【資料No.4】

純粋持株会社の労使関係に関する検討経緯


平成8年12月  「持株会社解禁に伴う労使関係専門家会議」(座長 花見 忠)報告書(別添1
 持株会社と現在でもある親会社とでは、子会社の労働問題に対する関係は同じであり、新たな法的問題は生じない

平成9年5月、6月  独禁法改正案に係る衆参商工委員会の附帯決議
「持株会社の解禁に伴う労使関係の対応については、労使関係者を含めた協議の場を設け、労働組合法の改正問題を含め今後2年をメドに検討し、必要な措置をとること。」

平成11年12月  「持株会社解禁に伴う労使関係懇談会」(座長 山口浩一郎)中間とりまとめ(別添2
 団体交渉当事者としての持株会社の使用者性等の問題については、これまでの判例の積み重ね等を踏まえた現行法の解釈で対応することが適当
 純粋持株会社の今後の動向を見つつ、引き続き本問題について検討をしていくことが必要

平成15年9月  「純粋持株会社企業グループの労使関係」(JIL要請研究)(別添3
 持株会社の解禁の際に憂慮された労使関係上の問題は特に生じていない。その意味では、純粋持株会社の設立に伴う労使関係上の問題を解決するために持株会社に使用者性を強制的に持たせるような追加的措置をとる必要性は、現在のところ基本的にないと考えられる



(別添1)

「持株会社解禁に伴う労使関係専門家会議」報告書の概要
(平成8年12月6日)


 基本的考え方

 (1)  持株会社と現在でもある親会社とでは、子会社の労働問題に対する関係は同じであり、新たな法的問題は生じない。

 (2)  しかし、現在の親子会社においても労使関係上の問題が生じている例はあり、持株会社解禁により親子会社関係が増加すると予想されるので、適切な対応は必要。

 必要な対応

 (1)  持株会社が、子会社の労働者に関して、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあれば、「使用者」としての責任を負うことになることの周知が必要。

 (2)  持株会社が、子会社における団体交渉が円滑に行われるよう、可能な限り積極的に子会社に情報を提供することが望まれる。

 (3)  各企業グループにおいて、それぞれの労使の自主的努力により労使協議の場が設定されることが望まれる。

 (4)  労使団体により、持株会社による企業グループにおける労使関係上の問題等に関する協議の場が設置されることは有益。



持株会社解禁に伴う労使関係専門家会議委員名簿


花見 忠(座長) 上智大学法学部教授
山口 浩一郎 上智大学法学部教授
落合 誠一 東京大学法学部教授
諏訪 康雄 法政大学社会学部教授
荒木 尚志 東京大学法学部助教授
(年齢順・敬称略)



(別添2)


「持株会社解禁に伴う労使関係懇談会」中間とりまとめの概要
(平成11年12月24日)


 純粋持株会社のあるべき姿について

 純粋持株会社設立の本来の趣旨は、企業グループの経営戦略と子会社の日常的経営判断・事業活動とを分離し各子会社の日常的経営判断から離れた、より大胆で、中長期的視点に立ったグループの経営戦略を純粋持株会社が決定することができるようにするためである。
 したがって、労働関係についても、純粋持株会社がグループ全体の経営戦略の一環として個々の子会杜の人事労務に係る目標を示すことはあるとしても、子会杜の労働条件の決定にまで介入することは本来の姿でない。

 団体交渉当事者としての純粋持株会社の「使用者牲」について

 純粋持株会社においては、その本来のあるべき姿からみて、子会社の労働組合との関係において問題を生ずることは、一般の親子会社等の関係に比べより少ないと考えられるが、その可能性も否定できない。純粋持株会社が、子会社の具体的な労働条件の決定にまで関与する場合には、子会社の労働組合に対して、団体交渉当事者としての純粋持株会社の使用者性が問題となるケースがあるが、その場合にはこれまでの判例の積み重ね等を踏まえ現行法の解釈で対応を図ることが適当であると考えられる。
 使用者性が推定される可能性が高い典型的な例としては以下のようなものが考えられよう。
 (1)  純粋持株会社が実際に子会社との団体交渉に反復して参加してきた実績がある場合
 (2)  労働条件の決定につき、反復して純粋持株会社の同意を要することとされている場合

 企業グループにおける労使協議制について

 企業グループの場合には、企業グループの経営方針について意見交換の場が設けられることは、グループ全体の運営方針の円滑化、グループ各企業内における労使協議の活性化などの観点から望ましいと考えられるので、持株会社を頂点とする企業グループにおいても労使自治の下で労使協議が行われることが望ましいと考えられる。特に、純粋持株会社は経営戦略を通じて子会社の経営に影響を及ぼすと考えられ、また、純粋持株会社が子会社を所有していることから、一般の親子会社等の関係に比べ、純粋持株会社の意向に沿って子会社の事業再構築や売却が起こりうるとの懸念があることから、労使協議制を設けることの意義は大きいと思われる。
 企業グループの労使協議制の形態や内容については、労使自治に立脚しつつ、労使協議の実をあげ、意思疎通を図りやすくするという観点から、企業グループ内の労使で十分に話し合って決定すべきものである。

 フォローアップについて

 今後、経済のグローバル化や国際競争の激化を背景に、関連する法制、税制の整備等と相まって、純粋持株会社が増加することも見込まれる。純粋持株会社の設立がほとんど進んでいないところであるが純粋持株会社の今後の動向を見つつ、引き続き検討をしていくことが必要である。



持株会社解禁に伴う労使関係懇談会参集者名簿


  稲上 毅   東京大学教授

小田切 宏之 一橋大学教授

菅野 和夫 東京大学教授

座長 山口 浩一郎 上智大学教授

草野 忠義 全日本自動車産業労働組合総連合会会長

笹森 清 日本労働組合総連合会事務局長

松井 保彦 全国一般労働組合委員長

秋山 裕和 日本電気株式会社副社長

福岡 道生 日本経営者団体連盟専務理事

吉井 毅 新日本製鐵株式会社代表取締役副社長



(別添3)


純粋持株会社企業グループの労使関係
(平成15年9月 日本労働研究機構)

 純粋持株会社が設立されている、金融業の3つの企業グループ社と製造業の1つの企業グループの事例調査を通じて、純粋持株会社企業グループの企業経営、人事労務管理、労使関係について考察した。ここでは、純粋持株会社の解禁に伴い大きな議論になっていた純粋持株会社の使用者性について、事例調査の実態を踏まえつつ論じることとしたい。
 まず、労働契約上の使用者性に関わる問題として、法人格否認の事例は見られなかった。4つの事例とも「事業会社(子会社)が持株会社(親会社)を産む」という側面が強く、事業会社の法人格が否認される余地は少ない。
 次に、団体交渉の使用者性の問題について見ることにする。厚生労働省の「中間とりまとめ」では、団体交渉上、持株会社に使用者性があると推定される可能性が高い典型的な例として、純粋持株会社が実際に子会社との団体交渉に反復して出席してきた実績がある場合、または労働条件の決定につき、反復して純粋持株会社の同意を要することとされている場合という2つが挙げられている。4つの事例調査では、ここで挙げられている典型的な事例は見当たらないが、事例ごとに特徴が見られる。
 まず、持株会社の使用者性を考える上で、重要な要素の一つは、労働組合の考え方である。H労働組合とS労働組合は、子会社の労働条件決定に持株会社の使用者性がないと考えているが、W労働組合は使用者性があると考えている。このような考え方の違いは、ボーナスの団体交渉に現れている。すなわち、H労働組合とS労働組合は、要求書をそれぞれの事業会社に提出し、それぞれの会社から回答を受ける。しかし、W労働組合は、事業会社と持株会社を含めた企業グループの要求書を持株会社に提出し、回答も持株会社から受ける。
 ところが、ボーナスの回答の中身は、3つのグループの間には相違が見られる。まず、Hグループは、H労働組合と事業会社が個別に交渉を行っているが、要求と回答の内容は同じである。そして、個別企業の労使は当該企業だけではなく企業グループのボーナスを決めているのである。形式的には各社個別交渉であるが、実質的にはグループ交渉である。持株会社がこのような交渉の在り方にどういう影響を及ぼしたのかについては明らかではないが、旧3行の統合とグループレベルでの人材活用をスムーズに進めていくために持株会社が処遇の共通プラットフォームを導入したことの延長線で考えれば、持株会社の役割は小さくないと見られる。Sグループでは、持株会社と同様の処遇制度・水準を持っている事業会社とそうでない事業会社とで回答は異なる。しかし、持株会社と同様の処遇制度・水準を持っている事業会社の労働条件が持株会社と同じ水準が保障されているのは、持株会社発足後3年間の移行期に限っている。その後は、各社バラバラの回答が出ることが予想される。一方、Wグループでは、団体交渉は実質的にW労働組合と持株会社であるW本社との間に行われているが、事業会社間の回答内容は異なる。回答内容(ボーナス水準)の事業会社間の格差は、労働組合が設定した一定の範囲内に収まれば認められるが、実際、格差のある回答が出された。なお、Rグループでは、持株会社の発足に伴う労働組合の組織や団体交渉など労使関係上の変化は見られない。
 以上のように、純粋持株会社の使用者性は4つの企業グループにおいてそれぞれ特徴があるものの、持株会社の解禁の際に憂慮された労使関係上の問題は特に生じていない。その意味では、純粋持株会社の設立に伴う労使関係上の問題を解決するために持株会社に使用者性を強制的に持たせるような追加的措置を採る必要性は、現在のところ基本的にないと考えられる。
 しかし、今後留意していかなければならない点がいくつかある。第1に、純粋持株会社へのスムーズな移行のために労使関係上の取決めや配慮などがなされていることである。移行期(例えばSグループの場合3年)が過ぎれば、現在の労使関係が変わることもあり得る。特にS社の場合、労使関係において持株会社の役割が弱まり、個別企業の役割が高まる可能性があるが、そのとき労使関係がどのようになっていくのか注目する必要がある。
 第2に、今後、企業グループの中で会社間の業績の格差が広がっていく場合、現在のようなグループ内の企業間の同一処遇水準を維持していくことが難しくなる可能性もある。そうすればグループ内の企業間人事異動が困難になるし、労働組合も現在のグループ単位組織から各企業の単位組合に分組することもあり得る。また、処遇水準に差をつけられた企業の労働組合が、格差の原因を個別企業だけではなく純粋持株会社にも求めることも想定されるが、そうなれば、労使関係上の問題が生じる可能性もある。
 第3に、純粋持株会社の設立によって企業グループ連結経営がより強まっている中、事業会社従業員の労働条件の決定システムの再構築が求められる。現在、連結業績重視と労働条件の個別企業での決定とは矛盾する側面がある。事業会社の労働条件が連結業績との関連でどう決まるのかを明確にしなければ、労働条件をめぐって持株会社、事業会社、労働組合の3者の間に問題が発生する可能性がある。事業会社ごとに労働組合が組織されるときには特にそうである。
 近年、純粋持株会社の設立が多く見られている。今後、純粋持株会社が日本の企業経営と雇用慣行、労使関係にどのような影響を及ぼすかが注目される。

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