7割に届くぐらいが ホワイトカラーということになっています。残念ながらホワイトカラーと生産労働者を 区分したデータはいま手元に持っておりませんが、全組合員の平均ということになりま すが、所定外労働時間について、1993年は、年間179.5時間、2003年は272.7時間で、 179.5時間〜272.7時間ということで、10年間で93.2時間伸びています。もちろんこの間 に産業構造が変わってホワイトカラーの比率が高まっているというのもありますが、た だその比率が高まっているだけでは当然説明ができないぐらい、長時間化が進行したと いうところであります。ちなみに休暇の取得日数、これについては1993年ではなくて 1994年のデータですが、1人平均17.4日取得というのが、2003年には14.8日ということ で、これもまた顕著に休暇取得の低下ということが表れています。  2つ目の不払残業は労働者の側の問題もあるのではないかというところですが、確か にそれも一因だろうと思います。私は1998年から労働組合の専従役員をやっているわけ ですが、それ以前はシステムエンジニアをやっておりました。そのシステムエンジニア の中で、組合専従役員になる直前の3年間については、裁量労働に従事をしていた経験 があります。そういう経験から申し上げますと、もちろん私自身の経験だけではなく て、周りの状況や他社、他組合の状況も踏まえてということですが、先ほどから言うよ うに、仕事単位が小型化、小口化してきた、組織がフラット化してきたという中で、い ろいろな管理、従来であれば管理職層がやっていた部分が、その下の一般従業員という か、要は組合員の一部である主任、係長クラスに、どんどん権限が委譲されてきたこと は言えると思います。  どういうことが進行しているかといいますと、私はソフト開発の職場であったわけで すが、要は損益管理を従来は管理職が任されていたのがグループリーダー、さらにはそ の下のサブリーダーまで下りてくるという中で、損益管理といった場合に、当然収入は 別として支出の部分について言えば、それは人件費なわけなのです。要は部下及び外 注、アウトソーシングしている場合には、請負なり派遣の委託費プラス部下の人件費、 さらに言えば、自分自身の人件費、自分自身の残業手当、これまで管理を任されてい る。つまり自分自身の時間外手当が増えれば増えるほど、自分が任されているプロジェ クトの損益が悪くなるという状況の中で、自己申告というやり方でやるならば、例えば 自分のプロジェクトの損益を良くするためには、実態どおり自己申告するのを躊躇せざ るを得ないという状況もあるのは、事実だろうと思います。そういう中で正直に自己申 告できるのは、ある意味強く主張できる個人だけでして、大多数の強くない個人につい ては、なかなか難しいのが実態であろうと思います。  3点目の関係で、若干補足をさせていただきます。先ほど言いましたとおり、3年ほ ど私は裁量労働制に従事した経験がありますし、その他見聞きした経験から言います と、現状の裁量労働というのは、かなり弾力的、柔軟な働き方ができる働き方だと私は 思っており、電機連合としても思っています。電機連合は先ほどから言いましたとお り、創造性ある本人の裁量に任された仕事、働き方というのを従来から目指しておりま すが、また釈迦に説法で非常に恐縮ですが、裁量労働自体の定義が労働基準法で規定さ れているとおり、例えば専門業務型でいえば業務の性質上、その遂行の方法を大幅に当 該業務に従事する労働者の裁量に委ねる必要があるため、ちょっと途中省略しますが、 対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に 対し、使用者は具体的に指示をしないこと、というようになっていますので、ある意味 それを法律及び施行規則を適切に遂行すれば十分弾力的な仕事の進め方ができるという ように確信をしております。  現場の実態で、もし創造的な仕事ができなくて、労働者本人の裁量と創造性が発揮さ れ得ないという現実があるとしたら、それは私の見てきた中でも実際あったのですが、 制度に原因があるわけではなく、労働者本人の資質、あるいは上司との関係、あるいは 職務の特性、仕事の量、納期の短さ、いま5点挙げましたが、そのいずれかに本質的な 原因がある可能性が高いというように考えているところでありまして、それらの本質的 原因を取り除かないで制度をいくら変更しても、たぶん何の解決にもなり得ないのだろ うと思っています。したがいまして、先ほどの最後のご質問に即して言えば、新たな労 働時間制度の導入はあえてする必要はなくて、現在の制度をどう実効あるものとして運 用していくのかということを、それぞれの会社の労使自身の中で、労使及び現場の管理 職、現場の労働者の4者が十分に智恵を絞って解決していけばいい課題だというように 思っています。 ○水町様  3つ質問があります。1つ目は、お話の中で不払残業問題や管理監督者の範囲が拡大 解釈されている、いわば違法な状態が事業場の中にあるわけですが、組合が存在してい ながら、なぜそれに対して実効的なチェックが果たせなかったのか。もし組合が違法な 状態を是正しようとした場合に障害があったとすれば何なのかということを、お教えい ただきたい。  2番目は、労使委員会の委員選出の所ですが、現行制度では労働者側委員については 過半数組合、または過半数代表が指名して労働者側委員を決めるということになってい ますが、これをもう少し多様な労働者とか多様な労働者のニーズ、例えば非正規パート の人が多ければその人たちも選出されるように、過半数代表者によって全員を指名する というシステム以外の比例代表的なものもありますから、そういうものに変えるという ことに対して、組合の方としてはどういうご意見をお持ちなのか。  3番目は、最後に小山さんがお話された働き方、特に仕事量についてのコントロール ができないという働き方が最近増えているというお話がありましたが、それは変化とし ていつごろから見られるようになったのか。背景は例えばプラザ合意なのか、バブルの 崩壊なのか、それとも情報化が進展していく中で大競争時代に突入したからなのか、そ こら辺の具体的なイメージというか、印象があれば教えていただきたいです。 ○須賀様  法違反の状態に対して労働組合がチェックを果たせなかった、あるいはそこにどんな ハードルがあったのかということですが、基本的にはすべての組合がそういう状態を是 正するチェック行っていると思っています。ただし、もう一方で、先ほど成瀬のほうか らも言ったような働き手側の、つまり労働者側の意識にもよく見られたいという部分が ありまして、過少申告してしまう部分が出てくるのです。それを厳密にやりなさいとい うことで労働組合としてはチェックしていますが、すべてがそれでチェックができると いうわけではないと思います。ただし、原則論を申し上げるつもりはありませんが、そ れぞれの組合できちっとした取組みもしておりますし、私どもの連合としてもそうした キャンペーンをやったりしています。その結果、波があって、そういうことをきちんと やろうといって全体で取り組んだときには減るのですが、また徐々に不払残業が増えて くるという繰り返しの状態は、なかなか改善できないと思います。ただし、これからも そうしたことに対して、労働組合としてきちんとチェックをする必要があると思いま す。  ハードルがあるということにつきましては、従業員であると同時に組合員であるとい う部分が、組合員の意識を権利意識に強く働かせられないという部分は否定できないと 思います。これは日本の労働組合に限った話ではないのかもしれませんが、よく見られ たい、あるいは評価されたいという思いも一方にありますから、それをハードルという ように見るのかどうかですが、そういう課題があると思います。  過半数代表の指名に関しての連合の意見は、先ほど申し上げましたとおり、過半数代 表を選出する手続規定が明確ではないのです。誰が過半数を代表しているのか、代表者 がきちんと選ばれたのかどうかということが、一番手続的な問題としてあると思いま す。その代表が、本当に労働者のことを代表しているのかどうか。過半数労働組合があ れば一定の手続を取り、あるいは労組法的にも認知されていることになるわけですが、 そうではない場合のときにどういう手続で選んでいくのか、この辺が明確ではありませ んので、まずそこをきちんとすることが必要であろうと考えていまして、その上で過半 数代表者の指名をするということが重要だと思っています。  最後の点の質問は、小山さんのほうからお願いします。 ○小山様  変化の時期には明確にいつという区切りがあるわけではないですが、90年代の後半以 降グローバル化、国際競争の激化というようなことが非常に大きな要因になっていると 思います。とりわけそこにきて、さらにこの1、2年でいえば、仕事量が一時期ドンと 落ちたのが急激に増えているという実態にありますので、特にこの1、2年にさらに状 況が悪化しているというのが、今の変化の特徴ではないかというように思います。 ○須賀様  すみません、手続のことともう1つは、きちんとした代表としての全従業員からの信 任というのが、どうしても必要だろうと思っています。この2点です。 ○成瀬様  いまの1点目を若干補足させていただきますと、先ほど私どもが出した資料の8頁に 関連することなのだろうと思いますが、強い個人になった労働者はこういう問題がある と言えると思うのですが、そうでない人にとっては、結局不払残業を自分がせざるを得 ない状況にある、あるいは自分はしてないにしても、同僚でこういう実態があるという ことを言うことは、結局内部告発と同じで、かなりハードルが高い問題だというところ をご認識をいただきたいと思います。やはり労働組合執行部に対しても、一般組合員は 隠すのです。それを言うと、刑事罰をも科されるぐらいの重大な法違反であるというの は、そこはかなり理解をしていますが、自分が告発のきっかけにはなりたくない。自分 はなりたくないが、執行部が何とか撲滅の運動に取り組んでほしいという、ある意味ち ょっと矛盾した心理でもあるのですが、そういうところです。 ○水町様  組合が知らなければ、そういう問題はないのですね。個人が何も組合に言わなくて、 組合が知らなくて個人が隠しているだけの問題だったらいいですが、組合としてそうい う問題があると認識したときに、個人ではなくて組合としてどういう行動をとるのかと いう問題なのですが、何となくわかった気がします。 ○山川様  現場ないし実態のご指摘をいただいたのですが、さらにもうちょっと数値的な、ある いは具体的なデータがもしあればとお伺いしたく思います。1つは休日労働が増加して いるかどうかという点でありまして、もう1つは今の水町先生の点とも関わるのです が、裁量労働制で企画業務型は元からですし、今回専門業務型でも苦情処理ということ が決議事項ないし協定事項として出てきたので、苦情のデータを何か集められているか どうか。  健康確保措置についても同様で、どのような健康確保措置がなされているかというデ ータがあるかどうか。以上との関係では、労使委員会なり過半数代表なりのベストプラ クティスと言うのでしょうか、組合としてこういう苦情処理が妥当であるとか、こうい う健康確保措置が妥当であるといった取組みのようなものがあるかどうかをお伺いでき ればと思います。 ○成瀬様  まず、先ほど時間外労働の電機連合のデータをご報告しましたが、残念ながら平日の 時間外労働と休日労働を区分して集計しておりませんので、休日労働については、すみ ませんがちょっと実態はわかりません。 ○須賀様  先ほどの法改正が行われて、間がないものですから、私どもなりのデータをまだきち んと取りきれていません。  健康確保措置や苦情処理のベストプラクティスについては、これも審議会等の中で主 張してきたとおりなのですが、これがベストだというのは、私ども連合の立場からいう と、それぞれの企業でのやり方、あるいは労働時間の実態、先ほど電機の方からも紹介 がありましたように、産業によってブルー、ホワイトの比率が非常に違う。私も実は鉄 鋼の出身なのですが、ブルーカラーと言いましても、ほとんどホワイトカラー的な状態 になっています。どこまでがブルーカラーかホワイトカラーかわからないような状況ま で今進んできていまして、そういう産業の違い、あるいは構成の違いによって、これが いいという部分はなかなか出せないと思っています。やはりここは、当該の労使がきち んとそのことについて話し合う、あるいは仮にそういう土壌がないのであれば、代表者 をきちんとした手続で選んで、労働者全体からの信任をもって、その人たちが経営側と 話し合う、こういうものがベストプラクティスとしては妥当なのではないかというお答 えしか、今はできません。先々連合としてそういう基準をつくろうという考えは、いま のところ持ち得ていませんが、この研究会の動向を見ながら、もし私どもが望ましくな い方向での結論が出るようであれば、また検討してみたいと思っています。 ○今田様  ちょっと聞き逃したのかもしれないので、3つばかりお伺いします。1つは裁量労働 についての評価をどのようにしておられるのかということなのですが、ご意見を伺う と、非常に弾力的な働き方として裁量労働は非常に機能をしていると非常に高い評価を されている一方で、かなりいろいろ問題もあるというようにもお考えになっていらっし ゃるのですが、それはまさに今の裁量労働をいろいろ手直しをすれば問題は解決する、 そういう考えでおられると考えていいかということが1つ。  2点目としては、裁量労働と働きすぎに関係して議論されているのですが、長時間労 働や働きすぎというのは、一般的な傾向として裁量労働と直接関係ない人たちも長時間 労働化というのもあるわけですから、裁量労働と直接働きすぎとの関連ということで議 論されているのかどうかということは、お聞きしたいということです。  3番目は、今議論されているアメリカのホワイトカラーエグゼンプトというのは、か つてのナイーブな議論のような、一般的にホワイトカラーと言われているような俗称ホ ワイトカラー全般に対して、エグゼンプトとして捉えようというのではなく、JILP Tの報告書で述べられているように、ホワイトカラーの中でも一定の制限を設けて、制 限的にエグゼンプトという役割に対してそういう働き方、ルールを適用しようという枠 組みとして考えられるわけです。そうなると一定の条件が日本的な雇用の職場環境等に 適用したようなルールが確立、付加されれば、あえて別にそういうことの導入に大きく 反対するという理由もあまりはっきりしなくなるのではないかと思われるのですが、そ ういうことに関してはどうでしょうか。 ○須賀様  裁量労働の評価については、裁量労働そのものの善し悪しを問うつもりはありません が、やはり有効に活用されているというように思っています。ただ、要は裁量の与え 方、先ほど成瀬の方からもちょっと言いましたが、裁量の与え方で済んでいる部分と、 裁量を超えて仕事量そのものが増えてきている中で、裁量の発揮の仕様がないという部 分があるのだと思います。そういう中で2番目の質問とも関わるのでしょうが、働きす ぎているのではなくて、働きすぎにならざるを得ないほどの状況が、職場の中には広が ってきているというのが、実態だろうと思います。そういう意味からしますと、既に今 いろいろな労働時間法制が弾力化してきている中で、それらを上手に組み合わせれば、 あえてまた、さらに弾力化させて、ホワイトカラー・エグゼンプションでも何でもいい のですが、さらにまたそれを弾力化させようというのは、何を目的にしているのかとい うことが、私どもにはわからないのです。多様な働き方に応える、多様なニーズがある のだからそれに応える、だったら今ある、すでに柔軟化している制度で、十分に対応で きるはずなのです。それを十分に消化しきれてない、こなせていないところに問題があ るのであって、当該の労使なり、あるいは当該の管理職なり、実際に現場で働いている 組合員がもっと工夫をすれば、今の十分に柔軟化された労働時間法制の中で、私どもは 十分にその多様のニーズは、吸収できるというように考えています。したがって、一定 の要件を日本的ルールでつくってやるということもあるのではないかと最後におっしゃ いましたが、その必要は私はないと考えております。 ○座長  ほかの点はよろしいですか。今のでお答えと見ていいのですか。最初の所の働きすぎ と裁量労働というのは、鶏と卵のような関係なのか、あるいは片方があるからもう片方 へいくのか。それとも本来は何の関係もないが、たまたま重なって見えているのかとい う質問の部分は、どんなふうに認識されていますか。 ○小山様  まず裁量労働制の評価は、それに適した仕事、業務をやっている人にとってはいい制 度だろうと思うのです。ですから、それは評価しなければならない。しかし、適してな いにもかかわらず裁量労働制を入れて、そしてそれがコスト管理、要するに残業代で変 動しないようにコスト管理をやりやすくする手段として使われているとしたら、それは その使い方が悪いということであって、では制度を手直しすれば良くなるかというとそ うではなくて、相応しい業務のところに相応しい裁量労働制を使っていれば十分弾力的 な働き方、効果的な人間らしい働き方ができるのではないかと思います。制度上の問題 ではなく、運用の問題だというように考えたほうが、私はいいと思うのです。  それから、働きすぎかどうかというのは、これは裁量労働制とは関係ないと思いま す。そうではなくて、現実に企業間競争が非常に厳しい中で、人が少ない、しかしこれ だけは上げないと、会社の利益が出ない。我々労働組合であっても企業別の労働組合の 中で、やはり会社の収益を上げるということに対して協力をするわけですから、結果的 に長時間労働ということになっていくわけです。しかし、少なくとも法律はちゃんと守 れよということで今やっていても、現場の方はどんどん進んでしまうような矛盾が起こ っているのが、現状だろうと思います。  景気の面もプラスされていますが、もう1つ基本的に大きな構造の変化、特に厳しい 市場競争の中で、かつてとは考えられないくらいの企業運営をせざるを得ない事態にな っているというのが、大きな原因だというように思います。そこにさらに景気がプラス されてくるわけですから、今は非常に異常な状況になっているということです。 ○成瀬様  言いたいことはほぼ同じですので、重複するところは避けますが、電機連合では、可 能な組合については、組合員の労働時間のデータを出してもらっています。ただ、裁量 労働従事者についてはデータ提供を求めていませんので、裁量労働者が裁量労働ではな い組合員との比較で労働時間が長いのかどうなのかは、データをもっては検証はできま せん。ただ、私が経験若しくは見聞きした範囲で考えると、本来論理的には関係がない はずではありますが、実際上は裁量労働者の方が長いように見受けられ、おそらく要因 としては2つあるのだろうと思います。  1つは労働時間制度の問題ではなくて、その人が要は主任クラス、グループリーダー クラスであることが、かなり大きな要因であろう。もう1つ補足的には、先ほど言った ように損益管理が、いわば主任クラスまで任されているという関係から、裁量労働でな ければ時間外手当が増大するので、ある程度自分の判断で歯止めになるのですが、そう ではない人について見れば、自分が担当しているプロジェクトの損益を良くするために は裁量労働者の人件費はあらかじめ固定されていますので、ついたくさん働きすぎてし まう、そういう傾向はあるのではないかというように見受けられます。 ○座長  ほかの先生方には申し訳ありませんが、ちょっと時間オーバーなので、荒木先生で終 わりにします。 ○荒木様  いくつかあるのですが、1点のみに絞って質問させていただきます。電機連合の調査 結果を、非常に興味深く拝見しました。最後の8頁の アンサー1の所で、多数は規制 を望んでいるという話でしたが、左の2つ、規制を気にせずに仕事に打ち込みたい、あ るいは仕事のため規制を緩和してほしいというのが、組合員の中で35%います。これは 非常に多い数字だというように受けとめたのです。そこでお聞きしたいのは、1つは現 状の規制は過剰だと思っている35%の人たちについても、本来これは規制すべきだとい う考えなのか、それとも、こういう人たちについては、むしろ規制の緩和を認めてもよ いという考えなのかをお聞きしたいと思います。  もう1点お聞きしたいのは、規制の下で許すか許さないかを認めるというのと、むし ろ規制を緩和してほしいという黒い部分と白い部分の区分、これが客観的にできるのか どうか。そこで線が引けるというのであればそこでひとつ線を引くという選択肢はある のですが、そういうことは観念されているのか。いろいろなやり方があると思うのです が、客観的な仕事の内容で区分されて、こういう人たちは区分線の左側の人、こういう 人たちは右側の人ということなのか、それとも一定の手続を踏んだ上であれば、これは 本人が規制にとらわれない自由な働き方を望んでいるというような区分けができるの か、そもそも区分するのは難しいということなのか。この区分の仕方は何かあり得るの かについてお教えいただければと思います。 ○成瀬様  まずアンケート結果ですが、アンケート結果の説明の中でも触れましたとおり、同じ 人間に対してこういう設問を3つしているわけなのです。設問の作りで規制強化が増え たり、規制緩和がそれなりに確保の数が増えたりという形になっていまして、その面に ついていうと、設問の作り方で、ある特定の方向を望んだ結果を得られてしまう危険性 があるというように思っています。8頁だけを見るとちょっとあれなので、7頁のほう に設問そのものと選択肢そのものを、記載させていただいております。こちらも正確に お読み取りいただきたいと思っておりまして、クエスチョンの1でいうと、あなたがど のようにしたいですかではなくて、どのように考えていますかということでして、それ はQ2、Q3も同じですが、そういう意味でいうと、若干答える側が自分がどうしたい かというよりも、1つは仕事の進捗との関係、2つ目には健康管理との関係、3つ目は 収入との関係で、ある意味多少第三者的な意識になって答えたのではないかというよう に、ちょっと推測をしております。あくまでもそれは推測なので、これ以上は分析はで きません。  後者の規制を緩和してほしい、あるいは規制を強化、維持してほしいという人を区分 できるかというところですが、そこについては実際上かなり難しい問題だろうというよ うに思います。同一人物でも、その人がずっと同じ仕事を何十年もやり続けているわけ ではないですので、ある意味やっている仕事の種類、あるいは難しさもどんどん変わっ ていくわけです。そういう中で、あるときには緩和してほしいと思っていたとしても、 別の局面になれば逆の考えになる可能性はありますので、そういう意味でもまず難しい というのが1つ。現在は法で、企画業務型については本人の同意を要件にしております が、専門業務型でも、本人の同意が本来は必要ではないだろうかと。ただ、同意するか しないかを会社、上司から問われたときに、同意しないと答えても不利益取扱いがない という保障がされなければならないと思いますが、不利益取扱いがないという環境の中 で、本人が同意するかしないかということで裁量労働なり、あるいはそれ以上のエグゼ ンプションのような規制の適用除外といったものが、あるとしたらあるのかというぐら いが、現在の認識です。 ○座長  まだお聞きしたいことは私自身もいろいろありますが、今日はここまでにさせていた だきます。須賀局長、成瀬書記次長、小山副書記長におかれましては、ご多忙のところ をわざわざいらしていただきまして、大変言いづらい部分も含めた貴重なご意見をいた だきまして、大変ありがとうございました。是非我々の研究会の参考にさせていただこ うと思います。改めてお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。               (須賀、成瀬、小山様退席) ○座長  次に移ります。前回外国の労働時間制度について皆様にご議論をいただいたところで すが、その際フランスの制度がいろいろと議論の対象になったのですが、いちばんそれ にお詳しい水町先生が、あいにくご欠席でいらっしゃいましたので、今日はフランスの 労働時間制度や運用実態につきまして、水町先生から補足的にご意見をいただいておこ うということにしたいと思いますので、よろしくお願いします。 ○水町様  前回のご議論のメモを見まして、いくつか補足する所もあるのですが、時間の関係上 2つに絞ってお話させていただきます。  1つは、フランスの管理職の中にも過重労働は見られていますが、それが過労死や過 労自殺の問題につながっていない。その背景なり運用の実態はどうなのかということで すが、簡単にいうと、日本と相対的に比較した場合には、3つがあると思います。  1つは、確かに管理職の中で長時間労働を行う人はいますが、その範囲が日本と比べ て、かなり限定されています。日本のように管理職、カードルといわれる層が、そんな に広くないと。その中でも長時間労働をしている人の範囲はそんなに広くないので、そ の範囲が日本と比べると狭いということです。もう1つは、その人たちの中での長時間 労働の時間数は、やはり日本より短い。1カ月の間に80時間や100時間の時間外労働を しているのは、フランスではほとんどないと思います。かつ第3に、休日や休暇を、そ ういう人たちもちゃんと取っている。自分の家庭生活とのバランスを自分の中で意識し ながら、もちろんそういう人たちでも8月になると長期のバカンスを取りますし、土日 の2日とも休暇を取っているかどうかはわかりませんし、持ち帰りで家で仕事をしてい るということも聞きますが、ちゃんとそういう場合にも休日を取るということが、日本 の実態よりもかなりしっかりなされているというように思います。そういう意味で、長 時間労働はあるが過労死、過労自殺というのがあまり表に出てこないという社会の背 景、働き方の背景が違うのだと私は思います。  もう1つ、フランスで1998年、2000年の法律によって管理職、カードルに対する労働 時間の改正がありました。その中身についてはこの前ご説明があったとおりですが、そ の経緯と評価について簡単に補足させていただきますと、何でそういう改正がつい4、 5年前に起こったかというと、改正前まではフランスの管理職の人たちへの労働時間規 制の適用は、実はよくわからない状態でした。管理職であっても労働者である以上は、 普通の人と同じように労働時間法制が適用されるという建前になっていたのですが、実 態としては普通の労働時間法制によらずに長時間働いているという人も中には見られ た。法と実態が乖離している状態の中で、労働時間短縮という、週39時間から35時間に 短縮する大改正がありましたが、その改正に合わせて、管理職についても曖昧な状況を 明確にしなければいけないというので、その改正の一環として管理職を3つに分けて、 その3つについてそれぞれ異なる法規制をするということになったわけです。  改正の結果どう評価されているかというと、一番大きな評価というのは批判的な評価 で、その中身も簡単に言うと、法と実態が乖離している。特に2番目の中間的な管理職 については、かなり複雑な規制が定められたのですが、簡単に結論だけ言うと、複雑な 法規制をホワイトカラーにつくってみても、やはりその法は実効的に機能しないという 結果が出て、それに対する批判が多い。それに対して労働監督官がちゃんと監督して是 正をしているかというと、それもできないような状況になっているというのが、私が見 聞きしている範囲の中でのお話です。 ○座長  すこぶる簡潔なご説明で、前回聞いていない方には何のことだかよくわからないとこ ろもあるかもしれませんが、その点も含めましてご質問があれば、せっかくの機会です からお願いします。 ○佐藤様  カードルというか、要するに管理職の範囲というのが限定されているというのは、あ えて日本との対応でいうと、ポジション的に少し高いところに限定されているというよ うな意味ですか。 ○水町様  カードルというように言われる人が、全体の2割だと言われていまして、2割の中の 大体半分ぐらいの人は、3つの類型中でいちばん下の類型で、一般の労働時間規制が適 用されるカードルになっているという統計がありますので、実際上適用除外される人や 複雑な概算見積制度が適用される人は、全体の1割ぐらいしかいない、そういうことで す。 ○佐藤様  その割合からするとそういうことになるという意味ですね。 ○水町様  はい。 ○座長  ほかにいかがですか。今田先生どうぞ。 ○今田様  確かにマスコミなどの社会問題というか、社会的関心というレベルで、管理職層の働 きすぎということが、問題として起こっていない感じがフランスの場合はするのです が、現実にはどうなのでしょうか。そういう層の健康管理は、例えば日本でも100時間 以上になると脳障害が多いというような研究もあります。そういうことに関してフラン スは、労働時間の長時間化とその健康などには全く関心がないのでしょうか。労働者に ついてはあるが、セレクティブな人達の労働に関して、そういう関心がないのか。文化 的、社会階層的な面についてはどうですか。 ○水町様  去年フランスにヒアリングに行って、企業の人たちにも聞きましたし、研究者や組合 の人にも聞きましたが、特に競争が激しくなって、ごく一部だけでも存在している高い レベルのカードルの中に長時間労働の問題が出てきて、かつそれが深刻化しているの は、フランスだけではなくてヨーロッパ共通の課題である。それに対してどうケアをし ているかというと、労働時間法制とはまた別のレベルで、特に企業でストレスチェック をしたり、休日を確実に取らせるような措置を取り、苦情があれば苦情を吸収するよう なシステムを企業が率先してつくって、ストレスによって仕事ができないとか、体の変 調を来すということをケアする動きが、最近企業の中で見始められたということです。 それが過労死や過労自殺の問題までつながっているかというと、今の時点ではそういう 現象までは至っていないというのが、去年の時点で感じた印象です。 ○座長  ほかにいかがですか。よろしいですか。  それでは、フランスに関する水町先生の補足的なご意見と、それに対する質疑応答 は、この辺りにしたいと思います。引き続き前回までの議論や本日のヒアリングの結果 等も含めて、少しフリートーキングをしたいと思いますが、その際今後議論を進めてい くために、事務局等で用意していただきたいような資料がありましたら、それについて のご示唆などもいただきたいと思います。何かご意見ございませんでしょうか。 ○佐藤様  これからの進め方についての確認ですが、今日のお話を聞く限りでは、やはり個別企 業レベルで、あるいは事業所レベルとか、職場に近い所での現状というものについても う少し深めたほうがいいという印象を受けましたので、そういうご予定があるのかとい うことと、もしなければ、そういう機会を組めないかということです。 ○前田賃金時間課長  個別企業については、いくつかいま選定中です。業種、あるいは裁量労働制を導入す るかどうかというところを含めてヒアリングをやろうということで当たっております。 できれば5、6社ぐらいで、労使双方からヒアリングできるような形で、今準備をして いるところです。  次回はとりあえず1社を予定しています。あとまた7月に、さらに個別企業をいま当 たっているところです。 ○水町様  選定にあたって、例えば組合のある企業、ない企業や、組合があっても複数の組合が ある場合など、そういうことは意識されていますか。 ○前田賃金時間課長  労使委員会のメンバーということで、できれば労働組合がある所をメインに、いま当 たっているところです。 ○水町様  組合がない所の話も聞ければ、私は面白いと思いますが。 ○前田賃金時間課長  そういったことも含めて、ちょっとまた考えます。 ○座長  これは相手があるわけですし、本来調査研究をするときのようにはきれいにサンプリ ングはしづらいと思いますが、できるだけいろいろな条件を考えながら事務局には様々 なタイプの企業のヒアリングができるようにお願いをしたいと思います。とりわけ業種 というのは非常に重要ですので、そういう点なども考えていただこうというようにお願 いをしているところです。改めてよろしくお願いします。  ほかにはいかがでしょうか。 ○山川様  さっきのヒアリングでお聞きした点で、もし厚労省側で、休日労働の状況と健康確保 措置、苦情処理措置の内容に関わる協定ないし決議で出てくるデータがあるかどうかと いう点で、もしそういうものがあれば有益かと思います。  もう1点は、管理監督者に関わる規制の現状と言いますか、判例はルール化するの は、明確に把握するのは難しい状況ではあると思うのですが、通達等も含めて、議論の 共通の素材として、何か資料があればと思います。 ○座長  よろしくお願いします。それでは、松井審議官よりお願いします。 ○松井審議官  今日のヒアリングを聞かせていただいて、切り口を変えて、最終まとめで是非整理し ていただければと感じた点ですが、組合の方からのいろいろな議論の視点が、言葉は適 切ではないかもしれませんが、優しい労働者や弱い労働者がおられる。権利はあるが権 利を自分は主張できない方がたくさんおられる中で、保護法制をどうするかというアプ ローチをどうもされていると。そして、今ある道具については、そういう弱い、優しい 労働者がいる中で、より与えられた制度が本来の目的に沿って動くように、ある意味で は運用上の工夫ということをまずよくやって、やたらとそういう制度を突っつくという のは、そこまでは言っていませんが混乱を招く、そういう視点で見ると、どうも終始一 貫したご主張のように聞こえたと思うのです。これはある意味では労働側の立場からと いうようにも理解できます。  一方で労使問題は、使用者の方の視点というのも今後はいると思いますが、その際に 悪意などを除けばグローバル化して市場競争が激しくなる中で、企業として、製造業か らホワイトカラーという、いわば机の上で企画、立案、いろいろなアイデアを出すとい う仕事、そういった知的分野での労働が多くなる中で、労働能率を高めるということを やらないと個々の企業は生きていけない。そんな中で提供されている労働に関する法 制、制度を前提にしながら、能率を上げるためにある意味では最大限の工夫をしている のが言われた問題の中で、例えば仕事の与え方を工夫して能率をいかに上げるかという 意味で、悪く言えば労働者を締め上げるということを、どうもやっているように見える し、実際には制度がこういう目的であるというのを、すれすれのところで適用をニュー トラルで工夫してやっている。それが総体として、たぶん国際競争力云々という中で多 少は役立っているが、ひょっとするとまだまだ足りないと言われる方々が、別の意味で 今の規制をもう1回見直してくれと、こういう視点からの注文がある。これが制度をど うするかというときの、我々の基本的な問題の受けとめ方といま思ったわけです。制度 改正をするときに、そういった主張を両方ともちゃんと聞いた上で、そこら辺りに視点 を置いてやるかが重要かと思いまして、ひとついま強く感じましたのは、優しい労働者 というのをもう少し逞しくするということもやらないと、スタートできないかと。とい うのは、残業をしていても企業で一定のポジションがあると、その責任ということがあ りまして、効率を良くしなければいけないということで、自分も申し出ない、言わない と。それを慮って、よく制度的に、こういうことをやったとしても不利益取扱いをしな いという条文をつくってくれと言われるのです。最賃、あるいは残業に賃金を払わない という絶対的に違法のことをやっても、それについて申し出ない。それを申し出たら差 別扱いしない、不利益取扱いをしないということを要求するかというと、言われないの です。ところが、ほかの制度を導入したときには、不利益取扱いをしないようにセット してくれというときの労働者のイメージは、どうも私としてはピンとこないのです。だ からもしそこで、それぞれの優しい労働者を逞しくしていくという政策も、こういうこ とがあるのだこういうことをやるのだということを前提に、今の制度をもう一遍検証す るということをやっていただかないと、一方でとにかく能率性のために、あるいは効率 を上げるために制度見直しという論理に対抗できないというか、もう少しきちっとした 互角の議論ができないのではないかというように思っています。提示の仕方はもう少し 考えなければいけないと思いますが、今日お話を聞いて、自分が気付いた点なものです から、最後の裁量労働制、時間制の見直しのときに、もう少し視点をクリアにしたまと めができないかと思った次第です。 ○座長  ほぼ予定した時間になりましたので、今日の議論はこの辺りにしておきたいと思いま す。今後ヒアリングをインテンシブに進めていきますので、それらの過程で、またそれ らが終わったあとで、さらに皆様とご議論を継続したいと思います。  では今後の予定について、事務局からご説明をお願いします。 ○事務局  次回は6月10日の金曜日の午後5時から開催を予定しています。正式には、追ってご 連絡させていただきます。  次回は、まず東京商工会議所からヒアリングを行い、そのあと個別企業の労使からの ヒアリングを予定しております。以上です。 ○座長  それでは、また次回もどうぞよろしくお願いします。 ○前田賃金時間課長  この研究会については公開でやっているのですが、実情を率直にヒアリングを実施す るという観点から、個別企業のヒアリングについては非公開でやってはいかがかという ように思っておりますが。 ○座長  すみません、非常に重要なポイントを忘れておりました。その点を皆様にお諮りしな ければいけないのですが、事柄の性質からして非公開でという例外措置を採らせていた だこうと思うのですが、いかがでしょうか。                  (異議なし) ○座長  ではそのようにして、できるだけ率直な意見を聞けるようにしたいと思います。本日 の会合は、これで終了にいたします。皆様ありがとうございました。                  照会先:厚生労働省労働基準局賃金時間課政策係                  電話: 03-5253-1111(内線5526)