資料2

医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法等の
あり方に関する検討会 中間取りまとめ(案)




平成17年6月  日



I はじめに

 1 検討会の趣旨

 社会保障審議会医療部会においては、昨年9月より、平成18年改正に向けて、医療提供体制の見直しに関する検討を開始した。本年2月には一定の論点整理がなされ、以後、個別の論点について順次検討が行われている。その論点の中で、保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号。以下「法」という。)など看護職員に関連する論点も提示されており、さらに掘り下げた検討が求められている。そのため、本検討会が平成17年4月に設置され、患者の視点に立って安心安全な医療を確保する観点から重要と考えられるその他の課題も含め、それらの検討を深めることとした。その成果として、一定の方向性を示し、医療部会の取りまとめに資することを目指すこととなった。

 具体的な検討課題は、これまでの検討の中で追加することとなったものを含め、以下の通りである。

 1 看護師資格を持たない保健師及び助産師の看護業務
 2 免許保持者の届出義務
 3 助産師、看護師、准看護師の名称独占
 4 行政処分を受けた看護職員に対する再教育
 5 助産所の嘱託医師
 6 新人看護職員研修
 7 産科における看護師等の業務
 8 看護記録
 9 看護職員の専門性の向上
10 その他(保助看法の全般の見直しの論点等)

 2 検討会の開催経過と中間取りまとめ

 これまで6回開催しているが、7月にも医療部会が中間取りまとめを行うことが予定されていることから、当検討会としても、上記1から4までについて、これまでの検討成果を中間的に取りまとめることとした。


II 個別の検討課題

 1 看護師資格を持たない保健師及び助産師の看護業務について

(1)現状及び問題の所在

 法においては、保健師及び助産師は看護業務を行うことが可能とされている。もっとも、かつては、看護師資格を得た者が保健師、助産師国家試験を受験することが一般的であって、看護師資格を持たない、保健師又は助産師が看護業務を行うことは例外的な事例であり、問題となるほどの実態にはなかった。

 しかしながら、特に平成に入ってから、4年制大学の急増により、保健師及び看護師さらに加えて助産師国家試験の同時期における受験が可能となる者が増加し、その結果として、看護師国家試験が不合格で、保健師、助産師国家試験に合格する者の数が無視しえない程の人数※となり、実際に看護業務に従事している実態も散見されるようになった。また、実態は不明であるが、あえて、受験準備の容易さから、出題範囲、出題数、試験時間が看護師国家試験に比べて限定されている保健師、助産師国家試験のみを受験する者が出てきているとの指摘もある。
 ※保健師合格で看護師不合格の者:平成16年96名、平成17年59名

 今後も4年制大学の増加が見込まれることなどから、看護師資格を持たない保健師及び助産師が看護業務に従事する現状が継続し、さらに増加する可能性も高くなってきている。そして、このような、看護業務の実施に求められる知識及び技能の確認がないまま、看護業務を実施している、又は実施できる状態にあることが問題であり、改善を図るべきとの指摘がなされるようになった。

(2)保健師、助産師としての資格の意義・理念

 資格の意義・理念の観点から考えると、保健師、助産師の業務が、看護業務の実施を必要としないならば、看護師資格を持たない者については、単に看護業務が実施できないこととすればよい。

 今日の保健師(かつての保健婦)、助産師(かつての産婆・助産婦)、看護師(かつての看護婦)は、戦前は、関連しながらも別個の資格とされてきた。保健婦については、保健婦規則制定当初から、その業務に必要な看護業務を限定的に実施できることとされ、看護業務の知識及び技能を確認するための試験科目も含まれていた。産婆については、助産業務に特化した資格として看護業務の実施は想定されていなかった。

 戦後になって、看護職としての一体性が強く意識され、これら3資格について、看護婦を基礎として、その上に保健婦、助産婦資格を組み立てるとの基本骨格が昭和22年の保健婦助産婦看護婦令で採用され、それが、翌年の法に引き継がれ、今日に至っている。

 この際に、保健婦、助産婦とも、看護業務を何ら限定なく実施できることとされた。また、保健婦、助産婦学校養成所における教育の修了が保健婦、助産婦国家試験の前提とされたが、これら学校養成所の入学は、当初は看護婦国家試験合格を条件とし、保健婦国家試験科目から看護関連科目が削除された。その後、この条件が厳しすぎるとして緩和された経緯があるが、これは看護婦国家試験合格発表を待っていたのでは、学校養成所入学まで少なくとも6か月間の無駄が生じてしまうとの事情を考慮したものであった。また、この当時、看護婦、保健婦、助産婦国家試験の同時期の受験が可能となる学校養成所自体存在しなかったという事情もあり、今日のような問題の発生は想定されていなかった。

 業務の実態からみても、保健師の保健指導業務については、当初の規則にもあったように、個々の住民に対する看護ケアを含む行為が当然に想定され、それらが実施できないことは保健指導業務上支障が生じる可能性が高い。助産師の業務である助産業務についても、かつての自宅分娩の介助という形態から、病院、診療所における組織的な医療の中で実施される形態へと移行しており、正常経過以外の妊産婦に対する看護ケアも増加し、その実施は当然のこととなっている。

 以上のことから考えて、現行法においては、保健師、助産師の業務には、実質的に看護業務が含まれることを想定していること、実態的にも看護業務が実施できないと、それぞれの資格に期待されている社会的な役割が発揮できないと考えられることから、看護業務の実施は保健師、助産師資格に内在している要素と考えられる。

(3)今後の方向性

 当検討会としても、看護師資格を持たない保健師及び助産師による看護業務による医療安全上の実際上の危険は不明であるものの、医療安全の確保が最重要の国民的課題となっている中で、それを制度的に高めていくことが求められており、この問題の改善を図ることは急務であると考える。患者の視点からみても、看護師資格を持たない保健師、助産師が、看護師として働いているという実態を患者は知らされておらず、患者に対する正しい情報提供としても問題があり、患者の不信を招くことになりかねない。

 また、上記のような現行法における資格の理念、実態から考えて、看護業務の実施が不可欠であり、さらに現行制度の創設時において、保健師には看護業務についての知識及び技能の確認が行われていたということを踏まえれば、単に看護教育を修了したことに止まらず、一定水準に到達していることを公に確認することが求められている。したがって、看護業務に必要な基本的な知識及び技能の確認ができるような制度的な措置を速やかに講じるべきである。

 ただし、現行法の下で、現に適法に活動を行っている有資格者の地位に影響を与えることには慎重な対応が必要であり、今後、新たに資格を取得する者への措置として考えるべきである。もっとも、後記3で述べるとおり、名称独占規制の導入により、看護師資格を持たない保健師、助産師には看護師と称させないこととすべきである。また、現行法を前提とせず、全般的な見直しの中で、看護関係資格そのものの見直しを検討することもありうるが、短期的に結論を得ることは困難である。したがって、例えば、保健師、助産師国家試験の科目に、今後、看護師国家試験科目を加えるなど、現行法の基本骨格を維持しつつ、その枠内で現状を改善する方法を模索することが考えられる。

 2 免許保持者の届出義務について

(1)現状及び問題の所在

 医師、歯科医師、薬剤師については、各資格法により、業務従事の有無を問わず、免許保持者は厚生労働大臣に対して一定の事項を届け出ることが義務付けられている。看護職員については、法により、業務に従事する者は都道府県知事に対して、一定の事項を届け出ることが義務付けられている。そして、これら義務違反には同様の罰則(50万円以下の罰金)が課せられることとなっている。

 医師等の届出は、主として統計的把握に利用されるものとされ、実際に、厚生労働省においてその集計結果を「医師・歯科医師・薬剤師調査」にまとめ、行政施策の参考に供している。看護職員の届出については、都道府県ごとに集計された統計情報の提供を得て、厚生労働省において「衛生行政報告例」にまとめ、同じく行政施策の参考に供している。現在、看護職員はもとより医師等についても、国として、資格者個人に対して、届出事項を活用した個別の働きかけは行っていない。

 医師等と看護職員との届出制の違いに関連して、55万人と推計されるいわゆる潜在看護職員(平成14年末。65歳以下の生存する免許保持者で看護関連業務に就業していない者)の状況が把握できないことが問題であり、未就業者も含め医師並びの届出制を導入すべきではないかとの指摘もなされてきた。

(2)届出制を巡る議論の経過

 看護職員についても、医師並びの届出制を導入すべきか否かについては、当検討会においても以下のような積極、慎重両方の意見があった。

(積極論)
 国家資格であることから、離職した看護職員の把握を含め、国として免許を交付した者の動向について把握することは当然である。

 国全体の危機管理の対応としても、国として看護職員の動向を把握しておくことは必要である。

 国家資格を有する者からみても、求めに応えるという倫理感を持つべきであり、届出義務を果すという姿勢も必要である。

(慎重論)
 潜在看護職員の把握を始めとして看護職員確保対策やそのためのデータ収集の必要性は否定しないが、そのことと届出制とは別問題であり、個人情報保護が求められる中で、届出事項を広く行政が活用することに疑問もある。

 届出制を導入しても、現実に潜在看護職員から届け出がなされることは期待しにくい。また、処遇改善、勤務形態の工夫など潜在看護職員が働きやすい環境整備が先決で、届出制を導入しても再就業につながる即効性は期待できない。

 未就業者に対し届出を義務付け、違反者に罰金を課すことは混乱をもたらしかねない。また、罰金が重すぎる。

 また、医療安全の確保等の観点から、免許の更新制を検討すべきとの意見も出され始めているが、仮にこれが導入されることになれば、未就業者への届出制の問題は自ずと解決することになる。したがって、免許の更新制について検討に着手すべきであるとの意見もあった。

 なお、医療安全の確保を図る観点からも、看護職員を確保する必要があり、今後、さらに潜在看護職員の活用が重要となることから、その把握や確保対策のための政策的対応の必要性については概ね意見の一致がみられた。

(3)今後の方向性

 法本体を改正し、免許保持者に届出義務を課すことについて、意見の一致には至っておらず、今後、将来の課題として、看護職員に関する免許の更新制について検討し、その行方を見定めるべきである。

 なお、このことは、例えば、看護師等の人材確保の促進に関する法律(平成4年法律第86号)において、潜在看護職員を焦点として、人材確保の観点からの届出制などの措置を講じていくことを否定するものではなく、むしろ、免許保持者に過大な負担とならないかなど法制面等の検討を深めつつ、その実現に向けて積極的に検討すべきである。

 また、本年末には新たな看護職員の需給見通しが策定される見込みとなっているが、引き続き、「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」の見直しを含め看護職員の確保対策に努力すべきである。特に、多様な勤務形態の導入、処遇改善など、潜在看護職員が働きやすい環境整備について、一層努力すべきである。もちろん、臨床現場から長く離れていた潜在看護職員が医療安全上も支障なく業務を再開できるような研修の実施などが必要である。

 3 助産師、看護師及び准看護師の名称独占について

(1)現状及び問題の所在

 昭和23年の法制定により確立した看護職員の資格規制においては、看護業務、助産業務については業務独占があるが、名称独占については、保健師に関して、その保健指導業務上の名称独占が認められているだけである。それに対して、その後創設された理学療法士(昭和40年資格法制定)等、看護業務の中の診療の補助業務の一部を業務範囲とする医療関係職種については、ほとんどが業務独占に加え、名称独占とされている。福祉関係資格である、社会福祉士、介護福祉士(昭和62年資格法制定)については、業務独占がなく、名称独占となっている。

 これについては、以下のように問題点が指摘されている。

 医療サービスの不可欠の担い手であり、生命に関わるという看護関係資格の業務の本質から考えても、医療の質、安全の確保を図る上で、看護関係資格について名称独占とし、社会的な信用力を確保し、相手方との信頼関係の確立や被害の未然防止を図る必要性が高い。

 多くの医療関係職種や福祉関係職種において名称独占とされていることとも不整合であり、同じく名称独占とすべきである。

 名称独占が規制されていないことから、過去に遺憾な事例が存在した。特に、近年、医療に対する患者の信頼確保が重要な課題となっており、患者に対する正しい情報提供が求められる中で、名称独占とする必要がある。

 守秘義務のある資格でありながら、名称独占がないことは、資格としての信用力に欠けるおそれがある。

 保健師についても、これまでの保健指導業務に限らず、その資格としての信用力を背景として、幅広く活動の場が広がってきており、業務を限定せずに一般的な名称独占にすべきである。

(2)今後の方向性

 名称独占規制の必要性、緊急性については、意見が一致した。したがって、次期医療法改正と合わせて、法を改正し、助産師、看護師及び准看護師の名称独占を導入すべきである。ただし、紛らわしい名称についてどこまで規制できるのかなど、法制面での検討を行う必要がある。

 また、保健師についても、あわせて、保健指導業務に限定しない、名称独占とすべきである。

 4 行政処分を受けた看護職員に対する再教育について

(1)現状及び問題の所在

 看護職員についても、行政処分事例、特に医療事故を巡って処分される事例が増加してきている。

 医師、歯科医師については、平成17年4月22日に、「行政処分を受けた医師に対する再教育に関する検討会」報告書が公表され、行政処分を受けた者についての再教育を実施すべきであるとの方向性が既に打ち出されている。

 また、平成17年5月に、医療安全対策検討ワーキンググループから出された「今後の医療安全対策について」の報告書において、当面取り組むべき課題として、看護師等他の医療従事者についても、行政処分を受けた後の再教育について検討する必要がある旨指摘されている。

 看護職員についても、医師と同様、業務停止の行政処分を受けた者が、一定の時間の経過のみで業務を再開できることには下記のような問題が指摘される。

 看護技術不足によって発生した医療事故の場合、業務再開に当たって、安全で確実な看護技術が提供できる保証がない。

 看護職員の場合も、長期間の業務停止となる場合があり、医療知識、看護技術が低下したままで業務を再開する危険性がある。

 患者の立場からみて、過ちを繰り返さないという、医療事故再発防止に向けた取組みがなく、医療の信頼回復にはつながらない。

(2)再教育の必要性・有効性

 行政処分を受けた看護職員について再教育を実施すべきかについては、生命に直結する業務であり、倫理観や知識・技術など個々の資質の再確認を行うことが必要である、特に医療安全の確保、患者の立場からすれば当然の措置であるとして、その必要性については概ね一致した。

 医療安全の向上に対する再教育の有効性については、医療機関における医療安全対策が不十分な場合、看護師個人の努力には限界があることから疑問の声も出されたが、再教育の内容を個別に工夫することにより、再教育を受ける個人に対し、その資質を高め医療安全に資する効果も期待できると考えられる。また、行政処分を受けた看護職員の社会復帰の観点からも、再教育を行って一定の社会的評価を客観的に明らかにすることは意義があるものと考えられる。

 ただし、組織の安全管理体制の不備も原因の一つとなった医療事故については、再教育の有効性を高めるためにも、行政処分を受けた個人の再教育だけではなく、医療機関の管理者など組織の責任者を含めて組織全体の指導・教育、必要な人員の配置を含めた具体的な改善措置等もあわせて推進される必要がある。

(3)今後の方向性

 医師等に対する再教育についての内容の検討等を踏まえ、看護職員についても基本的には同様の措置を講じるべく、医師法等の改正とあわせて法の改正を行うべきである。

 再教育の仕組みを導入する際には、次の点を具体的に検討する必要がある。

 再教育を受けるべき対象者の範囲
 再教育の内容
 再教育の助言指導者
 再教育の修了評価基準と認定
 再教育の実施主体
 再教育制度の管理責任者 等

 また、本議題に関連して、検討会で以下のような指摘がなされており、今後の検討に活用されるべきである。

 再教育の内容としては、具体的な事故事例、個々の処分に即して、どういう再教育であるべきかを考える必要がある。特に医療事故の場合、医療安全に関する研修はもとより、被害者、家族に対する深い理解が不可欠であり、被害者やその家族の話を直接聞いたり、個別の医療事故に即した事例検討を行う教育が重要である。また、看護職員の特徴として、チーム医療の視点が非常に重要であり、他職種との関わりの中で、どのように役割、責任を担って業務に従事するのかを教育していく必要がある。

 事故を起こした看護職員の心理的なケアも必要である。また、被害者の心情にも配慮しつつ、行政処分を受けた看護職員に社会復帰に向けた支援も必要である。

 予防的な意味で、看護基礎教育のなかでも行政処分の実例などを取り入れ、看護業務が患者にとって重大な影響を及ぼす重要な役割を担っており、安全面の配慮が不可欠であることを具体的に教育する必要がある。

 学生から専門職となった時期における教育が重要であり、新人の看護研修を実施し、その中で、医療安全について実地に教育すべきである。また、医療安全対策の一環から、看護職員全体を対象とした定期的な再教育も必要である。


III おわりに

 今回、短期間ではあるが集中的に検討を行い、中間取りまとめを行うことができた。今後、予定される医療部会における中間とりまとめに反映されることを期待する。また、当検討会として、引き続き、残された課題について検討を行い、一定の方向性を取りまとめていきたい。

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