05/03/17 第3回ゲフィチニブ検討会議事録               ゲフィチニブ検討会 議事録 1.時及び場所   平成17年3月17日(木)10:00〜12:20   厚生労働省専用第15会議室 2.出席者   池田 康夫、北澤 京子、下方 薫、竹内 正弘、土屋 了介、貫和 敏博、   堀内 龍也、堀江 孝至、松本 和則、吉田 茂昭(10名)五十音順   欠席者(1名)栗山 喬之   参考人:アストラゼネカ社   Alan Barge, Ann Readman, Janet Milton-Edwards, Mark Smith、田中 倫夫、   羽田 修二、蒋 海=(「=」はさんずいに「猗」)、内田 寛彦、増田 貴之、   石野 幸子(通訳)、山下 順子(通訳) 3.事務局   阿曽沼 慎司(医薬食品局長)、黒川 達夫(大臣官房審議官・医薬担当)   本田 一(総務課長)、   平山 佳伸(安全対策課長)、森口 裕(安全使用推進室長)、   渡邊 伸一(安全対策課長補佐)、河野 典厚(安全対策課長補佐)、   鬼山 幸生(副作用情報専門官)、星 順子(主査)、田尻 興保(主査)、   川原 章(審査管理課長)、関野 秀人(審査管理課長補佐)、   鶏内 雅司(化粧品専門官)、   豊島 聰((独)医薬品医療機器総合機構理事兼審査センター長)、   岸田 修一((独)医薬品医療機器総合機構安全管理監)、   伏見 環((独)医薬品医療機器総合機構安全部長)、 4.備考   本検討会は公開で開催された ○事務局  それでは、定刻になりましたので、第3回の「ゲフィチニブ検討会」を開会させてい ただきます。  本日、御出席の委員の先生方々におかれましては、お忙しい中お集まりいただきまし てありがとうございます。本日、栗山委員からは欠席をするという御連絡を受けており ます。  ごらんのとおり、本日も会議は公開で行うこととしておりますけれども、カメラ撮り は議事に入る前までとさせていただきますので、御承知置きください。  それでは、松本座長よろしくお願いいたします。 ○松本座長  おはようございます。本日も活発な御議論をよろしくお願いいたします。  それでは、初めに事務局から本日の配布資料の確認をしてください。 ○事務局  本日の配布資料を確認させていただきます。  委員のお手元に議事次第の1枚紙、それとゲフィチニブ検討会の委員の名簿の1枚紙 がございます。  その次に「配布資料一覧」と書いた配布資料の書いた1枚紙がございます。  その次からが実際の資料でございますけれども、資料のNo.1が「第2回検討会にお けるアストラゼネカ社への質問に対する回答」と題した資料でございます。  資料のNo.2が本日御説明をいただく光冨先生の「EGFR遺伝子変異とゲフィチニ ブの有効性」と題した資料でございます。  資料のNo.3が「日本肺癌学会ゲフィチニブ使用ガイドライン説明資料」でございま す。  資料のNo.4が「ゲフィチニブ使用に関するガイドライン」と書いた資料でございま す。  資料のNo.5が「イレッサEGFR変異等関連指摘事項及び回答」と題した資料でご ざいます。  その次に参考資料といたしまして用意してございますのが、参考資料1ですけれど も、これは前回の配布資料でございまして、前回アストラゼネカ社から説明のあったパ ワーポイントの資料でございます。このパワーポイントの資料ですけれども、前回の会 議中にアストラゼネカ社から一部訂正がございましたので、訂正のあった事項につきま しては、一番最後のページの訂正として訂正事項の1枚紙を付けてございます。  参考資料2も前回の配布資料でございまして、アストラゼネカ社からの資料のうちの 別添の資料でございます。  参考資料3でございますけれども、参考資料3は前回西日本胸部腫瘍臨床研究機構か ら嘆願書が届いているというようなことの御紹介をさせていただきましたけれども、そ の後も同じ団体から嘆願書が届いておりまして、手元にありますように、各患者さんご とに嘆願書がございまして、それがまとまってきておりますので、代表的なものという か、一部1枚だけ抜き出してございますけれども、一番下に書いてありますとおり、こ のような個別の患者さんが署名等をされた嘆願書が合計922 名分届いているような状況 でございます。  参考資料4でございますけれども、これは医薬ビジランス研究所から寄せられており ます意見書でございます。  以上が資料でございます。 ○松本座長  資料は皆さんそろっておりますでしょうか。  そろっているようでしたら議題に入りたいと思います。  前回3月10日の会議において、アストラゼネカ社からISEL試験詳細解析結果に関 する説明に基づきまして、議論を行いました。まず前回の検討会の議論のまとめと宿題 事項について確認をしたいと思います。  続きまして、次の2点について議論を行いたいと思っております。  第1点目は、イレッサとEGFR遺伝子との関係について、本日は愛知県がんセンタ ーの光冨徹哉先生にお越しいただいております。先生にEGFR遺伝子変異とイレッサ の有効性との関係について御報告をいただくことにしております。  第2点目は、先日の検討会で事務局から紹介がありましたが、日本肺癌学会において ゲフィチニブ使用に関するガイドラインの改訂について検討が進められ、改訂案がまと まったと伺っております。本日は、まだお見えになっておりませんが、日本肺癌学会の 根来俊一先生にお越しいただいており、改訂ガイドラインについて説明をいただくこと にしております。  本日は、これらの紹介を踏まえまして議論を行いたいと思っております。よろしくお 願いします。  それでは、前回の結果について確認を行いたいと思います。事務局より説明してくだ さい。 ○事務局  前回3月10日の会議におきましては、アストラゼネカ社からISEL試験の詳細結果 につきまして説明がございまして、それに基づきまして御検討いただいたところでござ います。  各委員のお手元には、まだ確認していただいておりませんけれども、前回の記録の速 報版がございますので、これはお持ち帰りいただいて御確認いただければと思います。 議論のまとめということで、前回座長にまとめていただいておりますけれども、確認前 ではございますがお手元の37ページ目の一番上のところとか、あるいは38ページ目の一 番下の文等を御参照いただければと思います。前回座長からおまとめていただいたとこ ろでは、全症例を対象とした場合に、イレッサ投与群とプラセボ投与群との比較で腫瘍 縮小効果では統計学的に有意な差が認められたが、主要評価項目である生存期間につい ては、統計学的に有意な差が認められなかったこと。  それと、東洋人を対象としたサブグループ及び東洋人かつ非喫煙者を対象としたサブ グループ解析において、イレッサの投与が生存期間の延長に寄与することが示唆された ことということが前回のまとめであったと思います。  ISEL試験の詳細解析結果について、前回宿題となった事項といたしまして、奏効 しなかった非喫煙者の患者背景につきまして、アストラゼネカ社にデータの提出を求め るということになっておりました。これは前回の御議論をちょっと思い出していただく ためにですけれども、参考資料1として前回のアストラゼネカ社の説明した資料を配布 しておりますけれども、参考資料1の19ページの上の図に奏効しなかった非喫煙者の 図、生存曲線等が示されておりまして、この図の御検討をいただいたときに患者背景に ついてどうなっているのかというような御質問が委員から出されたということで、その 回答につきまして、アストラゼネカ社から提出されておりますのが、本日の資料のNo. 1になっております。  資料No. 1の表紙をめくっていただきますと、下にページ番号1と書いてあるのがI SEL試験の患者背景で奏効しなかった患者の東洋人と東洋人以外の者についての患者 の背景の表です。  もう一枚めくっていただきまして、2ページ目にあるのが奏効しかなった非喫煙者の 東洋人と東洋人以外の患者背景の表になっております。  このような資料がアストラゼネカ社から提出されております。  あと前回、竹内委員から自分でデータを解析してみたいという御発言がございまし た。そのため、アストラゼネカ社から竹内委員にデータを送付いただきまして、現在、 竹内委員に解析を行っていただいているところでございますけれども、まだ解析中とい うところでございます。  前回の宿題事項等については、以上でございます。 ○松本座長  ありがとうございました。  事務局から紹介があったとおり、竹内委員がデータを解析しているところで、奏効し なかった非喫煙者の患者背景については、統計解析と関係すると思いますので、来週24 日の検討会でまとめて検討することにしたいと思います。  続きまして、EGFR遺伝子とイレッサの効果について説明をいただきたいと思いま す。  1月20日の検討会においてEGFR遺伝子変異とイレッサの有効性についていろいろ な発言がありました。そういうことで、EGFR遺伝子とイレッサの効果について科学 的な評価、検討を行うために、EGFR遺伝子変異とイレッサの有効性の関係に関しま して、この研究分野における我が国の第一人者であられます愛知県がんセンター病院胸 部外科部長の光冨徹哉先生に御出席をいただいております。  それでは、光冨先生よろしくお願いします。 ○光冨参考人  愛知県がんセンターの光冨でございます。  本日は、ただいま御紹介ありましたように「EGFR遺伝子変異とゲフィチニブの有 効性」と題しまして、まずは遺伝子変異が昨年発見されたわけですけれども、それから 今年に至るまでの研究成果の蓄積に関する、私どもの実験例プラスレビューを入れまし て御紹介をした後、ゲフィチニブの有効性と遺伝子変異の関連について、そして、最後 に臨床検査としてEGFR遺伝子変異を行うとした場合の問題点等を指摘させていただ きたいと思います。よろしくお願いします。 (PP)  専門の先生方もたくさんおられる中でちょっと失礼とは思いましたが、本日は一般の 方も来られるということで、ちょっとだけ癌の腫瘍の成り立ちに関する生物学のおさら いを最初にさせていただきたいと思います。  まず、これは遺伝情報の流れというものですが、DNAというのが遺伝子の本体です が、そこには4種類の塩基と言われるものがありまして、それがRNAに転写されて、 そして、例えば4種類の塩基といいますのは、GとAとCとU、DNAはTですけれど も、そういう4種類の塩基が3つずつセットになって、これがアミノ酸を連れてくると いような過程を翻訳といいますが、そうやってDNAの並びに応じたアミノ酸がつなが って、タンパク質が合成されると、こういうことがセントラルドグマと言われる生物学 の基本となっております。  したがって、もしここにDNAの並びが、例えば、TがGに変わるというようなこと が起これば、アミノ酸が変わって、すなわちタンパク質も変わって機能がなくなってし まったり、逆に機能が亢進したりするようなことが起こることが想像されます。  これは、例えばアミノ酸を、この3つのCodonと申しますけれども、それではグ ルタミンというアミノ酸が相当するわけですけれども、グルタミンをアルファベット一 文字で表すときにはEとか、ロイシンはLとかというような略語を使います。これは、 あとでEGFR遺伝子の変異を御説明するときにちょっと出てきますので、覚えておい てください。ひとつひとつ覚えていただく必要はないですけれども、そういう表し方が あるということは覚えておいていただきたいと思います。 (PP)  それで、癌はなぜできるかということですけれども、これもここ20、30年来の研究で かなりのことがわかってまいりまして、これは細胞のつもりなんですけれども、細胞に は増殖因子を受容する受容体というものがあって、更にこれに増殖因子がくっ付きます と細胞内に信号が伝わって、更に核まで伝えられて、いろんな機能を発揮します。  その際に、細胞の増殖を促進する方向に働く遺伝子が活性化されるような、そういう 遺伝子のことを癌遺伝子と申しますし、逆に細胞を止めるような、細胞の増殖を止める ような遺伝子を抑制遺伝子と言います。  ここには、代表的な癌遺伝子と抑制遺伝子を機能別にラフに書いてみたんですけれど も、今日の話題となりますEGFRというのは、この増殖因子を受容する受容体の1つ であります。上皮成長因子受容体、Epidermal Growth Factor Recepterということで、 EGFRです。 (PP)  EGFRのことに関しては、このようなことがわかっております。EGFR遺伝子と いうのに、ライガンドというのは増殖因子そのものですけれども、それがくっ付きます と、二量体と言って2つの分子が合うような現状が起こります。そうしますと、ここの チロシンキナーゼドメインというのが細胞の中にあるわけですけれども、そこでチロシ ンというアミノ酸をリン酸化することが起こります。こういうところにリン酸化が起こ ります。そうしますと、いろいろな分子の下流にシグナルを伝わっていって、核に信号 が伝わって、細胞増殖を促進するとか、アポトーシスというのは細胞死ですけれども、 細胞が死ななくなるようにするとか、血管新生を起こすとか、転移を促進するという、 生物学的作用を発揮するとされております。  そこで、ゲフィチニブはどういうお薬かと言いますと、経口投与ができる飲み薬であ って、このEGFRを選択的に阻害します。ここのATPというのが、リン酸化のリン を供給するわけですけれども、そこを阻害します。すなわち、こういうところに働きま して、したがって、癌細胞の特性というような機能を阻害することで、癌に対するお薬 として成り立っているということがわかっております。 (PP)  そこで、このような数字もよくごらんになったこととは思いますけれども、ゲフィチ ニブがどういう方に効きやすいかということに関しては、今までの臨床試験の結果か ら、腺癌、女性、日本人あるいは東洋人、それからたばこを吸わない方に効きやすいと いうことはありましたけれども、絶対的ではありませんし、なぜこうなのかというのも 勿論わかっておりませんでした。 (PP)  去年の今ごろはこういう状態でしたが、去年の4月の終わりに、有名な『Scien ce』と『The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICIN E』に2つの論文が発表されまして、一言で言えば肺の腺癌の一部の症例に、EGFR 遺伝子の突然変異があって、その突然変異があるような症例では、ゲフィチニブが非常 に効きやすいというようなことが発見されたわけです。  さらに、こちらの『Science』の論文では日本人と米国の方の変異の頻度も比 較してありますけれども、それでは日本人にかなり頻度が高いということが報告されま した。私どもも非常に興味を持ちまして、すぐこれに引き続いて解析をしました。 (PP)  世界中で多くのグループが解析をした結果の302 個の変異の分布の図です。先ほど図 にお示ししましたEGFRの分子を、横に書いております。細胞の外、中とあります が、チロシンキナーゼというのがこの部分ですが、そこは遺伝子の構造と対応させます と、Exonと言われる部位の18、21という領域を含んでいきます。ここに変異が起こ るんですけれども、一番多い変異は、Exon19という部分の欠失変異、この欠失変異 については次に御説明したいと思いますが、欠失変異が約半数弱であります。  それから、Exon21のCodon858 番、Codonと申しますのは、アミノ酸の 順番の番号と思っていただいていいと思いますが、Codon858 番が本来であればロ イシンなのがアルギニンに変わるという突然変異が、これまた40%強です。合わせる と、約90%が欠失かコドン858のミスセンス変異になります。  そのほかには、少しまれな変異が幾つかありまして、Codon719 のミスセンス変 異や、Exon20には、挿入変異というのがありまして、これが何種類か報告されてい ます。  そのほかに、ミスセンス変異のまれなものが幾つか報告されています。 (PP)  その欠失変異とは何かということですけれども、これは岐阜大学の、黒木登志夫先生 が書かれたものから引用したものですが、アミノ酸のコードは3つずつで決まってあ り、DNAの並びというのはこういうふうになっているわけです。「GGT GCG  TTC」と、これを例えば「バラガ サイタ」という比喩で例えてみますと、正常では 「バラガ サイタ バラガ サイタ アカイ バラガ」というのが、ミスセンス変異と いうのは1つだけ変わることで意味が全く変わってしまう。例えば、「ラ」が「カ」に なると意味が全く変わるというのがミスセンス変異です。  欠失変異と言いますのは、欠けてしまう。本来「アカイ トマト アオイ トマト  ウマイ トマト」になるべきが、「アカイ −−− −−− −−− ウマイ トマト 」というようになくなってしまうようなものが欠失変異です。  それに対しまして、挿入または重複変異、入るものによって重複となるわけですけれ ども、例えば「アオイ」が2回入ってしまうような変異。「アカイ トマト アオイ  アオイ トマト」というふうになるのが挿入変異です。 (PP)  ちょっと1枚戻りますけれども、欠失は19に起こって、挿入が20に起こるということ がわかっております。 (PP)  それで、実際どういうふうになるかというのを少しだけ御紹介しますと、私どもの症 例で、欠失は52個あったんですけれども、一番多いのはCodon746 〜750 までが欠 けるというもので、52個中25例はそのタイプです。1個ずれるとか、これは大分ずれて いますけれども、それがぱらぱらとありますし、一番端っこのところでアミノ酸が変わ ると、突然変異が入って変わるのと、ここに別の挿入が入って変わるなど、バリエーシ ョンはかなりありますが、ほとんど共通してこの747 、748 、749 、750 の4つのアミ ノ酸が欠けています。これなどは欠けていないんですけれども、その辺の生物学的意義 に関しては、まだわかっておりません。 (PP)  点突然変異は、もう少し単純な変わり方ですけれども、Codon719 のGがSかC かAに変わるようなものがこのぐらいあります。  それから、多いのが858 番で、ここは本来Lなんですけれども、それがR、ロイシン がアルギニンに変わるようなものが、54個のミスセンス変異のうち49例はこれでやると いうことがわかりました。  あとまれなものとか、2つ重なるとかいうのもありますけれども、基本的に最初にお 見せしました4つの、18のCodon719 、19の欠失、20の挿入、21のCodon858 というのは、2つ同時にあるのはありませんでした。したがって、それは非常に興味深 いことかというふうに思われます。 (PP)  変異が入るとどうなるかということですけれども、これは先ほど最初にお見せした図 ですが、このリン酸化が非常に亢進することがわかっています。そうすると、下流の道 は大きく3つあるわけですけれども、主にこちらのアポトーシスを抑えるという経路が メインに活性化されるんではないかというような論文が発表されております。 (PP)  このスライドは、変異の頻度と種々の因子との関連を示しています。1,000 人以上の データでみてみますと、このような数字になります。女性対男性、喫煙者対非喫煙者、 腺癌対非腺癌、こういう対応は非常に明確な差があります。特に腺癌以外では非常に少 ないと報告されています。  ただ、たばこを吸っていても10%は変異があります。有意な差ではありますが、逆に 例外もかなりあるともいえます。 (PP)  人種の差については、今まで幾つか報告がありまして、それをまとめてみますと、こ のようになります。この日本は岡山大学と千葉大学の症例をアメリカで解析された論文 から取ったものですけれども、ピンクが女性で青が男性ですが、女性で50%、男性で16 %というようなデータです。それから、台湾はむしろもっと高いぐらいです。アメリカ は低いですし、オーストラリアも低いです。日本は、私どもの名古屋の日本人ですが、 やはり同じ日本人で高いと。最後はイタリアですけれども、イタリアは低いということ で、どうも漢字が読める国は高いというような傾向があります。 (PP)  日本人になぜ多いかというのは、勿論、漢字が読めるからではないんですけれども、 まずバックグランドとして腺癌が日本は多いというのがあります。私どもの手術例は、 80%ぐらいが腺癌で、この間国立がんセンターのデータを土屋先生からも伺いましたけ れども、同じように、日本のメジャーな施設では腺癌が70〜80%あるというのに対し て、特にアメリカはそれより少し少ないですし、更にヨーロッパは少ないというふうに 伺っています。ですから、腺癌に多い変異は腺癌の多い集団で、肺癌全体とすれば高く なります。  それから、たばこを吸わない人が、特に日本の女性は、肺癌患者さんの中での頻度が 高いということがあります。  私どものデータでは、何と女性の肺癌患者さんの80%以上はたばこを吸ったことがな い方でした。米国のあるデータでは15%しかないといわれています。男性は10%と6% なので余り変わりませんけれども、女性は非常に大きな差があって、このようなことも 当然寄与をしていると考えられます。  しかし、それでも東洋人に多いというデータがありまして、例えば、アメリカ、オー ストラリア在住東洋人にも頻度が高いという報告もあります。したがって、これは環境 ではなく、やはり人種的なものがあるのであろうということとか。最近の研究では、E GFR遺伝子のイントロン1というのは、アミノ酸をコードしているところの前のとこ ろですけれども、そこにCとAの繰り返しの回数の多型性というのが報告されていまし て、それが東洋人では短くて、そういうこととの関連が議論されていますが、完全には 明らかではありません。 (PP)  EGFR変異はDNAを調べるというかなり繁雑な操作がありますから、もしCT画 像などで判断できれば非常によろしいわけです。ここに8種類の肺の腺癌患者さんのC Tを、みんなEGFR遺伝状態を調べた患者さんなんですけれども、非常に似ていると 思われると思います。実際にこれの変異を調べてみますと、上段はあって下はないんで す。しかしこれを区別できるとおっしゃる方は多分おられないと思いまが、従って画像 のみではとても無理です。 (PP)  それで、顕微鏡で見たらどうかということですけれども、このようなものが末梢肺か ら出る肺腺癌の特徴的な像なんですけれども、こちらの2つは変異がありますし、こち らはありません。この2つが典型で、こちらは少し分化度が低いと言いますか、少し変 わったタイプですが、この2つがあって、この2つがないというのでしたら区別が付き そうですけれども、こういうタイプが多いんですが、こういうタイプで変異がないもの もあるので、顕微鏡の検査だけでも正確な予測は困難だと思われます。 (PP)  今度はゲフィチニブとの有効性の関連に関して、まず私どものデータを御紹介したい と思いますけれども、私どもは外科ですので、ゲフィチニブを使用する機会は術後の再 発症例の場合が多いんです。私どもの施設で手術をされまして、再発をして、いろいろ 化学療法などをされた後か、または再発後最初にゲフィチニブを使われた方もおられま すけれども、59名の方がそういう治療を受けられました。化学療法をした方が37名で、 22名はなしです。この中には、腺癌が43人、女性が23名入っておられます。  この59名の遺伝子変異検索の結果は28例(54%)、多少頻度が高くなっておりますけ れども、ゲフィチニブを使うということで、腺癌が多くなるとか、そういうバイアスが 入っているためと思われます。15が欠失、12が点突然変異で、1個だけが挿入というこ とでした。  ゲフィチニブがどのように効いたかという判断は、難しい場合もあるわけですけれど も、特に術後の再発ですと、非常に小さな粟粒状の影が両肺で出てくるような再発とか があって、通常使われているRECIST基準が適用しにくい場合もありますので、で きるだけ多く症例を拾い上げたいということで、腫瘍の縮小、増大のほかに、腫瘍マー カーであるCEAが半分以下に減るかどうかというようなことも使って、どちらかが見 られた場合は、有効と判定しました。CEAが上がるか、腫瘍が大きくなるという場合 は無効と判定しました。  当然どうしても判定ができない症例も出てきますが、59例中50例が判定可能でありま した。26例が有効、24例が無効という結果でした。これと遺伝子変異がどのような関係 にあるかというのを調べたのが、この図です。 (PP)  こちら側が変異がある症例29例です。こちらが変異がない症例21例で、この29例中24 例、83%は有効だと判断されたのに対し、この21例中2例で10%弱ですけれども、無効 と判断されました。  勿論、ゲフィチニブの効果判定とEGFR変異はそれぞれ独立に行ったということを 申し添えておきます。 (PP)  ちょっとだけ実例をお見せしますと、この方は68歳の女性で、肺内に転移が術後5年 目で出てきた方なんですけれどもEGFR遺伝子には欠失変異がありました。ゲフィチ ニブは非常によく効いています。  この方は、ほぼ発売当時から飲まれていて、今年も先日CTをやったばかりですけれ ども、いまだにいい状態が続いています。この状態になってからもう2年半ぐらい調子 がいい方です。  次は62歳の男性で、腺扁平上皮癌、ちょっと聞き慣れない名前だと思いますが、腺癌 と扁平上皮癌が混ざったような癌です。その方でやはりこういう欠失変異がありまし た。手術後再発で、胸壁の腫瘤を生じていますが、それがゲフィチニブでほとんど消え るような反応がありました。  ちなみに私どもの施設では、腺癌以外の症例で、1例だけEGFR遺伝子変異が見つ かったのがこの症例です。 (PP)  この方も女性で、変異があって、リンパ節や胸水が減ったという方です。こちらは、 点突然変異ですけれども、肝臓に大きな影がありますけれども、これがほぼ、この間は 3週間か2週間ぐらいなんですけれども、非常によく効いた方です。  ただ、残念ながらこの方はまたすぐその後増悪しまして、そういうことが今いろいろ 問題となっております。一旦は奏効するけれども、抵抗性を獲得するような症例が殆ど です。  この方は69歳の女性で、CEAという腫瘍マーカーが21というのは、正常値が5です ので、4倍ぐらい高いという方です。かつこういうところに肺の中に転移が出てきた症 例です。肺全体では幾つかあるわけですけれども、その方にイレッサを使いますと、C EAが正常化しまして、画像もよくなったという方ですが、この方はどう探してもEG FR変異ありません。  この方についてはチロシンキナーゼドメインだけではなくて、全長の塩基配列も調べ ておりますけれども、変異はありません。ですから、こういう症例は少ないんですけれ ども、やはり絶対あると思います。効くんですけれども変異がない症例というのは無視 できない程度にあるということであります。 (PP)  これが今までの報告を1つの表にまとめたものですけれども、EGFR変異があるグ ループとないグループの奏効率。例えば、初期の報告では、5分の5、8分の8という 感じで、100 %と報告されていましたが、私どもの今の報告では83%ですし、この徳茂 先生の岡山大学のデータとか、アジアの国の報告ですけれども、90%という報告で、全 部足して計算しますと、90%ぐらいが有効であるのに対し、変異がない場合は14%ぐら い。即ち、これは100 ではないし、0ではないということです。 (PP)  その数字を、臨床検査でよく使われます。感度又は特異度という計算をしてみます と、効いた方76名、効かなかった方71名で、変異がありか、ないかということですけれ ども、感度は効いた方全体の中でどのぐらい変異があったか。ですから、76分の66とい う計算で87%です。  特異度は、効かなかった人の中で変異がなかった割合です。71分の64で90%。  陽性的中率というのは、変異があった方の中で効いたのはどれかという数字です。そ れも90%。陰性的中率は、変異がないなら効かないだろうと普通は思うわけですけれど も、本当に効かないのがどのぐらいかという割合ですが、それは76%です。  それから、個々のところ、変異ありが効くかどうかという指標になるとすれば、あれ ば効いて、なければ効かないというわけですから、ここだけになってしまえば100 %に なるわけですけれども、こことここはそういう意味から言えば外れているわけですが、 外れがどのぐらいあって、当たりがどのぐらいかという割合が正診率となりますけれど も90%弱ということで、この種類の分子的な予測因子としては、非常に高いとは思われ ますが、やはり完璧とはいえません。 (PP)  重要なポイントは、遺伝子検査によって予測できることは腫瘍が小さくなるだけなの か、本当に延命効果まで含まれるのかということです。 (PP)  外科手術を受けた277 例のうち、ゲフィチニブをその後使われた方は、少し不公平な 比較になりますからこれを除いて、純粋に肺癌の種類としてEGFR変異があったら予 後はどうなるかという検討をしました。変異があると多少この辺は上に行くような傾向 がありますけれども、統計学的にも全く差はありませんでした。  一方、先ほどの59例の方で変異があるか、ないかで生存がどうなるか。この方々は、 手術をされておりまして、再発をして、化学療法をやられて、ゲフィチニブを使ったと いうような複雑な病歴のある方で、どこから生存期間をはかるかというのが問題ですけ れども、この検討ではゲフィチニブ投与開始後の期間を見ております。そうしますと、 変異がない方は、これは2年ですけれども、かなりの方が亡くなられるわけですけれど も、変異があると有意に上に行くということで、変異があるということは生存に関して もよい予測因子となり得ることが示唆されます。 (PP)  ちょっとだけ症例をお見せしたいと思います。この方は、例えば80歳の男性で、1日 20本を25年吸っておられた方で、通常だと間質性肺炎の急性肺障害のリスクも高い方で す。この方は、手術を一昨年の夏にされまして、術後、IIIA期ということが判明され た方で、予後も余りよくないと予測をしておりましたら、やはり昨年の夏になりまし て、食道が狭くて食べられない状態になられました。PS3というのは、ほとんど寝た 切りの状態。そのほかに胸水もたまって再入院されました。血液検査では腫瘍マーカー も上がっていました。  こういう状況のときには、悪い条件がかなり重なっています。80歳男性、喫煙、PS 不良ということで、通常ですと積極的がん治療は行わずにお示ししますもうサポーティ ブケアを中心に行うことになると思われます。 (PP)  ここで、少し間質性肺炎の発症率を。これは、WJTOGのデータですので、多少数 字が異なりますけれども、傾向はどれも同じだと思いますが、発症と死亡、男性は5.9 %、女性は4.0% 、それで男性喫煙者であれば6.6 %になります。EGFRの変異はど ういうかと申しますと、こういう感じなります。EGFR変異は、ベネフィットの代理 のマーカー。それから、こちらは悪い方のマーカーとなりますと、このリスク・ベネフ ィット・レシオというのは、これとこれの割算に近いものになると思われます。今回の 症例はこういうところになります。  このままで、ベネフィットの割にリスクはかなり高いと思われます。例えば、一番下 のところですが、非喫煙女性では、発症は0.4 で突然変異は61%で、この割合はかなり 高いものになりますが、ここは非常に低いということです。これだけの不均一性がある わけですけれども、この方はどうしたかと言いますと、最初こういう状態です。食道が こんなに狭くなっています。それで、遺伝子検索をやってみますと、最初の手術の標本 も、それから食道を狭くしているここの部分の生検も同じ突然変異がありました。そこ でゲフィチニブを使いますと非常に腫瘍マーカーもよくなって画像もよくなりました。 (PP)  こういうお手紙もいただきまして、非常に感謝していただいたという事例です。「驚 きと喜びで一杯」と言っていただきました。 (PP)  このような事例もありますので、EGFR遺伝子診断を日常の臨床検査に持っていく ことが当然上がってくると思いますが、そこで幾つかの問題点を最後に指摘したいと思 います。 (PP)  まず、肺という臓器の特殊性ということがあります。体の深いところにあって、検体 は取りにくい。取れたとしても、気管支鏡で取った検体ですとクラッシュしてばらばら になっていますし、ここを拡大しますと、このような状態です。病理の先生の診断とい うのは、このオレンジの矢印のところに少し核の大きい細胞がありますけれども、こう いうものだけを見て診断しているわけです。この中でどのぐらい癌があるかというと、 ざっと見ても5%もないようです。  したがって、これを全てつぶしてDNAを取ってしまうと、かなりの部分が正常組織 由来のDNAになる危険があります。 (PP)  それから、これは切除手術した標本ですけれども、この中にどのぐらい癌があるかと 言いますと、この紫の部分は癌細胞ではなく、間質の細胞です。これは正常な細胞です から、非常に条件のいい癌の固まりを取ったとしても、下手すると半分以上は癌でない 組織のDNAが取られるわけです。 (PP)  それから、通常やられる遺伝子解析は、このようなオートマティックシーケンサーと いう機械でやりますけれども、欠失変異というのは、どのように見えるかと言います と、正常を並べてこういうパターンが見られるときに、下の段ですけれども、このとこ ろから1つのところに青、赤、緑というのが、それぞれの塩基に相当するわけですけれ ども、ここのところから急に2つの波が見えるのがわかるでしょうか。ここ緑と黒が重 なっているとか、赤が2つ重なると赤が高くなったりして、2つ種類の波が重なってい て、どこと重なっているかというのを見ると、後ろのこの部分と重なっているというこ とで、ここが欠けたものと正常が混ざっているというパターンになるわけです。これは 比較的腫瘍の細胞が多いのでわかりますけれども、これが例えば5%という条件になっ たときに、これがわかるかどうかというのは、非常に難しいことが想像できると思いま す。 (PP)  それから、点突然変異の方は、もう少し単純ではありますけれども、例えば癌が25% ぐらいあると、この程度の黒いのに対して赤いものが見えますけれども、5%となると かなりノイズと埋もれてしまってわかりにくくなります。そういう問題点があります。 (PP)  まとめますと、肺というのは乳癌とかとは違いまして、深部の臓器ですので取りにく いです。手術の検体はともかく、もう手術ができない方の質のいい検体を取るのは難し い場合がしばしばあると。  肺癌組織構築の特異性としてもともと間質が多いということです。  EGFRは活性化変異と申しましたけれども、父型由来と母型由来と遺伝子というの は、2つのコピーがあるわけです。通常はその一方は残っていて、もう一つの方に異常 が起こるわけなので、変異した遺伝子は半分しかありません。それに正常細胞が混ざる ので、ますます薄まっていくということになります。  ですから、いかに腫瘍細胞を純化して核酸を抽出するかという問題と、少ない中でい かに変異バンドの感度を上げていくかという問題があるわけです。 (PP)  私どもの病理の谷田部先生が、少し工夫をしまして、新しいアッセイを使っていま す。これは、詳細な説明は省略いたしますけれども、リアルタイムPCRという方法を 用いまして、これはCodon858 番に起こる突然変異の検出専用ではあります。特異 的なプローブを使いまして、蛍光を発生させるというアッセイです。  ここに突然変異に特異的なプローブをつくっておきまして、この部分だけをRNAに するんです。RNAにしますと、ここにもしくっ付けない場合には、一本線のRNAだ けを分解する、RNaseHという酵素を作用させると切れます。切れますと、クエン チャーというのが蛍光の発生を抑えているわけですけれども、それが外れて発光するの をはかるということで、例えば癌が5%程度混ざっていると十分検出できるというシス テムです。(PP)  こういう方法を用いますと、非常に微量なサンプル。例えば、これは通常の生検の標 本ですけれども、このようなくずのような組織からDNAを1時間で取って、今の方法 で2時間から3時間ぐらいで解析ができるというようなことを実用化しています。  ただ、問題点は、これはCodon858 しかできませんし、同様なリアルタイムの方 はExon19もつくっておりますけれども、それで90%はカバーできるわけですが、 100 ではないというところに問題点があります。 (PP)  これはちょっと資料には入っておりませんけれども、愛媛がんセンターでは高度先進 医療としてEGFR遺伝子検査を臨床検査として提供しております。基本はやはり塩基 配列なので、RNAが取れるような検体の場合は塩基配列をやりますが、どうしてもパ ラフィン切片になるしかないような場合は、今の方法も使って実施しております。  ただ、臨床上の意志決定にはあくまで参考にしているという状況ではあります。 (PP)  先ほどお見せしました症例ですけれども、やはりEGFR遺伝子変異がすべてではな いということを強調しておきたいと思います。 (PP)  「まとめ」ですが、しばしば劇的な改善をもたらすお薬でありますが、EGFR変異 はその中にあって臨床効果と非常によく相関するが完璧ではありません。  遺伝子変異検索は、ベネフィットを予測するという意味では、積極的に行うことが望 ましいんですけれども、やはりいろんな問題点がありますし、現在のところ施行できる 施設は限られております。  変異が検出されない場合、遺伝子検査のクオリティーによって偽陰性が相当にあり得 るということと、変異がなくても奏効する症例も少数ながら存在します。もう後がない 患者さんが多いわけですので、変異がないからと言って投与禁止にして、もし投与して いれば劇的な改善があったかもしれないということを見殺しにはできないというふうに 今の時点では考えます。  でも、当然ながらこれは将来的には検査を標準化して、普及していくことが非常に重 要だと思いますが、現時点というお話になればやはり今は無理かなと思います。 (PP)  根来先生が、後で肺癌学会のガイドラインを御説明になると思いますけれども、そう いうようなことから、その部分だけを少しだけ御紹介しますと、遺伝子検査は標準的な 方法が確立されておらず、場合によっては時間が非常にかかって、そんなに患者さんが 待てない場合もあり得る。  それから、ルーチン化は現在では困難。  ほかのところにも変異があるかもしれないし、更に変異が逆に効かなくなる変異とい うのも最近発見されたりしております。  それから、EGFR遺伝子がすべてではない可能性があります。すべてを私たちが理 解しているわけではないと思われます。  そういうことで、やはりあらかじめEGFR遺伝子変異の有無を測定し、本剤投与の 適応を決定するほどの確実性・現実性は現時点ではないというガイドラインになってお りますけれども、非常に妥当な線かなというふうに考えます。  以上です。 (PP)  これは共同研究をした人々です。どうも御清聴ありがとうございました。 ○松本座長  ありがとうございました。検討会の冒頭の資料確認において、厚生労働省の指摘に基 づき、アストラゼネカ社が調査を行った結果の資料の確認が行われましたが、その資料 について事務局から紹介をしていただけますか。 ○事務局  お手元の資料のNo. 5ですけれども「イレッサEGFR変異等関連指摘事項及び回答 」と書いた資料でございます。これは、1月20日の検討会の後に、厚生労働省からアス トラゼネカ社に対して、大きく4つの照会を行っておりまして、それに対しますアスト ラゼネカ社の回答が、この資料No. 5としてまとまっているところでございます。  厚生労働省からアストラゼネカ社に対して照会した事項を簡単に御紹介しますと、1 ページ目の上のところから「照会事項」と書いてあります。  1つ目が「1.EGFR遺伝子の変異と有効性(奏効率、延命効果等)との関係につ いて」。  2つ目が1ページ目の真ん中にございますけれども「2.腺がんと扁平上皮がんの違 い、性別、喫煙者と非喫煙者の別による有効性及び安全性(特に急性肺障害・間質性肺 炎の発言)との関係について」。  3つ目が1ページ目の下の部分にございます「3.遺伝子変異と間質性肺炎等の副作 用との関係について」。  4つ目が2ページ目の上4分の1ぐらいのところにございます「4.EGFR遺伝子 変異の診断に関して」ということの照会を行っております。  本日の光冨先生の御説明との関係におきましては、照会事項1番の「EGFR遺伝子 の変異と有効性(奏効率、延命効果等)との関係について」と、照会事項4番の「EG FR遺伝子変異の診断に関して」が関係している内容でございますけれども、こういっ た事項につきまして、アストラゼネカ社が調査した回答というもので資料として提出さ れているような状況でございます。 ○松本座長  ありがとうございました。委員の方は、適宜この資料を御参照していただければと思 います。  光冨先生の説明に戻りますが、先生の説明は、まとめによりますと、EGFR変異は 臨床効果と非常に相関するということが伺われますが完璧ではないということ。  それから、変異が検出されない場合の理由として、遺伝子検査によっては偽陰性が相 当にあり得ること。  それから、変異がなくとも奏効する症例も少数ながら存在すること。  現時点では、検査陰性でも投与禁止にはできないこと。  変異検索の標準化と普及が重要であるというふうにされているかと思います。  ただいま、EGFR遺伝子変異の現状について、光冨先生から御説明がありました が、御質問やEGFR変異に関して御意見ございませんでしょうか、委員の先生方いか がでしょうか。  下方委員、どうぞ。 ○下方委員  今、光冨先生からお話しいただいたことは、全くそのとおりだと思います。ただ、現 実の問題として、肺癌患者さんの7割は来院されたときに、もう進行癌で手術ができま せん。したがって、内科領域の立場から考えますと、患者さんを診断するときに、当然 生検等をして診断するわけですけれども、外科手術をされた場合で再発してくるとか、 そういう患者さんの場合には外科手術の標本がございますから、非常に遺伝子変異の検 索も十分な材料と言いますか、検体量があってやりやすいと思うんです。  ところが、気管支鏡を使ったような生検が非常に小さい検体しか取れないと。しか も、その中でかなりが正常組織も入っている可能性があるとすると、現実的に内科領域 でこの遺伝子診断をあらかじめ行うというのは非常に難しいと思うんです。その方法と して、勿論小さい標本でも幾つか切片を取って、そしてマイクロダイセクションをやっ て腫瘍組織のところがある程度取れれば、そういうことは可能だと思いますし、最後に お示しになったような新しいクエンチャーを使うような方法も、今後発展してくると思 うんですが、実際その多くの肺癌患者さんで、十分なこういった遺伝子診断ができない というのが、現時点ではかなり大きいことだと思うんです。  ですから、私たちも大学病院で外科手術された患者さんで再発された患者さんについ ては、こういった診断方法を使って、変異があれば積極的に患者さんに治療方法をお勧 めするということを、外科の先生方と一緒にやっていますけれども、内科で手術ができ ないような患者さんの場合には、非常にこういう遺伝子診断の応用できる範囲が、まだ 現時点ではかなり限られていると思うんですが、先生は、今後こういうことに関して、 もっと切除材料以外で何かこういう方法で、どんどんこれが普遍化するというようなお 考えはありますでしょうか。 ○光冨参考人  そういう意味で、先ほどのおスライドもお見せしたつもりだったんですけれども、実 例で3時間でできるという方法をお見せしました。あの方法は通常の生検の1枚のスラ イドでできております。したがって、現在もExon19と21はあれでできます。Exo n20も挿入変異なので、これもあるかないかは割と簡単にできます。もちろん、ゴール デンスタンダードはシークエンスと思いますけれども、大部分はそれで十分できると思 います。  それと、もう一つは、どういう方に検査をするということです。日本人の女性の腺癌 という方は、非常に効きやすいということもわかっておりますし、逆に間質性肺炎のリ スクも少ないので、そういう方に検査までやって、やはりあったということを確認する 意義がどの程度あるかという問題もあると思います。  したがって、遺伝子検査の意義が高いのは、本日お見せしましたような方で、間質性 肺炎のリスクは非常に高いと想像される方で、しかし、ひょっとしたらイレッサが効く かもしれないという方においてであると思われます。そういうときに、生検でもでき る、もう少し技術を検討すれば十分対応できるんではないかと思います。  ただ、やはり申しましたように、癌細胞のDNAを見ないといけませんので、やはり 病理医が間に介在する必要はあると思います。   ○松本座長  下方先生、よろしいですか。  それでは、池田委員、どうぞ。 ○池田委員  本当にこれだけ変異が、効果の指標と相関しているというのは、非常にすばらしいオ ブザべーションだと思うんですけれども、実際に効くけれども変異がないと、変異があ ると証明できないという症例があるわけですね。これは、ある意味では検査で見つから ないということもあるかもしれませんけれども、検査の限界というか、センシティビテ ィー。それから、それぞれのスタディーでみんなシークエンスしているわけですね。論 文で発表になったものは、全部シークエンスしているわけですね。  私の質問は、効くけれども変異がないということを、検査の側の方のセンシティビテ ィーをどんどん上げていく、あるいは確立することによってプレディクトできるのか。 あるいはもともとそういうことがあってもおかしくはないと思うんですけれども、その 辺は先生どうなんでしょうか。検査法を確立することで、すべてこれが解決できるとい うことですか。違いますね。 ○光冨参考人  それは、私も述べたつもりなんですけれども、1つは検査の感度もありますが、わか ってない未知の分子異常というのがあり得るということです。どのぐらいわかっている かということに関して御報告しておきますと、1つは858 番だの19のディリーション で、効きやすいと思われている変異に、790 番目のアミノ酸が変わるという変異が加わ ると効かなくなるというのが、2、3週間前に報告されています。それが1つ。  それから、EGFR遺伝子はHERファミリーというという遺伝子族で4つあるわけ ですけれども、HER2という遺伝子がありまして、これは乳癌の薬であるハーセプチ ンのターゲットとなっている遺伝子ですけれども、HER2とHER1、HER1とい うのがEGFRですが、それがダイマーをつくってくっ付くということがあって、HE R2の機能も非常に関連している可能性があります。HER2の突然変異というのも報 告されています。非常に頻度が低いんですが、やはり女性の非喫煙者に多いということ で、HER2の突然変異とイレッサの感受性というのも非常に興味があるところですけ れども、それは頻度が低いこともあってよくわかっておりません。  それから、もう一つは、858 番と欠失は症例も多いので、感受性との関係がたくさん データが集まってきているわけですけれども、そのほかの挿入変異だの、719 番の変異 などは、まだそれで実際ゲフィチニブを投与された方は非常に少なくて、その辺も同じ ような、突然変異はみんな同じような意義なのかどうかということも解決していませ ん。  更にもっと言いますと、ras遺伝子というのも、肺の腺癌で割と多く変異が起こって いますが、ras遺伝子の突然変異があるものは非常に効きにくく、これはネガティブな セレクションマーカーになる可能性を秘めていると思います。面白いことに、rasとE GFR変異は絶対一緒にないんです。EGFR変異がなくて、かつras変異があるとい うような、そういう症例は、ほとんど奏効率がゼロという報告が、米国からも出ていま すし、私どもも同様のデータを持っております。 ○松本座長  どうぞ。 ○堀江委員  大変貴重なデータをありがとうございました。私も内科ですので、既に質問がありま したように、生検組織を得て、診断を確定させるという対応をしなければいけない。我 々が経験するのは、手術適応にならないようなケースがどうしても多いわけです。そう すると遺伝子変異を調べようと担当医にとって一番の悩みは、組織のサイズが非常に小 さいことであり、先生御指摘のように、全体が癌組織ではないということです。そうい う意味から質問ですが、先生方の手術した症例で、術前に生検をやってその生検組織に 対して同じような検討をして、それから手術をした組織と対比をしているというデータ はございませんか。  要するに、生検組織でどの程度遺伝子変異を調べることができていたのかどうか、そ の辺の比較されたものがあれば、是非教えていただきたいと思います。 ○光冨参考人  その比較はありません。ありませんが、先ほどのリアルタイムPCR法で、本日はデ ータを出しておりませんけれども、内科の症例で経気管支的な生検やCTガイドの生 検、だから内科の症例に使えるような方法ですけれども、それで30例ぐらい解析をして おります。その方々はみんなゲフィチニブを使われているんですけれども、その奏効と の関係は非常にきれいな関係、即ち同じぐらいの90%程度の、ゲフィチニブの有効性に 対する正診率です。ですから、実用としてもかなり近いところまでは来ている気はして おります。しかし厳密に手術検体と気管支生検標本の1対1の比較はやっておりませ ん。 ○松本座長  どうぞ。 ○貫和委員  東北大学の貫和でございます。先生のお話、論文を先に読んでおりましたので、かな り理解をさせていただきました。2点質問させていただきたいと思います。1点は、有 効例の内容に関して。2点目は、やはり今も議論になっています診断の評価、ミューテ ーションの評価の困難さについてであります。  1点目の質問ですけれども、図の18にありました有効例、これは実際には、恐らく肺 癌取扱規約にありますCRかPRが有効になっていると思うんですけれども、我々も実 際30例以上のミューテーション検査を自分達で経験していまして、ミューテーション陽 性の症例では、よく言われていますようなスーパーレスポンダーのような反応がある。 要するに、2週間程度でかなり改善すると。先生の多数例の中で、スーパーレスポンダ ーに相当するような例は何例ぐらいあって、その背景のミューテーションはどういうも のかということを、もし今おわかりでしたら教えていただきたいと思います。 ○光冨参考人  スーパーレスポンダーの定義というのがないので、ちょっと正確に数としては言えま せんけれども、実例をお見せしたようなものは、スーパーレスポンダーに入れてもいい ような症例かと思います。ただ、やはり非常に難しい方で確かにあるのと、それからお 断わりしておきますけれども、今回の検討の判定基準、私どもの判定基準というのは、 通常の臨床試験で使われるよりは多少ソフトになっているし、そういう点で厳密性は多 少欠けることはあるかもしれません。 ○貫和委員  このEGFRのミューテーションがなくて効果があったという症例のページ21のスラ イドですけれども、ミューテーションがなくても以前よりA431 のような細胞株はEG FRの遺伝子の増幅、アンプリフィケーションがあり薬剤に反応するということが言わ れておりましたけれども、実際臨床例としてそういう可能性、例えばこの例においては いかがでしょうか。 ○光冨参考人  アンプリフィケーション、遺伝子増幅の話はいろんなところから出てきていまして、 米国のデータだと増幅と変異が両方あるのが一番効きやすいということがあって、先生 おっしゃるようにこの症例が増幅があるかというのは、興味のあるところだと思いま す。  FISHを使って今、検討はやっておりますけれども、この症例に関するデータは今 のところありません。 ○貫和委員  もう一点、今度は診断の方でありますけれども、確かに先生おっしゃるように、臨床 検体から、特に内科サイドでバイオプシー切片を使って診断するというのは非常に困難 で、特にサンプルでは変異ネガティブでも腫瘍全体ではネガティブと言い切れないとい うところが非常に難しいと思います。  今は、こういう遺伝子を使ってのミューテーション、遺伝子診断になるわけですけれ ども、将来的に乳癌のHerIIに見られるような抗体診断が仮に可能になれば、癌組織が 幾ら小さくても診断可能になると思うんです。そういう点の御見解はいかがでしょう か。 ○光冨参考人  タンパクレベルで診断ができるかということですね。ちょっと今は何とも言えませ ん。ただ、下流の分子でAKTというのがありますけれども、そのリン酸化AKTが効 果とよく合うという報告がありましたけれども、ああいうものをうまく組み合わせるこ とで、完全ではないとしても、代替の検査が開発されてくる可能性はあるかと思いま す。現時点ではこれといったアイデアは持っておりません。 ○松本座長  それでは、堀内委員、どうぞ。 ○堀内委員  群馬大学の堀内です。大変面白いデータをありがとうございました。何点かおたずね したいと思います。1つは、診断が現状ではなかなか難しいので、いろんな医療機関で 必ずしもできないとのお話でした。それはそのとおりだと思いますけれども、イレッサ の場合には分子標的薬剤で民族差とか副作用の問題が起こってきた第1例目だと思いま すが、これから沢山の分子標的薬剤が臨床の場で使われるようになってくると思いま す。  その場合に、やはり遺伝子変異は大きな問題になるだろうと思います。その場合に作 用は、オール・オア・ナンではいかなく、一定程度は、いろんなファクターが組み合わ さって変異がなくても効くケースもあると思いますが。このような遺伝子変異を将来で きるだけ早くチェックするシステムが、いつ位に完成し、どのように作ったらいいとお 考えになっているかお教えください。 ○光冨参考人  何か私が答えられるのかどうかという質問ですけれども、だれが主体となって進める かということです。それは厚生労働省なのか、メーカーなのか、それとも私達医師なの かというところで、ちょっと私にはそれに答える資格も何もないと思います。  ただ、実用化という面からしますと、少しおこがましいですが、私どもの施設ではか なり完成に近いところまでいっていますので、それをいかに普及させるかという問題は 確かにありますけれども、技術的にできないことではないわけです。内科の検体であっ ても可能です。ですから、ある意味積極的にだれがプロモートするのかというのはあり ますけれども、必要性が十分認識されれば、そんなに難しい遠い先の話ではないと思い ます。  これでお答えになっているでしょうか。 ○堀内委員  わかりました。それから、もう一つ、今回の場合に、現状では遺伝子を全部チェック してから投与するというのはなかなか難しいとのお話しでした。そうしますと、EGF Rレセプターの変異のサロゲートなマーカーとして、例えば女性で腺癌でというよう な、先ほど予測率90%という話がありましたけれども、サロゲートマーカーを投与する 場合の目安にするということができないでしょうか。 ○光冨参考人  それは、先生のおっしゃるのは、例えば女性に限るべしとか、女性の腺癌に限るべし などということでしょうか。 ○堀内委員  そういうことではなくて、どのぐらいの確率でマーカーになりうるかについてです。 ○光冨参考人  確率が上がるのは確かですけれども、それよりも、一番わかっている中では、遺伝子 変異が一番独立した予測因子としてはなると思います。やはり女性だから投与、男性だ からやめるとか、喫煙者だからやめるかというようにしますと、先ほど実例として出し ましたような方は当然投与されない方に入ってしまいます。しかしあの方はゲフィチニ ブを使っていなければ、今は当然亡くなっておられると思うんです。もう半年以上経っ ております。ですからああいう方を少しでも助けてあげるというか、キュアーは難しい としても、意味のある生命の延長というのが得られたと思いますので、そういうことか らしますとやはり臨床的なサロゲートマーカーはやはり遺伝子変異に比べればかなり劣 るんではないかと思っています。 ○堀内委員  そうしますと、今、ゲフィチニブは現在、ほとんどの肺癌の末期患者に使われている のではないかと思います。直線的に使用量が増えておりますので、どういう患者に規制 をかけていくかという点についてお考えがあったら教えていただきたいと思います。 ○光冨参考人  それも非常に難しい問題で、結局余り後がない患者さん方ですね。そして、逆転ホー ムランもあり得る状況で、どう考えていくかということです。この人には投与してはい けないというのは、なかなか難しいと思います。もう少しわかってくれば、そういうこ ともあるとは思うんですけれども、男性であるからいけないとか、そういうことは無理 だと思います。 ○堀内委員  やはり一定期間で効かなかったら投与をやめるようにするのでしょうか。 ○光冨参考人  それはよろしいかもしれませんね。非常に効く方は非常に早く効果がでますから。 ○堀内委員  もう一点だけ申し訳ありません。遺伝子変異と本来副作用が大きな問題なので議論を しているのだと思いますけれども、ミューテーションと副作用との関連が余りデータと してはないように思いますが、先生のデータでは何か因果関係があるとお考えでしょう か。 ○光冨参考人  これは、非常な大きなバイアスが入りますので、ミューテーションがある方は女性の 腺癌のノースモーカーが多いわけですから、当然間質性肺炎は少ないです。だけど、そ れはミューテーションがあったら少ないのかどうかというのはわかりませんし、ミュー テーションは癌のところだけの現象ですので、バックグランドの肺とミューテーション とはそんなに関わっていないのではないかと思います。ただ、ミューテーションができ る過程が、なぜたばこを吸わない人にミューテーションが起こるのかというと、これは もう本当に謎なんですけれども、そういうことが間質性肺炎を逆に抑えているというよ うな可能性、即ち共通の原因から起こったことという可能性はあるかと思いますが、現 時点で直接の関連はないと思います。見かけ上ミューテーションがあれば間質性肺炎が 少ないというデータには当然なると思いますけれども、それはあくまで見かけではない かと思います。 ○松本座長  堀内委員、よろしいですか。  北澤委員、ちょっと待ってください。土屋委員、どうぞ。 ○土屋委員  質問ではなくて、ちょっと補足なんですけれども、先ほど堀江先生が外科の生検材料 と手術材料との比較ということだったんですが、今からできるかというと、それは恐ら くなかなか難しいのではないかと。恐らく、今、肺癌の診療は日本で急速に変わってい るのは、やはりCT検診その他で見つかっている癌自体が、かなり早い時期で外科に回 る症例ですね。  先ほど、下方先生は、7割方手術ができないと言っていたのが、恐らく10年前、20年 前はそういう状況ですけれども、今、一般診療病院で50%を超えて手術に回る患者さん がいるのではないかと思います。そういう患者さんはほとんど抹消の、先ほどの光冨先 生が出されたような腫留影で、なかなか生検が難しいという場所で、しかも今、画像診 断がよくなっていますので、私どもの手術例で8割方は術前診断がない状態で手術に踏 み切っています。それでも400 例の肺癌に対して年間10例足らず、結果的に肺癌以外の 病変だった症例で、ほとんど術前にわざわざ辛い気管支鏡をやってまで診断を付ける。 あるいは気胸の危険を冒して針生検をやるということは、ほとんどの場合やっておりま せんので、そういうスタディーを今後組むこと自体が、日本ではかなり難しいんではな いかと思います。  それと、先ほどから明日にもでも全例ができたらということなんですけれども、光冨 先生のところのEGFRのは、私どもも研究所が隣に控えているのと、光冨先生のとこ ろも、研究所と病院が非常にうまくいっている病院だと思うんです。これは今の時点 で、先ほど迅速にやれば3時間でできる方法もとおっしゃったんですが、そのバックに はかなりかかり切りでやってらっしゃる人で、費用というものがあった上での今日のデ ータだろうと思いますので、これをルーチンワークのところまで標準化してもっていく というのは、やはりかなりの努力が必要ではないかと。私どもも今、研究的にはやって おりますけれども、これをルーチン化するのにまだ数段ステップを超えないといけない のではないかという印象を持っていますので、そこら辺光冨先生も同じお考えではない かということで、補足させていただきました。 ○松本座長  ありがとうございました。  北澤委員、どうぞ。 ○北澤委員  スライドの25番のEGFR変異と予後の関係について示したデータについて、ちょっ と教えていただきたいと思います。前回までのここでの議論では、ISEL試験とい う、生存期間を比較したRCTの結果について話し合ってきました。ここの25番では、 先生はレトロスペクティブの比較としてこの図を出されています。この図をどう理解す ればいいのかというのが、いまいちわからないんです。要するに、このBのところでは 変異ありとなしとを比較しており、変異なしの人では生存期間が短くて、差があるよう に思うんですけれども、この結果をどう受け止めたらいいのか。あるいは、それを確証 を持って生存に対する効果があるというためには、やはり前向きの調査が必要というふ うに言えるのかどうか、もし言えるのだとしたらば、先ほど土屋先生の話もあったんで すけれども、そういう比較試験をするということが今の段階で可能なのかどうか、その 辺りの御意見を伺いたいと思います。 ○光冨参考人  先ほどもお断わりしましたように、あくまでもレトロスペクティブな解析ですので、 ある意味信憑性が低くなることは否めないかもしれませんが、ただ幾らレトロスペクテ ィブと言っても、縮小効果判定などよりも生存期間というエンドポイントが非常にはっ きりしたエンドポイントなので、このデータはそれなりの意義はあると思っています。  今までの報告では、腫瘍縮小効果に対してEGFR遺伝子変異が有用な予測因子とい う報告があるわけですけれども、生存のことを言ったのはこれが初めてなので、EGF R変異がある方にゲフィチニブを投与した場合、そうでない方に比べて生存期間が延長 するということを、かなり強く示唆するというふうに考えています。  先生がおっしゃるように、前向きの試験が臨床試験の方法論的には望ましいと思いま す。特にこの状況で、これだけ知ってしまったわけですね。ミューテーションがある人 には効きやすいだの、劇的な例があるだのというのを知ってしまった現況において、プ ラセボコントロールのISELタイプの臨床試験を日本でやれば、それは勿論変異で選 べば私はポジティブになるとは思いますけれども、そこまでやらないと認められないと いうのは、ちょっと行き過ぎではないかと考えます。  それで、実際その臨床試験を走らせたとしても、エントリーの率は非常に悪いし、こ の方は変異があるというのを知ってしまったとします。では、あなただったらどうしま すというのでもいいんですけれども、私が変異があるとなったときに、プラセボに当た るかもしれない試験に入るかといったら、やはり入りませんし、自分が入らないような 試験を患者さんに勧めるわけにもいきません。サイエンスとしてはそれは正しいと思い ますけれども、やはり傍証から攻めていかざるを得ないところがあると思います。  そういう意味で、今やられているゲフィチニブ対ドセタキセルの臨床試験というの は、非常に意義深いかと思います。それはプラセボではないわけですし、実績があるお 薬を対照として使っているわけなので、このような試験でイレッサのプラセボに対する 効果を推定せざるを得ないのではないかと考えます。 ○松本座長  北澤委員、よろしいですか。  ほかに御意見ございませんでしょうか。特に御意見がないようでしたら、このEGF R遺伝子変異についての議論をまとめさせていただきます。  先ほどからのお話を伺いますと、EGFR遺伝子変異については、ゲフィチニブの有 効性を予測し得る重要な因子の1つであるということが示唆されたということだと思い ます。しかしながら、標準的な測定法、また評価方法が確立していないこと、偽陰性が あり得ること、また、変異が確認されなくとも奏効する例が少なからず存在することな どから、現在の測定、評価方法において、EGFR遺伝子変異が確認されていない場合 でも、その検査結果がイレッサの投与を行わないこととするだけの決定的な根拠とはな り得ないことなどになるかとは思うんですが、ただ今後の希望といたしましては、ゲフ ィチニブの有効性と関係する変異の種類の解明でありますとか、EGFR遺伝子の検査 方法の確立に関する研究を進めることが必要ではあろうというふうなことになろうかと 思いますが、いかがでしょうか。  どうぞ。 ○堀内委員  おまとめになったところで、EGFRレセプターが1つであるというお話でした。こ れまでの議論では重要な評価の1つであるとなっていたと思います。やはり重要なワン ・オブ・ゼムではないと思います。ですから、もう少しきちんとした評価をする表現に する必要があるのではないかと思います。 ○松本座長  予測し得る因子の1つにならない。 ○堀内委員  逆です。予測し得る重要な因子であると思います。ワン・オブ・ゼムではなくて重要 な因子とするのが妥当だと思います。 ○松本座長  因子であると、1つであるとはしなくて、それが因子であるということでよろしいで すか。どうですか。これは非常に微妙な問題ですけれども。 ○池田委員  でも、それはまだ言い切れないんじゃないですか。今の時点で重要だということは皆 さん御存じですけれども、ほかの因子は当然あるわけですから。 ○堀内委員  いろいろな因子があるでしょうけれども、先ほどのEGFRレセプターの変異で効果 があるかどうか90%の確率で予測できるというデータもあるわけです。ほかにもこれか ら見つかってくるかもしれませんし、いろいろな遺伝子が関与することもあると思いま すけれども、あくまで現在のサイエンスの到達段階での評価ですから、重要なものであ ると考えるのですが、いかがでしょうか。 ○松本座長  光冨先生、何かコメントありますか。 ○光冨参考人  おっしゃっていることは、そう違わないと思います。堀内先生は、要するに、10個も 20個もあるうちの1つというようなニュアンスが余りよくないのではないかとおっしゃ ったと思うんです。ですから、重要な因子であるということはいいんじゃないでしょう か。  そのほかにあることを認めてないわけではないですから、あり得るのは確かですか ら、私はそう思います。 ○貫和委員  その因子づけで、例えば、女性肺腺癌、そういうものよりはやはり重要度が高いとい う認識ですね。 ○松本座長  では、一応それですべてというわけではありませんので、EGFR遺伝子変異につい ては、ゲフィチニブの有効性を予測し得る重要な因子であることが示唆されるというこ とでよろしいですか。 ○光冨参考人  示唆というのは、ちょっと弱いような気がしますけれども。 ○池田委員  因子であるでいいんじゃないですか。 ○松本座長  因子であることは事実ですね。ですから、因子であるでいいですか。  それでは、最終的にはEGFR遺伝子変異については、ゲフィチニブの有効性を予測 し得る重要な因子であるということにさせていただきます。それでよろしいですか。               (「異議なし」と声あり) ○松本座長  どうもありがとうございました。  どうぞ。 ○堀内委員  もう一つよろしいですか。EGFRレセプター、要するに遺伝子の変異を検索するよ うなシステムを早急につくるべきであるということを是非入れていただきたいと思いま す。できれば厚生労働省が中心になってやってくださるのが一番いいと思います。  イレッサの問題だけではなくて、これからも同様なことが起こり得るだろうと思いま す。イレッサの問題は、分子標的薬剤が診療の場に出てきて、いろいろなことが起こっ ている典型例だと思いますので、ここから教訓を引き出すことが大事だと思います。 ○松本座長  先ほどちょっと申し上げたんですが、それは当然だろうと思います。よろしいです か。  それでは、光冨先生、どうもありがとうございました。ただ、これから日本肺癌学会 のガイドラインを説明いただくわけなんですが、その場合にEGFR遺伝子変異の部分 も出てきて質問があるかと思いますので、よろしければこのまま御着席いただき、それ に協力していただければと思います。ありがとうございます。  それでは、次に日本肺癌学会のガイドラインの改訂について、日本肺癌学会「ゲフィ チニブ使用に関するガイドライン作成委員会」の委員であられます、兵庫県成人病セン ター、呼吸器科部長の根来俊一先生に御説明願いたいと思います。  先生、よろしくお願いいたします。 ○根来参考人  兵庫県成人病センターの根来と申します。今日は、日本肺癌学会が作成いたしました ガイドラインについて説明を依頼されましたので、ご説明させていただきたいと思いま す。  お手持ちのガイドラインの資料がございます。これはもう昨日、肺癌学会のホームペ ージにも掲載されまして、オープンになってございます。  時間の都合上、ガイドラインの前文の1ページの下段当たりまでは、今までの経緯で ございますので、各自お読みいただきたいと思います。  肺癌学会は、2003年10月号の『肺癌』という学会雑誌に「『ゲフィチニブ』に関する 声明」というものを出してございますけれども、それ以降、その1ページ目の一番下の 行に記載しましたように、2004年春米国からEGFRの遺伝子変異がゲフィチニブの感 受性予測因子であることを示唆する報告がなされ注目を集めました。しかも、EGFR の遺伝子変異を有する症例の背景因子が、臨床的に既に明らかにされてきていた奏効予 測因子、すなわち非喫煙者、腺癌、女性、日本人(東洋人)とも相関するということが 示されまして、本剤の感受性に深く関わりがあるのではないかと考えられているという ことがわかってまいりました。  更に、昨年12月17日にアストラゼネカ社が、いわゆるISEL試験を公表して、それ が非常に大きなインパクトを与えていますけれども、そのことをその下に書いてありま す。  それを受けて、FDA、あるいは日本の厚生労働省、アストラゼネカ社の対応があっ たということを、その下に書いてあります。  このような背景の中で、2005年2月に厚生労働省医薬食品局安全対策課から日本肺癌 学会に対して、最近の知見を踏まえて実地医療でのゲフィチニブ使用に関するガイドラ インの改定が依頼されました。これを受けまして、肺癌学会は、ガイドライン作成委員 会を2月17日に組織いたしまして、そして今回のガイドラインを作成することになりま した。  ただ、かなり短時間の間につくりましたことと、しかも世界の情勢が刻々と変わって いる状況の中でつくりましたので、これはあくまでも暫定的なものであるということを 御理解いただきたいと思います。  ガイドラインの本体は「適応」、投与中の注意点、急性肺障害と間質性肺炎の出現時 の対応に分けて記載してあります。これは、前回のガイドラインの様式をそのまま踏襲 しております。  ガイドラインの方を見ながら、前のスライドも見ていただければと思いますけれど も、まず「適応」の1番ですけれども、本剤添付文書の「効能・効果」に記載されてい る適応症である「手術不能又は再発非小細胞肺癌」を厳守すること。これは当然のこと であります。  2番目は、本剤添付文書の「効能・効果に関する使用上の注意」に記載されているよ うに、「1.化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない、2.術後 補助療法における有効性及び安全性は確立していない」ため、これらの症例に対しては 実地医療としては本剤を使用すべきではない。  それについての根拠が、本日の資料に示しておりますけれども、これは初回の前治療 のない未治療の進行した非小細胞肺癌に対してゲフィチニブを単独で使った場合の効果 を一覧表にしてあるんですが、少なくとも3つ報告されております。まとめますと、奏 効率が30%前後です。生存期間に関しては、がんセンター東病院と金沢大学のデータが 示されていますけれども、生存期間中央値が14.5か月と10か月です。また、がんセンタ ー東病院の試験では、10%の急性肺障害による死亡が、報告されております。  そういうことから、添付文書の中にある「化学療法未治療例における有効性及び安全 性は確立していない」という記載を覆すに至るだけの医学的根拠には、現時点で乏しい ということでございます。  3番目は、これが今回のゲフィチニブガイドラインの一番重要な点だと思いますけれ ども、ゲフィチニブ投与による利益(延命、症状改善、腫瘍縮小効果)が得られる可能 性の高い患者群が明らかにされてきました。すなわち、腺癌、女性、非喫煙者、日本人 (東洋人)、EGFRの遺伝子変異を示す症例であります。今後、本剤投与に当たって は、本剤から利益を得られやすいこれら患者群に投与することが推奨されるというふう にいたしました。  その根拠ですけれども、まず注釈の1でありますが、本剤の本邦における第I相試 験、これはスライドにもお示ししてありますけれども、各種悪性腫瘍31例がエントリー されました。PRが5例報告されておりますけれども、全部非小細胞肺癌であったわけ です。組織は全例腺癌で、4例が女性でありました。第I相試験の段階で、今日のこの 薬の効きやすい症例の背景が、既に明らかにされていたということであります。  それから、IDEAL−1と称する第II相試験でありますけれども、IDEAL−1 の日本人サブセット解析で、これはお手持ちの資料の、手書きで書いてありますけれど も、サブセット解析が『癌と化学療法』という日本語の雑誌に出されております。それ によれば、女性対男性の生存期間中央値は414 日と309 日、それから腺癌対非腺癌のM STは406 日と275 日で、有意差検定はなぜか明示されていませんが、生存曲線はいず れも両群間で明らかな差が認められます。  実地医療におきましても、同様の傾向が見られております。スライドにお示しており ます。これは、WJTOGと言いまして、西日本胸部腫瘍臨床研究機構が、イレッサに よる肺障害が頻発していた、2002年の8月31日から収載されて、その年の12月31日 までに本剤が投与された症例を全部集め、主に安全性の面から検討を行ったものです が、その予後因子の検討では、腺癌、ネバースモーカー、女性、パフォーマンスステー タス、PSの0−1の方が予後因子でした。また、ハイポキシア(低酸素血症)がない 方も予後因子でした。  この結果はセカンドライン以降にゲフィチニブを投与された方でも、この調査のファ ーストラインで投与された方でも、同じような傾向であります。  多変量解析結果を加えたものですけれども、性別(男性が不良)、それから転移箇所 の多い人が予後が悪いと。これは当たり前のことです。それから、パフォーマンスステ ータスの不良の方も予後が悪いことが示されました。  腺癌は予後良好な因子です。  ハイポキシアは、予後不良因子です。  スモーカーも予後不良因子でした。  予後良好因子、不良因子が多変量解析でも証明されました。  次が紙の資料でありますけれども、実地医療でレトロスペクティブな解析が2つほど 報告されて、論文になっております。別紙4−2を見ていただきますと、これでもやは り女性、腺癌、それからネバースモーカーがやはり予後良好因子であると報告されてい ます。以上のことが根拠として挙げられます。  EGFRのミューテーションにつきましては、先ほど光冨先生が詳しく述べられてお りますし、光冨先生も本ガイドラインの委員の一人でありますので、注釈2は省略させ ていただきます。  4ページの第4項ですけれども、本剤と他の抗悪性腫瘍剤や放射線治療との同時併用 における有効性と安全性は証明されていないので、実地医療としては本剤を単剤で投与 すること。  これは、今、示しているように、INTACT1、INTACT2、これは、標準的 化学療法にゲフィチニブをオンするか、オンしないかという、第III 相試験ですけれど も、御存じのように全部ネガティブデータであったわけです。したがって、併用するこ との意義は証明されていないということであります。  それから、スライドにはございませんけれども、ビノレルビンという抗癌剤がありま すが、それと本剤を同時に併用しますと、非常に強い血液毒性が出たという報告もあり ますので、当然この薬との併用は行うべきではないということであります。  適応の第5項でありますけれども、ゲフィチニブ投与症例の選択基準としては、本邦 が参加した本剤の国際共同第II相試験、IDEAL−1の選択・除外基準、これは付録 で付けてありますけれども、参考とすることとしました。  そのほか、本邦で安全に実施された医師主導の臨床試験の症例選択・除外基準も参考 とすること。これら以外の症例への投与は安全性の検討が行われていないことから、現 時点では臨床試験以外では、原則的には投与すべきではないというふうにいたしており ます。  第6項は、本剤の急性肺障害・間質性肺炎発症のリスクファクターとされているPS 2以上の全身状態不良例、喫煙歴を有する者、間質性肺炎(特発性肺線維症、放射線肺 炎、薬剤性肺炎など)合併症例、男性、低酸素血症を有する者、塵肺、扁平上皮癌など に対する本剤投与は、当該患者が本剤から得られる利益が本剤投与による危険性を上回 ると判断される場合に限定することとしています。  これにつきましては、急性肺障害、間質性肺炎の発症リスクファクター、あるいは発 症後の予後不良因子につきましては、アストラゼネカ社の解析がありますし、先ほどの WJTOGの解析で明らかにされていますので、それを見ていただきたいと思います。 (資料6−1−1,6−1−2,6−1−3,6−2−1,6−2−2参照ください)  WJTOGの多変量解析結果のまとめですけれども、ILD、急性肺障害の発症危険 因子として最後まで残った因子は、男性、低酸素血症、喫煙者でございました。  ILDによる致死的予後不良因子としましては、別紙6−2−1の下段に示していま すように、例えば男性では、スモーカーであればILD発症割合は6.6 %で、その致死 率が3%ということになります。女性で、ネバースモーカーであれば、ILDの発症割 合は0.4 %で死亡はなかったことを示しています。  WJTOGの調査で、ゲフィチニブを投与してから、ILD、発症までの期間をグラ フにしたもの(別紙6−2−2)でありますけれども、赤が発症してお亡くなりになっ た方であります。それをまとめた表を右横に示していますけれども、このWJTOGの データにおきましては、本剤投与の最初の2週間に発症した人が亡くなっている割合が 非常に高いのです。大体3分の2です。これは有意差があります。したがって、本剤投 与の最初の2週間は、これは後で述べますけれども、特に注意をする必要があるという ことであります。  また、ガイドラインの方に戻らせてもらいますけれども、適応の第7項です。本剤 は、肺癌化学療法に十分な経験を持つ医師が使用するとともに、投与に際しては緊急時 に十分に措置ができる医療機関で行うこと。なお、間質性肺炎の専門医の助言を適宜得 られる環境下での使用が望ましい。  第8項は、患者に本剤投与の目的、投与法、予想される効果(ISEL試験結果も含 む)と副作用(重篤な間質性肺炎/急性肺障害の発生と死亡例がみられていることを含 む)、代替治療法の有無とありの場合における当該治療法の利害得失などを十分に説明 した後に、患者の自由意思による同意を文書で得ておくこと。  以上の条件をすべて満たした場合に、本剤の投与を行うべきであるというふうにして おります。  続けてよろしゅうございますでしょうか。その次は、投与中の注意の第1項でござい ますけれども、急性肺障害・間質性肺炎の症状は、発熱、乾性咳嗽、息切れ、呼吸困難 等であり、これら症状のすべてに注意すること。これらは、通常の気管支炎と非常に見 分けがつきにくいので、十分慎重に見る必要がございます。それから、間質性肺炎の診 断には、注意深い聴診が重要であります。また、酸素飽和度の測定、胸部X線写真の撮 影を適宜行うことということであります。  第2項でありますけれども、患者にあらかじめ上記症状の意味を説明し、もしそれら を自覚した場合は、直ちに担当医師、あるいは医療機関を受診するように指導しておく こと。これは注釈でございますけれども、これら自覚症状に最も早く気が付くのは、言 うまでもなく患者本人でございますので、急性肺障害、間質性肺炎の早期発見のために は、患者と医者を始め、医療関係者との共同作業が重要であるということを再確認して おくということが必要であるということです。  第3項は、医療機関側は、上記自覚症状を訴えた患者が常時受診可能な体制を整備し ておくこと。  第4項でありますけれども、本剤添付文書「警告」欄の第2項に「・・・また、急性 肺障害や間質性肺炎が本剤の投与初期に発生し、致死的な転帰をたどる例が多いため、 少なくとも投与開始後4週間は入院またはそれに準ずる管理の下で、間質性肺炎等の重 篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと」とされており、投与に当たってはこの 「警告」を遵守することというふうにしております。  その注釈といたしまして、先ほどのWJTOGのグループから出たものでありますけ れども、なお、本剤投与開始1〜2週間以内の急性肺障害・間質性肺炎の発症は死亡率 が高いとの報告があることから、特に投与開始後2週間は入院による厳重な観察を行う ことを強く推奨するというふうにさせていただいております 第5項、上記自覚症状を 認めた場合、直ちに胸部X線写真撮影、胸部CT(可及的にHRCT)、動脈血ガス分 析(特にAaDO2開大に注意)、DLco測定等を行い、急性肺障害・間質性肺炎発 症の有無を鑑別すること。鑑別には投与前との比較が重要であり、投与前にもこれらを 検査を行っておくことが望ましい。  第6項ですけれども、本剤の治療効果は投与後早期に認められることが多いので、開 始後1か月以上経過しても肺癌に伴う自覚症状の改善がみられないか、画像上の腫瘍縮 小効果が全く認められない場合は、本剤の投与継続については、再度当該患者の全身状 態、患者希望、急性肺障害・間質性肺炎のリスクファクターの有無等を総合的に判断し 慎重に決定すること。  これにつきましては、昨年夏まで在籍しておりました、大阪市立総合医療センターの データ、(これは一昨年の肺癌学会で発表したものです。)110 例ぐらいのレトロスペ クティブな症例の解析です。そのうち有効症例18例がどの時期に奏効したかを示したも のです。症例数は少ないので、余り大したエビデンスではないんですけれども、これを 見ますと、大体28日、4週間以内に効く方は、90%ぐらい効いているということがわか っております。これはこの施設だけの特別な所見ではございませんで、IDEAL−1 とかIDEAL−2にもそういうことが既に報告されていて、2003年にバンクーバーで 行われた世界肺癌学会で報告されております。IDEAL−1では奏効例39例中31例 (79%)が4週間以内にPRに到達していました。IDEAL−2、これはアメリカが 中心にやったものですけれども、22例のPR例のうち16例73%がやはり4週以内に奏効 していました。  現在の私のおる兵庫県立成人病センターのデータですが、投与186 例中PRは24%ぐ らいでした。効果発現時期ですけれども、ほとんどが4週以内にPRまで到達していま した。また、IDEAL−1、IDEAL−2とも大体10日前後で症状の改善がみられ たと報告されています。  それを詳しくIDEAL−2で分析されたものでありますけれども、上段の6をごら んください。この真ん中の赤いのは、PRに入ってないんだけれども、症状が改善した 人は、予後がいいという解析結果であります。  下段は、SD(全然腫瘍も縮小しなかったけれどもという方ですけれども)の場合で も、自覚症状の改善があった方は、なかった方に比べて予後良好でした。だから、自覚 症状の改善というのは、予後の予測因子として非常に大事であることがわかります。  PDでも同じような傾向であります。  これはFDAのホームページから取ったものであります(別紙8−1)。ODACに アストラゼネカが堤出した資料ですが、図右の奏効率も付けているんです。図左は予後 因子のサブセット解析ですけれども、これと腫瘍縮小効果がはっきり相関していること を示しています。Trial709はISEL試験です。PhaseIIはIDEAL−1、IDE AL−2のことです。例えば、腺癌は予後がいいですけれども、レスポンスレートもい いんです。これは日本人に限らないということです。それから、ネバースモーカーも予 後良好ですが、これもレスポンスレートはスモーカーと比べて2倍、3倍高くなってい ます。女性も予後良好因子ですが、男性と比べて倍以上のレスポンスレートを示してい るということであります。フェーズ2はIDEAL−1で日本人が入っておりますの で、成績がいいんですけれども、日本人が入ってないデータでもこういうことが言える ということです。  それから、これは人種差ですけれども、人種差でもやはり予後とレスポンスは相関す るということであります(別紙8−2)。確かに腫瘍縮小効果はサロゲートマーカーで はあるんですけれども、非常に重要なサロゲートマーカーであること、それから本剤に よる自覚症状の改善も十分な予後良好因子であるということを強調しておきたいと考え ます。  それから、次の項目でありますけれども、急性肺障害・間質性肺炎出現時の対応であ ります。その第1項の急性肺障害・間質性肺炎出現時は、直ちに本剤の投与を中止す る。  第2項、ステロイドホルモンの投与が、一部の急性肺障害・間質性肺炎に効果がある との報告が散見される。ステロイドホルモンの投与が禁忌でなければ、メチルプレドニ ゾロン500 〜1000mgを3日間投与するパルス療法を考慮すること。なお、ステロイド剤 の継続投与で効果がみられた症例では、その漸減は慎重に行うこと。  第3項は、免疫抑制剤の効果は不明確である。  最後に、ゲフィチニブの効果因子やILDの発症因子などの新知見により本ガイドラ インはその都度改定されるということでございます。  あとは、IDEAL−1のエントリークライテリアを付けてあります。  それから、最後には、根拠となった文献を付けてございます。  以上でございます。 ○松本座長  ありがとうございました。ただいま説明していただきました、ガイドラインの内容な どについて、御質問等ございませんでしょうか。  吉田委員、どうぞ。 ○吉田委員  後ろの方で恐縮なんですけれども、投与上の注意の6番ですが、これは若干矛盾があ るような気がするんですけれども、奏効しないものは1か月で基本的にやめるという考 え方ですね。  それで、間質性肺炎のリスクは多くの場合2週間以内に起こるわけですし、このゲフ ィチニブ自身が、ファンクショナルに効いている可能性もありますね。長期NCの存在 もわかっているのに、1か月で切ったという理由は何かあるんですか。 ○根来参考人  その根拠となりましたのは、先ほどお示ししたような、画像上の縮小が効く人は、非 常に早期に認められる。大体4週間以内に認められる人が圧倒的に多いということで す。それから、自覚症状の改善はもっと早いんです。そういう方の予後はやはりいいと いうことが、1つ根拠になっております。  2週間というのは、間質性肺炎の発症に関して非常に危険な時期であるということで ございます。第6項目の意味は、先生のおっしゃっているロングSDというのが、本当 にゲフィチニブが奏効したためのロングSDなのか、あるいは腫瘍そのもののナチュラ ルコースで、見かけ上SDになっているのか、これは永遠の水掛け論でございますし、 それを証明する方法はございません。  したがいまして、ここで言いたいのは、漫然と毒性のあるこの薬を効果が全く認めら れない、自覚症状の改善のない、画像上でも全く腫瘍縮小効果がみられないというよう な方の本剤投与継続については、いろんな因子を考えながら慎重に決定していただきた いという意味でございます。 ○吉田委員  通常はPDになったらやめるというのはわかるんですけれども、とにかく期間で切っ てしまうというのが、どうも理解できないのです。ロングSDで薬が効いているか、効 いていないかわからないにしても、患者さんにとっては非常にメリットがあるんではな いかと思うのですが。 ○松本座長  土屋先生、どうぞ。 ○土屋委員  今のことなんですが、通常の抗癌剤であれば、今の根来先生のお返事で皆さん納得す ると思うんですが、こういう分子標的治療を始めるに当たって、ステーブルで行ってし まうかもしれないというようなことを、皆さん心配されたり、完全に消えないかもしれ ない。そこで、やはりステーブルディジーズをどう解釈するかが問題になるなと思うん です。そこが、1か月というのがいいのか、1か月で見直すということは、皆さん納得 すると思うんですけれども、そこでやめるところまで本当に踏み切らないといけないと いうことは、従来の抗癌剤とは解釈を違える必要があるんではないかというのが、吉田 先生の御質問ではないかと思います。 ○根来参考人  したがいまして、ここのガイドラインには、そういうことを総合的に判断して決めな さいと。やめなさいということは一言も言っておりませんので。 ○土屋委員  そうですね。やめろと書いてないことは、重要ではないかと思います。 ○松本座長  どうぞ。 ○池田委員  その点なんですけれども、今まで、例えば腺癌であれば女性であるとか、いろんなミ ューテーションの問題とか、いろいろ予測因子に関してありましたね。それと、この早 期のレスポンスというのは非常によく相関するんですか。ミューテーションも含めて。 ○根来参考人  ミューテーションのことにつきましては、わかっておりません。そういう解析は、多 分余りしてないと思います。効き始める時期とミューテーションの関係はわからないと 思います。 ○池田委員  ですから、先生のおっしゃるのは、自覚的な症状の改善と画像上の変化だけと。 ○根来参考人  そうです。 ○池田委員  それが、早期にPRになったものはよさそうだということだけですね。 ○根来参考人  そうです。論文でも、その辺に着目した解析が余りされてないんです。 ○池田委員  ちょっと見方が違うから恐らく一緒にあれしてないんだと思います。 ○根来参考人  この項目については、趣旨がちょっと難しかったところです。 ○松本座長  ほかに御意見ございませんでしょうか。このガイドラインに沿って肺癌の治療を。 ○北澤委員  素朴な疑問で恐縮ですけれども、このガイドラインについては、臨床の先生方にどの ぐらいの影響力があるのでしょうか、今、イレッサというのは、必ずしも肺癌の専門医 の方ではない人も使っている可能性がありますね。そういう方々にも、実質的な影響力 を持つものとなるのかどうかというところがわからないというのが1つ。  それから、このガイドラインをそのまま読みますと、いろいろ注意をすることとは書 いてはありますが、結局のところは、今までどおりの使用で患者がOKすれば使ってい こうというようにも読めるんですけれども、その辺りはそういう考え方というふうに肺 癌学会では考えておられるということなんでしょうか。 ○根来参考人  最初の方の御質問でございますけれども、これがどの程度一般に浸透するかというの は、これは学会の広報活動とも関係があると思いますけれども、私にはわかりません。 学会のホームページには載っておりますけれども、肺癌治療の専門医でもなく、肺癌学 会に入ってないような医者がゲフィチニブを投与することもあるかもしれません。そう すると、そういうガイドラインを見ないで投与しているという可能性はあると思いま す。やはりこういう抗悪性腫瘍剤に関しては、専門知識のない先生に使っていただきた くはないというふうには、個人的には思います。このガイドラインがどの程度一般の先 生にインパクトを与えるかというのは、私にはわかりません。  それから、後半の方の御質問でございますけれども、このガイドラインについて先生 のような意見をもたれる方もあるんだと思いますけれども、このガイドラインを学会で 正式承認を得るために理事会で審議したんですけれども、逆に非常にきつい規制だとい うふうな意見を示される方もおられました。だから、受け取り方だというふうに思いま す。  これは、あくまでも学会のガイドラインでございますし、規制当局のいわゆる添付文 書のような規制のかかるようなものではございませんので、それは先生がもしそういう ふうに受け取られるんであれば、そうだと思いますけれども、別の方にとっては非常に 踏み込んだ内容だというふうにとらえておられる方もございます。 ○池田委員  私もほかの学会に属していて、ガイドラインをつくる経験があるわけですけれども、 ガイドラインをつくった場合に、それがどのようなアウトカムをもたらしたかという、 日本では恐らく欠けていると思うんですけれども、いわゆるアウトカムリサーチという のが、非常に大事だと思うんですけれども、このゲフィチニブは非常に注目をされてい るお薬なんですけれども、肺癌学会ではアウトカムリサーチという観点から、今回のガ イドラインを作成した後、どんなことを考えてらっしゃるか、もしお考えがあったら聞 かせていただきたいんですけれども。 ○根来参考人  今のところ何も考えてないと思います。だから、それをどう評価するかということに ついては、先生のようなご意見があったことを、この作成委員会の委員長の西條先生に はお伝えしたいと思います。学会として今後どうするかは私の判断ではお答えできませ ん。 ○松本座長  古いガイドラインは、2003年につくっておられますね。そして、学会委員の方は、こ のガイドラインに沿って治療される方が多いんだろうと思うんですが、その結果、やは りほかから出る報告と比べて、あるいは学会がやっている治療の成果はいいとか、副作 用が少ないとか、そういうふうなものはないですか。 ○根来参考人  前の報告を受けてですか。 ○松本座長  はい、前の報告から言って。 ○根来参考人  そうですね。そういう具体的なデータは持ち合わせておりません。ただ、これは学会 のガイドラインだけではございませんけれども、いろんなメディアを通じていろんな報 道がされましたし、このお薬を使うときに、非常に注意を要するんだという注意喚起を したという意味では、このガイドラインも1つの助けにはなっているだろうと思いま す。しかし、どの程度のインパクトがあったかどうかはわかりません。 ○松本座長  土屋先生、どうぞ。 ○土屋委員  私も日本肺癌学会の理事なので、今の点について追加いたしますけれども、同じく 2003年に肺癌全体の診療ガイドラインを厚生労働省の班会議を中心として、その一番の メインは日本肺癌学会がつくったわけですけれども、それについては昨年学会員全体に 対して、どのような使われ方をしておるという調査はしております。  恐らく、これについてもそのようなことは学会としてはやっていくと思います。 ○松本座長  ありがとうございました。北澤委員、何かございますか。 ○北澤委員  今日の光冨先生のお話で、スライドの最後の方で男性の高齢者のケースで、要する に、男性で、高齢者で、PSも悪くて、たばこも吸っていると。そういう方で一発逆転 があるんだという症例をお話しになりました。  結局、そういうことがあって、ドクターの側にもそういうこともあるかもしれないな というような期待が常にあると思うんです。そういった状況の中で、このガイドライン があったとしても、最後のところはやはり医師と患者の話し合いということになるかと 思うんですが、そういう一発逆転の方がどのぐらいいるのかとか、あるいはそれが全く わからないような現状の中で、医師と患者の話し合いの中で、最後に患者の自由意思に よる同意を文書で得ておくことというふうにもありますけれども、そこでいわゆる情報 提供が十分に行われるのかどうか、その辺りちょっとどうなのかなと思うことがあるん です。それはもう個々の医師と患者の情報提供、あるいは話し合いということになるか とは思うんですけれども、先ほど私が結局このガイドラインをもってしてもプラクティ スは変わらないんじゃないかという印象を持ちましたのも、今のような超例外のような 方がいるということをみんなが知っている上で、肺癌の専門の先生が特に知っている上 で、そのようなガイドラインが出たところで、実際にプラクティスに与える影響はどう なのかというのを、ちょっと疑問に思っているものですから、お尋ねします。 ○根来参考人  同じような答えにはなると思いますけれども、これはガイドラインと離れて私個人の 意見ですけれども、やはり抗悪性腫瘍剤の使用経験が豊富な医者がこのゲフィチニブに 関しても投与すべきだと思います。それは、いわゆる腫瘍内科医という人たちですけれ ども、そういう人たちが投与すべきだと本当は思うんです。  腫瘍内科医が投与しても、ゲフィチニブによる肺障害による死亡例がなくなることは ないと思います。しかし、腫瘍内科が投与するときは、その患者さんに対して過去のい ろんなデータ、いろんなレポート、論文、そういうものが全部頭に入っておって、患者 さんに十分な御説明をして、あなたの場合はどういうメリットがありそうですよ、どう いうリスクがあるんですよということをかなり詳しく説明できると思うんです。  その上で、患者さんが御了解して、受けられるか、受けられないかということになる んだと思うんです。  したがいまして、このガイドラインというのは、あくまでもガイドラインですので、 これですべて解決するというわけではないですね。だから、こういうガイドラインを受 けて、一般の先生方だったとしても、後に付けてある文献を全部お読みになって、しっ かりした考えを持ってお使になるということが、私は必要だと思います。学会として は、そういう広報活動をしていく必要があるだろうと思っております。お答えになって いるかどうかわかりません。 ○松本座長  どうぞ。 ○吉田委員  その他のところでお話ししようかと思っていたんですけれども、話が盛り上がってい ますので、一言言わせていただきますが、新聞報道でもありますように、イレッサが実 は肺癌以外の患者さんにもかなりたくさん使われているんではないかということがあり ます。肺癌の専門家ではなくても、経口剤ですので医師免許があればだれでも簡単に投 与できるということもあるのではと思います。  むしろそういう状況を改善する必要があって、それは恐らく医師自身の責任になるの ではないかというふうにも思います。  その辺の適用外に、例えば燎原の火のように使われている状況を、どうやって把握し て、どうやって規制していくかということに関して、何か本省の方で御意見があれば伺 いたいと思います。 ○松本座長  事務局、何かございますか。 ○安全対策課長  確かに、承認を受けた薬について、どういう使われ方をしているかということを把握 することは、行政の方の力を持ってしても非常に難しいところがございます。適応外と しても、それはひょっとしたら、医学研究的に行われているケースも混在していると思 いますけれども、ただ単に興味本位でやられるという可能性も否定できないと思いま す。  行政の方としては、あくまでも添付文書の中に書いてある承認事項に関しては、十分 検討して有効性、安全性を見極めた上で承認を与えましたよという立場で、後の部分に ついては、それはかなり突き離した話でいけば、医師の裁量の下で、医師の判断の下 で、使われるということであれば、医師に責任を負っていただくしかないというのが簡 単ではあるんですけれども。  ただ、我々の方としてはできるだけわかっている範囲で使っていただきたいというこ とで、情報提供をきっちりすると。それは、企業に対して指導しながらやっているとい うのが現実ではあります。  更に、それだけでは、なかなか臨床現場の実態が把握できないというジレンマがござ いますので、これからの施策ではありますけれども、臨床現場との間、あるいは学会と の間で、十分コミュニケーションを取りながらいろんな薬を世に出していくような方策 というのは、これから十分考えていく必要があるというふうに考えております。 ○吉田委員  そうすると、例えば、末期の癌患者さんになってくるに従って、薬が効かないか、あ れが効かないかと、患者さんは希望を持つわけです。イレッサにかけたいと、ワラをも つかんで、婦人科の癌にしても肺に転移があれば使うということが、私も幾つか聞いた ことがあります。そんなことをしても意味がないということを幾ら言っても、患者さん に言われると投与せざるを得ないとかという医者もいるわけです。  それは、今のお話だと、患者さんが自分の責任で飲んで、医師もそういうことで知り つつも、とにかく患者さんと話し合ってやっている限りは、当局はもう知らぬというふ うにも聞こえてしまうので、何らかのことが必要なんではないかと。むしろ肺癌学会の ガイドラインは、肺癌の専門家に対してガイドラインを出しているから、それは釈迦に 説法のようなところもあるんですけれども、むしろそうでないところの方が、北澤委員 の言うように難しい問題があるんではないかと思います。 ○松本座長  ガイドラインどころではない方に議論が行ってしまいましたけれども、同じですか、 土屋先生、どうぞ。 ○土屋委員  確かに、指導規制という方法もあるかと思うんですが、私はもう一つ、むしろ患者さ ん、あるいは国民の方にも、学会の理事としてお願いなんですけれども、やはり消費者 というと言葉が悪いですけれども、患者さんの方も医者の選択をしていただきたいとい う気がいたします。  これは、私ども学会を挙げてこのガイドラインを急遽つくったのは、まさに国民の健 康に学会としても責任を持ちたいということで、このガイドラインをつくりましたの で、学会員には周知徹底をしたいと思っておりますので、日本肺癌学会の会員で抗癌剤 を扱うという医者は必ず目を通していただくと。それが、先ほど以前の肺癌診療ガイド ラインの後の使用状況の調査をしたということにつながるわけで、当然このガイドライ ンもそのような評価を私どもしていかないといけないと思っております。  是非、先ほど言われた日本臨床腫瘍学会の臨床腫瘍医の数というのは、まだまだ足り ないというのは、新聞報道のとおりです。アメリカに比べると、そういう専門家が足り ない。  しかしながら、幸いというか、肺癌学会は四十数年の歴史で、大変肺癌については専 門家がそろってきておりますので、是非日本肺癌学会の会員であるかどうかということ は、こういうものを投与していただく1つの目安になるということは言えると思います ので、是非そういう御選択もしていただきたいと思います。 ○松本座長  貫和先生、どうぞ。 ○貫和委員  少し議論がずれましたので、北澤先生の質問に戻りたいと思います。要するに、もし 助かる可能性がある方が、肺繊維症があるとかでイレッサが飲めないと、この薬剤は避 けた方がいいということに関してです。まず今日の光冨先生のお話ではミューテーショ ンの意義が、肺腺癌でイレッサが効く、効かないというところに偏って御説明がありま したけれども、もとのサイエンスの論文では多くの臓器の腫瘍にミューテーションがあ るかないかを見て、ほかの臓器にはないと。ということは、ほかの臓器の癌には効かな いという患者さんへの説明に1つはなるわけです。そういう面が、充分に認識されてな いのではないかと思います。ミューテーションがある例が効く、だけどない例はほとん ど効かない。しかも、肺癌の中でも腺癌に偏っているということが認識されなければな らないと。  もう一点、ミューテーションで非常に大切な面は、ゲフィチニブに対しての酵素の親 和性が10倍ぐらい、ミューテーションがあれば高いんだと。要するに薬が効きやすいん だという問題があるわけです。  ILDの問題に戻りますと、2回にわたって議論してきましたように、なぜ日本人だ けに副作用が多いのか、白人にほとんど認められないのか、この問題に戻る必要がある わけです。そうしますと、1つの可能性、これは私の私見ですし、今後の問題だと思い ますけれども、ゲフィチニブの投与量を下げられる可能性はないかと。親和性が高いわ けですから、投与量を少なくしても効果が期待できることはサイエンティフィックに可 能性はあるわけです。  それと同時に、低用量にすればILDの頻度は下がるかもしれないと。これは、ひょ っとすると、ほんの半分量に下げるだけでも、民族差があって日本人の副作用も少なく なる可能性があるわけです。これは今後この分子標的薬剤という、非常に優れた薬剤を 臨床でどう使うかを考えるときに必要な問題であると思います。 ○松本座長  その点につきましては、次回検討する予定でいるわけなんですが、その前段回とし て、今日このゲフィチニブ使用ガイドラインということについて議論していただいたん ですけれども、これについて特に、堀江先生、どうぞ。 ○堀江委員  ゲフィチニブが実際に使われるようになって、その当初に急性肺障害の症例が多く出 て、かつ死亡例が多く、副作用調査等の情報を集めると共に厚労省でも委員会を開い て、その結果は添付文書等に反映され、警告がされ、そういう症例の発現は、当初に比 べれば減ってきたと思います。  ただ、今回厚労省が肺癌学会に対して、このガイドライン改訂についての依頼がされ たということですけれども、この改定内容について学会員、あるいは呼吸器関連の学会 に対して、いろいろと情報伝達をするということはできると思います。しかし、それ以 外の方々に向けての、これを使用されるドクターがいると思いますけれども、厚労省と して、そのような医師に対して学会にはできない広報活動があると思うんです。  このガイドラインが専門家だけではない医師たちにもきちっと伝わるような方法とい うのは必要なんではないか。それは、学会では無理な対応だと思いますし、厚労省がそ れを依頼したのであれば、何とかそういう通達の方法というのは御検討いただく必要が あると思います。 ○松本座長  次回におきまして、このガイドラインを基本にそういうことを検討していただく予定 でありまして、今日はこのガイドラインそのものについて理解していただこうというこ とで御意見をいただいたわけなんですが、このガイドラインそのものの内容、設定根拠 につきまして、特に御質問、御意見ございませんでしょうか。 ○土屋委員  今の堀江委員の答えになるかどうかわからないんですが、私は原則的にこのガイドラ インをお読みならないような、わざわざ宣伝をしなければならないような方は投与すべ きではないと。処方すべきではないと。極端な話はそう思っております。  日本肺癌学会の会員が8,000 人おって、その半分が4,000 人の内科医としても、十分 量いるわけでありますので、よくお確かめいただければよろしいと思います。  例えば、4ページ目の6番の後段にありますように、「当該患者が本剤から得られる 利益が本剤投与による危険性を上回ると判断される場合に限定」と、上回るか、上回ら ないか、この判断は肺癌を専門にやってない限りできないわけですあります。  したがって、それを日ごろから肺癌について取り扱っている人以外が、こういう方に 対して処方するべきではないというのが私の考えであります。 ○松本座長  肺癌学会の会員だけに限るというのも、大変問題があろうかと思いますので、このガ イドラインを広く周知していくことがこれから必要であろうと思います。 ○土屋委員  ですから、これは学会員にという規制はできませんので、患者さんの方も選択をして いただきたいというのが、これは学会からのお願いであります。 ○松本座長  ということで、次回はこのガイドラインをどのように周知徹底していくか、またどの ように活用するかということについての検討を行いたいと思います。  更に竹内委員による統計解析の検証結果というのも出るだろうと思いますし、幾つか の疑問点について、報告、説明をいただくとともに、本検討会としての考え方のとりま とめを行いたいと思っております。  事務局は、本日の議事録につきましても、できるだけ早く作成して確認できるように していただきたいと思います。  ほかに先生方何か御意見ございませんでしょうか。  それでは、事務局から何かありますか。 ○事務局  来週ですけれども、先生方の御予定を確かめさせていただいておりまして、24日木曜 日、10時〜15時までを予定しております。先生方には、また別途御案内をさせていただ きたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○松本座長  ほかに何か御発言ございませんでしょうか。  ないようでしたら、これで閉会をさせていただきます。本日は、長い間どうもありが とうございました。 (照会先) 厚生労働省医薬食品局安全対策課  星(内線2794) Tel.03-5253-1111(代表)