医療提供体制の改革のビジョン
―「医療提供体制の改革に関する検討チーム」まとめ―


平成15年8月
厚生労働省



医療提供体制の改革のビジョン
―「医療提供体制の改革に関する検討チーム」まとめ―

医療提供体制の改革のビジョンについて

(1)  患者の視点の尊重

 I  医療に関する情報提供の推進
 (1) 医療機関情報の提供の促進
 (2) 診療情報の提供の促進
 (3) 根拠に基づく医療(EBM)の推進

 II  安全で、安心できる医療の再構築

(2)  質が高く効率的な医療の提供

 III  質の高い効率的な医療提供体制の構築
 (1) 医療機関の機能分化・重点化・効率化
 (2) 地域における必要な医療提供の確保
 (3) 医業経営の近代化・効率化

 IV  医療を担う人材の確保と資質の向上
 (1) 医師等の臨床研修の必修化に向けた対応
 (2) 医療を担う人材の確保と資質の向上
 (3) 時代の要請に応じた看護の在り方の見直しと資質の向上

(3)  医療の基盤整備

 V  生命の世紀の医療を支える基盤の整備
 (1) 医療分野における情報化の推進
 (2) メディカル・フロンティア戦略の着実な推進
 (3) ナショナルセンターの整備
 (4) 新しい医療技術の開発促進(テーラーメイド医療、ゲノム創薬、バイオテクノロジー)
 (5) 医薬品・医療機器産業の国際競争力の強化



医療提供体制の改革のビジョンについて

 我が国の医療提供体制は、国民皆保険制度の下で、国民が必要な医療を受けることができるよう整備が進められ、国民の健康を確保するための重要な基盤となっている。一方、少子高齢化の進展、医療技術の進歩、国民の意識の変化等を背景として、より質の高い効率的な医療サービスを提供するための改革を推進することが課題となっている。
 こうした改革を進めるに当たっては、医療提供体制の将来像について国民的な合意を得ていくことが重要である。このため、厚生労働省としては、平成14年3月8日に、厚生労働大臣を本部長とする「医療制度改革推進本部」の下に「医療提供体制の改革に関する検討チーム」(主査:医政局長)を設置して検討を行い、同年8月29日に「医療提供体制の改革の基本的方向」(中間まとめ)を公表したところである。
 その後も、様々な検討会等において、それぞれの課題について検討を進めるとともに、有識者や関係団体からのヒアリングの実施も含めて国民各層の幅広い御意見をいただきながら、更に検討を進め、本年4月30日に、21世紀における医療提供体制の改革のビジョン案として取りまとめ、公表した。さらに、その後、国会等での議論を踏まえ、8月に「医療提供体制の改革のビジョン」としたところである。
 今後の医療提供体制の改革は、患者と医療人との信頼関係の下に、患者が健康に対する自覚を高め、医療への参加意識をもつとともに、予防から治療までのニーズに応じた医療サービスが提供される患者本位の医療を確立することを基本として進めるべきである。具体的には、
 患者の選択のための情報提供の推進
 質の高い医療を効率的に提供するための医療機関の機能分化・連携の推進と地域医療の確保
 医療を担う人材の確保と資質の向上
 生命の世紀の医療を支える基盤の整備
などの分野で改革を進めることが必要であり、以下に、それぞれの分野ごとに将来像のイメージを示し、それに続いて、その実現に向けて当面進めるべき施策を掲げた。
 こうした改革は、法令改正による措置のみならず、公的補助、公的融資、税制による支援、診療報酬等による経済的評価、関係団体との共同した取組などを組み合わせて総合的に推進していくことが必要である。
 このビジョンをもとに、国民各層において更に幅広い議論が行われることを期待するとともに、国民全体で合意できる医療提供体制の将来像の形成を目指して、今後も適宜見直しを行っていくこととしたい。


(1)  患者の視点の尊重

 ≪将来像のイメージ≫
 (医療機関情報の提供の促進)
(ア)  医療機関が自ら情報を積極的に提供するとともに、民間団体、公的機関等もそれぞれの特色に応じた情報を提供することによって、患者・国民が容易に医療に関する多様な情報にアクセスできる。

 (診療情報の提供の促進)
(イ)  患者への治療方針や治療方法の選択肢の説明が適切に行われ、患者と医師・歯科医師の信頼関係の下、患者の選択を尊重した医療が提供される。また、他の医師・歯科医師の意見を求めることや患者相談への対応等、患者の選択や意向が尊重される。患者と薬剤師の信頼関係の下、薬局・病院等において医薬品に関する適切な情報提供や服薬指導が行われる。
(ウ)  患者も自ら健康の保持のための努力を行い、自覚と責任をもって医療に参加する。

 (根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine : EBM)の推進)
(エ)  主要な疾患について、最新の科学的根拠に基づいた診療ガイドラインが整備され、信頼性の高い医療情報データベースによってインターネット等を通じて情報提供を行う。これにより、患者は必要な情報を得た上で治療を受けるとともに、医師等は最適な医療情報を参照しつつ患者と十分に対話をしながら迅速で的確な検査や治療を行うことができる。

 (安全で、安心できる医療の再構築)
(オ)  医療安全対策が徹底され、国民が安心して医療を受けることができる。
(カ)  医療に関して苦情や心配、相談がある場合には、身近な地域で相談・助言等を受けることができる。

≪当面進めるべき施策≫
 I  医療に関する情報提供の推進
 (1) 医療機関情報の提供の促進
  (1)  患者・国民のニーズを踏まえて、医療に関する広告の規制を今後も逐次緩和していく。
  (2)  患者・国民に対して、公的機関がインターネットを通じて客観的・検証可能な事項(広告可能な事項)を積極的に提供するとともに、医療機関、民間団体等も更に特色ある多様な情報の提供を推進する。
  (3)  (財)日本医療機能評価機構の評価について、平成18年度中に2000病院が受審する目標時期を平成16年度中に繰り上げ、国公立病院はもとより、民間病院の積極的な受審を促進する。

 (2) 診療情報の提供の促進
  (1)  診療記録については現在国会で審議されている個人情報保護法案では原則開示とされているが、さらに、診療情報の提供に関する仕組みを整備するとともに、診療記録の標準化や医療提供者に対する教育研修の推進などの環境整備に取り組む。

 (3) 根拠に基づく医療(EBM)の推進
  (1)  平成15年度末までに、頻度が多く情報ニーズの高い優先20疾患(高血圧、糖尿病、脳梗塞、関節リウマチ、胃がんなど)について診療ガイドラインを整備する。
  (2)  平成16年度から、診療ガイドラインの整備された疾患について、医師等の医療従事者及び患者が求める情報を的確に提供するデータベースの運用を開始する。
  (3)  引き続き、データベースの充実、診療ガイドラインの整備を進める。

 II  安全で、安心できる医療の再構築
 (1)  「医療安全推進総合対策」を着実に実施することとし、医療機関等における安全管理体制の確保、医薬品・医療機器等の安全性の向上、医療従事者の教育研修等の充実を行うとともに、平成15年度から都道府県・二次医療圏単位等において医療に関する患者・家族等の苦情や相談への迅速な対応等を行う「医療安全支援センター」の設置を進める。
 (2)  医療に係る事故事例情報を収集分析し、医療現場にフィードバックすることによる医療事故の発生予防・再発防止のシステムを構築する。


(2)  質が高く効率的な医療の提供

 III  質の高い効率的な医療提供体制の構築

 ≪将来像のイメージ≫
 (患者の選択を通じた医療の質の向上と効率化)
(ア)  医療機関は、患者の選択に対応し、医療サービス等の向上を競い、この結果、医療の質の向上と効率化が進む。

 (医療機関の機能分化と連携)
(イ)  患者の病態に応じた医療を提供するために、急性期医療、長期療養など、医療機関の機能分化が進む。また、病院、診療所、薬局、訪問看護ステーション等が十分に連携し、質の高い医療を効率的に提供する。

 (急性期医療の効率化・重点化と質の向上、一般病床の機能分化)
(ウ)  急性期医療は、医療従事者による手厚い治療・サービスの重点・集中化を通じて、早期退院が可能になり、平均在院日数が短縮され、病床数は必要な数に集約化されていく。また、公的病院等の病床数についても、地域の実情に応じて見直しが図られる。
(エ)  このほか、一般病床においては、地域のニーズと医療機関の選択により、難病医療、緩和ケア、リハビリテーション、在宅医療の後方支援などの特定の機能を担うこととなる。

 (長期療養のための療養環境の向上)
(オ)  長期にわたって継続的な医療を必要とする患者に対して、入院医療において、良質な療養環境が提供されるとともに、患者の社会復帰を目指した医療が提供される。

 (かかりつけ医等の役割と在宅医療の充実)
(カ)  かかりつけ医(歯科医、薬剤師)について、地域における第一線の機関として、その普及・定着を図る。
(キ)  今後の需要の拡大に対応し、適切な在宅医療が提供できるよう、医師等との連携の下に、訪問看護ステーションの充実・普及を図る。

 (地域で充足する医療)
(ク)  医療計画に基づき定められた二次医療圏において、地域の特性を生かしつつ、医療機関相互の機能分担と連携を図り、区域内で、がん、脳卒中、心臓病の治療などを含む必要な医療の提供を確保することとし、これに向けて二次医療圏間の医療提供の格差の是正を図る。
(ケ)  地域の実情に応じて新型救命救急センター、小児救急医療体制の整備など更にきめ細かな救急医療体制を二次医療圏ごとに構築し、質的な充実を図る。
(コ)  「へき地保健医療計画」に基づき、都道府県単位の広域的な支援体制を構築し、無医地区の解消を目指し、当該地区住民の医療の確保を図る。
(サ)  二次医療圏において国民が等しく質の高いがん医療を受けることを実現する。
(シ)  精神医療について、入院医療主体から、地域における保健・医療・福祉を中心とした施策への転換を図る。また、精神科救急医療システムの充実、地域精神医療及び福祉の確保並びに病院と地域との中間的な機能を有する社会復帰施設の体系的整備の検討などを図る。
(ス)  公的病院等は、その機能・役割を見直し、二次医療圏ごとに、真に必要とされる特化した医療サービスを効率的に提供するものとし、必要に応じ病床数を削減する。

 (医業経営の近代化・効率化)
(セ)  医療法人について、非営利性・公益性を高めるとともに、経営管理機能の強化や資金調達手段の多様化などによって経営基盤を整備し、医業経営の近代化・効率化を図る。

≪当面進めるべき施策≫

 (1) 医療機関の機能分化・重点化・効率化
(一般病床と療養病床の区分の推進)
  (1)  第四次医療法の改正により、病院の病床は、「一般病床」、「療養病床」、「精神病床」、「感染症病床」、「結核病床」に区分されているが、このうち、「一般病床」と「療養病床」の区分の届出が平成15年8月31日までに適切に行われるよう、それぞれの基準の内容等について、引き続き、周知徹底を図る。
  (2)  病床区分の定着後の基準病床数の算定式の策定や医療計画の記載事項の拡充など、地域の実情を踏まえて医療計画の見直しを進める。

(機能分化の推進)
  (3)  医療法に基づく一般病床と療養病床の区分を基本とし、患者がその病状に応じてふさわしい医療を適切に受けられるという観点から、急性期医療、難病医療、緩和ケア、リハビリテーション、長期療養、在宅医療等といった機能分化を推進する。
  (4)  医療と介護の連携を進め、生活の質(QOL)を重視した医療が提供されるようにする。このため、病院病床の療養病床、介護老人保健施設等への転換を図る医療機関を支援する。
  (5)  医療機関や病床等の機能分化・重点化・効率化を推進するための効果的な方策等について調査・検討する。

(病診連携・地域医療連携等の推進)
  (6)  地域医療支援病院の承認要件の見直しを行い、その普及促進を図ることにより、診療所を支援し、病診連携を推進する。
  (7)  紹介率・逆紹介率の向上を図るとともに、入院診療計画(いわゆるクリティカルパス等)における適切な退院計画の作成、退院に向けた情報提供やサービス調整による、適切な入院医療やリハビリテーション、退院後の療養生活の確保や社会復帰の支援を行うなど、地域における医療連携、医療機関と薬局の連携、更に保健・福祉との連携を推進する。
  (8)  訪問看護を担う人材の育成を支援し、訪問看護ステーションについて、看護技術の質の向上を図るとともに、その普及を促進する。在宅ALS患者について訪問看護等による支援策の充実に努め、安心して療養生活を送ることができる環境整備を図る。

 (2) 地域における必要な医療提供の確保
(救急医療体制等の整備)
  (1)  救急医療体制については、在宅当番医制、病院群輪番制、救命救急センターなど、救急医療体制の計画的かつ体系的な整備を推進する。
  (2)  救命救急センター不足地域における設置促進策として、新型救命救急センターの整備など、救命救急センターの設置促進を図るとともに、二次医療圏ごとの救急医療体制の整備を進める。
  (3)  心肺停止患者の救命率の向上を図るため、救急救命士の業務に関し、平成15年4月から医師の包括的指示の下での除細動の実施を認めた。更に、気管挿管について、平成16年7月を目途に、実習を終了する等の条件を満たした救急救命士に限定的に実施を認める。また、救急救命士が行う薬剤投与について、平成15年中を目途に、有効性と安全性の研究、検証を行い、適切な結論を得る。
  (4)  重症急性呼吸器症候群(SARS)のような新興感染症に対しても迅速かつ的確な対策を講じることにより、感染症の患者に対する良質かつ適切な医療を提供しつつ、そのまん延防止を図ることが重要であることから、都道府県とも連携して、感染症法に基づく感染症指定医療機関の充実を図る。

(小児医療等の充実)
  (5)  ハイリスクの出産に対応できる周産期医療ネットワークの整備や妊娠時期から出産、小児期に至るまでの高度な医療を提供するための小児医療施設、周産期医療施設の整備等を行い、地域における小児医療の確保を図る。
  (6)  原則として二次医療圏を単位とした小児救急医療体制の全国的な整備に取り組む。また、最新の科学的根拠に基づく小児救急の外来診療マニュアルを作成するほか、ITを活用して小児科以外の医師が小児科専門医のコンサルテーションを受けながら診断に当たることができる小児救急医療ネットワークを構築するなど、小児科医の確保が困難な地域等における小児救急医療体制の整備を図る。
  (7)  小児医療、母性医療、父性医療及び関連境界領域を包括する医療である「成育医療」の先導的役割を担う国立成育医療センターの取組を促進する。
  (8)  女性専門外来を設置し、更に、女性の健康問題に係る調査研究などを推進し、女性の患者の視点を尊重しながら地域における必要な医療が充実される体制の確保に取り組む。

(へき地医療の確保)
  (9)  「第9次へき地保健医療計画」に基づき、都道府県単位の「へき地医療支援機構」及び「へき地医療拠点病院」を整備し、二次医療圏を超えた広域的な支援体制を構築し、へき地保健医療対策事業を総合的かつ計画的に推進する。

(がん対策の推進)
  (10)  我が国の死因の第1位であるがんについて、質の高い医療の全国的な均てんを図るため、二次医療圏に1か所程度を目安とした「地域がん診療拠点病院」の整備を民間病院の参画を積極的に促しつつ進め、(a)がん医療に関する情報提供の推進、(b)「地域がん診療拠点病院」を中核とする地域の医療機関との密接な連携体制の構築、(c)地域において、がん診療に従事する医師等に対し、最新の医療技術や知識の習得等を行う研修の機会の提供、(d)これらの取組を通じ、継続的に全人的な質の高いがん医療を地域において提供する体制を確保する。

(精神医療の充実)
  (11)  新「障害者基本計画」及び「障害者プラン」に基づき、身近な地域における適切な医療の確保、精神保健福祉センター等保健サービス提供体制の充実など精神保健・医療施策を着実に実施する。
  (12)  「受入条件が整えば退院可能」な約7万2千人の精神病床入院患者の退院に向け、精神病床の機能分化と地域精神医療及び福祉の確保、病院と地域との中間的な機能を有する社会復帰施設の体系的整備の検討など、社会復帰促進策を計画的に進める。
  (13)  精神科救急医療において、措置入院等の非自発的入院を要する場合から相談への対応のみの場合まで、様々なニーズに対応できるよう、24時間医療相談や初期救急の充実を図る。

(公的病院等の在り方)
  (14)  二次医療圏などに、公的病院等、民間医療機関、行政機関などの関係者の協議の場を設置した上で、医療計画において、二次医療圏における公的病院等の特定の役割や医療機関相互の連携方策等を定め、地域の実情に則して公的病院等の在り方を根本的に見直し、必要に応じ病床数を削減する。
  (15)  公的病院等の会計基準を見直すことにより、民間の病院と比較可能な財務分析を行い、積極的な財務情報の提供を推進し、公的病院等の運営の効率化を促進する。

(終末期医療の在り方)
  (16)  国民の意識調査を行うとともに、本人の意思を尊重した望ましい終末期医療の在り方について幅広い見地から検討し、望ましい終末期医療の促進のためのマニュアルの作成、研修体制の整備など必要な環境整備に努める。

 (3) 医業経営の近代化・効率化
  (1)  特定医療法人・特別医療法人について、要件を緩和して普及を促進する。また、医療機関債の発行や間接金融の充実などの環境整備を進めることにより資金調達の多様化を図るとともに、医療法人の会計システムの見直しを検討するなど、その運営の近代化・効率化を進める。

 IV  医療を担う人材の確保と資質の向上

 ≪将来像のイメージ≫
 (医師等の臨床研修の必修化に向けた対応)
(ア)  医師の臨床研修必修化によって、すべての医師が、医師としての人格をかん養し、将来専門とする分野にかかわらず、患者との良好な信頼関係の下に患者を全人的に診ることができるよう、プライマリ・ケアの基本的な診療能力を身に付けるとともに、臨床研修に専念することができる環境を整備する。
(イ)  歯科医師についても、臨床研修必修化によって、すべての歯科医師が、歯科医師としての人格をかん養し、総合的な歯科診療能力を身に付けるとともに、臨床研修に専念できる環境を整備する。
(ウ)  また、臨床研修終了後も、個々の医師・歯科医師について、その専門性に応じて必要な知識及び技能を修得する機会が確保される。
(エ)  こうした研修等を通じ、医師及び歯科医師の資質の向上が図られ、診療情報の提供による患者との信頼関係の下、安全で安心できる患者本位の医療が提供される。

 (医療を担う人材の確保と資質の向上)
(オ)  医師、歯科医師、薬剤師、看護師等の医療人については、将来の需給を見通しつつ養成を進め、適正な供給数を確保するとともに、地域的な偏在や専門分野間の格差の解消を推進する。
(カ)  医薬品の適正使用や安全対策等を推進するため、薬剤師の資質の向上を図る。
(キ)  看護師等の確保と資質の向上を図り、生活の質を向上し、また、住み慣れた地域の中で療養生活を送りたいとの患者のニーズに応え、的確な看護判断に基づいた適切な看護技術が提供される。

≪当面進めるべき施策≫

 (1) 医師等の臨床研修の必修化に向けた対応
  (1)  医師の臨床研修の必修化については、(a)研修医がアルバイトをせずに研修に専念できる処遇の確保、(b)研修医と研修病院の研修プログラムを効率的にかつ透明性を確保して組み合わせるためのマッチングシステムの整備運営、(c)研修医の診療技術等を評価する方法の確立を図り、平成16年4月からの実施に向けた取組を進める。また、臨床研修病院については、プライマリ・ケアの基本を研修するという観点から、その指定要件を大幅に緩和したところであり、その普及を進める。さらに、新制度の実施によって地域医療の確保に支障が生ずることのないよう、文部科学省と連携しつつ必要な対策を進める。
  (2)  歯科医師の臨床研修については、平成18年4月からの必修化に向けて、臨床研修が全人的医療の推進という趣旨を踏まえた真に実効性のあるものとなるよう、(a)研修医が研修すべき事項・目標、(b)研修プログラム、(c)研修修了の認定方法、(d)臨床研修施設の指定基準等(臨床研修施設の確保を含む。)について具体的な検討を進め、平成15年度末に取りまとめる。

 (2) 医療を担う人材の確保と資質の向上
  (1)  医師、歯科医師、保健師・助産師・看護師の国家試験の質の向上を図るため、問題の公募、公募された問題の修正・評価等を通じて良質な問題を蓄積し、平成17年の試験からプール制に移行する。
  (2)  医師国家試験・歯科医師国家試験については、出題内容や出題形式等の改善策を講ずる。また、歯科医師の資質向上の観点から、歯科医師国家試験の合格基準の見直しを行うとともに、技術能力評価試験の在り方を検討する。
  (3)  バイオ・ゲノム等の医療技術の発展や医薬分業の進展等を踏まえ、臨床重視の観点から、薬剤師国家試験の受験資格を6年間の薬剤師養成としての薬学教育を修了した者に与える等の見直しや、実務実習の環境整備など薬剤師の資質の向上に向けた施策の検討を進め、医療の高度化・複雑化に対応できる人材を育成する。
  (4)  医師数については、地域間や専門分野間のアンバランスの是正に向け、必要な施策の検討を進める。また、歯科医師については、既にかなり多くなっている地域があり、更に全国的にも平成17年以降供給が需要を上回ることが見込まれており、需給調整を図る観点から、引き続き、文部科学省の協力を得て、大学歯学部等の入学定員の削減等を実施する。さらに、医師及び歯科医師の資質の向上を図るため、国家試験の改善を行い、その結果として、医師数及び歯科医師数の適正化に資する。
  (5)  このほか、医療を担う人材の確保及び資質の向上に取り組む。

 (3) 時代の要請に応じた看護の在り方の見直しと資質の向上
  (1)  高齢化の進展等による需要の増大等に対応し、看護職員確保対策を総合的に推進する。
  (2)  看護師等の卒前の技術教育が適切に推進できるよう、臨地実習の実施のための条件整備を行い、その定着を図る。また、医療の高度化・専門化に対応するため、特定の領域について、より高度な知識・技術を有する看護師(専門看護師等)の養成強化や普及を推進する。さらに、看護基礎教育の内容を充実するとともに、大学教育の拡大など、看護基礎教育の期間の延長や卒後の臨床研修の在り方について制度化を含めた検討を行う。
  (3)  准看護師が看護師になるための途を拡大するため、平成16年度から、看護師養成所2年課程通信制を創設するとともに、その普及を図る。


(3)  医療の基盤整備

 ≪将来像のイメージ≫
 (医療分野における情報化の推進)
(ア)  電子カルテ等院内情報システムの整備が進むことにより、患者は、利便性が向上し、画面を見ながら分かりやすい説明を受けることができる。また、院内情報システムが事故防止に活用される。
(イ)  安全に情報を伝送するためのセキュリティや個人情報保護の基盤を確保した上で、電子化された患者情報を共有するネットワークによる医療機関等の連携が進み、検査、投薬の重複防止などが図られるとともに、将来は、患者本人の同意の下で、生涯を通じた健康・医療情報の利用を可能とする環境の実現を目指す。
(ウ)  診療報酬の請求の電子化を進め、医療機関等、審査支払機関及び保険者が連携したシステムを構築することにより業務の効率化を図る。

 (メディカル・フロンティア戦略の着実な推進等)
(エ)  国民にとって健康上の大きな不安要因である、がん、心筋梗塞及び脳卒中(我が国の三大死因)、痴呆及び骨折(要介護状態の大きな要因)について、治療成績を向上させ、国民が安心できる医療を実現する。
(オ)  がん、循環器病などの高度、専門的な国立医療機関であるナショナルセンターは、我が国の医療政策上の課題に適切に対応し、その先導的役割を果たす。

 (新しい医療技術の開発促進)
(カ)  患者にとって、より有効で副作用の少ない医薬品、より非・低侵襲的で効率的な医薬品・医療機器が提供される体制を整備する。

 (医薬品・医療機器産業の国際競争力の強化)
(キ)  質の高い、安心・安全な医薬品・医療機器ができるだけ早く、合理的な 価格で国民に提供できるよう、国際的に魅力ある市場環境の実現と我が国の医薬品・医療機器産業の国際競争力を強化する。

≪当面進めるべき施策≫
 V  生命の世紀の医療を支える基盤の整備
 (1) 医療分野における情報化の推進
  (1)  「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」に沿って、電子カルテ、レセプト電子請求の普及目標の達成に向けて計画的に施策を推進する。
 【参考】
(a)  電子カルテシステム:
2次医療圏に少なくとも1施設(平成16年度まで)
全国の診療所の6割以上、400床以上の病院の6割以上(平成18年度まで)
(b)  レセプト電算処理システム:
全国の病院レセプトの5割以上(平成16年度まで)
全国の病院レセプトの7割以上(平成18年度まで)
  (2)  医療に関する情報連携を進めるための共通の情報基盤となる用語・コードの標準化については、現在まで、病名、手術・処置名等の5分野について完成しており、さらに、症状・診察所見、生理機能検査名・所見、画像検査名・所見等の5分野を平成15年度中に完成させる。
  (3)  標準化された用語・コードの採用を電子カルテシステムの導入に対する補助の要件にするなど、その普及を推進する。
  (4)  電子カルテシステムや遠隔医療など医療のIT化の促進に向けて必要な支援等を講じる。
  (5)  医療に関する情報を電子的に交換するための基盤整備として、セキュリティを確保するため、患者情報にアクセスする資格を認証するシステム(電子認証システム)構築を目指す。
  (6)  医療機関等におけるレセプト電算処理システムの導入について必要な支援を行うとともに、オンライン請求の実用化に向けての基盤を整備する。また、用語・コードについて電子カルテシステムとの整合化を図るとともに、審査支払機関における審査の在り方を見直す。

 (2) メディカル・フロンティア戦略の着実な推進
  (1)  地域医療との連携を重視しつつ、先端的科学の研究を重点的に振興するとともに、その成果を活用し、予防と治療成績の向上を果たすため、平成13年度から17年度までの総合的な戦略である「メディカル・フロンティア戦略」を推進する。
 【メディカル・フロンティア戦略の概要】
 平成17年までに次の戦略を達成する。
がん患者の5年生存率(治ゆ率)の20%改善
心筋梗塞・脳卒中の死亡率の25%低減(年間5万人以上)
自立している高齢者の割合を5年後に90%程度(現在約87%)に高め、疾病等により支援が必要な高齢者を70万人程度減らす。
  (2)  平成15年度において、(a)ゲノム科学やたんぱく質科学を用いた治療技術・新薬等の研究の推進、(b)疾病予防、健康づくり対策の推進、(c)質の高いがん医療の全国的な均てん、心筋梗塞・脳卒中の救急医療体制の整備の推進、(d)総合的な痴呆対策の推進と骨折による寝たきり予防対策の充実などを行う。

 (3) ナショナルセンターの整備
  (1)  国立がんセンター、国立循環器病センター、国立精神・神経センター、国立国際医療センター、国立成育医療センターにおける取組を引き続き推進するとともに、さらに、第6番目のナショナルセンターとして、高齢化の進展に伴い、高齢者に特有な疾病(痴呆、骨粗しょう症など)に関する高度先駆的医療の実施・研究体制を充実するため、平成15年度に国立長寿医療センター(仮称)を設置する。

 (4) 新しい医療技術の開発促進
  (1)  高血圧、糖尿病、がん、痴呆等の患者と健康な者との間のたんぱく質の種類・量を比較し、疾患に特有のたんぱく質を同定し、データベース化することによって、画期的な医薬品開発を支援する。
  (2)  バイオテクノロジー、IT、ナノテクノロジー等の先端技術を効率的に選択して組み合わせ、医学・工学・薬学分野を融合することによって、医療ニーズに合致した新しい医療機器の開発を推進する。
  (3)  国内における治験の空洞化を防ぐため、がんや循環器病などの疾患群ごとに複数の医療機関による大規模治験ネットワークを構築し、医療上必要な医薬品等の開発推進を図る。
  (4)  医薬品開発のための基盤技術研究や研究資源の供給を目的として、集中的、効率的な研究を推進し、研究成果を産業界へ速やかに移転するなどの産学官連携を推進するため、平成16年度に医薬基盤技術研究施設(仮称)を設置する。

 (5) 医薬品・医療機器産業の国際競争力の強化
  (1)  医薬品については、魅力ある創薬環境の実現と産業の国際競争力の強化を目的とした「医薬品産業ビジョン」のアクションプランに基づき、今後5年間をイノベーション促進のための集中期間と位置付け、研究開発の促進、治験環境の充実、後発医薬品市場の育成、大衆薬市場の育成、流通機能の効率化・高度化などの施策を着実に実施する。
  (2)  医療機器についても、医薬品と同様に「医療機器産業ビジョン」に基づき、今後、分野を特定した重点的な支援を行うとともに、研究・開発から販売、使用に至る総合的な施策を着実に実施する。

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