05/03/11 労働政策審議会雇用均等分科会第42回議事録            第42回労働政策審議会 雇用均等分科会 1 日時: 平成17年3月11日(金)14:00〜16:00 2 場所: 厚生労働省 省議室 3 出席者:    労側委員:岡本委員、片岡委員、篠原委員、吉宮委員    使側委員:川本委員、吉川委員、前田委員、山崎委員、渡邊委員    公益委員:若菜会長、今田委員、奥山委員、佐藤(博)委員、樋口委員、横溝委員 ○若菜分科会長  ただいまから、第42回労働政策審議会雇用均等分科会を開催します。本日のご欠席 は、佐藤孝司委員です。  早速、議事に入ります。本日の議題は議事次第にありますように、「男女雇用機会均 等対策について」「雇用保険法施行規則等の一部を改正する省令案要綱について」で す。まず、「男女雇用機会均等対策について」から始めます。今日は、「間接差別の禁 止」と「差別禁止の内容等について」という、2つのテーマのご議論を順次いただきた いと思います。この間接差別の禁止については、前回に既にご議論を少し始めていただ いていますので、前回に引き続いてご意見あるいはご質問等がありましたら、どうぞご 自由にご発言ください。 ○吉宮委員  前回の議論のときに、これから間接差別禁止法について議論をするわけですが、現行 の法律の中で男女共同参画社会基本法について間接差別をどのように考えるかというこ とで、課長のほうから厚生労働省ではないけれども、内閣府では国会でこういう質問等 も答弁している、現行の差別の中に間接差別が含まれていると答弁をしているという内 容がありました。出されている資料を基にして私どもが考えるのは、今回の均等法改正 の見直しでは、この間接差別問題は非常に重要な課題だという認識を持っています。そ の理由として、今日配られている資料は研究会で整理された資料だと思いますが、アメ リカ、EU、イギリス、ドイツの発達した資本主義諸国ではほとんど間接差別法理、性 差別法理を取り入れていることがありますし、加えて1995年のCEDAW、国連の差別 撤廃委員会から日本の政府の報告に対して、最終コメントが2003年にも出された。間接 差別法理はなぜ早く法整備をしないのかという意味のコメントが出されていますし、そ ういう2つの観点から今回の見直しに際して、積極的に対応するべきだというのが1つ です。  加えて、均等法が成立して20年が経ちますが、福祉法から権利法へと回数を重ねて発 展をしてきています。これは、片面性というか女性であることに対する差別禁止という 性差別禁止に発展させてきていますが、その後、差別というのは形を変えて非常に出て きている。差別意図があるなしにかかわらず、目に見えない形で差別というのは厳然と 存在している。そういうことからすると、個人の尊厳を尊重する発達した民主主義国 で、差別というのはどうしても許せないものでありまして、そういう意味であらゆる形 態の差別を禁止することが今回問われている内容だと思います。そういう観点で、是非 私どもとしては間接差別法理を今回の改正で明記すべきだというのがあります。  加えて、間接差別法理を明記することの意義ですが、定義は基準なり慣行等が性に中 立的な基準であっても、そのことが一方に不利益なものをもたらす。加えて、その制度 慣行等が業務上の関連性等について合理性を持たないということを定義づけています が、そういう意味で研究会も、心配している結果の平等ではないという意味で出してい ますし、私どももそのような認識をしています。そのことが結果として、あらゆる差別 のものを男女平等の観点からスクリーニングして見ていく手法はどうしても必要なわけ で、そういう意味で間接差別法理を明記することによって、差別の概念が何かというこ との根拠を得るわけですから、そういう時代にあることもこの審議会ではちゃんと認識 すべきではないかと考えます。是非、この間接差別の法理というものを今回の見直しで きちんと整備してほしいということです。以上です。 ○川本委員  間接差別を法に入れていくべきだというご意見は、先般のこの会合でも労働側の委員 からはそういう意見があったかと思いますが、私はそう簡単な話ではないと思います。 わかりやすくいうと資料No.1の1が配られていて、これは前回も配られましたが、こ こに報告書の中身、間接差別の部分を抜き出していますが、わかりやすいところでは例 ということで、この研究会報告で挙げていただいています。7頁からになろうかと思い ます。具体的には8頁以降になると思いますが、この中では一言でいうといろいろな状 況について、それぞれ合理性、正当性のありなしというのが1つの基準として示されて いるかと思います。ただ、この間接差別の問題ではなくて一般的な労働の問題が裁判に なった場合に、解雇問題、雇止めの問題、不利益変更の問題等々でもそういう問題が争 われた場合というのは、合理性についてさまざまな角度から審理が行われて判断が下さ れているのだろうなと思います。したがって合理性と書いてありますが、単純な話では ないと思います。  間接差別というのは、どうしても漠然とした考え方、概念であって、法として入れて いくには非常に影響が大きい、現場が混乱すると考えています。したがって、本来は個 別の事柄または判例等々が積み上がっていく中において概念化が進んでいって、それが 法制化になっていくのが本来の流れであって、そういう意味からいうとこの間接差別を 入れるか入れないかという検討自体も、まだ本当は時期尚早ではなかろうかと思いま す。  併せて8、9頁にいろいろと例がありますが、(1)から(4)の辺りはまさしくこういう ものをポジティブ・アクションで進めていくのが本来、最も適しているのではないかと 考えています。以上です。 ○岡本委員  いまのご発言だと、前回の均等法の改正議論のときも同じような意見があり、結局見 送られてしまった経過があったと思います。その上で、今回こういった研究会報告で、 より1歩進めた形の検討項目が出ていますから、当然その判断に迷う部分が多く出てく ると思いますが、それをまさしくこの場である程度整理していくことが必要だろうと思 うし、研究会報告にもそこが示されているのではないかと思います。  その研究会報告のところで、いまのも関係する部分ですが、もしよろしければ質問を させていただきたいのです。間接差別として考えられる例に、使用者に過大な負担を生 じることについては検討しなくてはいけないというくだりがいくつかありますが、この 過大な負担が多分いちばんの争点になっていく部分だと思います。研究会報告の中で は、過大な負担というのをどの程度のものとして議論されていたのかをお聞かせいただ ければ、伺いたいと思います。 ○石井雇用均等政策課長  いま、岡本委員からお尋ねのありました使用者に過大な負担を生ずることについて、 どういう具体的な議論があったかということですが、研究会では具体的なケースに則し て、どの程度の過大な負担があれば合理性があるとか正当性があるという突っ込んだ話 にはなっていません。ただ申し上げたいのは、間接差別という概念自体は欧米のほうか ら生成発展してきた概念で、当然私どもはこれを検討する際に、そこでどのようなもの として捉えて具体的にどのように適用されているのかを仔細に検討したわけです。  資料No.1の1のいちばん最後に、諸外国の事例が表として掲載されています。いち ばん最後の頁のA3の3頁に「使用者の抗弁」がありまして、まさにここで個別の裁判 例の中で、どのようにこれが判断されたのか、そういう実例がわかる形になっていま す。使用者の抗弁として用いられるのは、本当にさまざまなものがあって、具体的に判 断を下しているイギリスの(参考裁判例)のキッド事件をご覧いただくと、最後のほう に「コストや効率の上で付随的な利点があるため、パートタイムを先順位で解雇するこ とに正当性があると判断されることも許される」。これは正当性がありと判断された事 例ですし、いちばん最後にあるロンドン・アンダー・グラウンド事件については「会社 の経費節約、効率性の必要性と1人親で子どもの世話をしている者への差別的効果を考 慮すべきところ、会社は便宜を図ることができたはず」。これはコストという問題も考 慮したけれども、最終的に認められないと判断したもので逆の結果になっている。要は 合理性、正当性の1つの要素として過大な負担というものが入っている実例が一般的で ありますが、しかしながらそれが最終的にどのように評価されるかは個別の事案による ということで、一概にこの程度の負担であったらこれが正当性があるということの議論 にまでは、研究会では至っていなかったというのが実状です。 ○奥山委員  それに関連して、いまのご質問に対する回答としてはそれに尽きるのですが、先ほど の吉宮委員のご意見にちょっと関連して感じたことは、この間接差別の考慮については 平成9年に、均等法改正する際に国会から宿題という形でいただいていたので、今回の 研究会では、まずそれまで私ども専門家というとおこがましいのですが、研究者の間で は間接差別の概念は英米関係からも少し認識をし議論はしてきたのですが、一般的に当 時の社会的な認識としてはまだまだ不十分なところがあると。まず何よりも、間接差別 というのは法概念としてどういうものか、差別法理としてどういうものかを明らかにす ることが大事ではないか。そういうことがなければ、議論が偏った方向や誤った方向に 行く可能性が高いということで、まずは間接差別の法理というものを法概念として明確 にしたいということが、1つの大きな役割です。そういう点では、今回の研究会報告は アメリカ、イギリスなど既に諸外国で、こういう法理を持っているところを調べて、一 応こういうものが間接差別の概念であることは明確にできたのではないかと思います。 ですから、この時点では間接差別という概念が不明確だから、議論するのは難しいとい うのは時期を越えているのではないかと個人的には思っています。  ただ問題は、こういう間接差別の法理を個々の具体的なケースに当てはめていくとき に、つまり裁判所の土俵の上でこういう法理を適用して、差別に当たるかどうか。当た る場合に救済をどうするかについては、具体的なケースについての具体的な解決ですか ら、ケース・バイ・ケースの判断によらざるを得ないことになります。そういう点で は、なかなかこれは間接差別の例に当たるとか当たらないというものを一律に、事前に 議論することは難しいと思います。これは、問題となったケースごとに判断をしていか ざるを得ないと思います。  そのときにアメリカとイギリスでちょっと違うと考えているのが、全く一方の性に属 するグループに不利益的な効果を発生させたら、すべて間接差別だということではなく て、それがもたらされている要件、基準の適用が使用者にとっても正当な理由があるの だということが認められれば、格差があってもそれは間接差別ではないという法律上の 結論が出ます。問題は、使用者側が正当性を主張できるような事情にどういうものがあ るかということです。これは、アメリカなどはご承知のとおり裁判例を通して、判例法 理を通して蓄積してきたものですから、その総和なのですが、よく言われることは客観 的である、外観上中立的であると考えられているような要件、基準を適用したときに、 その仕事を遂行していくためにはそういう要件、基準が必要なのだということを使用者 側が主張していく職務関連性や業務上の必要性が客観的に認められれば、そういう格差 があったとしても、それは間接差別に当たらないということです。  イギリスの裁判所もそういう枠組は持っているのですが、アメリカと違うのは、そう いう要件、基準を適用することの必要性と、その結果出てくる不利益との間でバランス が保たれているかどうか。アメリカの裁判所では私の知る限りは、こういう正当性の判 断枠組は取っていないような気がします。イギリスのほうが、より強く出しているので はないか。先ほどのご質問にあった過大な負担というのは、おそらくそういう観点から 出てくるような正当性の事由の問題だろうと思います。それに対して事務局が説明して いただいたように、どの程度あればということは正当性の判断の1つの要素というか基 準でしかないものですから、それ以外にもさまざまな正当性の事由が出されたときに、 総合的に判断していかざるを得ないものの1つだろうと思います。ですから、事前にそ ういう具体的なケースがないところで、どの程度の負担が使用者にあれば間接差別に当 たるか当たらないかは、なかなか一概には言えないところです。正当性の抗弁の事情と して、そういう事情をイギリスでは考えている。アメリカでは、そういうような枠とは 違ったスタイルで考えている。そういう違いということでご理解いただければいいので はないかと思います。 ○片岡委員  先ほど吉宮委員がおっしゃった意見と重なりますが、少しこの間の労働組合活動を通 じて、今回国際的にも間接差別禁止の状況が進んでいることや勧告を受けていることな ど、あるいは研究会がこの課題を取り上げたことを積極的に受け止めて、是非この場で 議論を進めたい。その点を少し補強するのに、自分の体験で大変限定的なもので恐縮で すが、ご紹介したいと思います。  募集・採用時ということではなかったのですが、私自身が把握しているコース制を導 入するケースの中で、実際に女性から多く問題提起が出された、しかし導入をしたとい う経験があります。転居、転勤ができるかどうかが判断基準となった雇用管理が違うコ ース制を導入する際、多くの女性たちはいま思えば、今日ここでお話がされているよう な差別との関係で問題意識があったと思いますが、いずれにしても反対をしましたが男 性は当時から処遇上、単身赴任や転居、転勤ということを受け入れてきた体験が多くあ って、是非論をいろいろ労働組合の中でもしましたが導入に至ったことがあります。そ の結果、またさらに問題が生じて、現場で上司は、それぞれがコースを選ぶ際に、女性 にのみ転居、転勤ができるのか再三念押しがされ、確認がされ、結果として地域限定の コースを選択した女性が多かったわけです。つまり、職場単位でコストを減らすねらい がその中には感じられ、当然そういう問題意識でおかしいというか批判の対象にもなり ましたし、場合によっては説得を受けたけれども転居、転勤のコースを選んだ女性の中 には非常に唐突に転居転勤が命じられて、周囲の見方としては「あれはみせしめ人事」 と思われたことなどもありました。  一方で現場では、よく出る例だと思いますが実際にそういうコース制が導入されて、 同じ職場で働いている人の中で転居、転勤の例が稀であったことから、賃金的にも本給 に差があって納得がいかないという仲間内同士の批判のような状況も生まれ、もう1つ は制度上の問題点としては、コースによって役職等の上限があったということなどもあ って、最終的には現場からの声に押された形で上限の撤廃や賃金の本給の格差も少し是 正をしたというのがあります。でも、根本的にはその制度当時、おかしいと思ったけれ ども、それに代わるものができなかったという経験があります。  いま申し上げたような経験をいまこの間接差別の議論がされているとき思い起こしま すと、当時そういった間接差別とはというものの定義が、あるいは法律としてもきちん と取り上げられていれば、これは一方の性に本当に不利益になること自体が問われるの だということを使って、もっと十分議論ができたように思います。そういったケースは 依然としてあるかと思いますし、例を変えるとセクシュアルハラスメントの定義が入り 明確化されたことが、非常にインパクトというか効果があったように、間接差別の定 義、あるいはそれが規定化されることは先ほど吉宮委員がおっしゃった新たな形を変え た差別を発見する点でも大変有効で、それがない職場を作っていく意味ではそれを抑制 することからも大変重要なものなので、川本委員が合理性についての議論や現場の混乱 ということをおっしゃいましたが私もそう思っていて、研究会報告が事例を出していた だいているので、既にそれを少し自分たちの中で学習していますし、これを読んでいく と、この合理性が果たして本当に合理的かと思われるようなものが事例の中にもありま すので、さらにこの事例などは議論を深めていきたいとも思います。自分の経験から、 間接差別の禁止規定の必要性の議論を是非進めたいと思います。 ○吉宮委員  先ほど、川本委員から間接差別法理を明文化するのは早すぎるというご意見。その理 由の中に、研究会が示したいくつかの例の中でポジティブ・アクションで解決できるの ではないかというご意見があったのですが、もちろんポジティブ・アクションも格差を 無くすための手法の1つであることは私も否定しないし、現行の均等法のポジティブ・ アクションもこれでいいかというと不十分だと思っています。それはまた、議論をさせ てもらいます。女性であることが理由とした差別は、私どもの実態調査でも一部にない ことはないのですが、かなり減りました。しかし、我が国のよく言われる固定的性別役 割分担に基づく雇用管理上のさまざまな問題が、残念ながら根強く残っていて、例で示 されている転居を伴う転勤問題や世帯主条項に伴う賃金上の現状とか、そういうことを どのように、不利益というのはまさに差別の1つですから、無くす方向で性に中立的な 施策としてどう運用するかは、とても大事なことだと思います。これが逆にいうと、企 業にとっても性で物事を見るのではなくて、個人のいわば能力を発揮できる環境をどう 作るかが結果として、企業の社員の皆さんがモチベーションを高めていくことは企業に も貢献するわけで、そのデータも逆にいうと経済産業省の研究会でも出されているし、 そういう大局的観点から議論すべきではないかというのが1つです。  加えて奥山委員がおっしゃったように、間接差別法理の概念は研究会報告で言われる までもなく、私はこれで整理できると思います。問題は、よく使用者側がこの均等法改 正のときに議論された結果の平等を求めることに対して、間接差別法理がそうかといっ たときに、いわば立証責任を、差別を受けている側の労働者と、そうではないという正 当性を述べる機会のある使用者と両方に分配しているわけです。そのことからすると、 決して別に結果の平等がこの間接差別法理をすべて言っているのではなく、まさに正当 性や合理性をそれぞれどのように考えるかは議論としてあるわけですから、そういう意 味では私どもは従来型の判例を積み重ねていって明文化するということではなくて、い ま抱えている差別問題をまさにグロバリゼーションという経済社会の動きの中で、そう いう労働問題もそういう観点で議論するということは、使用者側の皆さんもそういう立 場で対応すべきであるし、この均等分科会もその課題は担っているという認識を是非お 持ちいただきたいと思います。 ○篠原委員  私も、吉宮委員や片岡委員と同じような意見になってくるかと思いますが、間接差別 というのは川本委員や奥山委員が言われたように、本当にわかりづらいことは承知して いるつもりです。ただ、わかりづらいという部分をこういう場によって、皆さんと共通 認識を持つことが非常に重要だと思うし、こういう場でないとなかなか論議ができない ところもありますので、この均等分科会を通じてこのあたりは、きちんと明確にしてい くことが非常に重要なのではないかと思います。今日いただいた資料の1頁の13行目に も、女子差別撤廃条約の委員会において指摘を受けていることも、ここの中できちんと 明記されていることにもなっているので、是非この場で皆さんと一緒の認識で統一して いきたいと思います。以上です。 ○佐藤委員  労使に1つずつの質問です。いま皆さんが言われていたように間接法理を明確にして というお話ですが、それができたとしても実際上は適用の段階では、相当難しいことは 組合の方も認められているかどうかを確認したいのです。先ほど、転居を伴うような異 動をベースにしたコース制の話が片岡委員からありましたが、片岡委員のご説明では例 えば女性にしか言わないとか、女性がすぐ転勤とか。それは差別に近いからという印象 がありますが、そういう総合職、一般職を作って事実上全国展開をしていて、転勤が頻 繁にあるような企業で全員をそれ相当にすると、採用が難しい。コース別に分けるほう が採用もしやすいし管理もしやすいことがある。別に、総合職も一般職も男女という形 でやっていないというものがあれば、コース制があるから間接差別だということには多 分ならないと思います。コース制があるから即間接差別ではなく、個別に判断しなけれ ばいけない。そこは結構議論の難しいことがあることを、組合の方は認められているか どうかを伺いたいのが1つです。  川本委員からは、そういうこともあるので判例等々を積み上げていくことが大事だと いうお話があって、いま間接差別の法理を作るのは時期尚早ではないかというご意見が ありましたが、お伺いしたいのは、個別の例を見たときに190cm以上でないと採用しま せんというのはないと思いますが、直接的な差別ではない間接差別というものがあるだ ろうということは、経営側も理解していると理解していいですかという質問です。 ○吉宮委員  この場では配っていませんが、私どもの連合としては均等法改正の要求の改正案をま とめまして、その議論を今していますが、間接差別の問題については私どもの考え方の 定義付けは、研究会とほぼ同じです。加えてそのイメージはどうかというときに、研究 会が示した7つについて議論をしている最中ですが、例えば転居を伴う転勤について、 要するに佐藤委員がおっしゃったコース別雇用管理そのものを否定するのかという議論 は、もちろんあります。ただ、問題はそのコース別雇用管理というものが、どういう必 要性を持つかが第1点。ここでいっている業務との関連性になります。それは、よくこ こで言われる人事ローテーションやキャリア形成を図っていくことなどを理由に上げて 合理性を持つのではと言っていますが、では家族的責任との関係でそれを考えたとき に、一方の性だけがそれをクリアできて一方ができないときに、それが結果として役割 を固定化してしまう。それが入口の段階で行われている。なぜ募集・採用段階で、どち らをやりますかということをなぜやるのかも疑問として提示していて、いわば合理性、 正当性の問題について実態としては男女区別です。連合の調査でもほとんど男性が総合 職で、女性が一般職という実態に着目した上で、なぜこういうことが起こるかというこ とが研究会報告がされ、労働者自身が選択したからいいではないかという話をしていま すが、本当に選択しているのかというときに、連合の私どもが配らせてもらった実態調 査では、最初からもう決まっていましたよということもあるし、そういう意味ではうま く機能していない面がある。コース別雇用管理そのものを全面的に否定しているわけで はなくて、合理性の関係とその結果が、なぜ総合職に男性が多くて女性が少ないという ことが起こるか、きちんと差別の問題で議論しようということがある。  手当問題についても、家族手当といういわば世帯主条項自身は別に男、女は言ってい ませんから、特に母子家庭の皆さんは世帯主ということであるのですが、実際は連合調 査でも手にしているのは男性で、女性は支給要件を満たさずになっている。それをどう 考えるか。これは世帯主、いわば手当問題というのはまさに日本の賃金制度の1つの大 きな歴史を持っているわけで、特に中小企業分野においては親企業との関係もあって、 基本的賃金ベースを引き上げることはできなくて、対象が限定されている意味で手当を 少し増やすことによって、親企業からの受け入れるものを免れるということでやってき た経緯があります。しかし、そのことが2つの面でいま問題になっていて、成果主義賃 金が一方でいわれているときに、属人的な手当をどうするかが賃金制度の問題として1 つはあるでしょうというのが、連合の中で議論をしています。  加えて、実態として連合調査を基に議論していますが、なぜ世帯主条項は男性だけが ほとんど手にできていて、女性が手にできないか。その不合理は何か。合理性を持つの かという2つの面で議論していて、労働者のほうはいま賃金がなかなか上がらない、手 当もなくされたら大変だという議論がもちろんあります。しかし、そこはなんとかいろ いろな手法を通じて工夫して、ある産業別組合では7つぐらいの例で手当問題などを解 消する手法をやっているし、いろいろな試みが行われています。  そういう意味で平等性を確保した手当問題という意味では、私どもとしては間接差別 で挙げられている例を参考にしながらなんとかクリアしていきたい。そういう意味で は、ここでいう体重や身長要件、学歴や何々ということもありますが、すべての問題が もう1つは正社員とパート労働者の問題で、6つ目や7つ目の例もパートタイム労働者 のほとんどは女性であり、男性正社員と比較したときに、諸手当あるいは定昇制度も適 用されない問題も間接差別ではないのか、6と7の例も議論していて、ここはクリアす べき内部討議がありますが、いずれにしろ佐藤委員がおっしゃっている課題はそんなに 簡単ではありません。だからといって、簡単ではないからやめるかと聞こえるのです が、そういう時代ではないよと。学識経験者はそういうものを持ってほしいわけです。  要するにバランスということを考えるのでしょうけれども、いま何が当分科会に問わ れているかの先を見越した上で対応しないと、前回にセクハラ問題があったのです。当 初は、私の記憶ではセクハラとポジティブ・アクションは、あまり分科会でやる予定で はなかったのです。ところが三菱自動車の問題がアメリカで起こって、三菱自動車はま さに日本国内でも事業をやっているわけです。ところが、日本では通用したことがアメ リカは通用しなかったわけです。間接差別の問題もさっきポジティブ・アクションの話 をしましたが、日本の企業はあちこち海外でも事業をやっているわけですよね。そのと きに、アメリカでは間接差別と言われていて、日本では通用しますというのではどうな のかということを言いたいのです。そこが、まさに枕言葉でグローバルゼーションをい うのではなくて、労働基準もグローバルゼーションをやらないと日本の企業は問われま すということは経営者の方はもちろん、学識経験者もそういう面で日頃研究論文を出し ているわけですから、問題もありますが、私はチャレンジするべきだということを言い ます。 ○川本委員  先ほどのご質問の件です。間接差別があることを使用者側の委員としても認識してい るか否かというお話でした。間接差別か直接差別かという概念ではなくて、いまの法の 枠組でも、言い方は難しいのですが、不当な差別という実態があれば裁判になっても、 会社が多分その合理性を追求された中で会社側が負けるとか、合理性が会社側にあれ ば、訴えた労働者が負けるという実態になっていく話で、したがって間接、直接という 認識があるかというよりも、認識がもともと。ですから、無理にそこに間接差別という 概念を持ってくることが非常に混乱するのではなかろうかということを申し上げたいと いうことです。  吉宮委員からもいろいろなご意見が出ましたが、例えば性別による固定的役割概念が あって、根強くそれからいろいろな形が、意図するかしないかはわからないけれども、 実際に出てきているという話ですが、これもそれが非常に不合理な形で強く出てきてい れば、当然ある程度訴えがでてきて判例の中に上がっていくとか、あるいは労使自治の 原則の下に、労使で話し合ってそこを改善していくなどが積み上がっていくのではなか ろうかと思います。いまの話を聞いていても、転勤があるなしはおかしいとか世帯主条 項の話もピンとこないのです。  資料でいうと、事例の中では9頁の(5)に世帯主の話も出ています。特に住民票の世 帯主(または主たる生計維持者、被扶養者を有すること)となっていますから、主たる 生計維持者という概念も入っていますが、これもこの間、後ろに統計表も入っていたと 思いますが、結果的には確かに90%以上は男性が受け取っている。これは結果の問題で あって、実はさまざまな働き方の中において、この機会均等というのが進められた中で 進行していって、例えば主たる生計維持者に女性が増えてくれば自然とそちらにいく話 だろうなと思います。したがって、何かそこに結果的に90%以上支給されているのが男 性だから、これが間接差別に当たるのではないかと言われてしまうと、結果の平等の追 求から上がってくる話になってしまうのかと。こういうことは現場への影響が大きい し、混乱させるのではないかと思うわけです。  転勤のある、なしもそうです。まさしくこの事例の中に書いてあれば、そこに分けて いることに合理性があるかなしかという話だけれども、これで結果として片方が男性、 片方が女性みたいになっているのではないかと言われてしまうと、間接差別の追及もそ うではないはずです。そこに、ちゃんと意味があるかないかの話であるわけですが、結 果の平等のところからの概念になりやすいところに非常にまだ問題があるのではないか と思います。  また、いまの中で成果主義といっても、片方で属人的要素が残っている。したがっ て、こういう手当の問題もあるのではないかというお話でしたが、これ自体個別企業労 使の中で話し合って積み上げてきたものでありまして、別に会社が一方的にやりたいか らやったという話ではない。会社と組合の話合いの中で、こういうものもできてきてい るのであろうと。こういう問題に、果たしてどこまで1つの法概念で介入していいのか どうかも不思議に思いますし、いまの属人的要素ということを言い始めたら、個別企業 に残っている年齢給とはいったい何なのですかと。男女差別の話はまた別かもしれませ んが、いずれにしても年齢の中の違いという問題ですよね。あるいは、年功賃金カーブ というのはいかがなものか。連合でも、いまは賃金カーブの維持ということを常に掲げ ておられるわけですが、属人的要素の問題は常に付きまとっている問題とも思います。 いずれにしても、あまり直接、間接というよりは、そこに著しく合理性がないとか著し く片方の性に問題がある場合というのは、労使の話合いでそこの改善が行われていくと か、問題が大きければそれが裁判になり、判例として積み上がっていくのかと思いま す。 ○佐藤委員  吉宮委員の意見に1つだけ個人的なコメントですが、例えば企業が業務の必要上、合 理性があってコース別採用を作っても、男女の性別役割分業意識が非常に強くて男性が 子育て参加しないと、女性は一般職を選ばざるを得ない。総合職を選べないというのは 問題だと言われましたね。だから、企業がコース別採用をやめなければいけないという 議論になるかどうかということです。それをやめれば、男女役割分業意識が変わるの か。逆にそれは固定化することになる。ですから、それはそちらとして変えていかなけ ればいけないことであって、そのこととコース別採用を導入するのは、間接差別で問題 だとなるかどうかは違うのではないか。あくまで業務上、必要合理的なコース別採用と いうときです。 ○吉宮委員  川本委員の、1つの制度を作ったときに、その制度が性に対してどういう影響を及ぼ すかは結果の話です、判断するときは。例えばアメリカの場合は80%という基準を設け て、その制度が80%一方の性に不利益を及ぼす場合について問題が起こるわけです。最 初からその制度が結果がどうなりましたかというので問題が始まるわけであって、イギ リスの場合も80%の条項は持ち出していませんが、個別事案で判断をしているわけで す。だから結果の平等ではなくて、そのときに使用者側の皆さんが労働者から、こうい う不利益を1つの一方の性が受けているのだというときに、こういう理由でこの制度は あるのだから、とりあえず抗弁する機会はあるわけですよね。そこは別に結果で判断す るから結果の平等ではなくて、研究会も言っているように抗弁するチャンスは使用者側 にあるわけですから、それを解除していませんから、そこで議論をお互いに。抗弁に対 して、また労働者がおかしい、合理性を持たないという議論があるわけで、そこでまた 争議が起きた場合に、そのような場合は政府から独立した委員会で判断するとなってい ますが、そういう仕組は当然我が国も考えるべきであって、例えば総合職、一般職とい えば、転勤の有無に伴うコース別雇用管理が、実態を見たら女性だけは一般職で男性は 総合職でありましたというのは、まず事実で判断するわけですね。なぜなのだろうか と。使用者側は、こういう理由でこの制度を設けているわけで、決して一方の性を差別 するわけではないと説明するわけですね。研究会が言っているようなことをちゃんと説 明するでしょう。しかし、そういうときになぜ入口の段階から、募集採用の段階から転 勤するかしないかを採用要件にするのですかと。公務員みたいに、ずっとキャリア組と そうでないというのはありますが、そういうふうにずっと続く手法がなぜ合理性を持つ かは議論すべきであって、一般職も総合職も相互乗り入れ制にしても、あれはまた別で すが、そういう議論を労使でやって、この問題が不利益をもたらすかということを議論 するわけであって、必ずしも結果だけを取っての議論ではない。  パートと正社員の問題も、イギリスの手法はパートは圧倒的に女性である。そのこと で、いろいろな企業における制度を運用したときに、正社員には適用されてパートの女 性に適用されませんから、事実を見て女性労働者は訴えますよね。そこで議論は始まる わけです。そういう意味では、結果の平等ということではないと思います。 ○山崎委員  確かに、差別のない職場を作るのは当然使用者の大きな責任でもあるし、検討しなけ ればならない問題だと思いますが、間接差別、直接差別の概念がどうもわからないとこ ろがあります。身長が高い低い、太っている、痩せているというのは、はっきりわかる ような感じですが、微妙なことになると大体合理的社会通念上から見て本当に一律に判 断できるのかどうかが問題ではないか。会社も業務がありますから、事業執行性上いろ いろな考えがありまして、果たして簡単に区分けができるものかというのがあると思い ます。ですから、こういう相談例もありますから、こういうのを積み重ねて参考にして 労働者もそうですし、使用者も少し研究というかきちんと理解し、認識を高めることが 第一ではないかと思います。  問題意識を持たせるというのは小さい職場においても、この間会議があって社長に聞 いたのですが、全く間接差別の意味がわかりませんよね。どういうことを言っているの だということです。差別そのものはわかりますが、間接差別は何だと。わからない。そ ういうものがありますので、いま議論していることが、小さい職場の社長が持っている 認識と全くかけ離れているような気がしてしょうがないのです。例えば折角の報告書の 少しダイジェスト版みたいなものを作って、その地域の均等室のほうで地元の人と話し て、こういうことがいま問題になっているよということを知らしめて普及させて、折角 の研究会報告ですから、そういうものを少し糧にして広めていくのが先ではないかと思 います。議論するものは必要だと思いますが、小さい職場の実態とはどうもかけ離れて いる気がしてしょうがないのです。そんな気がしました。 ○片岡委員  多分、その職場の大小が理解をする上で相違が出るとすれば、情報やいろいろな量の 問題で、ほかにもたくさんあると思います。川本委員は、ある程度ここで概念が示され ていて、その理解の上に立って個別の事例をこの場で議論していって、さらにわかりや すいこの概念を補強するということをやることについては、積極的だと考えていいので しょうか。1つは自分のところというか、比較的に規模の大きいところが身近にあるの で、起きている問題はこれに限らずだけれども、このことについても職場の大小ではな く情報の提供とか、法律をいきなり作ることは物理的にも無理がありますよね。もっと これは丁寧にやっていかないと、ご懸念のことはとてもよくわかるし、ここがそれをき ちんと訴えることは非常に大事な意見だと思います。川本委員にはここに概念が研究会 から示されていると思いますが、この概念はわかるというか、先ほどからこの概念が職 場を混乱させるとおっしゃっているので、それはつまり事例がいろいろあって、その合 理性のことでは確かに混乱は生ずると理解をしていますが、まずここで問題提起がされ ている概念については、よくわかるということでよろしいでしょうか。 ○川本委員  差別があったかなかったか、例えば具体的に、こんな事例がありましたよねと。「こ れは川本委員はどう思いますか」と言われて、「確かにこれはおかしいよね」という場 合もあるでしょうし、「これはそうじゃないんじゃないの」という場合もあるでしょう ということは言っておきたいと思います。その上で、その中で直接か間接かという概念 を分けて入れること自体について、私は非常に疑義を持っています。それを言いたいの です。ですから先ほど、事例の区分けの中のもので、こういう整備をしていったほうが いいよねというのはまさしくポジティブ・アクションの世界なので、いま研究会の報告 で(1)から(7)が全部いいと思っているわけではないですが、この中である程度進めてい くような広めていくような必要があるものだったら、ポジティブ・アクションの枠組で 何かやっていくようなことを考えたらいいのではないか。したがって、その意味で「直 」「間」を分けること自体にとても疑義がある。それから分けたとして、この「間」と いうのを入れるか入れないかという議論も、そういう意味では早すぎるのではないか。 非常に、そうではないのではないかという思いがあるわけです。  例えば先ほどから聞いていると、どうもいまがどちらかの性に偏っているからだよね という議論に始まってしまうので、結果の平等のところから話がスタートしてしまう。 そうではないだろうと思っています。例えばコース別のお話もよく出てきますが、実際 に企業においてコース別のあるなしが悪いか悪くないかではなくて、それが本当に業務 に基づいてされているかどうかという中で管理をやっていくのは、まさしく企業労使で きちんと話し合っていただければいい話ではないか、積み上がっていくのではないかと 思います。それ自体が社会的におかしいよねと。そうすると、個別の企業労使と言われ てもそれを決めてやっていて、問題は上がってきていないよねと。  一方で判例も、そんなに積み上がってきていないときに何に問題があるのかなと。私 は個々の企業で問題があればコース別をやめるなり、またはコース別自体はおかしくな いけれども運用がおかしいのだったら、運用をきちんとしていくのが労使の話合いの中 でより充実したものになっていくのではないかと思っています。ですから何か転勤があ るなし、世帯主の手当にしてもお話を聞いていると結果のところから話に入ってきてし まう。これが、とても現場が混乱することになる。これをとても心配しています。  先ほど、ほかの方から、なぜ募集・採用の時期からコース別を問われなければいけな いのかという話がありましたが、企業は当然業務を遂行しながら会社の経営をして、会 社がつぶれないように雇用も維持しながらやっていかなければいけないという使命を持 っています。したがって当然、要員管理というのがあるから、どういう業務があるかと いう中で区分けをしておこうといってやっているのがコース別で、当然要員管理からい ったらあるのが当たり前だと思います。ないところはないところで1つのコースでいく わけですが、途中の役割でおさめていくところと上がってもらう人は、とても厳密に昇 進昇格をやりながらやっていかざるを得ない。経営というのは当然の問題だろうと思い ます。そのことを申し上げておきたいと思います。以上です。 ○奥山委員  いまの話に噛み合うかどうかは自信がないですが、直接差別、間接差別といったとき に直接、間接が付くのがわかりにくいというお話を川本委員がおっしゃったので、それ に関連したところだけ私の理解の中でお話しします。  差別というのは、間接差別に限ろうが直接差別に限ろうが、概念自身は差別というこ とでわかりますが、中身にどういうものが入るかは非常に不明確です。労基法の第3条 を取り出しても、思想、信条を理由とする差別はいけないといっても、それはわかりま すが具体的にそういうものに当たるかどうか。結局は個別のケース・バイ・ケースの判 断によらざるを得ないところがあります。そういう点ではどの議論でも差別とは何か、 中身が非常に抽象的で難しいと思います。  従来、この差別について雇用の場で考えていくのは主としては直接差別、これは別の 観点からいうと意図的差別といいまして、いわば対象は個人。これは女性に限ることは ないのですが、職場の中で特定の信条、国籍、属人的要素を持っている人に対して、個 別的にこの人を差別してやろうということで、雇用条件等に不利益を与えるようなもの を典型的に違法な差別として考えてきたわけです。ですから、そういう差別を違法なも のとして救済を求めていくためには、思想、信条を理由としたとか国籍を理由としたと か、性別を理由としたという差別の意図を立証していかなければ救済が得られなかっ た。そういう点では、意図が差別のいわば法律的な要件だったのです。こういうもの が、我々がいままで考えてきた雇用上の差別のイデアルティプスというか理念型だった のです。  でも、現在のこういう雇用社会の中では、個人に対する個別的な差別の是正というか 救済だけでは、必ずしも十分ではない状況が出てきているのではないか。それはどうい うことかというと、いままで伝統的に日本の雇用社会は分業的な要素からいうと、主と して男性が働いて女性が少なかったですから、性差別はケース的にはそれほど多くなか ったでしょうし、グループとしての差別も小さかったと思います。でも、女性がどんど んいろいろな事情で雇用社会に出てきたときに、女性に限る必要はないのですがアメリ カの場合ですと人種的なマイノリティーですね。そういうところに対して、グループと して不利益な雇用上の制度、慣行、個別の要件、基準を適用したときに、特定の人種的 なグループや性別の一方のグループに著しい不利益な効果をもたらすようなものをどう 考えたらいいかということから、間接差別の問題が出てきたのです。直接差別と間接差 別は差別の概念ですが、かなり質の違った差別の概念だろうと思います。そういう点で は間接差別というのは、いわば1つの企業の中で行われた雇用管理上の制度、慣行、基 準が特定の人種的なグループや性別に集団的というか、総合的に不利益な効果をもたら すようなところの問題をどう解決するか。そのときにいちばんキーワードになるのは、 どういうことを考えれば本当の意味での機会均等に適うのかということです。ですか ら、そういう点ではこの間接差別の法理も、機会の均等の実質的な確保が目的だろうと 思います。そういうときに、ある特定の要件基準が特定のグループにのみ不利益な効果 を著しくもたらすような場合については、これは機会均等が実質的に確保されていな い。そういうものも、新しい差別という形で考える。逆にいえば、平等とは何だろうと いうことの裏返しだろうと思います。  いままで平等というのは、単に個別的な男女の間の機会の均等だけだったのが、必ず しもそうではないのではないだろうか。もっと男性対女性という1つの働く集団という ものを比較しながら、一方の集団に合理的な理由なく及ぼしていくような格差、そうい う格差をもたらす基準というものも適切ではないのではないかという観点から出てきた 考え方だろうと思います。そういう点では、直接と間接の違いはかなりある。  その間接差別に、具体的にどういうものが当てはまってくるか。例えばコース別雇用 管理制度が当てはまるのか、パートタイムについて女性が多いから、パートタイムの正 社員とパートタイマーとの労働の格差が全部間接差別に当たるか。それは、ちょっと違 う議論です。間接差別にどういうものが入ってくるか。あるいは間接差別の概念とし て、どういうものを射程において解決していくべきかというのは別の問題です。  そもそも間接差別というのはこういう概念で、こういう概念がどういう射程の中で機 能していくか、機能させるべきかという議論と、間接差別とはおおよそどういうものか という議論を一緒にするとわからなくなってしまうと思います。ですから、間接差別と 直接差別というのは、私の理解の中ではかなり持っている意味合いも違うし、出てきた 経緯もかなり違う。だから、これは識者の間でも議論の分かれるところですが、直接差 別がメインで、直接差別ではカバーできないところを間接差別で補充をする。だから、 間接差別は差別の救済法理として従たる位置づけだ、と考えるべきかどうかも違うので はないか。それは別の問題。新しい平等の問題、差別の問題を考えるときに、直接差別 と間接差別はちょっと質の違うものですよ、直接差別がメインで間接差別が従であると いう考え方はできないのではないかと、そういうことも個人的には考えています。いず れにしても、直接と間接の違いがまるっきり分からない、混乱すると言われると、それ は困ると思いましたので、そういう説明をしておいたほうがいいと思いました。 ○今田委員  少し難しかったのですが、いま奥山委員が理論的にかなり詳しく説明してくださった ので、それに対する付加という議論にもなるかと思うので少し発言させていただきたい のです。川本委員の言う、直接、間接の間に線引きをするのは納得できないという議論 についてですが、いま奥山委員がおっしゃたように、直接的な差別があるかどうかとい うことはかなり明らかにわかることで、あまり議論がない。間接的な差別はなかなか分 かりにくいということは、「直接」と「間接」の間が明瞭に区別されている。川本委員 の中でも、この2つはわからないというのではなくて、明瞭に区別されているものだろ うと思うのですが、その点はいかがですか。  さらに、間接のほうの問題なのですが、わかりにくいというのは「直接差別」、「間 接差別」、そして「差別でない」と。こういう直線を引いてはいけないかもしれないの ですが、難しいのは「間接差別」か「差別でない」、ここの線引きが非常に難しいの で、間接差別としてどんどんと無制限に拡大していくというデフューズな現象になる。 そこで混乱が起きることがかなり重要な論点なのだと。直接差別と間接差別の線引きで はなくて、間接差別を導入することによって、どんどん差別の領域が広がっていくの で、そこの線引きをどうするかということなのだと。  その点に関して、直接差別と間接差別では基本的に考え方が違うのであると奥山委員 は明瞭におっしゃいました。間接差別というのは機会の平等ということです。機会の平 等ということを私なりにわかりやすく言うと、例えば社会的な地位が不平等である。例 えば、所得の高い人と低い人がいる。それで、このことだけを是正するということで社 会政策が投入されて、資源の再分配とかそういうことが行われる。それが差別の認識に 基づく政策なのです。  しかし、そうではない。不平等というのは、その地位達成におけるプロセスのいろい ろな要因が働いてくる、その結果なのだ。だから結果の、所得の平等だけやっても、社 会政策としては効果がない。学歴など、その地位を獲得するための要件みたいなものを 学歴達成のレベルにおいて平等にすることが地位達成であり、その結果社会の平等につ ながるというのがアメリカ的な「機会の平等」の発想なのだろうと思うのです。そこが 明らかに平等論の大きな転換であり、そういう「機会の平等」的な発想が間接差別の考 え方の根底にあると考えられるわけです。だから、男女における職業や所得の不平等、 直接的にその不平等をもたらしている規定だけではなくて、今回問題になっているよう なさまざまな、間接的にそれを生み出すようなものに光を当てて、それを明らかにしよ うと。  ところが、いま川本委員も本当に疑念を持っておられるように、それを導入すると、 明らかに直接的な差別よりもずっと領域が広がっていって、それに関わるさまざまな要 因が全部関わってくる。つまり無原則になる。現実的にもコンセンサスが得にくい状況 もあるし、議論も錯綜する。ここの所で、どのように労使において合意が成り立つよう な線引きができるのかというところで、この研究会は、職務の必要性とか合理性、そう いうものを持ってこられたのだけれど、この間接差別と、そうでないものとの線引きの 論点が、労働組合の側からも、必ずしも明確なクリアカットで、なるほどという状況に なっていない。ましてや使用者側からは、どんどんと無制限に、あらゆるものが差別と して把握されるのではないか。疑念というか不信感というのはそういうものだろうと理 解できるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。 ○川本委員  いま今田委員から言っていただいたことはまさしく、私の言いたいうちの半分ぐらい は解説していただいたと思います。確かに、どちらかというと無制限に広がってしまう のではないか。先ほどからの議論の中でもそうなのだけれど、どうしても結果の平等の 話からスタートになって、非常に混乱するのではないかということを非常に心配してい るし、そういう概念が定着しつつある状況の中で、そうではない差別的なことが行われ ているという状況まで至っていないのかなと思っています。そういう意味で私が思った のは、ポジティブ・アクションで対応していくのが今の段階ではよいのではないかとい うことで、そのように思って申し上げたのです。  また、個人かグループかという話になれば、2000年でしたか、コース別については留 意事項ということで、通達レベルであろうかと思いますが、そういうグループのまとめ の話は、今でもある意味では対応できているのかなとも感じております。 ○樋口委員  皆さんのお話を聞きながら非常に難しいけれど、重要な問題だと思って聞いていたの ですが、合理性という言葉が経済学者と法学者では違った意味で使われることがあると 思います。合理性というと我々はefficiency(効率性)というようなことの議論になる わけです。効率性と言ったときに、社会にとっての効率の問題と個々人、例えば企業に とっての効率性あるいは労働者それぞれにとっての効率性の問題があって、そこに必ず 出てくるのがequity(公平)という問題です。均衡をどうするか、あるいは格差をどう するかと。これを考えてみると、合理的であるから認められるとかと言ったときに、誰 にとって合理性を持っていれば、一見間接的な差別に見えるものを、そうではないとい う判断を下すのかというのは非常に議論があるところかなと思います。  労使それぞれの話を聞いて、使用者側でも意見が違っているのかなと、実は思って聞 いていたのです。大企業と中小企業において、大企業の主張というのは、こういった問 題はむしろ個別企業の労使で議論するべきであって、政府がそこには介入すべきではな い、あるいは、法律によって力ずくでやるべきではない、俺たちに任せておけというよ うな主張があるのではないか。ところが中小企業の場合には、雇用主だって、それほど よく分かっているわけはないので、そこに啓蒙的な活動が必要なのではないか。その部 分は、ある意味で政府に期待したいというようなご発言だったと思うのです。  今度は行政的なことで質問したいのですが、問題になってくることとして、例えば間 接差別について、これはよくないものであるということで、法的な根拠なしに財政支出 を投入すること、そういう啓蒙活動をすることが政府としてできるのかどうか。私は、 ちょっとわからないのですが、難しいのではないかと思います。むしろ、そこのところ はNPOとかNGOという話にどうしてもなりがちである。そうなると、そういう活動 をする根拠を何か政府に与えないと、合理化してもよいというような根拠が出てこない のではないかと思うのですが、その点で私の解釈が間違っているのかどうかを行政担当 者に伺いたいのですが。 ○石井雇用均等政策課長  なかなか難しいご質問をいただいたと思いますので、いくつか想定を分けてお答えし たほうがよろしいかと思っております。まず間接差別について、先ほど来、川本委員か ら、ここで書いたようなことはポジティブ・アクションでもできるでしょうというよう なことを繰り返しおっしゃっていました。現に、私どもはポジティブ・アクションを進 めるためにワークシートを作っておりまして、ここで書かれたこととかなり重なるよう なことを企業に対して勧めている。これを啓蒙と呼べば啓蒙とも十分言い得るわけで、 そういう形で、ポジティブ・アクションとしては現にやっているとも言えるわけです。 ○樋口委員  それは法的根拠があるわけですか。 ○石井雇用均等政策課長  ポジティブ・アクションについて、まさにいま企業に対して、行政が援助することが できる規定がありますので、そういうこともあってということを前提としてお考えいた だきたいと思います。  その上で、間接差別として啓蒙的な指導ができるかということですが、啓蒙というと 非常に幅が広いわけで、助言指導的な色彩になると、これは法的な裏付けが欲しいとこ ろです。ただ、非常に緩やかな形と申しましょうか。例えば私どもでは、男女間の賃金 格差に関するガイドラインを策定しておりますが、これは労使が自主的に取り組むため のものとして策定をし、それでお使いくださいという形で普及をしているところです。 こういう類のものであれば、それはいま特段に法的根拠があってやっているわけではな い。そういう意味では、ものによる。どの程度のレベルのものをしようとするか、それ によって異なってくるのではないかと思っております。ただ、いろいろ問題もあるよう に思っておりますので、この問題を進めていこう、改善をしていくために取り組もうと すれば、法的な裏付けがあったほうが当然やりやすくなる。それはそのとおりかと思い ます。 ○吉川委員  この場で適当な発言かどうかよくわかりませんが、私も、知っている方々に随分コー ス別の選択とか、いろいろな話を聞いてみました。そうしたら、大手企業にはこのコー ス別がだいたい定着していまして、入社するときに自分で選べる。ですから、総合職で なくて一般職を自ら選ぶ女性が多いという話も聞いておりますし、逆に言うと、自分た ちが選ぶ自由もあってもいいのではないかという話も聞きまして、それはそうだと思い ました。  中小企業においてはコース別というのはほとんどなくて、先ほど川本委員が言ったよ うに、入ってから仕事の内容によって分かれていくケースを非常に多く聞きました。  それで感じますところは、直接差別、間接差別と言って、何が差別かというものをマ イナスに探していくという考え方に基本的に私はあまり賛成ではないほうなのです。も ちろん、その中に意図的差別があるというのは決して許されることではないと思うので すが、人間は何のために働くのかというような、もっと根本的なことから考える。いま 新卒者が、入社して3年で3割ぐらい辞めてしまうという現実があると聞いております し、悪いことをどういうふうにして探すのかでなくて、どういうふうにしたら働きやす い環境づくりができるか。これをポジティブ・アクションと表現できるかもしれません が、どういうふうにしたら良い環境ができるか。マイナスを探すのでなくて、プラスの 要素をもっと探していく方向に持っていかれるのがいいのではないかと感じました。  ここでの議論とは直接関係ないのですが、例えば子育て中の人について、当然のごと く時間より遅く来て早く帰りますし、お子さんが具合が悪くなれば、仕事の有無なく帰 ります。それは当然です。規定だから当然だと言って帰る方が往々にして周りとトラブ ルを起こすケースが多いのです。でも、そこで周りの方にお世話になることは事実です から、「よろしくお願いします」と言って帰る方はそんなに大きなトラブルはないので す。みんな大変なことはわかっていても、何となく協力していくのです。ですから、も う少しそういう心の面といいますか、どのようにして周りとの融合を図ってやっていく かみたいなことを考えていくというのは重要ではないかと思いますし、そういう観点か らいくと、精神的に追い詰められておかしくなっていく、というような方々ももっと少 なくなるのではないかとも感じますので、何が差別でというマイナスのものを探すので なくて、どうしたらお互いに働きやすい環境づくりができるのかを考える。小さな会社 ですが、私はそういう考えで日々やっていきたいと思っていますし、そういうふうにし ていったらいいのではないかと感じております。 ○岡本委員  言葉尻をとらえるわけではないのですが、働きやすい環境づくりをしていくというの は当然なことで、ここにお互いに何ら異論はないと思うのです。マイナスを探すという より、既にマイナスがあるという現実をどういうふうに見て改善していくかだと思いま す。先ほど労使の交渉でやっていけばいいのではないかという話もだいぶ出ていました が、私は、生身の交渉を常にしている立場から言えば、確かに世帯給とか、そういった 処遇面、これは労使の合意のもとにつくられているものでしょうし、そのことを改善し ていくということは労使の場に馴染むものではありますけれども、例えばコース別雇用 管理とか、仕事をどう与えていくのか、どういう研修をするのか等人材育成の部分につ いて言えば、経営が言う人事権にも関わってきますので、大企業の労働組合といえど も、そのことすべてが労使交渉の場に馴染むということでもない場合が多いのです。だ からこそ、こういった間接差別という考え方が基本的な理念の中に入っていく、そのこ とでいろいろなテーブルに載っていくことができると私は思います。  先ほど片岡委員も言いましたが、セクハラなど、まさしくそうだったと思います。こ れまでずっと、この問題については、労働組合の立場としてはさまざまなことでものを 言ってきましたが、なかなか改善ができなかった。でも、定義が出来たことによって、 少なくとも改善する方向に行けたわけです。  話は別ですけれども、いまパワーハラスメントも大きな問題になっていますが、これ も定義が出来ないので、なかなかお互いに、パワーハラスメントの問題はあると思いな がらも、どう改善していけばいいか分からないということを、実は労使でも悩んでいた りするのです。そういった意味からも、こういった概念をきちんと位置づけるというこ とは交渉を進めていく上でも大事だということだけ申し上げたいと思います。 ○横溝委員  いろいろご議論を聞かせていただいて、本当に難しい問題だと思いました。ただ、奥 山委員に先ほどまとめていただいた間接差別という概念と、それから皆さんが想定す る、男女の差別がそういうことによって存在するのだ、均等な機会を奪っているのだと いうことは、労使ともに、場面場面は異なっていても、共通な理念として、そんな差別 はないのだということではないと思うのです。皆さん、そういう差別は形として存在す るのだ。性中立性の形をとるけれども、機会の均等を実質的に奪っている場面はあるの だということは共通な理解であると思うのです。ただ、それを具体的なケースに当ては めたりすると、まだまだ混乱するのではないか。だから、今後法文化する場合に「間接 差別」という言葉をダイレクトに使うことはないと思います。これは非常にわかりにく いし、法文としても「間接差別は」という形では無くなる。それでは法文にならないと 思うのです。法律の条文というのは、読んでほとんどの人が共通理解して、二義を許さ ない。みんながバラバラの解釈をするようでは法律の条文の使命を果たしませんので。 その言葉をどうするかはまだまだ先の話なのですが、まず入口として、そういう弊害が まだ存在する、それをどう是正する方法があるかを我々がいま検討していかなければな らないのです。目標は差別除去なのですが。  先ほど川本委員が、不当であれば、それは裁判などで是正されるから、それでいいの ではないかと言いましたが、いまの法治社会では、法文化しないと、社会の規範になら ないのです。社会の規範にする、法律にするということが是正の本当のキーポイントな のです。  皆さんご存じの若年定年制とか、結婚定年制というのが長くあって、いくつもの裁判 がありました。雇用機会均等法が出来る前は、これは民法第90条の公序良俗に反すると いうのを回り回って、若年定年、あるいは結婚退職は社会の公序良俗に反するから、無 効だから駄目なのだとグルグル回って、そこへ到達するまでに大変だった。賃金差別だ けは許さない、男女の賃金差別はいけないということが労働基準法に書いてあったけれ ど、若年定年は労働法の中には一言もなかったから、その判例が確立するまでに10何年 かかったのです。それが、雇用機会均等法が出来てこれは禁止だと言った途端に、そう いうことになった。社会の規範ですから非常に力があるわけです。間接差別をそういう 形で労働法の分野にちゃんと法文上位置づけるためにはどうしたらいいか、大変ですけ れども、それを私たちはこれから考えていかなければいけないと思うのです。法治社会 においては、これは違法である、これは駄目なのだということを法文化できる、する。 それまでの過程では非常に困難があると思いますし、あるいは、その途中の過程で通達 が出るような場面があると思いますが、最終目標は法文化して、みんなが統一の概念で 統一に行動する、行為規範にする。そういう形でやっていく必要がある。そのためにい ろいろな議論を、いろいろな具体的ケースを挙げつつ、どこまで集約して言葉にできる かを議論していく必要があるのではないか、そう思います。 ○若菜分科会長  この議論はこのくらいにして、議題の2つ目「差別禁止の内容等について」に入りた いと思います。事務局から資料の説明をお願いします。 ○石井雇用均等政策課長  まず資料No.2−1は雇用均等室における差別的取扱いに係る相談事案の概要です。 1月19日に行われた均等分科会における議論を念頭に、そこでご主張があったことに関 係ありそうな相談事案を取りまとめたものです。このうちの一部は、昨年12月の分科会 提出の相談事案に含まれているものです。  最初の相談事案ですが、女性であることを理由に退職勧奨されたとする事案です。相 談内容は、女性である相談者のみ退職勧奨されたわけですが、この方は年齢も高く、子 どもの養育もあり、現在の職場で継続勤務をしたいということで雇用均等室のほうに相 談があったものです。  室が事情聴取したところ、この会社は業務を請け負っている会社でしたが、そこの業 務内容を変更することになったために、働いている方全員が宿直勤務を伴い、かつ機械 の運転保守業務を行うことが必要になった。ところが、この相談者はこれまで、そうし た業務についたことがなく、また、深夜勤務ということについて、女性には無理ではな いかということで退職勧奨をしたということでした。  室としては会社に対して、まず、女性の深夜業の規制は平成11年4月から解消されて いる。したがって、これを理由として一定の職務から女性を排除することは均等法第6 条違反に当たるということ。加えて、形式的に勧奨退職であっても、労働者の真意に基 づくものでないと認められる場合には解雇に含まれる、その場合には均等法第8条にも 違反すると説明した上で、相談者に宿直勤務の可否について確認し、あらかじめ宿直勤 務から女性を排除しないように指導しております。  また、相談者が大変意欲を持っていたわけで、会社として支援するように助言指導い たしました。幸いに、この事案については会社が室の指導を受け入れて、女性に対して の退職勧奨をやめるとともに、相談者が宿直勤務を了解したため、機械の運転保守のた めの研修をした結果、相談者は同一のローテーションで他の社員とともに勤務が継続で きることとなった、そういう退職勧奨の事案です。  2頁は雇止めの事案で、女性であることを理由として有期契約の更新がされないとす る事案です。有期契約社員として、10年にわたって更新を重ねて働き続けてきた。とこ ろが、会社の経営状況の関係で雇止めをしたい。ところが、男性は家族を養わなければ いけないので無理だ、あなたのほうで辞めてくれないかと、そのような雇止めの通告を 受けた。ところがこの方は、自分も生計を支える立場であって、何とか働き続けたいと して相談があったものです。  均等室の対応はここに記載のとおりです。会社に対しては、女性であっても生計維持 者としての役割を担っている者もいるので、一律に女性であることのみを理由として雇 止めをすることは均等法の趣旨に反すると1つ目に言っております。  2つ目として、形式的に雇用期間を定めた契約であっても、それが反復更新されて、 実質において期間の定めのない雇用契約と認められる場合には、その期間の満了をもっ て雇止めすることは解雇に当たり、第8条違反に該当するということを説明し、リスト ラについては他の方法も含め考えて、女性であることのみを理由として雇止めをしない ように指導しております。この結果、女性は勤務継続が可能になったというものです。  3頁目は身分変更の事案です。前回は妊娠・出産を理由とした身分変更の事案が挙が っておりましたが、これは、女性が婚姻したことを理由として、パートタイマーへの身 分変更を求められた事案です。  この方は正社員として勤務していたけれども、結婚を報告したところ上司から、これ からなかなか大変でしょう、家事負担も重くなるということで、パートタイマーになっ たらどうかと言われた。断ったけれども、その後も執拗に身分変更を迫られた。パート タイマーになると、身分も不安定になり、処遇が現在より悪くなるので、いまのまま働 き続けたいということで相談に訪れたものです。  均等室で事情聴取をしたところ、実は、会社が相談者についてパートタイマーになる ことを勧めているのは、本人自身が従前、結婚したらパートのほうが気楽でいいという ような発言をしていた。それから、これまでの会社でのさまざまな例を見ると、結婚す ると仕事に身が入らなくなるケースが女性に多かった。さらには、この方にはそのうち 子どもも出来るだろうし、これまでも他の社員に比べて遅刻・欠勤が多かった、そうし た勤務態度からして、パートになったほうが負担感がなくてよいだろうという判断だっ たという主張でした。  均等室のほうは、本人がすでに相談に訪れている以上、パートタイマーのほうが気楽 でよいと発言したとしても、今ではそれは真意ではないと、まず説明しました。2点目 として、本人の仕事ぶりに問題があれば、それを指摘して、改める機会を与えることが 先ではないか。さらには、女性であることを理由として、正社員から有期契約のパート タイマーに契約を変更することは問題である。真意に基づくものでないと認められる場 合には、労働契約の終了そのこと自体が、女性であることを理由とする解雇にも当た る。均等法第8条において問題になるということで指導をしております。  併せてこのケースについては、相談者に対しても、勤務態度に問題が指摘されている ので改めるようにというような指導を行っております。こうした対応の結果、室の指導 により、会社は相談者について身分変更を求めることをやめて、正社員としての勤務継 続が可能になったというものです。  資料No.2−2は雇用の分野における性差別に係る規定等です。1頁目が均等法関係 の規定、2頁目はその関係の指針の抜粋です。雇用管理区分についてのご発言がありま したので、そこの所を載せております。3〜4頁目は通達です。配置とその解釈、ある いは雇用管理区分については、単に形式のみならず、企業の雇用管理の実態に則してそ の判断を行う必要があること、と通達で示しています。最後の5頁は労基法第4条の規 定です。 ○若菜分科会長  労側委員から資料No.2−3が出されていますが、これについて説明をお願いします。 ○吉宮委員  前回のときにも私どもの調査結果を出させてもらいまして、連合としてもこれは当然 改善するという前提でいま取り組んでいます。その例を今日のテーマに沿ったものを説 明いたします。  男女で異なる取扱いを感じる具体例として組合員から寄せられた行為ですが、1つは 与えられる仕事における異なる取扱いの例として、男女で採用時の仕事の内容が違う、 採用後の実習内容も違うということ。その結果、昇進や賃金に差が生じてくるというこ と。また、男女で与えられる仕事が違う、女性だからお茶出しや掃除をやってほしいな どという、非常に前近代的なことが出ています。男性と女性は仕事の重要性が異なる、 女性にはあまり責任がないものを与えられるということがあります。それから、掃除や お茶出しなどは女性だけの仕事ということで、そういうことについて3つほど例を挙げ ました。  配置における異なる取扱いも、配置や昇進、昇格において、女性は重要なポストにつ くように育てられないとか、逆に女性をやさしく扱って、熱処理、プレスなどの職種に はほとんど女性はいない。結果、責任のある仕事を女性に与えないという、男性組合員 の女性への見方が紹介されています。  2頁目は営業関係ですが、男性は外勤で女性は内勤という配置の色分けがある。それ はなぜかというと、男性はより将来を見据えた仕事ということで与えられる例がありま す。それが男性の見方です。  加えて、教育訓練の取扱いについても、訓練の決定において男性が優先されるのが当 たり前という雰囲気、それから、同じ部署でも、講習の案内などにはあらかじめ女性の 名前が載っていない。同じ系列や部門内で、男性は専門性を高めていくが、女性は異動 の度に異なり、人材育成の面での取扱いが違う。会議への出席が制限されているとい う、これまた前近代的な取扱いが行われている。  採用時の問題としては、女性は自宅通勤に限られて、社宅等の貸与がない。女性の1 人暮らしの採用は断られる等々があります。  手当の問題等についても、住宅手当が、女性の場合、結婚後共働きだと全く出ないの に、男性は独身・単身手当が、親と同居の際でも出る等、異なる取扱いがされている。 また、男性が結婚して持ち家や借家に住む場合、昔でいう住宅手当が自動的にもらえ て、女性は「世帯主」という証明を会社に提出しないと、もらえない。こういうことが あり、連合としても何とかこういう問題は解決するように、今提案しています。 ○若菜分科会長  ただいまの資料について、あるいは差別禁止の内容について、ご意見がありましたら お願いします。 ○吉宮委員  時間もありませんが、私どもの考え方を述べます。1つは第5条の関係です。今日資 料が配られていますが、募集・採用について、現行の規定ぶりが、事業主は労働者の募 集・採用について、女性に対して男性と均等な機会を与えなければならないと、機会の 均等を与えるというのはどういうことかという解釈を今日示しています。結果としてこ れが言っている意味は、差別的な取扱いをしてはならないということを言っているとす れば、素直にその旨を第5条に書いたらどうかというのが第1点です。  それから第6条の配置、昇進、及び教育訓練の所です。私どもの調査では、仕事の与 え方が男女で異なるという実態が出ています。また、平成14年11月の厚生労働省の、男 女間の賃金格差問題に関する研究会の中で企業からのヒアリングでも、男女間の賃金格 差の要因を挙げているわけです。例えば、管理職には女性が少ない、業務の難易度が違 う等が挙げられました。企業のヒアリングではそれに加えて、業務の与え方に男女労働 者間で相違が見られることが、勤続年数を経た後の男女の処遇、賃金の差となって現れ ているという指摘があったということも紹介されています。仕事の与え方がいろいろな 面で男女間の差を生み出しているということからすると、第6条の配置、昇進、及び教 育訓練だけでは不十分ではないか。いわば職務の与え方という面で、これも労働条件の 中に組み込むことをきちんとして実質的な平等性を確保するようなことを考えたらどう かということが第1点です。  2つ目に、同一の雇用管理区分でないと配置、昇進等々の比較をしてはならないと指 針に書かれていますが、これが非常にネックになっています。一つの雇用管理区分とい うのを詳しく説明していますが、雇用管理区分が違っても、同じような仕事をする場合 も多々あります。そういうことからすると、差別認定をする場合に、この解釈が狭める 効果をもたらしているのではないかと思います。そこで、この面の考え方を少し整理し ていただきたいのです。  同時に、この区分問題を1つの基本にして男女間格差問題を考えているわけですが、 前の均等法ではもっと区分けしていて、入口からいくつかに分けています。第5条の募 集・採用と第6条の配置、昇進、及び教育訓練、第7条の福利厚生、第8条の定年とい うようにステージごとに分ける意味合いです。この5〜8条に含まれない問題をどうす るのかということからすると、労働条件全般で捉える手法を考えたらどうかということ があります。  それから賃金について。基準法第3条では、均等待遇に性別が入っていません。それ から、第4条が同一賃金原則ですが、歴史・行政の本を読みますと、日本政府が批准し ている100号条約の「同一価値労働同一賃金」の考え方が元々の考え方に含まれている と。1967年に批准しているわけです。いくつかの判例もありますが、均等法の中で男女 間賃金格差を認めない。第4条の機能面を確保する意味でも、均等法に賃金格差の問題 を少し入れ込むべきではないかというのが考え方としてあります。そして、第3条には 性別もちゃんと入れ込んで、基準法も改正するということであれば、両面から次世代に 平等性が担保されるということがありますので、そのことを是非検討すべきではないか と言いたいのです。  いま人権擁護法案が与党で議論されていますが、前回の法案を見ると性別が入りま す。そうすると、仮にその法案が通過したときに、均等法は相当影響を受けるのだと思 いますが、いま性別が入っていない基準法は影響を受けないのでしょうか。人権擁護法 案には国籍や社会的身分、ほとんどが差別の範囲に入っています。しかし基準法第3条 には性別のことが入っていないのだけれど、人権擁護法案が通ったときには第3条は影 響を受けないのでしょうか。 ○石井雇用均等政策課長  人権擁護法案については、今まさに微妙な時期でして、これを前提にした話は非常に しづらいということを、まずお断りしておきたいと思います。  私の基本的な考え方として思うところを申し上げますと、少なくとも人権擁護法案の 中でそういう規定が入ったものが仮に成立したとして、それ自体労基法に影響するとい うものではないと思います。 ○佐藤委員  吉宮委員のご説明の所は、例えば仕事の与え方のような所で男女の違いがあるとする と、現行法、ここで説明されている均等法でカバーできない部分があるのではないか。 もちろん採用の所などは現行でやれる所もありますが、そういう所もあるのではないか ということですね。それで、事務局の資料No.2−1の相談事例も、これは一応解決は していますが、例えば最初の退職勧奨の事案で、定年というのはあるけれども、均等法 でこういうものは結構難しい。その次は契約更新の場合の雇止め、その次はパートへの 身分変更ですが、これは、均等法では、ぎりぎりのところ相談で解決はしているが、結 構難しい。そういう趣旨だと解釈してよろしいですか。 ○石井雇用均等政策課長  まさにおっしゃるとおりです。解釈の中で、できる範囲で対応していますが、現行は 直接規制をしているものではない、救えないケースもあろうかと思います。 ○片岡委員  状況として何かあれば教えていただきたい点が1つあります。また、これは見方の問 題かもしれませんが、意見があります。住友電工の裁判については、勧告ということで ここでそれを取り上げることについて、何回か前に意見があったように記憶していま す。それにしても、「雇用管理区分が異なる場合であっても、それが実質的に性別の雇 用管理となっていないか十分注意を払い、施策を更に推進すること」という国に対する 勧告が出ています。具体的に何かそれを受けた状況があるのか、ないのかというのがま ず1点目の質問です。  2点目は意見です。先ほど吉宮委員から「募集・採用については差別的取扱いをして はならない」にしてはどうかという意見がありましたが、それについて同感です。  これは本当に一部の例ですが、どうしても実態でお話ししないと説明ができないの で、そうします。これは機会が平等であるということが求められていることが変に解釈 されて、引用されてという残念な例だと思いますが、面接された側の意見には、そもそ も面接はあるのだが採用する気がないということを明らかに感じると。これも主観的な 意見かもしれませんが、そういう声もある。また、平気でプライバシーに踏み込んでく る。もしかすると、セクシュアルハラスメントに関わるものであれば現在の法律でも対 応できると思うのですが、やはり採用されたいと思う側は、聞かれればそういうことを 答えざるを得ないということもあるだろうし、感情的には、採る気がないのだったら初 めからそう言ってもらいたいというような、徒労感だけが残ってしまう就職活動が、99 年改正の前のときにもあったと思いますし、実際に今まだあると思います。  加えて、これは現行法でも対応できるかもしれませんし、先日朝日新聞で石井課長も お答えをされていましたが、あまりにひどい面接の場面がありました。セクハラも人権 侵害ですが、さらに性というか、その人が子どもを持つことができないということをあ えて説明しなければいけない状況を面接官が聞き、答えれば答えたで、子どもがいない 人間には子連れのお客の対応がきちんとできるのか、というようなことを言われている わけです。  この方はショックでほかの面接も受けられないでいる、と書いてありますが、この方 は最後に、少子化社会とはいえ、子どもをつくることは個人の自由。それにしても、こ ういうふうな思いでいる人が多いことも知ってほしいという投書でした。それは差別的 取扱いを無くせばいいだけの問題ではないと思うのです。募集・採用の取扱いをめぐっ てはもう一度、そういう現実的に起こっている事柄を踏まえて、やはり性別の取扱いに 違いがあってはならない。そういう意味からも、規定としては変える必要があるのでは ないかと私は思います。 ○石井雇用均等政策課長  ご質問は1点目と理解しております。先ほど端折って説明いたしましたが、資料No. 2−2の3〜4頁にあるように、雇用管理区分が同一か否かの判断に当たっては、単に 形式のみならず、企業の実態に則して行う必要がある、という考え方で従前から運用 し、現在も運用しているということはございます。  住友電工事件はコース別雇用管理をとっていた企業における事案ですので、それにも 則して申し上げたほうがよろしいかと思います。コース等で区分した雇用管理の留意事 項の中においても、いわゆるコース別、コース等で区分した雇用管理が実質的な男女別 の雇用管理とならず、適正かつ円滑に行われるようにするために、留意すべき事項の中 でも、実質的に性別による雇用管理になっていないかどうか、そこをしっかり見てくだ さいということも言っているわけで、現在、これに基づいて助言指導等を行っておりま すので、こうした考え方に沿って対応しているということです。 ○奥山委員  吉宮委員の質問について確認したいことが1つあるのです。現行の均等法が女性であ ることによって差別を受けることの禁止について、第5条から第8条で触れております が諸外国にはない例だと。例えばアメリカなどと比べると、アメリカでは、賃金、労働 条件、その他労働条件について差別してはいけないという包括的、一般的な書き方にな っています。それに対して日本は、雇用のステージで考えているのだと思います。いろ いろな社会の変化の中で、そこから新しい差別形態が生まれる可能性があるとするなら ば、ちょっと規制しにくいようなところも出てくるのではないか。そういう点ではもう 少し広げたほうがいいというご主張だと思います。その主張は、延ばしていきますと、 その5条・6条・7条という個別のステージごとのものをもう一回シャッフルして、ア メリカ型というのか、「賃金、労働時間、その他労働条件」という格好で焼き直しをす べきであるという主張につながっていくのかということが1つです。  もう1つは、現在の労基法の中では、女性の賃金差別について規定されています。先 ほどのお話ですと、均等法の中でも、賃金差別についても対象にしよう、盛り込めとお っしゃっています。そうなりますと、差別禁止ということでは同じ目的を持った法律だ と考えていいのだろうとは思いますが、一方で労基法は、現行体制の中では刑事法でし て、違反に対しては、場合によれば刑事罰が科せられる状況になっているわけです。と ころが、均等法はそういう制裁罰は持っていないのです。同じ差別違反について、双方 の規定が仮に理論上適用されるとして、一方は刑事罰の対象になる、一方はならないと いうところの平仄をどのようにして合わせていくのか。その辺は、理屈からしますと難 しい問題を抱えると思うのですが、それについては、何か議論された上でそういうこと をお出しになったのか教えていただきたいのです。 ○吉宮委員  最初のほうの、各ステージごとではなくて包括的というのは佐藤委員がおっしゃっ た、役所が出された事案も、ステージごとにやったら拾えない問題が出てくるというこ ともあり、包括的にしたほうがいい。また、1つの雇用管理区分は形式にとらわれず実 態で、というように役所の通達で紹介しています。雇用管理区分の所も、連合の調査で も、最近の雇用管理区分は非常に変化が激しくて、画一的に測れない状況もあるという ことからすると、いまの合理性解釈の異種の雇用管理区分という見方で各ステージごと に見るというのは、結果差別、男女間のものを見るときに狭まってくるのではないかと いう問題意識がありまして、もっと包括的にやったほうが広く、総合的にできるのでは ないかというのがものの考え方なのです。  第4条の問題は、連合の中では全く議論していません。私個人の意見なのですが、お っしゃるように、基準法は刑罰法規です。第4条を受けて、日本は100号条約を批准し ているわけです。とは言うものの、同一価値労働同一賃金の原則はその後、同一価値労 働同一賃金報酬と、人権規約なり女子差別撤廃条約なりで変化して、いずれも日本は批 准しているわけです。ということは、逆に言うと、同一価値の仕事で同一報酬という 100号条約の考え方からすると、いわば労基法第4条を担保することがもう1つ必要で はないかというのが私の問題意識です。均等法が各場面で男女間の機会均等を確保する というときに、すべて賃金に表れるわけです。そういうことからすると、賃金の問題を 均等法第4条で機能を確保する観点から、少し入れ込んだらどうかというのが私の問題 意識なのです。その結果、刑罰法規と基準法とどう整合性を保つかと言われると、そこ まで十分検討してありませんが、問題意識は、第4条をどう機能的に担保するかという ことを均等法は負っているのではないかという単純な発想です。 ○佐藤委員  いまのことで言えば、結果として賃金に男女の差、そして差別として現れるとすれ ば、それは配置であったり育成であったり、そこでの差別の結果として出てくるわけで す。私は、基準法で結果を見ていて、均等法では、男女の配置や育成の結果として賃金 に現れないような均等の機会をつくっていくことで、吉宮委員が言われていることは十 分やれるのではないかという気がするのです。 ○奥山委員  吉宮委員のご意見は、全体で5条、6条をもう一回シャッフルし直して一般化した条 文にすべきだということではなくて、募集・採用にしても、配置・昇進にしても、企業 の雇用管理の現実では、割り当てられた仕事の中身や責任を基準にしながら配置をした り、採用基準をたてたりする。そのときに、雇用管理区分というのは、吉宮委員の立場 ・前提から言うと、実質的には男女という、性別を基準にしたような雇用管理区分にな っている所が非常に多かった。そういう点では雇用管理区分というものをもう一度見直 して、配置の所でも募集・採用の所でも、その雇用管理区分の考え方を少し改める、と いうと言いすぎなのですが、見直していくことが必要なのではないかと、そういうご趣 旨で理解してよろしいですね。 ○若菜分科会長  もう1つ議題が残っておりますので、特にご発言がなければ次の議題に移りたいと思 います。これは「雇用保険法の一部を改正する省令案要綱」で、平成17年度の予算に盛 り込まれた改正に関わる案件です。これに関して本日、厚生労働大臣から労働政策審議 会長宛に諮問がございました。それで、これを受けまして当分科会において審議を行う ことにしたいと思います。まず、事務局から説明をお願いします。 ○麻田職業家庭両立課長  資料No.3を見ていただきながら、雇用保険法施行規則の一部を改正する省令案の要 綱について説明をいたします。この省令改正の趣旨としては、育児・介護雇用安定助成 金の支給要件や支給額を改正するものです。この助成金の中に入っている個々の助成金 については、資料No.3の後ろのA3判の資料をご覧ください。  改正のポイントですが、1点目は、本年4月から始まる次世代法の全面施行に伴って 支給要件等を見直すということです。特に、個々の助成金について、次世代法に基づく 一般事業主の行動計画の策定・届出の有無によりまして、支給要件または支給額に差を 設けるという見直しです。  2点目としては、男性の育児参加を促進するということで、男性労働者育児参加促進 給付金というものを創設しております。  改正の概要の3点目としては、子の看護休暇制度の義務化に伴って、看護休暇制度導 入奨励金の廃止をしております。  4点目として、これまであった育児休業取得促進奨励金を、全体を見直す中で廃止し ております。以下、この要綱に沿って簡単に説明いたします。  要綱1頁の第一の一は助成金の統合です。育児・介護雇用安定助成金と育児・介護休 業者職場復帰プログラム実施奨励金が、今まで別建ての助成金でしたが、これを統合す るということです。  二として、事業所内託児施設助成金があります。これについて、支給対象になる事業 主の要件として、行動計画の策定・届出という要件を追加するものです。  三は育児・介護費用助成金です。これについても、まず次世代法の大企業に当たる、 常時雇用する労働者の数が300人を超える事業主について、支給要件として、次世代法 に基づく行動計画の策定・届出を要件として追加するものです。  同じ助成金について(二)があります。これは以前支給の期限がありませんでした が、今回効率化ということで、支給期限を5年とすることとしております。  (三)は複雑で長くなっていますが、これは次世代法に基づく行動計画の策定・届出 の有無によって、制度導入時に支給される助成金の額に差を設けるという内容です。  2頁の後ろから2行目にあるのは、育児休業代替要員確保等助成金です。これについ ても、いま言った育児・介護費用助成金と同じく、大企業については行動計画の策定・ 届出を要件として追加し、助成金の額について、行動計画の策定の有無により支給額に 差をつけるという改正内容としております。  3頁の中ほどの五にあるのは育児両立支援奨励金です。(一)は、前の助成金と同じ く、大企業について行動計画の策定・届出を要件に追加するものです。  (二)では2種類の仕方で支給額に差をつけております。育児休業に準ずる措置ある いは短時間勤務を、小学校就学前の子どもを養育する労働者に対して設けて、実際に利 用があったときに助成金が支給されるわけですが、イはその場合の助成金を規定し、ロ はそれ以外の勤短措置、例えばフレックスタイムや始業・終業時間の繰上げ繰下げ、所 定外労働をさせない制度、こういうものについての助成金を支給しております。  今回、育児休業に準ずる措置、または短時間勤務の制度についてこれを奨励するとい うことで、イの場合の措置のほうがロの場合の措置よりも助成金の額が多いということ でイとロの間で支給額に差を設けるとともに、それぞれの措置の中で次世代法に基づく 行動計画の策定・届出の有無により支給額に差を設けております。  4頁の後半部分の六、これが先ほど申しました、男性労働者育児参加促進給付金の追 加です。具体的な要件は七以下に定めておりますが、(一)に該当する事業主であると 認めて指定される事業主で(二)の取組みを行った者に対して、2年を限度として、1 年につき50万円を支給することとしております。  (一)はどのような事業主が指定を受けられるかが示されています。イにあるよう に、「男性被保険者の育児休業の取得の促進等男性被保険者が育児に参加しやすい職場 環境の整備に取り組むこと」等の要件を定めております。  実際の取組みについては5頁中ほどの(二)にイ、ロ、ハ、ニとありますが、育児休 業等男性が育児に参加しやすい職場環境の整備に取り組む事業主である旨を公表する、 また、その取得の促進等に関して課題を把握する、そのために労使で委員会を設置す る、そして、そのための計画の策定及び実施を行う、このような要件を定めておりま す。  次に6頁の八の看護休暇制度導入奨励金は、今回、義務化に伴って廃止しました。そ れから、育児休業取得促進奨励金、これは男女労働者でそれぞれ育児休業の取得者が出 たときに支給されるものでしたが、男性の育児休業取得のための新たな助成金をつくる ということで見直しております。  九は育児・介護休業者職場復帰プログラム実施奨励金です。これについては(一)と して、大企業は次世代法に基づく計画の策定・届出を要件として追加しております。そ れから(二)として、これは導入の定着・促進を図る制度であるということ、助成金全 体の効率化を図るということから、支給対象となる労働者の数が100人を超えたときは 支給しないということを新たに定めております。  十は、急な残業のときに保育所のお迎えや子どもの預かりを地域の助け合いで行うと いう、ファミリーサポートセンター事業に対する補助金のことを定めていたわけです が、今回三位一体の改革の中で国から地方への補助金が見直されるという中で、廃止さ れることになったものです。  第2として、施行期日は平成17年4月1日からとしております。 ○若菜分科会長  ただいまのご説明について、ご意見やご質問はございますか。 ○篠原委員  今日のこの内容というのは、いろいろな企業で積極的に行動計画を出していただきた いということの一環ではないかという意図はわかるのですが、できればもう少し早めに 出していただきたかったというのが現状です。4月以降届出をしないといけないことに なっています。今日いらっしゃる企業の方々もそうだと思うのですが、すでに最終的な 詰めに入っているという所もありますので、できればもう少し早めに出していただきた かったという意見です。  1点確認したいのですが、例えば企業の中で、すでに託児所を運営している場合、託 児所の部分を行動計画に入れなければならないということではなくて、あくまでも行動 計画を策定して届出を出していれば助成金は出る、そういう認識でよろしいですか。 ○麻田職業家庭両立課長  この省令は助成金の要件を定めるものですので、どういう場合に助成金が支給される かということの要件の1つに行動計画の策定・届出が入っている、こういうふうにご理 解いただきたいと思います。 ○山崎委員  これも確認なのですが、A3判の資料のいちばん左下に中小企業の区分があります。 資本の額と常用労働者の数ということで、例えば小売業5,000万円以下、50人以下とい うことですが、これはどちらかを満たせばいいということですか。 ○麻田職業家庭両立課長  いずれかの区分に該当するものということですので、どちらかを満たせばいいという ことです。 ○山崎委員  要綱の2頁の(三)の2行目に「出資の総額が3億円を超えない事業者及び」とあっ て、両方を満たさなければいけないようになっているのです。「又は」と書いてありま すが。これは両方いいということですか。 ○麻田職業家庭両立課長  はい。 ○佐藤委員  いまの点に関わって、行動計画の大規模は301人以上で、業種は関係ないし、資本金 などの規定もない。そうすると、向こうでは中小企業で、こちらでは大企業、そういう ふうになる。 ○麻田職業家庭両立課長  次世代法上の大企業、中小企業の区分と、雇用保険法上の大企業、中小企業の区分が 違っているので、いろいろなケースが出てきますが、この省令案要綱の中では、そうい う全ての場合を書き尽くして支給額に要件を定めることにしております。基本的な設計 思想を申し上げますと、例えば、今まで雇用保険法上の中小企業は一律40万円支給され ていたというような場合に、雇用保険法上の中小企業の中で次世代法に基づく計画を策 定・届出しているか、していないかによって支給の額に差を設ける。そして今度は、雇 用保険法上の大企業の中でも、次世代法に基づく計画の策定・届出をしているか、して いないかによって支給額に差を設ける。しかしながら、次世代法上の大企業で行動計画 の策定・届出が義務になっている所が義務を果たしていなかったりすれば、そもそも助 成金の対象にはしないということになります。 ○佐藤委員  是非わかりやすく情報提供していただければと思います。混乱するのではないかと思 いますので、是非お願いします。 ○吉宮委員  次世代法の行動計画は労働局の届出で、この給付金は、聞いたところ、21世紀職業財 団が支給するということで違います。そうすると、労働局に届出をした場合には、届出 たという証明書の写しを労働局で発行して、企業はそれを受けて、その証明を書類に付 けてやるのか、行政同士で届出たものは全部相談室に行っていて処理するのか。その辺 は齟齬のないようにするんでしょうね。 ○麻田職業家庭両立課長  そうです。 ○平野育児・介護休業推進室長  手続についてですが、申請した企業のほうで届出をした写しを添付していただいて申 請時に持ってきていただくという方式を考えております。 ○若菜分科会長  ほかに特にご発言がなければ、本分科会として諮問を受けた雇用保険法施行規則等の 一部を改正する省令案要綱について、おおむね妥当と認めることとしまして、その旨私 から労働政策審議会長宛に報告するということにしたいと思います。よろしいですか。 これについての案文を事務局のほうから至急配付してください。                  (案文配付) ○若菜分科会長  お手元に配付した報告文の案文のとおりでよろしいでしょうか。                  (異議なし) ○若菜分科会長  ご異議がありませんのでご承認いただいたものとして、これによって報告をさせてい ただきます。これで本日の分科会を終了いたします。本日の署名委員は、吉宮委員と渡 邊委員にお願いいたします。よろしくお願いいたします。次回の予定について事務局か ら連絡してください。 ○石井雇用均等政策課長  次回は4月8日(金)午後2時から開催いたします。場所は現在調整中ですので、決 まり次第連絡いたします。 ○若菜分科会長  委員の皆さん、長時間どうもありがとうございました。 照会先:雇用均等・児童家庭局 雇用均等政策課 法規係 (内線:7836)