(資料1)

第3回研究会における主な議論の概要
( 未定稿 )


(児童相談所の職員体制、専門性確保・向上対策について)

 「健やか親子21」では、全ての児童相談所に(常勤医を)1人ずつ置くことになっているが、現在180の児童相談所に常勤医は18人。あとは全て非常勤であり、その非常勤医師も児童精神科医とは限らず大人の精神科医も多くいる。しかし、(児童相談所に)来る医師がいないのが実態で、どのように充実していくかはとても難しい問題。
 日本のように、地域の児童精神科医、児童精神保健の専門医が、地域全体の医療機関や保健センターにいない実態を踏まえると、児童相談所が児童精神医療の機能を充実するべきではないか。

 (三重県の場合)児童福祉司は、かつては全然関係のない部局から一般職が来たが、最近は福祉の経験者や生活保護ケースワーカーの経験者が児童福祉司として配属されることが多くなっている。しかし生活保護のケースワーカーであっても、児童福祉司とは質的に違うので頭の切り替えが必要。
 研修も児童相談所側で、新任研修は10日間くらいかけてカリキュラムも組んで行っているが、なかなか十分ではない。
 学校の教師と人事交流を行っているが、2〜3年で学校現場に帰さなくてはならず、やっと一人前になったかなと思うと学校現場へ帰ってしまう。また、児童福祉司は、大変な仕事なので転勤の希望が常に出てくる。

 家庭裁判所の調査官と児童福祉司を比較すると、質の差がずいぶんあると感じる。児童福祉司も調査官に劣らない、質を保持する必要があるのではないか。

 (滋賀県の場合)最近では福祉を経験していないと児童福祉司にしないようにしており、また、就職後に社会福祉士の資格を取っている人も多い。一生懸命、子どもや親のことを考えてやっているが、時間的余裕がないこともあって、勉強したいが職務で疲れ果てている。また、数年前まで内部の人事異動の希望で、児童相談所の児童福祉司の希望をとっていたが、その後、なり手がいないので希望をとることはなくなった。

 所長や児童福祉司の先輩は、10年くらいはやれば、いろんなことが分かって楽にやれるようになると言っている。

 職員数の問題とともに、やる気をシスティマチックにサポートできるようなものがあれば現場は助かる。

 (児童福祉司の専門性を確保するためには)職員採用が専門的になされて、かつ10年くらいは異動しないことが最低条件ではないか。2、3年でどこかへ行ってしまうことを前提に、専門性を高める議論はできない。弁護士として虐待の困難ケースにかかわっていると、本当に児童相談所の中で(知識や経験が)蓄積されているか疑問がわく。

 研修は、どこか取り組みの進んだ児童相談所で半年から1年仕事をしてくる(出向)など、実際の仕事をして、そのやり方をみて、戻っていくやり方がより効果があるのではないか。

 (埼玉県の場合)職員は全部福祉職採用で最低の専門性は確保できているが、それでも研修システムを考える必要がある。

 (児童福祉司は)最低10年行えば一人前になるだろうが、疲労とストレスがぎりぎりのところまできている職員が多いので、ちょっと離れて考えてみる期間も設ける必要があるのではないか。

 医療の現場では、児童相談所は本当に専門機関かという疑問がよく聞かれる。虐待は大変な状況判断をしていかなければならないので、専門性が高くないと関係機関との連携が難しいのではないか。医者として関わった経験上の感覚で言うと、5年でまずまず理解して話はできる、10年以上児童福祉司をやっている人だと安心して話ができるという感じである。

 感覚的には児童福祉司の数は今の倍は必要。虐待の初期対応だけでこの忙しい状況である。しかし、本来は虐待ケースを初期対応から親子再統合まで、あるいは子どもの自立までかかわっていくため、その全体を見ていくのが児童福祉司の仕事。今の人数は初期対応するだけで必要な人数。

 採用については、資格を持っていたり一定の学問を修めてきても、現場での訓練が大事。また、子どもを扱う福祉施設現場にいて子どもとの関わり方を体験的に知っている人を児童福祉司に登用するなど、そういう人事交流も必要。また、虐待対応は消耗するので少し外の空気を吸うことも必要。

 児童相談所の仕事は、やったケースワークの仕事の倍くらい、記録とか情報処理の仕事がある。仕事の仕方自体を変えていく必要がある。

 採用の時点でいい人材に来ていただくことは大事だが、その後のフォローをできることが一番大事。複数体制で柔軟に対応するなど、有効な動きができるようサポートしてあげる工夫が必要。

 (滋賀県の場合)心理職は、児童福祉司は増えているが心理職の数は20数年前と比べても増えていない。
 介入の部門と支援の部門に分けると、保護者支援には心理職のかかわりが有効であり、支援の部門ではソーシャルワーカーと心理職がきちっとペアになって対応できるチーム作りの体制が必要。少なくともワーカーの3分の2くらいは心理職が欲しい。


(県(郡部)家庭児童相談室(福祉事務所)のあり方について)

 水巻町には県の家児相があるが、ほとんど連携はない。センターが日常的な生活の支援、サービスの情報の提供、具体的な心理的な相談をほとんどやっており、また、家児相のスタッフが嘱託員で、2年くらいで変わってしまうため専門的な支援や助言を求めても対応できないので、自然と関係が薄くなった。市町村に力がついてくれば家児相は必要ないのかなと感じる。

 家児相があることのよさは福祉事務所がくっついているので、生活保護部門と非常に近い位置にある仕事をしている。また、母子部門も福祉事務所が多く抱えているので、そういったあたりの関係がうまく行くと、県の家児相の意義・役割はあるのではないか。
 言葉としての県の家児相はなくなっても、町村の相談のサポートとか、そこで行っていた仕事がなくなるわけではない。もっと地域密着型で展開する可能性もあるのではないか。


(一時保護所、一時保護委託の活用について)

 乳児の虐待が増えているため、乳児院や里親に一時保護委託するケースが増えている。また、一時保護所も施設も一杯になってきて、里親に一時保護委託をお願いするケースが増えてきている。

 一時保護所には、満杯のところと、空いているところとかなり地域差がある。

 きちんとしたアセスメントをして、本人の自立支援や保護者の診断などをしっかりとワーカーと共有して支援できるようなことをすることなく、いきなり施設に一時保護委託をするのはやめて欲しい。

 一時保護というと、とりあえず分離して保護するというところに目が向き がちであるが、アセスメントの期間でもあるので、一時保護所で保護できないとなるとアセスメントは不十分になる。施設に一時保護委託した場合はアセスメントが難しくなる、という問題がある。

  実際に毎日24時間生活している里親へのフォローを考慮してもらいたい。アセスメントをきちんとして、事情説明があればいいが、丸投げされる。

 児童相談所は一定の非行児を保護しにくい状況にある。また、児童自立支援施設の非行対応が弱くなって、情緒的に難しい子どもとか、施設不適応の子どもが中心となっている傾向にある。問題行動化する厳しい低年齢の子どもを、児童相談所の一時保護所で保護できず頑張れないと、児童自立支援施設が非行対応から撤退していくことにも関連してくると思う。ここで頑張れるかどうかは、14歳未満の非行の子どもに福祉がどう対応するのかということの非常に重要なポイントとなる。

 虐待の子どもは在宅ケアが8、9割。在宅ケアをしていく時に一時保護という機能が今後重症化の予防でも大事になる。親を育児援助していくときも、一時保護できる機能みたいなところの枠をもっと広げてほしい。

 一時保護してからきちんと子どもの身体的、心理的、また家族のアセスメントをする機能が一時保護所にはなければならない。

 子どもはいろいろいるし、虐待の程度も種類もいろいろあるので、多様な一時保護ができるところが必要。また、児童養護施設も一時保護所もアセスメントの力をつけていくことが必要。子どものことを思うと、多様な場を考えてほしい。

 今後、市町村の相談体制強化の中で、市町村からの一時保護依頼が増えてくるものと思われる。したがって、一時保護は量的にもメニュー的にも増やしていく必要がでてくるのではないか。

 本来なら、市町村がショートステイ事業やトワイライトステイ事業をやっていれば、一時保護委託をすることなく対応できるものが、実施されてはいないために、県に持っていった時に、制度的には一時保護委託という形しか取れないことが多いのではないか。今後、市町村の子育て支援事業が拡充していくと一時保護委託の状況も変化していくのではないか。

  法律の関係で一時保護の中で逃げる子どもの自由拘束がどの程度できるのか議論があるが、現状においては、児童自立支援施設を保護委託先として活用することも考えないといけないのではないか。
 また、逃がさないことが子どもの保護につながるのなら、建物のつくり方とか部屋の作り方とか、鍵をかけること以外のいろんな工夫の仕方を考えることが必要。

 一時保護委託との関係で、精神科の病院に一時保護委託できるのか、精神保健福祉法の措置入院との関係で、法律的な整理が必要。


(他機関との連携について)

 (埼玉県では)市町村との関係でまだ役割分担を具体的な形では出来ていないが、昨年度、この4月を目指して市町村の職員も入ったチームで、市町村の対応の手引きのような指針を作り、年度末にかけて各児童相談所で市町村の職員と研修会を行った。受理会議、措置会議等の会議をオープンにして市町村の職員に参加してもらったり、一緒に研修をやっていこうと計画している。

 (神奈川県では)市町村のいくつかの市の代表が参加して昨年度中にガイドラインを県が作成し、各市町村に配られたという状況である。

 (福岡県では)昨年から、県の児童相談所が主催して、受理会議とか実際の現場を見学する研修とか、今年度は児童相談所の新任研修に希望参加を求めたり、かなりオープンになっている。

 (横須賀市では)「YCAP」という子ども虐待予防相談センターという専属のチームをもって動いていた。そこと児童相談所との役割を表のような形で整理したものを関係機関へ配っている。

 児童福祉法が変わって市町村が一義的な相談を受けるということでこれから動いていくが、いろいろな相談窓口がたくさんできることは市民にとってはとてもいいこと。機関同士でどう整理していくかという問題が残っている。ケースは非常に動くので、そのあたりで児童相談所と市のどちらがイニシアティヴを取るのかは課題。

 (大分市では)市と児童家庭支援センターとの関係で、児童家庭支援センターが社会的養護のところで頼りにされているので、市の相談員の研修を受け入れることを検討している。

 (医療機関から見た児童相談所との連携では)医療機関からの通告があまり増えていない。通告義務があることはほとんどの医者が知っている。にもかかわらず、虐待の話をすると拒否反応が起こるのが多くの現場だと聞いている。このままでは医療の取り組みが進んでいかないので、医療機関がもっと虐待にどう取り組んだらいいか、違う動きをつくっていくものについて考えていく必要がある。

 虐待は初期対応だけではなくて、予防治療の時代に動いている。予防治療に医療の役割を位置づけると、もっと早期発見ができて関係機関との連携が進むのではないか。

 医療機関は虐待の確定診断ができないという声が多い。症例は見られるが、それは虐待かもしれないということはあっても社会的背景とか親子関係とか、なかなか見にくいので、それを全部合わせないと虐待かどうかを診断できない。このあたりも医療と児童相談所が組んでいくときにきちっと進めていく必要がある。これまで、医療と福祉の連携があまりない。お互いが理解して、どう連携をつくっていくかが課題。

 医療の中で虐待に対応するための地域システムが必要。機能の違う医療機関が虐待についてそれぞれ役割を負えるシステム化がないと、自分のところでは扱えないということで動ききれない部分もある。このときに、地域の中の公立・公的病院がとても大事な役割を果たす。小児科、外科、精神科、緊急治療があり、虐待の初期の対応について絶対有利な機能をもっている。

 虐待の子どもやハイリスクの子どもを「かかりつけ医」がケアする中で予防していく役割は重要だが、それを担う開業医が通告者だと分かると(家族との)関係が切れて、援助が続けられなくなる。広島県のシステムでは、その責任を基幹病院が負うというネットワークをつくっており、よく考えられている。

 基幹病院の活発に動いているところは院内システムをつくっている。医療機関の中で窓口と調整役と出口をしている。小児病院にしても、ものすごい人数のチーム医療、コ・メディカルを含めた関わりが要るのが虐待。医療・保健・福祉との他基幹連携を考えると院内システムをつくることが不可欠。

 医療の院内システムをつくる場合、不採算性が大きな悩み。小児科医は赤字でつぶされていく時代。虐待に取り組めば取り組むほど不採算になる。時間をとってマンパワーはとるが収入にはならない。公的な補助をしていくのか、診療報酬の中で育児支援的な部分を評価することについて今後検討してほしい。

 医療が取り組んでいくためには、医療と福祉の間で保健が動くことによって、両者をつなげる、あるいは母子保健と精神保健というような、親のケアと子どものケアとがつながっていく役割があるので、それをより一歩進めて考えていく必要がある。

 医療がどう動くかというマニュアルが絶対に必要。数年前の医療機関マニュアルは、虐待とはどんなものですという紹介が多かったが、今必要なのは関係機関とどうつなげるか、その時通告は具体的にどうするか、したあとはどうなるということまできっちりと書かれた具体的なマニュアルが必要。児童相談所の運営指針の中にも、医療との連携をするときに児童相談所が戸惑わない具体的なマニュアルの文書をもっと入れてほしい。

 医療と違って弁護士は、比較的、児童相談所をどう援助するかという関係がベースになるので、何らかの形でうまくつかまえてもらえば連携できる素地はある。大都市では、この問題に取り組んでいかなければならないという意識がもともと強く、それが全国的に広がりつつあるが、弁護士会の側で(連携が)十分でない地域についてどう働きかけをするか、また児童相談所の側から見つけてもらって接点をとっていくことが必要。

 弁護士の市町村レベルでの支援や対応は難しいので、あくまでも重篤なケースを児童相談所を通じて相談に乗る体制を充実していくことが必要。

トップへ