資料5
第2回検討会における配付資料5について

帝京大学医学部衛生学公衆衛生学
教授 矢野 栄二

 第2回検討会の中で、矢野が提出した配布資料5「労働安全衛生法66条で規定する健康診断で胸部レントゲン検査を実施する目的とその有効性」の中の 3.「胸部レントゲン検査実施の利益と不利益」の部分について、放射線医学を専門とする委員より、低線量放射線の健康影響については諸説があるとのご指摘をいただきました。そこで最近の関連資料を集めてみました(単位はGy=Svとして統一)。

1.  胸部X線間接撮影による被曝線量
 第2回検討会の資料4 (柚木委員提出) 草間朋子先生による
(全国労働衛生団体連合会報告書)
 0.22〜0.31mSv
 第2回検討会の資料5 (矢野提出) 小笹晃太郎先生による 0.26mSv
 国連科学委員会(UNSCEAR2000添付表15)日本1991-1996 0.053mSv
(直接撮影では0.057mSv)

2.  単位被曝線量(1Sv)あたりの生涯過剰発がん死リスク推定値(添付表1)
 国際放射線防護委員会ICRP1990 500人/1万人
(前回報告の500人/10万人は白血病だけの数値)
 国連科学委員会(UNSCEAR 1993,1994) 1200人/1万人


 このように、胸部X線間接撮影による被曝線量や単位被曝線量あたりの生涯過剰発がん死リスク推定値には、さまざまなデータがあります。ただ、後者の数値は広島、長崎の被爆者などの高線量被曝者についての疫学調査から得られた値であり、それを低線量に当てはめる際は、どのような関係式を想定するのかという問題があります。前回は単純な直線関係を前提にした計算結果を示しましたが、それ以下では影響を起こさない閾値の存在が考えられる場合もあり、いまだ解決がついていません。また他のリスクとの比較も総合的に考える必要があります。そこでこれらの問題点を捨象して、誤解されたまま他で流用されることを避けるため、第2回検討会で矢野が提出した資料5の「3.胸部レントゲン検査実施の利益と不利益」の部分は削除させていただきます。

表1  日本原子力研究所 各リスク評価法におけるリスク推定値http://www.jaeri.go.jp/dresa/dresa/detail/risk/r1/r1_list.htm
リスク評価法 リスク推定値[致死確率係数(10-4/Sv)]
全がん 臓器別のがん
赤色骨髄* 食道 結腸 乳房 卵巣 膀胱 骨表面 甲状腺 肝臓 皮膚 その他
ICRP 1977 125 20 記載なし 記載なし 記載なし 20 25 記載なし 記載なし 5 5 記載なし 記載なし ※5 50
UNSCEAR 1977注1 100-250 20-50 (2-5) 10月15日 10-15(大腸)
(2-5 小腸)
20-50 50 記載なし (2-5) (2-5) 10 10月15日  
BEIR III (L-Lモデル)注2 絶対リスク 167.1 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし
相対リスク 501.4
NIH 1985 男性 865.9 115.7 21.7 204.1 100.8 178.8 - - 56.6 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし 187.9
女性 1068.7 68.8 46.7 223.7 92.9 173.2 43.9 30.6 25.1 365.6
UNSCEAR 1988 相乗リスク 712 97 34 126 79 151 ※1 60 ※1 31 39 ※2 22 記載なし 記載なし 記載なし 118
相加リスク 416 93 16 86 29 59 ※1 43 ※1 26 23 ※2 9 66
BEIR V 790 95 記載なし ※3 230 記載なし ※4 170 70 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし 260
ICRP 1990 500 50 30 110 85 85 20 10 30 5 8 15 2 50
UNSCEAR 1993,1994 1200 110 50 140 60 250 100 30 30 記載なし 記載なし 120 記載なし 310
EPA 1994注3 509.1 49.6 9.0 44.4 98.2 71.6 46.2 16.6 24.9 0.9 3.2 15.0 1.0 123.1
※1; 全がんを算出する場合には、ファクター2で除する   ※2; 多発性骨髄腫   ※3; 消化器   ※4; 呼吸器   ※5; 臓器5つまで考慮した最大値
注1; 食道、膀胱、骨、小腸腸、直腸腸、膵臓、頭蓋洞粘膜、リンパ組織に対しても発生率として評価値が掲載されている(2〜5×10-4/Sv)
唾液腺は10〜15×10-4/Svの発生率として掲載
表以外に脳、大腸腸が10〜15×10-4/Svの致死確率係数として掲載
注2; 白血病及び、その他のがんをおのおのL-Lモデルで算出したもの
なお、男女別々に算出されているが、臓器別のがん推定値を算出できない
注3; 表以外に腎臓が5.5×10-4/Sv、胸が46.2×10-4/Svの致死確率係数として掲載
*; 白血病
(); 全発生率(致死リスクは推定されていない)
換算; 1rad=0.01Gy UNSCEAR1988及びEPA1994は1Gy=1Svと仮定


表 15 (UNSCEAR 2000 Appendix D)
一般的な診断X線検査を受ける患者に対する代表的な実効線量(1991-1996)
特に示していない限り医療用放射線の使用と被曝に関する国連科学委員会調査書のデータを示す

PART A

検査あたりの平均実効線量(mSv)
胸部 四肢・関節 脊椎 骨盤・股関節 頭部 腹部 消化管 胆嚢造影
直接撮影 間接撮影 透視 腰椎 胸椎 頚椎 上部 下部
医療レベルI
オーストラリア 0.025
(±0.008)
- - - 2
(±1)
0.6 1
(±0.7)
ベラルーシ 0.25
(30 - 50%)
0.5
(30 - 50%)
1.0
(30-50%)
0.2
(30-50%)
1.1
(30-50%)
1 .6
(±30-50%)
1.1
(30-50%)
1.1
(30-50%)
0.12
(30-50%)
1.4
(30-50%)
0.6
(30-50%)
1
(30-50%)
0.2
(30-50%)
ブルガリア 0.16
(0.04-0.18)
0.91
(0.77 -1.05)
1.85
(1.6-2.1 )
- - - - - - - - - -
台湾 0.02 - - - 0.48 - - - - 0.19 3.8 4.1 -
チェコ共和国 0.05 0.7 - - 2 1.76 0.28 1 .26 0.28 3 3 8.5 1.26
フィンランド 0.1 - - - 2.3 1 0.2 1.3 0.1 2.2 9 9.7 -
ドイツ 0.3
(0.01- 5.5)
- - 0.06
(0.001-0.5)
2 0.7 0.2 0.8
(0.1-4.8)
0.03
(0.001-0.7)
1.2
(0.1-5.3)
8.3
(0.1-38)
17.7
(0.2-85)
7.1
(0.7-36)
日本 0.057 0.053 1.14 - 1.45 0.65 0.26 0.58 0.09 0.24 3.33 2.68 0.88
オランダ 0.06
(±0.08)
- - - 2 1 1 1 0.1 1 6.4
(±3.4)
4.7
(±2.4)
-
ニュージーランド - - - - - - - - - - 5 10 -
ノルウェー 0.13 0.23 - - 1.1 0.5 0.2 0.5 0.2 1 4 8 -
パナマ 0.021
(±0.013)
0.003
(±0.003)
2.17
(±1.0)
1.20
(±0.43)
0.07
(±0.01 )
0.44
(±0.13)
0.045
(±0.02)
0.30
(±0.12)
6.9
(±2.9)
3.12
(±0.76)
0.87
(±0.14)
ポーランド 0.11 0.82 4.1 0.02 4.33 3.03 - 0.61 0.1 2.2 14 22.7
ルーマニア 0.25
(±0.11)
0.63
(±0.3)
0.95
(±0.4)
0.08
(±0.03)
3
(±1.4)
2.1
(±1.2)
0.21
(±0.1)
2.6 0.17
(±0.12)
1.9
(±1)
4.1
(±1.9)
9
(±3.8)
1.6
(±0.9)

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