医療事故が話題にのぼらない日がない程、最近、医療事故が相次いでおり、さらには医療事故に起因して医師が逮捕される等、あってはならない事件も起こっております。
医療は生命を守り、健康を保持するためにあるものですが、医療事故の頻発はこのような医療本来の役割に対する国民の期待や信頼を大きく傷つけるものと言わざるを得ません。
厚生労働省としては、医療安全を医療政策の最重要課題のひとつとして位置付け、平成14年4月に関係各界の方々のご意見を基に「医療安全推進総合対策」を策定し、医療安全対策の充実に取り組んできたところであります。また、全国の医療関係者の皆様方におかれましても、医療現場における安全対策の推進に種々御尽力頂いているものと承知しております。
しかし、最近の状況を考えると、この様な状況が続けば国民の医療に対する信頼が大きく揺らぎ、取りかえしのつかぬ事態に陥るのではないかと危惧しております。
そこで、このような事態に陥らないように全国の医療関係者の皆様方におかれましては、医療事故を防止し、国民が安心して医療を受けることが出来るよう、安全管理対策の更なる推進に御尽力をいただきますよう心からお願い申し上げます。
さらに、本日の要請に先立ちまして私から厚生労働省の担当部局に対し、「人」、「施設」、「もの」の三つの柱をたて、新たな取り組みあるいは、対策の強化を進めるよう強く指示したところであります。
具体的には、
「人」に関する対策として、
(1) | 16年度より始まる医師臨床研修必修化に併せて研修医への安全意識の徹底を図るとともに、学術団体等が行う生涯教育に資する講習会の受講を求めるなどの医師・歯科医師の資質向上への取り組みを進め、医師・歯科医師としてのあるべき知識・技術・倫理の徹底を図る。 |
(2) | 刑事事件とならなかった医療過誤等にかかる医師法等上の処分の強化を図るとともに、刑事上、民事上の理由を問わず、処分を受けた医師・歯科医師に対する再教育制度について検討する。 |
(3) | 産業医を十分に活用して医療機関職員に対する安全・衛生管理の徹底を図る |
「施設」に関する対策として、
(1) | 第三者機関による事故事例情報の収集・分析・提供のシステムの整備や、医療機能評価機構等の外部機関による評価の受審促進等を通じて医療機関評価の充実を図る |
(2) | 手術室や集中治療室などのハイリスク施設・部署におけるリスクの要因の明確化を図り、安全ガイドラインの作成を進める |
(3) | 手術の画像記録を患者に提供することによって、手術室の透明性の向上を図る |
(4) | 小児救急システムの一層の充実を図る |
(5) | 地域の中核となっている周産期医療施設のオープン病院化の研究を進める |
(6) | 病院設計における安全思想の導入の強化を図る |
医薬品・医療機器・情報等の「もの」に関する対策として、
(1) | 例えばがんなどのように治療に際して手術、化学療法、放射線療法や骨髄移植等の異なる治療法が出来る場合の、その選択に係るEBMを確立し、それらをガイドラインとしてまとめる |
(2) | 二次元コードやICタグを使った医薬品の管理や名称・外観の類似性評価のためのデーターベースの整備、抗がん剤等の特に慎重な取り扱いを要する薬剤の処方に際する条件を明確化することなどを通じて薬剤等の使用に際する安全管理の徹底を図る |
(3) | オーダリングシステムの活用や点滴の集中管理、患者がバーコードリーダーを所持して薬や検査時に自らが確認を行うなど、ITを活用した安全対策の推進を図る |
(4) | 輸血医療を行う医療機関での責任医師及び輸血療法委員会の設置、特定機能病院等での輸血部門の設置により、輸血の管理強化を図る |
(5) | 新しい技術を用いた安全面でも優れた医療技術の研究開発などを推進していく |
厚生労働省としては、今後とも国民の信頼確保のため全力を傾けて参ります。医療関係者の皆様方の御理解と御協力を重ねてお願いいたします。
平成15年12月24日 厚生労働大臣 坂口 力 |