男女雇用機会均等政策研究会報告書(平成16年6月)(抄)


 ポジティブ・アクションの効果的推進方策

(1) 検討の経緯
   我が国においては、固定的な性別役割分担意識や過去の経緯から処遇面で男女間の事実上の格差が残っているケースが少なくなく、例えばUNDP(国連開発計画)のGEM(ジェンダー・エンパワーメント測定)を見ても女性の活躍の状況は十分とは言えない。登用、職域などの面で男女労働者の間に事実上生じている格差は、女性労働者に対する差別を禁止した規定を遵守するだけでは解消はできないため、男女雇用機会均等法においては第20条で事業主がこのような差の解消を目指して女性の能力発揮の促進についてそれぞれの状況に応じて具体的に取り組む場合に国が相談・援助を行うことができる旨規定している。
 また、近年、明白な差別は是正されつつあるが、個々人の意識や企業内部の意思決定の構造等に起因する男女の処遇差は、一律的な方法で解消するのは困難である。このような問題に対しては個別に規制を加えていくことは実際上不可能であり、また適切とも考えられず、むしろ個々の企業の置かれた状況に応じ、将来に向けた前向きな取組であるポジティブ・アクションによることが適切と考えられる。さらに、ポジティブ・アクションによってこうした状況を改善していくことは、女性がより能力を発揮して働くことを促進し、企業のイメージアップや生産性向上にも資するものであるとの指摘もなされている。
 このように、ポジティブ・アクションについては積極的な推進が望まれるところであるが、平成12年度の女性雇用管理基本調査によれば、ポジティブ・アクションに取り組んでいる企業の割合は、5000人以上規模企業では67.7%であるものの、企業規模計では26.3%と4社に1社という状況である。現在、我が国ではポジティブ・アクションの普及のため、女性の活躍推進協議会の開催、均等推進企業表彰やベンチマーク事業など各種の施策を展開しており、企業側においても積極的な取組がなされ始めるなど、その意義や必要性についての理解は進みつつあると見られるが、なお大きな広がりを持った動きには至っていない状況にある。

(2) 諸外国におけるポジティブ・アクションの取組
   今回調査を行った諸外国において行われている主要な手法を整理すると、以下のとおりである(参照:資料4、5)。
(1)  使用者の自主的取組を尊重する例
 あくまで国がポジティブ・アクションを積極的に奨励していることが前提となるが、自主的取組を尊重していても女性の登用が進んでいる例としてはイギリスが挙げられる。一方、ドイツについては民間についてEUの方針に従い周知を行っているものの、女性の登用はあまり進んでいない。
【イギリスの例】
 政府がパンフレット等を作成し、積極的に推進している。教育制度の改革により女性のキャリア志向が高まったことや企業の両立支援施策の充実が女性の活躍推進に結びついたとの指摘や、オポチュニティ・ナウ(注)に代表される企業トップが女性の活躍推進に積極的に関わる組織の活動が活発であることが女性の登用に結びついたとの指摘がある。オポチュニティ・ナウについては現在イギリスの女性の労働力の4分の1以上をカバーする広がりをもった活動になっているが、その背景としてオポチュニティ・ナウへの参加により売上げ増加など良い影響が出ていることも指摘されている。
 (注)  オポチュニティ・ナウ
 1991年に活動が開始され、2000年にオポチュニティ2000から現在のオポチュニティ・ナウに名称が変更された(加盟数365(2004年3月現在))。調査、ベンチマーキング(毎年会員に対し実施する会員企業各社の女性登用に関する自己診断(部門、産業ごとの比較が可能)のため行う調査)、表彰の実施と、ベストプラクテイス(女性の登用のための優れた取組)の収集・情報提供を行っている。
(2)  政府調達企業への雇用状況報告及び改善のための計画の提出義務付け及び審査を実施する例
【アメリカの例】
 一定数以上の労働者を雇用し、一定規模以上の政府契約を締結する事業主等に、女性の活躍状況に関する統計的分析(労働力構成の分析、目標の設定等)及び計画の実施方法に関する記述を盛り込んだ改善のための計画を毎年作成し、目標を達成することが求められるとともに、必要に応じて、労働省連邦契約遵守局(OFCCP)に提出することが求められる。この手法については、一定の効果が上がっている一方、企業においては毎年実態把握や計画を策定しなければならず、政府も審査体制を整えなければならない等、各々コストを伴っており、企業が計画の審査を意識した結果、数合わせに走る傾向が見られる等の指摘もある。
 なお、アメリカでは政府調達企業以外の一般の企業についてはポジティブ・アクションに取り組むかどうかは自由であるが、女性やマイノリティーの能力発揮促進等の見地から、自発的にこれを実施している企業も少なくない。政府もベストプラクティスの普及に努めており、また、カタリスト(注)のように、専門家集団を擁して啓発や調査研究、人材紹介など企業の自主的な取組を支える民間団体の活動が活発である。
 (注)  カタリスト
 1962年に設立された会員数311のNPO(2004年5月現在)。女性がビジネス・職業において能力を最大限に発揮できるようにすること、企業が女性の才能を十分に活用できるようにすることを目的として、出版、調査研究、助言制度、企業役員会への援助、カタリスト賞の授与などの活動を実施。
(3)  雇用状況報告書又は/及び改善のための計画書の作成を義務付けする例
【フランスの例】
 一定規模以上の民間企業について雇用状況報告の作成、企業委員会等(注)への提出を義務付け、同報告書に基づき、労使の協議により男女職業平等計画を策定することが想定されており、模範的な男女職業平等計画等に対して財政援助を行うこととされている。また、最近になって(2001年)、企業内の義務的年次交渉において、男女間の職業上の平等を取り上げることが義務付けられている。
 助成金はあまり利用されていないものの(政府と男女平等契約を締結し、これに基づき職業訓練等を実施した企業を助成する制度の利用は年3〜4件、中小企業を対象に労使が合意した計画に政府が支援する制度で助成を受けた企業は30社程度など)、女性の登用は進みつつある。
 (注)  企業委員会等
 企業委員会等とは次を指す。
 従業員50人以上の企業が設置を義務付けられている企業委員会
 従業員10人以上の企業で選任を義務付けられている従業員代表
 従業員50人以上の企業に設置される組合代表

【スウェーデンの例】
 10人以上規模の民間企業について男女平等計画(労働条件、採用等の実態把握と取組計画、実施状況を含む)の策定を義務付けているほか、オンブズマンによる審査制度もある。公務部門と比較して、民間部門の女性の登用はあまり進んでいないと受け止められている。

(3) 我が国においてポジティブ・アクションの効果的推進方策を検討するに当たって留意すべきこと
   ポジティブ・アクションを効果的に進める手法を検討するに当たっては、以下の点に留意する必要がある。
(1)  ポジティブ・アクションは、いわゆるクォータ制(割当制)のような手法のイメージも強いが、職業生活と家庭生活の両立支援施策や採用・登用の基準の明確化といった男女双方を対象とする措置など幅広い、多様な手法が含まれていることについて、今一層の理解を進めることが重要であること。
(2)  ポジティブ・アクションには、雇用状況報告の作成や、雇用状況の改善のための計画の策定を義務付ける等の規制的手法もあり、これらによれば、一定の成果が上がることが期待される一方、企業及び行政それぞれにコストを伴うことからどのように費用対効果を上げるかの工夫が必要であること。
(3)  (2)のような規制的な手法によらず奨励的な手法において実効性を持たせるためには、企業へのインセンティブ付与の工夫が必要であり、特に企業トップに必要性を理解させる仕組みの在り方が重要であること。例えば近年、社会的責任投資が注目されてきているが、ポジティブ・アクションを推進することによって、投資家や消費者からの評価が得られることや有能な人材を確保できることは、インセンティブとなるものと考えられる。それを可能とするためには、客観的な基準による認定など外部からの評価が透明化される仕組みやそうした評価をアピールする仕組みが求められると考える。また、諸外国におけるオポチュニテイ・ナウやカタリストのような活発な民間団体の存在もポジティブ・アクションの普及には重要である。
(4)  意欲と能力のある女性の活躍を推進するには、女性のチャレンジを阻む社会制度・慣行の見直しも必要不可欠であり、そのためには、個々の企業の取組だけでなく、様々な分野においてポジティブ・アクションが着実に実施されることも重要であること。

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