「医師の臨床研修における修了等の基準に関する提言」について


 平成17年6月8日に開催された医道審議会医師分科会医師臨床研修部会において、「医師の臨床研修における修了等の基準に関する提言」が取りまとめられましたので、お知らせいたします。


(照会先)
 厚生労働省医政局医事課
医師臨床研修推進室
 電話 (代表)03-5253-1111
内線 4123



平成17年6月
医道審議会医師分科会
医師臨床研修部会


医師の臨床研修における修了等の基準に関する提言


1.はじめに

 医師の臨床研修については、平成12年の医師法の一部改正により、平成16年4月より新たな臨床研修制度が開始され、昭和43年のインターン制度廃止以来36年ぶりに抜本的な改革が行われることとなった。すなわち、診療に従事しようとするすべての医師は、臨床研修を受けなければならない(必修化)こととされ、また、これに併せて、臨床研修の内容の検討を進め、医師が、適切な指導体制の下で、医師としての人格をかん養し、プライマリ・ケアを中心に幅広く医師として必要な診療能力を効果的に身に付けることができるものとすることとされた。平成18年3月には新たな臨床研修制度の下での最初の研修修了者が生まれようとしているところである。

 医師の臨床研修の修了に関しては、研修管理委員会が、研修期間の終了に際し、臨床研修に関する当該研修医の評価を行い、単独型臨床研修病院又は管理型臨床研修病院の管理者(以下「管理者」という。)に対し、当該研修医の評価を報告しなければならないこととなっている。そして、管理者は研修管理委員会の評価に基づき、研修医が臨床研修を修了したと認めるときは、速やかに、当該研修医に対して、臨床研修修了証を交付しなければならないこととなっている。
 また、研修の中断については、管理者が研修管理委員会の勧告または本人の申し出に基づき判断を行うこととなる。
 本提言は、研修管理委員会による研修医の評価及び管理者による研修の修了、未修了あるいは中断の基準等を示すことにより、その判断が適切に行われ、全国で臨床研修修了者の水準の確保が図られることを目的とするものである。

 なお、臨床研修を行う大学病院においては、臨床研修の機会を提供するに当たって厚生労働大臣の指定を受けることを要しないが、全国で一定以上の臨床研修の水準を確保するためには、大学病院においても、本提言に示す基準に則って評価、修了、未修了及び中断の判断を行うことが必要である。

2.修了の評価・認定についての基本的な考え方
 各臨床研修病院の指定審査の際には、臨床研修協力施設を含む研修プログラムや指導体制等が、医師としての人格をかん養し、幅広く医師として必要な診療能力を身につけることができる内容であり、指定基準を満たしているということ   が既に確認されている。
 従って、評価・認定に当たっては、各研修医があらかじめ定められた臨床研修の期間、研修プログラムに則った研修を行い、臨床研修の到達目標が達成されていれば臨床研修を修了したと認定することが適当である。
 研修医の評価を行う際には、各分野における評価については担当指導医等が、研修期間を通じた評価についてはプログラム責任者が行い、最終的な評価を研修管理委員会が行う。そして、研修管理委員会の評価に基づいて、管理者が臨床研修の修了を認定することとなっている。臨床研修を実施している間、指導医等の研修医の指導にあたる者は、適宜、各研修医の研修の進捗状況を把握・評価し、修了基準に不足している部分を補い、あらかじめ定められた期間(2年)内に臨床研修を修了することができるよう配慮する必要がある。
 研修修了の判断にあたっては、実際の研修実施期間の評価及び臨床研修の到達目標の達成度の評価に分けて評価を行う必要がある。なお、最終的な認定に当たっては絶対評価を用いることとすべきである。

3.評価・認定等における関係者の役割

3−1 指導医等

 指導医は、自分の担当する各研修医ごとに臨床研修の到達目標の達成状況を把握し、担当分野の研修期間終了後に、研修医の評価をプログラム責任者に報告することとなっている。評価にあたって指導医は、研修医の指導を行った、あるいは研修医と共に業務を行った医師、看護師その他の職員と十分情報を共有し、それぞれの評価を把握した上で、責任を持って評価を行うべきである。
 また、指導医は研修医とよく意志疎通を図り、実際の状況と評価に乖離が生じないように努める必要がある。
 一方、研修医による指導医の評価も、指導医の資質の向上に資すると考えられることから、実施することが望ましい。
  なお、臨床研修協力施設等における研修実施責任者や指導者についても、指導医と同様の役割を担うべきである。

3−2 プログラム責任者

 プログラム責任者は、研修医ごとに臨床研修の到達目標の達成状況を把握し、研修プログラムにあらかじめ定められた研修期間の終了時までに、全ての研修医が臨床研修の到達目標を達成できるよう、全研修期間を通じて研修医の指導を行うとともに、その   研修期間の終了の際には、研修管理委員会に対して、研修医ごとに臨床研修の到達目標の達成状況を報告することとなっている。
 プログラム責任者は、定期的に、さらに必要に応じて随時各研修医の研修の進捗状況を把握・評価し、修了基準に不足している部分についての研修が行えるよう指導医に情報提供する等、有効な研修が行えるよう配慮するべきである。

3−3 研修管理委員会

 研修管理委員会は、研修医の管理及び研修医の採用・中断・修了の際の評価等臨床研修の実施の統括を行うこととされ、研修期間終了に際しては、研修医の評価を行い、管理者に対し、当該研修医の評価を報告しなければならないこととなっている。
 また、同委員会は、研修医が臨床研修を継続することが困難であると認める場合には、当該研修医がそれまでに受けた臨床研修に係る当該研修医の評価を行い、管理者に対し、臨床研修の中断を勧告することができることとなっている。
 同委員会においても、必要に応じて指導医やプログラム責任者から各研修医の研修進捗状況について情報提供を受ける等により、各研修医の研修進捗状況を把握、評価し、修了基準に不足している部分についての研修が行えるようプログラム責任者や指導医に指導・助言する等、有効な研修が行えるよう配慮するべきである。

3−4 単独型・管理型臨床研修病院の管理者

 管理者は、責任をもって、受け入れた研修医についてあらかじめ定められた研修期間内に臨床研修が修了できるよう努めるべきである。
 管理者は、研修管理委員会の評価に基づき、研修医が臨床研修を修了したと認めるときは速やかに臨床研修修了証を交付し、修了していないと認めるときは、速やかに当該研修医に対して、理由を付してその旨を文書で通知しなければならないこととされている。
 また、管理者は研修管理委員会の勧告又は研修医の申出を受けて、当該研修医の臨床研修を中断することができるが、中断した場合には、当該研修医の求めに応じて、速やかに当該研修医に対して臨床研修中断証を交付しなければならないこととされている。なお、このような場合においても、管理者は当該研修医に対し、適切な進路指導を行うべきである。

4.評価方法

4ー1.研修期間中の評価

 研修期間中の評価は形成的評価をもって行うことが重要であり、各研修医の研修内容を改善することを主な目的とする。
 各研修医及び指導医は「臨床研修の到達目標」に記載された個々の項目について、研修医が実際にどの程度履修したか随時記録を行う必要がある。
 研修の進捗状況の記録については、研修医手帳を利用するほか、インターネットを用いた評価システムなどの活用も考えられる。
 指導医等は定期的に、さらに必要に応じて随時研修の進捗状況の把握・評価を行い、各研修医が修了基準に不足している部分を研修できるよう配慮すると共に、評価結果を研修医にも知らせ、研修医、指導スタッフ間で評価を共有し、より効果的な研修へとつなげるべきである。

4−2.研修期間終了時の評価

 研修期間終了時の評価は総括的評価をもって行い、各研修医の臨床研修修了の判断を行うことをその目的とする。
 研修医の研修期間の終了に際し、プログラム責任者は、研修管理委員会に対して研修医ごとの臨床研修の目標の達成状況を報告する。その報告に基づき、研修管理委員会は研修の修了認定の可否についての評価を行う。
 評価は、研修実施期間の評価及び臨床研修の到達目標の達成度の評価(経験目標等の達成度の評価、臨床医としての適性の評価)に分けて行い、両者の基準が満たされた時に修了と認めるべきである。

5 臨床研修の修了基準

5−1 研修実施期間の評価

 研修医は、2年間の研修期間について、以下に定める休止期間の上限を減じた日数以上の研修を実施しなければ修了と認められるべきではない。

(1)休止の理由
 研修休止の理由として認めるものは、傷病、妊娠、出産、育児、その他正当な理由(研修プログラムで定められた年次休暇を含む)とするべきである。

(2)必要履修期間等についての基準
 研修期間(2年間)を通じた休止期間の上限は90日(研修機関(施設)において定める休日は含めない)とするべきである。
 各研修分野に求められている必要履修期間を満たしていない場合は、選択科目の期間を利用する等により、あらかじめ定められた臨床研修期間内に各研修分野の必要履修期間を満たすよう努めるべきである。

(3)休止期間の上限を超える場合の取扱い
 研修期間終了時に当該研修医の研修の休止期間が90日を超える場合には未修了とするべきである。この場合、原則として引き続き同一の研修プログラムで研修を行い、90日を超えた日数分以上の日数の研修を行うことが必要である。
 また、基本研修科目又は必修科目で必要履修期間を満たしていない場合にも、未修了として取扱い、原則として引き続き同一の研修プログラムで当該研修医の研修を行い、不足する期間以上の期間の研修を行うことが必要である。

(4)その他
 プログラム責任者は、研修休止の理由の正当性を判定し、履修期間の把握を行うべきである。研修医が修了基準を満たさなくなる恐れがある場合には、事前に研修管理委員会に報告・相談するなどして、対策を講じ、当該研修医があらかじめ定められた臨床研修期間内に研修を修了できるように努めるべきである。

5−2 臨床研修の到達目標(臨床医としての適性を除く)の達成度の評価

 研修の達成度の評価においては、あらかじめ定められた研修期間を通じ、各到達目標について達成したか否かの評価を行い、少なくともすべての必修項目について目標を達成しなければ、修了として認めるべきではない。
 個々の到達目標については、研修医が医療の安全を確保し、かつ、患者に不安を与えずに行うことができる場合に当該項目を達成したと考えるべきである。

5−3 臨床医としての適性の評価

 管理者は、研修医が以下に定める各項目に該当する場合は修了と認めるべきではない。
 なお、臨床医としての適性の評価は非常に困難であり、極めて慎重な検討が必要である。原則として、当該研修医が最初に臨床研修を行った臨床研修病院においては、その程度が著しい場合を除き臨床医としての適性の判断を行うことは困難である。少なくとも複数の臨床研修病院における臨床研修を経た後に評価を行うことが望ましい。

(1)安心、安全な医療の提供ができない場合
 医療安全の確保が危ぶまれる、あるいは患者との意志疎通に欠け不安感を与える場合等には、まず、指導医が中心となって、当該研修医が患者に被害を及ぼさないよう十分注意しながら、指導・教育すべきである。十分な指導にも関わらず、改善せず、患者に被害を及ぼす恐れがある場合には、未修了、中断の判断もやむを得ないものとする。
 一般常識を逸脱する、就業規則を遵守できない、チーム医療を乱す等の問題に関しては、まず当該臨床研修病院において、十分指導・教育すべきである。原則としてあらかじめ定められた臨床研修期間を通して指導・教育し、それでもなお、医療の適切な遂行に支障を来す場合には、未修了もしくは中断とすることもやむを得ないものとする。
  また、重大な傷病によって適切な診療行為が行えず医療安全の確保が危ぶまれる、あるいは患者に不安感を与える等の場合にも未修了、中断   の判断もやむを得ない。 なお、傷病又はそれに起因する障害等により当該臨床研修病院では研修不可能であるが、それを補完・支援する環境が整っている他の臨床研修病院では研修可能な場合には、管理者は、当該研修医が中断をして病院を移ることを可能とすべきである。

(2)法令・規則が遵守できない者
 医道審議会の処分対象となる者の場合には、「行政処分を受けた医師に対する再教育に関する検討会」の議論に基づく再教育を行うことになる。再教育にも関わらず改善せず、患者に被害を及ぼす恐れがある場合には、未修了、中断の判断もやむを得ないものとする。

6 臨床研修の中断・未修了について

6−1 基本的な考え方

 臨床研修の中断とは、現に臨床研修を受けている研修医について研修プログラムに定められた研修期間の途中で臨床研修を中止することをいうものであり、原則として病院を変更して研修を再開することを前提としたものである。
 臨床研修の未修了とは、研修医の研修期間の終了に際する評価において、研修医が臨床研修の修了基準を満たしていない等の理由により、管理者が当該研修医の臨床研修を修了したと認めないことをいうものであり、原則として、引き続き同一の研修プログラムで研修を行うことを前提としたものである。
 研修プログラムを提供している管理者及び研修管理委員会には、あらかじめ定められた研修期間内に研修医に臨床研修を修了させる責任があり、安易に未修了や中断の扱いを行うべきではない。
 やむを得ず研修の中断や未修了の検討を行う際には、管理者及び研修管理委員会は当該研修医及び研修指導関係者と十分話し合い、当該研修医の研修に関する正確な情報を十分に把握する必要がある。さらに、研修医が臨床研修を継続できる方法がないか検討し、研修医に対し必要な支援を行う必要がある。
 これらを通じて、中断・未修了という判断に至る場合にも当該研修医が納得するよう努めるべきである。なお、この様な場合においては、経緯や状況等の記録を残しておくべきである。また、必要に応じて事前に地方厚生局に相談をするべきである。

6−2 中断

(1)基準
 中断には、「研修医が臨床研修を継続することが困難であると研修管理委員会が評価、勧告した場合」と「研修医から管理者に申し出た場合」の2通りある。
 管理者が臨床研修の中断を認めるには、以下のようなやむを得ない場合に限るべきであり、例えば、臨床研修病院または研修医による不満のように、改善の余地があるものは認めるべきではない。

(1) 当該臨床研修病院の廃院、指定取り消しその他の理由により、当該研修病院が認定を受けた研修プログラムの実施が不可能な場合。

(2) 研修医が臨床医としての適性を欠き、当該臨床研修病院の指導・教育によっても改善が不可能な場合。

(3) 妊娠、出産、育児、傷病等の理由により研修を長期にわたり休止し、そのため修了に必要な研修実施期間を満たすことができない場合であって、研修を再開するときに、当該研修医の履修する研修プログラムの変更、廃止等により同様の研修プログラムに復帰することが不可能であると見込まれる場合。

(4) その他正当な理由がある場合

(2)中断した場合
 管理者は、当該研修医の求めに応じて、速やかに、当該研修医に対して臨床研修中断証を交付しなければならない。この時、管理者は、研修医の求めに応じて、他の臨床研修病院を紹介する等臨床研修の再開のための支援を行う必要がある。また、管理者は中断した旨を所管の地方厚生局に報告する必要がある。

(3)臨床研修の再開
 臨床研修を中断した者は、自己の希望する臨床研修病院に、臨床研修中断証を添えて、臨床研修の再開を申し込むことができるが、研修再開の申し込みを受けた臨床研修病院の管理者は、研修の修了基準を満たすための研修スケジュール等を地方厚生局に提出する必要がある。

6−3 未修了

 未修了とした場合、当該研修医は原則として引き続き同一の研修プログラムで研修を継続することとなるが、その場合には、研修プログラムの定員を超えてしまう事もあり得ることから、指導医1人当たりの研修医数や研修医1人当たりの症例数等について、研修プログラムに支障を来さないよう、十分な配慮が必要である。
 また、この時、管理者は、当該研修医が臨床研修の修了基準を満たすための研修スケジュールを地方厚生局に提出する必要がある。

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