05/03/29 第11回職業能力開発の今後の在り方に関する研究会の議事録について        第11回 職業能力開発の今後の在り方に関する研究会                               日時 平成17年3月29日(火)                           10:00〜                        場所 厚生労働省省議室 ○諏訪座長  ただいまから、「第11回職業能力開発の今後の在り方に関する研究会」を開催いたし ます。職業能力開発のための相談・情報提供の在り方などについて、前回議論していた だき、一わたり論点整理案の検討が終わりましたので、本日から報告書案についてご議 論いただければと思います。最初に、事務局からこれまでの議論を踏まえた報告書の取 りまとめのための素案を説明していただいてから議論をさせていただきます。 ○総務課長(妹尾)  資料Iは「職業能力開発の今後の在り方に関する研究会報告書素案」ということでまと めてあります。この素案は、従来の研究会で毎回お出ししておりました論点整理を基に して整理し直したものです。目次を見ますと、「I 職業能力開発の現状と課題」として います。  その課題の中で「1 現状」、「2 踏まえるべき社会・経済情勢の変化について」 、ということで、労働力の供給面・需要面の変化を記述しております。2は「今後の課 題」です。「(1)基本的考え方」、「(2)職業能力開発の社会的必要性と意義」、 「(3)関係者に求められる役割・課題について」、ということで、主なプレイヤーで あります労働者、企業、教育訓練機関、行政、その他ということで書いております。  IIはIで書いたような現状なり課題を受けた、「今後の施策の方向性」ということで、 教育訓練機関の提供の在り方をどうすべきか、能力評価制度の在り方をどうすべきか、 相談なり情報提供の在り方をどうすべきか。  4番は「その他」ということで、特出しの項目として、「(1)若年者の能力開発の 支援の充実」、「(2)職業生涯を通じた能力開発の取組みの推進」、「(3)技能継 承への対応」、「(4)国際協力」という柱立て構成にしております。今までの論点整 理の柱立てを、報告書の流れがよくなるように組み換えさせていただきましたが、それ ぞれの要素はなるべくそのまま盛り込んだつもりです。  1頁からが報告書の素案になります。従来からお出ししておりました、論点整理の形 式を踏襲し、それぞれ箇条書きのような形で今のところは書いております。いずれ報告 書としてまとめる際には、もう少し報告書としての体裁を整える必要があろうかと思い ます。各章立てごとに必要な要素をなるべく盛り込んだつもりです。1つずつご説明い たします。  1頁は「現状」です。「(1)の職業能力開発の現状について」、最初のパラグラフ では、企業の能力開発の現状について、近年減少を来していることを書いております。1 4行目からのパラグラフでは、能力開発の主体としては、企業と個人の両者の認識に差が ある。19行目のパラグラフでは、自己啓発について、労働者の意欲と何がバリアになっ ているかの問題点について書いております。25行目のパラグラフでは、企業の行う能力 開発の現状を書いております。特に、非正規労働者に対して行っているものは少ない。3 1行目のパラグラフでは、最近の課題ということでフリーターなりニート(NEET)へ の対応も必要ということです。35行目のパラグラフでは能力評価について言及しており ます。  2頁の4行目のパラグラフでは、企業から従業員に対して求める能力をどのように伝 達しているのか。7行目のパラグラフでは、キャリア・コンサルティング導入の状況で す。このような現状の後、踏まえるべき社会・経済情勢の変化ということで(1)労働力の 供給面の変化です。16行目のパラグラフでは人口減少の状況。21行目のパラグラフでは 、いわゆる2007年問題について触れております。28行目のパラグラフでは、若年者の厳 しい雇用の状況、特にフリーター、ニートが増加しているということと、その背景など を触れております。37行目のパラグラフでは、労働者の就業意識の変化について言及し ております。このパラグラフの後半では職業生活の長期化の問題があるので、その節目 ごとの能力開発に計画的に取り組むことが必要だということです。  (2)労働力の需要面の変化ですが、11行目のパラグラフでは、企業の人事戦略等が変化 しているという点。14行目のパラグラフでは産業構造の変化、第3次産業化、あるいは サービス産業化が進んでいる状況。19行目のパラグラフでは、非正規の雇用者が増えて いる。21行目のパラグラフでは、こういう変化の中で、企業が労働者に求める能力が高 度化している、あるいはそれに伴って能力主義的な運用がされているという点です。25 行目のパラグラフでは、企業の人材投資の取組みが減少しているということです。  このような需要・供給両面の変化を踏まえ、「今後の課題」です。基本的な考え方と して、33行目のパラグラフでは、人口減少などを踏まえると社会を支えるために人材へ の投資が不可欠である。  4頁の2行目のパラグラフでは、企業と労働者のどちらが主体的に取り組むかという ことに関し、企業なり労働者のどちらか一方が主体だということではなく、二者択一で はなく両者が連携し、協力して効果的な能力開発を行うことが必要だという提起をして おります。5行目のパラグラフでは、人材投資は企業なり労働者だけではなく、社会全 体にも大きなメリットがある。そのための支援としても、国なり地方公共団体をはじめ とした社会が支援していく必要があるのだということです。  (2)は、社会的な必要性なり意義を再度提起しております。必要性を強くアピール することで、能力開発の社会的な浸透を図ろうという趣旨です。13行目のパラグラフで は、今、申し上げましたように能力開発の意義について社会的に認知をしてもらう必要 がある。16行目のパラグラフでは、労働者にとっての意義ということで、第1から第3 まで書いております。第1は、経済社会の変化の中で、労働市場における個人の雇用可 能性を高める。第2は、若年期における教育なり、教育から就業への円滑なシフトを進 める。第3は、職業生涯の長期化の中で、節目ごとに能力開発を行うことが、充実した 人生なり自己実現を図っていく意義が大きいのではないかという定義をしております。  26行目のパラグラフでは、そのような意味に加えてセーフティネットとしての能力開 発の意義です。職業の安定なり、労働者の地位の向上を進めていく上で、セーフティネ ットとしての意義もあるのではないか。30行目のパラグラフでは、他方翻って、企業に とっての能力開発の意義です。いろいろデータもありますが、企業の経営にとっても能 力開発が重要な要素になっている。37行目38行目辺りでは、人材の確保という点から見 ても、あるいはモチベーションを高める点から見ても、企業にとって能力開発を行うこ とは意義があるのだということです。  5頁の2行目で、さらに企業にとっては自らの経営にプラスになるだけではなく、企 業の社会的な使命、社会的な一員としての企業という観点からも、労働者に対して能力 開発を行う、あるいは労働者の行う能力開発を支援していく責務が企業にあるのではな いかということです。  7行目辺りで、そういう能力開発に積極的に取り組む企業が社会的にも評価されるよ うな仕組みをつくる、あるいはそういう社会をつくっていくことが必要だろう、9行目 のパラグラフでは、今言いましたように、能力開発が社会全体としての生産向上につな がる、大きな利益を社会にもたらすものであるということです。12行目のパラグラフで は、人口減少を踏まえると、社会全体として人材投資に取り組んで、労働生産性を高め ていく、あるいは我が国にとっての重要な資源である人材の投資を強化していくことが 必要であるということです。  (3)は、以上の意義なり必要性を踏まえ、関係者の役割・課題について書いており ます。まず「(1)労働者」ですが、24行目のパラグラフで、変化の激しい中で個人が主体 的に能力開発に取り組むことは依然、あるいは当然必要だということ。28行目のパラグ ラフからは、職業生涯の長期化を踏まえた場合に、その生涯の中で節目ごとに計画的、 あるいは多様な能力開発と職業訓練を行っていくことが必要である。その際、労働者の 思考するライフスタイルに合わせた、例えば起業やボランティアを見据えたような能力 開発を考える必要があるのではないか。36行目のパラグラフでは、個人の自発的な能力 開発を進める上で、個人に対する指導なり、助言なり、相談などの助ける仕組みを形づ くることが必要だということです。6頁の4行目のパラグラフでは、とりわけ、若年者 について社会の手厚いサポートが必要だということです。  (2)では、もう一方の企業についてです。11行目のパラグラフでは、依然企業が能力 開発の場面で重要な主体であるということ。15行目のパラグラフでは、企業が重要な主 体であるにしても、従来のように企業が一律に能力開発を行うだけでは十分ではなく、 個人の自発的な取組みを企業として助けていくことが必要ではないか。26行目のパラグ ラフでは、今申し上げましたような、個人に対する支援は、企業にとってもメリットが あるのだ。労働者本人のモチベーションなり適応力を高めるという点で、企業にとって も効果があるということ。32行目のパラグラフでは、その企業が能力開発を行う際の1 つのやり方として、共同して取り組む、共同して職業教育訓練を行うことも有効である 。37行目のパラグラフでは、社会の一員としての企業の責任という意味で、特に若年者 などの能力開発を受ける機会が少ないカテゴリーの労働者に対し、職業訓練を積極的に 行うという形での受け入れ、といった取組みが今後重要ではないか。7頁の2行目のパ ラグラフでは、具体的に企業が労働者を支援する場合に考えられるものとして、金銭的 な支援が当然あるけれども、それ以外に、特に自己啓発を助けるという意味で、労働時 間上の配慮、あるいは休暇を積極的に付与することが重要である。さらに、キャリア・ コンサルティングの体制を社内で整えていくことも、支援の在り方として必要である。 7行目のパラグラフでは、その際に企業の中では職業能力開発推進者が要となると考え られますので、こういう推進者に対する情報提供なり相談技術を付与する。社会からの 、あるいはそういう支援も必要だと記述しております。  (3)は教育訓練機関についてです。能力開発を行う各場面場面で、さまざまな形で民間 教育訓練機関が活用されておりますけれども、今後もその方向は変わらないのだという ことです。その際に、民間教育訓練機関同士のコーディネート、それぞれの教育訓練内 容なり、労働者・企業の訓練ニーズに関する情報を共有するといったコーディネートの 仕組みが必要である、重要ではないかということです。  (4)は行政についてです。24行目のパラグラフでは、能力開発の必要性のところでも記 述しましたように、社会全体として能力開発が非常に有効である、効果があるというこ とですので、当然国なり地方公共団体も積極的に支援していく必要があるわけです。そ の際に、従来の助成金を支給する、あるいは公共職業能力開発施設を直接設置すること も必要ですが、それのみならず情報提供なり、労働時間面での配慮を進める、といった 効果的な支援策をミックスする形で行う必要があるだろう。29行目のパラグラフでは、 それぞれの支援の必要性なり内容なり対象者ごとにきめ細かく組み合わせていくことが 必要だということです。31行目のパラグラフでは、国と地方自治体の役割分担です。そ れぞれの役割分担を踏まえて、重複しないように、あるいは両者相俟って効果的に進め ていくように行うことが必要だろう。その際に、国は特に雇用のセーフティネットの観 点から、全国共通の基準として行うようなものを中心とし、地方は地域に必要な人材育 成に必要な取組みという観点で行っていくべきであろう。その際、国は都道府県に対し て、地方自治体に対して、その環境整備という形での支援を行うことが必要だと書いて おります。  8頁の(5)その他のプレイヤー、関係者ということです。6行目と11行目のパラグラフ では、労働組合を挙げております。調査を見ても、今後労働組合が能力開発、キャリア 相談の場面で果たす役割が大きくなるというデータがあります。実際に組合が積極的な 能力開発を行い始めているケースも見られます。さらには、労働者が自己啓発を行おう とする場合に、その支援する担い手として労働組合の役割は大きくなっていくだろうと 考えられます。  15行目のパラグラフでは、その他の担い手、プレイヤーとしてNPOを掲げておりま す。「また」と書いてありますが、若年者の職業意識形成に関しては、当然ですが学校 教育機関との連携も必要だろう。能力開発の場面で、学校教育機関といかに連携するか が重要だと考えております。  II以降は「今後の施策の具体的方向性」です。施策の具体的な方向性の最初に、教育 訓練機会をいかに提供するかが書いてあります。23行目のパラグラフでは、教育訓練機 関を提供する際には官もありますが、民間でできるものは民間でというような、官民の 役割分担の原則に従い、今後、民間教育訓練機関をより活用するという視点が必要だろ うということです。  29行目のパラグラフでは、どのような者に教育訓練機会を提供することが社会に必要 か、あるいはどのような教育訓練を提供する必要があるのかという点について、対象者 ごとのきめ細かな対応が必要である。「資源の適切な選択と集中」と書いてありますが 、きめ細かに施策を実施していく必要があるだろう。特に、若年者なり主婦という、従 来ややもすると外れがちであった者、あるいは非正規労働者などについて特段の配慮が 必要だろうということです。  36行目のパラグラフでは、職業生涯の長期化ついて記述しております。長期化に対応 した支援が、教育訓練機会を提供する面でも必要ではないかということです。  9頁で、中長期的な視野に立った能力開発について、積極的に支援していく必要性。 その際には、雇用という形での働き方だけではなく、例えば起業する、あるいはボラン ティア活動に従事するといったさまざまな働き方なり社会参加の在り方が増えているこ とにも対応した能力開発が必要になってくるのではないか。能力開発の支援が必要では ないかということです。  6行目のパラグラフでは、企業に対する支援を書いております。先ほど申し上げまし たように、企業には従業員に対する金銭面での支援以外の労働時間などの支援が求めら れるわけですが、そういう支援を行う企業に対して、社会全体としての支援と申します か、そういう企業が評価されるような社会としての仕組みを整備することが必要ではな いかということです。  14行目のパラグラフでは、企業に対する支援の在り方の1つとして、企業の中で人材 育成を担う人、教え手というのかもしれませんけれども、その指導的な人材、教え手を 育てる、教え手をつくるという点で企業を支援する必要もあるのではないかということ です。  20行目のパラグラフでは、人口減少などを踏まえると、女性なり高齢者なり、障害者 も含めあらゆる人が社会を支える側に回れるような能力開発が必要であるということで す。  25行目のパラグラフでは、教育訓練についての評価、いかに評価していくかという点 です。なかなか短時間では効果が出ない、という本質的な性質を踏まえた場合、中長期 的な視野に立って検証していくことが重要である。中央レベルだけではなく、さまざま な地域レベルでの関係者、学校なり教育訓練機関、民間の機関なり、企業なり業界団体 なり組合、そういうさまざまな関係者との連携ができるような体制整備を図ることも重 要であろうということです。  31行目のパラグラフでは、労働者なり企業の能力開発の取組みを支援する際には、直 接補助する、あるいは企業がいかに能力開発に取り組むかというガイドラインを作る、 あるいは情報提供をしていくといったさまざまな方法が考えられるのではないか。それ ぞれの方法についてメリット、デメリット双方をよく検討した上で、より効果的な施策 の組み合わせの在り方を検討すべきだろうという点です。  35行目のパラグラフでは、公的な教育訓練機関の提供主体としては、当然ですけれど も国と地方と両者あるわけです。両者の役割分担については前にも触れておりますけれ ども、その一定の役割分担の下で、より効果的な訓練機会が提供できるよう連携をすべ きであるということです。  10頁で、その教育訓練機関を提供する際には、今後は地方や民間が既に有している教 育訓練施設などを十分活用する。それ以外に、日常生活のさまざまな場面で能力開発と いう効果を持つ機会があるのではないかという点を考慮し、いわゆる能力開発施設と言 われるもの以外の多様な施設の利用・活用も必要ではないか。そういうものをすべてひ っくるめたインフラとしての整備が必要ではないかということです。  2として、「職業能力評価制度の在り方」です。9行目のパラグラフでは、能力評価 基準の必要性です。15行目のパラグラフでは、特に若年者については、若年者の学校か ら就業への円滑な移行を助ける意味でも、若年者の能力の目標を定め、目標達成のため の道筋を示すような仕組みが重要ではないかということです。  19行目のパラグラフでは、能力評価基準については多くの職種をカバーしている、あ るいは労使なり民間教育訓練機関で共通の基準として活用されるといった、使いやすい 、使われやすい制度にしていくことが必要だろうということです。23行目のパラグラフ では、その評価基準を整備していく際には、社会の変化の早さなどに対応する点で、フ ォローアップをしていくことも重要である、ということを書いております。  「3 職業能力開発を行うに当たっての相談・情報提供の在り方」です。29行目のパ ラグラフでは、情報提供を行うことの必要性なり、ユーザーの視点に立った使いやすい 提供の仕方が重要であるということを、33行目のパラグラフでは、情報を提供する場面 ではキャリア・コンサルタントが重要だということから、キャリア・コンサルタントの 育成なり、必要に応じた提供が重要だと書いております。  11頁の「4 その他」です。(1)は若年者について書いております。10行目のパラ グラフでは、現在行っている施策の紹介です。平成15年6月以降、若者自立・挑戦プラ ンに基づいて施策を実施している。15行目のパラグラフでは、若者の自立を促進するた めには、若者自身に考えさせる、あるいは職業を選択させることが前提ですけれども、 それを助けるために、社会全体として適切な助言を行うなどのきめ細かな視点が重要で ある。その際には、地域の創意工夫をこらした取組みも重要だということです。  20行目のパラグラフでは、若年者に対する能力開発を行うためには、企業が能力開発 を行う主体としての参加が不可欠であると考えております。「社会的な使命」と書いて おりますが、若年者に対して体験講習の機会を与える、あるいはそれ以外の教育訓練の 機会を与える積極的な取組みが企業に求められているのではないか。若年者の円滑な職 業生活の移行に関しては、学校との連携はもちろんですが、企業を含めた地域全体との 連携が重要だということです。  (2)は、職業生涯を通じた能力開発の取組みの推進です。これまでも何カ所かで出 てまいりましたが、今後の職業生涯の長期化に応じた節目ごとの能力開発、適切な能力 開発への取組みが必要だ。34行目のパラグラフでは、そういう能力開発を行うためには 、職業相談の体制の充実が必要である。そういう労働者を支援するための企業の支援も 必要だという点を書いております。  12頁の1行目のパラグラフでは、特に中高年齢者の能力開発を考える際には、単に知 識なり技能を新たに付加する、習得させることだけではなく、思考行動特性(コンピタ ンシー)の強化も必要ではないか。そういう方向での訓練機関の提供が重要だろうとい うことです。  (3)は技能継承への対応です。9行目のパラグラフでは2007年問題の再度の提起。1 2行目のパラグラフでは、製造現場での技能の継承について、多くの企業が危機意識を持 っており、早急な対応が必要である。14行目のパラグラフでは、こういう問題に対応す るために幅広い取組み、国民各層の取組みが必要であるということです。  (4)は国際協力です。21行目のパラグラフでは、国際協力、あるいは国際協調の重 要性の記述。24行目のパラグラフでは、その国際協調の中で人材育成面、人材開発の面 で、開発途上国に対して協力を行っていくことが重要だ、ということを書いております 。  以上が、素案として出しているものです。これについてご意見をいただければと存じ ます。あと、資料2ということで、論点とこれまでの意見の概要を付けております。こ れは、これまでも毎回お出ししておりましたが、前回の議論も踏まえてリバイスをさせ ていただいております。参考資料として、これまでのデータとも重なりますが、データ の材料をお出ししております。ご説明は以上です。 ○諏訪座長  本日は、こういう形で報告書の素案が出てまいりました最初ですので、是非よく議論 していただきたいのは構成の部分です。論点表を少し作り変えておりますので、こうい う構成でいいかどうかいろいろご意見をいただければということが1つです。もう1つ はこの中身で、とりわけ落ちている部分がありましたら、早い段階でご指摘いただけた らと思います。 ○上西委員  構成と落ちている点ということですが、これまで能力開発というときに、Off−J Tとか自己啓発というイメージに引きずられるとまずいよ、という話を繰り返ししてき たと思います。能力開発というのは、もちろんそこも大事だけれども、日々にどういう 仕事をするか、自分がどういう仕事を日々やっていて、それがキャリアとして少しずつ どういう仕事に移っていくのか、あるいは日々の仕事を上司がどうマネジメントし指導 するのかというところが重要だという話が繰り返し出てきたと思います。  資料IIのところに、OJTの中には1、2、3とあるけれども、広義のOJT、教育 的見地からの配置や仕事の割当てが重要ではないかというところがあったのですが、そ れが最後になると落ちてしまっている気がしています。結局のところ、Off−JTを どうするか、自己啓発をどうするか、情報提供をどうするかという、これまでの能力開 発行政の既存メニューの中に論述が落とし込まれてしまっているという印象を持ちます 。  確かに、企業内でのキャリア権みたいなもの、あるいは上司の指導の在り方をどうす るかというところに、能力開発行政がどうかかわるかというのは難しいところがあると は思うのですけれども、考え方として能力開発というときには、広義のOJTが一番重 要なのだということは落としてはいけない点だと思います。  それに関連して言いますと、若年に関しても職業意識の形成やスキルの形成というの ももちろん重要なのですけれども、広義のOJTが得られるような場に彼らが就けるか どうか、ということもすごく重要な問題なので、それは雇用行政と関わってくる問題な のです。能力開発行政と雇用行政がそこで連携して進めていかないと、いわゆる狭義の 能力開発の部分だけやっていても、若年問題はなかなか解決していかないということが ありますので、そこへ視野を広げる必要があるのではないかと思いました。  もう1つは構成の点ではないのですが、1頁に「約5割の企業が」ということが出て きています。これは、最終的な報告書にはこういう形の資料が付くと思うのです。その ときに、「5割の企業」というのは何の5割だろうということが問題になると思います 。例えば、1,000人以上の企業を対象にした調査と、30人以上の企業を対象にした調査だ ったら、結果で何割というのは明らかに違うはずです。  私は、いつもほかの報告書でも感じているのですが、参考資料という形で出てきたと きには、これが誰を対象にしたものなのかがわからない。例えば、労働力調査など、結 果がすべて明らかにされているものは元のデータに辿ることができますけれども、特に 厚生労働省から民間のシンクタンクに委託しているような調査であれば、その報告書は 出ていないわけです。そういうものに関しては、この図表の下に、これはどういう企業 を対象にしたもので、どれぐらいの回答を得てというような基本情報はすべて出してお かないと、「5割の企業が」と言われても、何の判断材料にもならないという気がしま すので、そこは是非よろしくお願いします。 ○佐藤委員  基本的には上西委員と同じです。現状のところに「職場での人材育成の力が落ちてき ている」ということを書いたほうがいいかと思います。別の所でやっている調査で、個 人の回想データがあって、入社してから3年間の間OJTについていろいろ聞いている のです。  当時、目標となる先輩がいたかどうか。見習いとして、訓練期間として扱われた期間 はどのぐらいか。そのときに、職場で先輩がいろいろ指導してくれる雰囲気があったか とかいろいろ聞いています。それが20代、30代、40代、50代とだんだん落ちてきていま す。職場で人を育てる、特に若い時期のOJTというのはすごく大事だと思うのですが 、それが落ちてきていると思いますので、そういうことも書いたほうがいいかと思いま す。  6頁の企業のところは、自己啓発しかないのです。ここは企業なので、上西委員が言 われたように、行政としてどうするかというのは難しいのだけれども、課題があるとす れば課題は指摘し、企業としてはこういうことが大事ですと指摘すべきでしょう。特に 「職業能力開発推進者が要」と言っているわけだから、それと職場内での教育訓練体制 を整備するといったときに、Off−JTではなくOJTの仕組みをちゃんとウォッチ して、OJTに関してちゃんとやってくださいということを企業のところについては書 いてもいいのではないか。そのことと行政のリンケージがうまく書けないにしても、「 企業」と書いてあるわけですから書いてもいいかと思います。細かい点は、また後で申 し上げます。 ○廣石委員  1点は、今お2人がおっしゃったことと全く重なります。つまり、企業に求められる 役割・課題ということでお2人がおっしゃいましたように、上司というもの、マネージ ャーの役割というものがはっきり出ていないです。上司がどうすべきなのか、職業能力 開発について、上司が非常に大きな役割を果たしている、マネージャーが果たしている 、それをどのように考えるのか。実際の施策ということになると、行政との関係は難し いというのはお話のとおりなのですが、これは研究会の報告書ですから、研究会におい てはこのような問題意識を持っている、ということをもっとはっきり出していただいて もいいのではないかと思います。  マネージャー教育、例えば企業においてマネージャーの教える力ということがちょっ と出ていました。マネージャー教育をどのようにするのか、そしてキャリアに対して一 番最初に相談するのが上司である、というのが前回の研究会で出ていたと思います。そ ういうコーチングの考え方をどのように上司に付与していくのか、ということが大きな 問題であろうということは、この研究会の中でも取り上げてしかるべき内容と考えまし た。  もう1つは、教育機関との連携ということで、これは文部科学省との関係もあるので 強くは書けないところなのかもしれませんが、リカレント教育について、社会人大学院 がどのような意味を持つのか。二部も含めて、大学における再教育、社会人大学におけ る再教育、そして若干は若年者における職業能力意識ということが出ていますけれども 、職業能力意識について、どのように学校教育で具体的に展開していくのか、という問 題意識は持っている、ということをもっと鮮明に出してもいいのかと感じました。とり あえず大きなところは以上です。 ○樋口委員  欠席していて、突然発言するので間違った指摘になるかもしれませんが、そのときに はご容赦いただきたいと思います。企業の中における、必要とする能力開発については これで十分足りているのかという気がします。  もう1つ、国家戦略として職業能力開発を考えたときにどう位置づけるのか。いま、 日本の人材として不足している部分、特に職業能力といったところに焦点を当てたとき に、従来のブルーカラーやホワイトカラーといったところにターゲットを当てた施策だ けでいいのか。リカレント教育という話が出ましたが、例えば、司法あるいは会計、さ らには政策立案能力や戦略構想能力といったものは、どちらかというと多額の費用を必 要としますし、時間的にもそう短期間のものではなかなかできない。そういうものに対 する指摘が見られないのですが、それはそれでいいのでしょうか。  例えば、7頁で「行政」が出てきます。ここでもなんとなく「従来のような助成金や 、公共職業能力開発施設を設置することによる支援のみならず」というように、ここで お金の話は切れてしまいます。あとは「情報」の話、「時間」の話だということで、な んとなくここでは従来からの雇用保険の財源を念頭に置いた指摘になっているのかとい うことで、機関助成とか教育訓練助成金の話は「従来から」というところで出ていると 思うのです。それ以外の、もっと多額の費用を必要とするような、そして国家戦略とし て必要とするような教育も増えているのではないかと思います。これは、ここに利害関 係者がいっぱいおりますので言いづらいところではあるのですが、そういうところに対 する目配りとして、例えば税額控除の問題、リカレント教育奨学金と私は呼んでいます が、そういうものを一般財源との関連等を含めて検討していく必要があるのではないの だろうか。  なんとなくこじんまりしたものになっているということで、国としての職業能力開発 戦略ということを、やはりどこかでにおわせておく必要があって、そこのところがほか の国に比べてちょっと手薄になっているという認識を私は持っています。それが、なん となく日本を遅らせてしまっているという視点が必要ではないかと思うのです。余計な ことであれば、今のはカットしていただいてもよろいのですが、そんな印象を持ってい ます。 ○北浦委員  樋口委員の大変大きな話の後に、細かいことを言うのは恐縮なのですが、これは素案 なのでこれでいいのですけれども、1つの研究会をやっていくときに、ここの研究会の 目玉は何なのかという打ち出しがあってもいいのではないかと思うのです。  現状のところにいろいろなことが書いてありますが、危機意識が見えてこないようで す。今、何が一番危機なのだろうか、それがもう少しメリハリが出てこないといけない のではないか。いろいろなものが出てしまっているので、総花というと言葉はよくない のですが、そういう中で見ていって1つあるのは、「技能継承」の話が出ています。技 能継承というのはかなり切実なのです。ものづくりの場合はかなり進んでいるところは あるのですが、ものづくりだけではなくて全体的に技能を継承していく。この問題とい うのは、今回このタイミングでは非常に大きなウエイトがあるのではないか。  先ほど来言われている、OJTを中心とした現場力が落ちているという問題も重要で す。この問題意識も非常に大きいということです。  「職業生涯の長期化」という点では、明らかに労働政策としては、高齢者への施策の ところに力を入れ始めている。長期化していく中において、能力形成が若年期だけで足 りるのかとはっきり書いてあるのですけれども、そこのところをもっと明確化していく 。そのように、もう少しポイントになるところが鮮明に出ていると、後ろの「政策」の 読み方がもうちょっと違ってくるのかという感じがしています。これは素案ですが、こ れからまとめていくときには、もうちょっとその柱立てを書いていただくといいのでは ないか。  もう1点は抜けているところというか、たぶん強化されるところ。企業の役割、労働 者の役割はいいのですが、教育訓練機関も役割は書いてあります。しかし、公共政策を 考えていくのであれば、今の教育訓練の現状というものをどう把握するか。そのときに 、特に教育訓練機関がどういう位置づけにあるのか。例えば、これだけ専修学校、各種 学校が増えている、あるいは民間のいろいろな学習機会も増えている。そういう中での 現状があって、それでなおかつ何が足りないのか、という見方をしないといけない。や はり、教育訓練の現状という部分が、まだ記述的には出ていないと思うのでその辺を書 いてもらいたいと思います。  そのときに、情報が足りないとか、ある一定のところに偏ってしまうとか、場合によ っては地域的な偏在ということで、ユニバーサル・サービス的な視点も出てくるかもし れません。そういう教育訓練機関の現状のような記述がもう少しあるといいのではない か。印象だけ申し上げました。 ○山川委員  まず、構成的な点だけ簡単に申し上げます。今、北浦委員が言われたことと同じよう な感じを持っています。この研究会では、何を新たな課題として取り組んだのかという 点です。前にも申し上げましたが、通常は現状があったら、その現状に問題があるから 新たなことをやろうという発想になると思うのです。1頁と2頁に「現状」があり、3 頁から4頁に「今後の課題」とあって、4頁の「職業能力開発の必要性」という一般的 な話になります。  ここでなくても構わないのですけれども、3頁の2の(1)「基本的な考え方」と、 (2)「一般的な必要性」のところに「現状にはこのような問題があって、新たな政策 的対応が必要になっている」と、だからこういう研究会でいろいろ議論しているのだと いう部分が入ったほうが位置づけが明確になるのではないかと思います。  樋口委員の言われた点も、総論的な部分に関わる点で賛成です。若干具体的な例にな りますが、昔、中国には製造業のためにアウトソーシングしていたのですが、2号ぐら い前の『ビジネスウィーク』を読んだら、ソフトウェア開発のために日本企業がアウト ソーシングしている、という状況になっているということでした。日本としては、かな り危機意識を持たなければいけないような状態になっているのではないかという気がし ます。つまり、日本の国家としての国際競争力の維持ないし向上という発想があっても よいのではないか。  総論のところでどこに行くかというと、やはり社会全体の話かと思います。5頁辺り に「社会全体としての生産性向上」と書いてあります。これだけ国際的な状況が変化し ている中で、日本としてどう考えるかという発想が総論的にも盛り込めるのではないか という感じを持ちました。 ○佐藤委員  先ほど、北浦委員は危機意識がないという話をされましたが、これは私の危機意識は 何かというと、今までの能力開発行政を見ていると、日本の企業は企業内教育ではOJ Tでやってきた。特にOJTは意識してやっていたかというと、実際はなんとなくやれ ていたのが実態だと思います。とはいえ、OJTとあわせて企業内教育の仕組みがあっ た。  そういうものを、行政としても支援する、特に企業内教育を支援するということでや っていた。それが大事でなくなったわけではないけれども、ある時点から支援の方向が 変わり、これから大事なのは、企業外教育で、労働者自身が自分で、能力開発キャリア を考えながら自己投資していくことにあるという考え方が強くなった。ですから、企業 の外での教育訓練機会を整備したり、それを支援する自己啓発助成金みたいなものを作 っていく。  しかしいつの間にか、ちゃんとやれていると思っていた企業内教育、時にOJTが、 実はいつの間にか壊れてしまった。特にOJTのところを日本の企業が意識してやって いたわけではないのでその低下が著しい。OJTがなんとなくできている条件が以前は あったが、それがいつの間にか崩れてしまった、というのが私の危機意識です。  今までやってきたことを、やらなくてもいいということではないけれども、実は企業 内で、特に職場での人材育成のところを再構築するということは今やらないと大変なこ とになるというのが私の危機意識です。特に、現場での技能継承を考えたときに、そこ が崩れてしまったらどうしようもないのです。 ○諏訪座長  いろいろなご指摘がありました。大きなところでは国家戦略の問題、それに向けて資 源をどのように確保し、配分していくか。それから、全くその反対側といいますか逆の 側に、これまで日本の強みだと思っていた部分が、実は空洞化しているのではないかと いう、OJTなどを巡る日々の実践教育訓練、能力開発に関する問題点。さらに、その 要になる上司の問題、そうしたもの全体を補っていくようなリカレント教育の問題点等 々いろいろ今までのところでもご指摘がありました。これまでのところに関して、事務 局のお考えなりを聞かせてください。  言うまでもありませんが、これは素案にすぎませんので、これで全部をまとめようと いうわけでも何でもなくて、これまでの議論の中から拾い上げ、再構成してこういう形 でたたき台を作っていただいたわけです。その辺のところでご意見をいただきます。 ○総務課長(妹尾)  いろいろなご指摘をいただきましてありがとうございます。順不同になるかもしれま せんがご説明いたします。現在の現状をどう捉えて、何が問題かということをもう少し 明確にし、それに対しての対策はこうなるのだという論旨を出すべきだということを、 山川委員、北浦委員、その他の委員からもご指摘がありましたが、その点は確かにそう だろうと思います。報告書という形でまとめる際には、当研究会としての問題意識なり 課題をどこにセッティングしたかがもう少し明確になるような書き方、あるいは分析の 仕方をさせていただければと思います。  その中で樋口委員、山川委員からもありましたが、国家戦略としてどう位置づけるか 、あるいは能力開発を国家戦略として何に取り組むべきかという点のご指摘がありまし た。その辺りも非常に大きな課題ですが、我々が将来を見詰める上では、もしかしたら 避けて通れない部分かと思っております。ややもすると、どうしても従来の施策から脱 却するのはなかなか難しいのですが、今、新たなご指摘というか刺激をいただきました ので、そこはもう少し考えてみたいと思います。  特に、企業の中でのOJTの問題のご指摘が上西委員、佐藤委員、廣石委員からあり ました。そういう点について書かなかったつもりではなかったのですが、確かに改めて ご指摘を受けますと、そういう点の記述が少し足りなかったかと思います。いずれにし ろ、企業が労働者に対して行う教育訓練が最近は手薄ではないか、ということが大きな 問題意識の1つだろうと思います。企業が労働者に対して行う能力開発の1つの形態、 あるいは重要な形態であるOJTの在り方について、将来に向けてどうしていくべきか 。その中でマネージャー教育なり、教える人材の教育が必要だという点は書かせていた だいておりますが、そういうものも踏まえて、もう少し明確な形にしていければと思っ ております。  若年者の点で、教育機関、文部科学省なりとの連携という意見もありました。教育機 関との連携という点は、8頁の「その他」の辺りで少し書かせていただいておりますが 、確かに重要なご指摘だろうと思います。技能継承の点や、その他の指摘もありました ので、そこは織り込めるような形で考えてみたいと思います。 ○職業能力開発局長(上村)  平成9年と平成13年の改正で、個人の取組みを進める、個人も取り組まなければいけ ないということで、その取組みに支援するのは企業も国もという方向に来ています。技 能尊重機運というのは平成4年に取り上げられた条文が1つ入っています。  そういう方向で来たのですが、これまでのこの場の議論を踏まえると、そういう方向 はさらに進めるとしても、企業が果たしてきた役割を再認識して、企業にも一層取り組 ませるべきではないかという議論が大方の一致した意見だったと思いますので、それを ここで考えたいと思っています。  ただ、どういう論理構成にするかです。企業が、こういう事情があってやっていない 、あるいはやりたがらない企業について、やらないのはけしからんからやれと言うのか 、どういう観点で企業が取り組むのか。企業が雇う労働者に対して、能力開発すること は外部効果があるから、一種公共財に投資するような格好でやれというのか、どういう 理屈で企業がというところを整理できればと思っています。いずれにしても、そういう 方向に再確認する方向にしていきたいという気がしております。  現に、企業は金がないとか余裕がないということで取り組まなくなってきているのだ ろうと思うのですが、それがけしからんというだけでは通らないのではないかと思いま す。そこのところを教えていただければと思います。 ○樋口委員  今のご指摘は、非常に重要なポイントだと思います。なぜ行政、あるいは国や自治体 が能力開発に関与する必要があるのか。これはおっしゃるとおり、外部効果がある。も し、本人にとってのみの利益であるのだったら、これは本人に任せればいいわけであっ て、そこに市場の不完全性があるのだったら、その市場の不完全性を補うような施策で いい。  そこにおける外部効果とは何かということです。ソーシャル・ベネフィットというの は大きく2つあるのではないかと思っています。1つは、通常エンプロイアビリティと 言われているものですが、それを能力開発することによって本人の雇用可能性を高める ことができる。  もう1つは、その人の能力が高まることによって、新たな雇用機会を作り出すことが あるのではないか。例えば研究開発といったものが能力開発によって達成されて、新製 品ができてくる。先ほどの例でいえば、国家戦略としてIT技術を身に付けた人、ある いはグローバル化に対応できるような人、その人たちは本人にとってももちろんエンプ ロイアビリティが高まるわけです。それが、今度は企業、社会、国家にとって雇用機会 を作り出す。新たなものを作り出すところというのは、ソーシャル・ベネフィットだと 考えるわけです。  ところが、この報告書だと、どちらかというとリーダー・フォローワーという言い方 がいいかどうかわかりませんけれども、従来の職業能力の政策の対象が、どちらかとい うとフォローワーと言いますか、社会が必要としているから、その必要としているもの にマッチングさせようということです。社会で必要とするものを作り出すリーダーに関 する能力開発を私は国家戦略だと申し上げたのですが、そこのところをどう考えるのか というのが、気持はわかりますがなかなか従来の施策から抜け出すことが難しい。  ただ、今必要となっているのは両方だろうと思うので、そこのところを新たな視点と して付け加えることが可能であれば、研究会報告として出してほしいという気持になっ ています。 ○諏訪座長  焦点はだんだん絞られてきて、一方で知識社会、ナレッジ・ベースド・ソサエティと 呼ばれている時代、そしてそこにおける競争力確保、EUのリスボン戦略のような視点 から見た能力開発の在り方という大きな課題の問題が一方であり、それからもう一方は 、足元を固めるという、OJTあるいは企業現場における能力開発、こうした2点に関 して、もう少しこの報告書で書き込むべきである。危機意識をしっかりと示して書き込 むべきである。その際には、まさに、上村局長がおっしゃったとおり、どういう仕組み でそれを現実に実現可能なものとしていくか。言いっぱなしでさあ大変だと言って旗を 振るのも大事ですが、もう少しそこら辺を議論してみたいと思います。  そこで、国家戦略の方が重要とか、簡単に議論できるというわけではないのですが、 国家戦略をまずやった後で、OJTの方の議論をしてみたいと思います。なぜかという と、OJTの方がこれまで蓄積はありますから、もう一度きちんと足元を見直せば議論 できますが、国家戦略において、例えば「高度職業人大学院」などを、どのように運用 していくべきかとか、あるいは知財戦略を担うような人材をどうするか、このような問 題というのは、実は日本の一番弱点だと言われている問題であります。そこに関して、 能力開発行政が全く関与しなくていいのか、放っておいても出てくるのかという、ここ ら辺のところが、樋口先生からの痛烈な問題提起だと思います。とりわけ仕組みの部分 について、1つが、先ほどもあったように、これまでのような雇用保険の三事業の1つ の中でやろうとすると、若者とか、非正規が、どうしても財政的な資源が確保できない 。したがって、何らかの形で一般財源なり、あるいはヨーロッパなどにあるような、フ ランスに典型的にありますが、一定の賦課金を課す。ある意味では三事業も、非常に小 さなその種の在り方だと思いますが、フランス型の場合であれば、労災保険に似た形で 賃金総額か何かに掛けてしまうので、資金源はもっとずっと大きくなるわけです。それ で、非正規がいても全部かかるわけですから、労災が非正規の人にもかかるのと同じ枠 組みになるということでしょう。  このような仕組みとか、消費税で対応するとか、いろいろあると思います。そこでち ょっとお知恵のあるところで、樋口先生、お願いします。 ○樋口委員  やはりソーシャル・ベネフィットというものが発生するかどうかということが、一般 財源にその財源を求めることができるかどうかというポイントだろうと思うのです。個 別企業とか個別の労働者ということであれば、その組織の中での自助努力が求められる ということですから、ある意味では三事業であるなり、広く雇用保険の財源で何とかし ろというようなことになるのだろうと思います。  ところが、先ほど申し上げたような、外部効果をもってくる。特に第2番目の、「雇 用の創出」とか、国民のウェルフェアにそういったものが貢献していくのだというよう な論理立てが可能であるなら、そこについては一般財源、税金に基づく負担といったも のも可能になるだろうということです。  それを具体的にどう考えるかということですが、例えば、政府税制調査会(税調)の 方でも、ここのところ、雇用形態の多様化に対する税の在り方ということで、いろいろ 議論があって、その中で申し上げたことの1つは、例えば、完全に休職してしまう。仕 事を休んでしまう。そこで所得控除、税額控除を認めましょうといっても、これはタイ ミングの問題があるわけです。そのときは所得税を払っていないわけですから、どんな に控除されても、それは意味がない。だとすると、今度働きだしてから、過去に掛けた コストといったものが、実額控除という形で引かれるような形の制度を求めていくとい うことが起こってくるのかなと思います。  今のところ、コストがかかった時点で、すべて企業の法人税についても控除するとい うような仕組みなのですが、そういったタイミングのずれを認める新しい税制というも のが必要になってくるだろうということです。  これも、さらに税調の中でも、ちょっとした議論がありますが、日本のような確定申 告があまり普及していない社会において、実額控除制度というものが、どこまで普及し ていくのか。これは税制自身を変えて、全員が確定申告をするというような仕組みに変 えていくという、大がかりな変更が必要になってくるかと思います。  それをする前に、もっと簡単なものでできないかということを考えれば、やはり奨学 金制度というようなものがあり得るのではないかということで、これを貸与にするのか 、あるいは給付にするのかというところはあると思いますが、それは、簡単に言えば今 のところは教育訓練助成金のような仕組みで、一般財源とは関係なしに、働いて雇用保 険に入っているという人を対象にしているわけですが、これが今問題にしているような 、ナレッジ・ベースの人材ということになってくると、なかなかカバーしきれないとこ ろがあるわけです。雇用保険では、もう完全に会社を辞めてとか、あるいは無業である 人たち、学生から直接そういった大学院に行く人たちといったものに対しては、この教 育訓練助成金が支給されませんし、額も小さいということがあって、ここに新たな仕組 みを作っていくことが必要だし、私は可能ではないだろうかと思っています。 ○諏訪座長  さらに諸先生方からも、少しこういう新しい時代の国家戦略に向けて、いろいろお考 えがあればお教えください。 ○佐藤委員  今回の素案で落ちているもので、日本の国として大事かなと思うのは、やはりリカレ ントのところで、高度職業人のところの教育だろうと思います。今まで厚生労働省でや っていたのはハウツー、極端なことを言うと、短期的な能力開発で、これもすごく大事 なのですが、私はやはりこれからホワイトカラーの高度な職業能力を育成していくとい うことになると、やはり大学院レベルの教育、理論的な教育をきちっとしていくという ことだと思います。先ほど職業寿命がすごく長くなるという話がありました。経理か何 かに配属されて5、6年OJTで経理の知識を勉強してき、さらにもう少し理論的な知 識を得るために大学院に入って勉強するということがすごく大事で、理論的に整理して 、その後またOJTといった組み合わせが、特にホワイトカラーのこれからの職業能力 開発にはすごく大切だと思うのです。  そうしたときに、1つは、そういう教育訓練の機会を提供する側の問題と、教育訓練 にかかる費用をどうするかということだと思うのです。費用の方は、私はやはり、樋口 委員が言われたように、ローンか奨学金かなと考えていますが、奨学金の方は、一般的 な学生を想定しているので、普通に働いていると、所得条件でひっかかってしまっても らえなかったりするのです。国民生活金融公庫の教育ローンは、自分の子供だけでなく 、本人も受けられるので、ああいうローンなどの仕組みを、もう少し低利でやっていく ということも考えられると思います。もっと大事なのは、教育訓練機会の方で、先程の 個人調査で社会人大学院についてのニーズを聞いたのですが、どういう時間帯とか期間 で提供されれば受けたいかと聞くと、やはり1年の夜間課程なのです。今のは2年で、 夜間ももちろんできていますが、昼間も結構あるし、夜間でも2年なのです。2年、今 の仕事をしながらというのは結構きついので、やはり1年のコースのニーズが大きい。  ですから、イギリスなどにある1年コースのMBAのような形です。1年であれば、 フルに休んでも行けるし、昼間でも可能性が高い。1年コースは今でもやれるのです。 もう少し厚生労働省から、今の働く人たちが、どのような教育訓練機会を求めているか ということを、文部科学省に伝えて、1年コースを作ってもらうということはすごく大 事で。そうすると、企業も派遣しやすくなるし、本人も自費でも行きやすくなると思い ます。 ○諏訪座長  1年コースは、もうすでに日本でも、いくつかの大学もやっておりますが、ともかく 、1年コースは1つの考え方ですね。北浦先生、どうぞ。 ○北浦委員  非常に重要なご指摘が続いていて、確かに金銭的な問題はいろいろおっしゃっている とおりだと思うのです。今の佐藤先生のお話の延長というか、繋がりで言うと、やはり 労働時間の問題が結構大きいと思うので、その枠組みをどう作っていくか。やはり提供 側の形を変えないといけないということが重要ですが、一方において、受けられるよう な環境をどう作ったらよいか。ですから、かつてから言われているような有給訓練休暇 なのか。あるいは無給でも教育訓練休暇にするのか。現実論からいくと、なかなか企業 が、夜間の大学院でも出すのが辛いというのが現状で、1人でも発生すると、相当苦労 させられるのは目に見えているわけですが、やはりそういったような労働時間面の問題 。本人に聞いてみると、無給でもいいから行きたいとか、まして、外国に行きたいなど と言われてしまうとどうしてよいのか。そういう問題は結構発生するわけです。  ですから、休暇のとり方、あるいは労働時間面の配慮というところに、やはりもう少 し踏み込んでいかないといけないのかなと。それは、有給というような形で、金銭の形 を変えたものなのか。有給ではない、単なる時間というもので与えていくのか。ここの ところはひとつ、従来からの基本論ですが、いよいよもって重要になってきたのかなと いう感じがしております。  それから、枠組みとして、そういう仕組みを考えていくときに、やはり場の提供とい うことですね。それは国家戦略という風に考えるのであれば、私はやはりそこのところ で、ユニバーサルに受けられるかどうかということが、1つの重要な視点になってくる と思うのです。さっき、現状はどうかと申し上げたのは、偏在している可能性があるの です。地域によって、地方に行った場合には、多分受けられないものは結構ある。なり たいのだけれども、高度人材などの教育メニューがないとか。今は確かに、遠隔教育と か言っていますが、遠隔教育というのも、口で言うほど簡単なものではないので、やは りリアルな教育の場面が欲しい。先ほどの教育訓練機会の話になってしまうのかもしれ ませんが、地域的な偏在がどうなっているのか、そこを点検していく。逆に言うと、そ れを受けやすい形をどう考えていくのか。アクセスポイントが身近にできることを前提 にして、その上で必ずしもリアルでなくてもする方法もあるよとか、そういうところを 変えていく。やはり、その教育訓練機会を、あまねく平等に受けられるような環境をど う作っていくのか。そこの点検作業ということと、それに対する整備ということが、政 策的方向としては出るのかなと思います。 ○廣石委員  国家戦略という大きな言葉にしてしまうと、なかなか難しいのですが、やはり今佐藤 委員がおっしゃったことや、私も冒頭に申し上げたところが一番大きいのかと、現場か らすると思います。つまり、職業生活がずっと伸びていく。その中で、職業能力をどの ように位置づけていくのか。そしてそれが、社会にどのように還元されていくのか。そ れがひいては企業の競争力強化、そして国家の競争力につながっていくというようなグ ランドデザインを書いていくとするならリカレント教育であり、国家ということであれ ば、厚生労働省を越えて文部科学省もある意味ではこれを越えて、経産省の枠も越えて という形になるわけですが、そのような人材をどのように育成していくのか。そしてそ の中の1つの解がリカレント教育で、特に夜間の大学院、高度専門職大学院というよう なところが1つの解になる可能性がある。いつでも大学へ戻れる、いつでもきちんとし た教育を求める。それが1本あって、その上で、先ほど北浦委員がおっしゃったように 、そのための時間をどのように考えるのか。場の偏在というものをどのように考えるの か。今考えているということだけで、それ以上のところは今のところまとまっていませ んので、とりあえず感触だけです。 ○山川委員  先ほどの税制については、あまり詳しくはないのですが、昨日か今日の新聞で、給与 所得控除を削減するという話があって、発想としては、むしろ、労働者というのはもと もと投資する存在ではないということだったのですが、最近ではだんだん投資する存在 になってきているので、給与所得控除はともかくとして、何かうまく費用控除でやりや すい仕組みを考えてもよいのではないかという気がします。国税の問題かもしれません けれども。  もう1つは、国家戦略云々で考えてみた場合には、若い頃からやらないといけないよ うな面もあるのかなと思っています。いろいろ、ソフトウェア・ジャイアントみたいな 人が、最近よく出てきていますが、そういう人を、若い人はわりと支持している人も多 いのではないか。つまり、高度の人材を養成するというような観点で、11頁だと、フリ ーター、ニートの話が出ていて、これは大変重要だと思うのですが、むしろ若いうちか ら、そういう高度の人材を育てられると言いますか、そういう夢をもてるみたいなこと を、教育面で考えてはどうか。これもまた、廣石先生がおっしゃった文科省の話になる のかもしれませんが、若年者教育というのは、2つの視点があり得るのではないかとい う気がします。 ○諏訪座長  だんだん大きな話になってきていますが、例えばこれからの国家戦略というふうに考 えていくと、戦前の国家戦略の中で、重要な事項の「兵役」に対しては、ちゃんと旧職 、元職への復職の措置があったわけです。同じように、国家戦略だとすると、ある一定 の教育訓練をする場合には、復職させるという、休職、無給でもいいのだろうと思うの ですが、そういうことだってあり得るだろうとか思えます。  それから、長期訓練休暇の問題だけでなく、どこの国でもそうなのですが、産業構造 の変化の中で、短期のノウハウ教育があまり効果を上げなくなってきています。したが って、北欧などが中心ですが、かなり長い転換教育、1年とか場合によっては2年とい ったような転換教育をする。こういう転換教育というのは、やはり基礎からきちんと訓 練をしていくというようなプログラムも必要になるとはいえ、なかなかすぐにはできな いということもあるので、この種の観点や必要性の指摘だけはしっかりと書いておいて 、その上で別の機会に、この部分に入っていきたいと思います。 ○樋口委員  今ご指摘の点は非常に重要なポイントで、能力開発中、休職制度という形ですが、そ れを権利にするのかどうかという点については、また議論があると思うのです。現にい くつかの企業では、無給ですが、3年間の休職で復職の権利を与えて、本人がどこへ行 ってもいいというような仕組みが、いくつかもう始まっていると聞いていますので、実 態はどうなっているのか、事務局の方で何かまとめることができたら、是非教えていた だきたいと思います。 ○諏訪座長  それでは、今日の指摘を受けて、次回また書き込んでいただいたものを、皆さんと検 討したいと思います。そこで今度は、地に着いたところに戻ってきて、「職場における 現場力」と北浦先生がおっしゃったような、その希薄化、空洞化の問題にどう対応して いくか。それにはもちろん、非正規雇用、非典型雇用の増大という問題も関わっていま すし、それから、現場におけるマネージャーが、プレーイング・マネージャーとしても のすごく忙しくなってしまって、コーチ役みたいなものばかりしていられないとか、昔 と違って、人間関係がサバサバしてきた分だけ、なかなか指導しようとしても容易でな いような部分があるとか。もっと大きいのは、これだけ技術変化や知識の変化があると 、実は上司が説教しようとしても、下が聞かないという問題もあるのですね。上司が、 「どんどん勉強しなきゃいけないぞ」と言うと、下は「じゃああんた、メールくらい自 分で打ってよ」とか、こういう風になるわけです。ちょうど親がテレビを見ながら、「 あんた勉強しなさい」と言うのと同じような構図が現場にはあるということを、よく若 い人たちから聞きます。  したがって、ここらへんを含めてご意見をいただきたいと思いますが、先ほど国家戦 略で、上西先生にだけご発言をお願いするのを忘れてしまいました。それも含めて、ご 意見がありましたら、まずお願いします。 ○上西委員  あまり整理されていないのですが、先ほど、厚生労働省サイドの方から、OJTとい うのを、企業の教育訓練、企業内教育訓練という言い換えをされたのですが、企業内教 育訓練という言い換えは、ちょっとしないでほしいなという気持がありました。能力開 発というときには、教育訓練だけではなくて、実際の仕事を、何の仕事をしているのか 、どういう風に仕事をしているのかというところに視野を広げてほしいと思っています 。  ですから、教え方というのも、いわゆる教育訓練でどう教えるかだけではなくて、日 々の仕事をどう与えるか、日々の仕事をどう教えるかというところに視野を広げて考え ていただきたいと思っております。そのときに、今、諏訪座長の方から、教える人も大 変だというご指摘がありましたが、職場の中に入っている若い人も大変だという実情が どうもあるらしい。非正規雇用と正規雇用が、これだけ若年のところで分かれてきてい ると、正規雇用の機会に恵まれた若年層が、かなり負担が重くなっている。例えば労働 政策研究・研修機構の第1回ビジネス・レーバー・モニター調査等を見ても、責任のあ る仕事を与えてもらっている、幅広い仕事を与えてもらっている、それは彼らの能力開 発には大変結構なことなのだけれども、でも負担もすごく高まっている。それで多分、 いっぱいいっぱいの状況なのだろうなと思います。玄田先生なども、若年層で長時間労 働が増えているというご指摘を何度もされています。  ですから、何でもかんでも責任を与えてもらえればいいというものでもないし、彼ら が育つ仕組みをどう考えていくかというところが重要だなと思っています。 ○諏訪座長  非常に重要なご指摘だろうと思います。それでは、この問題についてさらに伺いたい と思いますが、それでは佐藤先生、また続けてお願いします。 ○佐藤委員  先ほど局長が、企業に企業内で人を育てることを、お金も時間もなくてできないとい う点を、どうやらせるかというお話があったのですが、上西委員がおっしゃったように 、いわゆる教育訓練というOff−JTについては、不況になれば教育訓練費を減らす ということは、今までもあったことで、それは企業もわかっていて、ちょっと減らしす ぎたなとか、今度増やさなければいけないということは考えていたと思うのです。問題 は、職場で仕事をしながら人が育つというところについて、うちの会社がどうなってい るかについて、自覚がないのではないのか。そこが最大の問題で、昔は仕事をしながら 同時に人も育つという、これはOJTで、職場で人が育つということだったのですが、 その職場の人材育成力が落ちてきて、今職場でどうなっているかというと、仕事をする だけなのです。ですから、上司自身も、与えられた目標を達成するために、部下に仕事 を与えて、仕事をしてもらう。それを達成して、自分が評価する。仕事だけの関係にな ってきて、従来は、もちろんそれもしていたわけですが、同時に、与えられた目標を達 成するために、部下に仕事を配分して、仕事をしてもらうだけでなく、2年、3年の間 に、この人をどう育てるかということも考えながら仕事を与えていく、あるいはアドバ イスをする。その部分がなくなってきているのです。  なぜそうなったかというのは、いろいろ要因があるけれども、それは企業が自覚しな いでしたことなのです。例えば最近で言えば、かなり社員の要員を絞りましたね。OJ Tが円滑にいくためには、やはりある程度の職場のゆとりというのが大事なのです。こ れは要員数と時間、納期のゆとりですね。例えば上司の働きぶりも、人を育てるという ことが評価されなければいけないけれども、短期的な成果での評価が重視されてきて、 人を育てるなどということは評価されなくなっている。  あるいは、若い人本人について言うと、自分の下に次の人が入ってきて教える機会が あるということも大事な職場でのOJTだったのですが、ここ10年くらい新卒採用を絞 ってしまったから、勤続5年とか7年でも自分の下に新人が来たことがない社員が、厚 生労働省もそうでしょうけれども、多いのです。人に教えるとまでは言わないけれども 、自分の下の者に対して、日常の仕事について少しアドバイスをするという経験がない のです。  逆に言うと、教えられても、なぜ上司がなぜこんなこと言っているのということが理 解できない。というのは、自分が教えたことがない。企業は別に職場の現場力をなくそ うなどと思っていたわけではないけれども、いろいろやってきた施策が、結果として職 場で人を育てる力を弱めてしまった。そのことを意図してやったわけではないから、企 業は自覚していないというのが現状ではないかと思います。  やはり企業の競争力というのは、人が育たなければ駄目なので、一番いいのは、仕事 をしながら人を育てるのが、一番コストが安いのです。そのことについて、ちゃんとメ ッセージを出せば、私はかなりの企業がやるのではないかと思うのです。いまの現状で すと、育つ人は育つけれども、育たない人は駄目になるということなのです。企業から すれば、育つ人はもちろん育つのでいいのですが、育たない人もある程度まで育つとい う仕組みをつくらないと、これからどんどん若い人が減ってくるわけですから、10人採 ったら10人ができるだけあるところまでいくという人材育成環境をつくっていく必要が あると思います。そうしたメッセージを出せば、企業も少しは変えようということにな るのではないかと思います。 ○職業能力開発局長(上村)  おっしゃるとおりなのですが、いまの風潮からいくと、我々、こっぱ役人が何か言う と、お前らに言われたくないという話になりそうなので、そういうパターナリスティッ クな観点からのメッセージを、まさにこういう研究会で先生方の意見として出してもら えればと思っております。我々が言った日にはとんでもないことで、そんなこと言われ る前からわかっているとかですね。我々役所として言うと、おっしゃったような状況に あるのだとすれば、そういうデータもあれば付けた上で、まさにこういう所で言っても らえればと考えております。  それを直すために何をするかということを、我々はやりますということになりますの で。長期的には、企業にとっても得なのですよということをわからせるという観点です ね。好事例とか弊害事例とか、そういうものを示していくことは、我々がやってもいい のではないかと。それはおかしいとまでは、我々は言えませんが。 ○樋口委員  サゼスチョンというよりも、委員の皆さんに質問したいのですが、OJTという言葉 で、日本でやっているOJTと、海外のOJTとは、相当違いがあるのではないかとい う感じがするのです。少なくとも我々が若いときに、よく先輩方に言われたのは、技能 は先輩を見て教えられるものではなくて、自分で盗めとかいうような話し方でずっとき た。今はどうなっているのか、よくわかりませんが、それに限界がいろいろ出てきてい る。技能というのは、継承と革新の両方があって、継承というのは、先輩を見てものを 真似ればいいという形での「学ぶ」ということが重要だったと思うのです。それを少し ずつ変えていくとか、あるいは革新的に、ドラスティックに何か変えるというようなと きには、それだけではなくて、理論的な背景とか、理論立てて、これはこうこうこうい う理由でこうなって、これをする必要があるんだというようなところが、日本の場合、 少なくとも中小企業とかというところでやっているときに、なかなかOJTに仕組みと して組み込まれていないのではないかと思うところがあるのです。  そうなってくると、若い人たちは、盗めと言っても、それができない、耐えられない 。ともかく俺のやっていることに従えばいいんだ、というようなことになってきてしま っている可能性はないのだろうかというところなのですが、そこのところは、私の誤解 でありますでしょうか。 ○諏訪座長  それはまさに、60年代の技術革新のときにあった議論ですね。小、中学校卒が主体の 職場に高卒などが現場にどんどん入ってきてという、あのときに非常によく似た状況を めぐるご質問だろうと思うのです。 ○佐藤委員  先輩の仕事ぶりを見て盗んで育てという、そういう伝統がなかったとは言わないけれ ども、計画的なOJTといったときには、やはりそういうものではない。例えば、製造 現場などは非常にわかりやすいのですが、機械加工の職場だと、Aという機械、Bとい う機械、Cという機械があって、そのときに、Sさんというのは、Aについては故障し たときの修理までできる。Bの機械は、まだまだ人に教えてもらわないとできない。C の機械については、新人に教えられるくらいまでできる。それぞれその人のスキルのレ ベルがあるわけです。  そのときに、Sさんについては、1年間をかけて、Bという機械についてオペレーシ ョンだけではなくて、機械の保守までできるように教えようという、これがまさにOJ Tだと思うのです。 ○樋口委員  そういう企業があるのも十分存じ上げているのですが、そうではない、特にホワイト カラーとかいうところで、本当にそうなっているのかなという、先端を行っている企業 においてはそういうことになっているのだろうと思いますが、日本全体で平均的にそう なっているのでしょうかというところは、私の数少ない、見て回っているところによる と、どうもそんな感じがしてしょうがないのですが、どうなのでしょうか。 ○佐藤委員  ホワイトカラーについて言えば、正直言って現場ほど意識的に人を育てるということ は少なかったと思います。例えば、人事労務で採用した人については、5年くらいの間 にどういう仕事を経験させるということは一応あって、製造業であれば、工場の総務に 担当させて、そこで労使交渉などを経験させて、2年くらいしてから本社に戻してとか 。つまり、5年くらいの間にどういう仕事を経験させるのか。これは、うちの人事担当 者として、少なくとも経験させなければいけない仕事ということを、考えて異動させて いる。これもOJTです。もちろん、その中で、人によっては樋口委員が言われたよう に、全然アドバイスもなくて、俺の姿を見て育てみたいなものももちろんあったけれど も、でも十分とは言わないけれども、そういうノウハウが何となくあった。けれども、 それが崩れてきている。  先ほどの仕事も、現場もそうですが、すべての企業がしているわけではなくて、かな り自覚してやっていたところと、そうでないところと、日本国内でもあったわけです。  ホワイトカラーについては、そこまでできていなくて何となくあったのだけれども、 現場も含めて、それも崩れてきている。 ○諏訪座長  佐藤先生に非常に初歩的な質問をします。そうしますと、それなりにうまくやれてい たOJTは、かなり製造業の現場が典型的にあって、その場合には能力開発のマップと かプログラムみたいなものがあって、それに沿ってやってきた。それで、他方、ホワイ トカラーに関していうと、もう少し粗いけれども、それなりに行われてきた。 ○佐藤委員  すべてではないですけれども。 ○諏訪座長  ええ、そうすると、なぜ今現場力が落ちてきたかというのは、何なのですかね。技術 変化がまずあったりすると、先輩が後輩を教えられないなどということがあり得ますね 。SEの現場などがそうですね。言語がどんどん変わっていってしまうと、メインフレ ームの言語しかできなかった人は、Javaだとかは全然わかりませんから、一般的な 説教はできるけれども、現実の仕事のやり方に関しては、何一つ手を出せないとなると 、説得力が落ちるというようなことがあるのか。  あるいはホワイトカラーで言えば、前はもっと頻繁に、配転とか出向とか、いろいろ やっていたものが、最近ではなかなか地域限定とか、あるいは契約社員とかが出てきて 、動く範囲が小さくなると、意図的なそれに対する訓練システムがないと、あっという 間に技能・経験の天井に達して伸びなくなるとか、そこら辺のところはどうなのでしょ うか。 ○佐藤委員  やはり職場のゆとり、さっき言った要員と時間ですね。それと短期的な成果の評価と いうのが、非常にマイナス要因です。ゆとりというのはどういうことかというと、例え ばいま部下に勤続3年の社員がいる。あと1年で異動で、そろそろ、次のステップに進 めようと思うと、その人に別の仕事を与えなければいけないわけです。そうすると、例 えば、課長が、主任がやっていた仕事の一部を切り出して勤続3年の社員に任せる。そ れで、自分のしていた仕事を切り出して主任へと、仕事をガラッと動かすわけです。  そうすると、勤続3年の人に、主任がやっていた仕事を切り出して、「今度、君これ やってね。もうそろそろこういうのもやれるから、アドバイスもするし」と。そうした ときに、初めてやるわけですから、半年後にその人が期待するだけの仕事ができるかな どということはわからないわけです。OJTというのはそういうものです。でもそれは 、やってみて駄目なときは、みんなでフォローしなければいけないわけです。自分も忙 しいし、フォローする人などはいないわけです。  そういうことをして、うまく回らなくて、主任がやっていればうまくいったものを、 勤続3年の人にさせるとできない。その結果、自分に課せられた目標を達成できないと 、賞与の評価も低くなる。そうしたら、バカバカしくて、しない方がいいわけです。そ んなことをしなくても、いまルーティンで仕事が動いているわけですから、人を育成す るように、仕事の配分を変えろなどということをしなくてもいいわけです。その方がい いということなのです。  ですから、1つは職場のゆとりがなくなったということと、短期的な成果主義という のが、職場で人を活かせるのに一番大きなマイナスになっている。もう1つは、実際に 若い人が来ない。要因はその3つくらいかと思います。 ○諏訪座長  それは主として大企業の話ですね。 ○樋口委員  そうかもしれないですね。 ○諏訪座長  中小企業はもともと人にゆとりもないし、目一杯やっているし、納期その他でも絶え ず追いかけられている。それで、9割以上が中小企業でしょう。働いている人の8割は 中小企業。そうすると、そこもさらに落ち込んでいるのでしょうか。  私が思うのは、この間、技術革新とかいろいろな制度の改革の端境期だった。端境期 というのはいつでもそうですが、古い良さがどうしても失われがちで、新しいものはま だ芽生えない。この問題があるだろうということと、もう1つは、経済的に不況である とゆとりがなくなりますから、その問題もあったのではないか。これから、中高年が減 っていって、人手不足になっていく。それから、ゆとりも少し出てくるし、かなりハン ドルを切ったのは終わったということになると、いよいよ本格的に、もう一度再構築と いうところに入るのかなという感じが少ししているのです。そのときに、OJTという のはどういうふうに再構築していくべきか。 ○佐藤委員  中小企業について言うと、すべてとは言いませんが、例えばある程度成長してしまう と、中小企業の場合、企業の人材ニーズと人的資源のギャップが大きいので、ある面で はかなり仕事を与えてやらせないとできないという側面があるため、結果として中小企 業ではOJTが活用されることになる。それは昔も今もそんなに変わらないと思います 。  大企業の場合、成長が落ちてしまったときに、意識的にそれをやらないと余計駄目に なっているという側面は非常に大きいのではないかと思います。 ○諏訪座長  こちらの半分ばかりで議論していたので、少しこちらの方でもお願いします。北浦先 生どうぞ。 ○北浦委員  OJTが弱くなったということで、1つは、やはりミドルマネージャーのことがよく 言われるわけです。それで、なぜミドルマネージャーが弱くなったのかということにな ると、いくつかあるのでしょうけれども、人事評価は結構細かくなってきて、特に成果 主義になってから、評価をするだけで精一杯という感じになっているのです。人事評価 というのは、本当は育成の観点もあるのですが、特に結果で見ていくようなことになる し、特にそれを分析しないといけない。それが主流を占めているということはあると思 うのです。  ただそれは、1つの現象的な問題で、もっとより根本的には、1つはフラット化とい う問題、つまりスパン・オブ・コントロールというのが結構広がってしまっていて、1 人で見なければいけない範囲が猛烈に増えてきている。この問題は、やはりあるのでは ないかと思います。そうすると、やはりプロセスを見ないと、人材育成というのはでき ませんし、そのプロセスが見えなくなってきている。これは、やはりそういった、人の ゆとりがないという話なのですが、そういうことがきているのが1つです。  もう1つは、職能といいますか、仕事の中身が変わってきて、特に、IT化になって から、プロセスが見えない仕事というのが非常に増えてきている。見たって、全員パソ コンに並んでいるだけで、よくわからない。ですから、プロセスが見られないので、し たがって育成もしない。できないし、指導もできない。ですから、出来上がりを見るし かない。もう1つは、営業系なども典型ですが、非常に営業に力を入れている。それが みんな外勤ですから、朝会うけれども、あとはわからない。つまり、見えるところで、 その仕事の内容がフォローできるところで育成できたのですが、そうでなくなってきて いるということで、結局そこにおける指導の仕方をどうしたらよいか。これがなくなっ てきているということです。  さっき、責任を下ろすという話がありましたが、職務自体も結構任せる形にどんどん なっていってしまい、自分で考えなさいの世界になっていってしまうと、同僚から教わ るということも少なくなってくる。チームを作っているけれども、事実上分担になって いる。そうすると、チームの中での教育効果も薄れてくる。ですから、上司だけでなく 同僚からの効果もない、部下から教わるということもあるかもしれませんが、そういう ものもなくなってきているので、やはり相乗的な効果がなくなってきている。  そして、若い人たちの変化というのは、わかりませんが、やはりマニュアル指向が結 構強いのです。マニュアルがあれば結構やれるけれども、マニュアルがないと、何を勉 強してよいかわからない。こういうような言い方をされてしまう。そうするとホワイト カラーの職務というのは、なかなかマニュアルに書ききれない部分があるので、やはり ある程度はできるけれども、それ以上はマニュアルのない世界でやらなければならない 。特にそのときに、弊害をもたらしているかなと思うのは、仕事のアウトソーシングだ と思っているのです。今、職務で、正社員がする仕事とそうでないものをきっちり分け てくる。そうすると、雑布がけをしない。雑布がけがいいかどうかはわからないのです が、いわゆる雑布がけの期間というところが、実は指導と育成の期間であって、そのと きに学ぶので、多分大学の先生方も、最初の大先生からいろいろ作業を命じられるとこ ろが育成の期間だったのだろうと思うのです。その部分がなくなってくるということも 結構あって、わりと合理的に、職務というのはここからだよということになっているの ですが、実はその前の周辺業務とかプロセス、これもやはり1つのプロセスなのですが 、そういったところからやっていかないと、どうも完成しない。そういうようなものも 、全部教育の力が落ちている原因かなと思っています。  いろいろまとまりのないことを申し上げましたが、要は、そういった変化の相乗的な 表れというのが現状であって、そこをどう政策的に変えるかということがまだ考えられ ていないような気がします。 ○廣石委員  今の北浦委員の話にもつながるのですが、結局一人一人に対する役割期待というもの が変化していっているという感じは強くあります。やはり、ある意味では、成果主義と いう議論を仮にした場合には、どこまでが守備範囲かということをはっきり決めなけれ ばいけない。そうすると、ジョブディスクリプション的なものを考えて、スパン、スパ ンと切っている。それはそれで、1つのやり方ではあるのですが、これは、慶応義塾大 学の石田教授のモデルですが、俵型なのか粘土型なのかという仕事の構成がありますね 。実は俵型で、間に隙間が結構ある。そのようなことが、先ほど佐藤委員がおっしゃっ た「ゆとり」ということにつながってくるのかもしれません。  そういったものを誰がやるか、どのようにやるかというようなものが、実は今までの 日本企業にかなりの部分があって、それが、役割というものが不分明である半面、みん な何かしら担当する。北浦委員がおっしゃる「雑布がけ」というのもその1つなのかな とも思います。それが、やはり役割をみんなはっきりさせようというような議論になっ てくると、先ほどの「ゆとり」というよりも、「ここまででいいんだよ、これ以上はや るなよ」みたいな発想が出てくる可能性があるのかなという気がする。  ですからマネージャーにおいてもそうですね。先ほどの、どれだけ部下を育てたかと いうことを、役割として認識して明記すればいいけれども、それをなかなか、例えば、 人事評価の中に部下をどのように育てたか、項目として入れているところはあります。 しかし、本当にそうなっているのかということを検証する術がどのようにあるのかとい う問題が出てきているのかなというのが、1つあります。  そしてもう1つ、中小企業というお話からすると、先ほど「仕事表」というお話があ りましたが、これを明確にしているところから何もないところまで、グラデーションが かなりあると思います。明確にはなっていないけれども、みんなの頭の中にはある、何 となくそれが共有されている、あえて、そういった形での仕事表と言っておきましょう か、そういったものがある。  その中で、明確にしているところは、どのように変えようかということはわかるわけ ですが、みんなに共有されている、何となくあるというレベルの仕事表だと、変化にど う対応するかということが、なかなか考えにくいのかなという感じがする。その変化に 対応する、それは技術展開ということもそうでしょうし、中小企業で言えば、取引先か らのいろいろな要求ということもあるでしょうし、それに対応できている仕事表を頭の 中で変換するというのでしょうか。変換できるところは生き延びていかれる。しかしそ れが変換できなかったところは、うまくいっていないのではないかという気がしている 。中小企業の方は、ちょっと感覚だけなのですが、そういう理解をしているということ で、申し上げておきます。 ○樋口委員  質問ですが、いろいろな原因があって、現場力が落ちているということだろうと思う のですが、やはり私の印象に残っているのは、ゆとりがなくなっているということです ね。では、施策としてどうしたらいいかと言ったときに、ゆとりを取り戻せ、元へ戻せ という、ルネッサンスというか、そういう論調で、この研究会報告をまとめるのか。い や、ゆとりがないのは今後も恒常的になっているので、したがって、それに代わる、今 までに代わるような仕組みを作るというようなことを求めていくのかというところは、 かなり議論があるのではないかと思うのです。  あるスポーツ評論家によると、例えばプロ野球でイチローという選手がいますが、今 のイチローがあるのはなぜかというと、必ず出てくるのは仰木監督、仰木さんに育てら れた、あの人に出会わなければ、今の自分はいないということを言うのです。これは、 プロ野球に限らず、サッカーでも、多くのスポーツ選手は、みんな、「誰々がいたおか げです」ということを言っている。それで、どうも師弟関係でこういったものを育てて いるのです。  ところが、外国の選手に、今の自分はと聞いたときに、「誰々がいた、誰々と出会っ たおかげです」ということを言う人はほとんどいない。ベッカムでも誰でも、むしろ、 組織として、そういうスクールがあって、スクールのプログラムでそういった人材を育 ててくるというような特徴があって、これはその師に出会わなくても、能力をもってい る者は拾われるというようなところがあるわけです。そうすると、真に優秀な先輩なり 恩師に出会わなければ、能力を発揮できないという人は、日本にもたくさんいるのでは ないかという気になってきて、そうなってくると、今までのやり方が、どちらかという と師弟関係で育てられてくるような仕組みというものを維持して、そこへ戻せばいいと いう議論ではなくて、何かそれに代わる仕組みのようなものを作っていく必要があると いうことではないかと私は思うのですが、それは無理な議論なのでしょうか。 ○廣石委員  これは大企業の話になってしまうのですが、例えばアメリカで、GEに勤めたら、G E出身者だということで高く評価されるというような話をよく聞きますね。トップはク ロトンビルで、そして現場になればなるほど、現場であのGEで育てられたのかという 思い、そしてそれが、対外的にも評価され、それで信頼できるというような、そのよう なシステムを作り上げるというのは、確かに1つの理想でしょうね。  ただ、その理想がどこの会社でもできるのかどうか。これは、その会社独自の経営方 針・経営理念からも出てきてしまう話で、要するにどれだけ人を育てる会社なのか。人 を育てるということが、自分の会社の経営理念にどれだけ影響をもっているのか。それ を自覚的にやっている会社がどうかということに帰着する面が1つあるのかなと思いま す。  もう1つは、やはりそこから出てくる言葉というのは、さっき私は役割と言いました が、役割として、会社全員が部下を、もしくは関係者をどのように育てていくかという 、役割をどのように認識させるかということに多分つながってくるのだと思います。卑 近な例で言ってしまえば、それこそ人事考課の中に、「部下の育成」ということを仮に 入れるとすれば、それをどのような基準で評価するのか。そしてそれを、本当にやった かどうか検証する。できなかったらペナルティを与える。そういう話に、卑近な形とし てはつながっていくのかなというイメージを持っているということで、私から申し上げ ておきます。 ○佐藤委員  私は、よく昔に戻れというのではなく、昔やっていたことを意識化し、それをもう少 しシステム化するということかなと思っています。ですから、例えば、若い人でも連続 的に下に入ってきて、勤続3年くらいになれば新人の面倒を見る機会があることが大事 だとすれば、例えば、インターンシップというものを、学生の就業意識の啓発ではなく て、例えば3週間受け入れると、受入担当者の社員の教育訓練、つまり部下をもつ、そ の学生を3週間受け入れて、3週間でどういうことを教えるんだというプログラムを作 らせる。学生側に「準備して来い」と言うのですが、そうではなくて、受入側の社員に 、学生が来たときに3週間何を教えるのかというプログラムを作らせる。新人をたくさ ん採らなくても、下に人をもつことが教育訓練だというものを制度化したことになるわ けです。  そういう風に、自覚的にやっていくことです。あるいは職場でホワイトカラーでも、 一人一人仕事を分割して明確にするのだけれども、やはりお互いにカバーできるような 能力開発をすることが大事だというのを、自覚化させる。例えばこれからの育児休業と か介護休業とか、さらには今後は教育訓練のための休業という形で、職場で社員が半年 とか1年いなくなる。こういうことが増えてくる。それが一般化する時代でもある。そ うすると、誰かがその仕事をできなくては困るわけです。その人が、半年、1年いなく ても職場が動くようにやっていくということは、これからすごく大事な、企業経営上も 、働く人たちも長期間休業できる職場というのはそういうものなのですね。  そうすると、誰々だけしかその仕事ができないというのではなくて、お互いカバーで きるような仕事の仕方を日頃からすることが大事になる。そうしないと、誰かが休業し たとき会社は困ってしまう。あるいは、そういうことができるようになれば、誰かが病 気で休んだときもカバーできるし、リスク管理上もすごくいいわけです。  ですから、休業を人材育成に活用することができる。ほかの人の仕事をカバーできる ような人材を育てなければいけないのかということを、自覚化させる。  あるいは、先ほど北浦委員が言われたように、評価の中に部下の育成をきちっと入れ ていって、例えば何年かのうちに、部下の平均的な等級がいくつ上がるとか、つまり、 育成したということが、ある程度わかるような人事評価の仕組みを考えるとか、私はい ろいろ工夫の仕方があるのではないかと思います。 ○山川委員  佐藤先生がおっしゃった、システム化という点は、非常にあり得るというか、重要な のではないかと、素人ながら思っておりました。つまり、これまでは暗黙のうちに考え ていたものが、状況が変わってきて通用しなくなってきたら、それをシステム化して、 例えば企業の経営方針として位置づける。そうすると、そういうシステムの実行が、そ れぞれの職務として位置づけられるというような役割を果たすのかなと思うのです。そ の場合、お伺いしたいのは、一体それをするのはどこがということ。つまり、経営トッ プのエンドースメントが要るにしても、人事部でそれがはたして完全にできるのか。あ るいは人事部と現場で共同した体制でやって、それを上司にそれぞれ実行させるという ような仕組みになるのかということ。  もう1つは、そういうことの政策的な位置で、能力開発養成プログラムを作れと義務 づけるわけには、なかなかいかないかと思いますが、先ほど局長から、好事例という話 がありましたが、そういう推進の方策をどう考えるかという点が出てくるのかなと思い ます。 ○諏訪座長  議論は尽きなくて、まさにそのとおりなのだろうと思うのですが、まず第一に、昔に 戻らなければいけない部分も、ある部分ではあるだろうと思います。ヨーロッパで、ご く最近会議へ出て議論をしていたら、新しい徒弟制度の復活みたいなことも必要ではな いか。徒弟制度は非常に弊害がある、封建的だということで、どこの国も潰していった けれども、実は、ナレッジ・ベースド・ソサエティにおける訓練というのは、大学の研 究室の訓練のような、あるいは高度な技能者養成とよく似ていて、かなりこういうマン ・ツー・マン的な教育とか、徒弟的な部分というものも必要なのではないか。それを一 体どういう風に再編成していったらいいか。こういうようなところは、きっと戻る部分 だろうと思うのです。  もう1つが、昔は学校なんてろくになく、そういうわけでは、みんな現場における、 見よう見真似の教育だったのが、だんだんシステム化されて、学校教育体系ができてい った、大学院などもできていったというのと同じように、教育訓練をシステム化してい くという、こういう2つの作業が必要だろうと思います。  ただ、日本の場合は、やはり属人的ないろいろな考え方が強くて、そういう中で、き っと教育訓練もなされてきたので、この属人的要素が薄まってくると、教育訓練も当然 のごとくに薄まっていくという部分があるかもしれない。そうすると、やはりシステム 化の方がどちらかというとより重要な感じもします。  とはいえ、システム化するときに、昔の日本軍の、各種の『失敗の研究』に出てくる ような、金科玉条化してしまって、非常に柔軟性のないやり方ですね。新月の月のない 晩の朝の4時頃になると、必ず、暁の突撃があるからということで、その場合はこうい う所へ来るぞということで、機関銃を持って構えていると、ワーッと来るから、ドドド ドッとなぎ倒したという。あれは、日本人は臨機応変を旨とするアメリカンフットボー ルを知らないからだとアメリカ人が言ったという有名なエピソードがありますが、硬直 的なシステム化を下手にしたら、これはおしまいですね。  というわけで、今日は、もしよろしければこのあたりで議論を閉じて、よい意味での システム化、それから属人的な部分で残すべき部分等、それから国家戦略、随分これま でも議論してきましたが、改めて意図的に、意識的に議論した部分がありますので、事 務局にもう一度再整理していただき、次回、ご検討いただこうと思います。何かその際 に、宿題というか、ここは是非落とさないでくれというようなことが、何かさらにあり ましたらご発言ください。よろしいですか。それでは、今日はここら辺で研究会を閉じ させていただきます。最後に、事務局から次回以降の日程等をお願いいたします。 ○総務課長補佐(佐々木)  次回は4月15日の金曜日、14時半からの開催を予定しております。場所は、本日と同 じこの9階省議室を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。 ○諏訪座長  それではどうぞよろしくお願いいたします。本日は大変ありがとうございました。                 ┌─────────────────────┐                 │(照会先)                │                 │厚生労働省職業能力開発局         │                 │総務課企画・法規係            │                 │TEL:                 │                 │03−5253−1111(内線5918・ │                 │               5313) │                 │03−3502−6783(夜間直通)   │                 │FAX:                 │                 │03−3502−2630         │                 └─────────────────────┘