資料1

医師の需給に関する検討会中間報告書(案)
        ―医師の不足感解消のための緊急提言―

平成17年6月○○日


1.  はじめに
 本検討会においては、昨年の「へき地を含む地域における医師の確保等の推進について」(地域医療に関する関係省庁連絡会議)を踏まえ、平成17年度中に医師の需給に関する報告書をとりまとめるべく、検討を行っているところである。
 一方で、平成18年度での医療制度改革を目指して、医療制度全般の改革について、社会保障審議会医療部会において議論が進められているところである。
 本検討会の最終的な目標は、平成10年の医師の需給に関する検討会報告書公表後の医療を取り巻く環境の変化や社会経済状況の変化等を踏まえた医師の需給の将来推計及び今後取り組むべき課題についての検討を行うことであるが、一方で、病院における医師の不足感、地域や診療科における医師の偏在など、医師の需給に関し早急に対応策を講じる必要がある課題が指摘されているところである。これらの課題については、最終報告書を待たずに、中間報告として取りまとめ、国民的な議論に付することが適当と考えた。
 以上のことから、医師の需給に関する諸課題のうち、喫緊の課題としてできる限り早期に手当てすべきと考えられる事項について、本検討会における議論を取りまとめるものである。
 さらに残された課題については、最終報告書の取りまとめに向け引き続き議論を行っていくこととしたい。


2.  医師の需給に関する現状についての議論
 平成10年の「医師の需給に関する検討会報告書」においては、医師の需要を最大、医師の供給を最小に見積もっても、平成29年には医師は過剰になるという推計が示されている。本検討会では、今後、最終報告書に向けて定量的な調査・分析を行っていく必要があるが、医師の需給についての現状に関する、現在までの主な議論は以下のとおりである。

(1)  現状では、患者及び医師の双方から見て、医師は不足していると感じられる場面が多い
(2)  医療機関、診療科、時間帯、地域による医師の偏在があるのではないか

 これまでの、上記(1)の理由に関する議論について、整理すると以下のとおりである。

(@)  需要側の変化
 @)  インフォームド・コンセントの普及をはじめとして患者と医師の関係が変容している。治療方針の内容やその危険性について患者に十分説明することが求められており、患者一人あたりの診療時間が延びているのではないか。
 A)  医療を受ける国民全体の高齢化に伴い、医療が対象とする疾病構造が感染症中心からガン・脳卒中・心疾患中心に変化している。これらは、感染症に比べ、継続的な経過観察・治療を必要とするケースが多い。
 B)  医療が高度化、専門化、細分化していることに伴い、1人の患者に対し複数の専門分野の医師がチームで医療を行うことが必要になっている。
 C)  患者の側にも専門医志向が強くなっており、初期段階から専門分野の医師による診療を求める傾向が強い。

(A)  供給側の変化
 @)  女性医師は平成に入って対前年で10%以上の伸びを示しており、全医師数に占める割合も近年増加のペースを速めている。女性医師は男性医師に比べ出産、育児による労働の一時的な中断等が多く、相対的に労働時間が少ない傾向にあるため、女性医師の比率の増加が、結果として医師の診療量の減少をもたらしているのではないか。
 A)  大学院大学の入学定員が増加し、医学部を卒業した後も大学にとどまる医師が増え、臨床の現場に出る医師の数が減っているのではないか。
 B)  医師養成における行き過ぎた専門化により、一人の医師が対応できる患者の範囲が縮小しているのではないか。

 次に、上記(2)の理由に関する議論は、以下のとおりである。
 @)  例えば、当直などで長時間労働を余儀なくされる勤務医を避け、相対的に拘束時間の短い診療所に転向する医師が増え、病院の勤務医から開業医へというような、医師のシフトが起こっているのではないか。
 A)  昨年度から国立大学病院などが独立行政法人化して労働基準法が適用されたことに伴い、労働力のさらなる確保のために、大学病院から地域の病院に派遣していた医師を大学に引き上げることにより、地域別格差が拡大しているのではないか。
 B)  地域医療を守っている医師の多くが引退年齢にさしかかっており、地域別格差が拡大し、医療の確保が深刻な問題となっているのではないか。
 C)  医師の間に、特定の診療科や地域に行くことを避けるようになるという気質の変化が生じているのではないか。具体的には、医療の高度化・透明化や患者側の権利意識の高まりが相まって、病院における産婦人科や、救急医療のような、重労働で医療事故の多い診療分野に継続して従事する医師が減少しているのではないか。また、医師が過疎地に行かなくなっているのではないか。このことにより、診療科別格差、地域別格差が拡大しているのではないか。


3.  当面の対応策
 最終報告書に向けての将来の医師需給の推計は、上に述べたような現状を十分踏まえるべきであるが、そのうち、医師の地域偏在と、診療科における偏在は医師の不足という形で深刻な問題となっており、喫緊に対応すべき課題である。それらに対する当面の対応策として考えられるものを以下(別紙参照)のとおり列挙した。
 地域偏在の問題には、都道府県別でみた格差と、都道府県内における格差と、2種類の格差があると考えられるので、対応策を検討する際には区別して論じる必要がある。


4.  今後の検討課題

  ・ 労働法規の遵守の影響
 夜間の当直の後も通常どおり勤務しなければならないなど、医師の重労働の実態については多くの指摘があった。このような医師の献身的労働によって現場の医療が支えられていたことは事実であるが、医師も労働者である以上、労働法規を逸脱した労働形態は改められなければならない。一方で、労働法規を遵守することが医療提供の在り方にどのような影響を及ぼすのか、検証していく必要がある。

  ・ 女性医師の就業のマルチトラック化
 臨床医に占める女性医師の割合は約15%であるが、国家試験合格者では女性の占める割合は3分の1となっており、今後女性医師の割合は増加していくと予想される。女性医師は出産や育児により労働時間が短くなる傾向があると考えられ、男性医師が女性医師に置換されていくことによる、医師の需給への影響を検証するとともに、パートタイム勤務など、女性医師がライフステージに応じて働くことのできる柔軟な勤務形態の促進を図る必要がある。

  ・ 医療関連職種等との連携
 医師とその他の医療関連職種等の者が、それぞれの専門性を発揮しつつ、協力して医療にあたることは、医師の負担を軽減しつつ、医師の業務の効率化や患者が受ける医療の質の向上につながると考えられる。

  ・ 医師養成の在り方
 国民が「医師が不足している」と感じる原因の一つに、国民の専門医志向が進み、医師も専門分野以外の診療をしたがらず、一人の患者に多数の専門分野の医師がいないと診療ができない状態になっていることがあるのではないかと考えられる。しかしながら、たとえ国民の医療ニーズに応えるためとはいえ、初期段階から、細分化した専門分野の医師が患者の医療にあたるのは、決して効率的とはいえないのみならず、高齢化により複数の疾患を抱える者が増加している昨今、適切な診断・治療が確保しにくくなる恐れもある。医療資源の有効活用及び、社会のニーズに適した医療の確保のためにも、幅広くプライマリーケアのできる医師を養成していくことが必要であるとの指摘があった。これに関し、全体的にプライマリーケアができるということそれ自体も専門性であり、そういう専門性を国として認定していくことも必要ではないかとの意見があった。

  ・ 医療提供体制と医師需給
 医師不足が問題となっている地域や診療科において、医師の充足が即時に見込めないからには、患者の特定の医療機関への過度の集中を避けるためにも、既存の地域の医療資源を最大限活用した医療連携体制の一層の推進を図る必要があるとの意見があった。
 なお、この課題の解決には、小児救急、救急医療、麻酔科、産婦人科など特定の診療科・部門の集約化も必要であるとの意見があった。

  ・ 将来の医師需給
 最終報告書に向けての将来の医師需給の推計は、この中間報告書で述べてきたような、医療の質の変化をはじめとした医師の需要側の変化、労働法規の遵守、女性医師の増加などの供給側の変化を十分考慮に入れたものとすべきである。また、総量としての医師の数だけではなく、診療科別、地域別に需給の推計を行うことにより、現在医療の場で起こっている変化やその対策が明らかになると考えられる。


(以上)



当面の医師確保対策(医師需給検討会中間報告書別紙)


 医師の地域偏在の解消(へき地の医師確保を含む)について
 地域偏在・・・ @) 平均で見て、地域(都道府県)で格差があること
  A) 同一地域内で、都市部と周辺部で格差があること。

 A.  地方勤務への動機付け
  (1) 医師のキャリア形成における地方勤務の評価(人事面、給与面等)
  (2) 地域内でのキャリアパス形成を可能にする医師育成システムの構築
  (3) へき地医療を支援する病院に対する医療計画上の配慮
  (4) 税制面での配慮

 B.  地方勤務への阻害要因の軽減・除去
  (1) へき地勤務医師のバックアップ体制の強化
  (2) 地方医療機関と勤務希望医師のマッチングの推進
  (3) 代診医派遣のシステム化の推進

 C.  医師の分布への関与
  (1) 医学部定員の地域枠の拡大(地域による奨学金の有効活用等)
  (2) 自治医大の各都道府県の定員枠の見直し
  (3) 自治医大卒業生の見直し
  (4) 自衛隊医師の活用

 D.  既存のマンパワーの活用等
  (1) 雇用関係の多様化の促進
  (2) 医療関連職種の活用等
  (3) ITの活用、推進


 診療科偏在の解消
 A.  不足している診療科への誘導
  (1) 診療報酬での適切な評価

 B.  不足している診療科の阻害要因の軽減・除去
  (1) 地域協力体制の整備(夜間・救急への診療所医師の協力)
  (2) 夜間救急患者の減少方策(テレフォンサービス)

 C.  既存の診療能力の活用
  (1) 医療資源の集約化の推進
  (2) 女性医師の就業のマルチトラック化、雇用のマッチングの推進(雇用形態の多様化への対応)

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