へき地保健医療対策検討会 資料 2
第5回(H17.5.23)


これまでの議論の整理



これまでの議論の整理


 へき地・離島保健医療を取り巻く環境の近年の変化
 ○医療を取り巻く環境については、近年全国的に以下のような変化があり、今後のへき地・離島医療対策を検討するに際しても、十分な考慮が必要。

(1)国民の医療に求める意識の変化と医療提供体制の変化
 ○平成14年受療行動調査(厚生労働省)によれば、外来患者の年齢階級別満足度をみると、「非常に満足」と回答した割合は、75歳以上では35.8%、65〜74歳では34.1%、40〜54歳では26.3%、15〜39歳では24.8%と、年齢層が若くなるに従って低下する傾向がみられており、若い世代ほど医療に求める要求水準が高いことが示唆。

 ○東京都が行った、インターネットによるモニターアンケート「医療機関選択のために必要な医療情報」(平成16年)によれば、患者が「医療機関を決めるための判断基準として重要に思うこと」として、「医療技術への信頼」が87.3%と最も高いことからも考えられるとおり、国民全体として医療技術の向上を始めとした、医療への要求水準が高まっている。

 ○提供する医療技術の向上に伴い、専門医の確保が課題となっている。特に、麻酔件数の増加等による麻酔科医の需要の増加、救急対応を24時間行うことの要望が強まったこと等による小児科医の需要の増加などが顕著。また、産科医志望者の減少とその退職者数の増加による産科医の減少も課題に。

(2)三位一体改革に基づく地方公共団体の権限強化と国及び地方公共団体における財政構造改革
 ○地方分権の推進に伴い、国と地方の役割の見直しが必要とされ、地方公共団体の税財政面での自由度・裁量度の拡大が求められていることを背景として、(1)国庫補助負担金の縮減、(2)国から地方への税源の移譲、(3)地方交付税の改革を同時に行う、いわゆる「三位一体の改革」が進行。

 ○平成16年8月、全国知事会など地方6団体は「国庫負担金等に関する改革案」を示し、この中で、へき地診療所運営費の補助などを含む医療施設運営費等補助金や、へき地医療拠点病院の設備の補助などを含む医療施設等設備整備費補助金など、医療提供体制を整備するための補助金を「平成17年度及び平成18年度に廃止して都道府県をはじめとした地方公共団体へ税源移譲すべき国庫補助負担金」として提示。

 ○一方で、いわゆる「三位一体の改革」については、政府の対応として、医療・保健衛生にかかる事業については、保健医療提供体制推進事業として統合補助金に、施設整備費については、保健医療提供体制整備交付金として交付金に改革し、全体としては補助の目的を明確にしつつ、地方公共団体の自由度・裁量度を向上させる方針が示された。また、へき地保健医療に係る補助制度については、国の関与を十分に確保する観点等から、現行の補助制度を維持する方向で検討することとされた。

(3)市町村合併の進行
 ○地方分権の推進に伴い、地方公共団体、特に市町村の自治体機能を強化することなどを目的として、市町村合併が進められている。市町村数は、平成11年3月には3,232であったが、平成17年4月1日現在では2,395となっており、平成17年4月1日現在の予定では、平成18年3月31日には、1,822になる見通し。

 ○市町村合併の効果としては、旧市町村の境界を越えたサービスによる住民の利便性の向上、行政資源が集約されることによる行政サービスの多様化・高度化、広域的視点にたったまちづくり、行財政の効率化等が期待。

 ○保健医療分野においても、例えば、市町村合併を期に、各地方公共団体が設置した小規模の医療機関を統合し、より高度な医療を地域のネットワークで提供する体制を構築するなどの取組が期待。

(4)情報通信技術(IT)の進歩
 ○総務省が平成15年末に行った「通信利用動向調査」によれば、自宅におけるパソコンからのインターネットの接続方法として、ブロードバンド回線(高速大容量の通信接続が可能な公帯域の回線)の利用割合が47.8%と、前年に比較して18.2ポイント増となっており、急速にブロードバンドが普及。

 ○ブロードバンドの利用を前提として、比較的安価にテレビ会議システムが導入できるようになった。また、通信回線上の情報漏洩等の防止や通信の起点・終点識別のための認証等に係る情報セキュリティ技術が向上し、その適切な利用により、インターネット等の通信手段の種類に応じた情報の安全性の確保が可能となっている。

 ○これらの変化を背景に、テレビ会議システムによるカンファレンスや相談、遠隔地へのレントゲン写真の転送と画像診断の依頼など、医療分野における情報通信技術の活用が広がっているところ。

 へき地・離島保健医療に関与するそれぞれの立場からの視点と今後の対応の考え方
 ○へき地・離島保健医療提供体制の維持・向上に当たっては、当該地域の住民・患者の要望を踏まえ、保健医療の関係者それぞれの納得と相互理解に基づく、保健医療に関する全体像の確立が前提。

 ○また、医療関係者及び行政は、医療を公平に提供する責任を連帯して負っている。そのため、各自がそれぞれできることを行って全体の責任を果たすという理解が共有される必要。

 ○住民も、一方的に医療サービスを求めるというだけでなく、地域の保健医療提供体制の状況を理解し、健康面で不安のない生活を送るために、真に必要な保健医療サービスとは何かを考えることが必要。

(1)住民の視点
 ○住民は質の高い医療を受けたいと要望。その内容は、診療所の確保だけでなく、診療の安全性の確保はもとより、診療情報の提供の推進と患者の選択の尊重なども重視。

 ○へき地医療機関における診断治療機能の向上と、搬送手段の確保・充実といった、救急医療への要望と同時に、遠方の医療機関に通院することの困難を認識してほしいと希望。

 ○保健医療に関する情報は、多くの場合、保健医療の提供側(医療機関、専門家、行政等)と、住民との間に格差が存在。住民の視点に立った取組を進めるために、まず、医療の機能や、医療機関間の役割などについて住民に分かりやすく提示されることが必要。次に、住民が、地域の保健医療提供体制のあり方を検討する際に、積極的に議論に参加することが大切。

(2)無医地区・無歯科医地区がある等へき地・離島保健医療の確保が必要な市町村の視点
 ○小規模市町村において、地域の中核医療機関が、保健医療福祉の包括的実施の中核として機能し、他の医療機関とネットワークを組んで住民の健康の確保・向上に役立っている事例があることから、行政と医療機関が住民の健康について理想の姿を共有し、小回りのきく必要な取組が実践されることが必要。

 ○そのためには、市町村が、まず、医療の持つ機能をよく理解し、住民の健康の確保と向上を目指して包括的な戦略の策定を行い、資源を効率的に活用し、保健医療福祉サービスが機能的に統合された体制を構築することが重要。そのための医療従事者の意識の共有と積極的参画が大切。

 ○市町村合併は、市町村ごとの保健医療対策の適切さを検証し、医療機関の再編成による機能強化を含む、既存の保健医療対策を見直す重要な機会。例えば、合併する各市町村に診療所がある場合、これらを統合し、複数の医師が配置され、常時一定レベルの診療が可能で、他の診療所をサポートする機能を有する中核的な診療所の設置や、一般的な診療所と巡回診療等を組み合わせた体制に再編成すること等により、提供する医療水準の向上と、アクセスと効率性の確保を図ることなど。

(3)へき地・離島の保健医療提供体制を確保する都道府県
 ○これまでへき地保健医療計画で取り組まれた、へき地診療所、へき地医療拠点病院、へき地医療支援機構等により、へき地保健医療対策は一定の前進。また、これらへの財政的支援は一定の役割を果たしてきたが、未だ解決には至っていない地域や課題も存在。

 ○へき地医療の確保は都道府県の責務。都道府県内のへき地医療対策に関するビジョンを確立し、関係者にそれぞれの責任と役割の自覚を促し、必要な調整を行うことが重要。

 ○地域で求められる医療レベルの向上と共に、専門医療の確保が課題として顕在化。特に、へき地医療を支える地域の中核的な病院における、専門医療の確保が課題。このため、専門医療の確保については、情報通信技術の活用や搬送手段の確保を含めた都道府県域全体での調整が必要。

 ○他の都道府県の成果も参考にしつつ、都道府県全域の保健医療提供体制を検討する中で、へき地保健医療対策の計画立案と実施が必要。

 ○都道府県が作成する医療計画には、これまでもへき地医療の確保に関する事項を記載することとしていたが、国の医療計画の見直しに伴い、他の医療機能の記載も勘案した有効な取組を記載する必要。あわせて住民の意見も採り入れる工夫が必要。

(4)医師・医療機関等
 ○臨床研修の必修化を背景として、総合診療への関心が高まり、へき地・離島診療の総合性に関心を持つ医師は徐々に増加。さらに、卒前教育や臨床研修など、あらゆる機会をとらえて、へき地医療への関心を高めるよう努めるべき。

 ○また、これまでのへき地保健医療対策の成果から、へき地・離島医療に従事する医師に対する適切な診療面及び生活面の支援があれば、へき地・離島医療に一定期間であっても従事しようとする医師は増加。このため、具体的な更なる診療面、生活面での支援策について検討が必要。

 ○医師の臨床研修必修化の導入により、魅力のあるプログラムを実施する医療機関に医師が集まる傾向。このため、医療機関における医師確保の観点からも、充実した臨床研修の実施が必要。

 ○医療資源の集中化によって、より高度な医療機能を確保しつつ、医師の負担が軽減。一方で入院機能の集中化と、外来機能の分散の取組を実践する地域も存在。地域における専門的医療提供体制については、医療機能の集中化とアクセスの確保のバランスをとりながら体制を計画的に検討するべき。

(5)医育機関・専門団体
 ○医師を養成する医育機関は、卒業後も医師の研修を担うと共に、地域の医療に対し、医師を適切に配置するなど、幅広い対応を行ってきたところ。

 ○平成17年3月に国立大学医学部長会議常置委員会・国立大学付属病院長会議常置委員会において「地域における医師の確保等の推進について(提言)」を発表。この中で、大学医学部及び大学付属病院の役割として、窓口を一本化した透明性・公平性が確保された医師紹介制度や、へき地医療の専門履修コースの設定などが提言されたところ。

 ○今後も更に地方自治体等との連携を強めながら、へき地医療の向上に協力する必要がある。

(6)
 ○全国で水準を満たす医療を提供する責任は最終的に各地方公共団体とともに、国が負わなければならない。そのため国は、幅広い関係者の意識を統一するためのビジョンを提示し、有効に機能する対策の枠組みを確立する必要。へき地保健医療対策に悩む地方公共団体や、医師の派遣を行う立場、医師の派遣を受ける立場それぞれにきめ細かい指導を行うことも必要。

 ○目的が明確化されているへき地・離島保健医療対策への財政的支援によって一定の成果を見たところであり、このような支援は今後も引き続き重要。

 ○今後のへき地・離島保健医療対策の全体像を構築するに当たっては、関係者を調整する他、地方公共団体の取組を財政面のみならず、事例や考え方の紹介など情報面での技術的な支援を行うことが必要。

 へき地・離島保健医療に対する具体的支援方策
(1)へき地・離島医療の確保
 1)へき地診療所
  ○これまでへき地診療所に対し、支援を続けてきたことにより、その維持が図られたものと評価されるが、地域によっては、民間で設置した施設についても、医師の高齢化等により存続できなくなり、無医地区となってしまう場合も見受けられる。このため、民間の設置する診療所についても、周囲に他の医療機関が無く、へき地診療所に該当する場合は、当該診療所の設備等について、へき地診療所として支援を行う必要。

  ○また、へき地診療所の設置・運営を行う等、へき地医療を支援、実践する民間医療機関・法人に対しては、何らかの支援措置を検討する必要。

  ○また、市町村合併などを通して医療機関の再編成が行われており、へき地診療所についても統合して、複数の医師が配置され、地域の高度な要望に応じるよう目指すことも考えられる。このようなへき地診療所についても、設置と運営に支援を行う必要。

  ○へき地診療所の設置には、原則として地域の人口が1000人以上(離島については300人以上)といった要件が定められているが、地域の実情に併せて、柔軟な対応を行う必要。

 2)巡回診療
  ○山間へき地においては、道路事情の好転などにより巡回診療に対する需要は低下しつつある。しかしながら、離島などにおける専門医療を中心とした巡回診療については引き続いて一定の要望。

  ○今後も巡回診療に対する支援は必要。併せて、移動手段の確保など代替手段の検討を含め、各地域において必要性の判断を十分に行うことが重要。

  ○また、診療日数が少ないへき地診療所と巡回診療との関係について、効率性の観点等から整理することが必要。

(2)へき地・離島医療従事医師等への支援
 1)へき地医療支援機構
  ○へき地医療支援機構は、広域的なへき地医療支援事業の企画・調整を行うことを目的に、第9次へき地保健医療計画において設置。原則として専任の医師を担当者として配置。へき地診療所等への代診医の派遣の調整、へき地医療従事者に対する研修計画の作成、就職の紹介斡旋、へき地保健医療情報システムへの情報登録と更新、へき地医療拠点病院の評価など、幅広くへき地医療支援を実施。

  ○へき地医療支援機構は、へき地診療所に勤務する医師の支援として有効に機能。へき地医療支援機構に所属する医師がへき地診療所を代診している例もあり、更なる支援機能の向上が必要。

 2)情報通信技術による診療支援
  ○情報通信技術を活用した遠隔医療等については、近年、高速回線の普及や関連技術の進展によって、実践例が増えつつある。特に、現在の情報通信技術の水準で一般的とされる技術であっても、相当程度の遠隔医療等の実践と効果が期待可。

  ○例えば、旭川医科大学では、眼科領域での遠隔医療システムが試みられており、患者が遠方の医療機関を受診しなくても、身近な地域の中で対面で専門医の診察を受けることとほぼ同等の成果が得られたことが報告されている。

  ○こうした地域事情を踏まえ組織的に取り組まれている好事例等を取り上げ、必要な支援方策等を検討。

  ○地域のへき地医療拠点病院等で、専門医師の不足などにより診療上の意見照会や相談等を行う相手を確保できない場合も考えられる。そのため、全国からの意見照会や相談等に通信情報技術によって対応可能な、遠隔医療にかかる具体的な後方支援機関・組織等を確保することも必要。

 3)へき地医療拠点病院
  ○へき地医療拠点病院は、無医地区等の医療支援を目的として、都道府県が指定。巡回診療、へき地診療所への代診医の派遣及び技術指導、へき地の医療従事者に対する研修機会及び研究施設の提供、遠隔医療等の各種診療支援などを行う。平成16年3月現在で236病院が指定。

  ○へき地医療拠点病院はへき地診療所の支援拠点として重要。一方で、へき地診療所を支援する活動は地域により格差があると認識。このため、活動の実情に併せたへき地医療拠点病院の指定の在り方の見直しと、活動支援方策の充実が必要。

  ○へき地医療拠点病院だけでなく、地域の医療機関すべてが、何らかの形でへき地診療を支援していることから、この力を最大限に活用するよう取り組む必要。

 4)へき地・離島医療マニュアル(仮称)
  ○へき地・離島医療を担う医師が実施すべき医療の標準化について、さまざまな取組がなされている一方、住民の期待と提供する内容が一致しない場合もみられるところ。

  ○へき地・離島医療に従事する医師の研鑽や自治体、住民等の理解の促進など、関係者が一致してへき地・離島医療サービスを検討するため、提供すべき医療の内容についてのマニュアルの作成などが必要。

(3)救急医療の確保支援等
 1)医師の救急医療講習
  ○へき地・離島に勤務する医師は、様々な症状のある急患が発生した場合の対応が必要となる一方、このような症例を経験する機会が限定されている。このため、確立されたカリキュラムによる救急医療講習の受講を支援する必要。

 2)搬送・へき地患者輸送(艇)
  ○ヘリコプター等による搬送については、搬送に係る手順等を定める必要。また、搬送にへき地・離島の医師が同乗すると、地域が無医地区になることもあることから、患者受入医療機関の医師が搬送に同乗する体制が必要。

  ○へき地保健医療対策の中で、移動手段を持たない高齢者への対応が重要となってきていることから、へき地患者輸送車の重要性が高まっているところ。そのため、引き続き支援が必要。

(4)へき地保健医療情報システム
 ○(社)地域医療振興協会において、インターネットを利用した情報の共有化を促進するためのへき地保健医療情報システムが稼働。ここでは各地域の取組の紹介、掲示板機能によるへき地保健医療の志望者に対する相談等幅広い取組を実践。このような取組は今後も、必要な見直しを行い、続ける必要。

 医療計画における位置付け
 ○医療法では、医療計画において定める事項として、「へき地の医療の確保が必要な場合にあっては、当該医療の確保に関する事項」とされており、へき地のある各都道府県の医療計画に、必要な内容が盛りこまれているところ。

 ○検討中の新たな医療計画の考え方では、医療におけるさまざまな機能の地域における配置や、医療機関間の結びつき・役割の明確化を図ることとしている。へき地保健医療対策も、さまざまな医療の機能の結びつき・役割を踏まえ、医療計画作成の際に適切なへき地保健医療対策を盛り込み、課題の達成を図るべき。

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