05/03/29 第9回医療安全検討会議事例検討作業部会議事録 第9回 事例検討作業部会                        日時 平成17年3月29日(火)                           14:00〜                        場所 厚生労働省専用第15会議室 ○事務局  ただいまから「第9回事例検討作業部会」を開会いたします。委員の皆様方におかれ ましては、お忙しい中をご出席くださいまして誠にありがとうございます。本日は、16 名の出席をもちまして部会を開催いたします。また、本日は議事の関係により、京都大 学医学部附属病院看護部長の嶋森先生に参考人としてご出席いただいております。初め に、医政局総務課長よりご挨拶させていただきます。 ○総務課長(原)  医療安全対策検討会議の事例検討作業部会の開催に当たり一言ご挨拶を申し上げま す。本日は、ご多忙の中ご参集いただきまして誠にありがとうございます。本部会は、 ヒヤリ・ハット事例の分析及び改善方策の検討などを目的として、平成14年7月に設置 され、本日までに8回にわたり精力的に検討を行っていただいております。  また、前回の会議においては、昨年4月には対象医療機関を全医療機関に拡大した結 果、約1,300の医療機関にご参加いただくこととなったこと等を受け、事例の効率的な 収集・分析方法及び情報提供等のあり方についてご議論いただきました。  一方、これまで厚生労働科学研究の研究者のご協力をいただきながら、事例検討作業 部会でご検討いただいてきた事例の分析、評価の作業が、本年4月からは日本医療機能 評価機構において実施されることとなりました。こうしたことから、当部会及びヒュー マンエラー部会のご意見等を踏まえ、今般ヒヤリ・ハット事例の収集方法等について見 直しを行ったところです。  またこれに伴い、ヒヤリ・ハット事例の分析結果を踏まえた安全対策の検討について は事例検討作業部会とヒューマンエラー部会を再編統合し、新たなヒューマンエラー部 会においてご検討いただくことといたしました。これらの詳細につきましては、後ほど 事務局からご説明させていただく予定ですが、当部会の委員の皆様におかれましては、 これまでヒヤリ・ハット事例の分析・評価につきまして多大なるご支援、ご協力をいた だいてまいりましたことに深く感謝を申し上げます。  また武藤委員、嶋森参考人におかれましては、長期にわたり収集された事例の詳細な 分析作業をご担当いただいたことに改めて感謝を申し上げます。  そして、当部会の設置当初から部会長をお務めいただきました橋本部会長には、部会 の運営及び当事業の発展にご尽力いただき誠にありがとうございます。  本日の部会において検討される事例が、厚生労働省として公表する最後の事例となる ため、ご検討いただく分野が5分野と多く、本日は盛り沢山の内容となっております が、委員の皆様には忌憚のないご意見、ご指導をお願いいたします。厚生労働省といた しましても、ヒヤリ・ハット事例の収集事業については、これまで委員の皆様方にご指 導いただいた成果を有効に活用していくとともに、今後約1,300の医療機関からいただ く情報が、有効な安全対策に結び付くよう努力してまいる所存でございます。  最後になりましたが、委員の皆様方には引き続き医療安全対策の推進に一層のご支 援、ご協力を賜りますようお願いいたしますとともに、皆様方のますますのご活躍を祈 念いたしまして、誠に簡単ではございますけれども挨拶とさせていただきます。どうぞ よろしくお願いいたします。 ○事務局  総務課長におきましては、国会用務がありますので、ここで退席させていただきま す。以後の議事の進行を橋本部会長にお願いいたします。 ○橋本部会長  これから議事に入ります。最初に、資料の確認をお願いいたします。 ○事務局  議事次第、出席者名簿、委員の座席表。資料1から資料5まで。データ編になります 別冊1−(1)と(2)、別冊2。参考資料1から参考資料3まであります。  議事の関係上、参考資料2と3についてここでご説明させていただきます。参考資料 2は、2月7日付で各都道府県の衛生主管部(局)長に出された「簡易血糖自己測定器 及び自己血糖検査用グルコースキットの安全対策について」の通知です。こちらは、医 療関係者に対する適正使用情報の周知徹底、並びに当該機器及びキットを使用する患者 に対する十分な教育等について周知徹底を図る目的で出されたものです。これは、使用 法により実際の血糖値より高い値を示す危険性・可能性があるということの注意喚起 と、実際の使用法の徹底ということになっております。  参考資料3は、事例検討作業部会、あるいはヒューマンエラー部会でも何度となく議 題に挙がってまいりました「点滴用キシロカイン10%の取扱いについて」です。本日付 で、各都道府県知事、各政令市市長、各特別区区長宛に発出されたものです。点滴用キ シロカイン10%については、2005年3月末日に販売を中止することとなっております が、今年1月に日本ホスピス緩和ケア協会より、がん性疼痛治療における供給継続の要 望があったことから、本年9月末までの暫定的な措置として、その治療分野に限り、別 途文書をもって医療機関が当該製剤の適切な管理を行う旨確約した場合のみ標記製剤を 供給し、その他の場合は標記製剤の販売を中止することになっております。その旨の通 知です。 ○橋本部会長  議事次第に基づいて進めますが、まず報告事項です。ただいま総務課長からご挨拶が あったように、前回の当部会においてヒヤリ・ハット事例の収集・集計・分析・情報提 供のあり方等についてご意見をいただきました。その後、ヒューマンエラー部会、ある いは医療安全対策検討会議において議論された結果、いまお話にありましたようにヒヤ リ・ハット事例の収集・分析の見直しが行われ、3月1日付で日本医療機能評価機構か ら、それを受けて厚生労働省から通知が出されました。  この見直し等に伴い、医療安全対策検討会議の各部会の体制も変更することとなりま したので、事務局からそれらについての報告をお願いいたします。 ○事務局  資料1から3を順次ご説明いたします。資料1「ヒヤリ・ハット事例収集等事業の収 集体制の変更について」の1頁は、評価機構から3月1日付で出された通知です。こち らは2月4日のヒューマンエラー部会、3月4日に医療安全対策検討会議で議論、ご承 認いただいた内容を踏まえ、日本医療機能評価機構で「ヒヤリ・ハット事例収集事業」 の収集体制の変更を通知するものです。  中身としては1頁の1「記述情報」の収集内容の限定ということで、参加登録医療機 関数が伸びたことにより、報告数が急増しました。それらに対応するためにテーマを絞 り、原則四半期ごとにそのテーマに関連する事例を原則収集する。それ以外全期間を通 じて収集を行うものとして(1)から(3)まで、従来でいう警鐘的事例に関してはその期間 に限らず収集していただく形に変更されました。  2頁で「全般コード化情報」報告施設の定点化及び収集期間の変更となっておりま す。全般コード化情報に関しては、全国の参加登録医療機関から、地域・規模・機能を 勘案して選定した定点医療機関に事例の収集をお願いしております。「定点医療機関」 の選定方法については、3頁にその考え方が載っておりますので、後ほどご覧いただけ ればと思います。  「全般コード化情報」については、本年度は半年ごとの収集になっておりましたが、 定点化することにより、経時的な変化が見られるようになることも踏まえ、多少時間を 短縮し、ポイントを多くするという意味で四半期ごとという形に変更させていただくと いう内容です。4頁は、各都道府県知事宛この旨を厚生労働省から通知した文書です。  資料2は、医療安全対策検討会議の関連部会の再編についてご説明いたします。1頁 は、平成16年度の体制です。医療安全対策検討会議の下に、ヒューマンエラー部会と医 薬品・医療用具等対策部会があり、その下に事例検討作業部会、医薬品関係のワーキン ググループという構成になっていました。  2頁は、平成17年度の体制です。医療安全対策検討会議の下の、ヒューマンエラー 部会、医薬品・医療用具等対策部会は変わりません。事例検討作業部会が、各種作業部 会という形で、そのときどきに応じた個別の重要なテーマについて、どちらかというと ワーキンググループに近いイメージになるかと思いますが、集中的な議論を行い、方針 等を検討していただく、という形で設置する予定です。  初年度のテーマとしては「集中治療室における医療安全管理指針の検討等」という内 容についての検討を行う予定です。  もう1点は、医療安全対策検討会議の下に新たなワーキンググループが設けられてお ります。「医療安全対策検討ワーキンググループ」ということで、内容としては今後の 医療安全対策のあり方についての検討となっております。こちらは、平成18年の第5次 医療法改正に向けた議論が、既に社会保障審議会医療部会で始まっております。その社 会保障審議会医療部会で示された論点の中では、医療安全分野も非常に大きなテーマと なっております。  この医療安全分野については、医療安全対策検討会議で具体的な中身については検討 していただくという整理になっております。この医療安全対策検討会議で実際に議論を していただく際のたたき台といいますか、報告書案を今回新しく設置する医療安全対策 検討ワーキンググループで作成していただくこととしております。  資料3で、ワーキンググループにおける主な検討内容についてご説明いたします。第 1回医療安全対策検討ワーキンググループは3月18日に開催しておりますが、そちらに 提出した資料です。大きく2つ内容が入っています。「主な論点項目と医療安全対策検 討会議の主な意見」。2つ目は「医療安全対策の方向性」です。  1頁の横表は、2月2日に開催された、医療部会で提示された論点です。この表のい ちばん左端に「医療部会における論点」と書いてありますが、これらの論点が医療部会 で示されております。それに基づき、医療安全対策検討会議で主に検討を行うというこ とで整理をされたものが真ん中の欄です。右側が、その医療安全対策検討会議で聞かれ たご意見を取りまとめたものです。  ここでまとめられた論点は、1頁から5頁まであります。これらの論点について、先 ほどご説明いたしましたワーキンググループで具体的な検討を行っていただき、報告書 を作成していただく形になっております。  6頁は、3月24日の医療部会でも報告いたしました、方向性や論点の全体像と個別項 目のペーパーです。今後、こちらの個別の論点につき、議論を進めてまいりまして、6 月頃には報告書を取りまとめ、医療部会に報告をする予定です。  内容については、6頁から8頁が全体の総論ということで、医療安全対策の方向性に ついてです。9頁以降が、各項目個別の論点について、それぞれ整理をしたものです。 こちらの具体的な項目については時間の関係もありますので割愛させていただきます が、6頁だけを簡単に触れさせていただきます。  6頁で「見直しに際しての基本的考え方」ということで、従来「医療安全の確保」、 「医療における信頼の確保」が医療安全推進総合対策の2本の柱になっていましたが、 「医療の質の向上を図る」という視点を重視するということで、今後の医療安全の一層 の向上を図りたいと考えております。  「医療安全対策の柱」として3つ掲げております。医療の安全性の向上、医療事故等 事例の原因究明・分析に基づく再発防止対策の徹底、患者への情報提供・共有と患者参 加の促進となっております。  最後の「新たに取り組むべき主な課題」として、いま述べました3つの柱について個 別の項目がそれぞれ何点かずつ書かれております。この項目について、今後詳細に議論 をしていただく予定になっております。 ○医療安全推進室長  スケジュールについて補足させていただきます。医療安全対策検討会議のワーキング グループでは、5月中旬ごろを目処に、中間的な報告書案を作成することとしておりま す。その後、医療安全対策検討会議に、6月ぐらいにお諮りし、その検討会議の報告書 として、今後の医療安全対策について医療部会に提出していこうというスケジュールに なっております。 ○橋本部会長  ただいまの説明は、要するに変わっていくというところ、今後の力点として医療の質 ということを言い始めたということです。ご質問がありましたらお願いいたします。                  (発言なし) ○橋本部会長  またありましたら後ほどお聞きすることとし、先に進みます。1番目の議事は、ヒヤ リ・ハット事例収集事業の第12回と第13回の集計結果についてです。全般コード化情 報、記述情報の集計及び分析についてのうち、第12回、第13回集計結果の全体概要。そ れから、第12回、第13回全般コード化情報の分析について事務局から説明をお願いいた します。 ○事務局  資料4で「ヒヤリ・ハット事例収集事業第12、13回集計結果」全般についての概要を ご説明いたします。1頁は、全般コード化情報です。平成16年4月1日から平成16年9 月30日までの6カ月間に発生した事例です。報告期間はこちらに記載しているとおりで す。記述情報に関しては、当該ヒヤリ・ハット事例が発生した時期にかかわらず報告可 能としておりまして、第12回の報告期間が5月25日から8月24日まで。第13回の報告期 間が8月25日から11月23日までとなっております。  参加登録施設及び報告施設数ですが、報告対象医療機関が全国に拡大したことによ り、多くの医療機関の参加登録があり、報告数も急増しております。数は下に記載して いるとおりですが、登録施設数として、第12回は1,235施設、第13回が1,259施設です。 報告施設数は、第12回が506施設、第13回は445施設となっております。情報別報告数 は、下の表に掲げられているとおりです。全般コード化情報が8万8,601事例、記述情 報は第12回が1万4,000余(1万6,000余の誤り)、第13回が1万1,000余(1万3,000余 の誤り)になっております。  2頁では、全般コード化情報の分析についての報告では、報告事例総数は8万8,601 件です。個別の報告内容については4頁以降、それから別冊資料1−(1)の1頁からが その具体的なデータとなっております。全般的に今回の報告に関しても、前回どおりと いいますか、いままでどおりの傾向です。特に大きな変動は見られておりません。例え ば、男性が若干多いという傾向、あるいはヒヤリ・ハットは、経験年数の浅い人に多い といった傾向は、前回、前々回等と変わっておりません。  分析結果の最初にある、発生月に関しても6月、7月にピークがあるということで、 新人が慣れてきたころに発生のピークが認められるということも、前回平成14年の状況 についてご報告いたしましたとおりです。後ほど、平成15年の状況についてもご報告い たしますが、同じような傾向になっております。個別の内容としては、特に大きな違い はありませんので、コード化情報については、後ほど平成15年の報告で一括してご報告 させていただきます。 ○橋本部会長  第12回、第13回の中身をひとつひとつ見るよりも、平成15年1年分のものを見たほう がより説明がよくわかるということのようです。次に、記述情報のうち「医薬品・医療 用具・諸物品情報の分析について」説明をお願いいたします。 ○事務局  資料4の37頁に、第12回の分析についてご説明します。集計期間は、平成16年5月25 日から8月24日。総事例数は416件、そのうち医薬品関連が319件、医療用具が89件、諸 物品が8件です。なお、前回の総事例件数が41件になっておりますが、31件の間違いで すのでご訂正ください。  医薬品関連情報の要因別件数は、今回も名称類似及び規格違い、勘違い等が多く報告 されています。これは、毎回同じぐらいです。今回は、その他の項目が163件と多いの ですが、これは現在こちらで指定している要因に入らないものが多かったものです。具 体的には、管理不十分などをこちらの方に入れておりますので数が多くなっておりま す。  38頁の医療用具に関してですが、これも毎回同じなのですが、管理不十分というのが 報告事例数89件のうち55件と突出しております。諸物品に関する報告については8例で す。  事例のいくつかを簡単にご説明いたします。別冊1−(2)の資料の162頁で事例の25 番、デパケンとフェニトインの事例です。これは、カルテに記載が十分されていなかっ たために、退院時に間違ったものを交付してしまった事例です。入院のカルテ、外来の カルテの区分等を明確にする必要があることと、取扱い方法について徹底する必要があ ると考えております。  169頁で71番の事例です。これはミカルディスとミグリスティンの取り違いの事例で す。これは医師の指示が口頭指示であったために、聞きとった看護師が勘違いしてしま ったものです。なお、処方せんには看護師が代筆しているということで、このことも問 題ではないかと指摘されております。  186頁で177番の事例です。こちらは常備薬の中のメイロンの20ccのところに、20%T Z(ブドウ糖)注20mlが間違って入っていたことによる取り違え事例です。アンプルサ イズが同じということで、たぶん返却等のときに間違えたことが疑われています。な お、医療品の充填や返却時のときには十分注意する必要があるのではないかと考えてお ります。  次に、用具の事例を若干ご紹介いたします。212頁はダブルルーメンの接続部、ルア ーロックだと思われる部分が外れていた事例です。ただ、報告されている事例には、 「赤い接続部分」とあるのですが、現品をメーカーから取り寄せて確認いたしました が、これがどこの部所かというのがはっきりとは確認できませんでした。ただ全体的な 概要からすると、たぶんこのダブルルーメン部分が外れたのではないかと考えておりま す。ルアーロックの場合、確かにロックということで外れにくいイメージがあるのです が、絶対に外れないものではないということから注意を要するものと考えております。  215頁の21番の事例です。電気メスの使用中に、心電図モニターの波形が出なくなっ たものです。電気メスのような、高周波出力を伴うものについては、往々にして他の電 子機器に影響を及ぼすというのは皆様ご存じのことだと思います。報告書を見る限り、 当該医療機関では、そこまで配慮が至らなかったという事例です。こちらについては、 メーカー等々を通し、もう一度そういう情報を提供する必要もあるのかと考えておりま す。  219頁の33番の事例です。シリンジポンプによるインシデント事例です。この報告を 読む限り、押し子が外れた際に警報等が鳴らなかったとありますが、そもそもこの製品 は押しこの外れに対応する警報機能を持っていなかったという事例です。34番の事例 も、同じように警報の機能を有していないものの事例です。  そのほかにも、今回の報告では耐用年数がかなり経ってしまっているものによるトラ ブル等の報告がありますので、古い機器に関して今後どうしていくのか、ということに ついて検討が必要と考えております。 ○橋本部会長  続いて、記述情報の分析について説明してください。 ○事務局  資料4の12頁で「第12回の記述情報の分析について」ご報告いたします。記述情報の 収集の分析の概要については、後ほど12頁、13頁をご覧ください。15頁の「分析結果及 び考察」ですが、収集された記述情報の概要です。3カ月間の報告期間で収集された件 数は1万6,878件と、平成16年4月より全医療機関に対象を広げたことにより、先ほど ご報告したように、参加登録医療施設が1,235施設に増加したことから、また報告施設 数も506施設に増加したことから、従来の約9倍の事例が収集されました。  今回の報告期間に収集された1万6,878件のうち、有効事例は1万4,418件でした。そ の記述については、情報量・内容ともに充実した事例が増加しており、このことはヒヤ リ・ハット事例報告の組織的な定着・浸透が窺えると考えられます。  発生件数の割合については、以下の表のとおりですが、従来どおり与薬の点滴・注 射、輸血に関する事例、内服・外用、麻薬に関する事例を合わせて4割強という状況に なっており、それに続いて転倒・転落が18.6%、チューブ・カテーテル類に関する事例 が11%と続いています。  今回は、検査にかかわる事例も多く報告されております。その内容は、検査の指示出 しの問題や、それを実施する過程でかかわる医療者の間違い等の問題により、患者が検 査を受けることができなくなった事例等や、血糖測定を忘れてインスリンが未実施にな った事例等が報告されております。  これらのほかにその他と分類した中には、無断離院・離棟、安静度が守られない事 例、職員の対応・接遇に関連した事例などが含まれていました。また、今回の報告事例 内には、カルテの入力ミスや、リハビリ中に理学療法士の指示が守れなかった事例、ド アに挟まってしまった事例等もありました。さらに、カルテの電子化が進む中、収集さ れる事例の内容にも新たな事例が含まれる等変化が見られております。  (2)今回のテーマに関する事例についてですが、15頁の下の「与薬(内服・外用、 麻酔)」についてはここに書かれているとおりの理由で、今回のテーマとしておりま す。16頁では、そのほかに「転倒・転落、抑制」及び「検査」、「食事・栄養」、「機 器及び機器操作」に関してのテーマという5つの分野に分けて、これらの理由により分 析していただきました。  記述情報の記載についても考察していただいておりますが、参加登録施設数、報告施 設数ともに増加し、より多くの事例に基づき分析を行うことで、具体的で有効な結果を 求めることができるようになってはおりますが、分析に当たり背景要因を推測しなけれ ばならない事例もまだ若干見受けられます。具体的な内容について、さらに個別の情報 が記述されていると、より深い分析が行えるのではないかということが書かれておりま す。  別冊の1−(1)の58頁からが、第12回で収集された事例の中から、26事例を抽出して 詳細な分析を専門家に行っていただき、専門家のコメントを付した事例になっておりま す。59頁からが目次になっております。先ほど申しました5つの分野に分けて、それぞ れ与薬については事例1024から始まる、非定時薬の与薬ミス、処方せんの記載の取り違 えによりメキシチールを指示の2倍量を与薬した事例、医師のオーダーミスで処方され た薬剤がそのまま与薬された事例等が報告されております。  60頁には、検査の事例が6事例、続いて食事・栄養に関する事例が8事例、機器操作 に関する事例が4事例ということで、転倒・転落以外の4つの分野の事例について26事 例を詳細に分析しております。第12回の概要は以上です。  資料4の41頁は「第13回の記述情報の分析について」です。概要については後ほどご 覧ください。44頁で全体の概要です。第13回で収集された件数は1万3,088件です。平 成16年4月より対象が全医療機関に拡大したことに伴い、1万3,088件ということで、 第12回より若干減っておりますが報告数が増えております。そのうち1万1,706件が有 効な報告です。その内容については以下の表のとおりで、割合については前回とおおよ そ同じような割合で経過しております。  その他の分類の中には、前回同様、無断離院・離棟等が含まれておりましたが、その ほかに患者の記録や書類が違う患者のカルテの中に挟まってしまっていた事例、看護師 1名で同時に患者2名を手術室へ入室させた事例、薬品庫の鍵を紛失した事例等も報告 されております。中でも、いままでに起こった医療事故の要因が繰り返されているよう な事例があり、教訓が活かされるような方策の検討も必要であると分析されておりま す。  これまでですと、全事例について毎回資料にさせていただいていましたが、このよう に報告数が9倍、10倍量ということになりましたことから、資料も膨大になるために今 回は全事例を資料としてお配りすることは省略させていただきました。後日、厚生労働 省のホームページにおいて掲載する予定でおりますので、そちらをご覧いただければと 思います。 ○橋本部会長  紙にすると相当な厚さになって持てないのではないかという話です。ホームページで 見られるかというと、同じような意味でなかなか難しいかもしれません。それだけ多く 集まったということだと思います。  当部会では、これまで注射・点滴に関する事例、その次がチューブ・カテーテルに関 する事例ということで、テーマを決めて取り上げてきました。今回は最後ですので、残 る5テーマを一挙に行います。内服薬、検査、食事、医療機器、転倒・転落について分 析していただきます。  前回までは、それぞれの方に来ていただきましたが、今回は5つのテーマについてや ってしまうので、責任者であります嶋森参考人においでいただきまして、報告していた だくことになりました。お願いいたします。 ○嶋森参考人  資料4の16頁の記録に沿って概略をお話します。今回は、与薬の中でも内服薬を取り 上げました。これも、与薬の一連のプロセスに関して分析することにしました。与薬は ご存じのとおり、医師・薬剤師・看護師等が関わるいろいろな段階でミスが生じるわけ です。最終段階で、看護師の確認ミスということに帰結している事例がたくさんありま したので、もう少しシステムの問題として捉えるということで分析いたしました。  17頁が、与薬業務プロセスから見たエラーの発生状況と要因です。医師の指示の段階 では、緊急の指示や中止ということがタイムリーに伝わっておりません。これは、医師 の指示の出し方がルール化されておらず、同じ病院の中でも、出し方が違ったために伝 わらないという状況があります。電子カルテだと情報は現場にまで届きますが、電子カ ルテの指示を必ずしも看護師が常に見ているわけではなく、タイミングよく指示が伝わ っていかないという問題があります。  2つの診療科を同時に併診している患者の場合に、それぞれの診療科の医師の指示が 調整されていないことがあります。これは、情報の一元化がされていない問題です。特 に定時の内服薬ですが、医師が初めの1週間処方した後、次の処方を出さずに看護師の チェックに頼りきっている様子がうかがわれます。  また、DPCが導入されて以来、外来や他の病院で処方された持参薬を、入院後も継 続して服用するケースが多くなっており、これによる問題が生じております。採用薬品 が病院によって違っており、同じ薬品を違う名前で処方されていたため、外から持参し た薬剤と入院した病院で処方したものと両方服用してしまった事例があります。このよ うな持参薬の管理がもう少し適切に行われる必要があると考えられます。  指示の出し方の段階では、相変わらず口頭の指示による間違いが生じています。医師 も口頭で指示していますし、看護師もこれを安易に受ける。また、受ける場合のルール が決まっていない。例えば、指示を受けたときにメモを取ってそれを読んで確認をす る、という手順が決まっていないために言われたことをそのままオウム返しに言って、 その後のメモを取るときに間違ってしまうことがあります。従って、指示の受け方のル ール化が必要だと考えられます。  ステロイド剤、ワーファリン剤、麻薬というような、患者の状態によって量や時間の 変更が必要な薬の間違いもかなり起きております。これらの、システムが十分整ってい ない。電子カルテでは、医師の指示が最後の作業現場まで間違いなく届くことになりま すが、導入されていない現場では、指示の転記などが多く、この転記の際の間違いがた くさんあります。  化学療法剤も、患者の状態によって副作用を抑制する薬剤などを使うわけですが、患 者の状態に合わせたプロトコールがきちんと変更されないために、業務のプロセス上の ミスが起きるという状況があります。  与薬の準備の段階では、内服薬の場合は点滴よりももっと頻回に中断が起きていま す。与薬業務が、ほかの業務の合間に行われているという状況で、ヒューマンエラーが 起きています。また、冷所保存等、薬の性質によって保存場所等を変える必要がありま すが、それが投与忘れにつながるということもあります。  先週、米国のペンシルバニア大学病院へ行ってきたのですが、そこでは内服薬のボッ クスにも鍵がかかっていて、薬剤を投与できる状態にセットしたものが病棟に上がって くるようになっていました。日本ではこういうことが行われないために、準備段階での ヒューマンエラーが起きています。  与薬の段階でも、他の仕事の合間に投与する形になっていますので、多重業務と割り 込みのために勘違いや間違いが起きています。特に多いのは、「1日3回食後」という 一般的な服用方法と違う、食前、食間、就寝前、疼痛時、検査前等に服用すると言うよ うな場合にエラーが多くなっています。  与薬を受ける患者の側にも要因があります。医療者側の判断の問題だと思いますけれ ども、自己管理できると判断してご本人に管理していただくのだと思いますが、食後薬 を食前に一緒に服用してしまうということがあります。これについては、自己管理が適 切にできるかどうかの判断を、医療者側が適切に行う必要があるだろうということで す。  与薬後の観察、管理です。投薬業務が他の業務の合間に行うと言うような状況になっ ていますので、渡すだけで確認がなされていません。内服するように渡した薬が、次の 与薬に行ったら残っていたということがあります。適切に服用できていないということ ですから、薬包紙や薬杯を用い、患者の状態に合わせて内服までを支援する必要があり ます。しかし、それまでの余裕がないという状況が、そういうミスを生じさせていま す。  麻薬に関するヒヤリ・ハットは、先ほど申し上げましたように、座薬があったり、内 服薬や注射があったりと剤型の違うものがありますので、同じ薬効の薬が二重にいった りしています。また、時間の間違いと言うこともあります。これについては、使用法の 徹底など院内でルール化することや、患者に合わせた投与方法について、指示のされた 方法を書いたものを作り(ワークシートなど)、それを見ながらやるというルールも作 る必要があると思われます。麻薬については法的な問題もありますので、この管理はも う少しきちんと徹底される必要があるのではないかと思われます。  内服薬に関するまとめとして、1つは持参薬の問題です。持参薬を現場に任せない で、薬剤師が介入するなどをルール化し、二重に投与されないようにする。持参薬は、 自宅でどのような保存をされていたかという問題もありますので、入院した病院で内服 させるかどうかについての適切な判断も必要と思われます。  薬剤を患者が自己管理することについても、医療者側が適切に判断して、自己管理で きる人にしていただくことが必要だと思います。また、どういう患者に自己管理を任せ るかについても、基準を定めておく必要があると考えます。  内服薬も、血糖降下剤などのことを考えると、生命に非常に大きな影響を与えること もありますので、投薬業務に専念できるナースを置くなどの仕組みづくりも必要だと考 えます。また、投薬業務プロセスの管理も必要です。  薬剤業務には、薬剤師の関与も是非必要だと思いますし、次の医学教育の見直しとい うところでは、処方の書き方や指示の出し方等について、医師への教育も必要だろうと 思われます。薬の処方の場合、ある量の薬を「×3」と書いた場合、かかれた量の薬を 3回投与することになり、同じ量の薬について「3×」と書くと3つに分けて投与する、 ということが一般に誰でもわかっているように認識されています。しかし、これは間違 いやすいというころから、「3×」というのは使わない病院が出てきているようです。 こういうことのルール化が必要ではないかと思います。  電子カルテを導入している病院でも、医師から緊急の指示が出された場合に、ナース の持参しているPHSに合図が届くなどの仕組みになっていなければ、医師の指示は見 逃されてしまいます。例えば、緊急時は医師から指示を出したという連絡が行くとか、 病棟のクラークが定期的に見るとかのルールを決めて緊急の指示を見逃さないようにシ ステムを検討する必要があります。  転倒・転落に関する事例ですが、これについては、昨年1回分析していますので、あ まり細かいことは申し上げませんが、特に転倒・転落の多い場面について報告します。 小児の場合は、転倒より転落事例が多く見られます。母親が側についていても転落して いる事例があります。母親に、必ず柵を上げておくように伝えていても、そばにいるか らと安心して、柵を下げたままにしていたところ、誰かに呼びかけられて横を向いた途 端に転落するという事例です。これについては、医療者だけではなく、家族や周囲の人 にも手順を指導して、確実にそれを実施していただくような支援が必要だろうと思いま す。  精神障害者の転倒・転落も精神病院や精神科病棟で多く見られています。薬の作用も あり、治療上やむを得ないこともあると思います。最近は、副作用の少ない向精神薬の 開発も行われているようですから、薬の選択も検討していただくことも必要かもしれま せん。また、薬剤の副作用が強い患者もありますから、転倒しにくい環境と転倒しても 障害が生じないような環境の整備が必要だと思います。  高齢者は、時間や場所を問わずどこででも転倒しています。これは、病院外でも起こ ることだと思われます。しかし、病院で起きた場合は事故になってしまいます。これを 防ぐには、可能な限り筋力を保持していくようなリハビリを行うこと、トイレに手すり をつける等の環境の調整が必要です。また、離床センサーのように、本人が転倒の危険 を理解しないで思わず起きあがった時には、医療者側がきちんとキャッチできるようす るための道具が必要ではないかと考えられます。その他、転倒の発生頻度の高い所は相 変わらずトイレですから、トイレの構造等の改善が必要だと思われます。  もう1つは「転んだら大変ですから看護師を呼んでください」と患者に伝えておいて も、看護師や医師は忙しいだろうと思って呼ばないことがあります。これは医療者側の お願いとして、倒れて骨折したらもっと大変なことになるので、患者にきちんと伝え、 そういう教育をすることが必要ではないかと考えられました。  次に、検査に関連した事例ですが、これにはかなり大きな問題があることがわかりま した。検査の際の患者確認、検査時の処置・投薬、食事、検査部位、検査法、検査機器 の保守・点検、血糖関連(インスリン)の問題等に分けてみました。つまり、こういう ことに問題が多かったということです。  検査においても患者誤認が起きています。リストバントを付けているにもかかわら ず、確認しないために起きていました。医療の現場ではどこでも、患者の名前を呼ぶこ ととリストバンド、もしくはIDカードを見るというように、2つ以上の独立した方法 で氏名を確認することを原則とすべきですが、これが行われていません。これを検査技 師も含めて徹底する必要があると思われます。  インスリン治療中の患者の食事をどうするかについても問題が起きています。この要 因として、医師の指示が不明瞭であったり、看護師が治療と食事の関係を十分理解して いないために指示が伝わらないことがありますから、業務マニュアルの徹底と、決めら れた手順をきちんと守ることを徹底させる必要があると思います。  検査機器の保守・点検と操作の問題もあります。侵襲性の高い検査ではありませんで したが、いざ検査しようとしたところ検査機器が不具合で検査ができなかった事例があ ります。心臓カテーテル検査等の侵襲性の高い検査だと大変なことになりますから、事 前の点検と整備は重要だと考えます。それをシステムとして作り上げておくことが必要 です。業者による保守点検に依存しないで、日常点検を実施する仕組を作っておくこと です。この点については、厚生労働省から既に通知も出ておりますので、これらに従っ て適切にやっていただければいいのではないかと思われます。  複数の検査が重なる場合に、先にやらなければいけない検査と、後の方が良い検査が あります。造影剤などを使った後では出来ない検査もあります。順番を誤ったためにで きなかった事例がありました。1つの検査が終わらないと、次の検査が始まらないよう に、電子化して順序性がきちんとできる様な仕組みにすることです。報告書に書いてあ る「患者ラリーシート」というのは、「あなたはこのような順番で検査を行います」と いうようなことを書いたシートで、このようなシートを患者も医療者側も持っていて、 順番に検査を受けられるような仕組にしておく必要があるのではないかと思います。  また、放射線照射の事例で、部位の取り違えが起きそうだったという事例がありまし た。放射線検査の部位間違いは、一見なんでもないようですが、余分な放射線を浴びる という問題がありますし、誤診や手術部位の間違いにつながる危険性があります。先ほ どと同様に確認方法の徹底、その重要性を本人や家族にもきちんとわかっておいていた だく、そういうことの手順をきちんと作っておく必要があるのではないかと思います。  検査方法の適切性ですが、検査結果に影響を及ぼす検体の状況の確認を十分するとい うことです。凝固していた血液検体を検査して、データを見た医師から問合せが来てわ かったという事例があります。検査技師は凝固に気づいていたのですが、そういう情報 を付けないままデータを出したという事例です。医師が気づいたから良かったのです が、気がつかなかったら重大な問題に発展する可能性があった事例でした。  試薬の劣化、検体を採る採り方の問題、採った後の検体の保存の問題が検査精度を下 げるという問題があります。この分析チームには、検査技師が入っていて、そういうこ とをきちんと分析していただきました。対策の下の3行に書いてありますが、例えば 「血液検査であれば、臨床検査技師が、静脈の選択から検査後の報告書提出までの一連 の作業を行うことで、検体と機器の精度の双方を確認し、ヒヤリ・ハットを未然に防止 することが望ましい」のではないかとチームでは分析しております。  その他の事例については、検査の前にどうしても中止しておかなければ危ない、血液 凝固阻止剤等を継続したままでいたために検査が中止になる事例もあります。これも、 先ほど申し上げたいくつかの事例と同じように、手順化しておく、チェックリストを作 っておく等の対策が必要だと思われます。  次は、食事・栄養に関連する事例です。これも、初めてまとめて分析した分野で、大 きな問題があることがわかりました。エラーの内容と発生要因のところで「経管栄養」 については、経管栄養のチューブの入れ間違いというのは今回、ヒヤリ・ハットですか ら当然出てきていません。しかし、そういうことが起こるかもしれないと考えられる事 例は報告されています。経管栄養の注入速度や、経口摂取をさせてしまった事例がある など、以前、川村委員が分析された事例とは異なった事例もいくつか出てきています。 患者誤認や、時刻の間違いという検査や内服薬と同じような間違いが生じております。  経管栄養以外の食事関連では、入・退院とか外泊、検査など、患者に何らかのイベン トがあったときに、それに応じて食事が中止にならなかったり、別の食事が出たりとい う間違いを生じています。調理段階では、アレルギーがある患者に、アレルギー食が出 てしまったり、糖尿病の患者がICUから戻ってきたら普通の食事になっていたという 間違いも生じています。  調理の段階では、禁食品の調理、食札の入れ間違いや書き間違いによって間違った食 事が調理されてしまうということが起きています。配膳段階では、絶食患者に食事を食 べさせてしまうことや、患者の所に置いてから、「採血するまでちょっと待ってくださ い」と言ったにもかかわらず、患者が食べてしまった事例があり、これらについては、 患者自身に理解しておいていただく必要があると思います。  摂食中の誤嚥・窒息ということでは、看護師が目を離したときに、患者が自分で口に 詰め込んでしまった事例があります。また甲殻類のアレルギー患者の家族が市販の“揚 げもの”を買ってきて食べさせたところ、甲殻類を揚げた後の油で調理したものだった らしく、アレルギー反応が起こしたというものもありました。  異食・誤飲では、家族がペットボトルに化粧水を入れてベッドサイドに置いてあった のを、水だと思って看護師が飲ませてしまったという事例がありました。異物の混入も いくつかありました。髪の毛、害虫、計量スプーン、爪楊枝というように、間違って飲 み込んでしまったら危険なものが多くありました。これについては、食事の調理プロセ ス管理を徹底する必要があると思います。生命にかかわる重大なエラーを防止すること がまず重要ですので、この管理を適切にやることが必要です。  “病院食は一般の家庭の食事とは違う”ということを再認識する必要があると思いま す。集団給食としての安全性の問題があります。病院の食事に関わる人としては、医師 ・看護師・栄養士やこれ以外の、外食産業から参入している職員等もいますので、その 人たちに病院食の特性をきちんと理解していただくことが重要だろうと思います。ま た、個々の患者の必要に応じ、治療としての食事がありますので、一般食とは違った配 慮が必要であることを改めて認識することが重要です。多職種の人がかかわるための情 報伝達エラーも起きています。やはり、これを一元化するITの導入を進める必要が非 常に強く示唆されています。  食事関連業務従事者の人的管理、病院全体での勤務体制の整備も必要ということで す。夜間、栄養科の職員がいなくなった後変更があった場合に、多くの間違いが生じて います。このようなことが起こらないよう、体制の整備が必要だと思います。  機器に関連する事例ですが、先ほど機器関連事例の報告がありましたので簡単に申し 上げます。機器に関連する事例には、スタッフの人為的なミスに起因するもの、機器本 体の問題、電気や医療ガスの設備の問題等が出てきています。人工呼吸器は、接続部の 外れがありますし、間違えてセットしそうになったものもあります。臨床工学技師がい れば当然使用前に点検整備と正確なセッティングが行われるのですが、これらの専門家 がいない場合は、そのような業務(点検・整備)を行う役割の人をきちんと決めて、適 切に管理していくという仕組みを病院の中につくる必要があると思います。人工呼吸器 の回路の接続間違いに関しても同様です。  病院設備に起因した突然の人工呼吸器の使用不能という事例ですが、圧縮空気の圧が 低下して全ての人工呼吸器が使えなくなったという事例です。電気の容量をオーバーし てブレーカーが落ちたという事例が前にもありました。今後は、それを意識して設備の 点検と、容量の確認を病院としてやっていく必要があると思われます。そうしなければ 生命に重大な危機を与える結果になる可能性があります。  アラームの機能に関しても適切に管理する必要があります。今回、アラームを切って いたという事例はありませんでしたが、そのようなことの徹底からきちんとしていく必 要があると思います。  輸液ポンプ及びシリンジポンプに関するエラーは、動作前後の確認と、大丈夫だろう とは思わないで、チェックリストに基づいた確認が必要だろうと考えられます。そうい うことをやっていないために、薬剤が過剰に行ったり必要な薬剤が行かなかったりする ことが起きています。  その他のところでは、新しく購入した手術台が、うまく動かせなかったための問題が 生じた事例があります。これも、事前の点検や使用方法の確認をすることは当然のこと と思われます。  「まとめ」のところに書いてありますが、機器のエラーを防止するためには、メーカ ーが推奨する定期点検、始業点検を確実に行う。院内に適切な人材の配置、開始時の始 業点検等が重要です。また、機器操作の管理にかかわる基準や手順の整備を行い、使用 時のチェックや、使用中の点検の基準や手順を整備する必要があります。薬剤の交換時 などに、ついスイッチを入れ忘れたというようなことがありますから、忘れないように 確実にやる手立て(チェックリストでの点検など)を決めておくことです。また、機器 は、できるだけ中央管理にすることが必要だろうと思われます。  機器操作に関する訓練・教育が医療者、特に看護職員に必要だと思われます。医療機 器の組織的管理体制の整備についてはこれまで申し上げたとおりです。医療安全の観点 から、メーカーのものづくりにも是非努力していただきたいと思います。先にも述べま したが、ペンシルバニア大学病院では、コンピューターが組み込まれた新しいい輸液ポ ンプ(スマートポンプ)に全てのポンプを変えたそうですが、このポンプは、患者の病 名や年齢等必要な情報を入力すると、使用する薬剤の上限、下限が計算され、例えば一 般病棟で使うはずのない量の薬剤がセットされた場合は、動かないようになっているそ うです。この輸液ポンプが、1台150万円だそうですが、ペンシルバニア大学病院では、 全ての輸液ポンプをそれに換えたということでした。そこの看護部長が、医療事故防止 に関心のある人で、その輸液ポンプの開発にも携わったそうですが、そういうことも含 めて、機器の整備が必要だと思いました。 ○橋本部会長  第12回に集まった情報を基に分析をしていただきました。たくさんありましたが、こ れらについてのご質問、ご意見がありましたらお願いいたします。第12回から対象医療 機関が増えて、それからは集まる数も増えました。それまでは、国立病院と特定機能病 院ということで、200数十の病院の枠でやっていました。それが、それ以外の所に広がっ たことで特徴的に見えることはありますか。要するに、病院の集団が変わったわけです よね。 ○嶋森参考人  全体の傾向はあまり変わらないようです。今までのヒヤリ・ハットの分析によって改 善策が提示されていることを行わないで間違いが生じている事例があります。つまり、 やるべきことをやっていないために起こった事例が結構あるという印象があります。新 たに報告対象病院として参加した病院が、これまで提案されてきた防止策を見ていなか ったが、この事業に参加することで、今後はこれらの改善策を現場に生かしてもらえる という点ではよいのですが、そういうことが気になりました。 ○橋本部会長  なぜそう申し上げたかといいますと、この事業ができて、ヒヤリ・ハットというもの はほかの病院でもいろいろやっているわけです。国と特定機能病院がまず先行してやり 始めて報告をする。それなりに進んできた過程があります。それから、もう少し後でく っついてきた所が加わったことにより、新しいものが見えたとすれば、発展段階みたい なものが少し見えるのかと思ったからです。言葉は悪いですけれども、相変わらずの間 違いは起こるのだ、ということが今回見えたという話ですか。 ○嶋森参考人  転倒・転落の事例を分析した班長は精神科の釜さんです。彼の分析によると、転倒・ 転落は、医療者が介入して起きる場合と、本人の問題で起きる場合があると言われてい ます。昨年と比べて、医療者の介入による転倒・転落が少なくなったような気がすると 言っています。つまり、私たちの分析は定性的ですから、量の問題は明確には言えませ んが、上がってくる事例の中に、医療者の介入による転倒・転落事例は非常に少なくな った印象があるということです。医療者自身は、転倒・転落についてはアセスメントシ ートなどを使って、かなり気をつけるようになったためだと考えられます。そのような 変化は感じています。 ○山口委員  大変面白いお話をありがとうございました。大変参考になりました。私たちの病院 は、3月1日から新しい病院に移って、電子カルテが導入されました。これが現場では 誠にストレスで、新しいタイプのエラーが起こるのではないかと心配しています。いま の報告を見ますと、そういう観点で調査することは必要だと思うのですが、いままで電 子カルテの導入にかかわる特別なリスクのレポートはあるのでしょうか、あったら教え ていただけますか。それから、今回の調査の病院の中で、どのぐらい電子カルテの導入 があったかも教えていただけますか。 ○嶋森参考人  先ほど言ったように非常に膨大な事例で、まず評価機構で重複事例等を省いて、その 後厚生労働省からいただいたところで、テーマに関連するところだけを抽出していただ いたものを送っていただくことになっています。いまおっしゃられた、電子カルテに特 化したデータは持っておりません。  先ほど申し上げた事例は、電子カルテが導入されている病院の事例です。医師は電子 カルテで行っているので、そのまま指示が伝わると思っていますが、午前10時か11時ぐ らいですと看護師はもう患者のベッドサイドに行って働いていますので、変更が伝わら なかったということです。これは、現在の電子カルテのシステムでは不十分で、情報が 看護師の持つPHSに飛ぶようになっていない限りは、そういうことが起こると思いま す。情報の受け手の体制を整えるということを同時にしないと、システムだけを作って も駄目だと思います。  これは、人工呼吸器のアラームでも同様です。アラームを切っていたという事例はあ りませんが、アラームが聞こえず家族が呼んでくれて訪室したところ、少しチアノーゼ が出ていた事例があります。この事例についても分析の中で、夜はアラームがナースの PHSにつながるようにしておく必要があること、昼間は誰かがいますが、大勢いても 見落とす事例があります。対処しなければいけない人に情報が飛ぶ、というところまで 保証しなければ、電子化の意味はないという印象があります。 ○山口委員  いまおっしゃられたことが現場で起きています。オーダーしたのに、それがどうやっ て、いつ確認されているのかがなかなか把握できないという悩みがあります。業者は、 システムをこう変えろとかいろいろなクレームが来ますので、そういうことには非常に 熱心ですけれども、その結果過去の病院でどういうエラーが起きたということには彼ら は関心がありません。そういうものを蓄積していって、これから電子カルテがいろいろ な所で導入されるときに起こる事故を防ぐ、という視点が非常に重要だと思いました。 ○事務局  それに関連して、別冊1−(1)の86頁に、電子カルテに関連した事例が掲載されてい ます。82頁が具体的内容ですけれども、事例そのものの記述はとても少ないのですが、 中止指示薬を医師が電子カルテに入力していたのですが、それが看護師に伝達されずそ のまま飲ませてしまった事例です。  それで、緊急指示処方については、結局マニュアルで直接看護師に連絡することにな っていたルールがあったそうですが、それが伝わっていなかった事例です。  88頁に専門家のコメントとして、この場合もいくつかルールがあったのですが、さら にその徹底ということと、結局カルテに頼りきらないという対策を若干掲載しています ので参考までにお伝えします。 ○橋本部会長  86頁のいまご紹介いただいたような事例は、嶋森参考人がおっしゃったように、中止 になった情報が、看護師のどこに行くかということがはっきりしていないと駄目だとい う話です。医療センターの秋山先生がおっしゃっているのは、彼らはそこで端末を持っ ているから、かなり遅れてもその指示が確実に伝わるシステムだという言い方をされて います。 ○嶋森参考人  うち(京都大学医学部附属病院)でも、PHSを付けています。それだと現場で確認 ができますから、投薬指示の場面を出して、そこに中止の指示が出てきていればいいと 思います。現場へデータを持っていけるような仕組みをとってない所は電話など人海戦 術で行います。昼間だったら、クラークに電話をして、変更になりますという連絡をし てもらうということも含めて、そういう仕組みを徹底しないと駄目だと思います。 ○山口委員  電子カルテを導入すると、いままでの病院と全然違うのです。電子カルテを導入した 病院は、全く別個にまとめて収集したほうがいいのではないでしょうか。いまつくづく 思っていて、こういう事例が山ほどあってみんなが疲弊しているので、前もってわかれ ば大変ありがたいと思います。 ○橋本部会長  今度のは、ちょっと違う枠組みでやることになりますけれども、定点でもそういうこ とができますね。 ○嶋森参考人  そうですね。 ○橋本部会長  ある特性を持った病院ではどうなっているか、ということが収集できる。ただ、電子 カルテという形でデータを分けるような仕組みをその中につくらないといけないです ね。一部の業界と、一部の団体でそういう協議が続いているとも聞いております。 ○嶋森参考人  いまの段階で、そういう問題を挙げておいたほうがいいですね。 ○川村委員  電子カルテの事例について、参加医療機関の枠組みを超えて、厚生労働省から別の形 で、この半年とかということではなく、開設と導入当初からの事例も含めて、導入施設 のどんな事例でも、電子カルテをキーワードにして事例を集めてフィードバックしてい けば、これから導入していく施設が同じ轍を踏まないで済むと思います。変更中止指示 は、電子カルテは非常に機能性が悪いと思うのですけれども、それに限らずいろいろな 問題があるだろうと思うのです。一挙に数百事例集まれば、いろいろなことが見えてき ます。集まるのを待つのではなく、積極的に収集したほうがいいのではないでしょう か。 ○橋本部会長  そのようなご提案がありました。田中委員の、成育医療センターにはご自慢の電子カ ルテシステムがありますよね。 ○田中委員  成育医療センターでは、3年前の電子カルテ開設時から導入しています。上層部はど う思っているか分からないのですけれども、現場の医師は電子カルテが導入されたから といって、安全性が向上したとか、仕事が楽になったという印象は全くないです。与薬 などでもそういう印象です。次に電子カルテを導入する施設は、どういうことで困って いるかというところを見ていただいて、改善していくことが必要だと思います。 ○橋本部会長  いちばん最初に説明を受けたこれからのあり方の中にも、IT化というのがかなり大 きな項目として認識されているようです。それなりに周到な準備とお金をかけて作った 所でも、現場の医師は個別の意見にしろそういう印象を持っているというのはかなり大 きい問題かと思います。 ○武藤委員  アメリカの事例では、オーダリングシステムを導入し、誤薬が50%ぐらいリダクショ ンしたということがあります。ですから、電子化した前後の比較みたいなことが、今後 必要になってくると思います。 ○橋本部会長  全体で考えなければいけないのだろうと思います。医師だけが使いにくくなった、と いう話だけに焦点を当ててもしようがないような気がします。 ○嶋森参考人  情報を発信する所は、電子化されるととても大変になるという印象があります。例え ば、事務も事務手続を電子化してくれて全部現場に情報を入れろと言います。事務は、 それをどこかに入れ込むだけなのです。この情報を入力する現場の手間が大きくかかる ようになっています。事務員を減らして、看護師や医師の現場入力をするところの要因 を増やしてほしいと現場では言っています。ただし、電子化してベッドサイドで体温の データを入れると、記録が全部できているということになりますから、慣れると看護記 録の時間が少なくなるということがあります。いちばん末端でデータを集める人は、手 書きのほうが楽だったので、電子入力するのは大変だという問題はあると思います。そ のことによってエラーが少なくなることに貢献しているので、現場の人間をその大変な 分だけ増やして、現場に頑張って入力してもらう。というように、電子化すると、病院 で働く人の仕組みを変えないとだめなのではないかという印象があります。 ○橋本部会長  そのことについてご意見はございますか。 ○武藤委員  全般コード化のほうでも、薬の問題で別冊2の24頁の表2−2を見ていただくと、無 投薬が3,842件、投与速度の速すぎ・遅すぎ、与薬時間・日付間違い、過剰与薬と、こ んなことがあってもいいのという感じなのです。この1つは電子化の問題と、もう1つ は病棟薬剤師の配置という問題でかなり介入が可能ではないかと思います。病棟薬剤師 を配置している病棟とそうでない病棟を比較するとか、電子化している病棟とそうでな い病棟を比較するといった比較研究が必要ではないかと思います。 ○門林委員  嶋森参考人からは、持参薬のこともいろいろご指摘いただいておりますのでお聞きし ます。患者が持ち込んだ薬で、それを院内で使う場合も当然あると思います。そのとき に、持ち込まれた薬を病院の中の薬剤部、あるいは病棟かもしれませんが再調剤、いわ ゆる剤型を変えたり、一部の薬品を抜いたりといったことが行われることで問題になっ ている事例はどのぐらいあるのでしょうか。  その辺のところを私の所で調査したときに、いろいろな問題点を含んでおりました。 持込薬の再調剤という言い方がいいのかどうか分かりませんが、そういうことが問題か と思います。持込薬そのものがいろいろな問題点を含んでおります。その患者が持ち込 んだ薬すべてが、本当にその患者が貰っている薬なのかどうかわかりません。紹介状に 薬剤のことが十分記載されていないケースも多々ありました。そういうところで特徴的 なことがありましたら教えてください。 ○嶋森参考人  持参薬の問題は、当院でもニュースになったぐらいでやはり問題があります。事例と しては、別冊1−(1)の79頁に出ております。プレドニン5mgを1日おきに内服していた のですが、入院後5日間連続投与した。これは持参薬で処方せんがないので、確認のル ールが明確にされてなく、患者が理解しているからと思って聞いて、そのまま内服させ たら違っていたという事例です。  それ以外でも、これは持参薬ではないのですが、剤型が違っていて、同じ薬が倍量行 ったということがありました。ですから、薬そのものと処方せんがないのに、それをそ のまま患者の「くすり手帳」や、持参した薬と、患者の言うことだけ聞いて持参薬を調 剤し直して投与するというのは問題があると思います。自宅での薬の管理も適切であっ たかどうかはわかりませんから、これは問題ではないかと思っております。 ○門林委員  そのときに、そういう持参薬の内容をドクターが指示するときに、ケースとしてカル テにきちんと記載されているでしょうか。 ○嶋森参考人  今回の事例ではよくわからないのですが、当院でも起きたことがあります。いろいろ な病院で聞いてみると、持参薬は病棟で看護師や医師が見て、患者に聞いて、そのまま 与薬トレーに入れてしまう病院と、必ず薬剤部が関与するという病院があります。当院 でも事故事例が生じたあと、必ず薬剤部がチェックし、確認した上でないと服用させな いルールにしました。それは、最低必要ではないかと思います。 ○門林委員  私もそう思います。そこに薬剤師がいて、持参薬の鑑別をしたり、実際にドクターが それを継続して使う場合には、カルテに記載しておかないと危ないと思うのです。それ が、意外とない病院があるのではないかということを危惧しています。その辺は改善す る必要があるのではないかと思っています。 ○中村委員  いまの点については、ある部分薬剤部でシステムを別に立ち上げ、持参薬のシステム だけをつくっている所もあります。 ○橋本部会長  それは、どのように運用するのですか。 ○中村委員  自分たちで作ったものを、別画面に載せておきます。医師が処方するときに、その画 面を開いて見ます。 ○橋本部会長  物の管理はどこでやるのですか。薬は、病棟ではなくて薬局ですか。 ○中村委員  ここでは薬局です。 ○嶋森参考人  私も、持参薬のことでいくつかの病院で話を聞きました。病院によって薬剤師の関与 の仕方が非常にまちまちでした。必ずそこを通さないと投与しないという病院から、病 棟によって違うとか、全く持参薬には関与していない所もありました。 ○中村委員  1月31日付で、日本病院薬剤師会は、各施設の部長宛に通知文を出しまして、入院患 者の持参薬については薬剤師が関与することとしております。 ○橋本部会長  我々の所でも、入院した患者が持ってきた薬を薬剤師が鑑別して、という流れをつく りましたが、結構遅れが多くて、最初の投与はなくて済ませるのかという話が出てきま した。それで、病棟のほうで「うーん」という感じになって、看護師がはっきりわかる ものについては判断しましょう、という折衷みたいなところで動かしています。これ は、時間をかけて、ちゃんと調査をして調べなければいけないところですね。  大きい枠組みの話になりますけれども、これは事例検討部会でいまのようなことが議 論されて、それが公表されていくわけです。評価機構でこの検討をやっていただくこと になると思うのですが、公表はどのようになるのですか。 ○医療安全推進室長  公表については、評価機構での分析結果について評価機構が公表します。医療事故の 事例も、今後は評価機構で公表されますので、それらを合わせてその情報を新しいヒュ ーマンエラー部会に報告させていただき、今後の対策についてはヒューマンエラー部会 でご検討いただきたいと思っております。 ○橋本部会長  事例から学ぶことが多くて、事例をしっかり書き込んだものが公表されて いると、個々の施設で、自分たちの所と合わせて考えることができます。そういうケー スネスというか、そういうものの公表もされるのですか。それは、たぶん評価機構のほ うですね。 ○医療安全推進室長  はい。ヒヤリ・ハットに関しては、機構のほうで事例を公表していこうということで す。事故等と事案については、どういう形で公表するかも踏まえて検討中ですが、来月 には第1回の詳細な公表があると思います。またこれらのご報告に基づいて、ヒューマ ンエラー部会等においてもいろいろなご意見を頂戴しないといけないと思っておりま す。 ○橋本部会長  それでは、「平成15年全般コード化情報集計結果」のまとめについてを報告していた だき、もう一回戻っていろいろ議論したいと思います。 ○事務局  資料5と別冊2「平成15年全般コード化情報の集計結果」について簡単にご説明いた します。まず資料5ですが、収集期間は平成15年1月から12月、事例数は5万2,658件 (5万1,119件の誤り)です。前回ご報告いたしました平成14年が3万3,524件でしたの で、1万7,595件、52.5%増になりました。  2頁の下3分の1からが分析結果の報告です。1)の全事例と、その他の処方・与 薬、輸血等は基本的に傾向は同じような形ですので、1)の全事例で概略をご説明させ ていただいた後、7)のその他の(発生場面×発生内容・クロス集計)について簡単に ご説明いたします。  別冊2の1頁で概略をご説明いたします。棒グラフが、平成15年のデータです。それ に対して折線グラフが、前回ご報告させていただきました平成14年を同じ座標にプロッ トしたグラフです。左側にはその数値データが入っている構成になっています。  こちらの発生月に関しては、5月と6月に若干傾向の違いがありますが、新人看護師 なり医師なり、スタッフの慣れの出てくる夏から秋ぐらいに発生件数が多く、冬は少な いという傾向が認められております。  2頁の図1−3は発生時間帯です。こちらは、平成14年と平成15年と特に傾向として 変わりはありません。それから図1−5、別冊の3頁は、従来から報告がありますよう に、男性と女性では男性のほうが多いということで、平成15年のデータでいうと約1.3 倍になっています。4頁の図1−6は患者年齢です。こちらも、大きな傾向としては変 わっておりません。60歳代、70歳代が平成15年に関しては若干多いという傾向です。5 頁の図1−8は発見者ですが、こちらも傾向としては特に変わりはありません。  図1−10、図1−11は職種経験年数、部署配属年数ですが、こちらも大きな傾向とし ては変わっておりません。年数0年によるヒヤリ・ハットの事例が最も多いという形に なっております。7頁の図1−12の発生場面に関しても、全般的な傾向は変わりありま せん。処方・与薬、ドレーン・チューブ類の使用、その他の療養生活、療養上の世話と いったところが頻繁に起こっている事例ということになるかと思います。図1−13は発 生要因ですが、こちらも平成14年、平成15年と特に大きな変動はありません。図1−14 の影響度に関しても、傾向としては大差ない状況になっております。以下処方・与薬、 ドレーン・チューブ類の使用・管理、医療機器の使用・管理、輸血、療養上の世話等に ついても、数値は違いますが傾向的には同じなので割愛させていただきます。  7)その他に移りますが、別冊2の64頁になります。こういう表である関係上、平成 14年のデータは横に掲げておりません。平成15年のデータだけということですが、口頭 で若干補足させていただきます。表7−1はオーダー・指示出し、情報伝達過程という 内容です。多いのは上の3つで、オーダー・指示出し、文書による指示受け、口頭によ る指示受けの3つです。資料5にも記載していますが、それぞれ36.8%、15.6%、10.1 %となっております。上の3つトータルでいうと、平成15年は69.1%を占めておりま す。同じ項目について平成14年のデータを計算すると67%ということで、プロポーショ ン的には大体同じような形です。総件数は、元の数が増えていることもあり、平成15年 は2,298件ですが、平成14年のデータでは1,169件でした。  表7−2ですが件数1万5,051件に対して、平成14年は1万1,363件でした。例数的に はそんなに大きく変わっておりません。項目的には、上位3項目の、無投薬、与薬時間 ・日付間違い、投与速度の速すぎという3項目は同じなのですが、量的に若干異なって おります。平成15年に関しては、資料5の7頁の本文に、「内服」の「無投薬」の頻度 が最も高く2,181件で全体の14.5%となっております。これは平成14年のデータで見る と50%という比率になっていました。以下「内服」の「与薬時間・日付間違い」が、平 成15年では4.9%となっておりますが、平成14年は15%。「末梢静脈点滴」の「投与速 度速すぎ」が、平成15年は4.8%に対し、平成14年は20%ということで、量的にプロポ ーションが変わっている傾向が見られています。  表7−3は、平成14年と傾向的にはほぼ同じです。発生例数のパーセンテージという 意味でもほぼ同傾向でした。表7−4は、資料5にも記載しておりますが、平成14年集 計では、「診療・治療等のその他のエラー」の頻度が最も高く、全体の50%を占めてい ましたが、平成15年の集計では41.2%という状況でした。表7−5も傾向的には同じで す。表7−6も、表7−7に関しては、平成14年と同じような傾向でした。  表7−8の輸血に関してです。輸血に関しては、平成14年が308件、平成15年は398件 と、分母の数的には若干増えているぐらいでほぼ同じですが、起こっている件数はほぼ 同等という状況でした。表7−9もパーセンテージ的には、ほぼ同じような傾向を示し ております。表7−10の療養上の世話に関しても同じような傾向が出ています。  表7−11も大きな違いはありません。1カ所違うのは、患者家族への説明が、平成15 年は285件で20.4%となっております。平成14年のデータでは14.4%と若干少ない傾向 がありましたが、それ以外の項目についてはほぼ同様の傾向でした。平成15年データの 報告については以上です。 ○橋本部会長  平成15年をまとめて、全般コード化の結果を報告してもらいました。今回で終わりで すが、いくつか疑問の残るところがあります。性差はずっとあったわけですし、その辺 はどうですか。 ○武藤委員  今回ずっと疑問に残っているのは性差です。男性の患者と女性の患者では行動パター ンが違うのではないか。1つは、3大ヒヤリ・ハットである薬、チューブ・ドレーン、 転倒・転落はいずれも男性のほうが優位ということです。薬に関しては、女性のほうが 少ないのは、女性のほうがきちんとチェックしているのではないかという仮説がありま す。転倒・転落については男性のほうが環境不適応、あるいは体力を過信しているとい った男性の行動パターンがあるのではないか。  チューブ・ドレーンはかなり明らかで、男性のほうが1.5倍ぐらいトラブルが多いで す。これも、ICUにおける術後の譫妄などは男性に多いと思います。そうした男性に 特有の行動パターンが影響しているのではないかという気がしました。 ○橋本部会長  これは、どのようにしていけば調べられるのでしょうか。この部会の役割ではないよ うな気がしますけれども、すごく大きいテーマのような気がします。私も気になってい て、全体を通してこういうのが見えてくるのかと思い、個別の病院でそこそこやってい る所に聞くと、やはり性差があるということでした。ですから、ある程度の数が集まっ たところではそれが観察されるということです。  ちょっと気になって、ほかのリスク関係の心理学の本をパラパラとめくっていると、 やはり男性のほうがリスクが大きいという指摘があります。もう1つは、脳の認識の性 差を研究している先生がいて、私はちゃんと話をしていないのですけれども、その方の 話を聞いていると、やはり認識のところに性差があるのでというところも関わってくる かもしれないと思っております。  問題は持ち越しで、今後アプローチはされると思いますけれども、ほかにいかがです か。 ○川村委員  各論に戻りますが、輸液ポンプのことです。最近の機種は大変安全設計に配慮が行き 届いています。先日も学生に教えたときに、新しいのはとても使いやすいです。流量設 定や、ルートのセッティングの間違いは、かつてよりずっと少なくなると思いました。  片方では、平成の初めのころの古い機種が病院に残っていますので、教えるときには 新旧2つ持ってきて、こちらはこういうことが危ないからと言って、現実レベルに合わ せて教えてきました。ポンプだけは新人看護師も使うような機器ですから、メーカーが 新しい安全設計のものを作り上げてきているのならば、病院も新しい機種に対応してい けるような援助をすることも必要と思います。旧機種でも高いので捨てきれない、とい うことでずっと使っているわけですけれども、病院にとっても経済上的に切り換えやす くするようなサポートがあれば、メーカーの努力が現場に反映されやすいのではないか と思います。  事例数でいうと、条件設定の違いが結構多くて106件で6.7%です。条件設定の間違い が新旧どちらの機種でおきたのかということを今後、そういう機器の事例を集めるとき には、重要です。新旧の切り換えに対して行政的支援があったらどうかと思ってしまい ます。お金の問題が絡むので、病院ではなかなか換えられないのです。 ○橋本部会長  いま2つご意見があったと思います。後段は、切り換え等々に関して、危険なものか ら安全なものに切り換えるときに制度的な支援があってもいいのではないか、というの は経済的な問題だと思います。もう1つは、新旧が同時に存在するときにどう管理して いくかの問題が含まれていたような気がいたします。  後のほうの話をさせていただきますと、言葉が正しいかどうか分かりませんけれど も、いろいろ手を打つわけです。でも、完全に払拭できないからリスクは残る。それを どう管理するかという問題の考え方をしっかり確立しておくべきかという気がしていま す。つまり、病院の中で残留リスクをどう管理するか。要するに、危ないものをどうや って管理するか、という方法があってもいいかと思いました。  例えば、10%のキシロカインが今回の参考資料の中にありましたけれども、あれはど うしても残さなければいけないところというのは、仮に1年半前を取ればそういう主張 がありました。そこをどのように管理していくかという問題でもあると思います。抽象 的な言い方をすると、よくできる部署にそれを管理させるということだろうと思いま す。要するに、これは危ないんだぞということをインフォームして、その管理主体をは っきりさせるということだろうと思います。インフォームして、アイソレートしてとい うような言い方をしていますけれども、そんなことかと思います。川村委員の今回のご 指摘はそれを超える話かという気がしています。 ○山本委員  輸液ポンプについては、2003年に新しい安全対策が出されました。それに対して業界 では、対策を施したかどうかというのが医療現場でわかるように、安全対策適合品マー クを自主的に決めて、新しいものには付けています。医療機関では、古いものをすべて 買い換えていただくことができないでいます。業界としても非常に困っています。  私は別の会で提案させていただいたのですが、例えばイギリスのMDA行政庁では、 新しい対策が施されたときに、直ちに廃棄すべき医療機器、輸液ポンプでも何年か出て いますから、直ちに廃棄すべき機種と、それから廃棄を検討すべき機種という形で、行 政庁からはっきり提示しています。業界がやったのではなかなか効果がないので、それ を行政から表示する仕組みがあれば、非常に買い換えが進むのではないかと思っていま す。  また、今回、買い換えを促進する意味で、厚生労働省から税制上の優遇措置を出して いただきました。しかしながら、輸液ポンプなどの場合は雑費になってしまうものです から、あまり効果がないという話を聞いております。医療機関で本当に有用だと思われ る措置をとっていただけたら大変ありがたいと考えております。 ○橋本部会長  その辺は、ちょっと工夫が有用かもしれません。 ○石川委員  山本委員からもあったのですが、今回は最後なのでまとめて言わせていただきます が、業界としては物を作っているほうですから、良い物を作れという指示がありまし た。この会で私も何回か発言させていただいたのですが、物は物でも限度がありまし て、使うほうのこともということでいろいろなことを申し上げてきました。  もう1つは、川村委員がおっしゃったように、いくら対策をしても古い機械が残って いるという状態では、薬事法上我々メーカーは不具合があれば報告しなければいけない 仕組みがあったり、直さなければいけない、回収を行なうことが生じてきます。その辺 りで大きな仕組みを少しずつ変えていかないと、前にあったように人と物という関連、 要するにヒューマンが間に入って、いろいろなことをやっているということを認識する と、そういう制度も含めて考えていかないと、医療安全という意味では、一方的ではた ぶん無理であって、両方でさらに先ほどの仕組みを考えなければいけない。  先ほどから嶋森参考人が言われていて、それから少し発展した電子カルテに関して も、日本政府全体として電子化をしようという考え方があります。いろいろなものを電 子化しようというのは確かにいいことではありますけれども、それを扱うのは人間であ って、仕組みをつくるのも人間であって、そのプロセスと、そのワークフローをうまく 考えた上で電子化をどこまで入れるかを考えないでやってしまうと、必ずどこかで変な ことが起きてしまいます。  そうすると、それは誰かのせいだとやっていくのではあまり効果的ではない。やは り、これは仕組みとして、どういう物が、どの場で、どのように使われるからどうある べきという形で考えていかないと、過去のことと同じようになってしまって、物は物、 人は人というふうにやっていくのではしようがないので、人も入った仕組みという形で 見ていかなければいけないのかと思います。  川村委員に感謝しなければいけないのですが、私たちがずっと申し上げていたことを 本日言ってくださったので、ものすごく感激しております。ありがとうございました。 ○嶋森参考人  図を見ていて、全体的な傾向は変わりないのですけれども、いくつか上がったり下が ったりしています。別冊2の38の発生場所の病室、それから薬の処方のところが減った りしています。非常に高いところは、高かったのでちょっと減っても減って見えるのか も分からないのですけれども、これはリスク認識が出てきたのではないかと思います。 薬は日本薬剤師会でも薬剤師の関与の必要性について出してくれたり、薬の問題が非常 に多いということが理解されてきたので、そういうことがデータ的に多少影響があった と評価してもいいのではないか思いますが、それは無理でしょうか。  もう1つは、全体の発生月がずれていると思うのです。前は4月、5月が多かったの ですが、いまは後ろにずれていますね。新人の看護師にヒヤリ・ハットが多いというの で、かなり長い間プリセプターを付けて一人立ちを遅らせていると思います。その影響 で7月、8月、9月とずれて、一人立ちするところにそういうエラーが生じているので はないかと認識されます。  だから、指導する方も、ある意味で長く見なければいけないので疲れてくる。指導さ れるほうも、なんかヒヤヒヤするのでクタクタというのは現実にあります。つまり、そ れは新卒看護師の研修の制度化の必要性を示しているのではないかと思います。例えば 就職してしばらくは半人前に扱って、その分は0.5人分ぐらい余分に雇用するという仕 組みを作らなければいけないのではないかと、このデータを見せられて改めてそんな感 じがしました。 ○武藤委員  この調査の限界は、報告基準が決まっていないことです。そうしたことで、これから 定点調査が始まると、そういう報告基準を決めて、より疫学的に正確なデータが出るの ではないかと思います。  もう1つは、ただこの結果を見ているだけなものですから、先ほど嶋森参考人がおっ しゃったように、研修の問題とか介入効果が現れたことを、来年度からの定点観測のと きにはやっていかなければいけないと思います。  もう1点は、何か外部的な別の評価体系とヒヤリ・ハットを突き合わせて検討しなけ ればいけないと思います。その1つとして平成18年の基準でやっていますが、カルテレ ビューとヒヤリ・ハット、あるいは事故報告との比較という形でやっていかないと、こ れだけではなかなかものが言えないのではないかという気がしました。 ○橋本部会長  新しい研究の問題に入りますね。 ○山口委員  全体のことで質問させていただきます。今回、資料1に記述情報のテーマを定めて変 えるということですね。 ○橋本部会長  はい。 ○山口委員  そのときに、このテーマはどのようなものを挙げて、どのような順位をなぜ決めたか ということを教えてください。これだけ膨大な事例があるのだったら1つなどと言わな いで、重要なものをもう少し分けてやるとか、なぜそういう順番を付けたのか、その辺 りの原則を教えてください。 ○医療安全推進室長  今後は、医療機能評価機構でテーマを決めるということになりますが、テーマの選び 方については、評価機構の専門家による会議により、優先順位を付けて集めることにな っております。もちろん1つとは言わず、優先順位の高いものがあれば複数のテーマを 選定していただいて結構かと思っております。  テーマの選び方については、評価機構の専門家による会議で決めていただくわけです が、またヒューマンエラー部会等で、そういうご意見があれば、評価機構のほうに反映 させていただきたいと思っております。 ○山口委員  具体的にリストがあるわけではないわけですね。 ○医療安全推進室長  既に集めている分がありますので、それについてはテーマは決まっております。 ○吉澤委員  新しい収集体制で、定点で集められる部分については、ある程度同じ定点で長期間続 けていただきたいということをお願いしました。医薬品でもいろいろな対策を講じてき ているのですが、それが効果があったのかなかったのか。なかったら、また新たな対策 を講じなければいけないということがあります。定点だと、完全なことは言えなくて も、あるトレンドはつかめるのではないかと思いますので、そういう方面からの分析も ひとつよろしくお願いいたします。 ○医療安全推進室長  定点化をするに当たり、定点の医療機関には大きな負担をかけることになりますが、 トレンドを見たいということ、それからいままで参加医療機関として手を挙げていただ いていた医療機関のうち、報告がほとんどないというような所もありましたので、定点 医療機関をお願いした医療機関については、必ず報告をお願いするということで、今回 はそういうルールをあらかじめ提示させていただいた上で、定点をお願いしておりま す。定点医療機関には、なるべく長期に引き受けていただきたいと考えております。 ○橋本部会長  定点というのが、定点という集団であるだけではいけない。定点という集団だけだっ たら、全体の流れが比較できるだけで、もう少し個別の分析という意味には発展しない でしょうから、そういうことも念頭に置かれるのだろうと思います。  残念ながら時間が来てしまいました。本日の議論はこれまでとしたいと思います。こ れまでもいろいろご紹介があったように、新しい仕組みの中で、つまり評価機構という 仕組みの中で、ヒヤリ・ハット事例の収集分析、情報提供が行われることになります。 これまで、皆様には貴重なご意見をいただき、盛んに議論させていただきました。私自 身も得るところが多くて、それなりに楽しみの会議でした。委員の先生によっては1年 間という短い期間でしたけれども、大変貴重なご意見をいただいたものと感謝しており ます。  特に、原総務課長からもご挨拶がありましたように、膨大な資料をおまとめいただい た武藤委員と嶋森参考人には非常に感謝しております。どうもありがとうございまし た。今後とも医療安全の推進にご協力いただきますようお願い申し上げまして閉会とさ せていただきます。ありがとうございました。 ○事務局  最後に、参考資料1について簡単に触れさせていただきます。途中でご説明する予定 だったのですが抜けておりました。「医療事故防止事業の現況について」ということ で、日本医療機能評価機構の理事会評議会資料からの抜粋です。ほとんどの話は、途中 の報告でさせていただいておりますが、2頁の2)事故事例情報ということで、昨年10 月から始まっております医療事故等の報告制度について、2月28日現在までで452件収集 されています。その内訳が3)に記載されておりますので、こちらは後ほどご覧いただ ければと思います。  本日の資料は非常に大部となっておりますので、後ほど事務局から送付させていただ きますので、机の上にそのまま置いてお帰りいただければと思います。どうもありがと うございました。                      (照会先)                       医政局総務課医療安全推進室指導係長                       電話 03-5253-1111 (内線2579)