1−3 データの分析方法について

データの分析に当たっては、(1)筋力の向上、(2)栄養改善、(3)口腔ケア、(4)閉じこもり予防、(5)フットケアのプログラム別に解析を行った。

各プログラム別に、
(1)要介護度別(要支援、要介護1,要介護2)
(2)年齢別(75歳未満、75歳以上)
(3)基礎疾患別(脳血管疾患の既往のある者、その他の疾患)
での解析を行った。また、「筋力の向上」についてはマシン使用、未使用でそれぞれ解析を行った。

事業参加の前後での測定値の比較については、基本的には「対応のあるt検定」を用いて分析した。なお、以下の項目については「ウィルコクソンの符号付順位和検定」を用いた。
(1)筋力向上については、「要介護度一次判定」、「老研式活動能力指標」
(2)栄養改善については、「要介護度一次判定」
(3)口腔ケアについては、「要介護度一次判定」、「歯肉炎」、「口腔清掃状況」、「口臭」、「むせ」、「食べこぼし」
(4)閉じこもり予防については、「要介護度一次判定」、「外出頻度」、「日中主に過ごす場所」
(5)フットケアについては、「要介護度一次判定」、「身体機能に関する項目」

本分析においては、「改善」、「維持」、「悪化」の分類について、軽微な変化まで「改善」、「悪化」と判定されることがないように、基本的には「維持」に一定の幅を持たせている。このため、事業参加前後での測定値に少しでも変化があれば「改善」または「悪化」としていた「介護予防市町村モデル事業に係る実施集計結果(4月11日とりまとめ)とは異なる集計結果となっている。

分析結果の表中の「統計的有意差の有無」において、「*」は有意な変化があった項目であること、空欄は有意な変化が認められなかった項目であることを示す。また、「事業参加前の測定値」、「事業参加後の測定値」において、順位尺度(どちらが大きいかは分かるものの、どのくらい大きいかは分からないように決められている変数)である要介護度一次判定等については、「−」と表示している。



<参考>

1.検定の方法について

○数値での変化が計測可能であったもの
(例:要介護認定の中間評価項目別得点や歩行速度、握力など)

 →「対応のあるt検定(Paired t Test)」を行った。

<この場合の「対応のあるt検定」とは>
 ・ 同一人物の事業前と事業後の状態の変化に着目して、参加者全体として事業前後の変化について、意味があるものであるか、ないものであるか、統計学的に分析するもの。下図のように、同一人物の測定値が事業参加後にAからA’、BからB’に変化する傾向が統計学的に意味があるかどうかを分析する。
 ・ 一般に、本当は差がないのに、統計学的に差があると判断される危険率が0.05未満であれば、その差(状態の改善等)が意味のあるものと推定される。本分析においても、危険率を0.05未満であれば意味があることとして取り扱っている。

図

 ・以下の式で求められるtの値が、一定の条件設定(サンプル数、誤って差がないとする危険率)に応じた範囲を超えた場合には、有意な差が認められると解釈する。

式



○順位尺度であるため、上記の手法を用いなかったもの
(例:要介護度一次判定、老研式活動能力指標、歯肉炎の有無、外出頻度など)

 →「ウィルコクソンの符号付順位和検定」を行った。

<この場合の「ウィルコクソンの符号付順位和検定」とは>
 ・ 事業前と事業後の変化に参加者全体として一定の傾向(正か負か)があるか、統計学的に分析したもの。具体的には、同一人物の事業前と事業後の状態の差の絶対値が小さかったものから順位付けを行い、参加者全体として事業前と事業後の変化のうち正の変化と負の変化のどちらが大きいか、分析する。順位尺度(どちらが大きいかは分かるもののどのくらい大きいかは分からないように決められている変数:要介護度等)の分析においては、上記の方法よりもこの方法が優れているとされる。

図

 ・ 一般に、本当は差がないのに、統計学的に差があると判断される危険率が0.05未満であれば、その差(状態の改善等)が意味のあるものと推定される。本分析においても、危険率を0.05未満であれば意味があることとして取り扱っている。

(計算方法)
 ・ それぞれの対応する対象毎にその差を計算する。減少は負の数、増加は正の数である。
 ・ 差の絶対値に順位付けを行う。(差が0の場合は無視し、残りの差に順位付けする)
 ・ これらの順位を正と負に分け、絶対値が少ない方の符号に属する順位を足しあわせTとする。
 ・ Tの値に対応した危険率を計算する。



2.「改善」「維持」「悪化」の分類について

老研式活動能力指標については、2点以上の改善を「改善」、2点以下の低下を「悪化」とした。(2点以上とした根拠は、東京都老人総合研究所の藤原佳典氏らが平成15年に日本公衆衛生学会誌(第50巻:第4号p360-367)に発表した論文である。藤原氏らは、地域在宅高齢者の評価においては、老研式活動能力指標の総得点における1点の変動は偶然変動の範囲である可能性があるが、2点以上の変動は偶然変動とはいえない変化であることを示した。)

要介護度一次判定、口腔ケアの「歯肉炎」「口腔清掃状況」「口臭」「食事時のむせ」「食べこぼし」、閉じこもり予防の「外出頻度」「日中主に過ごす場所」、フットケアの「身体機能に関する項目」については、得点が1段階以上改善した場合を「改善」、1段階以上低下した場合を「悪化」とした。

それ以外の項目については、事業参加前後の測定値の差の標準誤差を基準値として、標準誤差を超える改善をしている場合を「改善」、標準誤差を超える低下をしている場合を「悪化」とした。なお、標準誤差はデータのバラツキ・偶然変動の範囲を示す値である。

なお、標準誤差は下記の計算式によって求められる。

式

4月11日にとりまとめられた「介護予防市町村モデル事業に係る実施集計結果」での集計においては、全く同じデータでない場合には「改善」または「悪化」として扱われた。しかし、この方法では、軽微な変化(日々の体調の変動や偶然変動)まで、「改善」または「悪化」と判定されてしまう。

図

そのため、今回の解析では、標準誤差の幅以内での測定値の変化は「維持」として扱い、これを超える変化があった場合に「改善」あるいは「悪化」として扱うことにした。どの程度の変動が偶然によるもので、どの程度の変動なら真の変化であるかを判定する絶対的な基準は存在しない。そこで、今回の解析では、標準誤差の幅を基準とした。

式

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