厚生科学基盤研究分野


先端的基盤開発研究事業


厚生労働科学研究費補助金研究事業の概要
研究事業(研究事業中の分野名):ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム・遺伝子治療研究分野)
所管課:医政局研究開発振興課
予算額(平成17年度):2,288,168千円
(1) 研究事業の目的
 ゲノム創薬、テーラーメード医療等次世代医療の中心を担うヒトゲノム・遺伝子治療分野における研究事業の一つとして、ゲノム科学の成果に基づく個人の特徴に応じた革新的な医療の実現等を目指す研究であり、具体的には
 (1) 我が国において主要な疾患に関連する遺伝子の同定・機能解明等に関する研究、薬剤反応性に関連する遺伝子の同定・機能解明等に関する研究
 (2) 遺伝子治療に用いるベクターの開発及び遺伝子治療に用いるベクターの安全性・有効性評価方法に関する研究
 (3) ヒトゲノム分野、遺伝子治療分野及び再生医療分野研究に関連する倫理に関する研究
を実施。
(2) 課題採択・資金配分の全般的状況
 16年度採択課題一覧(別途資料)
 課題採択の留意事項等:
(3) 研究成果及びその他の効果
 公募研究による研究事業における成果の具体例は以下のとおり。
 ・ SLE、リウマチ、Graves病、橋本病なども含めた自己免疫疾患に共通の感受性遺伝子を同定し、その感受性SNPと自己抗体産生能の相関関係を解明。
 ・ 骨量を決定する遺伝子、ホルモン応答遺伝子を見出し、遺伝子改変動物を複数作製して骨粗鬆症の疾患モデルを開発した。
 ・ 目的遺伝子をカセット方式で挿入できる実用可能なHACベクターを構築した。
 ・ 細胞内外でのプラスミドDNAの徐放化システムを開発し、遺伝子発現レベルの増強と発現期間の延長を図った。
 ・ バキュロウイルスの遺伝子導入効率を向上させ、ターゲッティングも可能であることを明らかにした。また、本ウイルスゲノムが自然免疫を強力に誘導することも明らかにした。
 ・ 探索的臨床研究を計画・実施するために必要な基盤をモデル研究として整備し、全国に普及を図った。
(4) 行政施策との関連性・事業の目的に対する達成度
本研究事業はゲノム創薬、テーラーメード医療に代表される次世代医療の中心を担うヒトゲノム・遺伝子治療分野における研究を推進し、優れた医薬品を創製し、革新的な医療の実現を図ることを目的としている。これらの目的の対する寄与度によって達成度が示される。
(5) 課題と今後の方向性
ゲノム創薬、オーダーメイド医療の実現、画期的な新薬の開発着手等に資するため、今後とも継続して、医療への貢献という観点から各研究課題の評価を実施する必要がある。平成17年度の申請状況では、145件の応募があり14件が採択された。今後とも、研究者の需要に応えるため適切な予算額を確保すると共に、質の高い研究を採択出来るよう評価体制を強化充実する。
(6) 研究事業の総合評価※ (暫定評価)
 本研究事業は、先端的な技術を臨床応用に導く重要な研究分野である。疾患関連遺伝子の同定、遺伝子治療製剤の臨床研究や安全性に関する研究、病変の遺伝子診断技術、研究資源の提供を目的とした細胞バンクなどの管理基盤整備に関する総合的研究など、トランスレーショナル研究やその基盤的支援技術につながる研究を実施してきた。
 本研究事業は、病態診断、分子標的治療、予測医療等、健康増進への寄与が期待される新しい医療技術の創生に資する極めて重要な研究成果を輩出しており、今後とも、引き続き一層推進すべき分野である。


厚生労働科学研究費補助金研究事業の概要
研究事業:ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療研究分野)
所管課:健康局疾病対策課
予算額(平成17年度):984,721千円
(1) 研究事業の目的
 近年の科学技術の急速な進歩に伴い、細胞が有する自己修復機構を応用した再生医療、移植医療の発展は、我が国の健康寿命の延伸に寄与する次世代の医療技術として大きな期待が寄せられている。特に高齢化社会の進展に伴い、動脈硬化症、虚血性心疾患、脳血管障害、痴呆、褥瘡、骨折等の疾患に対して、生物の発生・再生に係る知見に基づいた、革新的な治療技術・移植技術の確立を目指す。
(2) 課題採択・資金配分の全般的状況
 別添資料のとおり。
(3) 研究成果及びその他の効果
 本事業が目標としている、再生医療技術を用いた新たな医療技術の開発、臨床応用については、それぞれの分野において以下のような成果が挙がっている。

1)  骨・軟骨分野
 骨・関節障害等による運動機能の低下はQOLの低下をもたらし、最終的には身体機能の破綻につながる。このような病態に対し、再生医療技術を用いた新たな治療法を開発する。
軟骨無形成症の遺伝的変異と軟骨成長におけるC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)の役割を明らかにし、CNPを軟骨無形成症の治療に応用できる可能性についてNature Medicine誌等において報告した。
組織工学技術により未分化間葉系幹細胞(MSC)を用いて作製された培養骨・軟骨、注入型人工骨、及び培養骨膜シートを用いた再生技術に関して、臨床での有効性を確認することができた。
軟骨再生に関して現在の技術の問題点の解決を目指し、特にMSCの分化誘導法と移植実験による有効性について、前臨床研究において明らかにした。

2)  血管分野
 血管新生、再生、保護を制御する血管医学の展開を図り、これを応用した虚血性疾患の新しい治療法の開発を目指す。
血管網を伴った厚みのある心筋細胞シートを開発し、病変部への移植により心機能の改善が可能であることを明らかにした。
生体人工弁に関して、超高静水圧印加及びマイクロ波照射下洗浄法を用いた脱細胞化技術の開発により、高度な安全性と広範な適用範囲を実現した。
全身的な末梢血管の循環不全をきたす糖尿病、高血圧等に対し、自己骨髄細胞移植による血管新生治療を開発し、特に虚血下肢への自家骨髄細胞移植の多施設臨床研究を行った。Lancet誌等において報告するとともに、高度先進医療として承認された。
心筋梗塞により機能の低下した組織を修復する基礎技術として、胚性幹細胞から特異的に心筋細胞を作成する技術、分化した心筋と未分化細胞を分離する技術、及び細胞シートとして心筋を移植する技術を開発した。

3)  神経分野
 パーキンソン病、脳梗塞等への応用を目指して、神経幹細胞の単離、分化、増殖機構の解明を行っている。
神経幹細胞の分離、培養技術に関して、齧歯類、霊長類及びヒト組織から神経幹細胞を効率よく分離し培養する技術を確立した。
脳に内在する神経幹細胞の増殖を促進させる低分子化合物を明らかにし、内在性の神経幹細胞賦活化因子の治療薬としての可能性を示唆した。
神経幹細胞の体外培養、投与、及び生着技術等、治療に関連した技術として、齧歯類及び霊長類モデルを用いて、体外で培養した神経幹細胞を脳内に移植し生着させる技術を確立した。パーキンソン病モデル動物においては、脳内移植により症状の一部が改善されることを明らかにした。

4)  皮膚・角膜分野
 再生医療技術の応用により、これまで困難であった難治性皮膚潰瘍、熱傷及び難治性角膜疾患等に対する新たな治療方法を開発する。
移植皮膚の拒絶反応を抑制できる無細胞真皮マトリックスを用いた皮膚移植について検討し、いずれも良好な生着を認め臨床的有用性を明らかにした。
同種培養皮膚を用いて全国の医療機関で多症例の臨床研究を行い、その有効性について明らかにした。
角膜の培養上皮シート及び口腔粘膜上皮シートの作成に成功し、多施設臨床研究を開始した。これに併せて細胞シートを遠隔地に運搬する技術も開発し、実用化に向けたモデルを提示できた。羊膜と組み合わせたハイブリッドポリマーの開発等、将来有望な基盤的成果も得ることができた。

5)  血液・骨髄分野
 造血幹細胞に係る新たな知見の解明と、血液疾患に対して造血幹細胞を用いた治療のエビデンスの確立、及び新たな治療方法の開発に取り組む。
造血幹細胞の分化制御に関与するLnkについて、造血幹細胞機能のエンハンスと、移植成績の向上に結びつく知見を得た。
造血幹細胞の投与により生着を促す技術に関して、選択的増幅遺伝子(SAG)を利用した造血系細胞体内増幅法のサルモデルでの有効性を確認した。
造血幹細胞の体外増幅法について、分化抑制遺伝子の機能を明らかにし、これに基づいた細胞制御システムを開発した。また臍帯血の体外増幅法の臨床応用に向けた基盤技術を確立した。
末梢血幹細胞移植におけるドナーの安全性を専門的、客観的に検証するためのフォローアップ体制を確立した。また母児間免疫寛容に基づくHLA二座以上不適合移植の成績について解析しBlood誌で報告した。

6)  移植技術・品質確保分野
 各種の移植に伴う免疫機能の解析を行い、免疫寛容を起こさせる基礎的なメカニズムを解明するとともに、細胞組織利用医薬品・医療用具の品質、安全性の確保に向けた技術開発及び評価手法の確立を目指す。
臓器移植の臨床現場で抱える諸問題の解決を目指し、各臓器移植における問題点を明らかにした。特に腎臓移植におけるABO血液型不適合移植症例の解析を通じて移植成績の向上に寄与するとともに、一部の症例においてステロイド離脱を可能とした。
増幅時の細胞・組織に混入するウイルス等の危険因子を迅速かつ効率的に検出する技術、製造過程における品質管理技術の高度化に関して、ポリエチレンイミン磁気ビーズ等を用いたウイルス濃縮法を確立し、核酸増幅法によるウイルス検出の高感度化を可能とした。
(4) 行政施策との関連性・事業の目的に対する達成度
 再生医療という革新的な医療技術に対する期待は大きく、これまでも厚生労働省に対しては当該分野への支援が求められてきたところであり、また当該技術がもたらす国民の健康向上の観点からも、国として施策として積極的に関与していく必要性が認められる。本分野の成果としては、今後に発展することが期待されるシーズ的成果から、高度先進医療として承認されるなど実用化に至っていると判断できる成果に及び、当初の目的に沿う形で事業が展開され、一定の水準を達成しているものと考えられる。
 また行政施策に反映された具体例としては、血縁者間骨髄移植におけるドナーの有害事象発生状況について調査を行い、骨髄バンクにおけるドナー提供年齢引き上げの議論に有用な知見を得た。
(5) 課題と今後の方向性
 本研究事業は平成12年度に開始され、既に骨髄細胞移植による血管新生療法、難治性眼疾患に対する羊膜移植術が高度先進医療として承認を受けるなど、これまでにも優れた成果を挙げてきている。このような現状を踏まえ、平成17年度からは
 ・ 実施中の課題のうち特に臨床応用に近い段階の研究に対する支援を強化し、実用化に向けたフェーズを加速
 ・ 新たな技術の実用化に必要な品質管理・品質保証に関する研究の一層の充実
することとしており、今後も同様の方向性での事業展開を予定している。
(6) 研究事業の総合評価※
 (暫定的評価)新しい医療技術を生み出す可能性がある再生医療分野の発展を目指し、平成12年度から本事業が開始された。現在までに、当初の目標であった臨床応用を達成する医療技術を生み出しており、十分な成果があるものと考える。


厚生労働科学研究費補助金研究事業の概要
研究事業(研究事業中の分野名):疾患関連たんぱく質解析
所管課:医政局研究開発振興課
予算額(平成17年度):660,676千円
(1) 研究事業の目的
 我が国の主要な疾患である高血圧、糖尿病、がん、認知症、炎症・アレルギ−性免疫疾患等の患者と健常者との間のたんぱく質の種類・質・量の相違について、国立医療機関等より提供されるヒト組織サンプルに対して、多数の最新鋭高性能質量分析機器及びバイオインフォマティクス技術を用いて大規模かつ効果的に解析することにより、疾患関連たんぱく質の探索・同定および機能解析等に係る研究を行い、疾患関連たんぱく質に関する創薬基盤データベースを構築し、将来の画期的な医薬品等の開発に資することとする。
 本研究事業では、産学官連携の指定(プロジェクト)型の研究を実施。
(2) 課題採択・資金配分の全般的状況
  平成16年度採択課題
  課題名 :疾患関連たんばく質解析研究
  主任研究者 :長尾 拓(国立医薬品食品衛生研究所 所長)
  研究年度 :平成15年度〜平成19年度
  交付決定額 :546,658千円
(3) 研究成果及びその他の効果
(社会的な意義や施策・ガイドライン等への反映状況を含む)
 本事業は平成15年度から5年計画で開始した事業である。これまでに産学官共同による事業の運営・実施体制等を整備するとともに、ヒト試料の採取・管理から前処理、質量分析、創薬ターゲット探索用データ解析までを一括管理するシステムを構築した。
 今後は、さらなる関連技術の開発を進め、引き続き関係医療機関と協力して網羅的な疾患関連たんぱく質解析を進め、データベース構築を促進する。
 本事業の成果により、創薬シーズが効率的に提供され、医薬品の研究開発が活性化される。これにより、我が国における医薬品産業がスパイラル的な発展をすることにより、日本の医薬品産業の国際的競争力が強化されるとともに、日本国内はもとより世界の患者に質の高い医薬品を提供することが期待される。
(4) 行政施策との関連性・事業の目的に対する達成度
 欧米諸国では疾患からのアプローチに対して既に国家プロジェクトとしてその取り組みに着手しているが、我が国においては欧米のような大規模かつ集中的な疾患関連たんぱく質に関する研究はない。また、多額の費用を要するため企業単独で取り組むことは困難である。このため、我が国においても産学官の連携のもと、患者と健康な者との間で種類等が異なるたんぱく質を同定し、これに関するデータベースの整備を図ることで、画期的な医薬品の開発を促進する必要がある。
 また、医薬品産業ビジョン(2002年8月)において、国際競争力強化のためのアクション・プランが打ち出されたところである。本研究事業は、このアクション・プランに基づいて、画期的な医薬品の研究開発を促進するとともに、医薬品産業等の振興を図るための方策と位置付けられており、これらの目標に対する寄与によって達成度が示される。
(5) 課題と今後の方向性
 指定(プロジェクト)型研究においては、適切な予算額の確保が必要であり、安易な研究費削減は、プロジェクトの達成に大きく影響を及ぼし、予定内容の実施が困難となることから、所要の予算額の確保が今後の課題。
(6) 研究事業の総合評価※
 本研究事業は平成15年度より開始されたものである。これまでに産学官共同による事業の運営・実施体制等を整備するとともに、ヒト試料の採取・管理から前処理、質量分析、創薬ターゲット探索用データ解析までを一括管理するシステムを構築し、サンプルの解析を開始したことは評価できる。今後は、欧米諸国との競争を見据えて、可能な限り早期に、医療機関等と共同で大量の疾患関連たんぱく質を解析・同定し、画期的な医薬品の開発に貢献しうる疾患関連たんぱく質データベースの構築を進めるべきと考える。
 今後とも、プロテオミクス研究については、疾患からのアプローチという観点から、引き続き着実に推進すべきである。


厚生労働科学研究費補助金研究事業の概要
研究事業(研究事業中の分野名):萌芽的先端医療技術推進研究
所管課:研究開発振興課
予算額(平成17年度):4,629,230千円
(1) 研究事業の目的
 平成14年度から開始した事業で、当初はナノテクノロジーを活用した医療技術等の研究開発(ナノメディシン)とゲノム科学を活用した創薬基盤技術開発(トキシコゲノミクス)の2つの萌芽的研究分野を対象としていた。平成17年度より、ゲノム科学を活用した有効かつ安全な医薬品の投与の方法等の開発の基盤となる技術開発(ファーマコゲノミクス)の萌芽的研究分野が加わり、3つの研究分野を対象としている。
 ナノテクノロジー分野では、患者にとってより安全・安心な医療技術の実現を図るため、ナノテクノロジーの医学への応用による非侵襲・低侵襲の目指した医療機器等の研究開発を推進するもの。
 トキシコゲノミクス分野では、ゲノム情報・技術等を活用した医薬品開発のスクリーニング法、副作用の解明等の技術に関する研究開発を推進するもの。
 両分野とも課題別に、産官連携の指定(プロジェクト)型及び公募型の研究を実施。
 ファーマコゲノミクス分野については、ゲノムレベルの一人一人の個人差を踏まえた、医薬品の効果及び副作用を事前に予測するシステムを開発し、個人差に応じた最適な処方を可能とすることを目的とする。公募型研究のみ実施。
(2) 課題採択・資金配分の全般的状況
 16年度採択課題一覧(別途添付)、課題採択の留意事項等
(3) 研究成果及びその他の効果
(社会的な意義や施策・ガイドライン等への反映状況を含む)
 ナノメディシン分野では、指定(プロジェクト)型研究において心筋トロポニンの結晶構造の分子イメージング化の成功等、公募型研究においては、ターゲッティングと徐放を併せ持つDDS製剤の開発(製薬企業と共同研究開始)、ナノ粒子を用いた超高感度な蛍光計測系の確立、世界で初めて個体(マウス)で有効なベロ毒素活性阻害剤の開発、ナノ技術集積型埋め込み式心室補助装置の開発等、研究成果を着実にあげている。
トキシコゲノミクス分野では、指定(プロジェクト)型研究において医薬基盤研究所、国立医薬品食品衛生研究所及び製薬企業の3者による共同研究を着実に進展させると共に、公募型研究においては、迅速・簡便な微量組織トキシコゲノミクス解析法の確立、薬物動態学を用いて、トランスポーターを介した薬物間相互作用の可能性の定量化、独自の手法を用いた、トキシコゲノミックス(プロテオミックス)の手法としての薬剤-蛋白質相互作用に関する網羅的解析法の開発等、着実に研究を進めている。
ファーマコゲノミクス分野は平成17年度からの事業である。
(4) 行政施策との関連性・事業の目的に対する達成度
 医薬品産業ビジョン(2002年8月)及び医療機器産業ビジョン(2003年3月)において、国際競争力強化のためのアクション・プランが打ち出されたところである。本研究事業は、この両アクション・プランに基づいて、画期的な医薬品や医療用具の研究開発を促進するとともに、医薬品産業等の振興を図ることとしており、これらの目標に対する寄与度によって達成度が示される。
(5) 課題と今後の方向性
 指定(プロジェクト)型研究においては、適切な予算額の確保が必要であり、安易な研究費削減は、プロジェクトの達成に大きく影響を及ぼし、予定内容の実施が困難となることから、所要の予算額の確保が今後の課題。
 また、公募型研究においては、新規公募の事前評価及び中間・事後評価を適切なタイミングで効果的かつ厳正に実施することにより、採用又は継続する研究課題のレベルを一定水準以上に保つ必要がある。
(6) 研究事業の総合評価※
 ナノメディシン分野では、指定(プロジェクト)型研究において心筋トロポニンの結晶構造の分子イメージング化の成功等、公募型研究においては、ターゲッティングと徐放を併せ持つDDS製剤の開発(製薬企業と共同研究開始)、ナノ粒子を用いた超高感度な蛍光計測系の確立、世界で初めて個体(マウス)で有効なベロ毒素活性阻害剤の開発、ナノ技術集積型埋め込み式心室補助装置の開発等、研究成果を着実にあげている。
 トキシコゲノミクス分野では、指定(プロジェクト)型研究において医薬基盤研究所、国立医薬品食品衛生研究所及び製薬企業の3者による共同研究を着実に進展させると共に、公募型研究においては、迅速・簡便な微量組織トキシコゲノミクス解析法の確立、薬物動態学を用いて、トランスポーターを介した薬物間相互作用の可能性の定量化、独自の手法を用いた、トキシコゲノミックス(プロテオミックス)の手法としての薬剤-蛋白質相互作用に関する網羅的解析法の開発等、着実に研究を進めている。
 以上のように、指定型プロジェクト、公募型プロジェクト共に順調に進展しており、一層の推進が望まれる。
 ファーマコゲノミクス分野は平成17年度からの事業である。


厚生労働科学研究費補助金研究事業の概要
研究事業(研究事業中の分野名):身体機能解析・補助・代替機器開発研究事業
所管課:医政局研究開発振興課、障害保健福祉部企画課
予算額(平成17年度):1,064,237千円
(1) 研究事業の目的
 近年のナノテクノロジーをはじめとした技術の進歩を基礎として、生体機能を立体的・総合的に捉え、個別の先端的要素技術を効率的にシステム化する研究、いわゆるフィジオームを利用し、ニーズから見たシーズの選択・組み合わせを行い、新しい発想による機器開発を推進する。
 本研究事業では、課題別に、産官学連携の指定(プロジェクト)型及び公募型の研究を実施。
(2) 課題採択・資金配分の全般的状況
 別添参照
(3) 研究成果及びその他の効果
 平成15年度から開始された5年間の指定(プロジェクト)型研究事業であり、最適な除細動電極・通電法に用いる除細動シミュレーターの開発、先端に複数の手術用器具を装備する内視鏡的手術器具の設計・製作及び高次脳機能障害診断のための誘発脳波等基礎データの収集など、順調に進捗している。
 平成17年度より、従来の指定型研究に加え、公募枠を新設し、産官学の連携の下、画期的な医療・福祉機器の速やかな実用化を目指している。
(4) 行政施策との関連性・事業の目的に対する達成度
 今後ますます高度化する医療への要求に応え、国民の保健医療水準の向上に貢献していくためには、最先端分野の医療・福祉機器の研究開発を進め、医療・福祉の現場へ迅速に還元することが重要である。
 このことを踏まえ、厚生労働省としても平成15年3月に「医療機器産業ビジョン」を策定している。本研究事業は、このアクション・プランに基づいて、画期的な医薬品の研究開発を促進するとともに、医薬品産業等の振興を図るための方策と位置付けられており、これらの目標に対する寄与によって達成度が示される。
 福祉機器に関しては、平成13年度より新たな障害概念である高次脳機能障害への支援モデル事業を開始しており、高次脳機能障害の診断及び治療法の開発につながる本研究は施策との重要な関連を有している。
(5) 課題と今後の方向性
 本事業は、国として着実な推進を図るため指定(プロジェクト)型研究で進められている。H17年度からは、従来の指定型研究に加え、公募枠を新設し、産官学の連携の下、画期的な医療・福祉機器の速やかな実用化を目指している。
(6) 研究事業の総合評価※
 近年のナノテクノロジーを始めとした技術の進歩を基礎として、生体機能を立体的・総合的に捉え、個別の要素技術を効率的にシステム化する研究、いわゆるフィジオームを利用し、ニーズから見たシーズの選択・組み合わせを行い、新しい発想による医療・福祉機器開発を推進することが求められている。
 本事業は、平成15年度から5年間の指定(プロジェクト)型研究であり、国立高度医療センター等と企業が共同して、最適な除細動電極・通電法に用いる除細動シミュレーターの開発、先端に複数の手術用器具を装備する内視鏡的手術器具の設計・製作及び高次脳機能障害診断のための誘発脳波等基礎データの収集などを行ってきたところである。
 H17年度より、従来の指定(プロジェクト)型研究に加え、公募枠を新設し、産官学の連携の下、画期的な医療・福祉機器の速やかな実用化を目指しており、行政的にもその意義は高い。


臨床応用基盤研究事業


厚生労働科学研究費補助金研究事業の概要
研究事業(研究事業中の分野名):基礎研究成果の臨床応用推進研究
所管課:研究開発振興課
予算額(平成17年度):1,004,483千円
(1) 研究事業の目的
 医薬品又は医療技術等に係る基本特許を活用して、研究期間中に探索的な臨床研究に着手しうる医薬品又は医療技術に関する研究を推進する。
(2) 課題採択・資金配分の全般的状況
 16年度採択課題一覧(別途添付)
 課題採択の留意事項:主任研究者又は分担研究者が出願している医薬品又は医療技術等の基本特許を活用して、画期的かつ優れた治療法として3年以内に探索的な臨床研究に着手しうることが明らかな薬物又は医療技術に関する研究を採択することとしている。
(3) 研究成果及びその他の効果
(社会的な意義や施策・ガイドライン等への反映状況を含む)
 本事業は、平成14年度より開始した事業であるが、すでに本研究事業により、癌ペプチドワクチンの第I相及び早期第II相臨床試験(試験終了。良好な臨床効果)、重症突発性肺胞蛋白症に対するGM-CSF吸入療法臨床研究の実施、国内初の自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法の第I相臨床試験の開始、虚血性疾患患者への血管内皮前駆細胞移植の臨床研究の開始等の数々の成果をあげており、基礎的な段階に留まっている研究成果について実用化を促進することにより、臨床現場への有用な医薬品・医療技術等を提供する機会が増加することが見込まれる。
(4) 行政施策との関連性・事業の目的に対する達成度
 民間企業は研究開発の段階のうち、治験等の実用化直前の研究に多く投資する傾向があり、基礎研究成果の実用化の可能性を確かめる研究については投資が少ない。このため、基礎的な段階における研究成果が十分に活用されていないという問題が指摘されている。
 このような状況において、基礎的な段階に留まっている研究成果について実用化を促進することにより、国民に有用な医薬品・医療技術等を提供する機会が増加することが見込まれる。
 これらの目標に対する寄与度によって達成度が示される。
(5) 課題と今後の方向性
平成17年度の申請状況では、70件の応募があり12倍弱の競争率であった。今後とも、研究者の需要に応えるため適切な予算額を確保すると共に、質の高い研究を採択出来るよう評価体制を強化充実する。
 また、新たな課題として探索的臨床研究を実施したものの、効果を確信するためには、実施した症例数が少ない等の理由により企業が開発に着手するに至らず実用化の手前で留まっている研究が見受けられるようになってきた。今後は、このような実施症例数の増加が実用化へのステップとなる研究についても支援する必要がある。
(6) 研究事業の総合評価※ (暫定評価)
 本研究事業は、基礎研究で留まっていた成果を臨床現場に応用することを促進する事業であり、臨床医療の向上を目指す点において、国民の健康、福祉の増進を図る。厚生労働省において実施するのがふさわしい研究事業である。基礎研究成果の迅速かつ効率的な臨床応用に向けて今後の一層の充実が望まれる。


厚生労働科学研究費補助金研究事業の概要
研究事業(研究事業中の分野名):治験推進研究事業
所管課:医政局研究開発振興課
予算額(平成17年度):1,082,000千円
(1) 研究事業の目的
 我が国での治験の実施数が減少しており、これにより国内における医薬品等の開発が遅れ、優れた医薬品に対する患者のアクセスが遅れるおそれが生じている。そのため、複数の医療機関による大規模な治験ネットワークを形成し、このネットワークを使ったモデル事業として稀少疾病医薬品等の医療上必須かつ不採算の医薬品・医療機器について医師主導の治験を行い、それを通じて治験環境の整備、医薬品の開発の推進に資することを目的とする。
(2) 課題採択・資金配分の全般的状況
 日本医師会が実施主体
(3) 研究成果及びその他の効果
(社会的な意義や施策・ガイドライン等への反映状況を含む)
 平成15年度から開始された事業であり、日本医師会に治験促進センターを設立し、991(平成16年度末)の登録医療機関から成る大規模治験ネットワークを構築した。平成16年度末までに8課題(医薬品)の医師主導治験課題が採択され、それぞれ医師主導型治験をモデル研究事業として実施すべく、実施計画書の作成、治験実施機関の選定が行われており、そのうち「がん」、「循環器」、「小児疾患」分野の3課題については平成16年度までに治験届が出された。このうち「がん」及び「小児疾患」分野の2課題について治験薬の投与が開始されている。
(4) 行政施策との関連性・事業の目的に対する達成度
本事業は、平成15年4月に策定した「全国治験活性化推進3カ年計画」の大きな柱のひとつであり、行政施策の実施に欠かせない事業である。大規模治験ネットワークの構築、地域ネットワークの支援等の治験のネットワーク化の推進、国民に対する治験意義等に関する普及啓発等を目標に掲げており、これらの目標に対する寄与度によって達成度が示される。
(5) 課題と今後の方向性
 平成16年度までに研究課題として採択した医師主導治験を引き続き実施するとともに、平成17年度においても新たに医師主導の治験を推進する。
 更に、大規模治験ネットワーク参加医療機関に対する治験情報の提供、国民に対する治験理解促進のための啓発等を推進事業において行い、治験及び臨床研究の環境の整備に努める。
(6) 研究事業の総合評価※(暫定評価)
 我が国での治験の実施数が減少しており、そのため、国内における医薬品等の開発が遅れ、優れた医薬品に対する患者のアクセスを遅らせるおそれが生じている。その対策として平成15年4月に「全国治験活性化推進3カ年計画」を策定したが、本事業はその計画の大きな柱のひとつであり、臨床研究を実施する現場の医師、製薬産業からも期待を寄せられており、行政施策の推進に資する事業である。

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