研究事業(研究事業中の分野名):難治性疾患克服研究事業 |
所管課:健康局疾病対策課 |
予算額(平成17年度):2,083,684千円 |
根本的な治療法が確立しておらず、かつ後遺症を残すおそれが少なくない自己免疫疾患や神経疾患等の不可逆的変性を来す難治性疾患に対して、重点的・効率的に研究を行うことにより進行の阻止、機能回復・再生を目指した画期的な診断・治療法の開発を行い、患者のQOLの向上を図ることを目的とする。 |
16年度採択課題一覧【別紙1】
(1) |
臨床調査研究班 |
38班 |
(2) |
横断的基盤研究班 |
10班 |
(3) |
重点研究班 |
18班 |
研究課題については、特定疾患治療研究事業への成果反映の具体的な方法、研究成果の普及等ついて評価委員会で考慮の上、採択している。 |
特定疾患の診断・治療等臨床に係る科学的根拠を集積・分析し、医療に役立てることを目的に積極的に研究を推進している。また、重点研究等により見いだされた治療方法等を臨床調査研究において実用化につなげる等治療法の開発といった点において画期的な成果を得ている。
最近の主な成果(抜粋)
(原発性免疫不全症候群に関する調査研究班)
uracil-DNA glycosylase (UNG)の同定に貢献し、UNG遺伝子変異が高IgM症候群をもたらすことがNature Immunologyに掲載され、国内外から大きな反響があった。
(難治性血管炎に関する調査研究班)
欧米に比べ我が国に多い顕微鏡的多発血管炎に限定した前向き臨床研究は世界初の試みである。病態と密接に関与する遺伝子を3種類同定した。
世界に先駆けてBurger病に対する遺伝子治療の臨床応用実現に向けて大きく前進した。これらの解析を通して血管炎原因遺伝子の同定や血管炎発症機序のさらなる解明が期待される。
(自己免疫疾患に関する調査研究班)
関節リウマチおよびSLEの発症に関与する新たな遺伝子が同定され、Nature Genetics,誌に発表され、またマスコミでも報道され社会的な反響をよんだ。
(プリオン病及び遅発性ウイルス感染に関する調査研究班)
未だ発症機序も全く不明であるプリオン病の克服には正確な実態の把握が重要であるがそれが達成されつつあることが示され、この変異型CJD例により脳波上、MRI上の新知見が明らかとなり、2005年5月英国での国際サーベイランス会議で発表しWHOの基準の見直しが進んでいる。キナクリン/ペントサン治療は本邦で開発され英国での治験を指導するまでになっている。プリオン病の発症機序の解明も着実に進んでおり大きな貢献をしている。
SSPEについても実態の把握が進み、疫学的危険因子や遺伝的危険因子、SSPE特有のゲノムが明らかとなり、リバビリンの治験も進んでいる。
PMLについては発症機序解明で大きな進展があったのみならず、診断基準の作成等により全国的実態調査が進んだ。これらの成果は一流の学術誌に掲載され班会議にて発表されたのみならず、2004年にはPMLおよびプリオン病の国際会議を共催し全世界にむけて発信された。
(神経変性疾患に関する調査研究班)
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SOD2遺伝子導入トランスジェニック・マウス作成により発症機構の解明が進んだ(gain of function)。 |
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世界で初めてトランスジェニック・ラットを作成し,大型動物による実験が可能になり,病態と治療薬の研究が進んだ。 |
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孤発性ALSの脊髄運動ニューロンではグルタミン酸AMPA受容体GluR2RNAの編集率が正常対象と比較して有意に低下していることを発見した。 |
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紀伊半島多発地の再調査により,高発生率の持続を確認した.更にグアムと同じパーキンソン痴呆複合(PDC)の存在を発見し,多くが家族性発症であることを確認した. |
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電気生理学的検査 Motor Unit Number Estimation (MUNE)を用いて,発症後の運動ニューロン活動量が測定できることを示した. |
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人工呼吸器装着後の患者の臨床徴候を長期間研究し,完全閉じ込め症候群(total locked-in : TLI)に至るALS臨床像の全経過を解明した. |
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新たに作成した臨床個人調査票を用いて我が国の患者の療養実態を明らかにした. |
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メチルコバラミン(ビタミンB12)の臨床効果を検証中である. |
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有用な鑑別診断法として,MIBG心筋シンチグラフィーの異常所見が発見された. |
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レビー小体出現剖検例の研究により,DLBとPDDの病理学的所見に本質的差異はないことが示された. |
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本研究班の分担研究者が中心になって,日本神経学会でPD治療ガイドラインが作成された(2002年). |
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定位脳手術の技術的改良(手術部位決定法,破壊か電気刺激か)が進んでいる. |
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MPTP投与PDモデルサルにおいて,アデノ随伴ウィルスベクターによるドパミン合成酵素遺伝子導入治療が成功した. |
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患者のQOLを決定する影響因子が解析され,それを利用した改善事項を提唱した. |
(モヤモヤ病(ウィリス動脈輪閉塞症)関する調査研究班)
不明な点が多かった本疾患の疫学像、病因・病態の解明に寄与した。また予後不良因子である再出血予防に関する治療指針確立の端緒となった。
(特発性心筋症に関する調査研究班)
心筋症を細分化し、それぞれの診断基準を作成し、国際的な診断・治療のスタンダードを提供した。疫学的検討により予後を評価しようとした。病因の解析について、遺伝子解析や免疫学的解析を中心に検討し、新規の遺伝子や病態を数多く発見した。
(進行性腎障害に関する調査研究班)
IgA腎症の全国疫学調査にて予後に影響するのは、高血圧、高度蛋白尿、腎生検での高度障害であった。IgA腎症予後不良群に対して、ステロイド薬・抗凝固薬・アンジオテンシン阻害薬による多剤併用療法の有効性が示唆された。MPO-ANCA型急速進行性糸球体腎炎に対するシクロフォスファミドパルス療法の有用性が示唆された。膜性腎症の予後調査について長期予後の点では、発症15年までは良好であるが、それ以降低下する傾向が明確となった。加齢以外にも悪化の要因があると考えられた。治療法別の予後解析では、ステロイド薬単独療法の有効性が示唆された。高血圧を有する多発性嚢胞腎症例に対し、カルシウム拮抗薬投与群に比較して、アンジオテンシン受容体拮抗薬投与群では、尿中蛋白排泄量やアルブミン排泄量を減少させることが明らかとなった。
(特定疾患の地域支援体制の構築に関する研究班)
精神的支援体制
身体的支援体制整備と並列して精神的・心理的サポート体制の必要性を研究した。 療養環境・生活支援・相談事業など特定モデル地域での成果を全国に普遍化する戦略を確立した。 研究事業での成果は利用者の視点から検証し、今後の研究戦略、問題解決策として提言した。研究事業での成果を国の難病対策事業として普遍化、その進捗と効果について研究した。
医療体制
都道府県単位に難病医療ネットワークを構築してより円滑に専門医療を供給できる体制整備、拠点病院と協力病院の役割分担、個々の患者の長期支援に専門医師がより積極的に参画する意義、効果について研究、これらの支援体制整備の具体的な効果を実証できた。
(進行性腎障害に対する腎機能維持・回復療法に関する研究班)
新規腎障害進行因子としてプロレニン・プロレニン受容体を同定し、新たなIgA腎症進行に関わる遺伝因子を同定した。腎臓の再生に、骨髄間葉系幹細胞および内皮前駆細胞が有用であることが初めて示されるとともにSall 1ファミリー、MTF-1などの分化誘導因子のクローニングを行った。
(筋萎縮性側索硬化症の病因・病態に関わる新規治療法の開発に関する研究班)
変異SOD1特異的に結合するユビキチンライゲースを同定した。また数種の変異SOD1遺伝子導入トランスジェニックマウスを作製し、臨床病像との相関を明らかにした。さらには治療法の開発に応用するために髄腔内への薬剤投与が可能なトランスジェニックラットを作製し、新規治療法の開発を行った。(ウ)特に、ラットによるALSモデルを用いた新規治療法の開発手法に関しては国内外から大きな反響があった。 |
(4) |
行政施策との関連性・事業の目的に対する達成度 |
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特定疾患治療研究事業の対象疾患について、患者の療養状況を含む実態、診断・治療法の開発等に大きく寄与しており、これに基づく診断基準の改定・治療指針の改訂は、我が国の医療水準の向上につながっている。 |
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研究成果である新規治療法により、病気の軽快者も出ており、難病医療に貢献している。 |
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現在でも、多くの難病患者が病院や在宅で療養しているが、「難病患者の心理サポートマニュアル」の作成・改訂や「難病相談・支援センター」の整備等を通じて、福祉施策が大きく進められており、医療福祉環境の向上に寄与している。 |
最近の主な成果(抜粋)
(特発性造血障害に関する調査研究班)
臨床調査個人票に基づき、旧様式で8,000余、新様式で4,000余件のデータを集計し、実態を解析した。
(自己免疫疾患に関する調査研究)
抗リン脂質抗体の測定のための標準抗体となるモノクローナルマウス・ヒトキメラ抗体を作成し、WHO/アメリカリウマチ学会標準抗体に認定され、世界標準抗体になっている。
抗プロトロンビン抗体およびループスアンチコアグラント測定の標準化を行った。
日本人の抗リン脂質抗体症候群の治療ガイドラインを作成した。
(プリオン病及び遅発性ウイルス感染に関する調査研究班)
プリオン病は現在根本的治療法のない致死的感染疾患でありサーベイランスとそれにもとづく感染予防がきわめて重要であるが、変異型CJDの発見と対応により本研究によるサーベイランスと疫学研究がきわめて有効に機能していることが示された。
事実、本研究では班会議の他にプリオン病ではサーベイランス委員会、SSPEとPMLではそれぞれの分科会をもち、何度もの会議を行い、さらには得られた知見をいち早く全国に周知するというCJDサーベイランス全国担当者会議をも行っており、厚生労働行政に対する貢献は非常に大きい。
また、診断基準の策定、見直しに加えそれぞれに治療への試みが開始されたことも厚生労働行政にとって大きな貢献であり、最終的には発症機序の研究の進展も大きな貢献をすることと期待される。
(稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班)
天疱瘡に関してデスモグレイン1,3のELISA抗体価測定法の開発とその健保収載により、本症の診断と疾患活動性評価が容易に行なわれるようになり全国の病院で適切な診断に基づいた適切な治療が可能となった。
(特定疾患の疫学に関する研究班)
臨床調査個人票を用いて治療研究事業対象者の18年間の特徴、将来の受給者数の推計を示した。難病対策の評価として「難病30年の研究成果」を発行した。患者の保健医療福祉とQOLの向上に資するための研究も実施した。
(特定疾患の地域支援体制の構築に関する研究班
研究成果から政策的提言がなされ、2つの都道府県事業が実現した。研究班は事業進捗を推進、阻害要因を解決する戦略を求め、実質的な成果を得た。
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難病に対してより円滑な医療サービスと実質的な生活支援環境が整備されることによってより多くの難病患者が例え人工呼吸器を装着してでも生きる決心ができ、障害や社会的不利益を克服して生きがいを持ち、より高い生活の質を保持した生活ができることを実証。 |
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本研究班の主導で、各地で多専門職種を包括する難病支援体制整備やその実践的研究が実施され、難病医療と生活支援体制のケアシステムが質・量共に向上した。 |
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難病者にとっても最大の生きがいとなる『雇用の拡大等就労支援体制』について研究を進め、最終的に難病者の自立支援、難病克服体制を創造する。 |
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治療法の開発等による難病の克服(ゲノム、再生、免疫等他の基盤開発研究の成果を活用した臨床研究の推進)
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研究の進捗状況、治療成績等を評価する体制を構築した上で、疾病毎の研究の必要性を見極め、難治性疾患克服研究の対象疾患(121疾患)以外の難病についても、緊急性の高い疾患については、研究の実施を進めていくよう研究の実施体制を見直していく。 |
(具体的な研究課題及び内容)
今後は以下の方向性の下、効率的な研究の推進を図る。
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免疫システムに関する分子生物学的研究の成果を活用した難治性自己免疫性疾患の治療法の開発 |
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難病患者の就労支援のための研究 |
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災害時における難病患者に対する医療支援体制の構築のための研究 |
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現在、研究対象となっていない疾病についても、緊急性等を考慮して治療法の開発等を推進 |
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特定疾患対策事業等の行政施策と密接な関係があり、行政ニーズと学術的な問題点とを十分把握した上で、研究が進められている。なお、診断基準の作成等の研究成果を効果的に行政施策へ反映されるなど、行政施策への貢献度が高い研究事業である。
今後とも、各疾患の研究の進捗状況や対策の緊急性等を十分考慮した上で研究を進めて行く必要がある。 |