諸外国の労働契約法制の概要

(労働政策研究・研修機構「諸外国の労働契約法制に関する調査研究」報告書から抜粋)

1 総論
  ドイツ フランス イギリス アメリカ
法源 ○ 基本法(憲法)、制定法(法規命令を含む。)、労働協約、事業所協定、労働契約
※ 上記の順に法的序列を形成している。ただし、一定の場合に法定基準を労働協約によって引き下げることが可能(協約に開かれた強行法規)。労働契約は労働協約および事業所協定より有利な労働条件を設定することが可能(有利原則)。
○ 憲法・国際規範、制定法(デクレ、命令を含む。)、労働協約(労働協定を含む。)、労働契約、企業内慣行、使用者の一方的債務負担行為
※ 上記の順に法的序列を形成している。ただし、一定の場合に法定基準を労働協約によって引き下げることが可能(特例協定)。法律、労働協約、労働契約の関係については、規範相互の抵触が生じた場合には最も労働者に有利な規範が適用されるいわゆる有利性原則が妥当したが、近時その例外が認められつつある。
○ 制定法(規則、命令、行為準則を含む。)、コモン・ロー、雇用契約(労働協約、就業規則、雇用条件明細書、慣行)
※ 労働協約、就業規則、雇用条件明細書、慣行は雇用契約の内容となることによって、はじめて法的拘束力を持つ。
○ 制定法(連邦法・州法)、労働協約、コモン・ロー、労働契約
主要根拠法 ア 基本法(憲法)上の規範として、職業の自由(12条1項)、協約自治の保障(9条3項)
イ 「労働契約法」として、民法典(特に「雇用契約」611-630条)、商法典(特に「商業使用人及び商業徒弟」59-65条、74-75h条、82a条、83条)、営業法(特に「労働者」105-110条)、継続賃金支払法、連邦年次休暇法、解雇制限法 等
※ 「労働(者)保護法」として、(安全衛生に関する)労働保護法(ArbSchG)、労働時間法、閉店法、母性保護法、年少者労働保護法等
※ 集団的労使関係法として、労働協約法、事業所組織法 等
ア 憲法規範として、1958年憲法、1946年憲法前文 等
イ 労働法典(Code du Travail。法律(Loi)のほか、デクレ(Décret)や命令(Règlerment)を含む。)
○ 1996年雇用権利法
○ 1999年雇用関係法
○ 1998年人権法
○ 1981年営業譲渡(雇用保護)規則
○ コモン・ロー
※ 「労働保護法」として、公正労働基準法、家族・医療休暇法、職業安全衛生法
※ 直接、労働条件規制を目的としたものではないが、一連の差別禁止法が重要な位置を占める。
・ 1964年公民権法第7編
・ 1990年障害を持つアメリカ人法
・ 1967年雇用における年齢差別禁止法
・ 1866年公民権法1981条 等
労働契約法の対象者 ア 統一的概念として理解されている「労働者」(Arbeitnehmer)への適用を基本としつつ、各法律ごとに必要に応じて対象の追加又は限定がなされている。
イ 「労働者」とは、私法上の契約に基づき、契約相手に雇用された状態で労働の義務を負う者と定義され、労務受領者への人的従属性(Persönliche Abhängigkeit)が必要(判例・通説)。
※一定の制定法で「労働者類似の者」を認め労働者以外の者も適用対象としている。
ア 「労働契約」(Contrat de Travail)に対して労働法典の諸規定を適用しており、「ある者が、他の者の従属下で、報酬を受けることにより自己の活動をその者に委ねることを約する合意」と定義され(学説)、従属関係の有無を主たる要素として判断。
イ 「労働者」(salarié)とは、労働契約の一方当事者と定義(判例・通説)。
○ 多くの場合、「被用者」(employee)を適用対象としており、「雇用契約の下に入った又はその下で働く(雇用が終了した場合には、働いていた)個人」と規定(1996年雇用権利法等)。雇用契約の存否・被用者性の有無は、(1)コントロール・テスト、(2)インテグレーション・テスト、(3)経済的現実テスト、(4)マルティプル・テスト、(5)義務の相互性テストにより判断(コモン・ロー)。
※ 一部の規定については、被用者よりも広い概念である「労働者」(worker)に適用対象を拡大。
○ コモン・ロー上の「被用者」(employee)は、(1)職務の管理権限の所在、(2)仕事の種類、(3)指揮監督の有無、(4)職務遂行に必要な技能水準、(5)道具・機材の負担、(6)関係の継続性、(7)対価支払方法、(8)事業統合性、(9)当事者意思、(10)専従性の要素を総合的に判断。
※ 公正労働基準法の適用は(i)個人適用(通商に従事する被用者又は通商のための商品の生産に従事する被用者)、及び(ii)企業適用(通商若しくは通商のための商品の生産に従事する「企業」の被用者)による。
※ 公正労働基準法等の「被用者」は、(1)事業統合性、(2)設備・機材の負担、(3)職務遂行の管理権限、(4)リスクの引受け、(5)職務遂行に要する技能、(6)関係の継続性の要素を総合的に判断。
規制の
実効性
確保の
仕組み
1 裁判手続における紛争処理
※ 普通裁判所から独立した3審制((地区)労働裁判所、州労働裁判所、連邦労働裁判所)の労働裁判所が労働事件を専属的に管轄。裁判長となる1名の職業裁判官(連邦労働裁判所にあっては、加えて2名の職業裁判官)と労使の枠から各1名選出される名誉職裁判官による三者構成。
※ 第1審では和解手続が前置され、和解不調の場合には、争訟手続に移行。
2 監督機関
ア 連邦労働保護本局の労働保護法上の義務及び権限を代理する連邦災害金庫が、安全衛生に関する労働保護法(ArbSchG)及びこれに基づく法規命令が遵守されるよう監督し、使用者がその義務を履行するよう助言する。
イ 州法に基づき定められた監督官庁が、労働時間法、閉店法、母性保護法、年少者労働保護法等の法律及びそれに基づく法規命令が遵守されるよう監督を実施。
1 裁判手続における紛争処理
※ 労働契約の締結、履行、解消から生ずる個別労働契約紛争全般を労働審判所が管轄するが、その管轄外の集団的紛争等は通常裁判所(大審裁判所、小審裁判所)が管轄。
※ 労働審判所は、労使それぞれの集団から選出される同数の裁判官による二者構成。調停手続が前置される。
※ 労働審判所は、労働契約の(1)適用、(2)解釈、(3)正当性審査の役割を担っており、内容の補完が行われることはあるが、労働契約内容の形成又は修正をすることはない。
2 労働監督官制度
 労働法典及び法典化されていない労働法規の適用並びに労働協約の適用を監視する。
・ 労働監督官による監督指導と罰則適用
・ 労働監督官による援助(情報提供、仲介)
1 裁判手続における紛争処理
ア 裁判所(貴族院、控訴院及び高等法院又は郡裁判所)は、コモン・ロー上の雇用契約義務違反や労災に対する人身損害の訴えに対して、損害賠償、差止め、特定履行、宣言判決により救済。
イ 雇用審判所(雇用審判所・雇用上訴審判所)は、制定法により付与された管轄に基づき、当該制定法上の権利義務に関する訴えに対して、補償金の支払裁定、復職命令、再雇用命令等当該制定法の定める方法により救済。
※ 人身損害以外の、コモン・ロー上の雇用契約違反に対する25,000ポンド未満の損害賠償請求の訴えを管轄。
※ 雇用審判所は、法曹資格者たる審判長及び労使各側リストから任命された素人審判員の三者構成。
※ 雇用審判所への申立ての38%が行政機関たるACAS(助言斡旋仲裁局)の斡旋で解決(2003-2004年度)。不公正解雇その他の制定法上の申立てが雇用審判所になされると、申立書がACASにも回付され、ACASによる斡旋が試みられる。

2 監督行政機関
ア 雇用関係法上の権利の履行を監督し強制する権限を有する包括的な監督行政機関は存しない。
イ 労働安全衛生法及び労働時間規則については、安全衛生執行局の監督官が監督指導を実施。
ウ 全国最低賃金法については、内国税収入庁の係官が監督指導を実施。
1 裁判手続における紛争処理
 雇用契約違反に対する救済は、逸失利益の損害賠償が原則。ただし、根拠法によっては、裁判官の裁量により衡平法上の救済(差止め、特定履行)が与えられうる。
※ 特に、労働関係紛争に係る特別裁判所や特別の審理体制・手続きは設けられていない。
※ 差別禁止法(1866年公民権法1981条を除く。)に基づく救済は、
ア 雇用機会均等委員会への救済申立てが前置され、その解決が不調に終わった場合のみ民事訴訟の提起が可能。
イ 裁判所は、採用、昇進、復職、バック・ペイなどあらゆる方法を適宜組み合わせて柔軟な救済命令を発することができる。
ウ 年齢差別以外の差別事由について、意図的な差別が行われた場合には、損害賠償を命ずることができ、特に加害者側に積極的な悪意があった場合には、補償的損害賠償に加え、懲罰的損害賠償が認められる場合がある。
エ 年齢差別についてはバック・ペイに加えて付加賠償金の支払を命ずることができる。

※ ADRによる紛争処理
 (1)オープン・ドア・ポリシー、(2)ピア・レビュー、(3)オンブズマン、(4)ファクト・ファインディング、(5)調停、(6)仲裁、(7)ミーダブなど様々な類型のADRが存し、広く活用されている。

2 行政監督機関
ア 公正労働基準法及び家族・医療休暇法については、労働長官及びその下にある連邦労働省賃金・時間部が監督指導を実施。
イ 職業安全衛生法については、連邦労働省職業安全衛生局の地方支部に属する遵守監督官が監督指導を実施。
「労働契約法」の位置付け ア 公法上の義務を使用者(場合によっては労働者)に課し、行政監督と刑事罰をもって法目的の実現を図る「労働(者)保護法」に属する立法と労働関係における両当事者の権利義務を規定し司法機関を通じての権利実現の根拠となる「労働契約法」に属する立法とは区別して認識されている。
イ 「労働(者)保護法」に属する制定法として労働者の安全・健康保護に関する労働保護法(ArbSchG)、労働時間法、閉店法等が、あるが個別関係立法の大部分は「労働契約法」に属する。
○ 「労働契約法」と「労働保護法」は明確に区別されているとは言えず、むしろ混在した法体系となっている。 ア 「労働契約法」(雇用契約法)と「労働保護法」の区別は明確には議論されていない。
イ 公法的実効確保措置を伴う制定法(「労働保護法」)に属するものとしては、労働安全衛生法、労働時間規則、最低賃金法があり、コモン・ロー及びこれ以外の大多数の制定法はいわゆる「労働契約法」に属する。
○ 公法的実効確保措置を伴う制定法(「労働保護法」)に属するのは、公正労働基準法(最低賃金、時間外割増賃金、年少労働を規制)、職業安全衛生法、家族・医療休暇法、一連の差別禁止法(1866年公民権法1981条を除く。)であり、いわゆる「労働契約法」に属するのは、コモン・ロー、1866年公民権法1981条並びに秘密保持義務及び競業避止義務に係る州制定法である。


2 各論
  ドイツ フランス イギリス アメリカ
労働契約の締結(採用) ア 契約自由の原則(基本法12条1項(職業の自由)、2条1項(一般的人格権))が妥当。
イ 使用者は、遅くとも労働関係開始の1か月後までに、主要な労働条件((1)契約当事者の氏名・名称、(2)労働関係の開始時期、(3)有期契約の場合には契約期間、(4)労働場所、(5)労働者が行う業務の簡潔な特徴及び説明、(6)賃金の構成及び金額、(7)労働時間、(8)年次有給休暇の期間、(9)解約告知期間、(10)労働関係に適用される労働協約及び事業所協定を明示する文書等)を書面化して労働者に交付しなければならない(証明書法2条1項)。
※ 性別による採用差別は禁止され(民法典611a条)、この違反に対しては金銭賠償責任が発生。
※ 日本の採用内定に相当する採用慣行はなく、特別の法規制は存しない。なお、労働契約締結後就労開始前の間に労働契約の解消が行われた場合には、解雇制限法所定の要件(6か月以上の勤続)を満たす場合を除き、民法典上の解約の規定が適用される。
※ 有期労働契約は書面によることを要する(短時間労働及び有期労働契約に関する法律14条4項)。
ア 使用者には従業員を選択する自由(採用の自由)が認められているが、差別禁止規制等による制約を受けている。
※ 出自・性別・習俗・性的指向、年齢、家族状況、遺伝的特徴、身体的外見、姓、健康状態、障害を理由として、採用から排除することはできず(L.122-45条)、これに違反した場合には損害賠償請求が認められる(多くの場合には拘禁刑及び罰金刑に科せられる(刑法典224-1条2項)。)。
イ 労働契約は当事者が選択する様式で締結することができる(L121-1条1項)。
 なお、労働契約は「一般法のルールに従う」(L.121-1条)とされ、その有効要件として(1)当事者の合意、(2)契約締結能力、(3)合意の内容を形成する目的、(4)義務における適法な原因の4条件が必要。
ウ 使用者は、採用してから2か月以内に、労働場所、労働内容、報酬、休暇の長さ、1日又は週当たりの労働時間、解雇予告期間、適用される労働協約を明示する文書を交付しなければならない(雇用契約又は雇用関係に適用される条件を労働者に情報提供する義務に関する指令(91/533/EEC))。
※ 日本の採用内定に相当する採用慣行はなく、特別の法規制は存しない。なお、使用者が「採用の約束」(promesse d'embauche)をした後に撤回又は契約締結を拒否した場合には、損害賠償請求が認められる。
※ 有期労働契約は書面によることを要し、契約書は採用から2日以内に労働者に送付しなければならない。契約書には、利用目的や期間、従事する職務などの義務的記載事項を含まなければならない。また、これ以外にも、見習契約、派遣労働契約、パートタイム労働契約、使用者グループによって締結される契約などは書面で締結しなければならない。
ア 使用者は、原則として被用者選択の自由(採用の自由)を有している。
 雇用契約は、使用者からの雇用の申込みに対し、被用者が承諾したときに成立し、特に書面性は要求されない。
イ 使用者は、雇用開始から2か月以内に、1か月以上の勤続を有する被用者に対して、(1)当事者、(2)継続雇用期間の開始日、(3)雇用継続期間、(4)報酬の基準・率又は算定方法、(5)報酬支払期間、(6)労働時間に関する件、(7)休暇に関する件、(8)職名又は簡単な職務記述、(9)職場等について記述した労働条件記述書を交付しなければならない(1996年雇用権利法1条-7条、11条、12条)。
 なお、使用者が労働条件記述書を交付せず、又は誤った内容の記述書を交付した場合、被用者は、雇用審判所に対し、労働条件の特定又は修正を求めることができる(1996年雇用権利法11条)。
※ 日本の採用内定に相当する採用慣行はなく、特別の法規制は存しない。なお、雇用の申込みに対し承諾がなされたならば有効な雇用契約が存在することになるので、就労開始日前に使用者が雇用の申込みを取り消し又は撤回した場合には、雇用契約に違反した雇用の終了と判断され、違法解雇に対する救済の対象となるほか、一定の場合には制定法上の不公正解雇に対する救済の対象となる。
○ 使用者の採用の自由は、差別禁止法等により制約を受けている。
※ 日本の採用内定に相当する採用慣行はなく、特別の法規制は存しない。なお、使用者からの採用申込みに対して承諾をした求職者が結果的に採用されなかった場合、当該求職者が採用されると信じたことに対する約束的禁反言法理の不利益的信頼として、あるいは、不実表示法理による保護が与えられる余地がある(コモン・ロー)。
※多くの州では、詐欺防止法により、1年を超える有期雇用契約を締結する場合には、書面の作成が必要となる。
試用期間 ア 契約当事者の合意により試用期間を設定することができる。
イ 試用期間を設定することにより、使用者は2週間の解約告知期間をもって労働関係を終了させることができる(通常の解約告知期間は、暦月の15日又は末日に向けて4週間。)。ただし、そうした試用期間は最長6か月までとされる(民法典622条3項)。
 なお、6か月未満の労働関係には、解雇制限法が適用されないため、解約告知の要件として解雇事由を明らかにする必要はなく、民法典134条(法令違反の法律行為の無効)、138条(良俗違反の法律行為の無効)、242条(信義誠実の原則)等の一般法理を根拠として解雇無効が認められる余地があるに過ぎない。
※ 実務上、試用期間の設定は広範に行われている。また、その期間は概ね6か月以内と考えられる。
ア 試用期間の設定には、労働協約又は労働契約の定めが必要であり、慣行によりこれを設定することはできない(判例)。
イ 試用期間の長さは、労働協約等によりルールが定められている場合に、これを延長することは許されず、労働者の職務との関係からみて長すぎてはならない(判例)。
ウ 明示の制限規定がある場合を除き、試用期間中は、労使双方とも何時でも契約を解消することができる。使用者が契約を解消する場合、その決定は期間満了前に労働者に通知されなければならない。
エ 労働協約又は労働契約に明示の定めがある場合、試用期間を更新することができる。ただし、その定めがなく、また、試用期間の更新に係る正式の追加文書もない場合には、試用期間が終了したものと解される。
※ 一般的に、試用期間の長さは、上級幹部職6か月、幹部職3か月、中級幹部職・技師2か月、事務職員1か月、現場労働者1週間から2週間程度といわれている。
ア 契約当事者の合意により試用期間を設定することができる。
イ 試用期間の長さについて特別な規制は存しない。ただし、不公正解雇の申立資格たる1年の勤続期間の要件を充足すれば、使用者により雇用の終了がなされた場合、試用者は不公正解雇の申立をすることができる。
ウ 解雇が公正か否かの判断基準は、試用期間中の方が緩やかである(判例)。また、公正な解雇とするためには、(1)使用者が有用又は公正でありそうな場合に、助言又は警告によって指導しながら試用期間を通じて使用者の評価を継続するための合理的な措置を採り、かつ(2)、監督者によってなされた評価その他試用者関して記録された事実を当該試用者に知らせ、当該試用者が要求されている水準に達したか否かを判定すべく適切な職員が真摯な努力をしなければならない(雇用上訴審判所判決)。
※ 雇用の開始後、一定期間の試用期間をおくことが一般的と言われている。一般的な試用期間は10-12週であり、より高度の技能を要する職務や大企業においては、より長い試用期間が設定されている。
○ 特別の法規制は存しない。
※ 労働協約においては、しばしば試用期間を設定している例が見られる。
労働条件設定の法的手段 1 労働協約
(1) 位置付け
 協約当事者の権利義務を規制し、労働関係の内容・締結・終了並びに事業所及び事業所組織法上の問題を処理する法的基準を定めることができる(労働協約法1条)。
(2) 締結当事者
・ 使側:使用者及び使用者団体
・ 労側:労働組合
(以上、労働協約法2条1項)
(3) 作成手続・変更手続
 書面に記載され、両当事者によって署名されなければならない(労働協約法1条2項、民法典126条)。
(4) 記載内容の効力
ア 協約規範は、労働協約当事者の構成員たる労働者と使用者との間の労働関係に強行的直律的効力を有する(労働協約法4条1項)。協約より有利な合意は有効である(労働協約法4条3項)。労働協約は有効期間終了後も、別の合意(協約、事業所協定、個別合意)がなされるまでの間は、なお効力を有する(労働協約法4条5項)。
イ 「一般的拘束力宣言」
 連邦労働社会大臣は、(1)当該労働協約の適用を受ける使用者が労働協約の適用範囲内の労働者の100分の50以上の労働者を雇用し、(2)一般的拘束宣言が公共の利益に合致すると認められる場合に、労働協約当事者の一方の申請に基づき、労使最上級組織の各側3名からなる委員会の了解を得て、一般的拘束力を宣言することができる。この場合、当該労働協約の規範的部分は、その予定する地域及び産業に従事する労働者に及ぶ(労働協約法5条)。

2 事業所協定
 事業所委員会と使用者間の合意によって成立する書面による協定。原則として事業所所属の全従業員に適用され、労働契約に対して規範的効力を持つ(事業所組織法77条4項)。ただし、協約で規制された事項、規制するのが通常である事項については締結できない(事業所組織法77条3項)。
※ なお、事業所委員会は事業所に18歳以上の労働者が5名以上存する(かつその3名以上が事業所委員被選挙権を有する)場合で、労働者側が要求した場合に設置される。

3 労働契約
 労働協約の適用がなく、事業所協定が存しない場合に、労働条件は労働契約上の個別合意によって定められる。
 また、有利原則が認められているため、労働協約・事業所協定より有利な労働条件を設定する場合に、労働契約上の個別合意は効力を有する。
 これらの場合に、個別の労働契約を根拠として、事業所の労働者全体又は特定の労働者集団に対して、統一的な労働条件が定められることがある(一般的労働条件)。
* 労働契約の締結の項を参照。
1 労働協約・労働協定
(1) 位置付け
 労働協約は、その形成過程においては「契約」として、その適用過程においては「法規」として性格付けられる。
(2) 締結当事者
・ 使側:使用者又は使用者団体
・ 労側:代表的労働組合(CGT、CFDT、CFTC、CGT-FO、CFE-CGC、これに加入している労働組合及び当該労働協約の適用範囲で個別に代表性を証明した労働組合)
※ あらかじめ拡張部門協約にその可能性が定められている場合において、
・ 組合代表委員が存しない企業の場合に、従業員代表(企業委員会選出委員又はこれが存しない場合は従業員代表委員)が交渉・協約締結を行うことができる。ただし、こうして締結された協定は、部門レベルの全国労使同数委員会の承認がなければ有効とならない。
・ 組合代表委員も従業員代表も存しない企業の場合、全国レベルで代表的な一又は複数の労働組合により明示的に委任された労働者が交渉・協約締結を行うことができる。ただし、こうして締結された協定は、労働者の全体投票において有効投票の過半数での承認がなければ有効とはならない(以上、2004年5月4日法)
(3) 作成手続・要件
ア 労働協約・協定は書面で作成しなければならず、それを欠く場合には無効である(L.132-2条)。締結当事者の署名が必要(判例)。協約文書は、県労働雇用局及び労働審判所書記課に寄託して公表しなければならない。
イ 部門協約にあっては、(1)拡張された手順協定がない場合には、当該協定の適用範囲にある代表的労働組合の多数によって拒否権が行使されないこと(コンセンサスによる多数性)、(2)手順協定がある場合には、当該部門の労働者の多数を代表する一又は複数の組合組織によって署名されること(合意による多数性)が必要(新L.132-2-2条。なお、企業協約にあっては、(1)部門協約に定めがある場合にはコンセンサス又は合意による多数性が、(2)部門協約に定めがない場合にはコンセンサスによる多数性が必要である。)。
(4) 記載内容の効力
 規範的効力(強行的効力及び自動的効力)によって個別労働契約を規律する(L.135-2条)。
ア 当該労働協約に拘束される使用者との間で締結されているすべての労働契約に、労働者の組合所属とは関係なく適用される。
イ 協約基準に満たない労働契約の部分は協約基準によって置き換えられるが、労働協約の内容は労働契約の内容になるのではない(外部規律説。学説・判例。)。
ウ 労働契約は、有利原則の適用により、法令及び労働協約の定めより有利な内容を含むことはできるが、それらを下回る規定を置くことはできない(L.132-4条、L.135-2条)。
※ 労働協約間の関係
 地域ないし職域の広い労働協約がより狭い労働協約よりも優位に位置付けられ、その上で適用範囲のより狭い労働協約の策定及び適用が有利性原則に基づいて認められる。
 ただし、2004年5月4日法により、部門別協約が明示的に禁止する場合を除き、企業協定で部門別協約より不利な内容を定めることが可能とされている。

2 労働契約
 有利原則の適用により、法令及び労働協約の定めより有利な内容を含むことはできるが、それらを下回る規定を置くことはできない(L.132-4条、L.135-2条)。
ア 労働契約は当事者が選択する様式で締結することができ(L.121-1条1項)、労働契約を書面によって締結することは義務づけられていない。ただし、使用者は、採用から2か月以内に、一又は複数の書面により、労働場所、労働内容、報酬、休暇の長さ1日又は週当たりの労働時間などに関する情報を通知しなければならない。
イ なお、有期労働契約の場合には、利用目的、期間、従事する職務等の義務的記載事項を含む契約書によって契約を締結しなければならず、契約書は採用から2日以内に労働者に送付しなければならない(L.122-3-1条)。
* 労働契約の締結の項を参照。

3 就業規則
 規制可能なのは安全衛生と職場規律・懲戒に関する事項に限られ、労働条件規制の一般的機能を持ったものではない。また、法令及び労働協約に反する条項を定めることはできず、また、個人の自由及び権利に対して、遂行すべき職務の性質によって正当化されない制約、達成されるべき目的に比例しない制約を加えてはならない(L.122-35条1項)。
(1) 作成主体
 従業員20人以上の企業又は事業場の使用者(L.122-33条)
(2) 作成手続
ア 就業規則は書面で作成しなければならない(L.122-34条)。
イ 施行に先立って、従業員代表(企業委員会が存する場合には企業委員会、それが存しない場合には従業員代表委員)の意見を聴取しなければならない(L.122-36条1項)。安全衛生に関する問題については安全衛生・労働条件委員会の意見も聴取しなければならない。
ウ 就業規則の施行日は、所轄の労働審判所への寄託と事業場への公示の手続きが完了してから1か月以上経過した日としなければならない。公示措置と同時に、企業委員会(又は従業員代表委員、安全衛生に関する問題にあっては安全衛生・労働条件委員会)の意見を付して労働監督官に通知されなければならない(以上、L.122-36条)。
1 労働協約
 協約は、雇用条件、雇用終了、配置、規律処分、組合員の範囲、組合役員への便宜、交渉又は協議の機構や手続といった所定の事項に関する「1以上の労働組合と1以上の使用者又は使用者団体によって(又は、のために)締結された協定又は取決め」と定義される(1992年労働組合及び労働関係(統合)法178条)。
 労働協約自身に規範的効力は認められておらず、雇用契約の内容に取り込まれることによって初めて拘束力を有する。

2 雇用契約
ア 雇用契約の契約条件は、基本的には、当事者がいかなる明示的な合意をしたか、すなわち明示条項(express terms)による。この雇用契約の明示条項が、いわゆる橋渡し条項(bridge term)の形をとることにより、労働協約や就業規則の規定内容が雇用契約の内容となることがあるが、この場合、当該労働協約や就業規則の規定内容は、当該雇用契約の明示条項ということになる。
イ 雇用契約の契約条件は、当事者間の黙示の合意により黙示条項(implied terms)として認められる場合もある。イギリス契約法では、黙示条項は、(1)事実による黙示条項(terms implied in fact)、(2)法による黙示条項(terms implied in law)、及び(3)慣習による黙示条項(terms implied by custom)の3つに区別される。事実による黙示条項は、事実から当事者意思を推認したものであるのに対して、法による黙示条項は、一定類型の契約であることから生ずる一見明白な義務であり、当事者意思にかかわりなく、コモン・ローによって契約当事者に課される法的附随義務のことである。具体的には、協力義務、信頼関係維持義務、安全配慮義務、能力を維持する義務、命令に従う義務、誠実義務、秘密保持義務等がある。
ウ 原則として明示条項が黙示条項にその効力において優先する。
* 労働契約の締結の項を参照。

3 就業規則
ア 就業規則(works rules)は、雇用契約の条項となることもあるし、使用者により一方的に課される指示文書(instructions)にとどまることもある。また、就業規則は、懲戒規定、傷病(手当)、安全規定、福利厚生施設、休暇等に関する規定を含むものであるが、契約条項となりうる部分と指揮命令を示した部分とからなることもある。就業規則の条項が雇用契約の条項となる場合には、使用者は、被用者からの同意・合意によらなければ、その変更をなし得ない。これに対して、就業規則の条項が使用者により一方的に課される指示文書にとどまる場合には、使用者は、合理的な予告をすればいつでも、その変更を行うことができ、被用者がその変更された就業規則に従わないことは、適法かつ合理的な命令に従う義務(duty to obey lawful and reasonable orders)の違反となる。
イ 雇用契約の明示条項を介して、契約当事者を拘束する。
1 労働協約
(1) 位置付け
 団体交渉単位内のすべての被用者(組合員籍を問わない)に適用される自治的規範であり、協約締結当事者たる当該労使間(使用者と交渉代表組合)における契約としての効力を有するものである。そして労働協約は、制定法が定めていない多くの事項について、被用者に権利を付与しているほか、苦情処理手続や仲裁に関する条項を含むことも多い。
(2) 締結当事者
・ 使側:使用者
・ 労側:雇用条件等の利害が共通している被用者らが就労する一定範囲の交渉単位(bargaining unit)において当該交渉単位に属する被用者らの選挙(過半数の被用者の支持が必要)によって選出された唯一の交渉代表組合(排他的交渉代表(exclusive representation)制度)。なお。交渉代表に選出された組合は、その組合を支持しない被用者も含めて交渉単位に含まれるすべての被用者のために団体交渉を行う。
(3) 記載内容の効力
 締結された労働協約は、当該交渉単位内のすべての被用者の雇用契約を有利にも不利にも両面的に拘束する効力を持つ。

2 雇用契約
 随意雇用原則(employment at-will doctrine)の下で、期間の定めのない雇用契約は、いずれの当事者からいつでも自由に契約を解約することができることとされており、解雇が制限されている場合と比べて、労働条件の設定・変更における重要性は大きく異なる。
* 労働契約の締結の項を参照。
個別契約上の労働条件の変更 1 総論
 使用者が労働条件を変更する場合、それが、(1)あらかじめ留保された権限((i)労務指揮権、(ii)変更・撤回権が留保されている場合には当該変更・撤回権)の範囲内であれば、これを労働者に強制することができ、(2)あらかじめ留保された権限の範囲を超えるものであれば、これを労働者に強制させることはできず、使用者は変更解約告知により労働条件の変更を図ることになる。

2 あらかじめ留保された権限の範囲内の場合
(1) 労務指揮権の行使
ア 国家法、労働協約、事業所協定及び個別労働契約上の取決めの範囲に限定される(営業法106条)。
イ 基本的な労働条件である労使双方の主たる給付義務(賃金・給与の額や労働時間の長さ等)の決定は労働関係の核心的領域に属することから、使用者の労務指揮権の対象とはならず、法律、労働協約、事業所協定、労働契約によってのみ形成可能となる。
* 労働条件設定の法的手段の項を参照。
(2) 労働契約上の統一規制の変更
 事業所の労働者全体又は労働者集団に統一的に適用される労働条件である一般的労働条件(労働契約上の統一的規制、従業員集団に対する約束、事業所慣行に基づく使用者からの給付)の変更については、(1)事業所協定を通じた給付の撤回が労働契約上留保されていた場合又は行為基礎の喪失を理由とする場合であって、(2)個々の労働者にとって不利益な変更であっても、該当する全労働者にとっては新規制が従前の労働契約上の統一的規制の内容よりも不利でない限り、事業所協定による変更が可能(判例。ただし、社会的給付の事例)。
(3) 変更・撤回権の留保
ア 使用者が労働者との合意により、あらかじめ変更の権限を留保することは、労働協約又は事業所協定の規定若しくは民法典138条の良俗に反しない限り、可能。
イ 信義誠実の原則(民法典242条)、公正な裁量(民法典315条)等の一般原則の範囲内であることが必要。
 特に、通常、労働協約により規制される賃金は、狭義の中核的な労働条件として、使用者に一方的な給付決定権を認めた合意に基づく変更は認められない。

3 変更解約告知
ア 使用者が労働関係を解約し、かつ、当該労働者に対し、解約と併せて、変更された労働条件による労働関係の継続を申し出た場合、当該労働者は、当該変更された労働条件に不満があるときは、当該労働条件の変更は社会的正当性について留保を付した上で、当該提案をいったん受け入れて労働関係を継続することができる。
 当該労働者はこの留保を、当該使用者に対し、解約告知期間内に、遅くとも解約告知の到達から3週間以内に表示しなければならない(解雇制限法2条)。また、変更の社会的不当性の確認訴訟は変更解約告知到達後3週間以内に提起しなければならない(解雇制限法4条)。
イ 裁判の結果、当該労働条件の変更に社会的正当性が認められれば、当初の提案どおりの労働条件の変更が認められる。当該労働条件の変更に社会的正当性がないことが確認されれば、変更解約告知は当初より無効となる(解雇制限法8条)。

4 変更契約(合意による変更)
ア 契約相手の同意があれば、他の上位規範に反しない限り可能であるが、黙示の同意については、契約変更又は契約の不利益変更の申込みを知って異議なく継続就労していることのみでは十分ではなく、契約変更が労働関係に直接現れ、変更により労働者が自らの権利義務にどのような影響をもたらされるのかを確認できる場合にのみ、契約相手の同意が推測される(判例)。
イ また、証明書に記載されるべき主要な労働条件が変更された場合には、使用者は遅くとも変更の1か月後までに労働者に変更を書面で通知しなければならない(証明書法3条)。
* 「労働契約の締結の項」参照。
1 総論
 期間の定めのない労働契約において、使用者が労働条件を変更する場合、それが、(1)使用者の指揮命令権の範囲内の「労務遂行条件の変更」の場合は、これを労働者に強制することができ、(2)労働契約の要素の変更を伴う「労働契約の変更」の場合は労働者の同意なくこれを強制することはできない(判例)。
※ 「労働契約の変更」か否かについて、特に労働契約の要素と判断されているのは、次の4つである。
(1) 報酬(rémuneration)。労働契約に基づく報酬については、特に厳格に解する傾向が強い。
(2) 格付け(qualification。労働者の職務内容や責任の程度)。
(3) 労働時間(temps de travail)。労働時間の長さは労働契約の要素である。
(4) 労働場所(lieu de travail)。移動が「地理的範囲」内であるか否かによって判断される。

2 「労務遂行条件の変更」の場合
 使用者は(1)当該変更を断念するか、(2)解雇に着手するかのいずれかの対応をとることとなる。なお、この場合の労働者の変更拒否は労働者の非行を構成し、懲戒理由による即時解雇の対象となり得る。

3 「労働契約の変更」の場合
(1) 労働者が受諾する場合
 新たな労働条件で労働契約が継続される。この場合の労働者の受諾は明示的でなければならず、新条件下での就労の継続から黙示の受諾は推測されない。ただし、経済的理由による契約変更に関しては、使用者による変更の通知後、労働者が1か月の検討期間内に拒否の意思表示をしなければその変更を受諾したものとみなされる(L.321-2条)。
(2) 労働者が拒否する場合
 使用者は(1)当該変更を断念するか、(2)人的又は経済的理由による解雇に着手するかのいずれか対応をとることとなる。この場合に、解雇の適法性は、契約変更の理由が解雇を正当化する「真実かつ重大な事由」に当たるか否かという観点から判断される。なお、使用者が合意を経ることなく「労働契約の変更」を強制した場合、労働者は労働契約を自ら解消した上で、当該解消が解雇であるとの性質決定を裁判所に求めることができる。

※ 使用者は、自ら設けたか企業内で通用している慣習について、交渉を行うに十分な予告期間を付して従業員代表及び個別の労働者に対して破棄の通知をすることによって、一方的に破棄することができる。
1 総論
 使用者が、(1)契約条項を変更する場合には、被用者の明示又は黙示の合意(assent, consent)ない限り、法的には有効なものとならない。これに対して、(2)非契約的な条件(non-conractual cindition)の変更の場合には、被用者は、同意なしに、その変更に拘束される。
 なお、労働条件記述書に記載された労働条件の変更は、変更後1か月以内に書面によりなさなければならない(1996年雇用権利法11条)。

2 契約条項の変更に対する明示の同意に関する判断基準
ア 契約条項の解釈として一定範囲の労働条件の変更が雇用条件の範囲内に含まれていると解される場合には、その変更に、改めての被用者の同意は要しない。
イ 雇用契約に契約条件変更を認める契約条項が含まれている場合には、やはり契約条項の範囲内の変更であれば、改めて被用者の同意を要しない。
※ 契約条件変更条項は厳格に解釈されており、明確な規定がない限り変更権限が合意されているとは認めない(判例)。
ウ 雇用契約に、労働条件は労働協約に定めるところによる旨の橋渡し条項がある場合には、(1)当該橋渡し条項が労働協約の変更内容を自動的に雇用契約の内容とする明確な規定である場合には、当該被用者はその変更に拘束されるが、(2)その旨の明確な橋渡し条項がない場合には、当該変更された労働協約の内容に同意した場合に限って、被用者はその変更に拘束される。

3 黙示の同意に関する判断基準
ア 異議を述べずに一定期間、雇用契約条件の変更後も就労を継続している場合には、黙示の同意が推認される。特に、賃金率の変更等即時的にその効果が被用者に及ぶ性質の契約条件の変更については、黙示の同意の推認が働きやすい。
イ 労働協約による雇用契約条件の変更の慣行が、合理的で、確信的で、公然のものであるとの要件を充足し、その存在が認められる場合には、当該慣行の下にある被用者は、当該労働協約の変更に従った雇用契約条件の変更に法的に拘束される。

4 被用者の同意のない契約条項の変更は、契約違反となり、被用者は、(1)それが重大な契約違反の場合には、一旦離職の上「みなし解雇」とする等により、不公正解雇に対する救済(復職、再雇用、補償金の裁定)を求め得るほか、(2)コモン・ロー上の損害賠償請求を行うことができる。一方、使用者は、被用者が雇用契約条件の変更に同意しない場合に、当該被用者を解雇することができる。
○ 労働条件の変更について、特段の法令による制限はない。
 随意雇用原則の下で、使用者は、その一方的な申出により、いつでも雇用契約関係を終了させることができることから、使用者から労働条件変更の申出を受けた被用者は、これを受け入れない場合には自ら辞職するか又は解雇されることとなる。
 なお、ごく僅かの州であるが、制定法により、賃金額の変更について、被用者に対する事前の告知を義務づけている例がある。
配置転換・出向・転籍 1 配置転換
 労働の種類・場所を変更することをいう
ア 労働契約の予定する範囲内であれば労務指揮権に基づき、使用者は一方的に配転を行い得る。
・ 一般に、職種を変えることなく、同一事業所内での勤務場所、配属箇所を変更することは、労務指揮権の範囲内となる。ただし、労働契約により職種・職務が特定されている場合には、同一の職種系列内の職務変更は、労務指揮権の範囲内となる。事業所が特定されていると解される場合には、同一事業場内でのみ配転が労務指揮権の範囲内となる。
・ 労働者が特定の職務、事業所で一定期間継続して勤務してきた場合には、労働義務の内容・場所が黙示的に特定されたものと解する傾向にある(判例)。また、使用者の配転命令の範囲を拡張する旨の拡張条項が定められた労働契約についても、配転命令の行使が「公正な裁量」によるものか否かが司法審査の対象となる(民法典315条、営業法106条)。
イ 配転(1か月の期間を超えることが予定され、又は、労働給付の環境の著しい変更をもたらすような他の労働領域への配置。また、労働関係の特質上、労働者が特定の職場で就労しないことを常とする場合には、その都度の職場の決定は含まない。)については、事業所委員会との共同決定事項となる(事業所組織法99条)。また、他の事業所への配転は、配転先の事業所の「採用」として共同決定事項となる(事業所組織法95条3項)。
 あらかじめ事業所委員会の同意をもって制定した人選指針に反する配転が行われた場合、事業所委員会は、配転への同意を拒否できる。

2 貸借労働関係(Leiharbeitsverhältnis)
 労働者が使用者との労働関係を維持しつつ、第三者の労務指揮の下で就労するもので、出向に相当する。業として行われない限り、特別の法規制は存在しないが、業として行われる場合には、労働者派遣法の規制対象となる。
 労働者を第三者の下で就労させるに当たっては同意が必要だが、個別合意に限らず包括的合意、契約上の留保条項でも足りる(有力説)。
1 配置転換(mutation)
 同一企業内での職及び労働場所の移動をいう。
(1) 契約中に移動条項(労働者が使用者の命ずる場所で働くことを事前に同意するもの)がない場合
 「地理的範囲」内であれば「労務遂行条件の変更」となり、「地理的範囲」を超えれば「労働契約の変更」となる。
(2) 契約中に移動条項がある場合
 労働者は移動条項に定められた範囲内で配置転換に応じなければならない。ただし、移動条項が有効に労働者を拘束するためには、
・ 労働者が移動条項を受諾し、労働者が署名した労働契約の中に記載されていなければならない。
・ 労働協約中の移動条項の規定については、採用時に当該規定の存在が明確に知らされていなければならない。また、採用後の労働協約の移動義務の定めは、既に雇用されている労働者を拘束しない(以上、判例)。
(3) なお、労働者の転居を伴う配置転換については、当該移動が「企業の正当な利益の保護に不可欠で、当該労働者の従事する雇用や労働にかんがみ、達成されるべき目的に比例していなければならない」。また、他の過度の不利益を被らない者を配置転換させることができたにもかかわらず、危機的家族状況にある労働者を配置転換させた場合に、当該配転命令が権利濫用とされた例もある。

2 出向(détachement)
 他企業(企業グループ、子会社を含む。)への一時的な移動。
 労働者の同意が必要(企業グループ内で移動条項が設けられる場合もある)。

3 転籍
 労働者の同意が必要。
1 配置転換
ア 制定法による特別の規制はなく、コモン・ロー上の雇用契約の解釈問題として、使用者による配転命令が、雇用契約条件となっている移動条項又は柔軟条項の範囲内であれば、当該配転命令に被用者は拘束される。
 使用者は、配転命令権の行使に当たって、使用者と被用者との間の信頼関係を破壊するような仕方で行為しないという信頼関係維持義務による制約を受ける。
※ 純粋に恣意的な使用者の配転命令は明示の配転条項の範囲外として認められない。
イ 移動条項・柔軟条項に基づく配転命令権の行使に当たって、使用者は、合理的な期間の予告を行う黙示の義務、黙示の協力義務及び被用者の移動を妨げないようにする黙示の義務を負う(判例)。

2 出向(secomdment)
ア 被用者を雇用しているセカンドメント元の使用者から当該被用者がセカンドメントされた場合において、
(1) 当該被用者とセカンドメント先の使用者との間に、雇用契約の締結がなされない場合
 2つの使用者と当該被用者との間の合意内容は、セカンドメント元の使用者との雇用契約を終了させた後に、セカンドメント先の使用者との間で雇用契約を締結して、当該セカンドメント先の使用者の被用者となるものと推認される。
(2) セカンドメントされた被用者がセカンドメント元の使用者が代理人としてではなく、本人として賃金を支払っている場合
 セカンドメント元の使用者とセカンドメント先の使用者のいずれが当該被用者にコントロールを及ぼしているかを判断し、(i)セカンドメント元の使用者が当該被用者をコントロールしている場合にはセカンドメント元の使用者の被用者とされ、(ii)セカンドメント元の使用者のコントロールが認められなければ、当該被用者はいずれの使用者の被用者でもないものとされる。
イ セカンドメント期間中の被用者は、セカンドメント元の使用者に対して負っている雇用契約上の適法な命令に従う義務及び誠実義務と同じ義務をセカンドメント先の使用者に対しても負っている(判例)。
※ セカンドメントは、公務員や民間グループ会社間でみられる。
1 配置転換(redeployment)
 制定法による特別の規制はなく、使用者から配置転換の申出を受けた被用者は、これを受け入れない場合には自ら辞職するか又は解雇されることとなる。

2 出向(relocation)、転籍(seconding)
 いずれについても制定法による特別の規制はなく、使用者から出向又は転籍の申出を受けた被用者は、これを受け入れない場合には自ら辞職するか又は解雇されることとなる。
懲戒 ア 懲戒権に対する法律上の規定は特に存しない。
イ 事業所での労働者の秩序行為に対する罰則を定める罰則規程の定立及び使用者が行う個別の処分は「事業所の秩序及び事業所における労働者の行動に関する事項」(事業所組織法87条1項)として事業所委員会の共同決定事項となる。
ウ 労働者に対する聴聞、理由の通知等懲戒手続に関する法律上の規制は存しない。
エ 制裁手段として、解雇、賃金グループ格付けの低下は許されない。
オ 労働者の非違行為は、解雇制限法上の解雇事由としての労働者の行動又は民法典626条で定められた即時解雇事由としての「重大な事由」として考慮される。
※ 懲戒処分の種類としては、通常、事業所罰(Betriebsbuße)として訓告(Verwarnung)、譴責(Verweis)、制裁金(Geldbuße)が、個別労働契約上の制裁として警告(Abmahung)、違約罰(Vertragsstrafe)及び労働者の行動を理由とする解雇などがあり得る。
1 意義
 懲戒とは、「使用者が非行であると考える労働者の行動の結果、使用者によって取られた口頭での注意を除くあらゆる措置をいい、この措置が企業における労働者の存在、職務、職歴又は報酬に直ちに影響を及ぼすか否かを問わない」(L.122-40条)。なお、罰金等の金銭的制裁は禁止されている(L.122-42条)。
※ 出自・性別・習俗・家族状況・民族への帰属・国籍・人種・政治的意見・組合活動・共済活動・争議権の行使・宗教的信条による差別的な懲戒は無効である(L.122-45条)。また、使用者の行う懲戒が労働者の非行の程度に比例していない場合には取り消されることがある(L.122-43条2項)。
※ 懲戒手続の開始から3年以上前に行われた懲戒を考慮することは許されない(L.122-44条2項)。

2 権限
 職場内の服務規律と懲戒処分については、就業規則の必要記載事項である(L.122-33)。
懲戒処分は就業規則に明記されていなければならない。

3 手続
ア 使用者は、非行の事実を知った日から2か月以内に、懲戒の対象となる非行の内容を書面で同時に労働者に明らかにしなければならない(L.122-44条)。
イ 懲戒の程度が重い場合(戒告、出勤停止、配置転換、降格など)、使用者は、目的・日時・場所を明記した書面により、当該労働者を呼び出して行う事前面談の場において、懲戒理由を示し、当該労働者の弁明を聞かなければならない(以上、L.122-41条2項)。
 なお、懲戒の内容が警告などの軽微な措置にとどまる場合には、アの書面による通知のみで足り、イの手続を要しない(簡易手続)。
ウ 懲戒の決定は、事前面談の翌日以降1か月以内に、書面で、理由を附記して当該労働者に通知しなければならない(L.122-41条2項)。

4 違反の効果
 手続違反、正当性の欠如、比例性の欠如等が認められる場合、労働審判所は、懲戒処分を取り消すことができる(L.122-43条2項)。
1 意義
 使用者の懲戒権限は、雇用契約の内容となっていなければならない。また、使用者は企業外での非違行為を理由に、被用者を懲戒処分に付すことはできず、そうした非違行為が使用者の営業に悪い影響を与えるようなものである場合にのみ、懲戒処分に付しうる(判例)。
 解雇以外の懲戒処分について、使用者は、その懲戒権の行使に当たり、雇用契約上の黙示の義務である信頼関係維持義務による制約を受ける(判例)。

2 手続
 懲戒処分に関しては、労使双方ともに、次の法定解雇・懲戒手続(statutory dismissal and disciplinary procedure)に従わなければならない(2002年雇用法附則2)。
(1) 使用者は法定解雇・懲戒手続を記載した雇用条件明細書を被用者に交付しなければならない(1996年雇用権利法1条、3条、4条)。
(2) 使用者は、解雇又は懲戒処分をもたらすものとして問責の対象としている被用者の行為、特徴その他の状況について記載した書面の写しを被用者に送付し、当該問題を話し合う面談の通知を行う。
(3) 懲戒処分が停職の場合を除き、処分がなされる前に、面談を行われなければならない。この場合、使用者は、(2)で示したものを含む根拠を被用者に通知し、被用者が、その通知された内容への対応を検討する合理的な機会をもつものでなければ、開催されてはならない。これに対し被用者は当該面談に出席するよう合理的な措置を採らなければならない。使用者は、面談の後、決定内容を被用者に通知し、その決定内容が被用者の満足するところでない場合には、その決定の再審理を求める権利について通知する。
(4) 被用者が、(i)再審理を欲しないときは、その旨を通知し、(ii)再審理を欲する場合には、その旨を通知し、これに対して使用者は、被用者に対して、さらなる面談に出席するよう求めなければならない。これに対し被用者は当該面談に出席するよう合理的な措置を採らなければならない。再審理のための面談の後、使用者は最終決定について被用者に通知しなければならない。
※ 即時解雇が認められるような場合には、「修正された手続」として、上記の「標準手続」中の(3)の手続を省略することができる。

3 手続違反の効果
 (1)に違反した場合には、被用者からの不公正解雇の申立の手続の中で被用者に対して認められる補償金の裁定額に2週給又は4週給までの間で増額がなされる(2002年雇用法38条)。
 (2)から(4)までの手続きが取られないまま雇用審判所に不公正解雇等の申立がなされた場合、(i)その不遵守が被用者によるときは補償金の裁定額が10%から50%までの範囲で減額され、(ii)その不遵守が使用者によるときは10%から50%までの範囲で増額される(2002年雇用法34条)。
 使用者が、この手続を履行しない場合の解雇は、自動的に不公正解雇とみなされる。ただし、使用者が不定の手続を上回る手続を履行したとしても結果が同じであったことを証明した場合には、解雇の公正さの判断における合理性の審査において、その不履行自体を不合理であるとはみなさない(以上、1996年雇用権利法98A条)。

4 要件・実体規制
ア 罰金(fines)・減給(deductions)については、明示の契約条項がない限り、行うことができない(1996年雇用権利法13条、18条)。
イ 無給の停職(suspension without pay for misconduct)については、明示の契約条項がある場合のほか、就業規則、労働協約、慣行などにより契約内容となっていると認められる場合に行うことができる。
ウ 降格(demotion)については、使用者の権限についての明示条項に加えて、当該制裁が公正になされることを要する。
エ 懲戒処分としての配転(transfer)については、人間関係の不和・対立を解消する目的でなされる場合には、賃金の減額を伴うものであっても、みなし解雇の状況とは認められない。
○ 懲戒処分について、特別の制定法上の制限はない。
※ 差別禁止法の制約がある。
休職制度 ○ 病気時の賃金継続支払請求権
ア 4週間以上の勤続を要件として、労働者が自身に責なく疾病により労働不能となったため労働の提供ができない場合に、すべての労働者は、6週間までの労働不能の期間において賃金継続支払請求権を有する(賃金継続支払法3条)。
イ 賃金継続支払請求権は、労働不能を理由として労働関係を解約したことに影響されない。ただし、解約告知が不要な場合又は解約告知期間なしに解約できる重要な使用者側の理由以外の理由により、賃金継続支払期間の満了前に労働関係が終了した場合は、賃金継続支払請求権は終了する(以上、賃金継続支払法8条)。
○ 労働契約の停止(suspension du contrat de travail)
ア 主な該当例は、(1)法律で義務づけられた休暇として有給休暇、祝祭日、代償休日、(2)使用者の発意によるケースとして部分失業、懲戒処分としての出勤停止、保全的出勤停止措置、(3)労働者の発意による休暇のケースとして教育・研究休暇、起業休暇、サバティカル休暇、(4)労働者の私生活に起因ケースとして病気、家族事情、拘禁、(5)集団的労使関係に関するケースとして従業員代表の職務の遂行、ストライキ権の行使、(6)公的活動として労働審判員の職務の遂行、議員職の遂行等がある。
イ 労働契約の停止期間中に義務の履行が停止されるのは、主たる債務(労働者の労務提供義務、使用者の賃金支払義務)のみであり、誠実義務等の付随義務は履行停止の対象とはならない。賃金債務については、法律、労働協約及び労働契約に定めがある場合には、履行が義務づけられる。
1 予防停職(precautionary suspension)
 警察の捜査及び起訴の結果を待って無給で出勤停止するもの。予防停職にすること及びそれを継続することが合理的な理由に基づくものであるという黙示条項の存在を条件として認められる。その結果が不起訴に終わった場合には、バック・ペイがなされることとなる。

2 病気休暇
 病気休暇制度は、全産業で広く導入されている制度であることから、黙示の契約条項として雇用契約条件の中に推認される。
1 休職(Leave of absence)
 特別の制定法上の規制はない。
 日本の起訴休職を含む制度と考えられる個人休暇(personal leave)については、協約上、これを定める例が見られるが、大半の協約では、取得事由を定めていないか、健全(good)又は十分(sufficient)な理由に基づき使用者の承認(approval)を得て取得するものとされている。

2 病気休暇
 有給疾病休暇(paid sick leave)及び無給疾病休暇(unpaid sick leave)については、協約上、これを定める例が見られるが、詳細は不明である。

※ 協約上の休暇としては、上述の個人休暇、有給疾病休暇及び無給疾病休暇のほかに、組合休暇(union leave)、家族休暇(family leave)、忌引休暇(funeral leave)、市民としての義務遂行のための休暇(civic duty leave)がみられる。
その他労働契約に関わる権利義務関係 1 秘密保持義務
ア 労働者は、信義則上認められる労働契約条の労働者の義務として秘密保持義務を負う。これに違反する労働者については、通常解雇又は非常解雇の対象となるほか(解雇制限法1条2項、民法典626条)、積極的債権侵害として損害賠償義務を負う。
イ 信用して打ち明けられた、あるいは接近できるようにされた企業秘密または営業秘密を、権限なく、競争の目的、私利、第三者の利益のために、あるいは使用者に損害を与える意図の下に他社に譲渡した労働者は、処罰されうる(不正競争防止法17条)。

2 競業避止義務
ア 労働者は、使用者の許可なしに、商業を営みあるいは使用者の商業部門で自身又は他人の計算の下で取引を行ってはならない(商法典60条1項)。これに違反した労働者に対して、使用者は損害賠償請求ができるほか、これに代えて、労働者が当該取引から得た報酬又は当該報酬の請求権の譲渡等を請求できる(商法典61条1項)。
イ 雇用関係終了後の競業禁止は、使用者の取引上の利益の保護に資するものでなければならず、使用者が、禁止期間の1年につき、労働者が当該労働から得たすべての収入の少なくとも2分の1に達する補償金を支払わなければならない(商法典74条2項)。また、労働者との合意文書に使用者の署名を付して労働者に手渡さなければならない(商法典74条1項)。競業禁止期間は、雇用関係の終了後、2年を超えてはならない(商法典74a条1項)。なお、2002年改正営業法110条により「使用者と労働者は、合意により労働関係終了後の労働者の職業活動を制限することができる。商法典74条ないし75f条が準用される」とされている。

3 安全配慮義務
ア 使用者は、労務給付に際して労働者の安全につき配慮しなければならない(民法典B618条)。
 この義務は、公法的な実体法規(労働保護法ArbSchG等)により具体化されており、その規定に基づき労働者は保護が行われた状態をもたらす請求権を使用者に対して有するとされるが、実際には事業所委員会を通じた要求ないし監督官庁への告発によって保護義務の履行確保が図られる。ただし、実体法規が遵守されない場合、労働者は労務給付を留置する権利を有する(民法典273条)。
イ 安全配慮義務は、原則として公法上の労働保護義務を超えるものではなく、労働者保護のための諸規定以上のことを使用者に要求することは、原則としてはできない。
ウ 使用者は、労働者の人格に対する保護義務及び労働者の財産(私物、自動車等)の管理・保管義務を負う(判例)。

4 労働者の損害賠償責任
ア 労働者側に労働義務を免れる法律上の正当な理由(賃金継続支払法、連邦年次休暇法、母性保護法等に定められた理由)が存在せず、労働者が労働義務不履行の責を負う場合には、損害賠償責任が発生する(民法典280条1項、3項及び283条)。
イ 労働者が労働の遂行過程において故意又は過失により使用者に損害を与えた場合、民法上、雇用契約について特別の規定はないため、原則としては原状回復主義に則った損害賠償責任が労働者に発生する。しかし、厳格な完全賠償責任を負わせると労働者に過酷な結果となるため,使用者も経営上のリスク(Betriebsrisiko)を負うべきとの観点から、次のとおり、労働者の損害賠償責任の限定・軽減が行われてきた(判例)。
(1) 労働者が重過失又は故意により使用者に損害を与えた場合には、原則としてすべての損害について賠償責任を負う。
(2) 労働者が最軽過失によりもたらした損害については、労働者の責任は完全に免責される。
(3) 両者の中間の中過失による損害惹起の場合には、損害原因と損害結果に関するすべての事情を公正の原則や期待可能性の観点から考量して、使用者と労働者の負担割合が決定される。
ウ 労働者の義務違反から生じた損害の賠償責任については、民法上の一般原則とは異なり、労働者が有責であることの主張立証責任を使用者に負担させる判例法理が形成されていたところ、2002年の債務法現代化法により立法化された(民法典619a条)。
1 秘密保持義務
ア 労働契約の履行期間中、労働者は、職業秘密に関する法律上の義務(刑法典226-13条)、とりわけ製造の秘密に関する法律上の義務(L.152-7条)、労働法典上の誠実義務(obligation de bonne foi)に関する一般条項(L.120-4条)により、秘密保持義務を負う。労働契約上の秘密保持義務条項により労働者の義務が確認ないし補強される場合でも、それは労働者の表現の自由に過度の制限を加えるものであってはならない
イ 労働契約終了後にも労働契約上の秘密保持義務条項により労働者にその義務が課されうる。

2 競業避止義務
ア 労働者は、労働契約を誠実に(de bonne foi)履行しなければならない(民法典1134条、労働法典L.120-4条)ことから、労働契約の履行期間中には競業避止義務を負う。競業避止義務に反する行為は重い非行や過重な非行となる。
イ 労働契約終了後、労働者は、競業避止義務条項に基づいてこの義務を負う。労働契約の競業避止条項による場合、それが契約締結時に規定されなかったならば、労働契約の変更として、労働者の同意を要する。労働協約の規定による場合には、競業避止義務を定めた労働協約が適用されることを労働者が採用時に知りえたことが適用の条件になる。
ウ 競業避止義務条項の有効性要件は、次のすべてを満たすことが必要(判例)。
(1) 当該労働者の雇用の特殊性を考慮していること、
(2) 企業の正当な利益の保護に不可欠であること、
(3) 時間的かつ場所的に限定されていること、
(4) 金銭的代償―この代償は、労働者が競業避止義務を遵守する場合に限り、その遵守した期間について支払われる―が義務づけられていること

3 安全配慮義務
ア 使用者は労働契約に基づく結果債務としての安全配慮義務(obligation de sécurité de résultat)を負う(判例)。
イ 労働法典では、「事業場の長は、派遣労働者を含む当該事業場の労働者の安全を保証し、その身体的かつ精神的な健康を保護するために必要な措置をとる」と定め(L.230-2条)、危険予防、情報提供、安全教育の3つの活動に大別される措置の内容を明らかにし、その実施に当たっての事業場の長の義務をより詳細に定めている。なお、各労働者にも自分自身や他者の安全及び健康に留意することが義務づけられている(L.230-3条)が、この義務は使用者や事業場の長の責任の原則に影響を与えないものとされている(L.230-4条)。

4 労働者の損害賠償責任
 労働者に何らかの非行があった場合、使用者は、労働者に対して、当該労働者の契約上の非行に起因した損害賠償を請求しうる。
 この場合、労働者の従属状態、労働者の支払い能力の限界、実行者の軽率さは企業の通常のリスクである等の考え方から、労働者は過重な非行(faute lourde)の場合にしか使用者に対して民事責任を負わないとの原則が確立されている(判例)。
※ 実務上、労働者が使用者に対する損害賠償を命じられるのはまれなようである。
1 秘密保持義務
ア 労働者は、雇用契約上の黙示条項により、使用者の機密情報を漏らさないようにする秘密保持義務(duty of confidence)を負う。労働者は、在職中のみならず、退職後も一定の範囲において引き続き秘密保持義務を負う。
イ 秘密保持義務の対象範囲について、退職後は営業秘密及びそれと同一の保護を必要とする高度の機密性を備えた情報に限られるのに対し、在職中の秘密保持義務の対象範囲は、そうした機密情報に限定されず、労働者の一般的な技術や知識の一部についても秘密保持義務の対象となる(判例)。
ウ 労働者が、上記のような範囲の機密性ある情報を不適切に開示し又は誤用した場合、裁判例によれば、使用者は、秘密保持義務違反を根拠に、当該情報の利用の差止め又は損害賠償の請求をすることができる。

2 競業避止義務
ア 労働者は、雇用契約の存続中、雇用契約上の黙示の義務たる誠実義務に基づいて、競業避止義務を負う。義務違反に対して、使用者は、競業行為の暫定的差止めを求めることができる。
イ 退職後の競業避止義務は、明示の競業制限特約に基づくものでなければならない。この特約が有効なものとして労働者を法的に拘束するためには、
(1) 使用者が特約によって保護される正当な利益を有すること、
(2) 特約による地理的、時間的及び仕事の制限が使用者の正当な利益を保護するために必要な合理的な範囲内にあること
が要件とされる。

3 安全配慮義務
ア 安全配慮義務は、雇用契約上の義務として認められている(判例)。不法行為と雇用契約上の黙示の義務違反のどちらを訴因としても訴訟を提起し得ることができ、かつ、どちらで訴訟を提起するかの選択権が認められている(判例)。
イ 安全配慮義務は、一般的には、「労働者の安全に合理的な配慮を行なうこと(to take reasonable care for the safety of his workman)」とされ、義務内容は、(1)安全な設備(plant) を提供する義務、(2)安全な作業場所(premises)を提供する義務、(3)安全な作業システム(system of work)を提供する義務である。判例によれば、安全な作業システムの提供とは、そのようなシステムを案出すること(devising)と、その実施(operation) の二つの面を有しているものとされている。
※ 近年では、職場におけるストレスに起因する精神疾患に対する安全配慮義務を肯定する判例がある。

4 労働者の損害賠償責任
 使用者は、労働者の職務遂行中における過失により損害賠償を支払ったとき、1978年民事責任(賠償金分担)法(Civil Liability (Contribution) Act 1978)に基づき、裁判所の裁量により、支払った賠償金の一部又は全部を当該労働者に請求することができる。また、使用者は、コモン・ロー上、労働者に対して求償権(indemnity)を持つ。
※ 保険会社により賠償金が支払われるのが実情であることから、使用者が労働者に対して賠償請求をすることはない(保険会社の代位請求もない。)。
1 秘密保持義務
ア 被用者は、コモン・ロー(代理法)上の忠実義務(duty of loyalty)を根拠に、使用者に対して、雇用関係存続中及び終了後において秘密保持義務を負う。
イ モデル州法である統一営業秘密法は、営業秘密を、「方法、パターン、複合、プログラム、装置、体系、技術、又はプロセスを含む情報であり(1条(4))、これは、広く一般に知られておらず、かつ、適切な手段により、当該情報の公開又は利用により経済的価値を獲得しうる者らにより容易に確認し得ない、現実の又は潜在的な独立した経済的価値を有し((4)(i))、かつ、諸状況下でその秘密性を維持する合理的努力の対象物((4)(ii))」と定めており、各州ではこれを元にした州制定法により秘密保持義務が規制されている(既存の民事法上の規定による場合もある。)。
 被用者がこれに違反した場合、悪用を知っていたか知る理由があれば、損害賠償を請求できる。(3条(a))。故意及び悪意による悪用がある場合は、損害賠償額の2倍を上限とする懲罰的損害賠償の支払いを命じることができる(3条(b))。

2 競業避止義務
ア 雇用関係存続中、被用者は、コモン・ロー(代理法)上の忠実義務に基づき、競業避止義務を負う。
イ 雇用関係終了後の競業避止義務については、競業避止特約の締結を要する。
 同特約の有効性についての具体的判断基準は次の要素の総合判断とされている(州制定法又はコモン・ロー)。
(1) 特約の締結によって守られるべき正当な利益を使用者が有していること、
(2) 特約の内容が、制限期間・地域・対象業務等について、使用者の正当な利益保護のために必要な合理的範囲で定められていること、
(3) 被用者に不当な負担を課さないこと、
(4) 社会や自由競争市場に対して有害ではないこと、
(5) 特約は約因により裏付けられていること。

3 安全配慮義務
 安全配慮義務に類する法理は存在しない。
 それは、雇用の過程において(in the course of employment)雇用から生じた(arising out of the employment)負傷・疾病に対しては、各州の労災補償法制度に基づき諸給付が支給され、州労災補償制度は、使用者の無過失責任(liability without fault)により諸給付を認めており、その対象となる労働災害に係る救済は排他的(exclusive)救済であり、不法行為による損害賠償請求は一切排除されること、及び、安全配慮義務違反を契約(法)上の責任と捉える発想はないからである。

4 労働者の損害賠償責任
 州裁判所が伝統的なコモン・ロー(代理法)上の原則である寄与過失(contributory negligence)を使用者に適用することを認める場合には、使用者は労働者に対して損害賠償を請求することができない。なお、秘密保持義務・競業避止義務に係る州制定法、コモン・ロー、契約(特約)に対する違反があった場合、期間の定めある雇用契約の履行が終了する前に労働者が職を辞した場合、使用者の労働者に対する損害賠償請求が認められる場合がある。
雇用の
終了
(解雇)
1 個人に起因する理由による解雇(個人的な理由による解雇、行動を理由とする解雇)
(1) 解雇についての規制
ア 法律又は良俗違反の解雇は無効(民法典134条、138条、242条)。
イ 解雇は社会的に不当な場合は無効となる。ただし、この規制は、(1)労働者数10人以下の事業場の労働者、(2)勤続6か月未満の労働者には適用されない(解雇制限法1条1項、23条1項)。
 次のいずれかの事由に基づかない解雇は社会的に不当となる。
(1)労働者の個人的事由、(2)労働者の行動に存する事由(解雇制限法1条2項)。
※ 解雇事由が存するか否かについて次の4段階に分けて審査(判例)。
(1) 解雇事由それ自体が存在するのか
(2) かかる障害又は不能が将来においても持続するのか(予測原理)
(3) それは解約告知によってのみ除去されるのか(最後の手段)
(4) 労働者と使用者の利益を勘案して、解約告知に対する使用者の利益の方が優越しているのか
ウ 中央保護機関の同意があった場合に限り解雇が可能(重度障害者法15条)。
エ 妊婦、産後4ヶ月間内の女性あるいは育児休暇取得者の解雇は原則として禁止(母性保護法9条、連邦育児手当法・育児休業法18条)。
オ 職業訓練生について、重大な事由がある場合にのみ解雇が可能(職業訓練法15条2項)。
カ 事業所委員会の委員等の解雇は原則として禁止(解雇制限法15条)。
(2) 解雇予告
ア 使用者が解約する場合、暦月の15日又は末日を期限とすること及び4週間の解約告知期間が必要(民法典622条1項)。
 なお、事業所又は企業内での労働関係の継続期間に応じて、解約告知期間は以下のとおりに延長される(労働者が満25歳になるまでの期間は算入されない。民法典622条1項、2項)。
 勤続2年以上:1か月、勤続5年以上:2か月、勤続8年以上:3か月、勤続10年以上:4か月、勤続12年以上:5か月、勤続15年以上:6か月、勤続20年以上:7か月
イ 上記の解雇予告の規制については、労働協約によって異なる定めをすることができる(民法典622条4項)。
ウ 労働関係が3か月を超えて継続する場合を除き、労働者が一時的な補助のために雇い入れられた場合等は、個別契約によって民法典622条1項に定められた期間よりも短い解約告知期間を定めることができる。
エ 使用者及び労働者は、労働関係の継続を期待し得ない実質的な理由がある場合には、即時に労働関係を解消することが可能(民法典626条)。
(3) 解雇手続
ア 事業所委員会の関与
(1) 使用者は、労働者を解雇する場合は、事前に事業所委員会の意見を聴取することが必要。意見聴取を経ないでなされた解雇は無効(事業所組織法102条1項)。
(2) 事業所委員会は、解雇について疑義があるときは、使用者に対して理由を示して意見聴取から原則1週間以内に書面で通知しなければならない(事業所組織法102条2項)。
(3) (i)事業所委員会が同意した選考基準に反していること、(ii)解雇の対象とされている労働者を当該事業所又は当該企業内の他の労働ポストに就かせることができることを理由として、事業所委員会が意見聴取から1週間以内に使用者に対して書面で異議を申し出た場合には、当該解雇は社会的正当性がないとされる(解雇制限法1条2項)。
イ 解約告知又は解約契約による労働関係の終了は、書面によりその効力を発する(民法典623条)。
(4) 不当解雇等の場合の救済
ア 労働者は、解約告知が社会的に不当であると考える場合、解約告知が言い渡されてから1週間以内に事業所委員会に異議を申し立てることができる。事業所委員会はこれに根拠があると判断する場合には、使用者との和解を招来すべく努力しなければならない(解雇制限法3条)。
イ(1) 解雇の無効確認訴訟については、書面による解約告知到達後3週間以内に労働者が労働裁判所に提起することが必要(解雇制限法4条)。期間を徒過した場合は、解雇は最初から有効であったとみなされる(解雇制限法7条)。
(2) 事業所委員会が使用者に対して適法に解雇についての異議を申し立て、かつ、労働者が適法に、解雇無効の裁判を提起した場合、労働者は、効力確定までの間、元の労働条件で継続就業を請求することが可能(事業所組織法102条5項)。
(3) 裁判所は、解雇により労働関係が消滅していないことを確認した場合であっても、(i)労働者に労働関係の継続を期待できない事情があるときは、労働者の申請により、(ii)使用者と労働者の間において事業目的に資するような協働が今後期待できない事情があるときは、使用者の申請により、労働関係を解消させ使用者に対して算定された補償金の支払いを命ずる判決を下すことができる(解雇制限法9条)。
※ 補償金の上限は、12か月分(満50歳以上かつ勤続15年以上:15か月分、満55歳以上かつ勤続20年以上:18か月分)の報酬額(解雇制限法10条)。

2 経済的理由に基づく解雇
(1) 解雇についての規制
ア 法律又は良俗違反の解雇は無効(民法典134条、138条、242条)。
イ 解雇は社会的に正当な場合にのみ許容される。
 社会的に正当性がある解雇事由として、緊急の経営上の必要性が必要(解雇制限法1条2項)。
※ 緊急の経営上の必要性による解雇の場合に解雇事由が存するか否かについて次の4段階に分けて審査(判例)。
(1) 労働者をもはや契約に従って活用することができないという帰結をもたらす企業家の決定の存在
(2) 活用可能性が永続的又は予測し得ない期間失われること
(3) 時間外労働及び社外労働の廃止、他の空席の労働ポストへの配転、場合によっては期待可能な継続訓練又は再訓練措置若しくは契約条件の変更を行っていること
(4) 被解雇者の選定に当たって社会的選択が行われていること(比較可能なグループ確定、社会的に最も保護の乏しい者の選択、その継続就労に事業所の正当な必要性が認められる労働者の除外)
※ 緊急の経営上の必要性に基づく場合は、被解雇者の選定に当たって、年齢、勤続年数、扶養義務、障害を考慮していない場合には、社会的正当性を欠くとされる(解雇制限法1条3項)。
ウ 解雇規制の適用除外、解雇制限の内容等については、1(1)に同じ。
 なお、使用者が緊急の経営上の必要性に基づき解雇を行う際に、3週間の提訴期間中に提訴しなかった場合、補償金を請求しうる旨を労働者に伝え、労働者が実際に提訴しなかったときは、勤続1年につき月収の半額の補償金請求権が発生する(解雇制限法1a条)。
(2) 解雇予告
 解雇予告の内容等については、1(2)に同じ。
(3) 解雇手続
ア 大量解雇の規制
(1) 一定規模以上の事業所で一定数以上の労働者を30日以内に解雇する場合には、使用者は雇用エージェント(Agentur für Arbeit)に届け出ることが必要(解雇制限法17条1項)。
(i) 21人以上60人未満の事業所で6人以上の労働者を解雇する場合
(ii) 60人以上500人未満の事業所で10%又は26人以上の労働者を解雇する場合
(iii) 500人以上の事業所で30人以上の労働者を解雇する場合。
(2) 届出義務のある解雇を計画している使用者は、事業所委員会に対して、遅滞なく目的に沿った情報を提供しなければならない。特に、(i)解雇理由、(ii)解雇される労働者数と職業分類、(iii)解雇される労働者の選択基準等については、書面によらなければならない。
 使用者と事業所委員会は、解雇を避け、又は限定し、結果を緩和できる可能性について協議しなければならない(解雇制限法17条2項)。
(3) 大量解雇は、届出到達後1か月を経過するまでは、雇用事務所の同意があった場合に限り有効。なお、雇用事務所には、解雇の停止を、届出到達後2か月経過するまで延長する権限が付与されている(解雇制限法18条)。
イ 社会計画
(1) 事業所の変更による解雇などで労働者に経済的不利益が生じる場合には、事業所委員会と使用者との間で「社会計画」が策定され、解雇の補償金や転換訓練の費用等の支給が行われる。
(2) 社会計画については、書面をもって作成し、かつ使用者と事業所委員会がこれに署名をしなければならない(事業所組織法112条)。
(4) 不当解雇等の場合の救済
 事業所委員会への異議申立、無効確認訴訟については、1の個人に起因する理由による解雇と同じ。

3 差別的な理由による解雇
(1) 解雇についての規制
ア 法律又は良俗違反の解雇は無効(民法典134条、138条、242条)。
イ 性を理由とする解雇は違法(民法典611a条)。
ウ 重度障害者については、中央保護機関の同意があった場合に限り解雇が可能(重度障害者法15条)。
エ 年齢差別を禁止する制定法は存しないが、緊急の経営上の必要性に基づく解雇の場合に、年齢等社会的観点を考慮していない場合には、社会的正当性を欠くとされる(解雇制限法1条3項)。
オ 人種、宗教を理由とする差別的解雇を禁止する制定法は存しない(2004年12月に包括的な差別禁止法案が連邦議会に提出されている。)。
(2) 不当解雇等の場合の救済
 性を理由とする解雇の場合、労働裁判所における通常の民事手続により救済がなされる。
1 個人に起因する理由による解雇(人的理由による解雇)
(1) 解雇についての規制
ア 解雇理由に「真実かつ重大な理由」(cause réelle et sérieuse)がない場合は違法となる(L.122-14-3条)。
※ 解雇理由の「真実性」は、(1)その理由が実際に存在するかどうか、(2)その理由が解雇の真の理由かどうかという観点から、解雇理由の「重大性」は、企業にとって労働の継続を不可能とし解雇を必要とするかどうかという観点から判断される。
イ 妊娠・出産、労災・職業病を理由とする休業期間等の労働契約停止期間中の解雇は違法、無効(L.122-32-2条等)。
ウ 従業員代表、組合代表等一定の保護された労働者について、労働監督官の許可のない解雇は違法、無効(L.412-19条、425-3条、436-3条)。
(2) 解雇予告等
ア 次の解雇予告期間が必要(L.122-6条)。
(1) 勤続6か月未満の者は協約又は慣習により定められる期間
(2) 勤続6か月以上2年未満の者は1か月
(3) 勤続2年以上の者は2か月
 ただし、労働者に重大な非行がある場合には予告期間は不要。(L.122-6条)また、予告期間を遵守しない場合には当該期間の賃金等に相当する手当を支払わなければならない。
イ 使用者は、解雇予告手当とは別に、解雇の時点で在職2年以上の労働者に対し、労働者に重大な非行があった場合を除き、勤続年数1年につき1か月分の賃金の10分の1の割合で計算される解雇手当(10年を超える場合は10年を超える1年につき月額の15分の1の割合で加算。)を支払うことが必要(L.122-9条)。
(3) 解雇手続
ア 使用者は、労働者を解雇しようとする場合には、
(1) 面談の目的、日時、場所及び補助者の同席の可能性を記した召喚状を労働者に書留郵便で送付し、
(2) 解雇決定前に面談を行い、解雇の理由を説明し、労働者の弁明を聴取することが必要(L.122-14条)。
イ 解雇を決定した場合は、解雇理由を解雇通知書に記載し受領証明付書留郵便で労働者に送付することが必要(L.122-14-1,2条)。
(4) 不当解雇等の場合の救済
ア 解雇が真実かつ重大な理由に基づかない場合には、
(1) 11人以上の労働者を有する企業に雇用されている勤続2年以上の労働者については、(i)労働審判所は使用者に復職を提案することが可能、(ii)復職が実現しない場合は使用者は賃金6か月分以上の賠償金を支払うことが必要(L.122-14-4条)。
(2) 10人以下の労働者を有する企業に雇用されている労働者又は勤続2年未満の労働者に対しては、使用者は労働者の被った損害に応じた賠償金を支払うことが必要(L.122-14-5条)。
イ 解雇手続違反の場合には、
(1) 11人以上の労働者を有する企業に雇用されている勤続2年以上の労働者については、手続の追完及び1か月分の賃金を上回らない金額の賠償金の支払いが必要(L.122-14-4条)。
(2) 10人以下の労働者を有する企業に雇用されている労働者又は勤続2年未満の労働者に対しては、損害に応じた賠償金を支払うことが必要(L.122-14-5条)。

2 経済的理由に基づく解雇
(1) 解雇についての規制
ア 解雇理由に「真実かつ重大な理由」がない場合は違法となる(L.122-14-3条)。
 解雇制限等については、1(1)イ及びウに同じ。
イ 経済的解雇における真実かつ重大な理由は次の3つを要件とする。(1)当該解雇が雇用の廃止・転換又は労働契約の変更(に対する労働者の拒否)を原因とすること、(2)雇用の廃止・転換又は労働契約の変更が特に経済的困難又は新技術の導入及び企業競争力の保護を目的とする再編成の結果として行われたこと(L.321-1条)、(3)解雇を回避するために使用者が適応義務及び再配置義務を履行したこと(判例)。
(2) 解雇予告等
ア 解雇予告期間、解雇手当の内容等については、1(2)に同じ。ただし、解雇手当の額については、勤続年数1年につき1か月分の賃金の5分の1の割合で計算される額(10年を超える場合は10年を超える1年につき月額の15分の2の割合で加算。)(L.122-9条)。
イ 解雇された労働者は、契約解消の日から1年間、再雇用優先権を有する(L.321-14条)。再雇用を希望する労働者は、契約解消の日から1年以内に使用者に申し出ることができ、使用者は契約解消後の1年間、優先的再雇用を申し出た労働者に対し、その職業上の資格に対応する空きポストがある場合にはそのすべてを通知することが必要。
ウ 1,000人以上の労働者を雇用している使用者等は、労働契約を維持しながら職業訓練や求職活動をするための再配置休暇を最大9か月間、労働者に保障することが必要(L.321-4-2条)。
(3) 解雇手続
ア 解雇通知
 事前面談手続は1(3)アと同様。また、解雇を決定した場合は、解雇理由及び優先的再雇用権(priorité de réembauchage)について解雇通知書に記載し配達証明付書留郵便で労働者に送付することが必要(L.122-14-1,2条、L.321-14条)。
イ 被解雇者選定基準
 被解雇者選定基準は、当該使用者に適用される労働協約に定めがあればそれに従い、ない場合は従業員代表との協議を経た上で使用者が決定するが、特に、(1)家族責任、(2)当該事業所又は企業での勤続期間、(3)労働者の再就職を困難なものとするような社会的性格を有する状況(特に障害者及び高齢者)を考慮しなければならない(L.321-1-1条)。
ウ 従業員代表への諮問、情報提供
 30日間に2人以上解雇する場合、使用者は、当該解雇について従業員代表に事前に諮問し、その際、(1)解雇の経済的、財政的、技術的理由、(2)解雇予定者の数、(3)解雇順位の決定のために予定している基準と関係する職種等解雇計画に関する全情報を通知することが必要(L.321-2、321-4)。
エ 雇用保護計画(plan de sauvegarde de l'emploi)
(1) 30日間に10人以上を解雇する場合で、50人以上の労働者を雇用している使用者は、解雇の回避・制限及び被解雇者の再就職援助のために、(i)外部・内部再配置、(ii)新たな活動の創設、(iii)教育訓練、(iv)労働時間の短縮・調整措置等を含む「雇用保護計画」を作成し実施することが必要(L.321-4-1条)。
(2) 作成した雇用保護計画については従業員代表と協議することが必要(L.321-4条)。
(3) 使用者は、解雇通知を行う前に、行政機関に雇用保護計画を含む解雇計画を届出、その内容や従業員代表への諮問等の手続的適法性の審査を受けることが必要(L.321-7条)。
(4) 行政機関は、雇用保護計画について、従業員代表との協議終了前に、使用者の経済状況や財政能力を考慮して雇用保護計画を補充又は変更するための提案等を行わせることができる(L.321-7条)。
オ 行政機関への届出
 使用者は、解雇対象者数により、手続に関する行政機関のコントロールを受けるほか、解雇通知書は発送後の届出等が義務づけられる。
(4) 不当解雇等の場合の救済
ア 雇用保護計画の内容、作成の手続が違法の場合、解雇は無効とされる(L.321-4-1条)。
イ 解雇手続違反の場合には、
(1) 11人以上の労働者を有する企業に雇用されている勤続2年以上の労働者については、(i)解雇に関する手続一般の違反の場合は、手続の追完及び1か月分の賃金を上限とした金額の賠償金の支払い、(ii)経済的解雇に固有の手続違反の場合は、損害に応じた賠償金を支払うことが必要(L.122-14-4条)。
(2) 11人未満の労働者を有する企業に雇用されている労働者又は勤続2年未満の労働者に対しては、損害に応じた賠償金を支払うことが必要(L.122-14-5条)。

3 差別的な理由による解雇(禁止される解雇)
(1) 解雇についての規制
 出自、習俗、性、家族状況、民族、国籍、人種、政治的意見、労働組合又は共済活動、ストライキ権の通常の行使、宗教的信条、健康状態・障害、年齢等を理由とする解雇は違法、無効(L.122-45条、521-1条)。
(2) 不当解雇等の場合の救済
 差別禁止規定違反の解雇の場合には、労働裁判所における通常の民事手続により、原職復帰の救済がなされる。なお、労働者が復職を求めない場合には金銭賠償の救済も可能である。
※ このほか1(1)イ及びウの解雇が「禁止された解雇」の範疇に含まれ、その救済措置は上記3イと同様となる。
1 個人に起因する理由による解雇
(1) 解雇についての規制
ア 解雇は公正(fair)でなければならない(1996年雇用権利法94条)。
イ(1) 解雇の理由が、(i)被用者の職業的な能力や資格に関するものであること、(ii)被用者の非行に関するものであること、(iii)被用者が剰員(redundancy)であること、(iv)被用者をその仕事に就かせることが法律上の定めに違反すること、(v)その他解雇を正当化できる実質的な理由である場合は解雇が許容される(1996年雇用権利法98条2項)。
 なお、この規定は、(i)1年未満の勤続しか有しない被用者、(ii)定年年齢又は65歳以上の被用者には適用されない(1996年雇用権利法108条、109条)。
※ 解雇の「公正さ」の判断基準は次のとおり(1996年雇用権利法98条)。
(1) 使用者の解雇の理由が(i)から(v)までのいずれかに該当すること
(2) 使用者が取った行動、対応が合理性を有すること
(2) (i)労働組合員資格や組合活動、(ii)妊娠や出産、(iii)安全衛生活動、(iv)制定法上の権利の主張等を理由とする解雇は不公正解雇となる(1996年雇用権利法104条等)。
(2) 解雇予告
ア 被用者は使用者による雇用終了に際して継続雇用期間に応じた予告期間の権利を有する(1996年雇用権利法86条)。
(1) 継続雇用期間が1か月以上2年未満の場合は最低1週間
(2) 継続雇用期間が2年以上12年未満の場合は継続雇用期間1年につき1週間で計算した期間
(3) 継続雇用期間が12年以上の場合は最低12週間
イ アにかかわらず、被用者の重大な雇用契約違反行為があった場合には予告期間は不要。また、予告に代わる金銭支払いが認められている。
(3) 解雇手続
 1年以上の勤続を有する被用者を解雇した使用者は、被用者からの要求があった場合、2週間以内に解雇理由書を交付しなければならない。
(4) 不当解雇等の場合の救済
ア 解雇された被用者が、解雇に不服のあるときは、原則として雇用終了から3か月以内に、雇用審判所に対して当該解雇が不公正であることの申立を行うことが可能(1996年雇用権利法111条)。
イ 雇用審判所は解雇が公正でないと判断したときは、復職命令又は再雇用命令を下すことが可能。申立被用者が復職又は再雇用を望まない場合、使用者がこれを受け入れることが実際的ではない場合には、雇用審判所は補償金(compensation)の裁定を行う(1996年雇用権利法112条等)。
※ 補償金には、被用者の年齢、勤続期間及び週給額に応じて算定される基礎裁定(basic award)、被用者が被った金銭的損害の補償を目的とする補償裁定(compensatory award)等がある(1996年雇用権利法118条)。
ウ 不公正解雇の申立がなされた場合には、雇用審判所から、紛争当事者に対して助言、斡旋、仲裁等を行う助言斡旋仲裁局に申立書の写しが送付され、事前に当事者による自主的解決や斡旋・仲裁による解決が図られる。

2 経済的理由に基づく解雇(制定法上の剰員整理解雇)
(1) 解雇についての規制
ア 解雇は公正でなければならない(1996年雇用権利法94条)。
イ(1) 解雇の理由が、被用者が剰員である場合は解雇が許容される(1996年雇用権利法98条)。
(2) (1)の規定の適用除外や労働組合員資格等を理由とする解雇が不公正解雇であること等については、1(1)イ(1)及び(2)と同じ。
※ 解雇が許容される「被用者が剰員であること」とは、(1)使用者が事業を停止する場合、(2)使用者が事業場を閉鎖する場合、(3)被用者に特定の種類の仕事をしてもらうことが不必要である、又はその必要性が減少する場合である(1996年雇用権利法139条1項)。
※ 剰員整理解雇の合理性の判断基準は次のとおり(雇用審判所指針)。
(1) 被用者の事前通知と協議
(2) 公正な被解雇者選定基準の設定と公正な適用
(3) 解雇回避措置としての代替雇用の申出の有無
(2) 解雇予告
ア 被用者は使用者による雇用終了に際して継続雇用期間に応じた予告期間の権利を有する(1996年雇用権利法86条)。
 予告期間の内容等については、1(2)に同じ。
イ 継続雇用期間が2年以上の被用者には、予告期間が終了する前に、新たな雇用を探すため、又は将来の雇用のために職業訓練を受ける措置を講じるために、就業時間中に合理的な長さの有給のタイム・オフを取得する権利が認められている(1996年雇用権利法52条、53条)。
(3) 解雇手続
ア 労働者代表との協議
(1) 使用者は、90日以内に20名以上の被用者を剰員として解雇することを提案する場合は、(i)整理解雇を回避するための方法、(ii)被解雇者数を減らす方法、(iii)解雇によってもたらされる影響を軽減する方法を含む事項について、適切な労働者代表と協議することが必要(1992年労働組合・労働関係(統合)法188条)。
(2) 特段の事情のない限り、使用者は適切な時期に、少なくとも(i)一事業所で90日以内の20-99人の整理解雇が提案された場合には、最初の解雇が行われる30日前、(ii)一事業所で90日以内の100人以上の整理解雇が提案された場合には、最初の解雇が行われる90日前に協議を開始しなければならない(1992年労働組合・労働関係(統合)法188条1A項)。
(3) 協議を行う際に、使用者は、労働者代表に対して、(i)整理解雇提案の理由、(ii)被解雇予定者の人数と種類、(iii)被解雇者選定の方法等の情報を文書で開示することが必要(1992年労働組合・労働関係(統合)法188条4項)。
イ 剰員を理由とする解雇をするときは、使用者は解雇対象被用者(継続勤務2年以上の者)に対し、その年齢、週給額及び継続雇用年数に応じた剰員整理手当(redundancy payment)を支払うことが必要(1996年雇用権利法135条等)。
 なお、定年年齢又は65歳以上の被用者には、剰員整理手当の支払いは不要(1996年雇用権利法156条)。
ウ 使用者は、整理解雇を提案するときは、ア(2)のスケジュールにより、貿易産業大臣へ書面で届出をすることが必要(1992年労働組合・労働関係(統合)法193条)。
(4) 不当解雇等の場合の救済
 使用者が制定法に従って情報を開示し協議を行わなかった場合には、
ア 労働者代表又は被用者は、最後の解雇の日から3か月以内に雇用審判所に法違反の申立を行うことができる。
イ 雇用審判所は、その申立に正当な理由があると認定する場合には、その旨を宣言し、適切な場合には「保護裁定」(protective award)を下すことができる。

3 雇用契約違反の解雇(違法解雇(1))
(1) 解雇についての規制
 上記の類型にかかわらず、解雇に公正性があったとしても、その手続により違法解雇(wrongful dismissal)とされることがある。具体的には、使用者が、(1)雇用契約又は制定法により義務づけられた解雇予告期間よりも短い予告により被用者を解雇する場合、(2)雇用契約の内容となっている懲戒手続を履行することなく雇用契約を終了させる場合、(3)雇用契約の内容となっている人員選定基準に違反して剰員整理解雇の対象者として選定した場合、(4)雇用契約に拘束される意思のないことを示す違法な契約の履行拒絶を行ったため被用者が雇用契約を終了させた場合、(5)雇用契約上に限定列挙された解雇事由以外の事由により解雇する場合などがある。また、(6)期間の定めのある雇用契約においては、期間中の正当な理由(雇用を継続できない程度の労働者側の重大な契約違反等)のない解雇は違法解雇となる。
(2) 不当解雇等の救済方法
 違法解雇の救済方法は、通常、損害賠償(解雇予告期間の賃金相当額。ただし、解雇の仕方に起因する精神的苦痛や信用の喪失に対する損害賠償請求は認められない。)に限定されている。

4 差別的な理由による解雇(違法解雇(2))
(1) 解雇についての規制
ア 性別又は婚姻上の地位を理由とする解雇は違法(1975年性差別禁止法6条)。
イ 皮膚の色、人種、国籍又は民族的ないし国家的出身を理由とする解雇は違法(1976年人種関係法1条)。
ウ 障害に関する理由で、かつ使用者が正当化できない理由による解雇は違法(1995年障害者差別禁止法4条)。
エ 年齢、宗教を理由とする差別的解雇を禁止する制定法は存しない。
(2) 不当解雇等の場合の救済
ア 差別禁止法違反の解雇の場合には、
(1) 救済の申立てをしようとする労働者は差別行為のあったときから3か月以内に雇用審判所に救済の申立てをしなければならない。
(2) 審判所は、申立に理由があると判断する場合には、(i)被用者の権利の宣言、(ii)補償金の裁定、(iii)差別行為により生じた不利益を除去し、又は減殺する措置の勧告等を行うことができる。
イ 被用者は、機会均等委員会(人種差別の場合は人種平等委員会、障害者差別の場合は障害者権利委員会)に援助を求めることができる。
 委員会は、助言、紛争解決の助力、弁護士の手配等の援助等を行うことができるほか、差別的広告、差別行為等を行うように他人に圧力をかけることを禁ずる宣言的判決等を郡裁判所等に求めることができる。
1 個人に起因する理由による解雇
(1) 解雇についての規制
ア 随意雇用原則により、原則として随意に労働者を解雇することが可能。
イ 随意雇用原則の修正
 解雇を(1)公序違反(使用者からの違法行為要求の拒絶、制定法上の権利を行使を理由とする解雇等)、(2)契約違反(エンプロイー・ハンドブック記載事項違反等)、(3)誠実・公正義務違反、として随意雇用の例外を認める判例法理が展開しつつある。
(2) 解雇予告
 なし
(3) 解雇手続
 なし
(4) 不当解雇等の場合の救済
ア 公序違反の解雇には、不法行為として、逸失賃金その他の逸失給付、精神損害の賠償、さらには懲罰的損害賠償といった救済が与えられる。
イ 契約違反の救済として、逸失賃金その他の逸失給付の賠償は認められるが、被解雇者が他の職を探す合理的努力を怠った場合、賠償額が減額。また、精神損害や懲罰的損害賠償及び復職は認められない。
ウ 誠実・公正義務違反の解雇の救済は、契約違反と同様とする州が多いが、不法行為とする州もある。

2 経済的理由に基づく解雇
(1) 解雇についての規制
 随意雇用原則により、原則として随意に労働者を解雇することが可能。
(2) 解雇予告 
 原則としてはなし。ただし、労働者数100人以上の事業所は、事業所閉鎖又は大量レイオフをする場合には、60日前に交渉代表組合又は各労働者及び行政機関に書面により通知することが必要(労働者調整・再訓練予告法)。
※ 「事業所閉鎖」とは、50人以上の労働者が30日にわたって雇用を喪失する事業所の全部又は一部の閉鎖をいい、「大量レイオフ」とは、(1)全労働者の33%以上かつ50人以上、又は(2)500人以上の労働者が30日にわたって雇用を喪失することをいう。
(3) 解雇手続
 なし
(4) 不当解雇等の場合の救済
 解雇予告義務違反の場合、被用者は民事訴訟によって予告不足日数分の賃金及び諸給付のバック・ペイを請求することができる。

3 差別的な理由による解雇
(1) 解雇についての規制
ア 人種、皮膚の色、宗教、性、出身国を理由とする解雇は不当解雇となる(公民権法第7編)。
イ 40歳以上の年齢を理由とする解雇は不当解雇となる(雇用における年齢差別禁止法)。
ウ 障害者であることを理由とする解雇は不当解雇となる(障害を持つアメリカ人法)。
(2) 不当解雇等の場合の救済
ア 差別禁止の各法違反の不当解雇の場合、
(1) 被用者は雇用機会均等委員会に救済申立をすることができる。
(2) 雇用機会均等委員会による調整・調停が成立しなかった場合には、雇用機会均等委員会あるいは被用者は訴訟を提起することができ、被用者は、(i)原職復帰、(ii)バック・ペイ、(iii)合理的な範囲の弁護士費用等の衡平法上の救済を受けることができる。
イ 人種・皮膚の色、宗教、性、出身国を理由とする不当解雇、障害を理由とする不当解雇の場合で、違反が故意に基づく場合、(1)精神的損害及び直接又は間接的な経済的損害の賠償、(2)懲罰的損害賠償が認められる場合がある。
ウ 年齢を理由とする不当解雇の場合で、違反が故意に基づく場合、付加賠償金の支払いが認められる場合がある。
※ その他、(1)組合活動や組合加入を理由とする解雇、(2)年金受給権発生を阻止するための解雇、(3)ポリグラフ・テスト拒否による解雇、(4)陪審員を務めたことによる解雇、(5)使用者の違法行為を当局に通報したことを理由とする解雇、(6)その他法律上の権利行使や手続利用に対する報復としての解雇は、それぞれ制定法により規制されている。救済は各法の定める手続による。

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