(1) | ILO第45号条約について
・ | ILO第45号条約は、年齢の如何を問わず、女性の鉱山における坑内作業を禁止しており、例外的に、(ア)管理の地位にあって筋肉労働をしない場合、(イ)保健及び福祉の業務に使用される場合、(ウ)実習の課程において坑内で訓練を受けている場合、(エ)筋肉労働の性格を有しない職業のため随時坑内に入る必要がある場合については、入坑を許容している。 |
・ | ILOがこうした条約を制定した意義としては、安全衛生上の理由としているところ。すなわち鉱山の坑内労働は最も困難な労働の1つであり、こうした著しく過酷な条件から女性を保護するために設けているものであるとされ、それが故に筋肉労働を行わない作業に女性が就労することが可能となるよう例外を設けているものとされている。 |
・ | ILO第45号条約については、「鉱山における坑内労働」を対象としており、ずい道工事等鉱山以外の坑内労働については、対象外。 |
・ | 調査対象国中、現在ILO第45号条約を批准している国はフランス、ドイツ、現在批准していない国はイギリス(1988年廃棄)、オランダ(1998年廃棄)、フィンランド(1997年廃棄)、アメリカ(未批准)。 |
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(2) | 諸外国における規制の概況
・ | 鉱山以外の坑内労働について、女性の就業を規制している国はない。 |
・ | 鉱山における坑内労働については、フランス、ドイツは女性の就業を規制。イギリス、オランダ、フィンランド、アメリカは女性一般に係る特別の規制はない。 |
・ | 以前は、鉱山における坑内労働は非常に危険な重労働であり、このような労働は女性には適さないとして、多くの国において、規制が置かれてきた。しかし、国際婦人年以降、雇用における男女の均等な機会の確保の観点から女性保護規制を見直す動きが活発になってきており、イギリス、オランダ、フィンランドを含む各国においてILO第45号条約の廃棄や国内規制の撤廃が行われている。 |
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(3) | 各国における規制の考え方等について
・ | 調査対象国に対し、坑内労働が女性に与える影響等についての科学的知見に関する政府の報告書の有無について照会したところ、いずれの国からも、そのような報告書はない旨の回答、又はその存在を確認できないとの回答であった。
なお、女性が実際に鉱山において坑内労働を行っているアメリカにおいて、アメリカ労働省鉱業安全衛生局の担当者によれば、女性が坑内労働を行うことに関して問題は生じていないとの回答であった。 |
・ | ILO第45号条約を廃棄し、国内規制を改正した国の廃棄・改正の理由は、(ア)雇用における男女の均等な機会の確保の観点から適当ではないこと、(イ)安全技術が向上し、労働環境が改善したこと、(ウ)鉱山の坑内労働において女性が曝されるリスクと男性が曝されるリスクは同様であること、等が挙げられている。
なお、これらの国についても、妊娠中や授乳期の女性労働者を保護するための規制を設けている。 |
・ | 一方、女性の坑内労働の実態について統計を有している国は殆どなく、正確な数値の把握はできなかったが、(ア)イギリス、オランダについては、坑内労働に従事する女性はほとんどいないとのこと、(イ)フィンランドについては、鉱山、採石場、ずい道工事、水道工事等を含む建設業で働く労働者のうち約1割程度が女性であるとのこと、(ウ)アメリカについては、男女別の統計調査はないが、鉱山における坑内労働者の5〜10%は女性であるとのこと。 |
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(4) | 国際機関の動向
【ILOの動向】
・ | ILO第45号条約については、なお84カ国(平成17年3月現在)が批准をしている。
一方、ILO理事会法令問題および国際労働基準委員会(LILS)は、1996年に基準の見直しに係る作業部会報告をとりまとめているところ、同報告では45号条約について、この条約を公式に改定した条約ではないが新たな条約である176号条約(鉱山における安全及び健康に関する条約)を批准することを推進し、あわせて古い条約を廃棄することを勧めている。(地下労働就労禁止は古いアプローチ。新たな基準はリスク評価とリスク管理に照準を合わせ、地上、地下労働を問わず性によらず鉱山労働者に十分な保護・防止策を提供するもの。) |
【EUの動向】
・ | EUにおいては、欧州委員会が、地下の鉱山業における女性の就業を禁止しているオーストリア政府を均等待遇指令(76/207/EEC)に違反しているとして欧州司法裁判所に提訴。 |
・ | オーストリア政府は、坑内労働は運動器官系への恒常的負担を伴い粉じん、窒素酸化物、一酸化炭素が多く、温度湿度ともに高い環境であるところ、女性は平均的に男性より筋力、肺活量、酸素吸入量、血液量、赤血球数が少なく、脊椎が小さく重い荷物を運ぶ際のリスクが大きいこと及びILO第45号条約を批准しておりこれに拘束されることを理由として反論。
欧州司法裁判所は、(ア)均等待遇指令は、女性と男性が同様に曝され、かつ同指令に明示されたような女性特有の保護の必要性とは無関係な危険から女性をより保護すべきとの理由のみにより、特定の種類の雇用から女性を除外することを許容しない、(イ)オーストリア政府は均等待遇指令に違反しないためには、EC設立条約の規定に沿ってILO第45号条約を廃棄することが求められるとしたが、直近の廃棄の機会の時点では、未だ均等待遇指令違反か否かが明確ではなかったため、加盟国として義務を果たさなかったとはいえないとしている。 |
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