諸外国のホワイトカラー労働者に係る労働時間規制の適用除外
(「諸外国のホワイトカラー労働者に係る労働時間法制に関する調査研究」報告書(労働政策研究・研修機構)より)

<アメリカ>

ホワイトカラー・エグゼンプション

I  新規則(2004年8月23日施行)
1.  要件
 ホワイトカラー・エグゼンプションには、「管理職エグゼンプト」、「運営職エグゼンプト」及び「専門職エグゼンプト」の3類型があるが、いずれの類型についても下記の(1)及び(2)を満たす必要であり、また、各類型ごとに(3)の各職務要件を満たす必要がある。
 ただし、「専門職エグゼンプト」のうち、「教師」、「法律業務エグゼンプト」及び「診療業務エグゼンプト」については、(2)の俸給要件は適用されず、また、「コンピューター関連職」については、俸給要件について(2)のほか、「時間当たり27.63ドル以上の率の時間給による支払」がなされる場合にも該当する。

(1)  一般的要件
 腕力・身体的技能及び能力を用いて、主として反復的労働に従事する肉体的労働者その他のブルーカラー労働者ではないこと。

(2)  俸給要件
 ア.  食事・宿舎その他の便益供与分を除いて、週当たり455ドル以上の率で「俸給基準」(※1)(「運営職エグゼンプト」及び「専門職エグゼンプト」については、一部「業務報酬基準」(※2)によることも認められている。)により賃金支払がなされていること。
※1  「俸給基準」とは、実際に労働した日時や時間にかかわらず、あらかじめ定められた金額を支払うことをいう。
※2  「業務報酬基準」とは、仕事の完了に要する時間に関わらず、一つの仕事に対してあらかじめ定められた金額を支払うことをいう。

 イ.  使用者が意図的に俸給基準に基づき賃金支払をしていない場合には、不適切な減額を行ったとされる管理職の下で労働する同じ職務分類の被用者全員について、適用除外の効果は否定される。ただし、次の場合に限り使用者は俸給を減額することが認められている。
(1)  個人的な理由による欠務が1日以上に及ぶ場合
(2)  病気又はけがによる欠務が1日以上に及び、かつ、休業補償金等が支給される場合
(3)  重大な安全規律違反に対する出勤停止処分の場合
(4)  職場服務規律違反に対する出勤停止処分の場合 等

(3)  職務要件
 ア.  管理職エグゼンプト(executive exempt)
 次の3つの要件を満たすこと。なお、年間賃金総額100,000ドル以上の者は、(1)、(2)又は(3)の要件のいずれかを満たせば足りる。
(1)  主たる職務(※3)が、当該被用者が雇用されている企業又は慣習的に認識された部署又はその下位部門(※4)の管理(※5)であること
(2)  通常的に、他の2人以上の被用者(※6)の労働を指揮管理していること
(3)  他の被用者を採用若しくは解雇する権限を有するか、又は他の被用者の採用若しくは解雇、および昇級、昇進その他処遇上のあらゆる変更に関して、その者の提案及び勧告に対し特別な比重(※7)が与えられていること
※3  労働時間の50%以上をエグゼンプト労働に費やす場合は、当該要件を充足する。しかし、労働時間だけが唯一の基準ではない。
※4  「慣習的に認識された部署又は下位部門」とは、特定の作業又は一連の作業を臨時に割り当てられた単なる被用者の集団ではなく、永続的位置付け及び継続的機能を有することを要する。
※5  「管理」に該当する業務としては、(1)「被用者の面接、選抜及び訓練」、(2)「賃金と労働時間の設定及び調整」、(3)「被用者の仕事の指揮命令」、(4)「監督若しくは統制のために必要な生産若しくは販売記録の保持」、(5)「昇進その他処遇の変更を勧告するために必要な生産性及び能率の評価」、(6)「被用者の不平及び苦情の処理」、(7)「被用者の懲戒」、(8)「事業計画」、(9)「使用する技法の決定」、(10)「被用者間の仕事の割当」、(11)「使用する資材・補給品・機械・設備若しくは道具の決定、又は購入・貯蔵及び販売の対象とすべき商品の決定」、(12)「材料、製品及び供給品の流通の管理」、(13)「被用者又は財産の安全確保」、(14)「予算の立案及び管理」及び(15)「法的遵守基準の監視及び施行」が例示されている。
※6  「他の2人以上の被用者」とは、2人の常勤被用者又はそれと同等の被用者をいう。例えば、1人の常勤被用者と2人の半日勤務被用者は「2人の被用者」に該当する。
※7  「提案及び勧告することが当該被用者の職務の一つとなっているか」、「提案及び勧告がなされ、又は要求される頻度」、「当該被用者の提案及び勧告が重要視される程度」から総合的に判断される。

 イ.  運営職エグゼンプト(administrative exempt)
 次の2つの要件を満たすこと。なお、年間賃金総額100,000ドル以上の者は、(1)又は(2)の要件のいずれかを満たせば足りる。
(1)  主たる職務が、使用者若しくは顧客の管理又は事業運営全般に直接的に関連(※8)するオフィス業務若しくは非肉体的労働の履行であること
(2)  主たる職務が重要な事項に関する自由裁量及び独立した判断(※9)の行使を含むものであること
※8  「管理又は事業運営全般に直接的に関連」する労働としては、税務、金融、経理、予算編成、会計監査、保険、品質管理、仕入れ、調達、宣伝、販売、調査、安全衛生、人事管理、人的資源、福利厚生、労使関係、公共関連、政府関連、コンピューターネットワーク、インターネット及びデータベース運営、法務及び服務規律などの分野に関する活動が該当する。
※9  「自由裁量及び独立した判断」に該当するか否かは、(1)「経営方針又は運営方法を考案する、影響を与える、解釈する、又は実行する権限を有するか」、(2)「事業活動をする上で、重要な任務を履行しているか」、(3)「本質的意味での事業活動に影響を与える労働か」、(4)「重大な財政上の影響がある問題について使用者に具申する権限を有するか」、(5)「事前承認なしで決められた方針及び手続の履行を放棄又は逸脱する権限を有しているか」、(6)「重大な事項に関して会社と交渉し、かつ締結する権限を有するか」、(7)「管理者に対して専門的意見又は助言をしているか」、(8)「事業計画の策定に関与しているか」、(9)「管理者に代わって、重大な事項を調査し、かつ解決しているか」、(10)「労働争議又は苦情の処理・仲裁に当たって会社の代理を勤めているか」等の要因を総合的に考慮して判断される。

 ウ.  専門職エグゼンプト(professional exempt)
 学識専門職エグゼンプト
 主たる職務が、科学又は学識分野(※10)において、通常は長期課程の専門的知識教育によってのみ獲得できる高度な知識を必要とする労働であること。
※10  「科学又は学識分野」とは、専門職としての地位が確立している法学、医学、経理学、保険統計学、工学、建築学、物理・化学・生物関連学その他類似の職業が該当する。

 創造専門職エグゼンプト
 主たる職務が、芸術的又は創作的能力を必要とするものとして認識されている分野(※11)において、発明力、想像力、独創性又は才能が要求される労働であること。
※11  「芸術的又は創作的能力を必要とするものであることが確立されている分野」としては、音楽、文筆、演劇、グラフィックアート等が該当する。

 教師
 主たる業務が教育機関に雇用されて行う教育活動であること。
 なお、教師については、俸給要件は適用されない。

 法律業務エグゼンプト、診療業務エグゼンプト
 (1)法律業務又は診療業務の開設を許可する正式なライセンスの保有者であって、当該業務に実際に従事していること、又は、(2)一般診療所を営むために必要な学位の保有者であって、インターンシップ制度又はレジデント制度の研修に従事していること。
 なお、俸給要件は適用されない。

 コンピューター関連職エグゼンプト
 主たる職務が、(1)ハードウェア・ソフトウェア又はシステムの機能仕様決定のためのユーザーとの相談を含む、システムの解析技術及び技法の実施、(2)試作品の製作を含む、コンピューターシステム又はプログラムの設計・開発・ドキュメンテーション・創作・テスト・修正、(3)マシン・オペレーティングシステムに関連するコンピューターシステム又はプログラムシステムの設計・ドキュメンテーション・テスト・修正、(4)前述した職務及び同水準の技術を要する作業との組合せ

2.  具体例
(1)  運営職エグゼンプトの例
 ○  「金融サービス業に従事する被用者」、「重要なプロジェクトを成し遂げるために組織された被用者のチームを指導する被用者」、「管理職アシスタント又は運営職アシスタント(秘書)」、「人事部門の管理職」、「経営コンサルタント」等が該当する。
 ○  「検査官」、「試験員」、「格付員」等については、使用者の管理又は事業運営全般に直接関連する労働ではないので、一般的には該当しない。

(2)  専門職エグゼンプトの例
 ア  「学識専門職エグゼンプト」の例
 当該職に就くに当たり資格の認定及び免状の交付が要件とされる、「登録・認定医療技術者」、「正看護師」、「歯科衛生士」、「医療補助者」、「公認会計士」、「シェフ」、「アスレチックトレーナー」、「埋葬業者」、「死体防腐処理業者」等が該当する。
 「弁護士補助職員」、「法務アシスタント」は、高度な専門的学位は前提基準とされていないことから、一般的には該当しない。
 イ  「創造専門職エグゼンプト」の例
 俳優、ミュージシャン、作曲家、指揮者等については該当する。一方、筆耕者、アニメーター、写真の修正係等は該当しない。
 ジャーナリストは、テレビやラジオの報道、インタビュー、公知の情報の解釈又は分析、論説等の場合には該当する。一方、定期的に配信される又は公知の情報の収集・整理・記録といった職務に従事している場合又は送り出すニュースに対して独自の解釈や分析を加えるものではない場合には、該当しない。
 ウ  「教師」の例
 正規の学校教師、幼稚園若しくは保育園の教師、職業学校教師、自動車教習所の教官等が該当する。

3.  効果
 最低賃金、割増賃金及び実労働時間に関する記録保存義務の規定の適用を受けない。

4.  考慮すべき事情等
 アメリカにおける労働時間規制は、時間外労働に割増賃金支払義務を課すことにより、雇用を増大させることを主な目的とするものと位置付けられ、適用除外をどのような者に認めるかを考える場合に、割増賃金支払義務を課すことにより時間外労働が抑制され、雇用創出に役立つか否かが重要な視点になるように思われる。
 アメリカにおいては、適用除外制度の対象者数が多く、かつ、健康確保措置が制度上義務付けられていないにもかかわらず、過労死や過労自殺といった長時間労働の弊害は、少なくとも日本におけるような問題にはなっていない。
 アメリカにおけるホワイトカラー労働者は、労働時間は長いとしても、日本人に比べてよりメリハリのある働き方をしており、長時間労働の蓄積による過労を防止できるのではないかとの仮説が考えられる。この点を基礎付ける統計資料は入手し得なかったが、インタビューによれば、アメリカのホワイトカラー労働者はよく働いてはいるが、休暇はきちんと取っているとの指摘がみられた。
 より重要な背景であると思われるのが、労働市場の違いである。アメリカでのインタビューにおいて、日本における過労死や過労自殺をもたらすような働き方の例を紹介したところ、しばしばみられた反応は、そのような働き方を強いられると労働者は転職してしまい、使用者も人材確保のためにはそのような働き方を強制できないので、日本におけるような問題は起きないのではないかというものであった。ここでは、転職が容易な労働市場が労働者が過酷な長時間労働を強いられるような状況の発生を防止する一助となっていることがうかがわれる。
 FLSAの下での適用除外制度は、適用除外に該当しない労働者を適用除外者として扱った場合には倍額賠償制度のもとで集団訴訟が提起されたり、政府から訴訟を起こされたりするおそれがあり、また、いわゆる訴訟社会であることがそれに拍車をかけることになる。
 こうした制度的背景のもとでは、適用除外制度の法的ルールに違反することのリスクは大きくなるので、使用者としては、ルールの遵守のために十分な注意を払わざるを得なくなると思われる。


II. 旧規則

1.  要件
(1)  管理職エグゼンプト
 ア  原則的要件
次の6つの要件を満たすこと
(1)  主たる職務が、当該被用者が雇用されている企業又は慣習的に認められた部署若しくはその下位部門の管理であること
(2)  通常的に他の2人以上の被用者の労働を指揮監督していること
(3)  他の被用者を採用若しくは解雇する権限を有するか、または他の被用者の採用若しくは解雇、および昇級、昇進、その他処遇上のあらゆる変更に関して、その者の提案および勧告に対し特別な比重が与えられていること
(4)  通常的に、自由裁量権限を行使していること
(5)  (1)から(4)に記載した労働の履行に直接的かつ密接的に関連しない活動に従事する時間が週労働時間の20%以内であること又は小売・サービス部門では40%未満であること
(6)  食事・宿舎その他の便益供与分は除いて、当該被用者の労務の提供に対して、週当たり155ドル以上の率で、俸給基準で賃金支払がなされていること

 イ  簡易的要件
 食事・宿舎その他の便益供与分は除いて、当該被用者の労務の提供に対して、週当たり250ドル以上の率で、俸給基準で賃金支払がなされており、かつ主たる職務が、当該被用者が雇用されている企業又は慣習的に認識された部署又はその下位部門の管理であり、そして通常そこで他の2人以上の被用者の労働を指揮監督している被用者は、前記要件すべてを満たしているものと解してよいとされる。

(2)  運営職エグゼンプト
 ア  原則的要件
次の5つの要件を満たすこと
(1)  主たる職務が次のいずれかであること
(@)  使用者若しくはその顧客の経営方針、又は事業運営全般に直接的に関連するオフィス業務若しくは非肉体的業務の履行する者であること
(A)  学校システム又は教育機関若しくは施設の管理運営に関する職務、又はその部署若しくは下位部門において学際的な教育又は訓練に直接関連する職務を履行する者であること
(2)  通常的に、自由裁量及び独立した判断を行使する者であること
(3)
(@)  通常、経営者又は真正な管理職エグゼンプト若しくは運営職エグゼンプトを直接的に補佐する者であること、若しくは、(A)一般的な監督のみにしか服さずに、特別な訓練・経験・知識を必要とする専門的又は技術的分野における業務を履行する者であること、若しくは、(B) 一般的な管理のみにしか服さずに、特別な任務及び仕事を履行する者であること
(4)  (1)から(3)に記載した労働の履行に、直接的かつ密接的に関連しない活動に従事する時間が、週労働時間の20%以内であること、又は小売・サービス部門では40%未満であること
(5)  食事・宿舎その他の便益供与分は除いて、当該被用者の労務の提供に対して、週当たり155ドル以上の率で、俸給基準または業務報酬基準により賃金支払がなされていること

 イ  簡易的要件
 食事・宿舎その他の便益供与分は除いて、当該被用者の労務の提供に対して、週当たり250ドル以上の率で、俸給基準若しくは業務報酬基準により賃金支払がなされており、かつ主たる職務が、ア(1)で記載された労働の履行であり、かつ自由裁量および独立した判断を行使することを必要とする労働である被用者は、全ての要件に適合しているものと解してよい。

(3)  専門職エグゼンプト
 ア  原則的要件
 次の5つの要件を満たすこと
(1)  主たる職務が次のいずれかに該当する者であること
(@)  通常の学校教育及び見習い、又はルーチンワークやマニュアル業務を履行するための訓練とは異なる、「科学若しくは学識」の分野において、通常は長期課程の専門的な知的教育・研究によって獲得できる高度な知識を必要とする労働を履行する者(「学識専門職エグゼンプト」)
(A)  (通常の肉体的若しくは知的能力及び訓練を受けたものによってなされる労働とは異なる)芸術的能力を必要とするものとして認識されている分野における独創的及び創作的な性質を有する労働で、その成果が主として当該被用者の発明力、想像力若しくは才能に依拠する労働を履行する者(「創造専門職エグゼンプト」)
(B)  学校システム又は教育機関若しくは施設に教師として雇用されかつ実際に職務に従事して、教育活動を履行する者(「教師」)
(C)  コンピュータのシステム分析、プログラミング及びソフトウェアエンジニアリングに関する高度に専門的な知識の理論的及び実際的な適用を要する労働で、かつコンピュータソフトウェアの分野において、コンピュータ・システムアナリスト、コンピュータ・プログラマー、ソフトウェア・エンジニア、その他これらと同等の技能を有する労働者として雇用され、実際にそのような労働に従事している者(「コンピュータ関連職エグゼンプト」)
(2)  業務履行に当たり、一貫して自由裁量及び独立した判断を行使する必要があること
(3)  主として業務内容が知的でかつ非定型的な特質を持ち、かつ当該業務の履行の結果ないし成果が、時間を基準にすることができないものであること
(4)  (1)から(3)に記載された労働に不可欠かつ必然的に付随するものではない業務に従事する時間が、週労働時間の20%以内であること
(5)  食事・宿舎その他の便益供与分は除いて、当該被用者の労務の提供に対して、週当たり170ドル以上の率で、俸給基準または業務報酬基準により賃金支払がなされていること

 イ  簡易的要件
 食事・宿舎その他の便益供与分は除いて、当該被用者の労務の提供に対して、週当たり250ドル以上の率で、俸給基準若しくは業務報酬基準により賃金支払がなされており、(a) 主たる職務が、学識専門職エグゼンプト、教師若しくはコンピュータ関連職エグゼンプトであり、かつ自由裁量及び独立した判断を行使することを必要とする労働である被用者、又は(b) 芸術活動として認識される分野において、創造力、創作力若しくは才能が要求される労働である被用者は全ての要件に適合しているものと解してよい。

2.  運用実態
 合衆国国勢調査局が1999年に実施した、「最新人口調査」の報告書をもとに合衆国労働省がまとめたところによると、アメリカの賃金・俸給払い雇用者のうちエグゼンプトの占める比率は約21%である。



<ドイツ>

1.  管理的職員

(1)  要件
 事業所組織法第5条第3項に規定する管理的職員(※)であること
 管理的職員とは、(1)事業所又はその部門に雇用される労働者を自己の判断で採用及び解雇する権限を有する者、(2)包括的代理権又は業務代理権(使用者との関係でも重要であることを要する。)を有する者、(3)上記(1)及び(2)以外で企業又は事業所の存続と発展にとって重要であり、かつ、職務の遂行に特別の経験と知識を必要とするような職務を通常行う者(本質的に指揮命令に拘束されずに決定を行う、又は決定に重要な影響を及ぼす場合に限る。)
 具体的には、人事部長、事業所委員会があるような事業所の所長などはこれに該当する。
 なお、管理的職員に該当するか否かはっきりしない場合には、社会保険料の算定基礎となる平均報酬額の3倍を超える額(2002年度においては、西側で84,420ユーロ、東側で70,560ユーロの年収)の年俸制の対象となっていること等により判断される。

(2)  効果
 労働時間法の規制(最長労働時間、休憩・休息時間、深夜労働、日曜・祝日労働及び労働時間の記録)の適用を受けない。

(3)  対象者の労働者に占める割合
 1970年代の研究では、全労働者に占める管理的職員の割合は2%(約40万人)という推計がある。

2.  協約外職員
 法令上の制度ではないが、管理的職員よりも下位の職位に位置しながら、労働協約の適用を受けない労働者が、管理的職員と労働協約の適用を受ける一般労働者との中間に存在する。

(1)  定義
 その活動からもはや協約の人的適用範囲には含まれないが、「管理的職員」には至らない者
(2)  特徴
 ア  一般の労働者と同様に、労働時間法、事業所組織法の適用を受けるが、労働協約上の労働時間の規制の適用を受けない。
 イ  一般に、高度の資格を有し、協約の最高賃金を超える賃金を得ており、一般労働者とは異なり、その業務に従って自己の責任で労働時間を管理することが期待される。また、一般に、協約外職員の人事的措置について事業所委員会の関心は乏しい。



<フランス>

1.  経営幹部職員(cardres dirigeants、労働法典L.212-15-1条)

(1)  要件
(1) 労働時間編成上大きな独立性を持つような重要な責任を委ねられていること
(2) 自律性の高い方法で決定を行う権限を与えられていること
(3) 当該企業又は事業場における報酬システムの中で最も高い水準の報酬を得ていること

(2)  効果
 労働法典上の労働時間規制(労働時間、休息、休日等の諸規定)の適用を受けない。ただし、年次有給休暇の規定は適用される。

2.  その他
 上記1の経営幹部職員以外の幹部職員として、下記の(1)及び(2)があり、これらの者については労働時間規制が適用除外されないものの、柔軟な労働時間制度規制が設けられている。

(1)  労働単位に組み込まれた幹部職員(cardres integres、労働法典L.212-15-2条)
 ア.  要件
(1) 産業部門労働協約又は1947年3月14日の全国幹部職員退職年金(AGIRC)労働協約第4条第1項にいう幹部職員の資格を有すること
(2) その職務の性質ゆえに、自らが組み込まれている作業場、部課、作業班に適用される集団的労働時間に従って勤務していること

 イ.  効果
 一般の労働者と同様に、労働法典上の労働時間規制が適用される。
 超過時間労働が規則的・恒常的に行われている場合には、個別労使の合意等を要件として、週又は月単位の労働時間数の一括合意とこれに基づく報酬の支払が可能。

 ウ.  対象者の労働者に占める割合
 支店長、作業現場長、部長の多くがこれにあたると解されており、幹部職員全体のおよそ58%がこの類型に属するものと推計されている。

(2)  その他の幹部職員(autres cardres、労働法典L.212-15-3条)
 労働法典上の労働時間規制の適用を受けることを前提に、個別労使の概算見積合意によって、労働時間の長さ及び報酬額を一定のものとして概算的に設定することができる。

ア.  要件
(1) 産業部門労働協約又は1947年3月14日の全国幹部職員退職年金(AGIRC)労働協約第4条第1項にいう幹部職員の資格を有すること
(2) 「経営幹部職員」の要件を満たさないこと
(3) 「労働単位に組み込まれた幹部職員」の要件を満たさないこと

イ.  効果
(1)  拡張適用される産業部門労働協約・労使協定又は企業・事業場協約・協定において対象となる幹部職員の範囲及び概算見積合意の主たる形態・性格をあらかじめ定めた場合には、同協約・協定の範囲内で、個別労使の概算見積合意により週、月又は年単位で労働時間の長さを決定することができる。
 協約・協定を欠く場合には、週又は月単位でしか概算見積合意により労働時間の長さを決定することはできない。
(2)  年単位での労働時間数の概算見積を定める場合には、拡張協約・協定において法定労働時間の年間相当時間(1,600時間)と超過時間労働の年間枠(拡張協約・協定が定める時間又は180時間)とを合計した時間を超えない範囲で定めなければならない。また、休息及び休日に関する法定基準を遵守することを条件に、拡張協約・協定において、1日又は1週の最長労働時間(1日10時間、1週48時間、12週平均44時間)に代わる上限を定めることができる。
(3)  労働時間数の概算見積合意の場合、その報酬額は、少なくとも当該企業に適用される最低賃金及び超過時間労働に対する加算・割増を考慮して当該労働者が受け取るであろう額以上のものでなければならない。概算見積合意における労働時間、報酬を超えて実労働がなされた場合には、超過時間労働として、使用者は割増賃金等を支払わなければならない。
(4)  年単位での労働日数の概算見積を定める場合には、拡張協約・協定において年間217日超えない範囲内で労働日数を定めなければならない。実際の労働日数が協約・協定上の労働日数を超えた場合には、超過日数分の代替休日を翌年の最初の3か月以内に付与しなければならない。
(5)  実質的な労働時間短縮を享受していない、若しくは、使用者から課される拘束とは無関係な報酬が支給されている場合には、当該幹部職員は、被った被害に応じて算定された賠償手当の支払いを求めて裁判所に訴えを提起することができる。

3.  幹部職員に対する労働時間法制に関する運用実態

(1)  対象労働者の状況・実態
 雇用労働社会連帯省によると、労働者全体のうち約2 割が幹部職員であるが、幹部職員の賃金の平均額は月額4,770 ユーロ(2002 年)である。幹部職員の過重労働の問題は、フランスでも最近盛んに議論されている問題であり、企業の中には過重労働対策をとっている例もみられているようである。もっとも、フランスの幹部職員の過重労働の問題は、「過労死」に結びつく問題というより「ストレス」の問題として捉えられている。

(2)  概算見積合意の状況・実態
 概算見積合意には、大きく分けると、労働日数での概算見積り(年単位)と労働時間での概算見積りがあるが、大企業では前者がとられることが多く、幹部職員の36%が年単位の労働日数での概算見積合意を利用している。



<イギリス>

1.  測定対象外労働時間(労働時間規則第20条第1項)

(1)  要件
 労働時間の長さが測定されていない、又はあらかじめ決定されていないか若しくは当該労働者自身によって決定することができる特別な性質の活動に従事する労働者であること。
 これに該当する例示として、幹部管理職(managing executive)若しくは自主決定権限を有するその他の者等(※)が掲げられている。
(※)  幹部管理職等とは、事業経営の指導的地位にある者として、労働時間、休憩及び休日については、その職責上法規制を超えて活動しなければならない者であり、また、実際の勤務の態様も一般の労働者と異なった扱いを受けている者をいう。

(2)  効果
 労働時間規則の法定労働時間、休息・休日、深夜労働及び記録保存義務の規定の適用を受けない。ただし、年次休暇の規定は適用される。

2.  通常の労働時間と測定対象外労働時間がある場合(労働時間規則第20条第2項)

(1)  要件
 労働者の労働時間の中に、その長さが測定されている、又はあらかじめ決定されている若しくは当該労働者自身によって決定できない部分がある一方で、その特別な活動の性質上、使用者に要求されることなしに、測定されていない、又はあらかじめ決定されていないか若しくは当該労働者自身で決定することができる時間があること。

(2)  効果
 労働時間の長さが測定されていない、又はあらかじめ決定されていないか若しくは当該労働者自身によって決定することができる部分の労働に関しては、労働時間規則の法定労働時間、深夜労働の規定の適用を受けない。
 ただし、休息、休日、休憩時間、記録保存義務の規定は適用される。
 なお、時間給の対象となっている労働時間、労働を拒否すれば不利益な取扱いをされる可能性があるために労働者が黙示的に労働することを要求されている時間については、適用除外の対象とならない。

 その他
 ホワイトカラーに限定されない労働時間規制の適用除外として次のものがある。

(1)  個別的オプト・アウト
 労働者の署名した書面による合意により、法定労働時間の規制を適用しないことができる制度。
 労働者は書面による通知により当該合意を解除することができる。また、労働者が合意しないことを理由とする不利益取扱いは禁止され、解雇された場合には、不公正解雇とみなされる。
 欧州委員会からは、個別的オプト・アウトは、労働者の自由意思での同意を担保していないとの批判を受けている。
 対象を限定しない上に労働者の事前合意のみを案件とする簡便な方法であるため、他の適用除外規定に優先して用いられている。

(2)  労働協約又は労使協定による適用除外
 深夜労働、休息、休日及び休憩の規制について、その適用を修正又は除外することができる制度(休息、休日及び休憩の規制については成人のみ。)。
 適用除外とする場合には、代償休息時間(未取得の休息・休日の時間と同等の長さの休息・休日時間)が認められる。

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